平成20年度 日本組織適合性学会 認定HLA検査技術者講習会...

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平成20年度 日本組織適合性学会 認定 HLA 検査技術者講習会 テキスト 講習会の日時:平成20年9月20日(土曜日) 午前 9時〜11時 会場:大阪国際会議場(グランキューブ大阪) 〒530-0005 大阪市北区中之島 5-3-51 Tel.06-4803-5555 Fax.06-4803-5620 http://www.gco.co.jp/japanese.html 日本組織適合性学会・組織適合性技術者認定制度委員会 教育部会 編集

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平成20年度 日本組織適合性学会

認定 HLA 検査技術者講習会 テキスト

講習会の日時:平成20年9月20日(土曜日) 午前 9時〜11時

会場:大阪国際会議場(グランキューブ大阪)

〒530-0005 大阪市北区中之島 5-3-51

Tel.06-4803-5555 Fax.06-4803-5620

http://www.gco.co.jp/japanese.html

日本組織適合性学会・組織適合性技術者認定制度委員会

教育部会 編集

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日本組織適合性学会 平成20年度・認定 HLA検査技術者講習会

日時:平成20年9月20日(土曜日)

午前9時~11時

会場:大阪国際会議場(グランキューブ大阪)

講習プログラム

9:00〜 9:40 Ⅰ. HLA-DNA タイピングから個人の全ゲノム情報解読の時代へ p 2〜 9

安波 道郎(やすなみ みちお)

長崎大学・熱帯医学研究所

9:40〜10:20 Ⅱ. HLA抗体検出テクニックについて p10〜21

中島 文明(なかじま ふみあき)

日本赤十字社中央血液研究所・研究三課

10:20〜11:00 Ⅲ. 腎移植とクロスマッチ・HLA抗体検査:臨床側からの要望 p22〜30

小林 孝彰(こばやし たかあき)

名古屋大学・医学部・免疫機能制御学

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Ⅰ.HLA-DNA タイピングから個人の全ゲノム情報解読の時代へ

安波 道郎(やすなみ みちお)長崎大学・熱帯医学研究所

要約

HLA の型は HLA 分子のアミノ酸の並びによって規定されており、アミノ酸配列はその遺伝子の塩基配

列によって決定付けられていることから、個人のHLA遺伝子DNAの多様性を明らかにすることでHLAの

型を知ることができる。実際にHLAの型決定に用いられる代表的なゲノムDNA多様性の検出法として、

PCR-RFLP法、PCR-SSO(またはSSOP)法、PCR-SSP法、PCR-SBT法などの原理とその特徴を概説する。HLA

遺伝子座はヒトの遺伝子の中で最も多様性に富むものの一つであるため、説明を単純にするために ABO

血液型を規定する遺伝子座のDNAタイピングを紹介する。さらに新世代の遺伝子多型・塩基配列解析技

術の進歩により、個人の全ゲノム情報を解読することも現実的となりつつある。

1.はじめに

よく知られているように、HLA はヒトの遺伝子の中で最も多様性に富むものの一つであるため、その

解析は複雑である。しかし基本的にはどの遺伝子多型も同じ原理でその遺伝子型を実験的に知ることが

でき、HLA の場合にはその他の遺伝子多様性に比べて単純にデータが多く、その解釈(即ちアリルのア

サインメント)の際に配慮が必要となるのみである。HLA領域にはそれぞれいくつかのHLAクラスI、ク

ラスIIの遺伝子が存在しているが、ここでは古典的なHLA-A、-B、-C、-DR、-DQ、-DPを考える。IGMT-HLA

データベース(http://www.ebi.ac.uk/imgt/hla/)には日々新しく発見されたアリルの登録が継続され

ており、現在(Release 2.22.0, 11 July 2008)までにA: 673アリル、B: 1077アリル、C: 360アリル、

DRA: 3アリル、DRB: 669アリル(うちDRB1: 585アリル、DRB3: 45アリル、DRB4: 13アリル、DRB5: 18

アリル)、DQA1: 34アリル、DQB1: 93アリル、DPA1: 27アリル、DPB1: 128アリルに至っている(表1)。

これらのアリルの中にはアミノ酸配列では同義のものや、遺伝子の発現レベルに影響するものも含んで

いるがいずれもDNAタイピングによれば弁別は可能である。しかし、これらの中には極めて稀にしか集

団内に存在しないもの、特定の民族にしか見られないものも含んでいて現実にはここまでの数のアリル

を弁別するまでのタイピング精度(resolution)が要求されることはほとんどない。

タイピングの原理の理解を助ける意味でここでは、ABO 血液型を規定する遺伝子座(ABO 座)の DNA

タイピングについて言及する。最後にゲノム解読の新技術を簡単に紹介する。

表 1 IMGT-HLA データベースに登録されているHLAアリルの数(Release 2.22.0, 11 July 2008)

Numbers of HLA Alleles

HLA Class I Alleles 2,215

HLA Class II Alleles 986

HLA Alleles 3,201

Other non-HLA Alleles 105

Number of Confidential Alleles 8

HLA Class I

Gene A B C E F G

Alleles 673 1077 360 9 21 36

Proteins 527 911 283 3 4 14

Nulls 46 38 8 0 0 1

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表1 (続き)

HLA Class I - Pseudogenes

Gene H J K L P T U V W X

Alleles 12 9 6 5 4 0 0 3 0 0

Proteins 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

Nulls 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

HLA Class II

Gene DRA DRB DQA1 DQB1 DPA1 DPB1 DMA DMB DOA DOB

Alleles 3 669 34 93 27 128 4 7 12 9

Proteins 2 546 25 68 16 114 4 7 3 4

Nulls 0 8 1 1 0 2 0 0 1 0

HLA Class II - DRB Alleles

Gene DRB1 DRB2 DRB3 DRB4 DRB5 DRB6 DRB7 DRB8 DRB9

Alleles 585 1 45 13 18 3 2 1 1

Proteins 487 0 37 7 15 0 0 0 0

Nulls 3 0 0 3 2 0 0 0 0

Other non-HLA Genes

Gene MICA MICB TAP1 TAP2

Alleles 64 30 7 4

Proteins 54 19 5 4

Nulls 0 2 1 0

2.ABO遺伝子座の多型をモデルとして

1)ABO血液型を規定する遺伝子多型

ABO 血液型は最も古く見いだされたヒト集団にみられる遺伝子多型である。臨床の現場で DNA タイピ

ングが必要となることは稀であるが、ヒトの遺伝子標識として法医学的な検査の一つとしての有用性は

高い。DNA レベルでは ABO 遺伝子座にも 200 を超えるアリルが報告されているが、ここでは議論を簡単

にするために日本人に最も高頻度にみられる*O、*A、*Bの 3アリルのみに注目する。ABO遺伝子産物は

細胞表面や細胞外に分泌されるたんぱく質を修飾している糖鎖の非還元末端に糖を付加する活性を有す

る酵素(糖転移酵素)であり、ABO 遺伝子は第 9 染色体上に位置して、7 つのエキソンで構成され、*A

アリルがその原型と考えられている。*Oアリルは、第6エキソンで1塩基対の欠失があり、その結果翻

訳のフレームシフトを生じ、酵素活性のないポリペプチド鎖をコードする。*Bアリルはコード領域内で

*Aアリルとは7ヶ所(そのうち6ヶ所が第7エキソン)に1塩基対の置換があり、その産物に4アミノ

酸残基の相違がある(図1)。その結果糖転移酵素の基質特異性が N-アセチルグルコサミンからガラク

トースに変わり、*Aアリル産物がH型物質をA型物質に変化させるのに対して、*Bアリル産物はH型物

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質をB型物質に変化させる。

前述のように*Aアリル(*A101)をプロトタイプと考えると、*Oアリル(*O01)は 261delG、*Bアリ

ル(*B101)は 297A>G; 526C>G; 657C>T; 703G>A; 796C>A; 803G>C; 930G>A と表示される。即ち、この

場合*Aアリルであるか*Bアリルであるかを決めているのは第6および第7エキソンに位置する7ヶ所の

単一塩基多型(SNP)アリルの組合せ(=「SNP ハプロタイプ」)である。集団内にこの 3 アリルだけし

か存在しないならば、261delGを検出することで*Oアリルの存在を100%予測でき、297G、526G、657T、

703A、796A、803C、930Aの 7SNPアリルのいずれかを検出すれば*Bアリルの存在を100%予測できる。(こ

の場合のように特定の多型ハプロタイプの有無を予測できるSNPを「tag SNP」と呼ぶ。)

図1 ABO 遺伝子座の構造と3種類の代表的なアリル

2)ABO遺伝子座のPCR-RFLP によるタイピング

*O アリルとそれ以外のアリルの相違は、第 6 エキソンの 261delG による制限酵素 KpnI 認識配列

(GGTACC)の生成あるいは制限酵素BstEII認識配列(GGTNACC)の喪失のいずれかで見分けることがで

きる(図2)。同様に、第7エキソンの526C>Gの置換を制限酵素NarI認識配列(GCCGGC)の生成または

制限酵素BssHII認識配列(GCGCGC)の喪失で検出すれば、*Bアリルの存在を知りうる(図2)。個人の

ゲノムDNAを材料とし、表2のオリゴヌクレオチドをプライマーに用いて、第6エキソン、第7エキソ

ンをそれぞれPCR法で増幅した後、これらの制限酵素を反応させると、これらのSNPsの遺伝子型に対応

して異なる切断パターンを観察できる(図3)。この対応関係から、集団内に3種類のアリルしかない場

合には2つのSNP座の結果からABO遺伝子型を判定できる(表3)。

表2 ABO 遺伝子座 第 6エキソン、第7エキソンを増幅するPCR法に用いるプライマーの配列

Exon Forward Sequence Reverse Sequence 増幅断片長

6 ABO6F AAGCTGAGTGGAGTTTCCAG ABO6R ACCTCAATGTCCACAGTCAC 301/302 bp

7 ABO7F GCTCTAAGCCTTCCAATGGC ABO7R CCGTTCTGCTAAAACCAAGG 871 bp

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図2 ABO 遺伝子座第6、第 7エキソン周辺の塩基配列

エキソン部分を黄色で、*Oアリル、*A2アリルの一塩基欠失を赤(-)で、その一塩基欠失によるフレー

ムシフトを灰色で、*Aアリルと*Bアリル間で異なる7ヶ所のSNPを空色で示す。緑の配列はPCRプライ

マーおよびダイレクトシーケンシングプライマーの結合部位。

図3 ABO 遺伝子座各アリルのPCR産物の制限酵素地図

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表3 ABO 遺伝子座 PCR産物の制限酵素切断パターンとABO遺伝子型の対応

Exon 6 KpnI Exon 7 BssHII 261delG genotype 526C>G genotype ABO genotype

302 bp 871 bp G/G G/G *B/*B

302 bp 871 bp +612 bp +259 bp G/G G/C *A/*B

302 bp 612 bp +259bp G/G C/C *A/*A

302 bp +176 bp +125 bp 871 bp G/del G/G 説明不能

302 bp +176 bp +125 bp 871 bp +612 bp +259 bp G/del G/C *B/*O

302 bp +176 bp +125 bp 612 bp +259bp G/del C/C *A/*O

176 bp +125 bp 871 bp del/del G/G 説明不能

176 bp +125 bp 871 bp +612 bp +259 bp del/del G/C 説明不能

176 bp +125 bp 612 bp +259bp del/del C/C *O/*O

3)ABO遺伝子座のPCR-SSP によるタイピング

PCR の反応がプライマーの塩基配列とテンプレート DNA の塩基配列の一致度に依存して成否が決定付

けられることを利用したSSP法は、特殊な検出系を要しないことが利点であるが、もう一つの利点は、

離れた SNP 座の間でのアリルの組合せ(=SNP ハプロタイプ)を検出できることである。表4に ABO 遺

伝子座の SSP プライマーを示す。これらのプライマーはその 3′末端に SNP の塩基(261delG および

703G>A)になるように設計したが、不一致のアリルについても増幅が見られたため、3′末端から2番目

の塩基にテンプレートDNAとは一致しない配列を導入したARMS-PCRを設計することでその問題を解決し

た(Yamazaki, A. et al. in preparation)。

表4 ABO 遺伝子座の各アリルを検出するPCR-SSP 法、ARMS-PCR法に用いるプライマーの配列

Allele Forward Sequence Reverse Sequence

*O ABO-O F GGAAGGATGTCCTCGTGGTA ABO-O R CGGCTGCTTCCGTAGAAGCC

*A ABO-B F GGAAGGATGTCCTCGTGGTG ABO-O R CGGCTGCTTCCGTAGAAGCC

*B ABO-B F GGAAGGATGTCCTCGTGGTG ABO-B R CGGCTGCTTCCGTAGAAGCT

*O ARMS ABO-O F GGAAGGATGTCCTCGTGGCA ARMS ABO-O R CGGCTGCTTCCGTAGAAGAC

*A ARMS ABO-B F GGAAGGATGTCCTCGTGGCG ARMS ABO-O R CGGCTGCTTCCGTAGAAGAC

*B ARMS ABO-B F GGAAGGATGTCCTCGTGGCG ARMS ABO-B R CGGCTGCTTCCGTAGAAGAT

3.HLA遺伝子座のDNAタイピング

1)遺伝子多型検出の原理

PCR-RFLP 法、PCR-SSP 法については言及したが、PCR で増幅した DNA の塩基配列を直接に明らかにす

る方法の他に、もう一つの最も広く応用されている方法は多型部位に相補的なオリゴヌクレオチドを用

いて、型特異的に結合する性質を利用して、その成否によって型判別するPCR-SSO法である。原法はHLA

の座位特異的にいかなるアリルであっても増幅する(「ジェネリックなPCR」ともいわれる)PCRの産物

をナイロン膜などの固相表面に固定し、アリルに特徴的な配列に対応するオリゴヌクレオチドを標識し

てプローブとし、固相表面の標識を検出ものであるが、タイピング精度の高低は使用するプローブ数に

依存するため、ある程度の数のプローブを用いて検索する必要があり、プローブ側を固相表面に固定す

るreverse SSO法の方が実用的である。固定する材質としては、マルチウェルプレートの底面、テスト

テープ、蛍光でコード化されたビーズを用いたものが市販キットとして開発され、広く用いられている。

HLA 遺伝子のアリルも ABO 遺伝子の例で示したのと同様に、複数の SNP の組合せそのものである。ア

リル数は非常に多いが、それでも存在しうるすべての組合せが見つかることはないので、集団での存在

率があらかじめ判っているならば、すべての塩基配列を明らかにすることなくアリルを特定することが

できる。したがってPCR-RFLP法、PCR-SSP法、PCR-SSO法のように塩基配列情報については限定的なデ

ータしか得られなくとも、(HLAの座位によっては)実用的には十分な程度のタイピング精度、即ち異な

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る配列の弁別能を達成することができる。

タイピング精度についていえば、直接に塩基配列情報を収集してアリルを特定するSBT法は情報不足

に基づく弁別不能(あるいは、より一般的には「アンビギュイティ」)が最も少ない高精度のタイピング

法である。しかし、多型の組合せについての情報は全く得られず、取得したデータを説明可能な複数の

アリルの組合せが存在してしまう結果となることがあり、中にはアリルの上2桁さえも確定できないこ

ともある。このような組合せの「アンビギュイティ」は、対象集団でのアリル頻度に基づいてどの組合

せがより確からしいかを推定することもできるが、アリルを確定するにはSSP法の適用や、一部のアリ

ル群に対応したシーケンシングプライマーを用いて同様に塩基配列データを取得するなどの工夫が必要

である。

2)SBT法におけるアンビギュイティ

SBT 法はアンビギュイティが最も少ない方法であることを述べたが、上述のような(表5にその例を

示す)組合せのアンビギュイティの他に、通常データを取得しない領域の相違によるものが知られてい

る(表6にその例を示す)。市販のPCR-SSOキットの中にはこれらを判別できるものがあり、したがって

複数の異なる原理に基づく方法を組み合わせることは極めて有用である。

表5 SBT 法における組合せのアンビギュイティの例

HLA-A Ambiguities exons 2+3

A*0101/04N/22N+A*020101 A*0114+A*9201 A*0236+A*3604

A*240201+A*3025 A*2407+A*300201/02

A*240207+A*2613 A*2407+A*260102

HLA-B Ambiguities exons 2+3

B*1502+B*510102 B*1513+B*780201

B*390201+B*5101 B*3939+B*520602

B*400601+B*5602 B*4011+B*5601 B*4070+B*5604

HLA-DRB1 Ambiguities pos 101-356

DRB1*030101+DRB1*030201 DRB1*0303+DRB1*030501/02 DRB1*0306+DRB1*0329

DRB1*150201+DRB1*160101 DRB1*1511+DRB1*1609 DRB1*1515+DRB1*160501

(IMGT-HLAデータベースより抜粋)

表6 通常のSBT法においてデータを取得しない多型によるアンビギュイティの例

HLA-A Ambiguities exons 2+3

A*02010101 A*02010102L 他15アリル

A*0207 A*0215N

A*03010101 A*03010102N 他5アリル

HLA-B Ambiguities exons 2+3

B*15010101 B*15010102N 他6アリル

B*1512 B*1519

B*520101 B*5207

HLA-DRB1 Ambiguities pos 101-356

DRB1*120101 DRB1*1206 DRB1*1210

DRB1*140101 DRB1*1454

(IMGT-HLAデータベースより抜粋)

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4.新しい遺伝子多型解析技術・塩基配列解析技術

1)オリゴヌクレオチドアレイによるゲノムワイドのSNP/CNV 解析

ヒトゲノム計画、HapMap計画の成果に基づいて、情報含量の高いSNP座位の遺伝子型を決定する数十万

種類のプローブを同時に検索するDNAアレイが設計され、個々人の大量の遺伝子多型情報を迅速に収集で

きるようになった。中にはHLA領域のSNPについて、特に高密度に検索するものも設計されている。さら

に、以前はアミラーゼ遺伝子や HLA クラス III 領域の補体 C4 遺伝子など少数の限られた遺伝子座で知ら

れていた遺伝子コピー数の個人差(CNV)が、近年数千の遺伝子領域に比較的高頻度に認められることが

明らかになり、SNP解析と併せてCNVの情報も同一のDNAアレイで解析可能となっている。

2)大量並列シーケンシング技術による全ゲノム塩基配列解析

数十塩基の短い配列情報を短時間に極めて大量に取得する技術が開発され、それに適したアルゴリズム

を適用することで、細菌等の比較的簡単な生物種の全ゲノム配列を遺伝子クローニングを経ずに数日で明

らかにできるようになった。現時点では個人のゲノムを直接解読するには、ゲノムのサイズと反復配列の

存在に伴なう諸問題が障壁となっているが、さらにシーケンシング技術と周辺の補助的な技術は改良され

つつあり、近い将来には個々人の全ゲノム塩基配列情報を比較的短時間で効率的に明らかにできるように

なると思われ、これらの技術が様々な疾患に対する感受性を含む多くの表現型の発現機構の解明に大きく

貢献することが期待される。

5.参考文献

猪子英俊・笹月健彦・十字猛夫 監修: 移植・輸血検査学、2004年、講談社サイエンティフィック

************************************************ 講師の連絡先

長崎大学・熱帯医学研究所

安波 道郎(やすなみ みちお)

〒852-8523 長崎市坂本1丁目12番4号

Phone: 095-819-7857 Fax: 095-819-7821

E-mail: [email protected]

************************************************

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MEMO

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Ⅱ.HLA抗体検出テクニックについて

中島 文明(なかじま ふみあき)日本赤十字社中央血液研究所・研究三課

要約

HLA 抗体の検出は、誰が実施しても同一で確実な結果を得ることが理想であるが、なかなかそうはい

かない。そこに求められるのは、検出テクニックの同一性であるが、現在の抗体検出手法は多様で、検

出感度や方法論によって結果に差が生じる。また、輸血や移植といった検出目的によっても結果の解釈

に差が生じる。表題の「HLA 抗体の検出テクニック」には、二つのことが求められる。一つは文字通り

操作上のテクニック、もう一つは結果を解釈するための知識と応用力である。操作段階のテクニックで

は、主に扱うサンプルに由来する非特異反応や高感度化に伴う問題について取り上げる。一方、解析段

階での知識と応用力については、HLA システムの特殊性およびエピトープ(抗原決定基)からみた抗体

特異性の解釈、さらには許容抗原について述べる。

1.はじめに

現在、わが国で主流となっているHLA抗体検査試薬は、精製HLA抗原をマイクロビーズに固定した検

出試薬(商品名:FlowPRAおよびLABScreen、米国One Lambda社製)である。前者はフローサイトメー

タで、後者はLuminex装置で測定する。どちらも、間接蛍光抗体法の応用であり、マイクロビーズに固

定されたHLA抗原に被検血清中のHLA抗体を反応させ、蛍光標識した二次抗体(抗ヒトグロブリン抗体)

で検出する手法である。これら以外にも、同様な方法論で行なう幾つかの市販試薬が容易に入手可能で、

本当に便利な時代になってきた(表1)。しかし、これまであまり問題とならなかった、サンプル固有の

非特異反応や高感度化に伴うNon-HLAと考えられる反応などが浮き彫りになってきた。このような現象

をどうしたら回避できるか実験例を示しながら解説する。

次に、得られた結果を解釈するうえで、どのように表現すべきか考える。HLA 抗体を解析するにあた

り、最も重要なことは HLA システムを十分理解することである。HLA 抗原はエピトープ(抗原決定基)

の集合体であり、抗体特異性との関係が理解できず、結果の解釈が不十分であるとその報告内容は相手

に伝わらない。さきに述べた現在主流の HLA 抗体検査試薬は極めて検出感度が高く、抗体特異性を 10

も 20も列挙することになるが、そのような報告書は意味不明とさえ言える。そのサンプルに含まれる抗

体がどのようなエピトープに向かっている抗体であるか考え、明確にならない場合は、抗体特異性とは

正反対の許容抗原という考え方で解析してみる。以上のことを、実際の解析例で解説する。

方  法 品  名 用  途

LCT(CDC-XM) - Specific、CrossmatchAHG-LCT(CDC-XM) - Specific、CrossmatchLIFT(FC-XM) - Specific、CrossmatchMAILA(Antigen Capture ELISA) - Specific、CrossmatchICFA(Antigen Capture 蛍光マイクロビーズ) - Specific、Crossmatch凍結リンパ球・LCT Lambda Cell Tray Specific

Screening(Mixed)Specific(LAT)Single AntigenScreeningSpecificSingle AntigenScreening(Mixed)Specific(PRA)Single Antigen

WAKFlow HLA抗体クラスⅠ(MR) ScreeningWAKFlow HLA抗体クラスⅡ(MR) ScreeningAb Screen HLA ScreeningAb Ident HLA SpecificMICROAMS Crossmatch

糖タンパク・ELISA PAKPLUS Screening(HPA用)Anti-PLT・オリビオ・MPHAⅡ Screening(HPA用)anti-HPA/MPHA パネル Specific(HPA用)

Lambda Antigen Tray

FlowPRA

LABScreen

血小板抽出抗原・MPHA

精製抗原・蛍光マイクロビーズ(Luminex)

糖タンパク・ELISA

精製抗原・ELISA

精製抗原・蛍光マイクロビーズ(FCM)

精製抗原・蛍光マイクロビーズ(Luminex)

表1 日本国内で実施可能あるいは入手可能な主なHLA抗体検出方法

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2.操作について

1)非特異反応

被検血清はヒト由来であるため、HLA 抗体以外に反応を示す非特異成分が多く含まれる。これは、主

に血清中のある種のタンパクがマイクロビーズと結合し、使用している二次抗体が反応を示す現象であ

る。通常、反応性の強いHLA抗体では問題にならないが、反応性がさほど強くない場合、この非特異成

分の反応に打ち消され、存在しているはずの抗体反応を隠してしまうことがある。いわゆる、バックグ

ランドが高い状態であり、そのレベルはサンプルによって様々である。FlowPRA および LABScreen 以外

のHLA抗体検出方法でも多くの場合は二次抗体が関与し、このような、非特異反応は避けて通れない。

我々は、FlowPRA について非特異反応を排除する実験を行なった。通常の操作方法でバックグランド

が高くなるサンプルを選び、精製抗原マイクロビーズとサンプル血清を反応させる過程において、サン

プルをフィルターろ過・吸着除去・血清希釈・反応温度の変更、あるいは測定時の機器設定を変化させ

て観察した。フィルターろ過は「ウルトラフリーMC(ミリポア製UFC30GV00)」という0.22μmのスピン

カラム・フィルターを使用し、吸着除去は「Adsorb Out(OneLambda製 ADSORB)」というLABScreen用の

非特異成分吸着ビーズを使用した。血清希釈はPBSで4倍と16倍に希釈した。反応温度は4℃と37℃で、

洗浄時もその温度の洗浄液を使用した。機器設定は側方散乱光のゲインを上下に一段ずつ振ってみた。

最も効果が認められたのが、非特異成分を吸着除去した場合であった。また、これに近い効果を得た

のが、反応温度を37℃で行なった場合であった。通常の反応温度は室温であるが、37℃で反応させたこ

とにより、非特異成分がマイクロビーズと結合せず、結果として二次抗体も反応しなかったと考えられ

る。このときのポイントは洗浄液も37℃で行なうことである。どちらも、非特異反応の減衰によって本

来の抗体反応を認めることができた。主要なピークは陰性コントロールとほぼ一致し(陰性コントロー

ル血清とのシフト量の差が1以下)、その右に小さなピークが二つ観察できる(図1の点線赤丸部分)。

血清希釈の場合もある程度の効果は得たが、本来の抗体反応も減弱していくため希釈率の設定が困難と

考えられる。血清ろ過と高ゲインの機器設定の場合、非特異反応の減弱はあまり認められなかったが、

ヒストグラムは鮮明になった。また、16倍希釈と低ゲインでは、主要ピーク右の小さなピークも埋もれ

てしまい逆効果であった(図1)。

Untreated Filtration Dilution x4 Temp. 4℃ Low gain

Adsorb-out Dilution x16 Temp. 37℃ High gain

0.8 1.2

29.4

15.0-0.8

22.5 16.6 0.9 8.1

High Background Serum

Negative Control Serum

数字は NCに対する      Peak 値の差 →

Eve

nts

→ FL1 Log

図1 同一サンプルで反応条件と機器設定を変化させたFlowPRA Screening Testの結果

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LABScreen についても、機器設定を除く同様の条件変化で観察した。明確に抗体特異性が認められた

のは吸着除去のみである。未処理の場合はバックグランドが高いので、ほとんどのビーズと反応してい

るように見えるが、非特異成分を吸着除去すると、HLA-B44と B75の抗体特異性が見えてくる。これが、

FlowPRAで観察された二つの小さなピークに一致している。LABScreenの場合、測定結果は陰性コントロ

ール血清と陰性コントロールビーズでIndex値(後述)を計算するため、相対的に蛍光値に差が表れな

いと抗体陽性とは判定されない。FlowPRA である程度効果が認められた 37℃と 4 倍希釈では、HLA-B44

と B75の反応は上位に位置し吸着と類似した反応を認めたが、陽性判定には至っていない。その他の条

件でも、個々の蛍光値を確認するとFlowPRAと同様の測定結果であったが陽性とは判定されなかった(図

2)。

Untreated

Adsorb-out Temp. 37℃ Dilution x4

図2 同一サンプルで反応条件を変化させたLABScreen PRA Test(NBG Ratio Scoring)の結果

以上のことより、非特異反応の排除で最も推奨できる方法が吸着用マイクロビーズであるが、1 サン

プルあたり¥1,000 以上の費用増になる。また、すべての非特異反応が吸着できるとは限らないので、

37℃や希釈も考慮する必要がある。同一人由来であれば、サンプル採取時期が異なっても、非特異反応

の状態はほとんど変化しないので、これらの方法でサンプルの特徴を把握しておくことも重要といえる。

ここまでの、FlowPRA と LABScreen の実験で、サンプル血清未処理の場合は、判定に躊躇するのでは

ないだろうか。どちらも非特異成分の反応に阻まれ、真の抗体反応はそれを上手に排除しないと現われ

てくれない。また、排除する方法を誤ると目の錯覚と数字のいたずらで全く見えなくなる。現在の二次

抗体を使用する検出方法では、血清(血漿)をサンプルとする限り非特異反応は当然存在するので、そ

の程度を測定画像や測定数値で見分ける目も必要である。また、反応性の強い抗体だけを重視するとし

ても、陰性か陽性ギリギリを見分けるテクニックが確実でないと、すべてのデータの信頼性は半減する

と考える。

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※※※ Index 値について ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ここで、バックグランドと Index 値について考えてみる。LABScreen は、前述したとおり測定した蛍

光値(MFI=Median Fluorescence Intensities)をそのまま結果としていない。陰性コントロール血清

と陰性コントロールビーズの反応を同時に測定し、図3に示したIndex値を計算し判定結果としている。

反応成分中にはマイクロビーズ、精製抗原、血清毎に特有のバックグランド成分が含まれ、これらを相

対的に排除する手法としてIndex値を求めている。LABScreen PRAと Single Antigenは「Index value A」

のとおりHLABを BBで除算して求めるが、スクリーニング用のLABScreen Mixedは「Index value B」の

とおりHLABから BBを差し引いて求める。「Index value A」が1ビーズ=1パネルで、各ビーズの蛍光

値に固有の非特異成分の違いから比率で表わし、「Index value B」はミックス・パネルでそれぞれの蛍

光値が平均化されているとみなし、非特異成分を単純に差し引く手法で表わしている。それぞれのIndex

値は、NBG(Normalized Background) Ratioと呼ばれている。最近では、「Baseline Normalized Value」

という数値でさらにバックグランドを排除した手法も採用しているが、判定プログラムのアルゴリズム

が不明のため、ここでは詳しく触れない。

HLAB BB HLAB BB

HLAB ● ●

BB ● ●

NS ● ●

Backgroundfactor

● ●

Anti-Bodyfactor

↓ ↓ ↓ ↓●● ●● ●●◎ ●●

NS SS

Microparticles

Index value

SSSerum

 SS_HLAB / SS_BB

 NS_HLAB / NS_BBIndex value A =

MFI(Median Fluorescence Intensities)

HLAB HLA antigen coated Beads BB Background Beads SS Sample Serum NS Negative control Serum

●●●● Background factor ◎ Anti-Body factor

 SS_HLAB - SS_BB

 NS_HLAB - NS_BBIndex value B =

図3 Index値の計算方法と各バックグランド成分の関係

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表2には、HLA 抗体陰性モデルと陽性モデルを想定して、各バックグランド成分に変化を持たせた場

合のIndex値の違いを示した。陽性モデルは蛍光値がさほど高くない抗体を想定してある。この中で、

何らかのバックグランド値が上下すると、計算上陽性や陰性に揺らぐことが見て取れる。Negative model

-NS-Highは、陰性コントロール血清のバックグランドが高いことに起因して、Index値が計算上高く

なり擬陽性を示している(表2-FP1 )。Negative model-SS-Lowのように、サンプル血清のバックグ

ランドが異常に低いと、これも擬陽性になる(表2-FP2 )。そして、前述の実験例と同様な Positive

model-SS-Highは、サンプル血清のバックグランドが高いことで、Index値が低くなり擬陰性を示して

いる(表2-FN )。

BackGround

Anti-Body

20 4 10 12 0 30 14 32 16 0.93

High 100 4 10 12 0 110 14 112 16 0.89Low 2 4 10 12 0 12 14 14 16 1.02High 20 100 10 12 0 30 110 32 112 1.05Low 20 2 10 12 0 30 12 32 14 0.91High 20 4 100 12 0 120 104 32 16 1.73 ← FP1Low 20 4 2 12 0 22 6 32 16 0.55High 20 4 10 100 0 30 14 120 104 0.54Low 20 4 10 2 0 30 14 22 6 1.71 ← FP2

20 4 10 12 200 30 14 232 16 6.77

High 100 4 10 12 200 110 14 312 16 2.48Low 2 4 10 12 200 12 14 214 16 15.60High 20 100 10 12 200 30 110 232 112 7.60Low 20 2 10 12 200 30 12 232 14 6.63High 20 4 100 12 200 120 104 232 16 12.57Low 20 4 2 12 200 22 6 232 16 3.95High 20 4 10 100 200 30 14 320 104 1.44 ← FNLow 20 4 10 2 200 30 14 222 6 17.27

=>1.5=>5

BB

NS

SS

Negative model

Positive model

Back GroundLevel

HLAB

HLAB

BB

NS

SS

NSHLAB

SS

SerumMicro

particles

BB

NS SS

HLAB BB HLAB BB

Indexvalue

A

表2 各バックグランド成分の変化とIndex値への影響

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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2)Non-HLA 反応

FlowPRAやLABScrenは極めて検出感度

が高い。精製抗原に結合する抗体であれ

ば、何でも検出可能といえる。我々がこ

れまでに検出した中に、表3に示す抗体

を数多く検出してきた。これらは、非特

異反応と異なり何らかのHLA抗体特異性

を認め、すべてIgG性である。

表4に示す特徴があり、HLA 抗体と関

係ない何かのクロス反応ではないかと推

測している。病原微生物に対する抗体か、

あるいは、ワクチンが原因とも言われて

いる。現在の精製抗原試薬は、こういっ

た反応をいとも簡単に検出してくる。

これらの中で、男性献血者由来の抗体

2 例について、リンパ球との反応が認め

られるか確認した。1 例は HLA-A31 単一

特異性抗体、もう1例はHLA-B62+B75+B76+B46でエピトープが推測できる抗体である。図4に示すとお

り、LABScreen では、弱いながらも 1,200 程度の蛍光値を得て抗体特異性も確認できている。われわれ

のデータでは、LCT法で検出可能な抗体の蛍光値は約8,000以上、AHG-LCT法で約5,000以上の反応強度

が必要であり、これらのサンプルは、明らかにLCT法で反応しない微弱な抗体である。

リンパ球との確認方法は日赤で開発したICFA(Immunocomplex Capture Florescence Analysis)法を

用いた。この方法は、蛍光マイクロビーズ(Luminex ビーズ)に HLA クラスⅠモノクローナル抗体をコ

ートしておき、可溶化した抗原抗体複合物をキャプチャさせ、蛍光標識二次抗体で検出する原理である。

我々の検討では、精製抗原Single Antigen試薬と同等の検出感度を確認している。

結果は2例ともICFA法陰性であった。精製抗原とは反応するが細胞膜上の抗原とは反応が認められな

かったことになる。この検証が正当であるかどうかは判断しかねるが、本来のHLA抗体と異なるもので

ある可能性は高い。

表4の1~3に該当する抗体は、まず疑ってかかるが、いまのところ、本来のHLA抗体と Non-HLA と

考えられる反応を確実に見分ける試験方法はない。また、このような抗体が臨床上問題にならないとい

う確証もない。

1. 抗体特異性が極めて鋭敏な反面、反応性が弱い

2. 日本人集団で検出されない抗原に対する抗体が多い

3. 男性にも多く検出される → 献血者27例中 16例(59%)が男性

4. 患者・ドナー・年齢・ABO型・疾患に関係なく検出される

表4 精製抗原試薬で検出する微弱なHLA抗体の特徴

単一特異性抗体

A80 5 例

A31 5 例

B37 4 例

DR10 4 例

A32, B8, B45, DR103 各 2 例

A3, A23, A29, A36, A68, B18, B27, B49,

B57, B76, DR3, DR7 各 1 例

エピトープが推定できる特異性の抗体

B57+B58+ 62-63GE 4 例

A1+A36+A80+ 90D, 97I 2 例

A25+A32 76-77ES 1 例

B62+B75+B76+B46 45-46MA, 156W 1 例

B49+B50 45K, 152E 1 例

表3 精製抗原試薬で検出した微弱なHLA抗体

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A31? B62+B75+B76+

3)IgM性の HLA抗体

市販試薬の二次抗体は IgG 特異的である。LCT 法では補体活性化から細胞傷害を惹起する抗体であれ

ば、IgG・IgMとも検出したが、現在ではIgM抗体は見えていない。表5には、LCT法で検出したHLA抗

体の免疫グロブリン・アイソタイプをLABscreenの二次抗体を変えて測定した結果である。サンプルは

献血者由来であるが、多くのIgM性抗体が含まれる。IgGのみの場合(No.1-14)は精製抗原試薬で広範

囲な反応になってしまうが、IgM を含む部分(No.15-24)では LCT 法と精製抗原試薬の結果がよく一致

している。IgG+IgMの IgG部分(No.15-19)は LCT法で検出できていない特異性である。

これらIgM性の抗体は自然免疫あるいは自己抗体といわれているが、従来、輸血・移植分野において

臨床上問題ないとされている。しかしながら、血小板輸血において一部、輸血不応の原因とされる報告

がある。健常者の中に、IgM 性の HLA 抗体を長期的に保有しているケースは多く認めている。これらが

本当に問題ないのか危惧されるところである。

市販試薬に添付される二次抗体を抗IgM抗体に変更して、IgM性の抗体を検出することは可能である。

ただし、操作条件をその二次抗体の性質にadjustする必要があり、それを厳密に行なうことも手間がか

かる。二次抗体を変更した場合の判定結果は単なる目安と考えるべきである。

No. Isotype LCT specificity LABScreen PRA (IgG) LABScreen PRA (IgM)

1 A2+B17 Multi specificity (-)2 A10+B5+B35 Multi specificity (-)3 A2 Multi specificity (-)4 B39 Multi specificity (-)5 B54 Multi specificity (-)6 B59 Multi specificity (-)7 Bw4 Multi specificity (-)8 Bw4 Multi specificity (-)9 Cw7+Cw17 Multi specificity (-)10 B37 B37+ (-)11 B67 B67+B22+B16+B7+B42+B48+B27+ (-)12 Cw2+Cw4+Cw5+Cw6+Cw15 B7c+B15+Cw15+Cw18 (-)13 Cw803 B48?,Cw8(1/9) (-)14 Cw9+Cw10 Cw9+Cw10+B5+B35+B78 (-)15 A1+A36+A80+A23+A24+A11.1 Multi specificity A1+A36+A80+A9+A11+A3316 A11.2 B7+B81+B40+B67 A11.217 A30 A30+A36+? A30+B42?18 B38+B39+B41 B37+B44+B42+B8 B41+B48+B16+B67+B8+B4419 B15+B57+B13 B49+B35+B5+B17+A30+A31+A33 B15+B57+B1320 A11+A3+A32+A74 (-) A11+A32+A74+A1+A69+21 B14 (-) B6522 B44+B45+B76 (-) B44+B45+B76+A123 B75 (-) B75+24 B8 (-) B8+

IgG

IgM

IgG+IgM

表5 LCT法で検出したHLA抗体の免疫グロブリン・アイソタイプ

図4 微弱な HLA 抗体を保有する男

性由来サンプルの LABScreen

PRA Test の結果

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3.解析について

1)抗体特異性解析

HLA抗体を解析する上で、認識しておかなければならないことがある。HLA抗原は対立遺伝子型そのも

のであり、他の血液型のように一つ一つのアロ特異性に抗原名が規定されていない。

以上のことをHLA抗体から見ると、共通のアミノ酸置換は、複数のHLA抗原のみならず複数のローカ

スに渡って認められる場合もあり、それぞれが抗原グループを形成している。その抗体特異性を表現す

るには、反応した抗原名を列挙する。例えば、HLA-B13+B60+B61と HLA-B7+B48+B60においてB60は抗原

名としては同一であるが、実際に反応する部位(=エピトープ)は異なる。それぞれの共通エピトープ

には国際的に認識された名称は存在しないが、従来から「CREG(Cross Reactive Group Antigens)」と

呼ばれている交差反応性グループ抗原は、その代表的なものといえる。最近のHLA抗体判定ソフトでは、

反応したパネル情報からエピトープに準じた判定結果を得られるものもある。

共通エピトープについてもう少し考えてみる LCT 法で HLA-B13+B47+B60+B61 という抗体特異性の場合、

共通エピトープは、41T(スレオニン:Thr)と 163E(グル

タミン酸:Glu)が推測される。このサンプルをLABScreen

Single Antigen で 調 べ る と 、

HLA-A66+B7+B13+B27+B41+B44+B45+

B47+B48+B49+B50+B4005+B60+B61+B81+Cw2+Cw17 となる。

感度が向上した分、検出結果も広範囲になるが、この場

合共通エピトープは見出せない。ただし、 41T(B13+B41+B44+B45+B47+B49+B50+B4005+B60+B61)と 163E(A66+B7+B13+B27+B47+B48+B60+B61+B81+Cw2+Cw17)は

別々に認められる。これらの共通部分を集めると(下線

赤字部分)、LCT法の結果と同一になる(表6)。この現象

をどう捕らえるか、次のように考察した。

① 41T と 163E に対する2種類の抗体が含まれ、検出感

度差と抗体の量的効果で、LCT 法は共通抗原のみ

反応した。

② 41T と 163E 同時に反応する抗体であり、共通でない

部分は結合力が弱くLCT法では反応しなかった。

③ 41T と 163E 同時に反応した場合のみ、補体活性が惹

起されLCT法が反応した。

①の場合は単に検出感度差の問題で、LABScreenは非常に

有用な方法といえる。②と③はほぼ同じことであり、こ

の場合、LBAcreen のみが検出している抗体特異性は、生

体内でどの程度機能するか疑問が生じる。前述のNon-HLA

と考えられる反応も同様である。幾つかの抗体特異性に

ついて、エピトープ解析すると数ヶ所のアミノ酸置換の組合せで説明できるケースもある。以上のことよ

り、②③が正しいとしてもLCT 法は検出感度が劣るので、LABScreen のような高感度法でエピトープ解析

し、抗体特異性を推測する方がより正確といえる。

以上の例は推測の域を出ないが、抗体検出結果として、反応した抗原名を単純に列挙するより、推測さ

れるエピトープに準じて表現を工夫した方が、抗体の状態を把握し易い。さらに、反応した抗原グループ

ごとに、その強度に差が認められることも通常であり、反応性の弱い抗原グループが経時的に強度を変化

させてゆく様子などを捉えることも可能である。HLA抗原間の共通エピトープに名称が規定されていれば、

さらに明解になるのだが、残念ながら試薬の判定ソフトやマッチング・ソフトで独自に付けられた名称し

かない。

LCT 法

抗体特異性

アミノ酸置換 LABScreen

抗体特異性 41 163

E A66

E B7

B13 T E B13

E B27

T B41

T B44

T B45

B47 T E B47

E B48

T B49

T B50

T B4005

B60 T E B60

B61 T E B61

E B81

E Cw2

E Cw17

表6 LCT 法および LABScreen で検出された抗

体特異性の差とそれぞれの対象抗原のアミノ

酸置換の共通性

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※※※ HLA システムの特殊性について ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

図5には、HPA(ヒト血小板抗原)のアミノ酸配列を示してある。HPAの一部はGlycoproteinⅢa分子

を規定する各対立遺伝子のアミノ酸置換によりアロ特異性が決定されている。例えば、33番目のアミノ

酸がロイシン(Leu)ならHPA-1a,プロリン(Pro)なら HPA-1bであり、この部分がHPA-1抗原を決定す

るエピトープ(抗原決定基)となる。同一の遺伝子上でも、143番目のアミノ酸がアルギニン(Arg)な

らHPA-4a,グルタミン(Glu)ならHPA-4bである。したがって、ITGB3*002遺伝子は、HPA-1bと HPA-4a

をコードし、ITGB3*005遺伝子は、HPA-1aと HPA-4bをコードしていることになる。このように、通常は

一つのエピトープが抗原型を決定し、一つの対立遺伝子が幾つかの抗原型をコードしている。

GP Allele Protein isoforms HPA antigen(=Epitopes)

1 1 4 4 6 6 63 6 4 4 0 8 1 3 3

Position 3 2 0 3 7 9 1 3 6Consensus L R T R P R K R R

ITGB3*001 - - - - - - - - - HPA-1a HPA-4a ITGB3*002 P - - - - - - - - HPA-1b HPA-4a ITGB3*003 - Q - - - - - - - HPA-1a HPA-4a HPA-10bw ITGB3*004 - - I - - - - - - HPA-1a HPA-4a HPA-16bw ITGB3*005 - - - Q - - - - - HPA-1a HPA-4b ITGB3*006 - - - - A - - - - HPA-1a HPA-4a HPA-7bw ITGB3*007 - - - - - Q - - - HPA-1a HPA-4a HPA-6bw ITGB3*008 P - - - - - del - - HPA-1b HPA-4a HPA-14bw ITGB3*009 - - - - - - - H - HPA-1a HPA-4a HPA-11bw ITGB3*010 - - - - - - - - C HPA-1a HPA-4a HPA-8bw

33L(Leu) → HPA-1a 143R(Arg) → HPA-4a33P(Pro) → HPA-1b 143Q(Gln) → HPA-4b

図5 GPⅢa分子上のHPA遺伝子とHPA抗原の関係

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一方、HLAは図6に示すとおり、HLA遺伝子=HLA抗原である。そして、HLA分子上には複数のエピト

ープが存在する。それぞれのエピトープから見ると、いくつもの抗原グループが認識できる。56番目の

アミノ酸はグリシン(Gly)がコンセンサスであるが、HLA-A30 と A31 はアルギニン(Arg)に置換して

いる。また、73番目のアミノ酸はスレオニン(Thr)がコンセンサスであるが、HLA-A31と A33はイソロ

イシン(Ile)に置換している。ちなみに、Cw4, Cw6, Cw7, Cw12の 73番目はアラニン(Ala)である。

HLA領域においては他の遺伝子領域にみられない,著しい多型性が認められる。例えば、HLAクラスⅠ

領域97番目のアミノ酸は9種類の変異があり,しかも狭い領域でこういった変異がひしめき合っている。

これらの膨大な組み合わせが HLA システムを築き上げている。このように、HLA は幾つかのエピトープ

の組合せで一つの抗原型が決定し、それは一つのHLA対立遺伝子が支配している。

HLA allele α1-domain α2-domain HLA antigen

111111111111111111111111111111111111 11123333333444455566666777777788889 9999000000111111123344444444555556666778

Position 37917940123456134824623567034678901230 2579256789012345671823456789012681367152

Consensus HYFSREADTQFVRFAQRRIQGQERNVHTDVDLGTLRGA SIMYDSDGRFLRGYHQDKRMITKRKWEAAHVLAETEWYGT

HLA-A*0101 ----------------K--------M---AN------D --I--P--------R--N----------V-ARV-RDG--- HLA-A1 HLA-A*0201 ---------------------G--K---H--------- -VR----W--------Y---T--H---------------- HLA-A2 HLA-A*1101 --Y-----------------------Q----------D --I--P--------R--N------------AQ--R----- HLA-A11 HLA-A*2402 --S------------------E-GK----EN-RIALR- -L-F------------Y--------------Q---DG--- HLA-A24 HLA-A*2601 --Y------------------RN------AN------D --R--P--------Q--N----Q----T--EW--R----- HLA-A26 HLA-A*3001 --S-S---------------R-----Q----------- --I-----------E-HN----Q------RW--------- HLA-A30 HLA-A*3101 --T-----------------R------I---------- --------------Q--N----Q------R---------- HLA-A31 HLA-A*3303 --T------------------RN----I---------- --------------Q--N----Q------R---------- HLA-A33

56R(Arg) → HLA-A30+A31 73I(Ile) → HLA-A31+A33

図6 日本人の主要なHLA-A座遺伝子とHLA-A座抗原の関係

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2)許容抗原解析

HLA抗体の検出結果をエピトープ解析しても、すべてが解決するとは限らない。一つにはモノクローナ

ル抗体のようにターゲットが単一でないことや、抗原に提示されるペプタイドの違いから、抗原分子の立

体構造に変化をきたし、抗体の反応強度に差が生じる場合もあるとされる。また、抗体特異性が広範囲に

およぶとエピトープ解析は全く無理である。

そのような場合のもう一つの表現手段が許容抗原解析である。許容抗原(Acceptable Antigen)とは、

サンプル中の抗体に反応しないHLA抗原のことで、抗体特異性とは正反対になる。厳密に言うと、抗体特

異性以外のHLA抗原は許容抗原といえるが、許容抗原以外のHLA抗原は抗体と反応する可能性のあるHLA

抗原である(図7の青字の抗原)。また、サンプル血清本人のHLA型も原則的には許容抗原である(図7)。

P1~P4:検査用パネルのHLA型

判定: 陰性(-)、 陽性 +

患者血清との反応

患者 A2 A11 B35 B60 (-)

P1 A2 A11 B51 B60 + P2 A2 A31 B35 B61 (-)

P3 A24 A31 B48 B52 + P4 A24 A11 B35 B60 +

→ A2, A11, B35, B60 (患者型)

→ A31, B61 (新たに検出)

→ A24, B51 (確定)

→ B52, B48 (未確定)

HLA-A HLA-B

許容抗原 

抗体特異性

図7 許容抗原と抗体特異性の関係

許容抗原解析は主に、輸血分野で活用されており、HLA 適合血小板輸血では患者本人型だけでは適合ド

ナーが足りなくなるので、患者抗体に反応しないドナーも適合者として扱うようにしている。ただし、輸

血は頻回に行なわれるため、その時点で患者に反応しない抗原であっても、いずれは新たな抗体を産生す

る可能性がある。そこで、患者 HLA 型と共通エピトープを構成するドナーを選択する予防手段を講じる。

すなわち許容抗原解析でありながら、エピトープ解析が必要となる。「CREG」のような大まかな交差反応

性グループ抗原でも十分であるが、「HLA Matchmaker」というフリーソフトで確実性の高いドナー選択も

可能である。我々は、IMGT/HLAデータベースから、HLAアミノ酸配列データをダウンロードし、独自にテ

ーブル化したものをエピトープ解析に活用している。

今後は、移植分野でもドナーの選択性を向上する目的で、許容抗原選択を活用していくべきではないか

と考える。造血幹細胞移植ではミスマッチ移植に際して、遺伝子型の組合せと過去の移植リスクとの関係

から、この考えを一部取り入れている。この場合、抗体は関与しないので(Permissible Mismatched

Antigen)と呼ぶべきであろうか。抗体が関与しない話題は、本論から外れているように見えるが、それ

ほどHLAは抗原と抗体の関係が密接な証しである。

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5.おわりに

以上、HLA 抗体検出に関して、単に操作テクニックが優れているだけでは不十分で、その結果を解釈

し伝えるためのテクニック、すなわち、HLA システムを理解しどういった特性を持っているか考える能

力も重要であることを強調したい。

さらに、本学会のQCワークショップ抗体部門に参加することにより、自施設の検出データの信頼性を

確認することができ、また、方向性に誤りがあれば操作面・解析面で修正することも可能なので、是非

とも多くの方々が参加されることを望む。

6.参考文献など

1)中島文明:HLA抗体の解析手法.MHC Vol.13 131–137, 2006

2)中島文明:移植における抗体検出法.今日の移植 Vol.19 135–142, 2006

3)中島文明,赤座達也ら:HLA抗体 QCワークショップレポート.MHC Vol.14 282-311,2007

4)斉藤敏ら:抗HLA クラス I抗体の方法別検出感度と血小板輸血患者における方法別抗体検出率.

日輸血会誌 50 753-760, 2004

5) 斉藤敏ら:IgM型 HLAクラスI抗体の血小板輸血不応状態への関与.日輸血会誌 52 405-413, 2006

6)HLAMatchmaker:http://www.hlamatchmaker.net/

7)IMGT/HLAデータベース:http://www.ebi.ac.uk/imgt/hla/

************************************************

講師の連絡先

〒135-8521 東京都江東区辰巳二丁目1番67号

日本赤十字社 血液事業本部 中央血液研究所

研究開発部 研究三課

中島 文明(なかじま ふみあき)

Phone: 03-5534-7510 Fax: 03-5534-7519

E-mail: [email protected]

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Ⅲ. 腎移植とクロスマッチ・HLA抗体検査:臨床側からの要望

小林 孝彰(こばやし たかあき)名古屋大学・医学部・免疫機能制御学

要約

近年、新しい高精度検査方法の開発・改良により、腎移植においてHLAなど免疫反応に関する検査の

役割は増大している。より安全かつ効果的な移植医療を提供できるように、臓器移植実施施設において

は、移植医側と(HLA)検査室側との密接な連携が必要とされている。

臨床現場においては、(1)生体腎移植術前検査、(2)献腎移植検査、(3)腎移植後のモニタリング

において、クロスマッチ検査、HLA 抗体検査が利用さ

れているが、その臨床的意義については不明確な部分

もある。これらの検査の意義と課題について解説する。

検査設備(機器)、予算、人員など、現状では多くの

問題が存在するが、移植医療をサポートする理想的な

(現実的な)検査体制の構築が望まれる(図1)。 移

植医主導型でも検査室主導型でもなく、また検査の依

頼と結果報告という一方的な関係ではなく、お互いに

意見を交換し、情報を共有することが大切である。移

植チームの一員として積極的な参加を臨床側は望んで

いる。

1.はじめに

免疫抑制療法の進歩により腎移植の成績は向上した。夫婦間のようにHLAの適合性が低い移植も良好

な成績を示し、HLA適合度の意義は以前ほど重要ではなくなった。しかし、ELISA, flow cytometryを利

用した高感度の検査法が開発され、従来では検出できなかった微量のHLA抗体が検出されるよ

うになり、移植前、移植後のHLA抗体検出の重要性が明らかになった(表1、2)。

超急性拒絶反応は、従来の細胞傷害テストによるクロスマッチ検査の導入後、ほとんど回避できるよ

うになったが、微量抗体の存在(ドナーHLA に感作された状態)による移植後早期(数日から数週)の

急性抗体関連型拒絶反応は認められ、時には移植腎機能廃絶に至ることもあった。 最近では、Flow

cytometry クロスマッチの導入により、微量の抗ドナー抗体を検出できるようになり、このような急性

抗体関連型拒絶反応のハイリスクを鑑別できるようになった。さらに、HLA 抗原をプレートに結合させ

たELISA、マイクロビーズに結合させたFlowPRA, Luminexを用いたLABScreenなどを用いることにより、

抗ドナー抗体が、実際にHLA抗体であるかどうか、また、ドナーのHLAに特異的であるかどうかまでも

診断できるようになった。

移植後においては、HLA 抗体産生と慢性拒絶反応(抗体関連型拒絶反応)との関連が明らかにされ、

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不可逆的な拒絶反応と考えられた慢性拒絶反応を早期に診断、治療することで、移植臓器機能の悪化を

少しでも遅らせることができないか試みられてい

る。

本講演では、クロスマッチ検査やHLA関連検査

が移植医療において、ますます重要になってきて

いる現状について具体的に解説し、移植施設での

HLA 検査室の役割について臨床側からの期待を述

べたいと思う。 皆さんの施設で、HLA 検査室の

あり方について議論する契機となれば幸いである。

ここで、略語、用語について表3で確認する。

クロスマッチ検査・各種HLA抗体検査の詳細につ

いては、過去の教育セミナー記録を参照していた

だければ、幸いである。

また、移植の基本情報は、日本臓器移植ネット

ワークホームページ <http://www.jotnw.or.jp/>

に詳しく書かれているので、こちらも参照して日本の移植の現状をぜひ知っていただきたいと思う。心、

肺、肝、膵、腎、小腸など各種臓器別の移植数、待機患者数、適合条件も記載されている。肝臓以外の

臓器においては、抗体反応が陰性であることが条件となっている。 わが国の腎移植の登録患者数は

11507(6/30現在)、献腎移植数は187(2007年)であり、アメリカの登録数81308、脳死腎移植数10587

人に比べ、移植数が非常に少ない。これがHLAの検査体制を含めた移植システムの発展の障壁となって

いるかもしれない。

臨床現場で、クロスマッチ検査、HLA抗体検査が必要とされる(1)生体腎移植術前検査、(2)献腎

移植検査、(3)腎移植後のモニタリングにおいて、現状と課題について解説する。

2.生体腎移植術前検査

1)移植前には、クロスマッチ検査によりレシピエント血清中にドナーリンパ球に反応する抗体の有無

をチェックしなければならない。また、HLA 抗体かどうか、ドナー特異的抗体であるかどうか、高感度

で正確な判定を行い、移植適応の判定や免疫抑制療法の選択に役立てている。

実際の臨床ではどのように行っているであろうか。患者さんの外来受診後、移植説明、レシピエント、

ドナーの外来検査(一次検査)そして入院検査(二次検査)が行われ、移植の適応が判断される。免疫

学的な検査として、クロスマッチ、HLA 抗体のチェックが行われる。それぞれの施設の状況(移植数、

HLA検査数)により、検査の時期、順番は異なるが、必要な項目としては、LCT-XM、FCXM、HLA抗体 (PRA)、

必要時には DSA 検査がある。名古屋第二赤十字病院では、外来での一次検査後、家族検査を行い、HLA

タイピング(血清、DNA)、LCT-XM(T, WB), FCXM(T, B)、HLA 抗体検査(FlowPRA または LAT)を一気に

行っている。家族検査がすぐに実施できない場合には、HLA 抗体検査を先に施行してもよい。後述する

ようにHLA抗体検査が陰性であれば、移植が不適応となる可能性は低い。最終確認として、移植直前に

も2回目のFCXMを実施することとしている。重要なことは、少しでも検査結果に疑問が残る場合(不確

実な場合)には、繰り返し検査を行う余裕を持つことである。

移植適否についての判定基準として、明らかに

予後不良となる因子については、移植除外基準と

して広く認められているが、細かい部分では施設

によって異なる。免疫抑制療法の進歩により移植

適応を拡大する施設もあり、予後との関連が報告

によって異なっていることも判断基準が明確でな

い理由である。以下、Q & A 形式で解説するが、

上述のように検査結果の解釈も一定ではないため、

回答については異議も存在することを初めからお

断りしておく。

2)Q & A(表 4)

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(Q1)LCT-XM(WB)陽性は移植可能か?

(A1)通常、LCT-XM T 細胞陽性は移植が禁忌である。 WB 陽性は、自己抗体、IgM 抗体などを含み、

予後に影響を及ぼさないとされている。しかし、T細胞クロスマッチでは検出できない弱い反応性(weak

T)の存在、T 細胞には発現しない class II に対する抗体の存在を示唆する。この場合は、拒絶反応の

ハイリスクとなる。

(Q2)class II抗体陽性も予後不良であるか?

(A2)一般に、class I 抗体は予後不良であるが、class II抗体については、拒絶反応と関連しないた

め予後は悪くないという報告から拒絶反応と関連するという報告がある。確かに、class II抗原は、血

管内皮細胞でも特殊条件下でのみ発現するため、全ての細胞に広く発現するclass Iに対する抗体陽性

の方が予後不良であろう。 しかし、現在はclass II に対する抗体陽性でも、拒絶反応のハイリスクで

あると考える施設が多いため、移植を実施する場合には何らかの処置(脱感作療法)を行っている。

(Q3)IgM抗体は考慮しなくてよいか?

(A3)IgG抗体が予後を反映すると考えられているため、FCXM, HLA抗体検査は一般にIgG抗体のみを検

出している。IgM抗体は、自己抗体であることも多く問題とならないが、DSAである場合には予後不良で

あるとの報告もある。しかし、この場合には IgG も陽性となるため、IgG を検出すれば判定可能と考え

られる。IgMのみ陽性である場合は稀である。

(Q4)抗体量と予後との関係は?

(A4)一般的に、抗体量が多ければ、予後は不良となる。LCT-XM陽性例は、DSA量が多く、移植直後の

超急性拒絶反応を引き起こす可能性があるが、LCT-XM陰性、FCXM陽性例はDSA量が少なく、抗体除去処

置、IVIG(免疫グロブリン静注療法)、抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)投与など脱感作療

法を施行することにより、短期的には拒絶反応を回避できる可能性が報告されている。しかし、長期予

後については、それほど良好ではないとも報告されており、無理に移植を実施しない施設もある。

(Q5)DSAはすべて拒絶反応を引き起こすか?

(A5)多くは拒絶反応を引き起こすが、そうでない場合も存在すると考えられる。(4)と関連するが、多

量の抗体接着は、細胞傷害としてはたらくが、少量の抗体接着は、PI3K-Akt pathway(シグナル伝達経

路の1つ)を活性化し、細胞保護に作用するとの基礎実験結果が報告されている。また、一時的に DSA

除去などにより移植直後の抗体関連型拒絶反応を回避すれば、DSA が増加しても拒絶されない免疫順応

(Accommodation)という現象も臨床では確認されている。また、最近ではTerasakiらが、検出感度を

高くすれば、輸血、移植、妊娠歴のない健常人にもHLA抗体が自然抗体として存在すると報告している

(論文によると約6割にHLA抗体が存在する)。このような微量レベルのHLA抗体が移植予後に影響する

かどうか詳細は不明である。

(Q6)DSAが存在するが、HLA抗体ではない場合には大丈夫か?

(A6)クロスマッチ陽性がnonHLA抗体による場合である。このようにHLA抗体以外のDSAが存在する場

合には、意見が分かれる。DSAである以上、nonHLA抗体でも拒絶反応のリスクが高いとする考えと、nonHLA

抗体ならばDSAでも通常の免疫抑制療法で移植

可能とする考えがある。 nonHLA 抗体は、自己

抗体であることが多く、MICA抗体などの同種抗

体は、予後に影響すると報告されている(表5)。

しかし、MICAはリンパ球には発現していないた

め、リンパ球を用いた通常のクロスマッチ検査

では判定できないという問題がある。海外では、

XM-ONETM <http://www.absorber.se/products.

asp>という末梢血中の血管内皮細胞前駆細胞を

ビーズで抽出し、クロスマッチ検査を施行して

いるところもある。

ここで、クロスマッチ検査、HLA抗体、DSA

の有無による移植適応判定について考えてみる

(表6)。

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(A)は、LCT-XM、FCXM、HLA抗体、DSA

すべて陰性である。輸血歴、妊娠歴、

移植歴のない患者が該当する。(B)

は、高レベルのDSAであり移植は禁

忌とされている。(C)は、低レベルの

DSA であり拒絶反応のハイリスクで

ある、脱感作療法などの処置により

移植が可能とされている。しかし、

長期予後は良好ではないとの報告も

ある。(D)は、FCXM でも陽性となら

ないレベルの微量のHLA抗体である。

先ほどのTerasakiらによるHLA自然

抗体である可能性がある。移植は可

能である(と考えている)。(E)は、

ドナー以外の HLA 抗体、すわなち

NDSA 陽性の場合である。免疫学的な high responder であり、移植が可能であるが拒絶反応に対して要

注意である。(F) は、nonHLA抗体、自己抗体、IgM抗体が考えられ、私たちの施設では移植は可能であ

ると判断している。

3)課題

① 微量 HLA抗体の正確な判定

微量抗体のチェックを正確にできなければ、予後との関連を評価できない。とくに FCXM, FlowPRA,

LABScreen など cut off 値の置き方により、陽性、陰性の判断が異なってくる。当然、施設間差が存在

すれば、多施設検討では正確な解析ができない。Quality Controlによる評価が重要である。

② Bリンパ球クロスマッチの正確な判定

B cell FCXMは、Fcレセプターの存在により、非特異的に抗体が接着するため、評価が困難な場合が

ある。 B cell FCXM は、微量の class I 抗体として、また T 細胞では判定できない class II 抗体の

検出に重要である。 Pronase処理により、Fc レセプターを切断することにより、非特異的な抗体接着

を減少させ、正確な判定が可能である報告されている。しかし、Pronase 処理を導入していない施設も

多い。B cell FCXMの標準化が望まれる。

③ non HLA 抗体の評価

HLA抗体の次に重要なファクターとして、これからの課題である。 現状では、nonHLA抗体は移植の

禁忌ではないが、注意深い観察が必要である。

④ 臨床データと照らし合わせ、何が臨床事象と関連するか明らかにするために、正確な検査結果が不

可欠である。

3. 献腎移植検査

1) 生体腎移植と異なり、献腎ドナー発生時は、緊急でクロスマッチ検査を行う必要がある。ドナー

の細胞状態が不良である場合も多い状況下で、正確な判定を行わなければならない。また、移植希望患

者登録時には血清を保存するが、必須ではなくなったPRA検査は、有用な情報を提供するかもしれない。

HLA 検査施設においては、患者の新規登録時検査

と更新(最新の血清保存)を行っている。大量の

登録患者の検査を行う必要があり、ある程度の規

模が要求される。このような登録・更新時検査業

務は時間的な余裕があるが、ドナー発生時には夜

間でも緊急でドナーのHLAタイピングとレシピエ

ント上位候補者のクロスマッチ検査を行わなけれ

ばならない。検査の迅速性だけでなく正確性も求

められるため、2名による検査と確認(ダブルチ

ェック)が必要となる。検査技師数が少ない状況

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では、緊急時に備えて待機しなければならない負担が増大している。

2)Q & A(表 7)

(Q1)登録時のPRA検査は不要か?

(A1)初回登録は、HLAタイピングを行っているが、PRA検査は必須項目となっていない(表8)。

しかし、平成13年 12月 25日に厚労省健

康局長名で発令された「腎臓移植希望者

(レシピエント)選択基準の一部改正に

ついて」の3.具体的選択法において、

「PRA 検査が可能な場合には PRA 検査陰

性を満たすこととする。」とある。生体腎

移植術前検査の項目で述べたように、HLA

抗体陽性(PRA 陽性)でもクロスマッチ陰

性ならば移植が可能と判断している。こ

のような基準があるなら、PRA 検査を施

行すべきでなという考えも成り立つ。PRA

検査を LCT(CDC)で行っていた時代には、

Tは感度が低く、WBでは偽陽性が多く正

確な判定ができなかった。しかし、最近

の高精度検査を用いれば、正確にHLA抗

体の有無をチェックできる。しかしながら、登録患者全員(初回および更新時)に行うだけの経済的、

人的な余裕がないというのが現状である。 臓器移植ネットワークへの登録費用は全国一律であるが、

検査費用については更新時には徴収しない県もあり、また県・財団からの補助にも多寡があり、患者負

担は異なっている。HLA 検査体制は全国レベルでは足並みがそろっていない。ドナー発生時の緊急性を

考慮すれば、事前に患者情報を把握しておくことは判定の補助材料として役に立つ。とくにHLA抗体陽

性例では、クロスマッチ検査の精度の高さが要求される。

(Q2)ドナー発生時のクロスマッチ検査はどのレベルまで行うべきか?

(Q2) 現在、ドナー発生時の検査項目に、統一した基準はない。感度の低いLCT-XMから高感度の FCXM

を行っているHLA検査施設まである。さらに、クロスマッチ陽性例には、確認のためHLA抗体のチェッ

クを行っている施設もある。レシピエント選択基準として「T リンパ球(または全リンパ球)を用いた

クロスマッチが陰性」とされているため、Tリンパ球のLCT-XMのみの実施でもよいことになる。しかし、

この基準では微量のDSAの存在を検出できない可能性があり、予後不良となるレシピエントを選択して

しまうことになる。とくに、HLA抗体陽性である場合には、ドナー反応性でない(DSAでない)ことを確

認するためFCXMを行う必要がある。

3)課題

① 患者登録時、更新時に行う検査の標準化

上述のレシピエント選択基準の PRA に関する文言は修正が必要であろう。 HLA タイピングはもちろ

ん、LAT, LABScreenなどによるHLA抗体検査(PRA検査)も実施しておく方が望ましいと考える(表9)。

正確なHLA抗体検査データがあれば、陰性の場合には、ドナー発生時のクロスマッチ検査を省略できる

可能性がある。また、HLA抗体が陽性の場合には、

HLA 抗体特異性検査まで行っておくと、ドナー発

生時にはバーチャル、クロスマッチも可能となる。

とくに、PRA 強陽性患者では、レシピエント候補

リストの上位に上がりながら、クロスマッチ陽性

のため移植を受けられない状況となる。海外には、

このような待機患者にクロスマッチ陰性ドナーが

発生すれば優先的に移植が受けられるシステムも

ある。しかし、経済的な問題が大きな障壁となっ

ている。HLA 抗体検査のみであれば、LAT,

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LABScreenにて大量処理が可能であり、費用は1検体あたり1500-3000円である(表10)。しかし、抗体

陽性例で、HLA特異性検査を実施する場合には、実費として4−5万円の検査試薬代が必要となる。これ

らの費用は、登録患者に十分に説明をして負担していただく考えはないであろうか。適合ドナー発生時

には、ある基準を設けて優先的に選択されるシステムを構築すれば、費用負担を納得していただけるか

もしれない。

② ドナー発生時検査の標準化

ドナー発生時には、緊急性に十分に対応できるシステムを構築し、検査方法の統一基準を作成すべき

であろう。少なくとも、FCXM(T, B)までは対応する必要がある。さらにFlowPRAなどのHLA抗体検査、

DSAチェックのためのHLA抗体特異性検査までの対応は難しいかもしれない。365日 24時間対応可能な

検査体制として人員の確保は重要な課題である。HLA 検査施設において、数少ないドナー発生に対応す

る人員を常に配置することが困難な場合には、移植数が増加するまで検査施設を限定し、検査を数施設

に集中化させる必要があるかもしれない。

最近の論文では、過去の献腎移植症例を調査した結果、DSA 陽性例でも予後は悪くないと報告されて

おり、新しい高感度のHLA検査を導入することにより、従来は移植が可能であった患者が移植を受けら

れなくなっているのではないかとの指摘もある。現状では、一定の選択基準のもとで移植数を蓄積し、

HLA検査結果と移植予後の関連について正確に解析していく必要がある。

4.腎移植後のfollow up 検査

1)新規HLA抗体産生と慢性拒絶反応との関連が報告されている。対象患者、検査頻度、選択する検査

方法、ドナー特性的抗体検出の必要性については、まだ一定の見解が得られていないが、移植後の抗体

検査の有用性は明らかになっている。どのような検査方法が望まれているのか考えてみたい。

2)Q & A(表 11)

(Q1)HLA抗体は腎移植予後、慢性拒絶反応と関連があるか?

(A1)微量のHLA抗体を正確に検出できるようになり、移植後のHLA抗体と予後との関連が多くの論文

で報告されている。Terasaki らの報告によると

HLA抗体陽性例は、1年後のグラフト廃絶は8.6%、

2 年後は 15.2%にみられ、抗体陰性例の 3.0%、

6.8%と比較して予後不良であった。また、多施設

検討で約3500例の腎移植例を解析した結果、HLA

抗体陽性率は27.2%であり、陽性例ではグラフト

廃絶となる率が 7.3%と高いことが報告された。

その他にも多くの論文で同様の報告がなされ、新

規HLA抗体産生と慢性拒絶反応の関連は共通の認

識となっている。

私どもの症例で解析した結果を少し紹介する。

2004年に移植後外来follow up中の患者323例の

HLA抗体検査をLATにて行った(図2)。 HLA抗体

陽性は 38(11.8%)であり、その後の 2 年間

(2004-2006)で 4例(10.5%)がグラフト廃絶となっ

ている。一方、陰性285例のうち、グラフト廃絶

となったのは14例(4.9%)である。同じ患者を

対象として2006年に HLA抗体を検査した結果、陽

性は33例、そのうち5例(15.2%)がグラフト廃

絶に陥っている。私どもの症例でも、他の報告と

同様にHLA抗体陽性例は予後不良であった。

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(Q2)新規HLA抗体は、すべて予後不良因子となるか?

(A2)次の疑問点は、新規HLA抗体産生はすべて腎機能悪化につながるかどうかである。先ほどの2004

年に検査した323例のうち、グラフト廃絶、死亡例を除く297例において、移植前、2004年、2006年の

HLA抗体検査結果(陽性・陰性)別に血清クレアチニン値の推移をみた(図3)。唯一、血清クレアチニ

ン値が上昇しているのは、N->P->P(移植前陰性の新規抗体産生例で2004年、2006年と 2年以上陽性)

のみであり、N->N->P(新規産生、2006年陽性)、N->P->N(新規産生、HLA抗体陰性化)、P->P->P(移植

前から持続陽性)では、血清クレアチニン値の明かな増加はみられなかった。唯一、腎機能の悪化がみ

られたN->P->P群を尿タンパクレベルで区別すると、尿タンパク陽性例(テストテープ+/-、20mg/dL以

上)のみ血清クレアチニン値の上昇がみられ、尿タンパク陰性では腎機能の悪化はみられなかった(図

4)。

HLA 抗体の新規産生例で、2年以上持続して検出され、尿タンパク陽性例が腎機能悪化に関与すると

考えられた。HLA抗体が産生されても、accommodationのように無害なHLA抗体が存在する可能性は否定

できず、HLA 新規産生例をすべて拒絶反応治療に結びつけるのは、患者にとって無益な(有害となる)

免疫抑制強化になるかもしれないため要注意である。

(Q3)DSA 検出の意義はあるか?

(A3)本来ならば、免疫反応の結果引き起こされたHLA抗体は、ドナー反応性の抗体、すなわちDSAで

ある。しかし、微量の抗体産生は、グラフトに吸着されて末梢血中には検出されない場合が多い。

私どもの症例でも、HLA 抗体陽性 20 例を FlowPRA single antigen beads を用いて HLA 特異性を検査し

たが、7例(35%)のみDSA(1例がclass Iでああり、6例がclass II(DQB)に対する抗体)が検出さ

れただけである。微量レベルの DSA は、グラフトに吸着されて検出されにくくなる。HLA 抗体は、一般

にHLAの共通のアミノ酸に対する抗体も産生されるため、他のHLAにも反応することが示されており、

抗体産生は幅広く行われる。そのため、同時に産生されたドナー以外のHLAに対する抗体(NDSA)は、

グラフトに吸着されないので検出されやすくなる。NDSAが新規に検出されれば、DSAを特定できなくて

もドナーに対する免疫反応が起きているものと推察される。移植後のDSAの検出は、初期の段階(微量

レベル)では困難であり、無駄な努力になるかもしれない。もちろん、抗体産生が進行し、グラフトに

吸着しきれないレベルになれば血中から検出されるようになるが、その時には慢性拒絶反応はかなり悪

化しており、「治療は時すでに遅し」という段階であろう。ただ、急性の反応(炎症)を伴う場合には、

可逆的な場合もある。

このように、移植前とは異なり、移植後は(a)免疫抑制療法下で抗体産生が抑制されている、(b)抗

体がグラフトに吸着されため、DSA は検出されにくい。しかし、移植腎機能廃絶後は、(a)(b)の因子

がなくなるのでDSAは検出されやすくなる。

(Q4)推奨されるモニタリング方法は?

(A4)このHLA抗体検査は、 移植後のモニタリングとして、慢性拒絶反応の早期診断そして治療に結び

つけるのが目的である。Terasakiらは、 末梢血中にHLA抗体を検出してから、平均29ヶ月で血清クレ

アチニンが上昇すると報告している。Colvinらは慢性抗体型拒絶反応のステージを定義した。I期は HLA

抗体産生、II期はグラフトでのC4d沈着、III期はグラフトの病理学的変化、IV期はグラフト機能障害

であり、できるだけ早期(I、II 期の間)に、抗体関連型拒絶反応の治療を開始するのが望ましいとし

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ている。慢性拒絶反応による移植腎機能障害(すなわち血清クレアチニン値の上昇)がみられてからで

は、遅すぎる。「Point of no return」の手前で治療を開始すべきである。

できるだけ早期での発見が重要となり、HLA抗体検査は、すべての follow up患者に対してスクリー

ニングとして行うべきであろう。多くは、HLA 抗体産生後、ゆっくりと慢性拒絶反応は進行する。検査

は高頻度に行ってもよいが、検査費用

を考慮すれば1年に1回が限界かもし

れない。現在、私どもが行っているHLA

抗体検査について紹介する(表12)。

年1回、全ての外来患者の血清を回収

し、一番安価なLATにてclass I, II 抗

体の有無をチェックしている。そして、

新規にHLA抗体産生を確認し、尿タン

パク陽性であれば、腎生検、免疫抑制

療法の強化を検討する。尿タンパク陰

性であれば、再検査、経過観察として

いる。

(Q5)費用対効果について(こんな高価な検査に意味があるか?)

(A5)HLA 抗体検査は、移植前検査、移植後検査に重要な情報を提供するが、大きな問題は高額な検査

費用である。また、検査方法によっては特殊な測定機器を必要とする。これらの検査には、保険点数が

設定されていないため、保険請求ができない。必要最低限の検査しかできないのが現状である。私ども

は、2008年に560 名の腎移植後患者にHLA抗体検査を施行した。一番費用のかからないLATを用いたが、

研究費を約 90 万円使用した。 HLA 抗体陽性は 54 例であり、過去のデータから HLA 抗体の推移を判定

し、代謝拮抗剤の増量など治療に結びつけることができたのは4例のみである。慢性拒絶反応の治療の

必要性があると判断しても、すでに免疫抑制療法を最大限に使用しているため、免疫抑制療法の強化に

いたらず経過観察に終わってしまうものも多い。海外では、抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)

投与、血漿交換、免疫グロブリン投与などの治療を積極的に行っている施設もあるが、慢性拒絶反応の

進行をどれくらい阻止できるか、報告待ちの状況である。患者の安全性を考慮すれば、強力な治療を一

律に実施してよいか疑問である。過剰免疫抑制状態となり患者生命を危機に陥らせることは避けたい。

3)課題

① 移植前からHLA抗体陽性例に対するモニタリング方法

移植前からHLA抗体陽性の場合、通常のスクリーニングテストでは新たなる抗体産生かどうか判定が

困難である(移植前陰性ならば、陽性化した時点でグラフトに対するHLA抗体が産生されたと推測され

る)。経済的なモニタリング方法を考案する必要がある。HLA特異性検査を施行すれば、新規抗体産生を

判定できるかもしれないが、高額な費用を必要とする。FlowPRA において、前年度の血清も同時に検査

することにより、ヒストグラムパターンの変化の有無をみる方法もある。移植前からHLA抗体陽性患者

において、効率的に新規HLA抗体産生を検出する方法を工夫しなければならない。

② 保険適用の申請

現状では、多くのHLA検査センターは施設の設備(測定機器)、予算、人員により、十分な検査を実施

できない。学会などが、全国データをまとめて、HLA 抗体検査の必要性、臨床での意義を明らかにする

ことが望まれる。(A5)で述べたように、移植後のHLA抗体検査を実施して恩恵を受ける患者は、わずか

(1%程度)であろう。しかし、慢性拒絶反応の早期診断、治療が可能となり、仮に1人の患者を1年

でも透析再導入を遅らせることができれば、国家レベルでの経済効果は 2-300 万円(1 年間の透析患者

医療費—移植患者医療費)になり、検査実費の90万円を上回る。費用対効果解析を十分に行い、厚労省

にHLA抗体検査の保険適用の申請を行う必要がある。もちろん、メーカーには安価な検査試薬の供給、

検査会社に対しては検査業務の低価格化を期待したい。

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5.おわりに

HLA 検査は、通常の臨床検査とは異なり、専門的な知識・技術を必要とする。検査方法においても、

新しい手法、機器が開発・導入され、感度が高くなっている分、正確な検査結果を得るためには精度管

理 (Quality Control) が不可欠である(表13)。また、臨床事象との関連性については完全に明らかに

されて(一定の見解が得られて)おらず、

検査結果をどのように解釈し、臨床に役

立てていくか、議論すべき点も多く残さ

れている。HLA 検査が、保険医療として

認められていないことは、ある意味、完

成されていない領域であり、発展途上と

も言える。

新しい情報を、HLA 検査室側から移植

医側に発信することは、とても重要であ

る。単なる検査技術者としてではなく、

HLA の専門家として、移植適応、診断、

治療方針などの議論に積極的に参加して

いただきたい。 移植医療の発展には、

HLA 検査室の関与無くしては考えられな

い。現在の日本では、移植数は少なく、他の医療のように一般医療として市民権を得ているとは言い難

い状況である。苦しい状況は続きますが、移植医療のすばらしさを伝えられるようにがんばりましょう。

6.参考文献

1) 佐藤 壯:臓器移植とHLA−−−組織適合性検査からHLA抗体モニタリングまで.平成19年度日本組織

適合性学会 認定HLA検査技術者講習会テキスト. P2-P11

http://square.umin.ac.jp/JSHI/certification/2007/lecture_text_2007.pdf

2) 杉谷 篤:膵移植をめぐるHLAタイピング、クロスマッチの意義.平成18年度日本組織適合性学会

認定HLA検査技術者講習会テキスト. P31-P40

http://square.umin.ac.jp/JSHI/certification/2006/lecture_text_2006.pdf

3) 福島教偉:臓器移植とHLA;特に心臓移植において.平成17年度日本組織適合性学会 認定HLA検査

技術者講習会テキスト. P30-P39

http://square.umin.ac.jp/JSHI/certification/2005/lecture_2005.pdf

4)佐田正晴:HLA 抗体と臓器移植. Organ Biology 14:53-64, 2007

5)尾本和也、田邊一成:既存抗体陽性症例への腎移植. Organ Biology 14:149-155, 2007

6)小林孝彰:HLA 抗体と腎移植:移植後産生された HLA 抗体について. Organ Biology 14: 337-349,

2007.

7) Susal C, Opelz G. Options for immunologic support of renal transplantation through the HLA

and immunology laboratories. Am J Transplant. 7; 1450-1456, 2007.

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講師の連絡先

〒466-8550 名古屋市昭和区鶴舞町65

名古屋大学医学部免疫機能制御学 小林孝彰

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