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3.レーザー冷却・トラップの原理 (i) 光モラセス中の2準位原子 3-2.ドップラー冷却法 v E 2 E 1 実験室系” 1 2 E E この放射圧を利用することにより、原子の 温度を冷却することができます。 その代表的なものに、光のドップラー効果 を利用したドップラー冷却法があります。 原子に両側から、共鳴周波数より低い周波 数のレーザー光を照射するという状況を考 えます。この配置のことを、光モラセスと呼 びます。 モラセスというのは、糖蜜のことで、ここで は、粘性力が大きく働いていることを意味し ています。 (その理由はすぐあとにわかります)。

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3.レーザー冷却・トラップの原理

(i) 光モラセス中の2準位原子

3-2.ドップラー冷却法

v

E2

E1

“実験室系”

12 EE

この放射圧を利用することにより、原子の温度を冷却することができます。

その代表的なものに、光のドップラー効果を利用したドップラー冷却法があります。

原子に両側から、共鳴周波数より低い周波数のレーザー光を照射するという状況を考えます。この配置のことを、光モラセスと呼びます。

モラセスというのは、糖蜜のことで、ここでは、粘性力が大きく働いていることを意味しています。

(その理由はすぐあとにわかります)。

3.レーザー冷却・トラップの原理

(i) 光モラセス中の2準位原子

3-2.ドップラー冷却法

v

E2

E1

“実験室系”

“原子の静止系”

12 EE

v=0

E2

E1

22 11

1211 )1( EEc

v

1222 )1( EEc

v

この状況を、“原子が静止した系“で見てみると右上のようになります。

実験室系では、原子は左向きに速度Vを持っていましたので、ドップラー効果により、

左から照射された光の周波数は、高周波数側にシフトします。

右から照射された光の周波数は、低周波数側にシフトします。

その結果、対向しているレーザー光からの力をより大きくうけることになります。

3.レーザー冷却・トラップの原理

(i) 光モラセス中の2準位原子

3-2.ドップラー冷却法

v

E2

E1

“実験室系”

“原子の静止系”

12 EE

v=0

E2

E1

22 11

1211 )1( EEc

v

1222 )1( EEc

v

ドップラー限界温度:

12TTk DB

例:23Na TD=240 µK

F=-aV

この時、力はF=―aVとなって、粘性力となります。

この冷却効果と、ランダムな自然放出の加熱効果

のバランスで温度が決まり、それをドップラー限界温度と呼び、左の表式で与えられることが知られています。

http://www.colorado.edu/physics/2000/

このサイトには、レーザー冷却の丁寧な説明がのっています。

一度、のぞいてみてください。

3.レーザー冷却・トラップの原理

(ii) 磁気光学トラップ(Magneto-Optical Trap:MOT)

磁場強度

laser

coil

coil

I

I

3次元的な不均一(=空間的に変化する)磁場によるゼーマン効果を利用

空間のある領域に閉じ込める

(=トラップ)することが可能

ドップラー冷却法はあくまで冷却で、原子を空間的に閉じ込めること(=トラップ)はできません。

原子に左図のような、空間的に変化する磁場を加えると、原子のエネルギー準位が空間的に変化します。

放射圧は共鳴に近いほど大きくなる、ということを、この方法:磁気光学トラップ(MOT)でも利用しています。

ドップラー冷却の時は、ドップラー効果による周波数シフトを利用しました。

MOTでは、さらに、ゼーマン効果による共鳴周波数シフトを利用します。

3.レーザー冷却・トラップの原理

(ii) 磁気光学トラップ(Magneto-Optical Trap:MOT)

磁場強度

laser

coil

coil

I

I

3次元的な不均一(=空間的に変化する)磁場によるゼーマン効果を利用

空間のある領域に閉じ込める

(=トラップ)することが可能 +1

m

J = 1

J = 0

0

1

E

s

laser

frequency

E1

E2

s

x

エネルギー準位構造は、上図のようになります。原点で、励起状態のエネルギー準位が交差しています。

左からは右回り円偏光、右からは左回り円偏光の光を入射して、左右の力のバランスを崩します。

MOT 磁気光学トラップ

Magneto Optical Trap (MOT)

CCD

anti-Helmholtz

coils

laser for MOT

原子数= 108

温度 T=12μK 10mm

イッテルビウム原子のMOT

我々の研究室で行ったMOTの実験の画像です。

中心の小さい領域で、明るく光っているのが、冷却された原子からの発光です。温度はとても低いですが、このように激しく光の吸収・放出を繰り返しています。肉眼でも確認できます。

3.レーザー冷却・トラップの原理

3-3.光が原子に及ぼす力:その2-双極子力

)(

光双極子相互作用: EpV int Ep :光誘起電気双極子モーメント

2

)()(

2

0 0

int

rEpdEdVrU

E E

pot

放射圧は、実際に原子が光を吸収する(その後に自然放出)ことに起因する力でしたが、別の種類の力、双極子力は、原子が光を“virtual に”吸収と誘導放出することに起因する力です。

光によって原子には電気双極子モーメントが誘起されます。

その電気双極子モーメントは、再び、光と電気双極子相互作用します。そのため、エネルギーは光の電場の2次に比例します(=強度に比例)。

感受率χは、周波数に依存していて、一般的には

共鳴周波数より高い周波数では負、共鳴周波数より低い周波数では正です。

3.レーザー冷却・トラップの原理

3-3.光が原子に及ぼす力:その2-双極子力

強度が空間的に極大または極小を持つようなレーザービームを

用いることで、トラップすることが可能

)(

光双極子相互作用: EpV int Ep :光誘起電気双極子モーメント

2

)()(

2

0 0

int

rEpdEdVrU

E E

pot

レンズ

“光格子”

λ/2

Optical Trap (FORT) 様々な光トラップ

1mm

MOT

上の画像は、全て、共鳴周波数より低い周波数の光によるトラップ

です。光ビームの形状・方向によって、原子のトラップの形状・方向が

変わってきます。

一般的には、左上図のように、MOTから光トラップに原子を移行させ

ます。

3. レーザー冷却・トラップの原理

シシフォス

シシフォス(Sisyphus)冷却

反跳限界温度:

M

kTk RB

2

)( 2

TR ~ 数100 nK

光双極子力(または光トラップ)を用いて、ドップラー限界温度より低温を実現することができます。その代表的なものが、シシフォス冷却です。

理想的には、反跳限界温度

までの冷却が可能です。

シシフォス(Sisyphus)冷却

吸収 自然放出 吸収 自然放出

P’(<P) P’’(<P’)

吸収 自然放出

Ee

Eg1

Eg2

P

原子気体の蒸発冷却

佐々木先生講義ノートより

レーザー冷却だけでは、

ボース凝縮を実現できていません。それは

1)反跳限界温度までしか

冷却できない。

2)高密度に共鳴に近い光

を入射すると分子を生成

して原子数ロスになる。

といった効果があるから。

レーザー冷却で、低温・高密度にしたのちに、蒸発冷却を行い、最終的にボース凝縮を実現することができます。

BECの生成:蒸発冷却

“高いエネルギーを持った原子をトラップから逃がす” (=蒸発させる)

“トラップに残った原子集団は低い平均エネルギー

を持つ(=温度が低くなる)“

原子の蒸発冷却の原理は、トラップ中にある原子のうち、エネルギーの高い原子のみを逃がすこと(=蒸発させる)です。

トラップ中の原子は、絶えず、原子衝突を繰り返しています。トラップの高さは有限なので、衝突の結果、たまたま高いエネルギーになった原子は、蒸発します。

ポテンシャルの深さU:

深い 浅い

Thermalization

(衝突による

熱平衡化)

原子数: 多い

温度: 高い

密度: 低い

“Evaporation”

BECの生成:Evaporative Cooling(蒸発冷却)

原子数: 少ない

温度: 低い

密度: 高い

(佐々木先生講義ノートより)

トラップ中で原子が温度Tで熱平衡に達しているとき、どのようなエネルギー分布をしているかを表したのが、上の図です。温度が低くなるにつれて、低いエネルギーの粒子の数が増えていっているのがわかります。

(佐々木先生講義ノートより)

http://www.colorado.edu/physics/2000/

このサイトには、蒸発冷却のシミュレーションデモができるもの

がのっています。一度、のぞいてみてください。

スピン自由度の活用: 断熱消磁冷却

(佐々木先生講義ノートより)

スピン自由度の活用: 断熱消磁冷却

Demagnetization Cooling

初期状態: スピン偏極:

断熱過程

終状態:スピン無偏極:

[W. J. De Haas, et al., (1934)]

“エントロピーは、運動の自由度からスピンの自由度にながれる ” =“冷却”

“高”磁場(1G)

“低い磁場”(50mG) で光ポンピングを行う

磁気双極子双極子相互作用が大き

い原子(Cr原子)を用いて実証

スピン自由度の活用: ポメランチュク冷却

[Pomeranchuk, (1950)]

超流動3He の実現

(Osheroff, Lee, Richardson)

(佐々木先生

講義ノートより)

スピン自由度の活用: ポメランチュク冷却

[Pomeranchuk, (1950)]

初期状態:フェルミ縮退

s ~ kB𝜋2T/TF

液体 3He

断熱変化

終状態:局在化

s ~kBln(N)

固体 3He トラップ中の原子 モット絶縁体状態

我々のグループが

スピンの自由度が大きい原子(イッテルビウム原子:N=6) を用いて実証

3.レーザー冷却・トラップの原理

3-4.レーザー冷却原子の応用

原子光学、ボース・アインシュタイン凝縮、量子光学実験、超精密測定

原子時計

1秒の定義:「セシウム133原子(133Cs)の基底状態の2つの超微細準位間の遷移 に対応する放射の9192631770周期の継続時間」

1mの定義:「光が真空中で1/299792458(s) の間に進む距離」

光速c=299,792,458 m/s 「憎くなく二人で寄ればいつもハッピー」

レーザー冷却

原子の打ち上げと

自由落下

マイクロ波共振器

( 原子泉方式のCs原子時計)、量子計算、量子情報通信、など

T

1~

g

vT 02

T:観測時間

mg

vLsTsmv 3.1

2,1/5

2

00

自由落下:

2千万年に1秒の誤差

(<10-14)

769 nm

698 nm

87Sr

光格子時計

698 nm

56 m

87Sr

24 km

×2

光周波数標準伝送システム

769 nm

1538 nm

×2

87Sr

光格子時計

60km

ビート測定

hvmc 2zg

c

hvzmgE

2

cmz 1@ 1810

f

f

E

E

f (N

ICT

) –

f (東大

) (H

z)

33cmの高さの違い

hvmc 2zg

c

hvzmgE

2

cmz 33@ 181033

f

f

E

E