§24 霞ケ浦の富栄養化 -...

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1 霞ケ浦への招待 ファイル 24 §24 霞ケ浦の富栄養化 24.1 湖の富栄養化 富栄養化は栄養塩濃度の上昇がもたらす湖の化学的生物的変化です。湖沼には周囲から集まる物質が 蓄積するので、湖の富栄養化は避けることのできない自然現象ですが、自然の富栄養化が数百年、数千 年をかけるところを、人為的な富栄養化は数年、十数年で進めてしまいます。西浦では 1960 年代に急 激な人為的富栄養化が進み、70 年代に大量のアオコが毎年発生するようになりました。茨城県は 80 代から富栄養化防止対策を進めています。 栄養塩濃度が上昇すると、植物プンラクトンと水草が栄養塩の不足から解放されてさかんに増殖し、 大量の有機物を作り出します。このため富栄養化(溶存窒素濃度・溶存リン濃度の上昇)が進行すると クロロフィル a 量・SS 量(デトリタス量)・COD 値が上昇して透明度が低下します。大量の有機物が 分解して溶存酸素を消費するので湖の酸素濃度が低下します。富栄養化の進行で湖の生物量は増加しま すが、生物の種類は減ります。 1950 年代まで、軽度の富栄養化は漁業に歓迎されて、富栄養化を促進しようと鶏糞などを投入した 湖があります。植物プランクトンが増えると動物プランクトンも増えて、エサが増えるため魚類も増え るからです。しかし、無酸素層が発達すると漁業被害が発生します。 植物プランクトンの量は一般に規則的な季節変動を示しますが、富栄養化の進行はこの季節変動を不 明瞭にするようです。198090 年代のクロロフィルの季節変化を調べたところ、規則性(自己相関) の高さは琵琶湖北湖>同南湖>霞ケ浦>印旛沼>手賀沼の順でした。霞ケ浦のクロロフィル量は、かつ て夏高冬低の季節変化を示しましたが、近年は冬も多量を保つ傾向にあります。 富栄養化の自己加速 富栄養化がある程度進むと、大量の植物プランクトンが死んで分解すると きに水中の酸素を大量に消費するので、湖の底に無酸素層が発達します。無酸素層で酸化還元電位が低 下すると底泥からリンが溶け出します(§9.4 参照)。このリンが表層に運ばれると植物プランクトン の増殖が加速され、その分解による酸素消費も加速されて、無酸素層はさらに発達し、リンはさらに溶 け出して(リンの回転速度が早くなって)、植物プランクトンの増殖をさらに早めるようになります。 はじめは流れこむリンの増加で進行した富栄養化も、ある限度を超えると湖自身のメカニズムで加速す るわけで、この現象を「富栄養化の自己加速」と呼びます。霞ケ浦は明治以来富栄養湖の状態を続けて きましたが、1960 年代からの富栄養化の進行で自己加速が進む状態に近づいているようです。 水質汚濁としての富栄養化 水質汚濁としての「富栄養化」は、栄養塩濃度の上昇が水利用に不 都合をもたらす現象です。琵琶湖の「富栄養化防止条例」(1979 年)は富栄養化を「窒素またはりん を含む物質が閉鎖性水域に流入し、当該水域において藻類その他の水生植物が増殖繁茂することに伴っ てその水質が累進的に悪化する現象をいう」と定義し、霞ケ浦の富栄養化防止条例(1983 年)もこれ を踏襲しています。この定義では窒素・リンの流入による水生植物と藻類の増殖繁茂だけでは富栄養化 といえず、これに伴って「水質が累進的に悪化」するときに、はじめて富栄養化といえることになりま す。富栄養「化」は「変化」の過程なので、富栄養化の結果は「富栄養状態」とでもいうべきでしょう。 現在の霞ケ浦のように COD が高留まりを続ける状態は水質の「累進的」悪化ではないので、「霞ケ浦 はすでに富栄養化の時期を脱して富栄養状態を続けている」ということになります。しかし一般には、 窒素・リンの濃度が高まった結果、植物プランクトンなどが大量に繁茂するようになった状態を(利水 とは無関係に)富栄養化と呼ぶようです。貧栄養湖が中栄養湖に、中栄養湖が富栄養湖に変化する現象 や、富栄養湖で栄養塩濃度が上昇する現象も富栄養化の範疇ですが、窒素濃度が 0.2mg/L 以上、リン濃 度が 0.02mg/L 以上に達したことを「富栄養化した」という場合があります(窒素が 0.4mg/L 以上にな るとアオコが発生する可能性があります)。 富栄養化による被害 流入する窒素・リンが水質を悪化させるといっても、窒素・リンの濃度上 昇自体が利水障害の原因となることはめったにありません。硝酸窒素濃度が 10mg/L 以上になると上水 源として問題となり(メトヘモグロビン血症)、50mg/L 以上になると水田でのイネの徒長、倒伏が懸

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霞ケ浦への招待 ファイル 24

§24 霞ケ浦の富栄養化

24.1 湖の富栄養化 富栄養化は栄養塩濃度の上昇がもたらす湖の化学的生物的変化です。湖沼には周囲から集まる物質が

蓄積するので、湖の富栄養化は避けることのできない自然現象ですが、自然の富栄養化が数百年、数千

年をかけるところを、人為的な富栄養化は数年、十数年で進めてしまいます。西浦では 1960 年代に急

激な人為的富栄養化が進み、70 年代に大量のアオコが毎年発生するようになりました。茨城県は 80 年

代から富栄養化防止対策を進めています。

栄養塩濃度が上昇すると、植物プンラクトンと水草が栄養塩の不足から解放されてさかんに増殖し、

大量の有機物を作り出します。このため富栄養化(溶存窒素濃度・溶存リン濃度の上昇)が進行すると

クロロフィル a 量・SS 量(デトリタス量)・COD 値が上昇して透明度が低下します。大量の有機物が

分解して溶存酸素を消費するので湖の酸素濃度が低下します。富栄養化の進行で湖の生物量は増加しま

すが、生物の種類は減ります。

1950 年代まで、軽度の富栄養化は漁業に歓迎されて、富栄養化を促進しようと鶏糞などを投入した

湖があります。植物プランクトンが増えると動物プランクトンも増えて、エサが増えるため魚類も増え

るからです。しかし、無酸素層が発達すると漁業被害が発生します。

植物プランクトンの量は一般に規則的な季節変動を示しますが、富栄養化の進行はこの季節変動を不

明瞭にするようです。1980~90 年代のクロロフィルの季節変化を調べたところ、規則性(自己相関)

の高さは琵琶湖北湖>同南湖>霞ケ浦>印旛沼>手賀沼の順でした。霞ケ浦のクロロフィル量は、かつ

て夏高冬低の季節変化を示しましたが、近年は冬も多量を保つ傾向にあります。

富栄養化の自己加速 富栄養化がある程度進むと、大量の植物プランクトンが死んで分解すると

きに水中の酸素を大量に消費するので、湖の底に無酸素層が発達します。無酸素層で酸化還元電位が低

下すると底泥からリンが溶け出します(§9.4 参照)。このリンが表層に運ばれると植物プランクトン

の増殖が加速され、その分解による酸素消費も加速されて、無酸素層はさらに発達し、リンはさらに溶

け出して(リンの回転速度が早くなって)、植物プランクトンの増殖をさらに早めるようになります。

はじめは流れこむリンの増加で進行した富栄養化も、ある限度を超えると湖自身のメカニズムで加速す

るわけで、この現象を「富栄養化の自己加速」と呼びます。霞ケ浦は明治以来富栄養湖の状態を続けて

きましたが、1960 年代からの富栄養化の進行で自己加速が進む状態に近づいているようです。

水質汚濁としての富栄養化 水質汚濁としての「富栄養化」は、栄養塩濃度の上昇が水利用に不

都合をもたらす現象です。琵琶湖の「富栄養化防止条例」(1979 年)は富栄養化を「窒素またはりん

を含む物質が閉鎖性水域に流入し、当該水域において藻類その他の水生植物が増殖繁茂することに伴っ

てその水質が累進的に悪化する現象をいう」と定義し、霞ケ浦の富栄養化防止条例(1983 年)もこれ

を踏襲しています。この定義では窒素・リンの流入による水生植物と藻類の増殖繁茂だけでは富栄養化

といえず、これに伴って「水質が累進的に悪化」するときに、はじめて富栄養化といえることになりま

す。富栄養「化」は「変化」の過程なので、富栄養化の結果は「富栄養状態」とでもいうべきでしょう。

現在の霞ケ浦のように COD が高留まりを続ける状態は水質の「累進的」悪化ではないので、「霞ケ浦

はすでに富栄養化の時期を脱して富栄養状態を続けている」ということになります。しかし一般には、

窒素・リンの濃度が高まった結果、植物プランクトンなどが大量に繁茂するようになった状態を(利水

とは無関係に)富栄養化と呼ぶようです。貧栄養湖が中栄養湖に、中栄養湖が富栄養湖に変化する現象

や、富栄養湖で栄養塩濃度が上昇する現象も富栄養化の範疇ですが、窒素濃度が 0.2mg/L 以上、リン濃

度が 0.02mg/L 以上に達したことを「富栄養化した」という場合があります(窒素が 0.4mg/L 以上にな

るとアオコが発生する可能性があります)。

富栄養化による被害 流入する窒素・リンが水質を悪化させるといっても、窒素・リンの濃度上

昇自体が利水障害の原因となることはめったにありません。硝酸窒素濃度が 10mg/L 以上になると上水

源として問題となり(メトヘモグロビン血症)、50mg/L 以上になると水田でのイネの徒長、倒伏が懸

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念されますが、霞ケ浦の全窒素濃度は 1mg/L 台を保っています。リンの過剰で利水障害が起こった例

はないようです。 植物プンラクトンが大量に繁茂すると、透明度の低下や水の着色による景観の悪化、浄水場での濾過

障害、水道水の異臭味発生などが起こります。有機物が多いと浄水場では塩素殺菌の過程でトリハロメ

タン(発がん物質)の濃度が上昇する可能性が高まり、これを避けようとすれば上水の製造コストが上

昇します。水田では有機物が沈積して土壌を悪化させ(酸化還元電位の低下)、濁りによる地温の低下、

水の貧酸素化が進んでイネの生育障害が起こります。アオコが大量に発生すると悪臭が問題となります。

デトリタスが増えると、それをエサとするフサカ・ユスリカなどの幼虫が大量に発生し、一斉に羽化し

て湖岸の人々を悩ませます。大量の水草は舟艇の航行や漁業(トロ-ルなど)を妨害し(霞ケ浦では浮

遊するオオフサモが水門の開閉を妨げたことがある)、水路を詰まらせ、腐敗すれば悪臭を発して景観

を損ねます。揚水管では有機物の腐敗で酸化還元電位が低下し、鉄やマンガンが溶け出し壁に沈着して

管を詰まらせます。

酸素の欠乏は湖底付近から始まるので、その被害はまず貝類など移動能力の小さい底生動物に及び、

ユスリカなどの発生も少なくなります。続いて魚類の酸欠死、中毒死が起こり、貧酸素に耐える、資源

としての価値が低い魚種ばかりが生き残ります。水草が消え、産卵床が沈殿物で覆われるようになると、

貧酸素に耐える魚類も減少します。

24.2 植物プランクトンの増殖と窒素、リン

生活必要資源 植物プランクトンの生活は温度(水温の季節変化と日変化・温度成層の発達)、光

(日照時間・透明度)、水質(pH・酸化還元電位・O2・CO2・塩分・栄養塩類・溶存有機物)、水の動

き(鉛直混合・潮汐や湖流)、他の生物との関係(栄養塩や光の奪い合い・食われること)など、さま

ざまな環境要因の影響を受けます。環境要因のうち、生活の維持のため生物が消費するものを、その生

物の「(生活必要)資源」と呼びます。光、CO2、O2、栄養塩は植物プランクトンの「資源」です。増

殖に必要な時間、体を置く空間も資源と見ることができます。水温や pH、水の動きなど、生活に影響

しても生物が消費しない環境要因は「環境条件」と呼んで資源と区別します。植物プランクトンは環境

条件が生活の継続を許すとき、獲得できる資源に見合う速度で増殖します。

制限要因 ある環境要因が不足(または過剰)のため生物が十分な成長増殖を示さないとき、その

要因を(成長の)「制限要因」と呼びます。ドイツの化学者リービッヒ(1843)は、作物の収量と肥料

成分との関係を研究して「作物の収量は生育に必要な無機成分のうち も不足する成分の量に支配され

る。たとえば亜鉛が不足すると他の肥料成分がどうであれ収量は減少し、亜鉛以外の成分を補給して亜

鉛の不足を埋め合わせることはできない」という説( 少量の法則)を唱えました。これが「制限要因」

という考えのはじまりで、上の例では亜鉛が制限要因です。 少量の法則は特定の資源が少なすぎる場合の収量制限を述べたものですが、20 世紀になると、資

源以外の環境要因にも拡大され、多すぎる場合の成長制限も含めて「制限要因」という言葉を使うよう

になりました。現在では、複数の要因の間に相補的な関係が成り立つ場合があるなど、 少量の法則が

厳密には成り立たない場合も知られています。しかし、生物と環境との関係を大まかに把握する上で、

制限要因の考え方はなお有用と考えられています。

制限要因としての窒素・リン 植物プランクトンの増殖速度と栄養塩濃度との関係を調べるため、

これまでに多くの培養実験が行われました。はじめは栄養分を溶かした培養液をガラス容器に入れ、そ

の中で植物プランクトンを培養しましたが、植物プランクトンの栄養吸収と老廃物の排出で培養液の組

成が変ってしまうことから、のちには培養液の組成を一定に保って増殖を調べる装置(ケモスタット)

が開発されています。いっぽうでは、湖に栄養塩をさまざまな濃度、組み合わせで添加し、植物プラン

クトンの増殖がどう変わるかを調べる施肥試験も行われました。多くの研究を重ねた結果、植物プラン

クトンの増殖を制限しやすいのがリンと窒素で、ときに鉄も制限要因となり、珪藻の場合は珪素も制限

要因となることが確認されたのです。CO2についても検討されましたが、一般に CO2は制限要因にならな

いという結論に達しています。 栄養塩の効果に関する培養実験は 1960~70 年代に盛んに行われました。そのころ合成洗剤に含まれ

るリンが問題となり、これに対抗するため、あるアメリカの洗剤会社が「リンは植物プランクトンの増

殖を促進しない」と発表したことがあります。この会社は、あらかじめリンを高濃度に含む培養液で植

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物プランクトンを培養しておき、そこにリンを加えても効果がないことを確かめたのでした。この例か

ら分かるように、すでにリンが高濃度に存在すると、さらにリンを加えても添加効果はほとんどありま

せん。一般の湖沼の植物プランクトンは、つねにリン不足の状態に置かれており、このためリンの供給

が増すと増殖速度も増します。しかし、増殖(細胞分裂)に要する時間は一定限度を超えて短縮できな

いので、ある限度以上に多量のリンが供給されても、植物プランクトンはそれを完全に利用するほどの

増殖速度を発揮できないのです(高密度になると栄養塩以外の要因が増殖を律速する可能性も高まりま

す)。畑で肥料が重要だからといって、肥料を過剰に与えても収量がそれほど増えないのと同じことで、

広い意味での「収穫逓減の法則」が成り立っていると考えてよいでしょう。

湖では水温、光、水の混合攪拌、動物の捕食などが植物プランクトンの量を制限している場合が考え

られます。これは、肥沃な畑でも低温、日照り、日当たりの悪さ、不適切な pH、病虫害や鳥獣害で収

量が落ちるのと同じことです。そうした障害がなければ、基本的には土の肥沃度が畑の収量を決めるよ

うに、湖の肥沃度が植物プランクトンの増殖速度、したがって存在量を決めるのです。

窒素かリンか 多くの湖沼でのさまざまな実験結果は、共通して「植物プランクトンの生産量(一

次生産の大きさ)はリン濃度と極めて密接な関係にある」ことを示しています。また、多数の湖沼から

集めたデータを統計的に解析してクロロフィル濃度・リン濃度・窒素濃度の関係を検討した結果(OECD、

1982)でも、クロロフィル量は窒素濃度よりもリン濃度との関係が強いとの結論を得ています。したが

って、植物プランクトンの量を削減しようとするなら、まずは湖内のリン濃度を下げることが重要と考

えられます。窒素だけが過剰に存在しても、植物プランクトンはリンの存在量に見合う増殖を示し、リ

ンに対する窒素の割合が極端に低い場合には、空中窒素を固定する種類が増えて窒素不足を補います。

そうはいっても窒素対策を無視してよいわけではありません。おなじリン濃度でも、窒素が多いか少

ないかで発生する植物プランクトンの種類が異なるからです。アオコは窒素が豊富な水域に発生する生

類といえます。

比増殖速度 植物プランクトンは原則として細胞の2分裂で増え、分裂ごとに数が 2 倍になります

が、栄養塩濃度が高いと倍加時間(分裂が終わってから次の分裂が終わるまでの時間)が短縮されます。

このような植物プランクトンの増殖を、利率 100%(単位時間ごとに 2倍になる)の複利と見ることが

できます。銀行預金の元利合計は

元利合計=元金×(1+利率)期間

という式で計算できますが、この式で利率が1のとき1+利率=2ですから、植物プランクトンが分裂

を繰り返したのちの細胞数を

「後の数」=「はじめの数」×2分裂回数

という式で示すことができます。「分裂回数」を日歩計算と同じく「日」の時間単位に置き換えるには、

倍加時間が 1/4 日(6 時間)のとき1日に4回、3 日のとき1日に 1/3 回分裂するわけですから、「分

裂回数」を「1/倍加時間」に置き換えればよいことになります。したがって、分裂速度が一定なら

「ある日数が経過した後の数」=「はじめの数」×21/倍加時間

という式が成り立ちます。細胞の大きさが同じなら、数でなく量についても同じことが言えます。研究

者は21/倍加時間を自然対数に変換した値(0.693/「倍加時間」)を増殖の尺度に用い、「比増殖速度」と

呼びます(細菌類の比増殖速度は時間単位で示します)。倍加時間が 3 日なら比増殖速度は 0.693/3 日

=0.231/日です(対数に置き換えると倍、倍に増えるような現象を直線で示すことができます)。

比増殖速度は栄養塩濃度がゼロ(細胞が生きるに必要な 低限度を持っているとして)のときゼロで、

栄養塩濃度がすこし上昇すると、その上昇に比例して比増殖速度も上昇します。しかし、栄養塩濃度が

高いと濃度の上昇に対応する比増殖速度の上昇幅は小さくなり、やがて比増殖速度が 大(飽和)に達

して、それ以上栄養塩濃度を高めても速度は追随しなくなります。したがって栄養塩濃度を横軸に、比

増殖速度を縦軸にとってグラフを描くと飽和曲線になります。飽和曲線の形は植物プランクトンの種類

で異なりますが、多くの種類が 大比増殖速度に達する濃度は窒素について 1mgN/L、リンについて

0.1mgP/L 付近とされています。

栄養塩濃度と植物プランクトンの競争 2種類の植物プランクトン A,B の栄養塩濃度と比増殖

速度との関係を示す曲線を 1枚のグラフ用紙に重ねて描いたとします。2種の曲線が図上で交わる場合、

交点付近の栄養塩濃度ではA種とB種の比増殖速度がほぼ同じなので、両種はほぼ同じ速度で増えます。

交点より高濃度側で A種の曲線が B 種の曲線の上になるなら、栄養塩が高濃度のとき A 種が B種より早

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く増え、低濃度のときは B 種が A種より早く増えることになります。両種の曲線が交わらず、全範囲で

A 種の曲線が B 種の曲線の上なら、栄養塩以外の条件が関与しない限り A 種が B 種より早く増殖し、は

じめ両種が共在してもやがてB種は駆逐されることになるでしょう。このように、栄養塩の濃度は植物

プランクトンの優占種( も優勢になる種類)が決まるうえに大きな意味を持ちます。

植物プランクトンにはリンだけが十分でも窒素が多量でないと満足に増殖できない種類や、珪酸が多

くないと増殖できない種類などがあります。このため栄養塩類の濃度比は優占する種類が決まるうえに

重要です。ティルマン(1977)によると、ミシガン湖の珪素:リン比(Si:P 比)は沿岸部で 1~10:

1、沖部で 200~500:1でした。沿岸部には珪藻アステリオネラが、沖部には珪藻キクロテラが優占

したので、両種の増殖と Si:P 比との関係を実験的に調べたところ、アステリオネラでは 5.6:1、キク

ロテラでは 97:1 が 適条件であることが分かり、両種がリンと珪素の濃度比の違いに対応して沿岸部

と沖部を住みわけていると考えられました。

米国の海洋学者レッドフィールド(1934)は、海洋の懸濁物質(ほとんどが植物プランクトンとその

残骸)の元素組成を調べて炭素:窒素:リンの原子数比が 106:16:1 になっており、場所による大きな

差はないことを示しました(この比をレッドフィールド比と呼ぶ)。このことを敷衍して、植物プラン

クトンの増殖に好適な N:P 比がほぼ 16:1(重量比で 7:1)で、この割合から著しく離れると植物プラン

クトンはどちらかの元素の欠乏に悩まされると考える説がありますが、少なくとも湖沼の植物プランク

トンに関するかぎり、ことはそう簡単でないようです。

植物プランクトンにはリンや窒素を「食いだめ」できるものと食いだめの能力が低いものとがありま

すから、栄養塩濃度の変化の影響は種類ごとに違います。pH や光、温度に対する反応も種類によって

異なります。湖沼では多数の種類が環境の変化に応じた増減を繰り返し、かれらの増減パルス(波動)

が重なって植物プランクトン全体としての増減が起こるのです。したがって、霞ケ浦における植物プラ

ンクトンの消長や種類の交代を調べようとするなら、彼らの増減にあわせた頻度の観測が必要になりま

す。月 1 回程度の観測は国勢調査を 100 年に 1 回の頻度で実施するようなもので、長期的トレンドの把

握には役立ちますが、植物プランクトンの消長と環境要因との関係を解析することは原理的に不可能と

いえます。

霞ケ浦での調査例 植物プラクトンの増減を調べた西浦大岩田沖での調査例(小松崎、1990)を

紹介しましょう。下図左は 3 月 30 日から 8 月 12 日まで 3 日おきの観測を繰り返して湖水1ml 中の植

物プランクトン細胞密度を調べたもので、縦軸は対数目盛になっています(実数は目盛の 3 が 1000、4

が 1 万、5が 10 万に相当)。図から、4 月には各藻類が増減を繰り返しながら密度を高めることが分か

ります。珪藻の密度は 6 月に頭打ちとなり 7 月には減少傾向を示すのに対して、藍藻は 6~7月にも増

加傾向を保つので、春には藍藻・珪藻・緑藻の密度がほぼ同じでも、夏になると藍藻の細胞数が圧倒的

(藍藻優占)になります。

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それぞれの藻類の増減の速度を比較するため、「見かけの比増殖速度」(増減の変化率)を計算した

ところ下図右のようになりました。図には細胞密度の増加がプラスの、減少がマイナスの値で示されて

います。増加にも減少にも 0.4 程度の値が見られますが、比増殖速度の+0.4 は倍加時間 1.7 日に相当

します。この図から、植物プランクトンの密度と種類組成が 3 日間程度でかなり変化することが分かり

ます。

大岩田沖での細胞密度の変化(3.30~8.12) 左図から計算した見かけの比増殖速度

霞ケ浦の藍藻に糸状の群体となるもの(ユレモなど)と球状の群体となるもの(アオコなど)があり

ます。これらの藍藻の増殖条件を調べるため、大岩田沖の湖底泥 10g を水 1 リットルに加えて混合した

ものをタネとする培養実験を行いました。水温は藍藻が繁茂する夏にあわせ 28℃に設定しています。

まず、攪拌の影響を見るため静置培養と緩い攪拌混合を続ける培養を設定し、リンと窒素を十分に与

えて(0.2mgP/L、8.9mgN/L)12 日間培養しました。毎日培養液内の植物プランクトン細胞数を数えて

球状藍藻・糸状藍藻・珪藻・緑藻の推移を見たところ、球状藍藻は静置培養で確実にその数を増やしま

したが、攪拌培養ではわずかに発生しただけでした。糸状藍藻も攪拌培養より静置培養で多くなりまし

た。この短期培養では 後に静置条件で珪藻、攪拌条件で緑藻が優占して藍藻の優占は起こりませんで

したが、藍藻は攪拌条件より静置条件でよく増えることが分かりました。

そこで、リンは十分(0.2mgP/L)に与えた上で窒素濃度を変えた 50 日間の静置培養を試みました。

リンは一定、窒素分を硝酸窒素として 0(泥からの持ち込みのみ)・0.2・0.45・2.3・4.5・22.7mg/L

(N:P 重量比で 0、1;1、2.25;1、10.1;1、22.5;1、114;1)の 6 段階となるよう調整した試料を 28℃で

培養し、発生してくる細胞数の推移を調べました。その結果、窒素濃度がごく低い場合(0、0.2mg/L)

は 終的に珪藻が優占し、糸状藍藻は培養初期に僅かに増えたのち減少して、後期には無視し得るほど

50 日間培養の結果(小松崎 1990) 縦軸は細胞数の百分率 横軸は培養開始後の日数

カラムの色は下から順に、緑=球状藍藻、青=糸状藍藻、褐=珪藻、 黄緑=緑藻。

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になりました。球状藍藻も培養初期にわずかに増殖しましたが後期には見当たらなくなりました。窒素

濃度がやや低い場合(0.45mg/L)は珪藻が優占するものの、全期間を通じてかなりの糸状藍藻と球状藍

藻(アオコを含む)が確認されました。窒素濃度がかなり高い場合(2.3mg/L)には全期間を通じて球

状藍藻が多量に発生し、きわめて高い場合(4.5mg/L 以上)には培養の後期にアオコの優占が起こりま

した。リンが高濃度でも N:P 比が低い場合(重量比で 10:1 程度まで)は珪藻が優占し、N:P 比が高ま

ると糸状藍藻の優占が起こって、きわめて高い N:P 比のもとでアオコの優占が出現したのです。このこ

とから、植物プランクトンの増殖にはリンの濃度だけでなくリン:窒素の濃度比が大きく影響すること

がわかります。アオコの優占が培養開始後 25 日目以降に出現したことから、アオコの大量発生には静

謐条件が3週間程度継続する必要があると考えられます。

栄養塩削減の効果 この節のはじめに述べたように、植物プランクトンの増殖は「比増殖速度(μ

と略記)」で比較します。栄養塩濃度とμとの関係をグラフに描くと飽和曲線となり、この曲線は比増

殖速度をμ、栄養塩濃度を S とするとき、

μ=μmax・S/(Ks+S) (μmaxはμの 大値、Ksは曲線の立ち上がり勾配を示す値)

という式にあてはめることができます。この式の性質をそのまま調べるのは面倒なので、より簡単で類

似の式 y=100x/(1+x)

の性質を調べることにしましょう。この式で x=0 のとき y==0/(1+0)=0 です。x=0.1 のとき y=10/1.1

=9.1、x=0.2 のとき y=20/1.2=18.7、x=0.3 のとき y=30/1.3=23.1 となり、x がごく小さい範囲で

は、xを増すとyもかなり大きくなります。xがもう少し大きい範囲では、x=10のときy=1000/11=90.9、

x=15 のときy=1500/16=93.8 と、xを増してもyはあまり増えません。xがさらに大きいと、x=250

のとき y=99.6、x=500 のとき y=99.8、x=1000 のとき 99.9 となって、xを増してもyの値はほとんどか

わりません。逆に、xを 1000 から 500 に半減させても y はあまり小さくなりませんが、x を 10 から 5

に半減させると y は目に見えて小さくなります。これが飽和曲線の性質です。

飽和曲線の性質は富栄養化対策を考える上に重要で、リン濃度が低い湖で濃度を下げると植物プラン

クトンは目に見えて減りますが、リン濃度がきわめて高い湖では、リン濃度を少しばかり下げてもほと

んど効果がないのです。多くの植物プランクトンの比増殖速度はリンで 0.1mg/L 程度、窒素で 1mg/L 程

度で飽和するとされ、霞ケ浦の窒素リン濃度はこの付近ですから、1割程度の濃度削減では効果が見え

ない可能性があります。しかし、濃度を低下させる努力を根気よく続ければ、やがて植物プランクトン

は目に見えて減少するはずです。

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26.3 富栄養化対策

負荷削減の理論 環境への「負荷」とは「人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因

となるおそれのあるもの」(環境基本法第 2条)です。湖に対する負荷には、外部から流れこむ「流入

負荷」と湖内で発生する「内部負荷」があります。霞ケ浦の水質汚濁で問題となるのは有機質汚濁と富

栄養化で、有機質汚濁の対策は「流入負荷」を低下させる対策、富栄養化の対策は「内部負荷」(湖の

一次生産)を抑制する対策となります。富栄養化は湖に対する栄養塩の「流入負荷」の増大が COD 物質

の「内部負荷」を増大させる現象です。 湖水の汚濁物質濃度がほぼ一定で、汚濁物質の一部が一定速度で流出するとともに沈降で湖水から除

かれるとすると、湖水における汚濁物質の平均濃度は、おおまかに

湖水中平均濃度={汚濁物質流入量}/{湖容量×(湖水の回転率+汚濁物質の沈降率)}(式1)

という式で示すことができます。この式は、汚濁物質の平均濃度が流入量に比例し、どこから流入があ

るにせよ、「汚濁物質流入量」を減らせば湖水の汚濁物質濃度が低下することを示しています。これが

「水質保全に流入負荷の削減が有効である」ことの原理的根拠です。この式はまた、湖の形状(湖容積・

湖水の回転率・汚濁物質の沈降率)が汚濁物質濃度に影響することを示しています。

湖内対策 (式1)は、分母を構成する湖の容量、湖水の回転率、物質の沈降速度を大きくすると流入負荷が同

じでも湖水の汚濁物質濃度が低下することを示しています。そこで、汚濁物質濃度を低下せるための湖

内対策を検討してみましょう。

湖の改造 湖容量を増すには湖面積と平均水深の片方または両方を増せばよいのですが、湖面積の

拡大はふつう不可能なので、その縮小を防ぐのが望ましいことになります。干拓や埋め立ては水質保全

上好ましくないのです。霞ケ浦はすでに湖面の 1 割を干拓その他で失っており、これ以上の湖面積の縮

小は避けなければなりません。

水深を増すには湖底を掘削するか水位を上昇させるかです。掘削は浅い湖の沼沢化を遅らせるにも有

効でしょうが、技術的に可能でも、経費や残土処理が問題となって実施はかなり困難です。水位上昇に

は治水上、利水上、景観上の問題も絡むので多面的な検討が必要です。そのうえ、湖容量を拡大しても

流入水量を増さないかぎり湖水の回転率が低下してしまいます。したがって、浅い湖である霞ケ浦を深

い湖に近づけるような大改造でない限り、湖の形態の改変を検討することはできないでしょう。

湖の回転率を高めるには流入水量を増す必要があります。手賀沼では利根川からの導水が水質改善に

大きく寄与していますが(10 年間で COD8mg/L の削減に成功)、関東地方に霞ケ浦の滞留時間を短縮で

きるほど導水できる水源は存在しないので、霞ヶ浦導水事業にわずかな期待をかけることになります。

粒子の沈降速度は水温(粘度)と風の攪拌混合に左右されますが、水温や風は制御できません。凝集

剤を投入して懸濁粒子を沈降させる手法があり、小さな湖での成功例がありますが、大きく広い湖での

実施は困難です。また、すべての粒子を沈降させても、あらたな粒子の流入を遮断しないかぎり、その

効果はじきに失われます。霞ケ浦で可能な手段としては、岸の近くに消波工を設置して風波による浸食

と底泥の巻き上げを抑制し、植生帯を発達させて粒子の沈降を早めることが考えられます。河川の懸濁

粒子を河口付近に沈降させて湖内への拡散を防ぐ方法があり、霞ケ浦では沈殿施設を川尻川・園部川・

梶無川・大円寺川・武田川の河口に設置してウエットランドと称しています。この手法は無機セストン

の多い小河川に有効ですが、沈積物の回収除去などに課題を残しています。こうしたことから、霞ケ浦

の改造に期待できることは僅かなことが分かります。

その他の湖内対策 (式1)は湖底から湖水への物質の回帰を勘定に入れていません。深い湖は

それでよいのですが、霞ケ浦のような浅い湖では、沈降物の巻き上げや湖底堆積物からの栄養塩の溶け

出しを無視できません。そのほかも考慮し、湖内対策につぎのものを考えることができます。

・湖底堆積物の除去 無酸素層の発達を防ぎリンや溶存有機物の溶出を抑制するため湖底を浚渫する

ことがあります。底泥浚渫は琵琶湖・諏訪湖・西浦などで実施されました。外国の湖には下水処理水な

どの流入をすべて他に移してから浚渫して水質改善に成功した例があります。しかし、浚渫は経費がか

さみ、浚渫土処理の場所の確保が難しく、浚渫しても新たな沈降堆積を防止しなければ効果が失われる

ことなどから、水質改善の決め手とすることはできません。

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・溶出の抑制 外国の小さな湖には湖底の覆土、薬剤投入によるリンを固定化などで溶出を抑え成功

した例がありますが、経費が嵩むうえ魚類などを大量に死滅させる危険があるので、広い湖や水産利用

のある湖に向きませんし、流入負荷が十分抑制されていないと、実施しても効果がじきに失われます。

・リン窒素の回収 湖水を汲み上げてリンや窒素を物理化学的手法(吸着、沈殿、気化など)または

生物的手法(植物に吸収させるなど)で回収する手法があります。物理化学的手法は栄養塩濃度がきわ

めて高い場合に、生物的手法は栄養塩濃度が低く広い用地が確保できる場合に有効とされています。こ

れらは景観を重視する公園の池など小水域で有効でも、広い水域では困難かつ非効率です。

・水草や植物プランクトンの除去 ヒシやオオカナダモなどの刈り取り除去はわが国でも広く行われ、

西浦では水草の刈り取り船を配備したことがあります。高密度に発生したアオコの回収も行われ、西浦

にはアオコ回収船が配備されています。また、紫外線やオゾンでアオコを殺す手法もあり、アオコを殺

すウイルスの散布も検討されています。これらの手法は景観の悪化、悪臭の発生、水上交通や漁業上の

問題に対処する局所的なもので、湖の水質改善に直接結びつく面はわずかでしょう。天然湖沼では殺藻

剤、除草剤の散布も難しいでしょう。

・曝気と攪拌 深層に空気や酸素を送り込んで無酸素層を破壊しリンの溶出を抑える手法があります。

通気は湖水を混合して植物プランクトンが生産層にとどまる時間を短縮し、藻類の増殖を抑制するとい

う効果もあります。この方法はある程度の水深を持つ狭い湖で有効ですが、霞ケ浦のように広く浅い湖

での効果はあまり期待できません。実施するなら無酸素層が発達する時期を選び、局所的に行うことに

なります。

・遮光 ごく狭い水域では水面を遮光して植物プランクトンの増殖を抑制する例がありますが、間違

うと表層の酸素濃度を低下させます。

・生物操作 特定の生物を意図的に増やして水質浄化を図る手法を生物操作(バイオ・マニピュレー

ション)と呼びます。ミジンコなどの動物プランクトンは植物プランクトンを食うので、ミジンコが多

いと植物プランクトンが減って透明度が上昇します。生物操作の観点からすると、ミジンコを食ってし

まう魚類(ワカサギなど)は有害動物です。そもそも魚類は有機物中の窒素、リンを溶存態に変えて排

出し、栄養塩の回転速度を高めるので、水質保全上は好ましくない存在なのです。そこで、賞金を出す

などして小魚を捕獲し駆除するいっぽう、ブラックバスなど魚食魚を保護するのが生物操作の一般手法

です。この手法は欧米で試験されていますが、コイ・フナ・ワカサギなどを漁獲対象とする我が国の湖

沼では不可能でしょう(白樺湖での試験例あり)。生物操作は滞留時間が短い小湖沼でないと効果的で

ない、生物操作による藍藻類の制御は難しいなどの報告もあります。

アオコをハクレンに食わせる、水草をソウギョに食わせるなども生物操作の一種でしょう。ただし、

水草の繁茂を抑制しようとソウギョを導入したところ湖岸の植生帯が壊滅したという例もありますか

ら、外来生物の導入には慎重な検討が必要です。シジミなど二枚貝による湖水の濾過に期待することも

ありますが、濾過食動物は粒子状のリン・窒素を溶存態のリン・窒素に換える装置として働くので、富

栄養化防止の観点から貝類などに期待することは、特殊な場合を除いて困難でしょう。泥質の湖底はシ

ジミの生活に不適ですし、泥で濁る水に入れたシジミは濁り物質を粘液で固め疑糞(ぎふん)として捨

てるのに忙しく、やがて衰弱します。 ・塩水の導入 淡水の植物プランクトンは塩水で繁殖しないので、霞ケ浦に利根川の塩水を導入して

はどうかという意見があります。たしかにアオコは汽水域に発生しませんが(宍道湖では耐塩性のアオ

コが発生するようになったといいます)、停滞する汽水域には汽水性の「水の華」が発生し、青潮の被

害も起こります。水門を常時開放した場合には流入した塩水が深みに張り付き、貧酸素水塊を発達させ

るでしょう。アオコの抑制には 500mg/L 以上の塩化物イオン濃度が必要のようですが、上水の基準が

200mgCl/L ですから、利水を考えると塩水導入はできないでしょう。

・ダイバージョン 下水終末処理場などの排水の放流先を湖外(多くの場合は海)に変更する手法を

ダイバージョン(放流先の変更)と呼びます。その成功例は世界に数多くありますが、問題を他に転化

するだけとも言え、北海の深刻な汚染は沿岸各国が実施したダイバージョンの結果だといいます。諏訪

湖では下水終末処理場の排水を湖の 下端で放流していますが、西浦では湖頭で放流しており(処理排

水を水資源として再利用する計画です)、水質保全上は好ましいといえません。しかし、霞ケ浦でのダ

イバージョンには放流先や経費の確保などの困難が伴い(実施するなら湖内に管を這わせて水門付近に

放流することが考えられます)、また現在の下水処理水の量は全体から見て重大とは言いにくいレベル

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です(全日流入量に占める下水処理水の割合は概算で COD の 2.5%、T-N の 2.8%、T-P の 8.7%)。経

費をかけるなら下水処理場で脱リンを強化することも可能でしょう。 ・分割管理 広大な水域を一律に管理することが無理なら、利用目的に応じて水域をいくつかに区分

し、区分ごとに濃淡をつけた管理を行おうという手法がアロケーション(割り当て)です。霞ケ浦は一

体的管理が原則で、アロケーションが検討されたことはありません。 このように見てくると、少なくとも霞ケ浦に関するかぎり、(式1)右辺の分母の値を大きくして水

質改善を図ることは極めて困難なうえ、湖内対策のなかに霞ケ浦の救世主となるものは見あたりません。

湖内対策は流入負荷を十分に削減した段階で、過去の負の遺産を清算するうえに有効と考えられます。

したがって、まず実施すべきは(式1)右辺の分子である「流入量」の削減となります。

24.4 流入負荷の算定 湖への汚濁物質の流入量は

汚濁物質流入量=Σ(流入水量×流入水中の汚濁物質濃度)

というかたちで算定できます。Σは各流入路からの流入の総和という意味です。この式から、汚濁物質

流入量削減のための手法として「流入路総数の削減」、「流入水量の削減」、「流入水中の汚濁物質の

削減」の 3手法を考えることができますが、流入路の削減や流入水量の削減は実施困難なため、一般に

は流入水中の汚濁物質濃度を低下させる手法が採用されます(水田の循環灌漑は流入量の削減に対応し

ます)。

原単位法 流入負荷の削減策を考えるには、まず現状を把握する必要があり、現状把握には一般に

「原単位法」を用います。原単位法は各汚濁負荷源が発生する負荷量を 「負荷量」=「原単位」×「フレーム」

という形で求め、それを集計して全体の負荷量を算定する方法です(買い物に例えるなら原単位は一商

品の単価に、フレームはその商品の購入数量に相当)。原単位法は多種多様な汚濁源を類型別に整理し

て総排出負荷量を算定するための手法で、広域を対象として統一的に、また迅速に扱う方法としてすぐ

れています。実測値を積み上げる方法にくらべておおまかに過ぎるとの批判もありますが、負荷量は降

水量など自然条件や経済状況など社会条件で変動して地域差も大きいため、ある限られた場所での実測

値を全体におしなべて適用しにくい面があります。また負荷算定の正確さに見合う対策の厳密さが伴わ

なければ実際上の意味を持ちません。費用対効果を考えても、いまのところ原単位法に勝る方法はない

ようです。 原単位 「原単位」は単位量の排出源が 1 日あるいは 1 年に排出する汚濁物質量で、「発生原単位」

(生活や事業で発生する汚濁物質量)と「排出原単位」(発生した廃水を処理したのち公共用水域に排

水するときの汚濁物質量)に分かれます。富栄養化対策では COD・窒素・リンについて各種排出源の

原単位を実測値や文献値をもとに設定します。霞ケ浦流域における発生原単位の算定は昭和 60 年度(水

質保全計画第 1 期)にはじまり、以後 5 年ごとに改定して、現在はつぎのように設定しています(平成

22 年度の状況に基づく)。

霞ケ浦流域の発生原単位 (1 人または1頭、1 羽あたり 1 日の発生量(グラム)) COD 全窒素 全リン

生活系 し尿 10.1 9 0.77 雑排水 19.2 3 0.40 畜産系 乳牛 530 247.4 34.7 肉牛 313 138.0 14.8 豚 130 35.7 9.3

採卵鶏 2.8 3.00 0.50 肉用鶏 2.8 3.62 0.29 発生した汚濁物質は、さまざまな処理法(し尿では農地還元・し尿処理場処理・単独浄化槽処理・合

併浄化槽処理・農業集落排水処理施設処理・コミュニティプラント処理・広域下水道終末処理場処理)

による処理を経て、河川など公共用水域に排出されるので、し尿や雑排水の「排出原単位」は処理法ご

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とに算定する必要があります。工場・事業場の排出原単位は業種別に、たとえば製品出荷額あたり 1 日

の排出量として算定します。 生活排水や工場排水など排出点を地図上に特定できる排出源を「点源」(ポイント・ソース)、市街

地や農地、山林など排出源が広い面積を占めて排出点を地図上に特定できず、排出量が降水の影響を受

けて大きく変わるような排出源を非点源(ノンポイント・ソ-ス)または面源と呼びます。面源の排出

原単位は土地利用の種類ごとに(農地なら畑・水田・蓮田・果樹園などに分けて)、ふつう 1 年1平方

キロメートルあたりの排出量として算定します。霞ケ浦の排出原単位(平成 22 年度算定)はつぎのと

おりです。 霞ケ浦流域の排出原単位

単位:生活系は 1 日 1 人につき、畜産系は 1 日 1 頭または 1 羽につきクラム;水産系は 1年1トンの生産につきキログラム;面源系は1日1平方キロにつきキログラム。

COD 全窒素 全リン 生活系 下水道 1.62 1.66 0.050 農業集落排水施設 2.06 1.68 0.346 合併処理浄化槽 4.14 5.98 0.736 高度処理型 3.22 2.76 0.667 単独処理浄化槽 3.20 5.00 0.60 し尿処理場処理 0.006 0.006 0.0001 自家処理 0.61 0.65 0.0039 畜産系 乳牛 31.73 30.31 0.174 肉牛 18.78 16.22 0.074 豚 7.87 4.06 0.047 採卵鶏 0.224 0.363 0.0025 肉用鶏 0.224 0.317 0.0015 水産系 コイ養殖 130.9 51.7 11.4 面源系 水稲田 6.62 2.29 0.029 転作田 1.11 3.54 0.061 不作付け田 3.72 2.00 0.085 ハス田 15.59 2.86 0.880 畑 2.45 4.43 0.061 山林、ゴルフ場など 3.83 1.56 0.054 市街地 15.3 2.7 0.25

フレーム フレームは各排出原単位に対応する排出源の規模(人口や耕地面積など)です。生活排

水のフレームは流域人口を下水道人口・農地還元人口・し尿処理場処理人口・合併浄化槽処理人口・公

共下水道処理人口・農村集落排水処理人口などに分けて算定します。 霞ケ浦の流域内人口は昭和 60 年度に 84.85 万人でしたが、30 年後の平成 22 年度には 97.46 万人と

なりました。この 30 年間に下水道処理人口は 14.64 万人から 49.92 万人に、農業集落排水処理人口は

0 人から 4.77 万人に、合併浄化槽処理人口は 3.41.万人から 11.49 万人(高度処理浄化槽の使用 2.37万人を含む)に、単独浄化槽処理人口は 11.46 万人から 17.86 万人に増加し、し尿処理場処理人口は

47.50 万人から 13.40 万人に、自家処理その他は 8.29 万人から 0 人に減少しました。全体として生活

排水の処理率は 21.3%から 67.9%に上昇しています。工場出荷額は 1.176 兆円から 2.513 兆円に伸び、

畜産系では牛の飼育頭数が 4.15 万頭から 3.22 万頭に、豚の飼育頭数が 37.4 万頭から 29.3 万頭に減少

しました(飼育方法は少数分散型から集団多頭飼育型に変化しています)。平成 22 年度の鶏飼育数は

約 788 万羽です。 面源系では 30 年間で市街地が 22100ha から 33400ha に増加するいっぽう、山林等は 86100ha から

82900ha に、畑は 36700ha から 31400ha に、水田(ハス田を含む)は 46600ha から 32900ha に減り

ました。平成 22 年度の不耕作田は 1 万 3000ha です。 流入負荷量 さまざまな汚濁源の排出原単位が決まり、そのフレームが分かると、それぞれの汚濁

源の排出量を集計して流域全体としての1日または年間の総排出負荷量を算定することができます。た

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だし、総排出負荷量イコール湖への総流入量ではありません。河川では沈降、分解、揮散などで水中の

汚濁物質が減るため、「流入負荷量」は「排出負荷量」よりやや小さくなるのです。排出負荷の何パー

セントが湖に流入するかを「流達率」と呼び、流入負荷量は

流入負荷量=排出負荷量×流達率

という形で算定します。流達率は河川流量と物質搬送量との関係を実測から(平常時と出水時、灌漑期

と非灌漑期の相違に配慮して)求めます。平成 22 年度における霞ケ浦流入負荷量の算定値はつぎのと

おりです。

霞ケ浦の流入負荷量 (単位:1日あたりキログラム)

COD 全窒素 全リン

生活系 6388(23.8%) 2855 (20.0%) 332(48.4%)

工場系 732 (2.7%) 489 (3.4%) 50(7.3%)

畜産系 4705 (17.6%) 4568 (32.1%) 35(6.1%)

水産系 179 (0.7%) 71 (0.8%) 16(2.3%)

面源系 11601 (43.2%) 4590 (32.2%) 177(25.8%)

湖面降水 3272 (12.1%) 1679 (11.8%) 76(11.1%)

合計 26877 14252 686

汚濁負荷量 湖に対する汚濁負荷は流入負荷と内部負荷の合計です。内部負荷を一次生産と湖底か

らの回帰の合計から流出と沈降を差し引いたものと考え、たとえば 1 日あたりの COD 負荷量は

汚濁負荷量=(流入量)+(一次生産量) -(流出量+沈降量)+(湖底からの回帰量)

という形で算定します。窒素とリンについてもこれに準じて算定します。

水質改善効果の予測 立案した流入負荷削減策の効果は水質予測モデルで検討します。モデルは

一般にブロックモデルで、深さ方向に枡(ます)を積み重ね、広さ方向に枡を並べた湖の模型をコンピ

ュータ内に作りますが、浅い霞ケ浦では深さ方向を無視し、湖を 7 個の枡(高浜入・土浦入・湖心部・

湖尾部・北浦北部・北浦南部・浪逆浦部分)の並びで考える単層7ブロックモデルを採用しています。

枡のなかの水質は均一とし、水は枡の壁をとおして隣り合う枡に移動できるものとします。実際の河川

を模して、枡の壁のどこかに流入口と流出口を配置します。この湖模型を水で満たし、流入水量を決め

ると水は枡を順に移動し、一定の回転率で流出します。ここで流入水の栄養塩濃度を決めると、湖での

栄養塩の分散、移動を示すモデルができます。さらに、栄養塩濃度と植物プランクトンの増殖速度との

関係を組み入れ、温度や光の条件を与え、植物プランクトンの分解と沈降、動物の捕食と排出、湖底か

らの回帰、植物プランクトン量と COD 値との換算などを入れて、富栄養化による水質変化の予測モデル

を組み立てるのです。作成したモデルの妥当性は、過去の実測値とモデルの計算値とを照合して検討し、

大きな違いがあれば原因を検討してモデルを修正します。理論的にはより複雑なモデルを構築できます

が、あまりに複雑なモデルは実用的でないため、かなり単純なモデルを使用するのが現状です。

24.5 流入負荷の削減 流入負荷量は「流入負荷量=原単位×フレーム×流達率」というかたちで算定しますから、その削減

には原単位、フレーム、流達率のうちのどれか、またはすべてを削減すればよいことになります。

原単位の削減 排出原単位の削減には「発生原単位の削減」と「排水処理過程の強化」の2手段が

考えられます。「発生原単位の削減」は、湖に排水する地域住民(家庭、工場事業場、農地など)ひと

りひとりの課題です。住民が「水質保全が国民の健康で文化的な生活に寄与するため」(水濁法の目的)

であることを認識し、それぞれ可能なかぎり負荷を削減しようと努力することが、全体として発生原単

位の削減につながるのです。廃油の回収、流しストレーナーの設置、適正施肥、水田の適正水位管理な

どは発生原単位の削減につながる行為です。こうした行為を活発にするため、行政は、汚濁と浄化のし

くみ、排出削減の意義、削減努力の効果などに関する情報を提供して、地域住民の水質に対する関心を

喚起する必要があります。この意味で広報活動、啓蒙活動は重要な富栄養化防止対策のひとつです。

「廃水処理過程の強化」には「地域全体としての処理率の向上」(下水道や高度処理型合併浄化槽の

普及)と「排水処理施設の効率向上」(三次処理能力の強化)が必要です。行政は、排水処理の意義を

住民に浸透させる作業、簡便安価で効率的な処理設備の開発・普及を助成する作業、優れた処理設備の

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導入を資金的に援助する作業を継続的に進めなければなりません。いっぽう住民側は、浄化槽の定期点

検などを含め、応分の負担のもとに合理的な生活を営むよう努力する必要があります。

フレームの削減 フレームの削減とは、汚濁源となる工場事業場に移転を求めたり集水域人口の

抑制を図ったりすることですが、大きな社会的負担を生むことから、我が国の湖で制度的に実施する例

はないようです。

排水規制には「濃度規制」と「総量規制」があります。排水量に応じた濃度規制値を定め、汚濁物質

の排出濃度を規制値まで下げてから公共用水域に排水するよう求めるのが「濃度規制」です。一般には

濃度規制を実施しますが、フレームが巨大になると、各排出源が濃度規制を守っても全体の流入負荷が

許容限度を超えることが起こります。この場合には濃度規制をさらに強めるか、それが不可能なら流入

負荷の総量が許容限度内に収まるよう調整することになります。地域全体の排出量の限度を定めるのが

「総量規制」です。我が国では東京湾・伊勢湾・瀬戸内海で水質総量規制を実施しており、湖沼法(第

23 条)は、人口や産業が集中して大量の排水流入がある等の条件にあてはまる湖沼について総量規制

を認めています。

総量規制の考え方を推し進めると、あらかじめ地域の人口・産業・土地利用などの適正規模を決め、

これを守るように地域を誘導する(場合によっては人口の流入や新たな産業立地を制限する)という「流

域管理」が必要となり、流域管理の過程ではフレームの削減も起こり得ます。外国には景観の維持も念

頭におく地域管理を実施する例があるようですが、我が国には厳密な意味での地域管理の例はありませ

ん。しかし、厳しい排水規制を避けて規制の緩い地域に移転する事業場の場合など、実質的に濃度規制

がフレームの規制につながる例はあるようです。

流達率の低減 流達率の低減には河川の物質搬送力を低下させる必要があります(現在の河川は水

を滞りなく流す方向に改修されており、曲がりくねって淀みのある昔の川より流達率は高まっていま

す)。河川の自浄作用を強化する、河川に人工池や湿地を付属させて酸化、沈殿、脱窒を促進するなど

の案もありますが、河川管理と土地の制約から一般的でありません。汚れは川で処理するのでなく、川

に入れないのが 上の策です。面源負荷の場合には、適正な農地管理、道路や庭や屋根や工場敷地の水

みちの清掃、雨水の地下浸透の増進などが流入負荷の低減につながると考えられます。

24.6 霞ケ浦の富栄養化

流入負荷割合の特徴 2001~2002 年(手賀沼の導水と霞ヶ浦のコイ養殖停止の以前)の 10 指定湖沼(八郎湖は未指定)

に関するデータ(環境省まとめ)その他から見えてくる霞ケ浦の特徴はつぎのようです。 COD 負荷源の特徴 指定湖沼データによると、 大の COD 負荷源が生活系である湖は手賀沼・

児島湖・印旛沼・霞ケ浦・琵琶湖・中海、山林である湖が野尻湖・釜房ダム湖・諏訪湖・宍道湖です。

生活系の負荷が大きい湖では下水道の普及が大きな意味を持ちます。2010 年度末の下水道普及率(行

政人口に対する下水道の使用が可能な人口の割合)は全国平均が 75.1%(東京都は 99%超)、茨城県は

57.2%(都道府別順位は 31 位)、霞ケ浦流域市町村は 46%でした。市町村別に見ると全国平均を超え

るのが土浦市(87%)など5市町、50%~60%台が潮来市など4市町で、5市町村は 0~10%台でした。

他の指定湖沼では諏訪湖が 90%を超え、印旛沼と手賀沼で約 70%、琵琶湖で 70%弱となっており、50%に

満たない指定湖沼は霞ケ浦と宍道湖・中海でした。霞ケ浦集水域で下水道が伸びない理由として、人家

が街道筋や谷筋に纏まらず広い面積に散在するため管渠が長くなり一戸あたりの下水道敷設単価も嵩

むことが考えられます。下水道普及率は北浦周辺でとりわけ低く、この地域が霞ヶ浦水源地域整備事業

による下水道整備に含まれなかったことと関係するようです。 生活系の負荷は合併浄化槽や農業集落排水処理施設などによる排水処理の普及でも低下します。2001

年度の霞ケ浦流域における「生活系排水未処理率」は 20%で、これは児島湖(36%)に次ぐ高さです。

2010 年度の生活系汚水処理普及率は全国平均が 83.7%、茨城県が 73.6%(都道府県別 29 位)です。 このように、霞ケ浦は指定湖沼の中でも生活排水処理が進んでいない湖です。水質改善に費やした経

費を集水域住民ひとりあたりの金額として計算すると、霞ケ浦は指定湖沼の中でも低レベルのようです。

また、霞ケ浦では畜産系と水産系の COD 負荷割合の高さが目立ちます(現在は水産系のフレームが縮

小しています)。

Page 13: §24 霞ケ浦の富栄養化 - 茨城県...クロロフィルa量・SS量(デトリタス量)・COD値が上昇して透明度が低下します。大量の有機物が 分解して溶存酸素を消費するので湖の酸素濃度が低下します。富栄養化の進行で湖の生物量は増加しま

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全窒素負荷源の特徴 全窒素の負荷割合をみると、生活系が 大となる湖が児島湖と手賀沼、農

畜水産系が 大となる湖が霞ケ浦と印旛沼、自然系が 大となる湖が野尻湖・宍道湖・諏訪湖・釜房ダ

ム湖・中海・琵琶湖でした。霞ケ浦では生活系 30%、自然系 26%、事業系 4%に対して農畜水産系は

41%(内訳は農地系 16%・畜産系 19%・水産系 6%)に達しており、霞ケ浦は畜産系の窒素負荷割合が

飛びぬけて高い湖だということができます。 全リン負荷源の特徴 全リンの負荷割合では、生活系が 大の湖が手賀沼・印旛沼・霞ケ浦・琵

琶湖、事業系が 大である湖が中海で、自然系が 大である湖が野尻湖・宍道湖・諏訪湖・児島湖・釜

房ダム湖でした。生活系負荷割合が高い湖では流域の市街化が進んでおり、市街地の負荷割合は印旛沼

13%・手賀沼 9%・琵琶湖 7%・霞ケ浦 6%となっています。霞ケ浦には他に比べて農畜水産系のリン負

荷割合が高いという特徴が認められます。 生活の変化と窒素・リンの負荷

1950 年代までの霞ケ浦集水域は明治時代から続く生活、産業の形態を色濃く残していました。1960年代から社会の近代化が進み湖の富栄養化も進行して、1980 年代に「富栄養化防止条例」が制定され

ます。この間の「生活系発生負荷」の変化を検討した例として、1955 年~1980 年の 25 年間における

西浦の生活系発生負荷を算定した例(深田・前田、1981)を紹介します。

フレームの変化 1955 年~1980 年の 25 年間に西浦流域の人口は 50.6 万人から 62.4万人へと

23%増加しました。宅地面積は 2.2 倍、蓮田面積は 20 倍、果樹園面積は 17 倍となるいっぽう普通畑面

積は 40%減、山林面積は 27%減となりました。土地の高度利用が進んだ時代です。 食生活の変化 1980 年までの 25 年間に茨城県民 1 人あたりのコメ摂取量は 31%、イモ類の摂取

量は 40%減少しました。いっぽうで卵の摂取量は 4 倍、乳製品摂取量は 9.7 倍、魚介類の摂取は 17 倍、

肉類の摂取量は 19 倍に増加しています。結果として食品の総摂取量は 23%増加し、タンパク質の摂取

量は 28%増、脂質の摂取量は 260%増となりました。飽食の時代の幕開け期で、デンプン質中心の食事

から油脂を多量に摂る食事へと移行した時代です。 1970 年代の台所から出る調理クズを調べた論文(浮田ら、1978)をもとに計算すると、食材が調理ク

ズとなる割合は窒素で約 2 割、リンでは 3 割強で、捨てる量は 1955 年から 75 年までの 20 年間に窒素

で 2.3%増、リンで 1.6%増となりました。食生活の変化で調理クズとして捨てる量も増えたのです。 その他の検討も加えて食品由来の発生負荷(g/人/日)を計算したところ、1955 年から 1980 年まで

の 25 年間に窒素で 26%増(9.7gから 12.2gへ)、リンで 20%増(1.22gから 1.47gへ)となりまし

た。食生活の変化は窒素・リンの発生負荷を増やす方向に作用したのです。 石鹸と洗剤 全国出荷額統計について石鹸、洗剤の動向を調べたところ、浴用石鹸の出荷額は 25

年間に 2.2 倍(物価調整済)に伸びていました。清潔を求める「水を使う生活」の普及を反映するもの

でしょう。洗濯石鹸の出荷額が 48%減となるいっぽうで家庭用合成洗剤の出荷額は 4900%の増でした

(洗濯用粉末合成洗剤は 1970 年から統計に現れて、1980 年には家庭用合成洗剤の 6 割程度を占めて

います)。洗濯用粉末合成洗剤の出現が洗濯石鹸を追いやったのです。 洗濯用粉末合成洗剤のリン含量は発売当初に 20~30%でしたが、その後の業界の自主規制等により、

1970 年には 12%、1975 年には 10%程度まで低下しています。西浦流域では 1975 年から粉石鹸、無リ

ン洗剤の使用を奨励する活動が展開され、1980 年頃のアンケート調査では半数の人が無リン洗剤を使

用すると答えています。のちに有リン洗剤の流域内使用が禁止され、現在では市販の家庭用洗剤のほと

んどが無リン化しています。 シャンプーと練り歯磨き 1950 年代のシャンプーや練り歯磨きは贅沢品で、家庭の必需品ではあ

りませんでした。1980 年ころのシャンプーは 0.3%程度、練り歯磨きは 6.4%程度のリンを含んでいま

した(練り歯磨きのリンは水に溶けないとされましたが、燐酸カルシウムなどのリンも長期間のうちに

水に溶け出すという実験結果があります)。1950 年からの 25 年間に練り歯磨の出荷額(物価調整済額)

は 15 倍、シャンプー出荷額は 80 倍となり、節約を旨とする生活から豊かな生活(消費する生活)へ

の移行を物語っています。 生活系の発生負荷 食品由来と洗剤由来の窒素・リンの排出量を算定し、これをもとに 1955 年か

らの 25 年間に起こった生活系発生原単位の変化を検討したところ、窒素では 28%増(9.7 から 12.4g/

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人/日へ)、リンでは 60%増(1.26 から 2.02g/人/日へ)となっていました。生活の近代化で、25 年前

の 3 人分のリンを 2 人で廃棄するようになったのです。 生活系の排出負荷 生活系の発生負荷に生活排水とし尿の処理形態の変化、処理形態に対応する

処理人口の変化などを組み合わせて、西浦流域における生活系排出負荷量(kg/日)の変遷を検討した

ところ、1955 年の窒素排出負荷量は 1216kg/日となりました。これを基準(100)とした以降 5 年ごと

の窒素排出負荷量は 103、128、187、332、394 となって、25 年の間に約 4 倍に増えたという計算に

なりました。1970 年代の窒素排出負荷急増にはし尿処理法の変化(農地還元からし尿処理場処理へ)

が大きく寄与しています。 1955 年のリン排出負荷量は 637kg/日で、これを 100 とした以降 5 年ごとのリン排出負荷量は 107、

132、161、175、159 でした。リン排出負荷量の増加はおもに家庭用合成洗剤の普及によるもので、1980年の低下には洗剤のリン含量の低下と下水道処理の開始が関係しています。

結論として、西浦流域における生活系排出負荷量は 1955 年から 1980 年までの 25 年間に窒素で 4 倍

弱、リンで 2 倍弱と大きく増加しました。この増加は、窒素では食生活の改善とし尿処理場処理の普及、

リンでは洗剤の普及によるものと考えられました。このように、流域における日常生活の変化は霞ケ浦

への負荷を増大させました。霞ケ浦では現在も生活系負荷が大きく、日常生活での配慮が霞ケ浦の水質

保全にとって極めて重要だといえます。

霞ケ浦の富栄養化レベル 霞ケ浦の富栄養化はどの程度のレベルなのでしょうか。カールソン(1977)は富栄養化の程度の指標

として富栄養化状態指標(TSI)を提案し(R.E.Carlson,1977、Limnol. Oceanogr.22,361-9)、相崎

ら(国立公害研報 R-23-‘81,13-31)はこれを我が国に適合するよう修正しています。TSI は透明度、

全リンまたはクロロフィル a の測定値(の自然対数)を用いて富栄養化の程度を判定するもので、ゼロ

から 100 までの目盛になっています。1973~2006 年の西浦掛馬沖と北浦釜谷沖表層のクロロフィル a濃度の年平均について TSI(Chl.)を計算したところ下図のようになりました。図から、西浦の富栄養化

状態指標が 70 前後で、1980 年代以来ほぼ横ばいであることが分かります。北浦は西浦から約 10 年遅

れて西浦とほぼ同レベルに達しています。大槻ら(国立公害研報 R-23-‘81, 3-12、1981)が求めた

1978-80 年時点での各湖の TSI(Chl.)は西浦高浜入 82、諏訪湖 80、涸沼 72、西浦湖心 66、三方湖 61、

湯の湖 59、精進湖 58、中禅寺湖 30、本栖湖 27、十和田湖 15 となっています。

西浦掛馬沖・北浦釜谷沖における TSI(Chl)の変遷 1973年~2006年

相崎ら(1981)が多くの湖沼の観測値を整理した結果によると、TSI(Chl.)70 は全リン 0.11mg/L に

対応し、霞ケ浦の現状によくあてはまるようです。霞ケ浦のリン環境基準である 0.03mgP/L は TSI(Chl.)

55 に対応します。

霞ケ浦の COD 環境基準である COD3mg/L 以下は、TSI(Chl.)52 以下に対応します(相崎ら(1981)

をもとに計算)。この COD レベルに近い湖沼を平成 22 年度平均値(環境省まとめ)から探すと秋元湖

(福島県)3.0、赤城大沼(群馬県)3.2、精進湖(山梨県)2.8、河口湖(山梨県)2.7、女神湖(長野

県)3.1mg/L などと山地の湖沼が列挙されてきて、霞ケ浦を近い将来にこのレベルとするのは至難であ

富栄養化状態指標

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ることが分かります。したがって、霞ケ浦では実現性の高い暫定目標を定めてその達成を目指し、目標

達成の暁には次の目標に向けて努力する、という段階的水質改善の手順が必要となります。

では、当面の目標には何が妥当でしょうか。現在の霞ケ浦における全リン濃度(年平均 0.1mg/L)を

0.08mg/L まで低下させるなら、TSI(Chl.)は 60 台、COD は 5mg/L 台後半になると予想されます。これ

は昭和 40 年代前半の霞ケ浦に近く、茨城県が暫定目標を昭和 40 年代前半レベルに置くのは妥当といえ

ます。この暫定目標の達成には全リン濃度(年平均)を 2 割低下させる必要がありますが、霞ケ浦への

リン流入負荷の半分近くが生活系負荷ですから、生活排水の未処理率をゼロに近づけ、同時に処理効率

を向上させることによって、この暫定目標の達成は可能と思われます。

流入負荷削減と水質改善効果 流入負荷の削減が水質改善をもたらすといっても、リン濃度のちょっとした低下が直ちに COD 年平均

値に反映するとはいえません。湖が生態系としての性質を持つからです。「生態系」とは土地・水・生

物が構成する自然界(の一部を切り取ったもの)の丸ごとを物質とエネルギーの流れの場として見る概

念です(エコシステムという言葉を作ったタンズレイの原義)。湖には水・湖底・生物をめぐる物質と

エネルギーのさまざまな流れがあり、これが湖への入力(外部条件の変化)と湖の出力(変化に対する

湖の応答)との関係を複雑にしています。生態系としての湖には、状況が変化してもこれまでの状態を

できるだけ保とうとする性質がありますが、変化が限度を超えると別の状態に向けて急激にジャンプし

ます。したがって、流入負荷の低減が直ちに水質改善に結びつくとはいえませんが、削減の努力を続け

れば、やがて水質が急激に変化するときがくるでしょう(下図参照)。

水質改善のこれから

霞ケ浦流域では、産業と住民生活が霞ケ浦に大きく依存するにもかかわらず、湖の保全に対する意識

が高いとは言えません。住民に水利用システムの全体像が見えないからです。また、流域に住む人々の

多くは、特別のことがなければ湖を見ることがありません。 大の利水先である農業に水質汚濁の被害

はなく、工水と上水で水質が問題でも社会的問題には発展していませんから、アオコの悪臭を除くと、

霞ケ浦の水質改善が必要であるという実感はなかなか持てないのが現状です。 琵琶湖は「湖国」滋賀県の象徴、宍道湖は湖都松江の表看板で、住民の意識に湖が入り込んでいます。

諏訪湖流域の住民は「御柱組」を中心とする郷土意識に結ばれています。しかし、霞ケ浦の集水域はい

くつかの商圏、文化圏に分かれて共通基盤を持ちにくい構造になっています。琵琶湖・宍道湖・諏訪湖

は重要な観光資源ですが、現在の霞ケ浦では観光や水産といった面も希薄です。このため、一般の住民

にとって霞ケ浦は別世界となりがちです。

1960 年代にはじまる霞ケ浦の変貌は、私たちが豊かな生活、便利な生活を追求した結果であること

に間違いありません。そして、代替水源を持たない霞ケ浦流域では、好むと好まざるとにかかわらず、

霞ケ浦を利用可能な状態に保ちながら次代に継承せざるを得ないのです(海水の淡水化も考えられます

流入負荷の変化に対応する内部負荷の変化 (概念図)

Page 16: §24 霞ケ浦の富栄養化 - 茨城県...クロロフィルa量・SS量(デトリタス量)・COD値が上昇して透明度が低下します。大量の有機物が 分解して溶存酸素を消費するので湖の酸素濃度が低下します。富栄養化の進行で湖の生物量は増加しま

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が、莫大な経費負担を覚悟しなければならないでしょう)。人々が多少の不便をしのび、いささかの経

費を負担することによって、円滑な(安全で経済的な)人間活動を持続させるために、湖を「ほどほど

の状態」に保つ必要があるのです。「泳げる霞ケ浦」という合言葉がありますが、霞ケ浦で泳ぐための

水質浄化ではなく、泳ぎたいという気を起こさせる程度の霞ケ浦を回復して、その恩恵を持続的に享受

しようという意味に解すべきでしょう。 霞ケ浦には湖の形態や降水量、土地利用などの点で、水質改善に不利な条件がいくつかあります。し

かし同時に、霞ケ浦には水質改善を進めやすい点があります。おもな負荷源が生活系や畜産系で、面源

系に比較して制御しやすいものであること(負荷の大部分が山林由来であるような湖では手の打ちよう

がありません)、浅い湖で無酸素層があまり発達せず、湖内の有機物が酸化されやすいこと(深い部分

循環湖が富栄養化したら回復不能でしょう)、滞留時間が 0.5 年と比較的短く、つねに全循環が起こる

湖なので、集水域の変化が比較的短期間のうちに湖の水質に反映される可能性があることなどです。こ

の 30 年間に霞ケ浦の水質が改善されたとはいえませんが、霞ケ浦周辺での生産と消費の著しい増大に

もかかわらず、この程度の水質にとどめることができたのは、水質改善努力に霞ケ浦が応答した結果と

もいえます。これからは人間活動の膨張に歯止めがかかり、水質改善努力の成果を目に見える形でとら

えやすい時代が到来すると思われます。霞ケ浦の水質改善は、少しずつでも息長く進めてゆくことにな

るでしょう。

湖の変貌をもたらした原因には湖の改変、流域の開発、生活の快適化、産業の進展などと並んで水循

環の変化があります。霞ケ浦の集水域は、全国的に見ても極めてまれな、湖の水を上流に運んで利用し

排水を湖に戻すという水の動きを人工的に作り上げた地域です。国の第 3 次環境基本計画(2006 年)

は、重点分野のひとつに「健全な水循環の再構築」を掲げていますが、霞ケ浦の利用についても、エネ

ルギー、産業構造、安全、環境保全を視野にいれた総合的な再検討が求められる時代を迎えていると言

えるでしょう。■

霞ヶ浦水質浄化県民大会 昭和 52 年(1977 年) 土浦市民会館 (広報広聴課資料)