2013年 平成25年 10月3日 木曜日 ーエンジン設計部長岸 宏尚 氏...

1
モノづくりカンファレンス にイノベーション ■ パネリスト トヨタ自動車 ユニットセンタ ーエンジン設計部長 岸 宏尚 氏 日産自動車 パワートレイン開 発本部パワートレイン性能開発 部部長 生浪島 俊一 氏 本田技術研究所 執行役員 四輪R&Dセンターエンジンシ ステム技術担当 大津 啓司 氏 iTiDコンサルティング 社長 吉本 敦氏 電通国際情報サービス MBD ユニット長 荒木 克文 氏 ■ コーディネーター 慶応義塾大学大学院 システム デザイン・マネジメント研究科 准教授 白坂 成功 氏 SKYACTIVエンジン モデルベース 大学大学院システムデザイン・マネジメント モデリング 「SysML」活 白坂氏 荒木氏 吉本氏 ソリューションけたい 沿2013年 平成25年 10月3日 木曜日

Transcript of 2013年 平成25年 10月3日 木曜日 ーエンジン設計部長岸 宏尚 氏...

 モノづくりカンファレンス超

製造業にイノベーション■ パネリスト

◇トヨタ自動車 ユニットセンターエンジン設計部長 岸 宏尚 氏

◇日産自動車 パワートレイン開発本部パワートレイン性能開発部部長 生浪島 俊一 氏

◇本田技術研究所 執行役員四輪R&Dセンターエンジンシステム技術担当 大津 啓司 氏

◇iTiDコンサルティング社長 吉本 敦 氏

◇電通国際情報サービス MBDユニット長 荒木 克文 氏

■ コーディネーター

◇慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科准教授 白坂 成功 氏

パネルディスカッション

SKYACTIVエンジンへのモデルベース開発適用

マツダ執行役員パワートレイン開発本部長人見 光夫氏

慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授システムを考える~モデルベースで見えてくる革新~

CAE使い燃費改善検討

 当社の新世代自動車技術

の総称である「SKYAC

TIV

スカイアクティ

」の開発、特にエンジ

ンの開発に至った経緯をお

話しして、CAE技術の強

化や適用事例などを紹介し

たい。当社は1990年代

半ば、バブル経済の崩壊で

厳しい状況に立たされた。

わずかな人数で先行開発を

行わざるを得なかった。

 自動車メーカーでは、燃

費規制など将来に向け対応

すべきことが多々あった

が、我々はどこよりも少な

い人員で対応するしかなか

った。そこでボーリングで

いう1番ピンを探して、残

りのピンも全部倒せる方法

はないかと考えた。そこで

「選択と集中」を実行した

わけだが、開発する技術の

種類を絞るとか商品の種類

を減らすとかではなく、仕

事の対象となる課題を並

べ、共通する主要課題を選

択してそこに集中する「主

要共通課題の選択と集中」

を実施すべきだと考えた。

技術については進むべき方

向を定めて焦点を絞って開

発する、商品開発について

はモノを作ってはテストす

るという試行錯誤のやり方

を排してCAEを駆使して

机上で開発し、モノを作っ

て確認するというやり方に

変えて大幅な効率化を図っ

た。これらを1番ピンとと

らえたわけだ。

 技術開発面では、他社は

多くの技術開発をやってい

るのはわかっていたが、技

術の呼び方が違うだけで、

実は同じようなことをやっ

ているのでは、と考えた。

例えばエンジンの燃費改善

は排気損失、冷却損失、機

械抵抗損失、ポンプ損失と

いった4大損失を低減する

ことに他ならず、それらの

損失を制御できる因子は七

つしかないという形で整理

した。七つの因子とハード

ウエアの間をCAEでつな

げば机上で燃費改善検討が

できる。

 従来の作っては試し、悪

いところを直すというやり

方では複雑化するパワート

レイン開発を効率化するな

ど永久にできない。部門を

挙げてCAE強化に取り組

むことで技術開発から商品

開発までCAEで検討可能

な領域を徐々に広げること

ができ、スカイアクティフ

の商品化ができたと考えて

いる。

 スカイアクティブ開発を

本格化する時は、かかわる

人全員を先行開発部に集結

し、コミュニケーション改

善による課題解決の迅速化

を図った。また全く新しい

エンジンやトランスミッシ

ョンに対する信頼性確保、

世界一へのチャレンジ、コ

スト低減などは別物と考え

ず、どの機能をどういうノ

イズに対して強化すればい

いのかという考え方で整理

することで、主要な課題は

共通するということもわか

ってきた。それらに対して

は実機では絶対不可能なタ

グチメソッドによる検証な

どをCAEによって実行

し、かつてないほどの高機

能化が実現できた。また我

々はコモンアーキテクチャ

ーと呼んでいるが、排気量

違いのエンジンなどはハー

ドウエアの共通化ではなく

特性の共通化を図ることで

適合開発の大幅な効率化を

実現している。これもCA

Eで燃焼特性の検討ができ

るようになったために実現

できたことだ。

 設計者、実験者たちはス

カイアクティブの開発を始

めた頃はCAEなど全然信

用していなかったが、今で

はCAEなしの開発なんて

あり得ないと思っている。

講 演

モデリング言語「SysML」活用

 私はフリーデンタールさ

んから、システム全体を設

計するためのモデリング言

語「SysML

シスエム

エル

」を学んだ。システ

ム開発で大事なのは、そも

そも何のために何をしなけ

ればならないのかを明確に

すること。対象となるシス

テムは他のシステムとつな

がっており、SysMLを

用いれば、その関係性を把

握しながらモデルベースで

開発できる。

 複数の分野にまたがって

システムを開発するから、

共通の図的な言語が必要。

モデルを一度つくれば再利

用が可能で、次の開発では

効率アップが期待できる。

モデルは抽象度を上げ下げ

できる。抽象的でなくすれ

ば詳細になり、逆に抽象的

にすれば革新に導くことも

できる。

 SysMLという言語の

特徴は

構造

振る舞い

要求

パラメトリック制

という四つでシステム

をモデル表現するところ。

要求のトレーサビリティー

追跡管理

が確保され、要

求が変更された場合の対応

を容易に判断できる。図的

に表現するから分かりやす

い。活用例として自動車の

衝突安全に資する乗員保護

システム開発と、コンシュ

ーマーエレクトロニクスの

分散協調設計を挙げたい。

 乗員保護システムでは振

る舞いということが空間や

時間と関係性を持つため、

SysMLは最適化の問題

を定義するのに適してい

る。分散協調設計では、国際

的に分業された仕事を効率

的に進めるフレームワーク

の検討に向く。こうしたこ

とを進めていけば、日本の

開発力、モノづくり力が強

化されると期待している。

西村秀和氏

岸氏

生浪島氏

大津氏

白坂氏荒木氏吉本氏

日本独自のソリューション届けたい

環境技術開発でプロセス改革

 白坂 私は今は大学教員

だが総合電機メーカーでも

人工衛星開発でMBSEを

実際にやってきた。フリー

デンタール氏とも長い付き

合いだが、彼が携わるIN

COSEの中でMBSEへ

の取り組みがメジャーにな

り自動車関係のワーキング

グループもできた。今日は

自動車メーカーの皆さんに

も集まっていただいた。各

社どういうモチベーション

でMBSEを推進している

か伺いたい。

 生浪島 パワートレイン

性能開発部は車の走りの性

能をハンドルしている部署

だ。今年からシステムズエ

ンジニアリングを推進する

グループを立ち上げてMB

SEに取り組んでいる。私

はエンジンの設計畑出身

で、エンジンの要求は非常

に高度化している。トラン

スミッションをはじめ車両

のファンクションとの連携

が重要になる中で、システ

ム間の整合を取るためにも

MBSEの手法を取り入れ

ようと決めた。 

岸 定義に

こだわるわけ

ではないが、

我々がモデル

ベース開発

MBD

なアプローチ

でやっている

内容は、今回

の定義でいう

とMBSEだ

と思う。モデ

ルベースとい

うと開発効率化

や手戻りが無く

なるなどよどみ

なくシステムを

最適化する手法

とのイメージが

一般にはあるか

もしれない。し

かしそのレベル

では自動車会社

の場合、ちょっ

としたモデルチ

ェンジには有効

でも、新しいも

のを生み出すに

は本当は足りな

い。やはり機能

なりを抽象化し

ていく過程でイ

ノベーションの糸口を見つ

けられるのだろうし、それ

を通じ新しい考え方で人を

育てなければならない。

 大津 技術開発競争が激

しくなり、加えて環境技術

が非常に重要視されてい

る。環境技術は開発負荷が

大きく、いかに開発のプロ

セスを変えていくかという

議論に当然なる。当社はこ

こ数年ですべてのエンジン

を刷新し、CVT

無段変

速機

、トランスミッショ

ン、ハイブリッドシステム

も新しくした。これらをや

り遂げるには今までのやり

方は通用しない。そこで開

発プロセスを変えるモチベ

ーションを、MBDと合体

させた。当社には従来、問

題が起きたら担当者が即座

に集まる「高速トライアン

ドエラー」という言葉があ

ったが、量産間際に負荷が

上がっていくこのやり方は

もう続けられない。開発の

イノベーションであるMB

SEに、相当なエネルギー

をかけてシフトしている。

 白坂 自動車に限らず他

の産業からの観点も。

 吉本 私は自動車会社か

ら電通国際情報サービスに

転じ、

年に米国のコンサ

ルティング会社との合弁で

製造業の皆さんの開発力を

向上するコンサルティング

のために当社を設立した。

当時米側を引っ張っていた

ジャック・レモン氏

はCAEという言葉を

最初に定義した人なのだ

が、

年前から「システム

ズエンジニアリングアナリ

シスリードデザイン

SE

ALD

をやらなけれ

ば」、と訴えていた。これ

からMBSEはど

んどん体系化され

普及するが、レモ

ン氏は「やっと自

分の言っていたこ

とが実現しつつあ

る」と喜んでくれ

ると思う。

 荒木 開発プロ

セス改革を主に自

動車業界、複写機

業界を中心に担当

してきた。日本の

製造業は進んでい

て特に開発のやり

方は独自に工夫さ

れている。海外の

開発支援ツールを

国内のお客さまに

届けるサービスも

しているが、それ

だけでは足りない。世界を

リードするメーカーととも

に、ソリューション開発の

方に重きを置いている。

 白坂 日本はすり合わせ

が得意、などとよく言われ

る。日本のMBDには特有

なものがあるか。

 生浪島 日本のすり合わ

せ文化はシステムが比較的

シンプルなうちはうまくい

っていた。複雑になる際、

欧米では合理的にシステム

間で調整する手法を発展さ

せた。良いものは日本も取

り入れるべきだし、日本で

アレンジすべきところはア

レンジする。ただ、グロー

バルの考え方との連携は保

たなければならない。

 岸 日本の強みとして言

われる「改善」と「すり合

わせ」そのものが、システ

ムズエンジニアリングなの

ではないか。これまで日本

の産業界の人たちが自然に

育んできたものをより精緻

に一般化するようなアプロ

ーチも必要かもしれない。

 大津 日本人は行間を読

むことにたけているが、M

BSEはそれだけではだ

め。確実に何が必要か、頭

の中にあることを形式化し

なければならない。一方で

日本人はより良いものをつ

くろうという意識が高い。

より良い制御を作り込むこ

とは普通にできるはずだ。

 白坂 MBSEは欧米の

防衛産業が引っ張っている

が、自動車産業のMBSE

に関していうなら日本は欧

米にまだまだ追いつけるは

ずだ。

 吉本 自動車会社は今日

の各社のようにどんどん前

に進んでいくはず。われわ

れはほかの業界について

も、世界の市場を見て、皆

さんの要求を聞き、それに

沿って知見を広めていく。

 荒木 欧米のシステムズ

エンジニアリングのやり方

をしっかりキャッチアップ

しつつ、日本独自のソリュ

ーションを届けたい。慶応

大学をはじめ産学官連携す

る仕組みも必要で、そこで

のつなぎの役割も果たした

い。

敬称略

   2013年 平成25年 10月3日 木曜日    ( )