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2-4-3 南多摩水再生センター・未利用エネルギーの導入 流域下水道本部 技術部 計画課 望月 伸行 1 はじめに 東京都の下水道事業は、安全で快適な生活環境や良好な水環境を創出する一方で、下 水の処理過程において大量のエネルギーを消費している。このため、東京都下水道局で は、2010年に「アースプラン2010」を策定し、事業活動から発生する温室効果 ガス排出量を2020年度までに2000年度比25%以上削減することを目標に掲げ、 新たな削減技術の導入など様々な対策を進めている。 また東日本大震災により発生した原子力発電所の停止に伴う電力供給量不足や計画停 電は、電力会社に依存している今後の下水道事業における電力の安定供給確保に向けて 大きな課題を残した。このため、可能な省エネルギー施策、創エネルギー施策を進め、 水再生センターにおける自前の電力を確保するなど、多様な手段によりエネルギー自給 率を高めることが喫緊の課題となっている。 今回、南多摩水再生センターにおいて、建設中の汚泥焼却炉にこれまで活用できなか った温度域の廃熱を活用するバイナリー発電設備の設置および処理施設保護のために保 有している緩斜面を有効活用した太陽光発電設備を設置する、未利用エネルギーの導入 を計画したので報告する。 2 焼却廃熱を利用したバイナリー発電 汚泥焼却炉における中・低温域(70℃~400℃程度)の廃熱は、エネルギー回収 の効率が悪く、廃熱で温水を発生させ事務所等の暖房に利用する以外、ほとんど有効利 用されずに大気に放出しているのが現状であった。また焼却炉から排出される高温の廃 熱を利用して蒸気発電を行うケースもあるが、下水汚泥には多量の水分が含まれている ことから燃料としてみたときの熱量は低く、一部の大規模焼却炉でしか発電を行ってい なかった。また蒸気発電の場合、ボイラー・タービン主任技術者の選任が必要になるな ど、資格者の育成から始めなければならないこともあり、汚泥焼却炉での発電は一般的 ではなかった。 しかし電気事業法の見直しによる 資格要件の緩和(表1)などから、 小型バイナリー発電設備の開発が急 速に進み、中・低温域の未利用廃熱 を活用した発電が可能となってきた。 バイナリー発電とは、地熱発電所 等で採用されてきた技術であり、温 水の持つ熱エネルギーにより沸点の 低い媒体(フロンやアンモニア等) を蒸発させて、タービン発電機を作 動させ発電するものである。(図1) そこで、平成25年度に南多摩水再生センターの焼却炉の更新工事を発注するにあた 表1 小型バイナリー発電機に係る 電気事業法の規制緩和の動き 平成24年4月 小型バイナリー発電機に適用される電気事業法が規 制緩和された (バイナリー発電設備に係るボイラー・タービン主任 技術者の選任及び工事計画届出等の不要化) 平成24年7月 規制緩和の熱媒体として、245fa(フロン)が追加で認 平成26年5月 (予定) バイナリー発電設備に係るボイラー・タービン主任技 術者の選任及び工事計画届出等の不要化範囲の拡 東京都下水道局 技術調査年報-2014- Vol.38

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2-4-3 南多摩水再生センター・未利用エネルギーの導入

流域下水道本部 技術部 計画課 望月 伸行

1 はじめに

東京都の下水道事業は、安全で快適な生活環境や良好な水環境を創出する一方で、下

水の処理過程において大量のエネルギーを消費している。このため、東京都下水道局で

は、2010年に「アースプラン2010」を策定し、事業活動から発生する温室効果

ガス排出量を2020年度までに2000年度比25%以上削減することを目標に掲げ、

新たな削減技術の導入など様々な対策を進めている。 また東日本大震災により発生した原子力発電所の停止に伴う電力供給量不足や計画停

電は、電力会社に依存している今後の下水道事業における電力の安定供給確保に向けて

大きな課題を残した。このため、可能な省エネルギー施策、創エネルギー施策を進め、

水再生センターにおける自前の電力を確保するなど、多様な手段によりエネルギー自給

率を高めることが喫緊の課題となっている。 今回、南多摩水再生センターにおいて、建設中の汚泥焼却炉にこれまで活用できなか

った温度域の廃熱を活用するバイナリー発電設備の設置および処理施設保護のために保

有している緩斜面を有効活用した太陽光発電設備を設置する、未利用エネルギーの導入

を計画したので報告する。 2 焼却廃熱を利用したバイナリー発電

汚泥焼却炉における中・低温域(70℃~400℃程度)の廃熱は、エネルギー回収

の効率が悪く、廃熱で温水を発生させ事務所等の暖房に利用する以外、ほとんど有効利

用されずに大気に放出しているのが現状であった。また焼却炉から排出される高温の廃

熱を利用して蒸気発電を行うケースもあるが、下水汚泥には多量の水分が含まれている

ことから燃料としてみたときの熱量は低く、一部の大規模焼却炉でしか発電を行ってい

なかった。また蒸気発電の場合、ボイラー・タービン主任技術者の選任が必要になるな

ど、資格者の育成から始めなければならないこともあり、汚泥焼却炉での発電は一般的

ではなかった。 しかし電気事業法の見直しによる

資格要件の緩和(表1)などから、

小型バイナリー発電設備の開発が急

速に進み、中・低温域の未利用廃熱

を活用した発電が可能となってきた。 バイナリー発電とは、地熱発電所

等で採用されてきた技術であり、温

水の持つ熱エネルギーにより沸点の

低い媒体(フロンやアンモニア等)

を蒸発させて、タービン発電機を作

動させ発電するものである。(図1) そこで、平成25年度に南多摩水再生センターの焼却炉の更新工事を発注するにあた

表1 小型バイナリー発電機に係る

電気事業法の規制緩和の動き

日  程 動   き

平成24年4月

小型バイナリー発電機に適用される電気事業法が規制緩和された(バイナリー発電設備に係るボイラー・タービン主任技術者の選任及び工事計画届出等の不要化)

平成24年7月規制緩和の熱媒体として、245fa(フロン)が追加で認可

平成26年5月(予定)

バイナリー発電設備に係るボイラー・タービン主任技術者の選任及び工事計画届出等の不要化範囲の拡大

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り、未利用エネルギーの活用による創エネルギーおよび温室効果ガス排出量削減の観点

より、汚泥焼却炉に小型バイナリー発電設備の設置を計画した。 現在、平成28年度末の稼働に向けて、南多摩水再生センターでは110トン/日(汚

泥含水率 74%)の能力を持つガス化炉を建設中である。白煙防止空気ラインに温水発生

器を設置し、140℃程度の温水を回収し、その熱エネルギーにより、媒体(フロン)

を蒸発させ、タービン発電機を作動させ、発電

する。 脱水汚泥が保有するエネルギーの内、約2割

をバイナリー発電に利用することで、120kWの発電が可能であると試算している。

これにより焼却炉とバイナリー発電設備の稼

働率を80%とすると、年間84万 kWh の発

電が期待できる。 3 緩斜面を活用した太陽光発電

南多摩水再生センターは、

都内の一級河川である多摩川

に面して設置されている(図

2)。敷地に接している川崎街

道はセンターよりも高い位置

にあり、一連の処理施設との

間に施設保護のために保有し

ている緩斜面が存在している。

今回、この用地を有効活用し、

センターのエネルギー自給率

を高め、また温室効果ガス排

出量削減を目的に発電容量1

MW の太陽光発電設備の導入

図1 バイナリー発電設備フロー

表2 バイナリー発電装置

形式 パッケージ式

媒体 フロン(245fa)

熱源 白煙防止空気ラインからの温水回収

定格出力 125kW(ユニット内消費電力を除く)

図2 太陽光発電設備の設置予定地の概要

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を計画した。目的の一つが温室効果ガス排出量の削減であることから、太陽光発電で発

電した電力は全て水再生センターでの自家消費とし、固定価格買取制度を活用した売電

は行わないこととした。また設置場所として幹線道路のそばに設置することで、広く都

民に下水道局の環境対策事業をPRする効果を図る計画である。太陽光発電設備の設置

にあたっては、風力荷重を考慮した架台のコスト、太陽光パネルの設置密度及び発電量

から総合的に判断し、太陽光パネルの設置角度を10度に設置することとした。また設

備容量は、標準的なパワーコンディショナの容量である 250kW 単位を基本として決定

した。NEDO の資料による試算では、1MW の太陽光発電で年間約 100 万 kWh の発電

が可能となる。南多摩水再生センターでの使用電力は、1,500~2,500kW で推移してい

るため、夏の晴れた日では、センターの使用電力を最小で約 600kW の使用電力に抑制

することができる(図3)。

4 創エネルギー効果及び温室効果ガス排出量削減効果

(1)創エネルギー効果 バイナリー発電を導入することに加え、ガス化炉で使用する大型ブロワのインバータ

化による省エネを合わせることで、ガス化炉で使用する電力の4割弱を発電でまかなう

ことが可能となる。また太陽光発電を導入することで、夏期晴天時であれば、南多摩水

再生センターで使用する電力量の約1割を太陽光発電でまかなうことが可能となる。 (2)温室効果ガス排出量削減効果

南多摩水再生センターでは、電力由来の温室効果ガス排出量の平成24年度実績とし

て、約 7,400t-CO2/年を排出している。バイナリー発電と太陽光発電を合わせることで、

約10%、700t-CO2/年の温室効果ガス排出量の削減が可能となる。

図3 南多摩水再生センターのデマンド実績と

太陽光発電設備の理論発電電力

※パネル面の汚れ等による損失を考慮しない理論発電電力

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24

平成25年8月の平均的なデマンド

太陽光発電設備の理論発電電力(※)

電力[kW]電力[kW]

ピーク時間調整時刻(13~16時)

時刻

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5 今後の取り組み

バイナリー発電については、今まで活用が困難だった中・低温の焼却廃熱を有効に活

用でき、これからも技術開発や規制緩和が進むことが予想される技術であり、さらなる

エネルギー削減が図れる可能性がある。今後、焼却炉技術の進展も視野に入れ、導入に

よるメリットが期待できる場合には、積極的に検討を行い実施していく。 太陽光発電については、電力需要が高まる夏期晴天時、定格能力に近い発電が可能と

なるため、センターの電力需要の抑制効果が期待でき、社会的な貢献が可能となる設備

である。ただし、太陽光発電設備は設置場所として広い用地を必要とするため、その確

保が課題となる。今後、他のセンターへの展開にあたり、当面、処理施設の建設が予定

されていない用地に、期間を定めて太陽光発電設備を設置し有効活用する方式を検討す

るとともに、これを新たな制度として国に要望していきたい。 将来にわたり安定した下水処理を確実に実施していくため、「省エネルギー」「創エネ

ルギー」に関する技術を官民一体となり、技術・コスト検討を行うことにより、事業性

が認められるものについては、積極的に導入し、環境負荷の少ない都市の実現に貢献し

ていく。

表3 発電量・温室効果ガス削減量

バイナリー発電 太陽光発電 合 計

発電量 kW 120 1,000 1,120年間発電量※1,2 kWh/年 840,000 1,000,000 1,840,000

センター年間受電量に対する割合(H24ベース)※3

% 4.4 5.2 9.6年間温室効果ガス削減量※4 t-CO2/年 321 382 703

※1 バイナリー発電装置の稼働率は、焼却炉と同じ80%とした

※2 太陽光の発電量はNEDOの資料より算出

※3 平成24年度の南多摩(セ)の年間受電量は、19,290千kWh

※4 電力排出係数は、0.382kg-CO2/kWhとした

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