2009 50 年司法試験【租税法】 〕〔第1問 (配点: …watax/200901resume.pdf-1-2009...

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-1- 年司法試験【租税法 〔第1問 (配点: 点) 2009 50 テーマ:違法所得と課税関係 〔第1問 (配点:50) Aは、喫茶店経営をしていたが、その地域に縄張を持つ暴力団員Bからポーカーゲ ーム機賭博によるもうけ話を聞かされて、その気になり、Bからポーカーゲーム機10 台を購入し、喫茶店の店舗内にポーカーゲーム専用の部屋を設けて、そこにポーカー ゲーム機10台を設置し、平成20年1月3日から、ポーカーゲーム機を客に利用させる ようになった。 ポーカーゲーム機賭博の方法は、以下のとおりであった。 客は、コイン1枚につき500円をAに支払って、賭博の元手として必要なだけ のコインを交付を受ける。 コインをゲーム機に投入して(1枚から20枚の範囲で投入可能 、ゲーム機 の画面に表示される5枚のトランプのカードの絵柄の組合せにより勝負を決する 絵柄がそろわなければコインはそのまま機械内に回収され、絵柄がそろった場合 は、そろう確率の高低に応じて、投入したコイン1枚につき1枚から100枚のコ インが機械から排出される。 客は、店を出る際に、手元に残ったコインがある場合それを1枚500円で精算 するか あるいは そのまま持ち帰って次に入店してポーカーゲームをする際に そのコインを使用する。 なお、Aはポーカーゲーム機の絵柄のそろう確率を調整することができ、A が客よりも勝つ確率を高く設定していたが、客との間の個々の勝負は偶然に左右 されるものであった。 平成20年1月3日から同年12月31日までの間、Aがコインを交付するときに客から 受け取った現金の総額は8000万円,客がコインを精算する際にAが客に支払った現金 の総額は5000万円になっていた。 ところで、Aは、常連客のCに対し、後払いの約束でコインを渡していた。Cは、 そのコインで勝負したがすべて負け、平成20年12月15日時点でAから後払いの約束で 受け取ったコインの枚数は1000枚(50万円分)となっていた。そこで、Aは、Cに50 万円の支払を求めたが、結局、Cは支払わず、同年12月31日までに、50万円は回収で きなかった。 また、平成20年12月31日時点では、200枚のコイン(10万円分)を客が持ち帰って いて、精算されないままとなっていた。 Aにポーカーゲーム機を売った暴力団員Bは、ポーカーゲーム機賭博に関する経営 指導料の名目で、月々20万円を支払うようにAに要求してきたため、Aは、平成20年 1月から12月までの12か月分の合計240万円をBに支払った。 ポーカーゲーム機10台の平成20年における減価償却費の合計額は50万円である。 なお、Aは、平成21年1月早々に、常習賭博罪で警察に逮捕され、起訴されて有罪 判決を受け、ポーカーゲーム機10台はすべて没収された。 以上を前提に、Aのポーカーゲーム機賭博による利得に対する所得税法の適用に関 して、以下の設問に答えなさい。

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年司法試験【租税法 〔第1問 (配点: 点)2009 50】 〕

テーマ:違法所得と課税関係

〔第1問 (配点:50)〕

Aは、喫茶店経営をしていたが、その地域に縄張を持つ暴力団員Bからポーカーゲ

ーム機賭博によるもうけ話を聞かされて、その気になり、Bからポーカーゲーム機10

台を購入し、喫茶店の店舗内にポーカーゲーム専用の部屋を設けて、そこにポーカー

ゲーム機10台を設置し、平成20年1月3日から、ポーカーゲーム機を客に利用させる

ようになった。

ポーカーゲーム機賭博の方法は、以下のとおりであった。

① 客は、コイン1枚につき500円をAに支払って、賭博の元手として必要なだけ

のコインを交付を受ける。

② コインをゲーム機に投入して(1枚から20枚の範囲で投入可能 、ゲーム機)

の画面に表示される5枚のトランプのカードの絵柄の組合せにより勝負を決する

絵柄がそろわなければコインはそのまま機械内に回収され、絵柄がそろった場合

は、そろう確率の高低に応じて、投入したコイン1枚につき1枚から100枚のコ

インが機械から排出される。

③ 客は、店を出る際に、手元に残ったコインがある場合それを1枚500円で精算

、 、 、するか あるいは そのまま持ち帰って次に入店してポーカーゲームをする際に

そのコインを使用する。

④ なお、Aはポーカーゲーム機の絵柄のそろう確率を調整することができ、A

が客よりも勝つ確率を高く設定していたが、客との間の個々の勝負は偶然に左右

されるものであった。

平成20年1月3日から同年12月31日までの間、Aがコインを交付するときに客から

受け取った現金の総額は8000万円,客がコインを精算する際にAが客に支払った現金

の総額は5000万円になっていた。

ところで、Aは、常連客のCに対し、後払いの約束でコインを渡していた。Cは、

そのコインで勝負したがすべて負け、平成20年12月15日時点でAから後払いの約束で

受け取ったコインの枚数は1000枚(50万円分)となっていた。そこで、Aは、Cに50

万円の支払を求めたが、結局、Cは支払わず、同年12月31日までに、50万円は回収で

きなかった。

また、平成20年12月31日時点では、200枚のコイン(10万円分)を客が持ち帰って

いて、精算されないままとなっていた。

Aにポーカーゲーム機を売った暴力団員Bは、ポーカーゲーム機賭博に関する経営

指導料の名目で、月々20万円を支払うようにAに要求してきたため、Aは、平成20年

1月から12月までの12か月分の合計240万円をBに支払った。

ポーカーゲーム機10台の平成20年における減価償却費の合計額は50万円である。

なお、Aは、平成21年1月早々に、常習賭博罪で警察に逮捕され、起訴されて有罪

判決を受け、ポーカーゲーム機10台はすべて没収された。

以上を前提に、Aのポーカーゲーム機賭博による利得に対する所得税法の適用に関

して、以下の設問に答えなさい。

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① 金子宏『租税法』 頁(弘文堂、第 版、 )160 12 2007

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〔設問〕

1.Aのポーカーゲーム機賭博による利得は課税されるが、このような利得に課税が

、 。許される理由と Aのポーカーゲーム機賭博による所得の種類は何かを述べなさい

2.Aのポーカーゲーム機賭博による所得の種類を踏まえ、平成20年分のAのポーカ

ーゲーム機賭博による所得の計算に関する以下の問題点について論じなさい。

⑴ Cから回収されていない50万円は、収入金額となるか。

⑵ 以下の金額は、所得の計算上控除されるか。

① 客がコインを持ち帰ったため、精算未了となっている10万円

② 暴力団員Bに支払った240万円

③ ポーカーゲーム機の減価償却費50万円

解 説

一.違法所得と課税問題

1.所得概念と違法所得

所得概念をめぐっては、特に財政学的観点から、( )制限的所得概念と( )包括的所得概1 2

念の対立がある。今日、わが国を含め各国とも、ゲオルク・シャンツの純資産増加説(い

かなる源泉から生じたものであるかを問わず、すべての所得を課税の対象とする)に基づ

く( )の包括的所得概念を基本に、所得税の課税関係を整理することが一般的となってい2

る。

すなわち、金子宏『租税法(第 版 』によると、次の3つの理由から包括的所得概念12 )

が支持されている 「第1に、一時的・偶発的・恩恵的利得であっても、利得者の担税力。

を増加させるものである限り、課税の対象とすることが、公平負担の要請に合致する。第

2に、すべての利得を課税の対象とし、累進税率の適用のもとにおくことが、所得税の再

分配機能を高めるゆえんである。第3に、所得の範囲を広く構成することによって、所得

①税制度のもつ景気調整機能が増大する 」。

したがって、ポーカーゲーム機賭博といった違法な行為から生じた所得であったとして

も、Aに担税力の増加がある以上、課税は避けられないところである。なお、違法所得に

対する課税については、最判昭和 年 月 日民集 巻 号 頁の利息制限法の制46 11 29 25 8 1120

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② 第1審:福岡地裁昭 (行) 号、昭和 ・ ・ 判決、税務訴訟資料 号 頁、控訴審:福岡36 9 42 3 17 47 358高裁昭 (行コ) 号、昭和 ・ ・ 判決、税務訴訟資料 号 頁、上告審:最高裁昭 (行42 7 42 11 30 48 642 43ツ) 号、昭和 ・ ・9三小法廷判決、民集 巻 号 頁25 46 11 25 8 1120

③ 第1審:福井地裁昭 (行) 号、昭和 ・ ・ 判決、税務訴訟資料 号 頁、控訴審:名古34 4 39 12 11 38 914屋高裁昭 (行コ) 号、昭和 ・ ・ 判決、税務訴訟資料 号 頁、上告審:最高裁昭 (行40 2 43 2 28 52 337 43ツ) 号、昭和 ・ ・ 一小法廷判決、税務訴訟資料 号 頁49 47 11 9 66 940

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限を超える部分の課税の是非が問われた【板橋事件】 があり、最高裁は 「課税の対象② 、

となるべき所得を構成するか否かは、必ずしも、その法律的性質いかんによっ決せられる

ものではない 」と判示し、所得の適法性、違法性は課税上、考慮されない旨を明らかに。

している。

2.本件所得の所得区分

本件ポーカーゲーム機賭博所得の所得区分については、( )事業所得、( )一時時所得、1 2

( )雑所得の3つの区分が考えられる。各説の要点は次のとおりであるが、筆者は、( )の3 1

事業所得説を支持する。

( ) 事業所得説1

事実関係を総合的に判断すると、Aは自己の経営する喫茶店内において、ポーカーゲー

ム専用の部屋を増設し、一定の事業場を設け、自己の計算と危険において営利を目的とし

27 56て継続的に当該行為を行っていたのであり、これは所得税法 条の「事業 (最判昭和」

年 月 日民集 感 号 頁)に該当する行為であると考える説である。4 24 35 3 672

なお、本来の喫茶店の副業であるとしても、人絹の先物取引の事業所得性を争った【畑

仲事件】 で名古屋高判昭和 年 月 日税務訴訟資料 号 頁は 「その者の本来の③ 43 2 28 52 337 、

業務或いは職業としてなされる場合であると副業的なものとしてなされる場合であるとを

問わないものと解するのが相当である 」と判示しており、その事業所得性は否定されな。

い。

( ) 一時所得説2

事実関係④からすると、本件ポーカーゲーム機賭博所得の性質は、勝敗が偶然に左右さ

れる性格が強いもので、Aは設備を設置しているものの、賭博罪で逮捕される前のわずか

1年間の行為であり、事業としての継続性はあるといえず、一時的・偶発的な所得である

といえる。したがって、所得税法 条の一時所得に該当するものと考える説である。34

( ) 雑所得説3

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所得税法 条は 「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所35 、

、 、 、 。」得 退職所 得 山林所得 譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう

と定義している。本件の場合、ポーカーゲーム機賭博所得自体は本来の喫茶店経営に付随

する副業としての性格は有せず、一時的な行為によるものと考えられ、事業性は弱いもの

と考えられる。また、所得税法 条の一時所得の定義からすると、営利を目的とする継34

続的行為から生じた所得は一時所得にあたらないので、本件については、少なくともAに

、 。 、おいて営利を目的としていたことは明らかであるので 一時所得にも該当しない すると

9つの所得区分に該当しない雑所得に該当すると考えるのが妥当とする説である。

二.違法所得と権利確定主義

1.収入金額の額

筆者は本件ポーカーゲーム機賭博による収入金額は、事業所得の収入金額に当たると解

釈するが、本件における事業収入金額を仕訳して整理をすると、次のとおりである。

① 客から受け取った現金の総額 万円8,000

80,000,000 80,000,000(現金) (預り金)

② 客との精算金額 万円5,000

50,000,000 50,000,000(預り金) (現金)

③ 未精算 万円部分を除いた部分を売上に計上( 万円- 万円- 万円)10 8,000 5,000 10

29,900,000 29,900,000(預り金) (売上)

したがって、Cに対する部分を除くポーカーゲーム機賭博による収入金額は、まず

円であることが分かる。29,900,000

2.権利確定主義

Cに対する 万円の未収分が売上げに計上されるかどうについては、所得税法 条の50 36

いわゆる権利確定主義により判断する。すなわち、所得税法 条1項は 「その年分の各36 、

種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の

定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経

済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の

価額)とする 」と規定し 「収入すべき権利」の確定をもって、収入金額とする旨定め。 、

ている。しがたって、AとCにおいては「後払いの約束 (意思表示による契約の成立)」

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④ 最高裁昭 (あ) 号、昭和 ・ ・ 二小法廷決定(税務訴訟資料 号 頁)39 2614 40 9 8 49 224

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でポーカーゲーム機賭博を行うことの了解がなされており、Aは原則として、売掛金たる

万円の債権を有し、その収入金額については、所得税法 条により、権利の確定はし50 36

ているものと考えられる。

なお、上記の【板橋事件】において最高裁は、利息制限法の制限を超える違法利得につ

いては、それが未収の場合には 「とうてい、収入実現の蓋然性があるのもということは、

できず、したがって、制限超過の利息・損害金は、たとえ約定の履行期が到来しても、な

お未収である限り、旧所得税法 条1項にいう『収入すべき金額』に該当しないものと10

いうべきである 」と判示している。。

この判決の意義は、第1に、違法利得であり未収のものは、その拠って立つ権利が違法

な部分である限り 未収の権利確定自体が法的に成立しないとした点にある つまり 収、 。 、「

」 、 。入すべき金額 においては 権利の法的発生が第一関門として存することを明らかにした

すると、本件においてもポーカーゲーム機賭博は違法なものであり、その違法性をもって

未収の部分については、権利確定が働かないとする論理も成立する。

しかし、本件の特徴はこれを事業所得とすることに意義があり、最高裁は昭和 年940

月8日決定の所得税法違反被告事件 において 「所得税法 条1項(筆者注:旧法条文④

、 10

番号)にいう収入すべき金額とは、収入すべき権利の確定した金額をいい、その確定の時

期は、いわゆる事業所得にかかる売買代金債権については、法律上これを行使することが

できるようになったときと解するのが相当である 」と判示し、商品の引渡し又は役務の。

。 、提供による売上債権の発生に重きを置いた判断を下している その行為の違法性ではなく

債権行為の成立をもって、その違法性はカバーできるものと考えるのである。

次に 【板橋事件】においては、権利確定のためには収入金額は「収入実現の蓋然性が、

」 、 、 “ ( )あるもの を条件とし 単なる法的権利の発生から 課税適状となるための 確定 実現

”につき、新たな第二関門を用意した点が注目される。すなわち、本問では、Cの支払能

力と収入実現の蓋然性を吟味しなければ、最終的な課税適状の権利が確定したとはいえな

いのである。

なお、本問では、Cは平成 年 月 日までに 万円を支払わなかったという事実20 12 31 50

、 。 、のみの記載があり この点からだけではCの資力を判断することは出来ない したがって

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⑤ 参考事件→別紙資料参照:①渡辺充「車両盗難損失と車両保険金収入の帰属時期(ベンツ盗難損失

事件 」税務事例(財経詳報社) № ( )1~7頁、②渡辺充「多重債務者に対する弁護) Vol.36 12 2004.12

士着手金と権利確定主義」税務事例(財経詳報社) № ( )1~ 頁Vol.41 3 2009.3 9

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本問に対する解答は2つに分かれ、第1に、Cに十分な資力があると考えられる場合は、

収入実現の蓋然性が高いと考えられ、本件においても収入金額に対する権利は確定したと

して、 万円は課税対象となる。第2に、Cに十分な資力がなかったと考えられる場合50

は、Cに対する 万円の収入実現の蓋然性はないとして、 万円は課税対象とならない50 50

という結論になる。なお、Cに十分な資力がなかったと考えられる場合でも、平成 年20

にいったん権利確定主義により 万円の収入を認識し、平成 年以後、実際にCからの50 21

回収可能性が消滅した時点で 万円の貸倒損失を計上する方法でこの収入への課税を修50

正することが出来る。

以上、本問において整理した考え方は、権利確定主義に対する「同時両建説 「異時」、

両建説 「損失確定説」の3説である 。」、⑤

三.違法所得と違法支出(必要経費性の判断)

1.必要経費の意義

所得税法 条1項は、必要経費につき、次のとおり規定している。37

「 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及

35び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第

条第3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く )の計算上必。

要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額

に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年にお

ける販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却

費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く )の額とする 」。 。

すなわち、必要経費とは、その収入を得るために支出した金額のことで 「総収入金額、

を得るために直接要した費用」あるいは「所得を生ずべき業務について生じた費用」をい

い、所得税法ではこれに適法性や公序性といった要件を付していない。したがって、違法

利得に対する違法な支出も、所得税法に別段の定めがない限り、必要経費として控除する

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⑥ 第1審:高松地裁昭和 年(行ウ)第5号、昭和 年6月 日判決、税務訴訟資料 号 頁、41 48 28 70 496

控訴審:高松高裁昭和 年(行コ)第6号、昭和 年4月 日判決、税務訴訟資料 号 頁48 50 24 81 350

61 1371 62 12 24 177 148⑦ 第1審:東京地裁昭和 年(特わ)第 号、昭和 年 月 日判決、税務訴訟資料 号

頁、控訴審:東京高裁昭和 年(う)第 号、平成2年1月 日判決、税務訴訟資料 号 頁63 197 17 177 96

61 2421 62 12 15 203 2219⑧ 第1審:東京地裁昭和 年(特わ)第 号、昭和 年 月 日判決、税務訴訟資料 号

頁、控訴審:東京高裁昭和 年(う)第 号、昭和 年 月 日判決税務訴訟資料 号 頁、63 156 63 11 28 203 2375

上告審:最高裁三小平成1年(あ)第 号、平成6年9月 日判決、刑集 巻 号 頁 →別紙28 16 48 6 375

資料参照

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ことが可能である。

この点に関して、高松地判昭和 年 月 日税務訴訟資料 号 頁の【福田事件】48 6 28 70 496

は、係争事件当時の宅地建物取引業法 条および同法施行細則の報酬額の限度額を超え⑥ 17

る支払いは、違法支出として必要経費性を有さないとした税務当局の主張に際し 「被告、

は、法規の許容する限度を上廻る部分については、必要経費として原告の収入金額から控

除すべきでないとの趣旨の主張をしているが、右法律(これに基づく細則を含む。以下こ

の項において同じ )の規定の趣旨は、不動産仲介業者が不動産取引における代理ないし。

は仲介行為によつて不当の利益を収めることを禁止するところにあると解され、したがっ

て、右法律に違反する報酬契約の私法上の効力いかんは問題であるとしても、現実に右法

律所定の報酬額以上のものが支払われた場合には、所得税法上は右現実に支払われた金額

を経費(右報酬の支払いを受けた不動産仲介業者については所得)として認定すべきもの

である 」と判示し、所得を生ずべき業務について生じた費用の必要経費性を是認してい。

る。

ところで、所得税法では、必要経費の概念を設け、所得税法 条に条文をもって規定37

しているが、法人税法においては、法人税法 条3項に損金の額についての定めはある22

が、損金概念そのもの意義にについての定義規定はない。なお、法人税法 条4項に、22

いわゆる公正妥当な会計処理基準の規定が存する。

そこで、法人が違法な支出をした場合の損金算入をどのようなスタンスで処理するかが

問題となるが、東京高判平成2年1月 日税務訴訟資料 号 頁の【暴力団上納金事17 177 96

件】 では、特殊浴場を経営する会社が暴力団に支払った「上納金」は、損金に該当しな⑦

16いと判示している。また、脱税協力手数料の損金性が争点となった最判平成6年9月

日刑集 巻 号 頁の【エス・ブイ・シー事件】 では 「架空の経費を計上して所得48 6 375 ⑧、

を秘匿することは、事実に反する会計処理であり、公正処理基準に照らして否定されるべ

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きものであるところ、右手数料は、架空の経費を計上するという会計処理に協力したこと

に対する対価として支出されたものであって、公正処理基準に反する処理により法人税を

免れるための費用というべきであるから、このような支出を費用又は損失として損金の額

に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできないと解

するのが相当である 」と判示した。。

すなわち、法人税法では、暴力団への経営指導料および脱税協力手数料のような公序良

俗に反するような支出は、たとえ益金に対する対応性があったとしても、法人税法 条22

4項の公正処理基準をもって損金算入を否認できるものとしたのである。

この点については、学説上、法人税法 条4項は確認規定であり、創設的規定ではな22

いので、課税関係を律することはできないとする見解や、また、公序良俗に反する費用の

損金算入を認めないとするのであれば、租税法律主義の観点から、明文をもって規定すべ

きであるとする反論もある点に留意を要する。

2.本件における当てはめ

( ) 精算未了となっている 万円1 10

本問において精算未了となっている 万円は、客からの預り金勘定として処理される10

金額で、 万円は会計学的にいえば負債である。したがって、損益計算に影響を及ぼす10

ものではないので、所得の金額の計算上、控除される。なお、この控除の意味は、必要経

費としての控除ではなく、収入金額除外項目としての控除であるので注意を要する。

( ) 暴力団員 に対する経営指導料2 B

上記の検討のとおり、本件において暴力団員Bに支払った 万円の経営指導料は、違240

法利得が収入金額として課税の対象となる以上、それに直接関連して発生した費用である

ので、必要経費に算入されるものと考える。

( ) ポーカーゲーム機の減価償却費 万円3 50

減価償却費とは、土地等を除く固定資産につき、その物理的減価及び機能的減価を測定

し、当該固定資産の取得価額を耐用年数にわたって費用配分する会計手続きをいう。この

考え方は、当該固定資産は収益をもたらす源泉であり、したがってその取得に要した金額

(取得価額)は、将来の収益に対応する費用の前払いとみることができ、企業会計におけ

る費用収益対応の原則から、当該固定資産の取得に要した費用は、いったん資産に計上し

た上で、毎期(毎年)その固定資産の減価に対応する部分を 「減価償却費」として認識、

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をすることになる。

したがって、本件の場合、ポーカーゲーム機は違法所得であっても収益をもたらす源泉

であり、減価償却の対象となり、本件所得が事業所得に該当する以上、一定の計算方式で

、 。適正に計算された減価償却費は 事業収入からマイナスされる必要経費として処理される

以上、ポーカーゲーム機の減価償却費 万円は、控除される。50

【関係法令/通達】

所得税法

(収入金額)

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算第 条36入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭

以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又

は権利その他経済的な利益の価額)とする。

2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を

取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。

3 無記名の公社債の利子、無記名株式等の剰余金の配当(第 条第1項(配当所得)24に規定する剰余金の配当をいう )又は無記名の貸付信託、投資信託若しくは特定受益。

証券発行信託の受益証券に係る収益の分配については、その年分の利子所得の金額又は

配当所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、第一項の規定にかかわらず、その年

において支払を受けた金額とする。

(必要経費)

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の第 条37金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち

第 条第3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く )の計算35 。

上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入

金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年

における販売費 一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用 償、 (

却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く )の額とする。。

2 山林につきその年分の事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上

必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その山林の植林費、取得

に要した費用、管理費、伐採費その他その山林の育成又は譲渡に要した費用(償却費以

外の費用でその年において債務の確定しないものを除く )の額とする。。

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(事業所得)

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事第 条27( 。)業で政令で定めるものから生ずる所得 山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く

をいう。

2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した

金額とする。

(一時所得)

一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職第 条34所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じ

た所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有し

ないものをいう。

2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るため

に支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生

に伴い直接要した金額に限る )の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除。

額を控除した金額とする。

3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、 万円(同項に規定する残額が 万円50 50に満たない場合には、当該残額)とする。

(雑所得)

雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所第 条35得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。

(以下、省略)

法人税法

(各事業年度の所得の金額の計算)

内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年第 条22度の損金の額を控除した金額とする。

2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金

額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は

役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該

事業年度の収益の額とする。

3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金

額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の

二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償

却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く )の額。

三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

4 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正

妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

5 第2項又は第3項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少

115を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第

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条第1項 (中間配当)に規定する金銭の分配を含む )をいう。。

(不正行為等に係る費用等の損金不算入)

内国法人が、その所得の金額若しくは欠損金額又は法人税の額の計算の基礎と第 条55なるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装すること(以下この項及び次項にお

いて「隠ぺい仮装行為」という )によりその法人税の負担を減少させ、又は減少させ。

ようとする場合には、当該隠ぺい仮装行為に要する費用の額又は当該隠ぺい仮装行為に

より生ずる損失の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に

算入しない。

2 前項の規定は、内国法人が隠ぺい仮装行為によりその納付すべき法人税以外の租税

の負担を減少させ、又は減少させようとする場合について準用する。

3 内国法人が納付する次に掲げるものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金

額の計算上、損金の額に算入しない。

一 国税に係る延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税

並びに印紙税法 (昭和 年法律第 号)の規定による過怠税42 23二 地方税法 の規定による延滞金(同法第 条 (法人の道府県民税に係る納期限の65

延長の場合の延滞金 、第 条の の2(法人の事業税に係る納期限の延長の場合) 72 45の延滞金)又は第 条(法人の市町村民税に係る納期限の延長の場合の延滞金)の327規定により徴収されるものを除く 、過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金。)

4 内国法人が納付する次に掲げるものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金

額の計算上、損金の額に算入しない。

一 罰金及び科料(通告処分による罰金又は科料に相当するもの及び外国又はこれに

準ずる者として政令で定めるものが課する罰金又は科料に相当するものを含む )並。

びに過料

二 国民生活安定緊急措置法 (昭和 年法律第 号)の規定による課徴金及び延48 121滞金

三 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 (昭和 年法律第 号)の規22 54定による課徴金及び延滞金

四 証券取引法第6章の2 (課徴金)の規定による課徴金及び延滞金

5 内国法人が供与をする刑法 (明治 年法律第 号)第 条 (贈賄)に規定す40 45 198る賄賂又は不正競争防止法 (平成5年法律第 号)第 条第1項 (外国公務員等に47 18対する不正の利益の供与等の禁止)に規定する金銭その他の利益に当たるべき金銭の額

及び金銭以外の資産の価額並びに経済的な利益の額の合計額に相当する費用又は損失の

額(その供与に要する費用の額又はその供与により生ずる損失の額を含む )は、その。

内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

IRC( )Internal Revenue Code162. Trade or business expenses§

a In general( )

ordinary and necessary expenses paid or incurredThere shall be allowed as a deduction all the・・・during the taxable year in carrying on any trade or business, including—

c Illegal bribes, kickbacks, and other payments( )

1 Illegal payments to government officials or employees( )

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No deduction shall be allowed under subsection a for any payment made, directly or( )

indirectly, to an official or employee of any government, or of any agency or instrumentality of anygovernment, if the payment constitutes an illegal bribe or kickback or, if the payment is to an official oremployee of a foreign government, the payment is unlawful under the Foreign Corrupt Practices Act of1977. The burden of proof in respect of the issue, for the purposes of this paragraph, as to whether apayment constitutes an illegal bribe or kickback or is unlawful under the Foreign Corrupt Practices(

Act of 1977 shall be upon the Secretary to the same extent as he bears the burden of proof under)

section 7454 concerning the burden of proof when the issue relates to fraud .( )

2 Other illegal payments( )

No deduction shall be allowed under subsection a for any payment other than a payment( ) (

if the payment constitutes andescribed in paragraph 1 made, directly or indirectly, to any person,( ))

illegal bribe, illegal kickback, or other illegal payment under any law of the United States, or under anybut only if such State law is generally enforced , which subjects the payor to a criminallaw of a State ( )

penalty or the loss of license or privilege to engage in a trade or business. For purposes of thisparagraph, a kickback includes a payment in consideration of the referral of a client, patient, orcustomer. The burden of proof in respect of the issue, for purposes of this paragraph, as to whether apayment constitutes an illegal bribe, illegal kickback, or other illegal payment shall be upon theSecretary to the same extent as he bears the burden of proof under section 7454 concerning the burden(

of proof when the issue relates to fraud .)( ) ・・・3 Kickbacks, rebates, and bribes under medicare and medicaid