20130426 慶応大学での講義

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証券市場におけるICTの活用について 日本取引所グループ 東京証券取引所 山藤 敦史 ・ 早川
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Page 1: 20130426 慶応大学での講義

証券市場におけるICTの活用について

日本取引所グループ

東京証券取引所 山藤 敦史 ・ 早川 聡

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自己紹介(山藤)

• 1995年 神戸大学 経済学部卒業

• 1995年 東京証券取引所入社

デリバティブ市場の売買監理・企画

売買審査(不公正取引の審査)

営業(デリバティブ・株式)

• 1997年-1999年 一橋大学企業戦略研究科(MBA in finance取得)

• バックグラウンドは文系

• 業務で必要だったため、ファイナンス(金融工学)を学ぶ

• 海外製の取引システム導入に携わった経験や、海外の顧客対応の経験から技術的な要件のトレンドに触れる

• 現職は日本株営業担当

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Page 3: 20130426 慶応大学での講義

自己紹介(早川)

• 2001- 学生時代 – 筑波大学・同大学院にて、システム・情報工学を専攻

– 授業よりロボコン(ラジコンじゃない方)

• 2007- 東証入社後 – 売買システム「arrowhead」の開発チームにて、マッチングエンジンや、テスト

の企画等を取引所側から担当(3年間)

– 2010より現職:デリバティブの制度・企画を担当(3年間)

– 本年2月より大阪証券取引所でも同様の部門を兼務

– この4月から入社7年目、東証・大証のシステム統合に制度側から参画

• その他 – 妻と娘(ちょうど0歳3カ月)

– 海釣り(会社に釣り部があります)、夏山登山(日帰り)、マイコンいじり

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Page 4: 20130426 慶応大学での講義

目次

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証券市場とその役割

取引所について

取引所×ICT

金融工学的アプローチ

企業におけるシステム開発

Page 5: 20130426 慶応大学での講義

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証券市場とその役割

取引所について

証券所×ICT

金融工学的アプローチ

企業におけるシステム開発

Page 6: 20130426 慶応大学での講義

証券って何だろう?

• 証券の売買 – 商店街で夕食の材料に野菜を買う

– 証券会社で老後の備えにA社株を買う

• そもそもA社株はどこから来たのか? – A社は車の新しい工場を建てるために、新株を発行して資金調達を行う。

– 思った以上に車が売れたので、配当を出す

– 銀行借入じゃないので、返さなくてよい。利子も払わなくてよい。

• 投資家はA社株で何を得るのか? – 値上がり後の売却で差益 ・・・ 紙切れになる可能性もある

– 配当による収入 ・・・ 全く配当が出ないケースもある

– 株主として意見を言う ・・・ 経営に参画する(トヨタを応援する)

⇒ リスクを取ってリターンを得る + 社会の発展に寄与する

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違いは??

Page 7: 20130426 慶応大学での講義

証券市場入門

• 発行市場

– 企業が投資家から資金調達を行う市場。投資家は出資の証明としての証券を持ち続けても良いし、流通市場で換金しても良い。

• 流通市場

– 証券を売買する市場。いつでも流通市場で換金できる事が、発行市場でのリスク引受能力を支える。

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証券会社

ディーリング

ブローカレッジ

証券流通市場 売り 買い 値段

1001円 1000円 999円

1500株 800株

1300株

証券発行市場

機関投資家

年金基金 生保・損保 投信・投資顧問 ヘッジファンド 銀行

証券会社 引受

資金

証券

資金

証券

証券 資金

資金 運用益等 資金 運用益等

自己売買業者

証券の売買

個人

企業

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証券市場の意義・役割

• 富の移転機能 – 「技術はあるけどお金はない」・「お金はあるけど技術はない」

→お金と技術を交換すればいいんじゃない?

– パトロン方式…お金持ちが出資。損得より人間関係?出資判断は不合理。

– 銀行…ビジネスライクに。出資判断は合理的。

– 証券市場…資金の出し手を不特定多数に。出資の民主化。

• リスクの移転機能 – 「今の価格は過大評価。リスクヘッジしたい。」・「今の価格は過小評価。リスクを取り

たい」 – 日々の証券取引は、リスク見積もりの評価の差を交換 – 「誰もそんな高尚な理由では取引していない」。利己的な行為の産物として社会全体

のリスク見積もりが生み出される不思議

• 電化製品や食料品の取引との違い……実物が存在しない。ではソフトウェアは?サービス業は?

• 社会は取引で成り立っている……就職活動も能力の移転。

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Page 9: 20130426 慶応大学での講義

商品の多様化

• 金融商品は、特定のリスクを取り出して、再構築(リパッケージ)したもので、再構

築の仕組みの違いにより、証券・先物・オプション・スワップ等が産み出されてきた。

• 証券市場は、これらの金融商品を取引して、リスクをヘッジしたい人からリスクを引き受けられる人に移転する役割を果たしている。

• 金融商品の売買情報はリスク評価の情報として活用されている。

• なお、保険もリスクを再構築し証券に記載したものだが、契約者個人のリスクであるため、再売買市場が馴染みにくい(再保険によるリスク移転はあり)

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企業業績の変動

リスクの種類

金利の変動

株式

債券

不動産賃料の変動 REIT

倒産 CDS

契約者の長生き 生命保険

金価格の変動 金先物

契約者の交通事故 損害保険

証券 先物 オプション スワップ

株価 株式先物 株式OP エクイティスワップ

金OP

リパッケージの方法

ETF

金利先物 金利OP 金利スワップ

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証券市場とその役割

取引所について

取引所×ICT

金融工学的アプローチ

企業におけるシステム開発

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取引所ってどんなところ?

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東京証券取引所

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取引所ってどんなところ?

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日本取引所(東京証券取引所)

Page 13: 20130426 慶応大学での講義

取引所ってどんなところ?

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日本取引所(東京証券取引所)

Page 14: 20130426 慶応大学での講義

取引所の仕事

• 取引所の役割・仕事 – 取引所(証券を売買をする場)の運営

• 商品ラインナップの拡充 (個別株式や金融派生商品などの上場)

• 手順やルールの整備 (使いやすい環境、統一ルールの構築)

• 取引インフラの構築 (安定した取引システムの提供)

• 不正の監視、質の確保 (安心して取引を行うことができる市場の維持)

– 取引に係るサービスの提供

• 価格情報・データ、その他各種サービスの提供

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Page 15: 20130426 慶応大学での講義

どうやって売買しているの?

• オークションと言うと・・・

⇒ ちょっと違います。

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出典: ①「競売」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/) ②「バナナの叩き売り」『北九州市ホームページ』(http://www.city.kitakyushu.lg.jp/) 2013年4月4日16時(日本時間)現在での最新版を取得。

②バナナの叩き売り ①築地の魚市場

③インターネットオークション Yahoo!オークション、ebay、・・・

Page 16: 20130426 慶応大学での講義

どうやって売買しているの?

• 「板」と呼ばれる、注文控えによって、買い手・売り手双方が同時に価格を提示する連続ダブルオークション(ザラバ)方式

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106

105

20

30

104

103

50

80

102 120

20

100

99

90

60

98

97 200

40

300

250

120

110

210

280

200

20

170

410

1,250 40,350 OVER

成行

売数量 売累計 買数量 値段 買累計

2,590 68,520 UNDER

101

Page 17: 20130426 慶応大学での講義

現代の証券取引

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証券会社の コンピュータ

投資家が利用する 取引アプリケーション

取引所が運用する マッチングエンジン

出典: ①「株touch:特徴」『松井証券』(http://www.matsui.co.jp/) 2013年4月4日16時(日本時間)現在での最新版を取得。

Page 18: 20130426 慶応大学での講義

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証券市場とその役割

取引所について

取引所×ICT

金融工学的アプローチ

企業におけるシステム開発

Page 19: 20130426 慶応大学での講義

証券取引市場を取り巻く環境変化

• 2000年代に大きな進展を遂げた証券取引の電子化

• 情報取得、注文執行と、処理の自動化が進み、ついに投資判断の領域まで自動化

• 投資サイクルがミリセカンド(1秒の千分の1)レベルの投資家層が台頭(HFT: High Frequency Trading・・・裁定取引やマーケットメイクを行う投資家)

• 必要な情報、ITインフラへの要求水準も変容

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投資判断

注文執行

情報取得

株価 ニュース

企業情報 政治経済動

買う?売る? 何円で? 何株? いつ?

市場に注文発注

必ずしも望む価格で成立するとは限らない

1日~数ヶ月 ↓ 数ミリ秒~秒

Page 20: 20130426 慶応大学での講義

高速化のカギ

• 従来から高速売買志向のディーラー/トレーダーは一定割合で存在していたが、物理的な人間の反応速度や、発注端末を叩く速度を超える事は出来なかった。

• 処理の一部を取引アプリケーションに移す事により、高速化が進展。

• 高速売買戦略の中での人間の役割は、取引戦略のアプリへの落とし込み、戦略生成に重要なパラメータの日々の調整、リスク管理へと変化

• 高速化のポイントは、①取引アプリケーションの高速化、②ネットワークレイテンシーの高速化、③取引所マッチングエンジンの高速化

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注文発注

約定通知・相場情報

注文の板登録 付合せ処理 通知作成 相場情報作成 相場情報取得・解析

取引戦略生成 発注処理 ポジション管理

板の状況を目視 投資判断 端末から発注 ポジション管理

注文発注

約定通知・相場情報

アルゴリズムの開発 パラメータの調整 リスク管理

① ② ③

Page 21: 20130426 慶応大学での講義

投資スタイルと投資情報の関係

• 長期投資家は企業業績や政治経済の動向を分析しながら投資。投資期間が短期になるに従い、株価の推移・売買高・売買注文状況等のミクロ情報が重要となる。

• また投資期間が短期になるに従い、データの更新頻度は短くなり、処理すべきデータ量は増加する。

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板情報 売り 買い 値段

1002円 1001円 1000円 999円 998円

1500株 800株

1000株 1300株

500株

成行

株価 長期投資家 (主に機関投資家と個人の一部)

短期投資家 (主にディーラーと個人の一部)

超短期投資家 (裁定業者/HFT/マーケットメイカー等)

政治経済

企業業績

株価

市場統計

板情報

○ ○ ○

△ △ ○

○ ○

※ ※ ○ ○

マクロ ⇔ ミクロ

少 少 中 多 激

データの性質 更新頻度

データ量

月 月 日 分 ms

※ニュースに反応するNews Algoが出現。Thomson ReutersはMachine readableなフォーマットでニュースを流すサービスを開始

Page 22: 20130426 慶応大学での講義

取引市場の多様化

• どうしたら証券市場の株価が適正な評価に近づくか? – 全ての投資家の注文を1つの取引場所で競争売買させる(市場集中義務) 。

– 市場独占の弊害を解決するため、複数の取引所を設立する。ただし、全ての投資家注文が競争売買されるよう、最良市場に注文回送される(競争と最良執行の両立を目指す) 。

– 注文回送や複数市場情報の比較にIT技術・インフラの進展は大きく貢献。しかし、同時にトラフィックの増大を生む。

– 米国では40以上の市場が乱立するなど弊害が指摘され始めている(市場分断)。

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A株式会社の注文@X取引所

売り 買い 値段

1002円 1001円 1000円 999円 998円

1500株 800株

1300株

500株

成行

A株式会社の注文@Y取引所

売り 買い 値段

1002円 1001円 1000円 999円 998円

900株

400株

300株

成行

500株

X+Y

売り 買い 値段

1002円 1001円 1000円 999円 998円

2100株

1700株

800株

成行

500株 800株

X取引所とY取引所は、投資家注文を獲得するため競争 注文回送が投資家の注文の

最良執行を確保

Page 23: 20130426 慶応大学での講義

増え続けるトラフィック

• 日本株式市場:注文件数2000万件/日が視野に。

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0

5

10

15

20

25

百万件

2010 2011 2012

東京証券取引所 株式市場の総注文件数の推移

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実はICTの先端

• 電子取引のスピード – 取引は電子化・自動化され、コンピュータ上で行われる

• 1件の取引注文を処理するのに要する時間は百マイクロ秒~数ミリ秒

• マシンガンの打ち合い・・・よりも速い。(分間1,000発 vs 秒間1,000件)

• Twitter 33,388 TPS・・・よりも桁違いに多い 6.65*10^6 MPS(全米気配情報)

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出典: 「Celebrating 2013 in the global town square」 『Twitter Blog』(http://blog.twitter.com/ ) 2013年4月4日16時(日本時間)現在での最新版を取得。

Page 25: 20130426 慶応大学での講義

実はICTの先端

• Twitterの秒間ピークの流量(メタデータ・ペイロード含まず) – 1 Tweet = 140 UTF Characters = 280 Bytes

– 33,388 TPS = 280 x 33,388 x 8 ≒ 75 Mbps

• JPXの相場報道システム(FLEX Full)の流量制御値 – 1マルチキャストグループ(MCG)あたり、平均 17,432 Bytes/50msec

– JPXの現物株式のみで31MCG

– 31 x 17,432 / 50 x 1000 x 8≒ 86.5 Mbps

・・・ 日本の株式市場は毎日が“あけおめ状態”

さらに、米国オプション市場では、市場情報が2013年央に1200万件/秒、

必要帯域3Gbps、1日264億件に到達と予想。 (OPRA:Options Price Reporting Authority 2012年1月公表)

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Page 26: 20130426 慶応大学での講義

実はICTの最先端

• Time is Money

– コンピュータ間の通信に要する時間を徹底的にそぎ落とす競争

• arrowhead構築のためにミドルウェアを新規開発

• ICTの研究室を持つ取引所・・・ベンダーに依存せず最先端ハードを使う

• データベースもメモリ上に配置・・・arrowheadではメインメモリが10.6TB(稼働時)

• 金融では信頼性が命なのに、TCPではなくUDP

• 時刻同期の精度向上のために・・・GPSアンテナをデータセンターに立てる

– NTP(Network Time Protocol)からPTP(Precision Time Protocol)へ

• ソフトウェア処理からハード処理へ・・・FPGAの活用(CPUオフロード)

• 光ファイバーよりも速く・・・直線距離で通信できる無線を利用(電波塔建設)

• Race to zero

– 各社の取引システムはトップシークレット

• データセンター内でもサーバ・ルーター等のメーカー・機種が分らないように、 幕を張って隠している。

• 取引所システムと各社のシステム間のケーブル長も等しい長さに。

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Page 27: 20130426 慶応大学での講義

実はICTの最先端

• arrowhead導入時に開発したミドルウェア Primesoft Server

– メモリ上のデータへマイクロ秒レベルで超高速アクセスすることにより、高いレスポンス性能とスループット性能を実現

– アプリケーション間は、メモリキュー(ディスクレス)による非同期連携

– 業務を継続しながら、冗長化を行い、リカバリー時もディスクI/Oを排除

– 3ノードによる冗長化により、99.999%の可用性を達成

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出典: 富士通

Page 28: 20130426 慶応大学での講義

実はICTの最先端

• 実際に利用されている通信プロトコル – Mold UDP

• 価格情報の配信など、1対多の高頻度通信のためのプロトコル

• UDP層の上に、専用のヘッダーを付けて、受信者側でPacket Lostを検出できる仕組みとなっている。

• 基本的には、UDPマルチキャストを用いて送信するが、抜けを検出した場合の再送要求への返答にはUDPユニキャストが用いられる。

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UDP

Header 8 bytes

Sender Port

N 2 bytes

Reciver Port

N 2 bytes

Length

N 2 bytes

Check Sum

N 2 bytes

Message Block

Message Data

AN *** bytes

Header 16 bytes

Session

AN 10 bytes

Sequence Number

N 4 bytes

Message Count

N 2 bytes

Message Block

Message Length

N 2 bytes

Message Data

AN *** bytes

Mold UDP

出典: Nasdaq OMX

Page 29: 20130426 慶応大学での講義

実はICTの最先端

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Chicago - New York

・ Spread Networks 社のDark Fiber Service roundtrip latency : 12.29msec (825mile * 2) ・ NeXXCom Wireless 社のWireless Service roundtrip latency : 9.88msec (760mile * 2) ・ Speed of Light roundtrip latency : 7.84msec (730mile * 2)

出典: 『McKay Brothers 』(http://www.mckay-brothers.com/ ), 『Spread Networks 』( http://www.spreadnetworks.com/ ) 『Cielo Networks 』(http://www.cielonetworks.com/ ), 『NeXXCom Wireless 』( http://www.nexxcomwireless.com/ ) 2013年4月4日16時(日本時間)現在での最新版を取得。

Page 30: 20130426 慶応大学での講義

証券業界におけるシステム高速化等の特徴

• バッチ処理よりもオンライン(トランザクション)処理に比重

• (ゆえに)ThroughputやBandwidthよりLatencyを最重視 – 最初にタッチするにためには??

– 同じ40GbpsでもEthernetではなくInfinibandが選ばれる

– 業務で使うにはLow Jitterであることも大切

• 高いAvailability・Reliabilityが求められる – 高速化のためにIn Memoryにする一方、3重化によって99.999%の可用性

– TCPの代わりにReliable UDP

– 世界トップクラスの堅牢なファシリティ・耐震性を持ったデータセンター

– テロ対策・大規模災害による同時被災回避の観点でバックアップ拠点を用意

• 顧客を守る・取引所を守るという発想 – 限界が来る前に流量を制御するPacket/Traffic Shaping

– 出力を増やさないために、入力を絞るという発想

– 顧客のIT投資の回数を抑えるような計画・アーキテクチャ

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Page 31: 20130426 慶応大学での講義

高速・高頻度取引で活用される技術の例

• In-Memory Database

– 最近では、永続化の観点からあえてSSD(Fusion-IO)を使う例も

• LDMA/RDMA

– とにかく無駄なコピー回数を減らす(ホップ数の削減)

• Many Core CPU

– 複数のサーバーに機能分散させるのではなく、同一ノード内に入れる

• FPGAなどを利用したOffload Engine – CPU負荷を下げて、返せるものは特殊なNIC内で返す

• GPGPUの利用による高速プライシング等

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出典:『Fusion-io 』(http://www.fusionio.jp/) , 『BittWare 』(http://www.bittware.com/ ) 2013年4月4日16時(日本時間)現在での最新版を取得。

Page 32: 20130426 慶応大学での講義

求められるシステム障害対策

• 頻発する証券取引所のシステム障害 – 2012.03.23 BATS 自社IPO時にシステム障害

– 2012.05.19 NASDAQ Facebook株のIPO障害

– 2012.11.12 NYSEで216銘柄の取引停止

– 2013.03.04 OSEでFXを除く全商品の売買停止

• 証券会社・投資家側のシステム障害 – 2012.08.02 NYSEにおいてKnight Capitalが誤発注により70億ドルの損失

– 2012.10.03 NASDAQ Kraft Foods株が1分間で30%急騰

• 2012.10.02 SECのRoundtableで議論 – NASAでもシステム障害は起きる:障害を見越した対策

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Page 33: 20130426 慶応大学での講義

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証券市場とその役割

取引所について

取引所×ICT

金融工学的アプローチ

企業におけるシステム開発

Page 34: 20130426 慶応大学での講義

金融工学(Financial Engineering)

• 企業・商品・プロジェクト等あらゆる資産評価/価値評価を扱う学問分野としての

‘ファイナンス’の中の、技術的な問題解決手法にフォーカスしたものが‘金融工学‘(人により定義が違うので注意)

• 冷戦終結後に新たな仕事先を求めたロケット技術者がウォール街に流れ込んで発展。現在も、経済学者、数学者、物理学者、工学者など幅広い分野の学者達が自分の専門分野を活かして研究を進めており、実学的色彩も強いのも特徴。

• 例えばノーベル経済学賞の受賞により金融工学の名を上げたブラックショールズ式だが、オプション理論価格の求め方としては数値解析的手法やシミュレーションによるものまで多様なアプローチが試されている。

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オプション価格

Page 35: 20130426 慶応大学での講義

異常パターンの検出

• 証券市場では異常パターンの検出ニーズが常に存在し、伝統的には統計学により処理されてきた。

• その背景には、人間の頭では処理できない膨大な情報量とリアルタイム性へのニーズ。

• 端末で売買する個人からHFTまで幅広い投資家、ブローカー、取引所までほとんど全ての関係者にとって重要。

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⇒2000銘柄以上も同時に見られる人間はいない ⇒自動検出の仕組みが必須

⇒株価の確率分布は正規分布? ⇒売買高の確率分布の特徴は?

⇒個別銘柄でのみ起きている現象であれば異常だが、市場全体で起きていれば異常とは言えない(自動検出しても全銘柄が該当)

⇒毎日1000件該当するような検出基準は役に立たない

Page 36: 20130426 慶応大学での講義

リスク管理

• 証券市場でリスク管理の対象となるのは、保有資産価値が下落する事で発生する含み損失

• 含み損失に備えて資金確保をしておいたり、一定の水準に到達した場合にポジション縮小を行うルールを定める(VaR: Value at Riskやストレステスト)

• 技術的な問題としては、保有資産の従う確率分布の定義の難しさ、ポートフォリオ構成銘柄間の相関の処理等がある。

• また、デフォルトリスクに影響を受ける証券化商品も増えているが、そもそも発生確率が低くデータが少ないためリスク見積もりが難しいといった問題もある…等々

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• 統計的にX%の確率で起こり得る損失額をリスクとする

• デルタ法/ヒストリカル法/シミュレーション法

• VaRで見積もれないような

異常シナリオ下での損失額を見積もる

ごく低い確率でしか発生しない暴落に備えておく

Page 37: 20130426 慶応大学での講義

高速マッチングアルゴリズム

• 証券取引においては大量銘柄への注文を高速で処理する必要がある。例えば、朝9時の始値決定時は2000銘柄以上の同時処理が必要

• 一方で、投資家ニーズにより多様化した注文種類により、1つ1つ

の処理は複雑化しており、高速処理を実現するためのハードルは上がる一方

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A株式会社の需要・供給曲線

1000

1001

1002

999

998

1000株 2000株 3000株 4000株

買い累計

売り累計

(始値計算の例) 注文が単純な指値だけであれば... Min(売り累計,買い累計)が最大となる価格が始値

A株式会社の板寄せでの注文状況

売り 買い 値段

1002円

1001円

1000円

999円

998円

1500株

800株

1300株

500株

成行

買い累計 (B)

売り累計 (A)

1500株

500株

200株

300株

2000株

200株

3500株

4000株

2200株

700株

4600株

3100株

2300株

2000株

Min(A,B)

200株

2000株

500株

2200株

700株

Page 38: 20130426 慶応大学での講義

異なるアプローチの可能性

• 証券取引は金融工学に代表されるように、「節操なく」他分野の技術を取り込んできた。

• しかし、証券市場で現在抱えている問題が、全ての学術分野の研究者で共有されている訳ではなく、ブレイクスルーの余地はまだ残されているはず。

– 例えば、株価や売買高を表すグラフ(チャート)を人間がみると「おっ?」と思う形があるが、これを抽出するためにグラフの形からアプローチしようという発想は(通常は)ない。

– しかし、例えばカメラの顔認識機能の研究者であれば、グラフの形から特定パターンを抽出しようとするかもしれない。

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Page 39: 20130426 慶応大学での講義

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証券市場とその役割

取引所について

取引所×ICT

金融工学的アプローチ

企業におけるシステム開発

Page 40: 20130426 慶応大学での講義

エンタープライズにおけるシステム開発

• arrowheadの開発プロセス(2006年3月~2010年1月)

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クロージング

稼働 受入れ 開発 ソリューション設

計 立上げ

外部設計

内部設計

詳細設計

単体テスト

結合テスト

総合テスト

RFP作成

要件定義

納品検査

検収テスト

接続テスト

運用テスト

移行

プロ計作成

開発ベンダー 作業

Page 41: 20130426 慶応大学での講義

(参考)W字モデル開発

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要件定義

要件定義書

基本設計

基本設計書

詳細設計

詳細設計書

プログラム設計

プログラム 設計書

コーディング プログラム開発

単体テスト

結合テスト

システムテスト

運用テスト

設計と同時にテスト項目 を作成するため、

仕様が明確化され、 設計バグがこの時点で 発見できる場合がある

確認

テスト項目

テスト項目

テスト項目

テスト項目

テスト実施

テスト実施

テスト実施

テスト実施

下流工程にて 大幅な仕様変更

リスクを軽減できる

Page 42: 20130426 慶応大学での講義

エンタープライズにおけるシステム開発

• 研究室でのプログラミングとの違い – ひたすら管理

• 工程管理

– 要件定義・設計(基本・詳細)・開発・テスト(単体・結合・システム)・・・・

• 品質管理

– バグが出ないことも問題

• リスク管理・予実管理・財務管理・労務管理

– 膨大なドキュメント

• 詳細設計書ともなると、数万ページに達する。(だいたいExcelです。)

– 多くのプロジェクトメンバーと分業制

• 1000人弱の規模。元請けベンダーは基本設計書を書くくらいまで。

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Page 43: 20130426 慶応大学での講義

(参考)東証のシステム

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Page 44: 20130426 慶応大学での講義

まとめ

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証券市場とその役割

取引所について

取引所×ICT

金融工学的アプローチ

企業におけるシステム開発

Page 45: 20130426 慶応大学での講義

振り返って

• スピード競争はミリ秒からマイクロ秒。米国の一部市場で流れるメッセージ量だけでも240億件/日。FPGA・GPGPUなど他分野の技

術にも貪欲。株価・金利・倒産リスク・天候まであらゆるリスクの取引市場を作っている。

• 確かに凄そうだが、それに何の意味があるのか?

• 人間が電話で注文し、紙やタッチパネルで注文をマッチングしていた、古き良き株式取引所では不十分なのか?

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Page 46: 20130426 慶応大学での講義

電子化

高速化

キーワード

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透明性

流動性

コスト

情報の 非対称性

多様性

Page 47: 20130426 慶応大学での講義

ご清聴ありがとうございました。

• ご意見・質問はお気軽に – 山藤 敦史 a-santo[at]tse.or.jp

– 早川 聡 sa-hayakawa[at]tse.or.jp

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