20141119chiesano business archivist
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企業史料協議会 「第16回ビジネスアーキビスト研修講座」
企業アーカイブズでの資料保存と資料管理
独立行政法人国立文化財機構
東京文化財研究所保存修復科学センター
保存科学研究室長 佐野千絵
本日の内容
• 企業アーカイブズの特徴
• 多様な材料とその性質
• 環境由来のリスクとその対応
– 防災
– 温湿度
– 空気汚染 塵埃、化学物質
– カビ対策
• フィルムの保管
資料「保存」-何を残し何を伝えるのか
• 形態の保存
• 鑑賞価値の保存
/色・使用痕・環境履歴
• 製作技術
• 情報
事例:歴史資料
染織品?歴史資料?
• 染織品
シミがあると劣化を促進
→クリーニング
• 歴史資料
→脱酸素、乾燥
何の変哲もないシミのついた枕だけど・・・・リンカーンが暗殺された夜に、亡くなるまで使用されていたもの 材料・・セルロース→鉄による酸化劣化、酸加水分解を抑制
寿命の長さの一般則
一点モノの美術品
>中央政権の歴史史料
>歴史資料
地方文書・公文書・アーカイブ・マイクロフィルム
>民俗資料
現代美術・画像/映像
>薄利多売の工業製品・生活資材
>一時的な資料・インスタレーション
均質性が重要
企業アーカイブズの特徴
• 材料種類の多様さ
• 不定型のサイズ
• 商業ベースの材料
• 保存専門家の不在
• 不確定な活用方法
• 未定な価値づけ
• 何年の寿命を期待?
ひとくくりでは取り扱えない
• 材料について知る
• 製造技術について知る
• 環境の、資料に与える影響について知る
• 取り扱いの、資料に与える影響について知る
• 総体での保存を図る
Preventive Conservation
資料保存の考え方の変化
修理してもオリジナルには戻らない
劣化→資産の減少
処置中心
被害が生じた後の対策
予防中心
被害を未然に防ぐ対策
Preventive Conservation
文化財の価値の喪失
コスト
価値
価値
環境整備
修理経費
資料保存の基本
資料を正しく理解する(材料・技術・構造)
→ 劣化を予測する
→ 適した環境制御の選択
<材料の多様性・予見の困難さ>
紙(和紙・洋紙)
革
デジタル素材
その他の例 絹
紙の作り方 良質の和紙の場合
楮、ミツマタ、ガンピの靱性繊維を取り出す
トロロアオイ、ノリウツギなどの「ねり」を加えて、水中で分散させる
漉きあげる
洋紙
昔は古着などを切断して使用
現在は木材チップを切断、ある
いは化学薬剤で溶解・
抽出し切断(繊維が短い)
アルカリで煮る
叩く
塵取り
繊維を取り出す
皮革ー皮から革へ
• 脂を除き、タンパク質(主にコラーゲン繊維)を変性させる「なめし」工程を加えたもの
• 柔軟性を持たせるために合成脂を加える
• 窒素源として虫・カビに食べられやすい
• 脂が抜けて粉化しやすい
• 本の背側の吸放湿性能が弱く、
高湿度下では埃にカビが生える CH-COOH
NH
アミノ酸
Pro(プロリン) 光に弱い化学構造
タンパク質 → アミノ酸
アミノ酸 はペプチド結合を持つ
絹の劣化
加水分解
C N O H
日本画用絵絹はセリシン質を残した状態
染織品は、セリシン層を除いた状態に精錬されている
窒素源の有無は、生物の生育に影響する
例)ヒメカツオブシムシは動物食なしに生育完了しない
資料の寿命
• 化学反応は、特定の温度で、材料の濃度にのみ依存して進行する
• 強度等は指数関数的に減衰
経過時間
強度・色などの指標
<修理>
他の要因による劣化促進・・ 温度湿度変動大/汚染物質/ 光による損傷/生物被害
劣化速度は 10℃上昇で2.3倍に
・低温
・低湿度
常温
資料保存の基本
<温度と湿度の制御> 湿度優先制御 変動は緩やかに <光の制御> 紫外線除去、赤外線除去 可視光線 照度制御 <空気汚染> 清浄な空間 <生物被害防止> IPM (Integrated Pest Management)
総合的有害生物(害虫)管理
活用のための空間づくり
「活用なくして保存なし」
• 資料の価値付け・・・保存コストに反映
資料の資産価値 保存コスト 上限は同等
実際には保存経費が多額の場合が多い
(保存コスト=環境保全コスト+修理コスト)
リスクアセスメント(危険性の解析・評価、低減策の検討)
ハザードの特定
影響の量依存性評価
曝露評価
リスクの判定
ハザードアナリシス(危険源分析)
リスクマネージメント(許容水準以下に適切に管理)
リスクコミュニケーション(関係者への内容の周知、理解)
資料の損傷要因
• 防災(火災・水害・地震による倒壊)
• 防犯(盗難・ヴァンダリズム)
• 取り扱い(輸送・梱包)
• 温度・湿度変動の抑制
• 照明の制御
• 空気環境の保全(粉塵・化学物質汚染)
• 生物被害の防止
ハザードの大きさxリスクの発生頻度=危険度
保存管理上のリスク評価 総合評価の一例
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1防災
防犯
取り扱い
温度湿度照明
空気環境
生物被害防止 展示室
収蔵庫
移動レーダーの形を整った形に変えていくよう計画する
長期保存のための空間ーゾーニング
• 熱/光/大気汚染/害虫は外部から波及
• 区画を分けて防衛
• 保管区画は外周より内部に
入り口・受付等
活用区画 日常の見回り
収蔵区画 管理の徹底
緩衝地帯
危険地帯
管理区画
防災と危機管理
<要因による分類>
• 地震 物理的破壊・水損・火災
• 火災 焼失・水損・煙害・熱
• 水害・漏水 汚染・微生物被害
• 大風・竜巻
• その他の要因 危険物施設など
• 防犯・ヴァンダリズム
自然災害と人的災害
文化財に被害をもたらす水損
• 火災時 消火による水損
• 地震時 水消火設備の破損
• 地震時 津波の襲来
被災文化財救済の初期対応の選択肢を広げる - 生物劣化を極力抑え、かつ後の修復に備えるために - 被災文化財レスキュー事業情報共有研究会http://www.tobunken.go.jp/~hozon/rescue/rescue20110510.html 平成23年5月10日 東京文化財研究所
• 豪雨 漏水・河川氾濫等中~広域水害
• 短時間降雨の増大 都市型水害の増加
• 内水氾濫
気象情報を活用しよう
• 気象庁
• 環境省 黄砂、CO2情報は詳しい
• 気象協会 天気予報はこちら
• 地域情報は
区役所・市役所HP
「暮らし・・」→「防災」→「ハザードマップ」
防災情報のメール配信サービスなどもある
実際にどのくらい降っているのか
• 降水量の多い地点と少ない地点がある
→降水に対する備えが歴史的に異なるので同じ対策ではだめ
ハザードマップの利用
水害 京都東山区版の一部
京都国立博物館
土石流 過去に浸水した区域
地震 京都市東山区の一部 京都国立博物館
温湿度の制御と管理
• 形態の変化の抑制
• 物質の移動の抑制
• カビ繁殖の抑止
• 結露させない
• 湿度変化をさせない
東京と奈良のクリモグラフ
変温恒湿
基本的な施設要件ー安全な建物
• 浸水しない立地
• 地震で崩れない建物
• 漏水のない建物
• 十分な断熱性能がある屋根・壁
• 資料を安全に取り扱える十分なスペースがある
• やや爽やかで快適な温度湿度環境
• 温度湿度の変化はゆるやか
• ゆるやかな気流
• 深呼吸できる清浄な空気
• 見やすい照明
• 害虫に侵入されにくい開口部 箱
部屋
雨漏りしない屋根
亀裂のない壁
温度と劣化
• できるだけ低い温度の方がよいが展示も考慮
低い温度 高い温度 高い温度
材質の劣化=化学反応 温度が高いほど速く進行
劣化速度と温湿度の関係
湿度
劣化速度
0
2
4
6
8
10
0 5 10 15 20 25 30 35 40
材質劣化速度
Temperature (C)
材質に応じた湿度の条件
◇高湿度◇
100% 出土遺物(保存処置前のもの) 防黴処置が必要
◇中湿度◇
55-65% 紙・木・染織品・漆
50-65% 象牙・皮・羊皮紙・自然史関係の資料
50-55% 油絵
45-55% 化石
◇低湿度◇
45%以下 金属・石・陶磁器 塩分を含んだ物は先に脱塩処置が必要
17~40% 写真フィルム
0
1
2
3
0 5 10 15 20 25
衝撃強さ(kgcm)
衝撃強さ(kgcm)
吸湿率(%)
紙の強さと湿度の関係
未さらしクラフト紙の吸湿率と衝撃強さ
(吉野)
『材料と水分ハンドブック:吸湿・防湿・調湿・乾燥』、高分子学会高分子と吸湿委員会、共立出版、729(1968)
紙の強さと湿度の関係
0
20
40
60
80
100
0 100 200 300 400 500
0%
81%
耐折強さ
時間(h)
耐折強さに及ぼす湿度の影響
(ボンド紙、80℃にて老化)
尾関昌幸、大江礼三郎、三浦定俊:紙の劣化速度に関する検討、紙パルプ技術協会誌、36、233-242、(1985)
資料周辺の温湿度環境
• 保管庫へ向かうに従って変化の少ない環境
• 急激な変化を避ける
外気
閲覧室
保管庫
他館
慣らし
0-30℃
30-90%
10-25℃
50-70%
15-25℃
55-65%
5-30℃
60-90%
収納箱に資料をしまう
上蓋のみ
ちょっと壊れかけ
収納箱の効果
収納箱のテスト
0
10
20
30
40
50
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70
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3:0
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0 午
後
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1:0
0:0
0 午
前
日付
温度
℃あ
るい
は相
対湿
度%
RH
room Temp, °C room RH, % Large Temp, °C Large RH, % small Temp, °C small RH, %
環境保全コストの見直し
・すべての温度湿度変化は緩やかであるべきである
・温度変動は相対湿度変動よりも資料に与える影響は小さい
・±5%RH内の相対湿度変動では、資料に形態変化を起こすような状態は生じない
・±10%RHの相対湿度変動は、相対湿度変動に繊細な資料に被害を生じるおそれがある
・季節変化に伴って環境条件の設定値を変化させるべきである(恒温恒湿制御から変温恒湿制御へ)
・必要があれば気密性の高いケース・収納などを採用すべきである
さまざまな温度湿度測定機器
3ヶ月ごとの校正が必要
2~3年に一度は校正を
温湿度の監視は必須
温度・湿度の測定(2)
• センサーに風の当たらない場所で
• 床から70cm~120cmの高さに
室内の温度むらをなくす→湿度むらがなくなる
• 温度測定
室内、壁・床・天井
0.5℃以内なら問題なし
• 風速・風向
測定器の場所は適切?
吹き出し口と
展示位置の関係は?
扉は夜間閉めてる?
湿気だまりの解消(1)
• 入り隅
• 低位置
壁 下から 30cmに 湿気は たまる
きれいな空気 除湿空気
吹き出し口の 側が一番汚い
きれいな空気 除湿空気
立面図 平面図
湿気だまりの解消(3)
• 扇風機の利用 (温度差の解消)
• 棚等の配置を変える(資料をまもる)
空気汚染
塵埃と化学物質
主要な粉塵の粒子径
• 2μmを境に挙動が異なる
1mm 1μm=1/1000mm 1nm=1/1000μm
顕微鏡で見える 肉眼で見える 電子顕微鏡で見える
花 粉
細 菌 ウィルス
カ ビ たばこの煙
エアワッシャー
エアフィルター HEPAフィルター
電 気 集 塵
空中を浮遊 床に沈降
黄砂粒子 粘土鉱物
粒径は0.05~10μmに分布
日本まで到達する黄砂の粒径の分布は、直径4μm付近を中心に分布
環境省HP
黄砂_資料管理上の問題
気象庁HPより
PM2.5 とは
• 粒径が2.5マイクロメートル以下大気中の微小粒子状物質、約90%は粒径1μm以下
• 環境基準(2009年)
• 一年平均値に係わる基準値 15μg/m3
• 一日平均値に係わる基準値 35μg/m3
• 健康影響や文化財影響は未解明
• 国内発生源はディーゼル車
2011年度の連続測定結果に基づく全国的なPM2.5汚染の状況解析、板野ほか、大気環境学会誌、48(3)、154-160(2013)
黄砂、PM2.5の由来
黄砂の由来
• 中国大陸から偏西風に乗って飛来
• 経由地の大気汚染を吸着
• 中性能フィルターで捕集可能
• PM2.5の由来
• 西日本では5割が中
国からの寄与、東日本では自国内での発生
• 経由地の大気汚染を吸着
• 高性能フィルターでも捕集は困難(集塵機では捕捉可能)
化学物質の影響 - 屋外由来の汚染
化学物質 発生源 影響を受ける材質
硫黄酸化物 工場・火山 金属腐食
窒素酸化物 車 金属腐食、紙・染織品脆化
硫化水素 火山 金属腐食、特に銀の黒化
オゾン 太陽光 有機物脆化
塩化物 海 腐食促進、特にブロンズ病
微小カーボン 車 汚損
日本では、上記の化合物に関して、文化財保存のための目安となる数値は定まっていない(わずかな量でも影響があり、清浄化達成が難しいため)
窒素酸化物の影響
• 高濃度に短時間暴露するよりも低濃度に長時間暴露する方が変色が大きい
• 環境大気に曝露すると20ppm・hrで変退色に気づく(ΔE>5)*
• 湿度が高いほど変色が速い
• SO2と混合すると変色がより速い
• 光の影響も変色を速くする方向に働く
斉藤昌子・後藤純子・柏木希介:植物色素染織布の変退色に及ぼすNO2ガス濃度の影響、古文化財の科学、38、1-9(1993)
NO2に対する最低毒性発現量Lowest Observed
Adverse Effect Dose : LOAED) LOAED
染料 もっとも影響を受けやすい染料4種(クルクミン・ルチン・ヘマトキシリン・クエルセチン)
1μg/m3・yr
顔料 鉄インク 40μg/m3・yr 石黄 40μg/m3・yr
鉱物 鶏冠石 20μg/m3・yr
フィルム染料 黄色 20μg/m3・yr
金属 銅 30μg/m3・yr
紙 化学パルプを原料とした紙 5μg/m3・yr Jean Tetreault“Airborne Pollutants in Museums, Galleries, and Archives: Risk
Assessment, Control Strategies, and Preservation Management,”Canadian
Conservation Institute, 2003 のAppendix 2. Danage to Various Materials Due to
Airborne Pollutants in Indoor Environment より抜粋
JIS L 0855:2005 窒素酸化物に対する
染色堅ろう度試験方法
アントラキノン系染料の例
C.I.DISPERSE BLUE 56
2つある-NH2基がNOxの攻撃を受ける
青味が赤味に変わる変色事故
元の色に戻すことは不可能
新潟県工業技術研究所 HPより抜粋
染料が異なるDispweaw blue 3
(CI61505)については、綿布・絹布上での最低毒性発現量 LOAEDは4μg/m3・yr との報告がある。
例えば、1時間の1日平均値が50ppb
(96 μg/m3)の場合は、2.5分で変色が始まる
ガスファンヒータ暖房の室内NOx濃度は50ppb超になることも・・・
大気汚染に関わる環境基準(環境省)
1時間値の1日平均値が40~60ppbまでのゾーン内又はそれ以下であること。(53. 7.11告示)
化学物質の影響 - 室内汚染
化学物質 発生源 影響を受ける材質
アンモニア コンクリート・水性ペイント 油絵の褐変、
緑青の青変
ギ酸・酢酸 ベニヤ・木材・接着剤 金属腐食、鉛丹変色
アルデヒド類 ベニヤ・メラミン 膠の硬化
オゾン 電気器具 有機物脆化
炭酸ガス 観客 高湿度下で鉛丹変色
含硫黄化合物 ゴムカーペット 銀の変色
アンモニアの事例_油絵の褐変
参照試料 新築コンクリート造建物に2週間設置
ギ酸・酢酸による被害事例
_引き出しの中の勲章
文化財への影響-加速試験の事例
• 想定される汚染ガスに曝露
・・・日本画には酢酸の影響 大
上段:ホルムアルデヒド 下段:酢酸
コントロール
鉛丹が黒色に
鉛丹が白色に
気中濃度の目安
• アンモニア 推奨 30ppb以下
• 酢酸 推奨 170ppb以下
• 蟻酸 推奨 10ppb以下
• ホルムアルデヒド(人の健康影響) 80ppb以下
*部屋の中央は、壁際と気中濃度が異なるので数値の取り扱いには注意が必要*
<基準値・指針値はない>
文化財への影響-反応の進み方
• 高濃度
• 長時間
• 接触面積 大
• 資料の含水率 高
<化学平衡に基づいて反応が進行>
反応速度大
空間の相対湿度 高
<化学物質の濃縮>
→ エアタイトケースの功罪
監視(Detect)-適切な方法で-
• 嗅覚
• 定性的判断
変色試験紙 (「環境モニター」 @文虫研)
• 半定量 北川式ガス検知管
パッシブインジケータ®
• 定量分析 大気中濃度の精密測定
• 影響評価 アマニ油試験紙、金属板
高価・専門的
資料のカビ被害防止
• カビが利用できる栄養源を減らす
– ほこりの除去、カビの死骸のクリーニング
1. 定期的な吸引清掃
2. 清拭
3. 塵埃の堆積防止
4. 清浄な空気の供給
5. 塵埃持ち込みの低減
• カビが利用できる水を減らす
1. 除湿
2. 送風
カビ発見後の対応
①カビ発生資料の隔離
②カビ発生資料周辺の点検
③カビ被害の状況(規模)の把握
④カビ発生原因の解明
⑤環境整備
⑥カビ発生資料の処理
⑦用具の廃棄
エスカルガゼット
(これは冊子用)
RP用酸素
インジケーター
シールするには、
重なり部分をしっかりと
脱酸素処理薬剤
RP(三菱ガス化学)
低酸素濃度処理 -小規模
• 繰り返し使用は2~3回程度
• そのまま引き出し・棚に収納
• 空気を抜かない
<被害があれば即処置、
被害がないのに処置するのは無駄>
• 活動中のカビである(臭気がある)
• 大面積でカビ発生
化学薬剤に頼らない処置を検討
化学薬剤による処置を検討
(公財)文化財虫菌害研究所の認定を受けた方法で行う
処置後はカビ死骸除去のためにクリーニングが必要
顕著な被害状況ではない
/進行中ではない カビ被害への処置
1 カビを不活性にする(乾燥) 2 物理的に除去する 専門家に相談 保護具を使う マスク、手袋、作業着
空気清浄機、ミュージアムクリーナーなどを用いて、空気の流れのあるところでカビを筆などではらう
カビ処置の際の注意
• アレルギー 殺菌しても反応
• 病原性 日和見感染に注意
綿のマスクで良い
(分厚いもの)
作業着を着用
(頻繁に洗濯)
作業区画の確保
• スタッフが普通に出入りする場所や,ほかの文化財が保管されている場所をカビで汚染したりしないよう,作業用のスペースを確保する。
用具等の処理
• 作業中に使用したマスクや手袋など繰り返し使用するものは、洗濯したのち十分に日光にあてて殺菌消毒する。
• 拭き取りに用いた布等は、拭き取り除去したカビ等によりその他の環境を汚染しないように、厚手のポリエチレン袋を二重にした袋に入れ、しっかり口を絞め、すみやかに焼却処分の手配をする。
• 滅菌のためのオートクレーブ処理ができる事業所等に処理を依頼するのが最善。
カビの処置
• 滅菌できる方法はガス燻蒸のみ
• 貴重書は、ガス燻蒸するか、カビの活性が落ちるまで相対湿度60%RH以下で保管(2
~3年)
• 殺菌消毒後にはクリーニングが必要
• 取り換えられるものは紫外線殺菌も
ブッククリーナー 紫外線殺菌消毒器
Waller, R. and T.J.K. Strang. 1996. Physical chemical properties of preservative
solutions-I. Ethanol-water solutions. Collection Forum, 12(2), pp.70-85.
カビ被害防止対策
回避
遮断
監視
対処
見直し
利用できる水分量の抑制→空調、室間の差圧調整
塵埃の低減、浮遊粉塵除去→フィルター利用
検出方法の普及→LED点光源の利用
ガス燻蒸利用時の基準、保護具と廃棄
汚染拡大防止
保管環境を見直さないと被害は再発します
文化財のカビ被害防止チャート
• 東京文化財研究所ホームページにて公開中(ダウンロード可)
http://www.tobunken.go.jp/~ccr/pub/antikabic
hart.jpg
フィルムの保管 ― 低温・低湿
<中期保存の温湿度条件> JIS K7641:2008
・温度 平均温度21℃以下、25℃を超えないことが望ましい
短期間であっても32℃を超えないこと。
・相対湿度 平均値50%、最高相対湿度は60%を超えないこと。
・任意の24時間内の相対湿度の変動幅は±5℃
・任意の24時間内の相対湿度の変動幅は±10%RH
札幌 仙台 東京 新潟 京都 広島 高知 福岡 那覇
年平均 8.9
69
12.4
71
16.3
62
13.9
71
15.9
66
16.3
68
17.0
68
17.0
68
23.1
74
各地の平年値(1981~2010年の平均値) 上段:温度 ℃ 下段:相対湿度 %RH
表 1−長期保存条件として許容される最高温度及び平均相対湿度範囲 JIS K7641:2008
写真画像 フィルムベース 最高温度℃
相対湿度範囲%RH
黒白/銀・ゼラチン
(ISO18901参照)
セルロースエステル
2 20-50
5 20-40
7 20-30
黒白/銀・ゼラチン
(ISO18901参照) ポリエステル 21 20-50
熱現像銀(ISO 18919 参照) ポリエステル 21 20-50 ベシキュラ(ISO 18912 参照) ポリエステル 21 20-50 銀色素漂白方式 ポリエステル 21 20-50
カラー(発色現像方式) セルロースエステル
又はポリエステル -10
20-50 20-40
ジアゾ方式(ISO 18905 参照) セルロースエステル
又はポリエステル -3
2 20-30
・任意の24時間内の相対湿度の変動幅は±2℃
・任意の24時間内の相対湿度の変動幅は±5%RH
所蔵量が少ない時ー専用保管庫で
• 保管に有利な場所を選定する
• もっとも低温・低湿になる場所を探す
• その場所を使えないなら、専用の保管庫の利用もあり
所蔵量の多い時ー部屋の中に1室設ける
マイクロ庫
除湿器 エアコン
収蔵にあたって・・低温・低湿・清浄
新築時のコンクリートからのアルカリ性粉塵に注意!
アルカリリザーブは怖い
酸性ガスにも注意が必要!
自己分解で発生する酢酸ガスも除去する
不衛生なところはアンモニアが多くて分解が進む
CD,DVD等はビネガーシンドローム
のある状況では一緒に保管しない
*ネット上で読めます。大変良い資料です。必見。
「手をかけ、目をかけ」
資料を大事に思う心が資料をまもる