3.8.2.1 北陸StarBED技術センター - NICT · 3.8.2.1 北陸StarBED技術センター...

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3.8.2.1 北陸StarBED技術センター 新世代のネットワーク環境と技術を検証可能とするために 【概 要】 北陸StarBED技術センターでは、第3期中期計画において、プロジェクトをStarBED 3 (スターベッドキュー ビック)と名付け、災害に強く、低消費エネルギーで環境にも優しい、新たなネットワーク関連技術の機能や 性能の評価に役立てるため、大規模エミュレーション環境StarBEDおよびStarBEDを活用したエミュレー ション技術の研究開発を行っている。エミュレーションとは、シミュレーションが単なるコンピュータ上での 計算による分析手法であるのに対し、実際の機器やソフトウェアなどをもとに実際に通信や制御の動作を行っ た上で分析する手法であり、研究開発中の技術について、最終導入先により近似した環境での実験結果を得る ことができる。 このようなエミュレーションについて、有線環境と無線環境が混在し、物理層からアプリケーション・サー ビスまで複数の層にまたがった様々なネットワーク環境への対応や、クラウドコンピューティング、CPS (Cyber Physical System:サイバーフィジカルシステム)などの新しいコンピューティングパラダイムへの対 応を行う。 その上で、大規模エミュレーション環境StarBEDに、様々なネットワーク関連技術の各開発段階における 検証や実験を柔軟かつ容易に受け入れ可能とするため、利用者のレベルやその用途に応じたユーザインター フェースの開発および提供を行っている。また、StarBEDだけでは機能、規模ともに限界があるため、他のテ ストベッドと連携し機能や規模を強化するためのフレームワークを開発している。このようなエミュレーショ ン技術と大規模エミュレーション環境により、新世代のネットワーク関連技術の研究開発を支える総合的研究 基盤を構築することを目指す。なお、課題を細分化し、StarBEDそのものの機能向上を行う「大規模エミュレー ション基盤技術」、様々なネットワークのエミュレーション技術を開発する「ネットワーク基盤検証技術」、複 数の層にまたがる様々な対象をエミュレーションする技術を開発する「マルチレイヤ統合検証技術」の3つを実 施している。 【平成 25年度の成果】 ① 大規模エミュレーション基盤技術 昨年度までに開発したStarBED向け支援ソフトウェアSpringOSの単位機能を用いるためのライブラ リeggrollを利用した利用者向け統一インターフェースblanketを開発した。blanketを利用することで、 これまでばらばらのインターフェースの利用が必要であったSpringOSの機能を単一のコマンドライン インターフェースから利用が可能となった。このblanketはStarBED運用者チームにより正式に取り入 れられ、StarBED自体のメンテナンス、および利用者への提供が行われている。さらに、StarBEDとJGN などの別のネットワークテストベッドを 連携するためのソフトウェアのプロトタ イプ実装を行った。StarBEDと同じよう にサーバを集約したテストベッドとの連 携を水平連携、そしてStarBEDとは別の 機能を持つテストベッドとの連携を垂直 連携と呼んでいる。各テストベッドでは それぞれのリソースの管理と制御を行い、 複数のテストベッドを接続する実験では、 それらのリソースを共通の通信方式によ り交換し、制御を行う。この研究を進める ことにより、StarBEDとは異なる機能を 持ったテストベッドにまたがった実験環 境を構築することが可能となり、より柔軟 な実験が可能となる(図1)。 3.8 テストベッド研究開発推進センター 80 ৻⥸䊡䊷䉱 ታ㛎ታᣉⷐ 䊁䉴䊃 䊔䉾 䊄 㪘 䊁䉴䊃 䊔䉾 䊄 㪙 䊁䉴䊃 䊔䉾 䊄 ▤ℂ䉰䊷䊎 䉴 䊁䉴䊃 䊔䉾 䊄 ▤ℂ䉰䊷䊎 䉴 䊡䊷䉱 䉟 䊮䉺 䊷䊐 䉢 䊷䉴 ታ㛎ኈ ታ㛎⚿ᨐ ㅪ៤ ታ㛎ታᣉⷐ ኈᤃ䈭ታ㛎ታᣉ䈱䈢䉄䈱 䊡䊷䉱䉟 䊮 䉺 䊷䊐 䉢 䊷䉴 㐿⊒ ᳓ᐔ䊶 ⋥ㅪ៤ᯏ᭴ 䊐 䊧 䊷䊛䊪䊷䉪 䈱 䊒䊨䊃 䉺䉟䊒㐿⊒ ታ㛎ਛ䈱ⅣႺ⋙ⷞ䈮䉋 䉎 ታ㛎⚿ᨐ䈱ᜂ 䊁䉴䊃 䊔䉾 䊄 ▤ℂ䈱䈢䉄䈱 䉟 䊮 䉺 䊷䊐 䉢 䊷䉴 䈱ᢛℂ 図 1 ユーザインターフェースの開発とテストベッド連携

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Page 1: 3.8.2.1 北陸StarBED技術センター - NICT · 3.8.2.1 北陸StarBED技術センター 新世代のネットワーク環境と技術を検証可能とするために 【概 要】

3.8.2.1 北陸StarBED技術センター

新世代のネットワーク環境と技術を検証可能とするために

【概 要】北陸StarBED技術センターでは、第3期中期計画において、プロジェクトをStarBED3(スターベッドキュービック)と名付け、災害に強く、低消費エネルギーで環境にも優しい、新たなネットワーク関連技術の機能や性能の評価に役立てるため、大規模エミュレーション環境StarBEDおよびStarBEDを活用したエミュレーション技術の研究開発を行っている。エミュレーションとは、シミュレーションが単なるコンピュータ上での計算による分析手法であるのに対し、実際の機器やソフトウェアなどをもとに実際に通信や制御の動作を行った上で分析する手法であり、研究開発中の技術について、最終導入先により近似した環境での実験結果を得ることができる。このようなエミュレーションについて、有線環境と無線環境が混在し、物理層からアプリケーション・サービスまで複数の層にまたがった様々なネットワーク環境への対応や、クラウドコンピューティング、CPS(Cyber Physical System: サイバーフィジカルシステム)などの新しいコンピューティングパラダイムへの対応を行う。その上で、大規模エミュレーション環境StarBEDに、様々なネットワーク関連技術の各開発段階における検証や実験を柔軟かつ容易に受け入れ可能とするため、利用者のレベルやその用途に応じたユーザインターフェースの開発および提供を行っている。また、StarBEDだけでは機能、規模ともに限界があるため、他のテストベッドと連携し機能や規模を強化するためのフレームワークを開発している。このようなエミュレーション技術と大規模エミュレーション環境により、新世代のネットワーク関連技術の研究開発を支える総合的研究基盤を構築することを目指す。なお、課題を細分化し、StarBEDそのものの機能向上を行う「大規模エミュレーション基盤技術」、様々なネットワークのエミュレーション技術を開発する「ネットワーク基盤検証技術」、複数の層にまたがる様々な対象をエミュレーションする技術を開発する「マルチレイヤ統合検証技術」の3つを実施している。

【平成25年度の成果】① 大規模エミュレーション基盤技術

昨年度までに開発したStarBED向け支援ソフトウェアSpringOSの単位機能を用いるためのライブラリeggrollを利用した利用者向け統一インターフェースblanketを開発した。blanketを利用することで、これまでばらばらのインターフェースの利用が必要であったSpringOSの機能を単一のコマンドラインインターフェースから利用が可能となった。このblanketはStarBED運用者チームにより正式に取り入れられ、StarBED自体のメンテナンス、および利用者への提供が行われている。さらに、StarBEDとJGNなどの別のネットワークテストベッドを連携するためのソフトウェアのプロトタイプ実装を行った。StarBEDと同じようにサーバを集約したテストベッドとの連携を水平連携、そしてStarBEDとは別の機能を持つテストベッドとの連携を垂直連携と呼んでいる。各テストベッドではそれぞれのリソースの管理と制御を行い、複数のテストベッドを接続する実験では、それらのリソースを共通の通信方式により交換し、制御を行う。この研究を進めることにより、StarBEDとは異なる機能を持ったテストベッドにまたがった実験環境を構築することが可能となり、より柔軟な実験が可能となる(図1)。

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図 1 ユーザインターフェースの開発とテストベッド連携

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活動状況

② ネットワーク基盤検証技術これまで開発を続けている、無線

ネットワークエミュレータQOMETにWiMAX、LTEのPHYエミュレーシ ョ ン 機 能 を 追 加 し た(図2)。WiMAXモデルは広く利用されているネットワークシミュレータであるNs-3のものを統合し、LTEモデルは民間企業が開発しているモデルを応用している。これにより、近年利用が多くなっているWiMAX、LTEで接続されるノードの実験が可能となった。さらに無線接続区間の現実性を高めるため、空間伝搬モデルエミュレータの設計と開発を行った。無線機器間の通信状況をより詳細に再現することが可能となり、実験の精度を上げることに寄与している。

③ マルチレイヤ統合検証技術スマートコミュニティエミュレーションとして、各種センサーが取り付けられている実験住宅であるiHouseで取得した、人間の行動や気候状況などの外部要因と住宅内部の関連を示すデータを用い、StarBED上に家や人そしてその行動などをエミュレートもしくはシミュレートし、それらを連携させるためのインターフェースを開発した(図3)。これにより大規模かつ現実的なコミュニティの動作の検証が可能となった。さらに、北陸StarBED技術センターの研究成果を統合した実験として、災害時の既存の情報インフラへの影響の確認や、破壊されたインフラを補填するための車車間通信などの新たな技術の動作検証を行うためのプラットフォームを開発し、模擬実験を行った。本実験では地震発生と洪水でのインフラの破壊と、それを補填するための電波塔の設置や車車間通信の導入を行っており、対象ネットワーク上で動作する音声通話およびテキストメッセージアプリケーションに対する影響を確認している(図4)。

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図 2 多種の無線環境のエミューレション基盤確立

Integrated Management Systemfor CPS Environment

Manage/Control/Observe/Analyze

access/control

iHouseSimulated/Emulated Houses

Emulated ICT Environment

Emulated Community

図 3 CPS環境の統一管理フレームワーク

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3 CPS

4 図 4 災害シナリオに基づいたエミュレーションとその可視化   左: 全体像、右: 車車間エミュレーション部分のみ抽出