図2...

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モデルロケット用大気圧高度計の製作とその使用データの解析 早稲田実業学校高等部3年 安田優也 1.背景 本校科学部では、毎年モデルロケットの発射を長野県にある駒ヶ根校舎で行っている。 その際の高度測定は、観測点から発射点までの距離と観測点からロケットの最高点まで の角度を用いた三角比によって行っている。この方法で観測点を複数用意し測定してい るが計測限界が 45 度であること。観測点により差が大きいことなど課題が多い。しかし 市販されている高度計は約 6 千円と高価で、気軽に搭載することが難しい。そのため、 高度計の制作を行った。また、連続した高度変化のデータを得て、モデルロケットの運 動解析を行うことも狙いである。 2.理論 気圧は高度に対して指数関数的に減少する。しかし、その高度変化が十分に小さいと き気圧と高度の関係は線形近似が可能である。このことを利用して記録した大気圧デー タからモデルロケットの到達高度を求める。今回は発射点が標高 800m であることから 高度上昇による気圧の低下を1hPa あたり 10mとして計算する。 モデルロケットの運動解析では、得られた高度変化のグラフより各プロット間の平均 の速さの変化を求める。次に、平均の速さの変化のグラフの一定区間内の変化の割合よ りロケットの加速度を求める。そして、加速度とロケットの質量から使用したエンジン の推力をもとめる。以下にそのカタログスペックを示す。(表1、図1) 表1 エンジン性能 1) エンジン名 総力積 (Ns) 延時時間 () 最大荷重 (g) 最大推力 (N) 推力発生時間 () 総重量 (g) 推進薬重量 (g) C6-5 10 5 113 15.3 1.6 25.8 12.48 図1 推力と時間の関係 1)

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モデルロケット用大気圧高度計の製作とその使用データの解析 早稲田実業学校高等部3年 安田優也

1.背景

本校科学部では、毎年モデルロケットの発射を長野県にある駒ヶ根校舎で行っている。

その際の高度測定は、観測点から発射点までの距離と観測点からロケットの 高点まで

の角度を用いた三角比によって行っている。この方法で観測点を複数用意し測定してい

るが計測限界が 45度であること。観測点により差が大きいことなど課題が多い。しかし市販されている高度計は約 6千円と高価で、気軽に搭載することが難しい。そのため、高度計の制作を行った。また、連続した高度変化のデータを得て、モデルロケットの運

動解析を行うことも狙いである。 2.理論

気圧は高度に対して指数関数的に減少する。しかし、その高度変化が十分に小さいと

き気圧と高度の関係は線形近似が可能である。このことを利用して記録した大気圧デー

タからモデルロケットの到達高度を求める。今回は発射点が標高 800mであることから高度上昇による気圧の低下を1hPaあたり 10mとして計算する。

モデルロケットの運動解析では、得られた高度変化のグラフより各プロット間の平均

の速さの変化を求める。次に、平均の速さの変化のグラフの一定区間内の変化の割合よ

りロケットの加速度を求める。そして、加速度とロケットの質量から使用したエンジン

の推力をもとめる。以下にそのカタログスペックを示す。(表1、図1)

表1 エンジン性能 1)

エンジン名 総力積 (N・s)

延時時間 (秒)

大荷重 (g)

大推力 (N)

推力発生時間 (秒)

総重量 (g)

推進薬重量 (g)

C6-5 10 5 113 15.3 1.6 25.8 12.48

図1 推力と時間の関係 1)

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3.実験装置

図2 大気圧高度計 回路図 モデルロケットに搭載可能な小型の大気圧記録装置を 開発した。縦 23mm、横 95mm、厚さ 14mmで重量

19g、開発にかかった費用は約 1500円であった。 その要素は、電源、気圧センサー、電源を切ってもデ

ータを保持するメモリ、センサーの値を取得し処理する マイコンに分けられる。 今回は電源にはボタン電池(CR2032)、気圧センサーに 図3 大気圧高度計 写真

は LPS25H(25℃800~1100hPaで精度 0.1hPa)、メモリ には EEPROM(24LC1025)、マイコンには PIC(pic16f886)を用いた。 本装置は1秒間に 25回の気圧データを保存しており 大記録時間は 14分である。回

路図は図1の通りで SW1を繋ぐことで電源が入り、SW2を繋ぐと計測を開始する。そして、SW2を切った状態で SW3を繋ぐと PICの TXピン(17番ピン)よりシリアル通信で記録したデータが送信される。高度計には送信用回路を付けていないため保存したデ

ータの取得には EEPROMを高度計からとりはずし、別に用意した図 1の回路図から気圧計を取り除いた回路に組み込んで PCと接続する必要がある。 また、図2において SW1が左、SW2が右のピンヘッダである。普通のスイッチでは

衝撃によって切り替わってしまう可能性があるためピンヘッダとジャンパーピンを用い

ている。左の LEDは電源が入ると点灯し、記録モード時には点滅する。

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4.実験結果 ロケットの総重量は先端に付けた重りとエンジンを抜いて測った重量 59.05g、エンジ

ンのカタログ重量 25.8g、重りの重さ約 20gを足して 104.85gであった。 0.04秒ごとの高度変化のグラフを 920hPa、高度上昇による気圧の低下を1hPaあた

り 10mとして図4に示す。さらにその値から 0.04秒間の平均の速さを求めたグラフを図5に示す。0.04秒間の平均の加速度を求めたグラフは値のばらつきが大きくデータとして用いることができないため掲載しない。

図4 高度と時間の関係

図5 速度と時間の関係

-50

0

50

100

150

200

0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 35.00

高度

(m)

時間(秒)

高度と時間の関係

-40

-20

0

20

40

60

80

0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 35.00

速度

(m/s

)

時間(秒)

速度と時間の関係

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また、三角測量による同ロケットの高度計測の結果を表2と3に示す。 表 2 三角測量によるロケットの 高高度

表 3 発射点までの距離

発射点までの距離

観測点1 102.4m

観測点2 101.4m 5.考察 実験結果のデータを市販のモデルロケットシミュレーションソフト Rocksimによる無風状態でのシミュレーションの結果と比較する。以下に速度、高度の時間変化のグラフ

(図6)と主要なイベント時の速度と高度(表4)を示す。

図6 Rocksimによるシミュレーション結果(速度、高度の時間変化)

観測点 1 観測点 2

ロケットを

傾けた角度

(°)

風速 (m/s)

高高度角 (°)

高高度 (m)

高高度角

(°) 高高度

(m) 平均 高高度

(m)

0 0.0 45以上 100以上 28 53.92 76.96

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表4 Rocksimによるシミュレーション結果(主要なイベント時の速度と高度) 推進薬燃焼終了( 高速度) 高高度 ストリーマー展開 着地

時間(秒) 1.861 6.63 6.861 17.55 速度(m/s) 64.6068 0 -2.2587 -19.8269 高度(m) 67.44 193.37 193.11 0

実験結果の図4、図5のグラフの 0秒は点火した時間である。それは図 5の速度の変

化より求めた。図 5において 5.0秒でロケットは再び1秒ほど加速している。5.0秒での加速は放出薬が燃焼しストリーマーが放出される際に、ペイロード部分も共に上に打ち

出されるからだと考えられる。このストリーマーが打ち出される時間はエンジンによっ

て異なり、その時間は今回使用したエンジンのメーカー値は 5秒である。従ってその 5秒前が点火時間である。また、0.40秒に高度の上昇開始、9.48秒に 高高度 192m、3.16秒に 高速 62.4m/sを記録している。0~0.4秒では高度変化が起こっていないことからその間の推力は離陸に使われたと考えられる。

高高度の測定誤差をシミュレーション結果を理論値として計算する。三角測量の場

合観測点 2つのうち もシミュレーションに近い値 100mを用いて相対誤差 48%。 自作高度計の場合 1%であった。従って三角測量より自作高度計の方が高い精度を出すことができた。 シミュレーションと自作高度計のデータのグラフは高度、速度ともに概形と 高速度、

高高度は概ね同じである。しかし、その時間には大きな差が見られた。風が理由と考

え、風のあるシミュレーションを行ったが時間は着地時間以外ほとんど変化しなかった

ため原因は別にあると考えられる。 v-tグラフに着目するとシミュレーションではメーカーの公称の推進薬燃焼時間である

1.8秒で推力の発生が終了し加速が終了している(図6)のに対し、計測ではそれ以降も速度が上昇していることから推力が発生していることがわかる。(図5)。これは、現実

ではガスは瞬時にエンジンから排出され推力を生み出すのではなく、エンジン内から

徐々に放出され推力を生み出すためと考えられる。加えて、このシミュレーションでは

推進薬が燃焼したのちに燃焼する延時薬によるガスの発生を考慮していない。この二つ

の理由によりシミュレーションと計測におけるグラフの差、そして推力の計測誤差が生

じていると考えられる。 そこで、図5より上昇中の平均の加速度を求め、それよりロケットの推力を求める。

モデルロケットの運動方程式は以下のように立てられる。 m(ロケットの質量)・a(加速度) = FT (推力)-FD(空気抵抗)-mg(重力)

また、空気抵抗は以下の式によって求める FD = 1/2×Cd(形状による定数)×ρ(空気の密度)×v2(ロケットの速度)×A(ロケットの

断面積) なお Cd=1/2、ρ=1.2(kg/m3)、A=0.001164m2とする

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計算時のロケットの質量は発射前の総重量 104.85gから燃焼中に減る 12.48gの半分を引いた値 98.61gとする。図1より点火から 0.4~1.8秒間は安定した推力がロケットに働いており、今回の測定データでも顕著な速度変化が見られるのでこの 0.4秒~1.8秒間の平均の加速度変化を求める。

0.4秒時の速度 1.16m/s、1.8秒時の速度 41.38m/sより a = (41.38-1.16)÷1.4 = 28.728… ≒ 28.73(m/s2) である。

また、1.4秒間の速度の平均 21.27m/sを vとして FD = 1/2×1/2×1.2×(21.27)2×0.001164 = 0.156486… ≒ 0.1265(N)

従って FT = (28.73×0.09861)+(9.8×0.09861)+0.1265 = 3.9557… ≒ 3.96(N)

図1より点火から 0.4~1.8秒間の平均の推力の理論値は 4.5Nであるので、相対誤差は約 12%であった。この 12%低下した分の推力がカタログ値より長い時間ロケットにかかっているのではないかと予想している。 次に総力積を求める。ロケットの運動量は以下の式で表される。

P = mΔv = I(エンジンの総力積) -MgΔt-FDΔt mは現時点のロケットの質量、Mはこれまでに放出された推進剤も含めた平均の質量

ここではストリーマー展開時(5.0秒)で Iを求める。5.0秒時の速度 26.12m/s、m=0.09237、M=0.09861、FDは平均の速度 29.62 m/sを用いると 0.2424であった。Δtは延持時間5秒として代入すると

I = (0.09237×26.12)+( 0.09861×9.8×5)+0.2424×5 = 8.46628 ≒ 8.5(N・s) となり、相対誤差は約 15%であった。

6.まとめ 市販のものより低コストの高度計の開発とそれによって従来の三角測量による計測よ

り大きく精度の高い観測が行えることが確認できた。また、安定上昇中であればロケッ

トの推力の産出も行えることがわかった。従って期待する精度とコストの気圧高度計を

作成することができた。

7.今後の課題 加速度のデータは短い区間であるとばらつきが大きく使うことができなかった。また、

落下中についても風の影響が上昇中よりも強く出るため速度のデータのばらつきが多く

運動の解析は行えなかった。より詳細なロケットの運動解析はこの高度計に加え、加速

度センサーやジャイロセンサーを併用することで行えると考えている。今後はそのため

に装置のさらなる小型化を目指したい。

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8.参考文献 1) c6-5engines, ESTES, http://www.estesrockets.com/rockets/engines/1614-c6-5 2)エンジンの仕組みとイグナイター, 日本モデルロケット協会,

http://www.ja-r.net/engine.html 3)モデルロケットの打ち上げ実験と高度予測,

http://www.mech-kait.net/student/nakane/seminar/orbit.pdf