「音声による歩行運動の追体験支援ツール」2010年ソフトウェア科学会大会発表スライド...
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音声による
歩行運動の追体験支援ツール
慶應義塾大学栗林 賢 諏訪 正樹
研究目的
他者の歩行プロセスを体験しながら,歩いている道に関する他者の意識データを音声で共有することで, 他者の観点と行動を通した空間体験を可能にし,感受や発見を促進
記録時の時間の流れに合わせて音声と写真と地図の表示を行うことで,注意対象の共有と歩行および意識の変化プロセスの追体験を支援
プロセスの共有と追体験
見る者の心理的見方によって見えが異なるた め,環境に対する人の関わり方によって,得られる景観が異なる. [Arnheim77]
模倣は,身体を動かしながら作品の制作プロセスを追体験するダイナミックな経験[石橋04]・自らが行為を再現することで他者 の行為や思考のプロセスの詳細な理解が可能となる. ・模倣によって,制作プロセスを体験することで,プロダクトである作品への理解が深まる.他者と自分のプロセスを比べることで,一致している部分や不一致の部分が意識化されて,自分の特徴について理解が促進する.そして,自分の特徴が明確になることで,それらの発展や追求につながる.
[Arnheim77] Arnheim, R.:The dynamics of architectural form, University of California Press, 1977. (乾正 雄訳:建築形態のダイナミクス,鹿島出版会,1980.) [石橋04] 石橋健太郎, 岡田猛:創造のための「芸術作品の知覚」経験:模倣に焦点をあてて, 認知科学, Vol. 11,No. 1(2004).
プロセスの共有と追体験
プロセスの共有と「変数 (着眼点) の受け渡し」が他者のメタ認知プロセスを触発し,新たなプロセスの発生につながる [諏訪10]赤石「肩甲骨と仙骨との左右のつながり」→諏訪「左脇腹」「左肩甲骨」→着地した足から得る反力を肩甲骨につなげる走り方
プロセスと同じ行動を行いながら他者の意識データを共有することで,変数 (着眼点) の受け渡しや行動の追体験が促進するのではないか
[諏訪10] 諏訪正樹,赤石智哉:身体スキル探究というデザインの術.認知科学, Vol.17, No.3
研究課題
環境からの知覚や身体動作・五感・体感を対象とした意識のデータの外化・フィードバック・共有をどのように行うか
身体と環境の関係を追体験する方法
関連研究
仮想マラソンシステム[杉原2000]・VR技術によって視聴者に運動者の感覚を追体験させるシステム・被験者が従来の中継に比べてより積極的にレースを体感した印象を得たことを示している
PodWalker (http://www.voiceblog.jp/podwalker/)・ポッドキャスティングを用いてある地点から特定の目的地までの道案内をする音声ガイド
PodWalkerを用いて都市での体験を伝えるフィールドワーク研究[加藤2006]・体験を通じて他者のものの見方が協調的に併存する・ICレコーダとハンディGPSとカメラ付きケータイを用いて記録QRコードを介してウェブにアクセスして音声を聞く
・他者が街を歩いた時の感覚や思考を外化した音声を聞きながら歩く・他者の歩行プロセスを体験しながら,歩いている道に関する他者の意識データを音声で共有→他者の変数(着眼点)を通した空間体験
感覚交換散歩
11..30分間,自分が選んだ道を歩きながら,自らの思考や感覚の内容を声で外化してICレコーダで録音する.22..30分間,相手が歩いた道を歩きながら,自らの思考や感覚の内容を声で外化してICレコーダで録音する.33..ICレコーダとルートを描いた地図を交換する.44..30分間,相手が選んだ道を相手の声を聞きながら歩き,聞きながら生まれた自らの思考や感覚の内容を話してコメント録音用ICレコーダに再生音声に重ねて録音する.55..30分間,最初に自分で歩いた道を相手の声を聞きながら歩き,3回目と同様に自分の声をコメント録音用ICレコーダに再生音声に重ねて録音する.66..散歩終了後に,約90分間,その日の散歩を振り返りながら,対話と議論を行う.
実験後の対話と議論より
共有方法の問題点について
音声と地図のみでは,相手が歩いている場所とずれてしまう.先に行き過ぎて待ったり戻ったりする問題や遅れて急いで追いつくという問題が多く見られた.
相手の歩行状態や歩行スピードを音声のみで把握することは難しい
音声による歩行運動の追体験支援ツール
録音する音声の経過時間と関連づけて位置情報と写真を記録
録音ON/OFF
カメラON カメラOFF
シャッター
Database
音声による歩行運動の追体験支援ツール・音声再生開始と同時に地図を表示・経過時間によって地図を更新・現在位置と音声の位置を比較しながら移動可能・写真を撮影したタイミングで写真を表示・追体験時の体感や思考を外化した声を元音声と関連づけて録音→相手の歩くスピードや注目対象を見るタイミングを合わせることと支援
評価実験
11..10分間,自らが選んだ道を歩きながら,自らの思考や感覚の内容を声で外化して録音する.
22..10分間,相手の道を相手の声を聞きながら歩き,聞きながら生まれた自らの思考や感覚の内容を話して録音する.
33..散歩終了後に,約10分間,その日の散歩を振り返りながら,自由記述で感想を書いてもらう.
44..質問紙調査を行う.
環境に対する着眼点の広がり・解釈の深まり・感受性の向上・発見の促進・歩行運動の追体験がどう促進するかを検証
実験結果(質問紙調査)
とても思う 思う どちらでもない 思わない 全く思わない 無回答
0 5 7
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
(人)
Q1 追体験が促進されたか
Q2 変数交換が促進されたか
Q3 感受できたことは増えたか
Q4 新しい発見は得られたか
Q5 同じように歩くことが容易になったか
ツールを用いた実践実験感覚交換散歩実験の被験者3名を対象にICレコーダを本ツールに置き換えて同様の方法で実験を実施
ツールの効果について写真撮影・再生機能→相手が注目している対象を確認・共有可能、相手がどこに重点を置いて捉えていたか
歩行スピードや立ち止まりのタイミングなどの調整の支援
相手と同じように歩くことが支援、タイミングがずれる頻度が減少
注意対象がより明確に伝わることで,追体験者の発見や行動が促進→「足裏感覚」といった環境と行動が一致して初めて共有できる対象の追体験
ツールの課題点についてGPSのずれ→歩行がずれると語っている対象を見落としてしまう.位置を会わせるに気を取られて、追体験が起こりにくい
歩行や感覚を遮断しない写真撮影/ルート案内
実験データの分析
11.. 歩行時に外化した音声データを聞きながら,発言を書き起こし,それぞれが注目していた変数を抽出*もともと持っていた変数にはなく,自分の音声に出て来た変数で,以前に相手の音声内に登場していた変数を相手から受け取った変数とする.
22.. 他者から受け取った変数に関連する発言数の割合→変数の受け渡しの達成と外化行為への影響
33.. 変数の種類数の変化→変数の受け渡しによって、変数(着眼点)の幅/バリエーションが広がるか
* 4名による2010年4月から8月の計8回の実験を対象
変数の受け渡し例「空間のリズム」→森の音楽性
「もこもこした立体感」→「もこもこした木」「ブロッコリーみたい」
「生命力」→「トマトの青さ」「竹、青い、細い、頑張れよ~」
他者から受け取った変数に関する発言の割合
0% 20% 40% 60% 80% 100%
H22.8.15
H22.7.9
H22.7.2
H22.5.21
H22.5.14
H22.4.30
他者変数発言
その他発言
0% 50% 100%
2010.8.23
2010.7.2
2010.5.21
2010.5.14
2010.4.30
2010.4.1
他者変数発言
その他発言
被験者1 被験者2
変数種類数の変遷
変数種類数
0
20
40
60
80
100
120
140
H22.3.25
H22.4.30
H22.4.30
H22.5.14
H22.5.14
H22.5.21
H22.5.21
H22.7.2
H22.7.2
H22.7.9
H22.7.9
H22.8.15
変数種類数
0
10
20
30
40
50
60
70
80
2010.3.25
2010.4.1
2010.4.30
2010.4.30
2010.5.14
2010.5.21
2010.5.21
2010.7.2
2010.7.2
2010.8.23
2010.8.23
変数種類数
0
20
40
60
80
100
120
2010.3.25
2010.4.1
2010.4.30
2010.4.30
2010.5.14
2010.5.21
2010.7.9
2010.7.9
2010.8.22
2010.8.22
被験者1
被験者2 被験者3
実験データの分析
ツールによって相手が語っている対象を認知できる(歩く場所がずれて対象がわからなくなるとコメントしようがない)
→追体験時の発言数や内容の違いを分析することでツールの有効性を評価できるのではないか
* 被験者1名による2010年4月から9月の実験を対象
追体験時の発言数の比較(被験者1)
22.234.5
IC レコーダ本ツール
一回ごとの平均コメント数
システム改善
加速度センサによる歩行ステップの記録→ステップに合わせてメトロノーム音を再生→立ち止まり/動きだしのタイミングや歩行リズム
地磁気センサによる身体方向の記録→身体方向が合っていると音量を大きく→方向の一致/不一致を緩く伝達
基本は全体ルートを表示するだけに変更現在位置と音声の位置が大幅にずれた時にアラート音を再生+地図をズームして表示+音声の位置をピンで表示
現在位置に近いデータのみをリストとして表示途中での再生/停止機能
改善したツールを用いた実践実験改善したツールに置き換えて同様の方法で実験を実施
歩行リズムの音が聞こえることで,止まっているか,動き出したかはとてもわかりやすかった.前のバージョンでは,もう相手が動いたかと思って歩き出したら,まだ動いてなくて行ったり来たりすることが何度かあった.一定ではない歩行リズムを感じることができた。
歩行スピードや立ち止まりのタイミングなどの調整をさらに支援
相手と同じように歩くことを支援、タイミングがずれる頻度が減少
立ち止まった時の語りの対象がより明確に伝わることで,追体験者の発見や行動が促進 例:地面にはえた苔
歩幅の個人差によって歩いている場所がずれてしまう.歩幅や歩くスピードに差がありすぎると,歩行を追体験することに限界がある.
まとめと今後の課題
①長期間に渡るツールを利用したメタ認知実践→ツールの有無による変数の受け渡しやメタ認知の促進効果の違いを検証、新しい被験者を加えてさらに着眼点が広がるかを検証
②加速度や地磁気センサを用いて位置情報精度を補助
③歩行を合わせることを支援する機能を追加 例:歩行スピード
④歩行や感覚を遮断しない写真撮影やルート表示方法を検討
■課題
音声を用いた歩行運動の追体験実験と,歩行運動や運動における意識変化プロセスの追体験を支援するツール
実践実験を通して,追体験と変数の受け渡しの促進効果を検証