2 景気分析の新しい動向 - ESRI · 2.3 時系列因子分析モデル Stock とWatson...

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〈内閣府経済社会総合研究所「経済分析」2002年第166号〉 712 景気分析の新しい動向 2.1 はじめに 我が国で景気指標として最もよく利用されているのは,内閣府のディフュー ジョン・インデックス(diffusion index, DI)であり,それを補完するものとして コンポジット・インデックス(composite index, CI)がある.さらに GDP その もの(あるいはその変化率)を景気指標として利用する場合も多い.また,いわ ゆる日銀短観 DI や鉱工業生産指数などが利用される場合もある.どれを景気指 標として用いるかは,景気をどのように定義するのか,また景気分析のターゲッ トを何にするのかなどにも依存するだろうし,速報性も重要な役割を果たす. DI CI といった景気指標が開発されるようになったのは, Burns and Mitchell (1946) において,景気が「総体的経済活動(aggregate economic activity)」と 定義され,彼らによる先駆的な景気指標の分析が行われるようになって以来の ことである. いずれの景気指標を用いるにせよ,それを用いて景気を把握し,予測するに は一定の方法論・ルールが必要である.DI であれば3か月連続して50%を下回 れば,景気の山を迎えたと判断するといったものである(3か月ルール).また 景気の予測には先行 DI が用いられ,同様の3か月ルールが先行 DI に適用され ることが多い.より複雑な景気指標の山・谷の決定方法としては, Bry-Boschan 法が知られている 1 .この方法は,転換点間(山から谷,谷から山)あるいは全 循環(山から山,谷から谷)の月数に一定の制約をおいて,いろいろなフィル タをかけながら景気指標の転換点を決定する方法である. このように一たび景気指標が作成されれば,それによって景気の判断や予測 を行う方法は,かなり以前から確立されていたが,近年,新しい方法も考えら 1 Bry and Boschan (1971)

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〈内閣府経済社会総合研究所「経済分析」2002年第166号〉

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2 景気分析の新しい動向

2.1 はじめに

我が国で景気指標として もよく利用されているのは,内閣府のディフュー

ジョン・インデックス(diffusion index, DI)であり,それを補完するものとして

コンポジット・インデックス(composite index, CI)がある.さらにGDPその

もの(あるいはその変化率)を景気指標として利用する場合も多い.また,いわ

ゆる日銀短観 DIや鉱工業生産指数などが利用される場合もある.どれを景気指

標として用いるかは,景気をどのように定義するのか,また景気分析のターゲッ

トを何にするのかなどにも依存するだろうし,速報性も重要な役割を果たす.

DIやCIといった景気指標が開発されるようになったのは,Burns and Mitchell

(1946) において,景気が「総体的経済活動(aggregate economic activity)」と

定義され,彼らによる先駆的な景気指標の分析が行われるようになって以来の

ことである.

いずれの景気指標を用いるにせよ,それを用いて景気を把握し,予測するに

は一定の方法論・ルールが必要である.DIであれば3か月連続して50%を下回

れば,景気の山を迎えたと判断するといったものである(3か月ルール).また

景気の予測には先行 DIが用いられ,同様の3か月ルールが先行 DIに適用され

ることが多い.より複雑な景気指標の山・谷の決定方法としては,Bry-Boschan

法が知られている1.この方法は,転換点間(山から谷,谷から山)あるいは全

循環(山から山,谷から谷)の月数に一定の制約をおいて,いろいろなフィル

タをかけながら景気指標の転換点を決定する方法である.

このように一たび景気指標が作成されれば,それによって景気の判断や予測

を行う方法は,かなり以前から確立されていたが,近年,新しい方法も考えら

1Bry and Boschan (1971).

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2.2 Neftciモデル

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れるようになってきた.まず第1に,景気指標自体に伝統的な DIあるいは CI

を用いるのではなく,時系列モデルや多変量解析の方法を応用し,新たな景気

指標を作成する試みが出てきた.代表的なものが,Stock-Watson による景気指

標であり,これについては 2.3 で簡単に説明される.

第2に,CIであれ,GDPであれ,景気分析に利用する指標が決められれば,

それを用いて,景気がある局面(拡張・後退)にいる確率や転換点(山・谷)

が生じる確率を計算する方法も考案されている.その代表が,Neftciの方法や

Hamilton の局面推移モデル(regime switching model)である.これらについ

ては,2.2,2.4で簡単に説明される.

本章では,こうした 近の景気指標に関する発展に関して,基本的な考え方

を説明するにとどめる.それらの詳細な理論的な展開ならびに実証結果につい

ては,3章から5章で説明される.本章では,上記の3つの方法以外の 近の景

気の実証的な分析や景気指標の動向などについても,2.5以下で若干の実証結果

を含めながら概説する.

2.2 Neftci モデル

Neftciは,Neftci (1982) において,景気の転換点を確率的に予測する方法を提

案している.さらにこの方法は,Diebold and Rudebusch (1989,1991),Niemira

(1991),Webb (1991),福田 (1991),松岡 (1998) などで応用されている.

この Neftciの転換点の確率を計算する方法は,SPR (sequential probability

recursion) という方法に基づいている.そしてその方法を景気指標に適用し,そ

の転換点が生じる確率を計算することによって,景気の把握・予測を行おうと

するものである.もちろん Neftciの方法の対象は景気指標以外の一般の経済変

数でも構わないが,以下では景気指標を念頭において説明を行う.

いま,景気指標 x のある転換点から次の転換点が生じるまでの期間をZ とし,

時間をt で表そう.Neftciの方法で求める確率は,Z がt 以下となる確率,つま

りt 時点までに転換点が生じる確率である.式で表すと,

Πt = Pr (Z ≦t| ̅t )

となり,Πt はt 時点までに転換点が生じる確率, ̅t は景気指標 x の過去のデー

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タである.

現在,経済が拡張期にあるとすれば,この確率を前回の谷が生じた以後の各

時点についてΠt を計算することによって,次の景気の山がいつ生じるのかを確

率的に評価できる.そして,この確率が一定の値,すなわち0.95あるいは0.9

を超えたときに,景気指標に転換点が生じたと判断するのである2.

確率Πt の計算の詳細については3章で説明されるが,簡単にいうと,転換点

が生じる確率Πt はベイズの定理に基づいて求められる.すなわち,ベイズの定

理によっていくつかの項(尤度や事前確率)に分解されるので,それぞれの項

の推定値や事前確率を求め,さらに初期値を設定した上で,recursive な計算を

行い,その確率は求められるのである.ただしそのために,確率分布を特定化

(推定)し,事前分布を決定しなければならない.確率分布の推定には,過去の

データを拡張・後退期に分けた上で経験的に推定する方法や,正規分布を仮定

する方法がある.また,この方法の特徴は,このような確率分布を拡張期と後

退期に分類していることであり,景気局面の非対称性 (asymmetry) という重要

な性質を取り込んでいることがわかる.この確率分布の推定には,総合化され

た景気指標そのものを用いることもできるし,景気指標を構成する複数の系列

により多変量の分布を用いることもできる.

Webb (1991) では,この Neftciの方法と VARモデルによる予測の比較が行わ

れており,両者の長所・短所が指摘されているが,確率的な予測を行うという

こと自体の有用性が強調されている.

2.3 時系列因子分析モデル

Stock とWatson によって開発され,Stock-Watson モデルとも呼ばれる時系

列因子分析モデル (Dynamic Factor Model) に基づいた景気指標では,選択さ

れたいくつかの個別指標(一致系列)の背後に時系列モデルが仮定され,それ

を推定するという手続きがとられる.ただし,その時系列モデルには,観測さ

れない景気変動(因子)が含まれており,因子分析を応用することによってその

景気変動は推定される.したがってこのモデルは,Geweke (1977) やSingleton

2Neftci (1982) では0.95,Diebold and Rudebusch (1989) では0.9が用いられている.

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2.3 時系列因子分析モデル

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(1980) などの時系列因子分析(Dynamic Factor Analysis)の1つとみなすこと

ができる.

各個別指標は,以下で示される通り,その観測されていない景気変動ととも

に変動するとみなされる.Stock and Watson (1991) で用いられている基本的な

モデルは,

ΔY = + ΔC +

φ(C )ΔC = +

である.Y は一致系列,C は観測されない景気変動,φ(C ) はラグ多項式,u,

は誤差項である.もちろん,ラグは一定数を仮定した上で推定が行われる.誤

差項に関する仮定,推定方法などについては,4章で詳しく説明される.

このモデルで各一致系列は,景気変動の過去の変動のみによって表現されて

いる.このように,各個別系列の共通変動要因として目に見えない景気変動が

モデル化されるのである.共通変動要因としての景気変動は,一致系列に共通

したもので,その意味で時系列因子分析モデルは,Sargent and Sims (1977) で

示されている観測不能な単一指数モデル (unobservable single index model) で

ある.

このモデルのパラメータならびにC の推定は,モデルを状態空間表現で表し

た上で,Kalman フィルタで推定される.そして推定されたCt の変動を景気指

数として利用するのである.これが Stock-Watson 景気指数である.結果として

得られたCt は指数化され,実験的一致指数 (Experimental Coincident Index)

として公表されている.そして,その平均変化率は GDPの変化率とほぼ同じで

あるが,散らばりは若干大きいことなどが指摘されている.時系列因子分析モ

デルでは,一致系列として生産指数,個人所得,製造業・商業販売額,雇用者

数(農業を除く)の4系列が用いられている.これらは,The Conference Board

によって公表されている CIの採用系列と同じである.

時系列因子分析モデルは,Stock and Watson (1989, 1991, 1993) で展開され

ており,刈屋 (1988) にその解説がある.また,Stock-Watson 指数の結果につ

いては,James Stock のウェブページ:

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で定期的に公表されている(2002年 3月現在).また,日本経済への応用例と

して,福田 (1991),大日 (1992),Fukuda and Onodera (2001) などがある.

2.4 局面推移モデル

局面推移モデル(regime switching model)3は,Hamilton (1989) によって提

案され,その後,景気分析のみならず,金融などの分野でも盛んに利用されて

いる方法である.

局面推移モデルは,簡単に言えば,対象とする変数が上昇期から下降期(また

はその逆)に推移する確率を求める方法である.対象とする変数をCIやGDP

といった景気指標とすれば,拡張期から後退期に移る,すなわち景気の山を迎

える確率などを求めることができる.このように局面推移モデルは,景気指標

がある局面 (phase または regime) から他の局面に推移する(スイッチする)確

率を求める非線形時系列モデルである.ただし,局面は2局面である必要はな

く,一般に m 局面としても構わない.景気分析においては,2局面を想定する

ことが多く,3局面についてもいくつかの研究はあるが4,それ以上の局面を想

定することはほとんどない.以下では,2局面の局面推移モデルについて述べ

ることにする.なお,一般的な m 局面モデルについての詳細(局面推移モデル

における推定法など)は,5章で述べられる.

いま,対象とする景気指標(またはその変化率)をyt で表す.ここで,yt が景

気の拡張期と後退期で別々の確率分布にしたがうものとする.具体的には,正

規分布が利用されることがほとんどである.すなわち,yt は拡張期と後退期で

は異なった平均と分散(または標準偏差)をもち,そこから得られた標本であ

ると仮定される.そして,拡張期から後退期(あるいは逆)に推移する確率は,

Markov タイプの推移確率であるものとする.特に1次の Markov 性を仮定する

ことが多く,その場合,次の局面に推移する確率 (transition probability) は現

在の局面,すなわち1期前の局面にのみ依存することになる.そして,この確

3本書では regime switching model を「局面推移モデル」と呼ぶことにする.推移という用語を用いるのは,2局面間でのスイッチとは限らないからである. 4Sichel (1994),Layton and Smith (2000) など.

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2.4 局面推移モデル

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率が一定であるとすれば,次の4つの確率が問題となる.すなわち,

Pr(S =1|S =1) =p Pr(S =2|S =1) =1-p

Pr(S =1|S =2) =1-q Pr(S =2|S =2) =q

である.ここでS は景気が拡張・後退のどちらの局面にあるかを表し,S =1は後

退期,S =2は拡張期を表す.したがって,p はそのまま後退期にいる確率,1-p

は後退期から拡張期にスイッチする確率,すなわち谷を迎える確率,q はそのま

ま拡張期にいる確率,1-qは拡張期から後退期にスイッチする確率,すなわち谷

を迎える確率である.もちろん,Pr(S =1|S =1)+Pr(S =2|S =1) =1

であるから,推定が必要となる推移確率はp とq の2つだけである5.したがっ

て,2局面の場合は,求めるパラメータは各局面の平均と分散ならびに2つの

推移確率の6つとなる.推定には,基本的に 尤法が用いられる.

Hamilton (1989) で示された局面推移モデルでは,推移確率p とq は一定で

あると仮定されている.しかしそれは,拡張期から後退期(あるいはその逆)

へ推移する確率を一定としているのであって,経済が拡張期または後退期に

いる確率とは区別される.ここで,その経済が後退期,拡張期にいる確率は

Pr(S = 1),Pr (S = 2) と表され,前期の局面の条件付き確率にはなっていな

い.ただし,データ の過去の値の条件付き確率になるので,Pr(S = 1| )

などと表される( は の過去の情報).これらの確率は局面確率 (filtered

probability)6 と呼ばれ,景気がどの局面にあるのかを判断する材料となる.た

だし, まで, まで,あるいは全データ までのいずれを用いるかによっ

て,Pr(S = 1),Pr (S = 2)の値は異なり,呼称も異なることがある. までの

値を用いたものは,平滑化確率 (smoothed probability) と呼ばれる.Hamilton

(1989) では,Pr(S =1) > 0.5 であれば後退期,Pr(S =2) > 0.5 であれば拡張

期にあると判断し,実際に GNP を景気指標に用いた結果,過去のアメリカの

基準日付との対応も満足のいくものであった.さらに,CIを変数に用いた場合

や,アメリカ以外の結果をみても,これらの確率を用いることによる景気判断

が基準日付と整合的であることが確認されている7.また局面推移モデルでは, 55章ではm局面を想定し,これらの確率をp i j (i, j =1,2,・・・, m ) で表す. 6filtered probability は,5章で説明されるようにフィルタリング (filtering) という過程で求められるという意味での呼称である.本書では,これが景気の局面を判断する確率になっているという意味から,「局面確率」という用語を用いる. 7Layton (1996, 1997a) など.

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2 景気分析の新しい動向

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時系列因子分析モデルとは違い,CIやGDPなど既存の景気指標を使って経済

がある局面にいる確率を求めるが,その求められた局面確率自体が1つの景気

指標になっていると言うこともできるだろう.局面推移モデルを用いた実証研

究は数多くあるが,日本のデータに関しては Layton and Katsuura (2000) など

がある.

2.5 Wecker の転換点の確率予測

Neftciの方法とは異なったアプローチによる転換点の確率的な予測が,Wecker

(1979) で提示されている.Wecker の方法は,景気指標 に対して何らかの時

系列モデルをあてはめ,その予測分布に基づき,予測期間に対してシミュレー

ションを行い,乱数を発生させる.そして何か月後に転換点が生じているのか

を計算した上で,その実験を多数回繰り返すことによって,転換点発生の経験

分布を求め,何か月後に転換点が発生する確率がどのくらいになるのかを求め

るものである.

具体的には以下のような手順で転換点の予測確率が計算される.

1. に適当な時系列モデルをあてはめる(ARMA,VARなど).

2. , ,・・・, の予測分布を求める.例えば,N ( , ) が用いら

れる.

3.T +1,T +2,・・・,T +k 期について,手順2の予測分布に基づき乱数を発

生させる(k 期分).

4.一定のルールのもとに転換点を決め,T からの期間数 (w) を求める.

5.3-4を繰り返し,w の経験分布を求める.すなわち予測開始時点からの各

期ごとに転換点が生じる確率が求められる.

Wecker の方法は,Kling (1987) で多変量の場合 (VAR) に一般化され,その予

測の評価が行われている.また,勝浦 (1995) で日本の一致CIに対して応用さ

れており,その結果が表 2.5.1に示されている.この例は1993年10月の谷を予

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2.6 主成分分析による景気指標の作成

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測しようとするものであるが,その付近で転換点の生じる確率が高くなってい

ることがわかる.ただし,それぞれの確率は予測を開始する時点によって,異

なってくる.

表 2.5.1: Wecker の方法による転換点(1993年10月の谷)の予測確率

予測月 Jun-93 Jul-93 Aug-93 Sep-93 Oct-93 Nov-93 Dec-93 Jan-94 Feb-94予測時点 谷 Jun-93 0.164 0.168 0.188 0.182 0.124 0.096 0.048 0.020 0.004Jul-93 0.000 0.120 0.232 0.238 0.154 0.126 0.068 0.034 0.014Aug-93 0.000 0.158 0.228 0.234 0.148 0.116 0.054 0.026Sep-93 0.458 0.000 0.254 0.102 0.084 0.052 0.026Oct-93 0.000 0.222 0.210 0.204 0.164 0.108Nov-93 0.644 0.000 0.200 0.052 0.064

出典:勝浦 (1995)

2.6 主成分分析による景気指標の作成

2.6.1 MTV モデル

刈屋 (1986) では,MTVモデル(multivariate time-series variance component

model) が提案され,日本の景気動向指数で採用されている一致系列・先行系列

に応用されている.MTV モデルは,時系列データに対する主成分分析をモデ

ル化したものである.主成分分析とは,複数の変数間の背後に存在する共通の

変動を抽出し,しかもできるだけ少数の共通変動でもとの変動を再現すること

を目的とした多変量解析の方法である.主成分分析を景気動向指数の個別系列

に適用すれば,抽出された個別系列の変動に対して強い説明力をもつ共通変動

は,景気変動であるとみなすことができるだろう.

をDIの採用系列としたとき,MTVモデルでは,

= + +・・・ + , i = 1,2,・・・, p

と仮定される.さらに,共通変動要因 には,何らかの時系列モデル(ARな

ど)が仮定され,予測などが行われる.個別系列の予測も可能となる.

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2 景気分析の新しい動向

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MTV モデルと時系列因子分析モデルは,観測不能な景気を推定するという

面で基本的には同じ考えである.両者で大きく違う点は,時系列因子分析モデ

ルでは,一致系列に対して単一の景気を仮定してしているが,MTV モデルでは

先行・一致系列で別々に景気が抽出され,それぞれの系列についても,説明力

の高い複数の変動要因が景気として採用される.その結果として,刈屋 (1986)

では,

= + +

= TC + C +

と景気がモデル化されるとしている. , は抽出された2つの主成分であり,

それらがトレンド・サイクルTC とサイクルC という成分に対応していること

を表している.

MTV モデルを日本の一致系列のデータに適用した結果は,表 2.6.1に示され

ている.データは1973年1月から2000年4月までで,C1からC11は一致系列

である(変数名は1章参照).ただし,C7,C8を除いて各変数は変化率に変換

しておらず,基準化している(相関行列に対する主成分分析).寄与率をみる

と第2主成分までで約90%が説明されている.固有ベクトルの要素をみると,

第1主成分では11系列中8系列でプラスになっており,全体的な変動が抽出さ

れている.第2主成分では,第1主成分でマイナスだった系列や絶対値の小さ

い系列で数値が大きくなっている.これらは,前年同期比 (C7, C8) や有効求人

倍率 (C11) といった率の系列,さらに稼働率指数 (C4) であり,トレンドをも

たない.これら2つの主成分のスコアをプロットした図 2.6.1と2.6.2をみれば,

刈屋 (1986) の結果と同様に第1主成分がトレンドを含めた景気変動,第2主成

分がトレンドをもたない景気変動であると判断できる.いずれの主成分も,グ

ラフをみれば景気の基準日付との対応が良好であることがわかる.

2.6.2 共通主成分分析の応用

共通主成分分析 (common principal component analysis; CPCA) という方法

は,Flury (1984) で提案された k 個のグループが存在する場合の主成分分析で

ある.すなわち, k 個の共分散行列Σ1, Σ2, . . . ,Σkを同時に対角化する共通な直

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2.6 主成分分析による景気指標の作成

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表 2.6.1: 一致系列に対するMTVモデルの結果

1st PC 2nd PC 3rd PC 4th PC 5th PC 6th PC

C1 0.3911 0.0216 0.0651 -0.0573 -0.1294 -0.0158

C2 0.3655 0.1475 0.1765 0.3300 0.0126 -0.4140

C3 0.3733 -0.0654 0.3102 0.1945 -0.0766 -0.2484

C4 -0.0198 0.5261 -0.2489 0.1818 0.2862 -0.4012

C5 0.1486 0.4069 -0.6669 -0.0782 -0.1154 0.0384

C6 0.3841 0.0691 0.1570 -0.0718 -0.1473 -0.0174

C7 -0.2541 0.3599 0.1971 -0.2165 -0.7953 -0.1732

C8 -0.2322 0.3822 0.2687 0.6735 -0.0151 0.4642

C9 0.3709 0.1411 -0.0270 -0.0931 -0.1556 0.4987

C10 0.3838 0.0018 -0.1593 0.0576 -0.0150 0.3101

C11 0.0263 0.4804 0.4472 -0.5414 0.4507 0.1161

固有値 6.4201 3.2752 0.6701 0.2215 0.1881 0.1108 寄与率(%) 58.4 29.8 6.1 2.0 1.7 1.0 累積(%) 58.4 88.1 94.2 96.2 98.0 99.0

図 2.6.1: 第1主成分の時系列プロット

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2 景気分析の新しい動向

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図 2.6.2: 第2主成分の時系列プロット

交行列(固有ベクトルを列ベクトルにもつ行列)を求める方法である.共通主

成分分析の詳細については,Flury (1988) を参照されたい.

勝浦 (1988) では,DIの一致系列を対象に,標本期間を基準日付によって循

環ごとに区切ってグループ化し,共通主成分分析を適用している.その結果,

MTVモデルの結果とは若干異なり,1つの主成分で景気変動がとらえられるこ

とが示されている.

さらに Katsuura (2000) では,部分的共通主成分分析 (partial CPCA) ―同

時対角化を共通の直交行列ではなく,少数の共通の固有ベクトルを含む行列で

行う方法 ― を用い,それに適した次のような景気モデルを提案し,アメリカ

のデータを用いた実証分析が行われている.

= + +・・・+

= + +・・・+

= .

ここで, , はそれぞれ一致指数,先行指数, , はそれぞれ一致系列,先

行系列(個別指標)である.また は,第 j 局面における先行指数の一致指数

に対する先行期間であり,局面ごとに先行期間が異なっているという経験則を

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2.7 景気局面の特徴の分析

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モデルに導入したことが特徴になっている.このモデルは = という関

係により,時系列因子分析モデルと同様の単一要因モデルとなっているが,

を導入することによって複雑な時系列因子分析モデルをよりシンプルにするこ

とが可能となっている.

2.7 景気局面の特徴の分析

2.7.1 景気局面の期間・振幅に関する分析

Hess and Iwata (1997) やPagan (1997) では,景気変動の特徴を把握するた

めに,シミュレーションの方法を用いている.まず,GDP などの景気指標に何

らかの時系列モデルをあてはめた上で,そのモデルに基づいてデータを擬似的

に発生させ,それを多数回繰り返す.そして,それぞれに対して転換点を求め,

その転換点に基づき,平均的な拡張・後退の期間や,景気の振幅の度合いを計

算するという方法である.この分析によって,実際の基準日付などと対応させ

ながら,あてはめられたモデルが妥当であるかをみることもできるし,拡張期

と後退期の非対称性を含めて過去の景気変動を様々な側面から特徴づけること

が可能となる.

また,景気の期間の長さが景気の転換点の生じる確率に影響を与えているか,

すなわち拡張期が長くなれば山が近づく確率が高くなるかどうかなどに関して

もいくつかの側面から研究されている.たとえばDiebold and Rudebusch (1990)

では,ノンパラメトリックな方法によって期間の長さと転換点の関係が検証さ

れている.また,局面推移モデルを用いての分析としてDurland and McCurdy

(1994),Lahiri and Wang (1994) などがある.

2.7.2 景気局面の類似性

Katsuura and Layton (2001) では,ある景気の局面と別の局面が類似性をもっ

ているかどうかを検定する方法が提示されている.これは,部分的共通主成分

分析の応用である.その方法を以下で概説する.

まず,MTV モデルなどと同様に,景気変動を選択されたp 系列の ( i =

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2 景気分析の新しい動向

-83-

1,2,・・・, p )(たとえば一致系列)の1次結合 f で表す.すなわち

= + +・・・+

(t = , +1, . . . , +T ; j =1, . . . , p ),

= + +・・・+

(t = , +1, . . . , +T ; j =1, . . . , p ).

である.ただし,( ) 内の上付きの添字は局面を表し,それぞれの期間の長さは

T 1,T 2である.

このように景気変動を表すと,2つの景気局面の類似性は

= = ( i =1,2,. . . , p ; j =1,2,. . . , q ). (2.7.1)

で定義することができる.つまり,各変数に対する係数,すなわち景気変動へ

の影響の大きさが,2つの局面で共通であることを類似性と考える.このこと

は,景気変動ならびに係数を主成分分析で推定した場合,各局面の分散・共分

散行列に共通するq 個の固有ベクトルが存在することに対応する.つまり局面

の類似性とは,分散・共分散行列で表される変数間の(相関)関係が局面どう

しで安定的であるかどうかを意味する.

(2.7.1) の検定は,以下の帰無仮説・対立仮説に対して行われる.

HCPC (q ):B Σi B = Λi

HA:not Hcpc (q ),

ただし,B = ( , . . . , , , . . . , ) とし (q ≦ p),またΛiは対角行列で

ある.検定統計量としては,

(q ) =-2 log L ( 1, 2, . . . , k) =Σ log | i|, (2.7.2) L (S1, S2, . . . , Sk) |S i|

が用いられる.ティルダ (~) は,部分的共通主成分分析による推定量を表し,

(q ) は自由度 (k-1)q (2p-q-1) / 2の 分布に従う(推定・検定方法の

詳細は,Flury (1988) を参照のこと).q をステップワイズに1から大きくして

いき,順次検定が行われるが,q =1で帰無仮説が棄却されれば,類似性はない

k

i=1

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2.7 景気局面の特徴の分析

-84-

表 2.7.1: 一致系列の局面ごとの類似性の検定 (X 2)

a.後退期

R1 R3 R4 R5 R6

R1: 73年12月-75年3月 R3: 80年3月-83年2月 R4: 85年7月-86年11月 R5: 91年3月-93年10月 R6: 97年4月-(99年1月)

-

41.844*38.590*35.186*32.727*

41.844*-

16.37023.469*31.895*

38.590*16.370

- 13.62155.204*

35.186*23.469*13.621

- 30.069*

32.727*31.895*55.204*30.069*

-

b.拡張期

E2 E3 E4 E5 E6

E2: 75年4月-77年1月 E3: 77年11月-80年2月 E4: 83年3月-85年6月 E5: 86年12月-91年2月 E6: 93年11月-97年3月

-

20.17817.931*32.278*36.212*

20.178*-

13.84324.557*38.983*

17.931*13.843

- 36.178*32.999*

32.278*24.557*36.178*

- 27.478*

36.212*38.983*32.999*27.478*

-

*は5%で帰無仮説が棄却することを示す(臨界値は16.919). 1977年2月-10月の後退期と1973年の11月までの拡張期はデータ数が少ないため計算でき

ない.

と判断する.逆に,少なくともq =1で棄却されなければ,2つの局面で何らか

の類似性が存在し,より大きなq に対して棄却されなければ,それだけ類似性

が強いということになる.

この方法によって,日本経済の一致系列(ただし月次系列のみ10系列)を変

化率に変換したデータ(C7,C8 は階差に変換)に対して1973年4月-1999年

1月までのデータを用いて,拡張・後退の各局面の類似性を検定した結果が表

2.7.1と表 2.7.2に示されている.表 2.7.1は,q =1に対する (2.7.2) の の値,

表 2.7.2は検定をステップワイズに行ったとき,q がいくつまで帰無仮説が棄却

されないか,共通の固有ベクトルがいくつ抽出されるか(類似性の強さ)をみ

たものである.

この結果,後退期に関しては,85年からの円高不況と,80年代前半ならびに

90年代前半のバブル崩壊直後の後退期で類似性がみられる.特に 80年代の後

退期どうしの類似性は強い.また,拡張期に関しては 70年代後半と 83年から

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2 景気分析の新しい動向

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表 2.7.2: 抽出された共通の固有ベクトルの数 (q )

a.後退期

R1 R3 R4 R5 R6

R1: 73年12月-75年3月 R3: 80年3月-83年2月 R4: 85年7月-86年11月 R5: 91年3月-93年10月 R6: 97年4月-(99年1月)

-

-

8

8 - 1

1 -

-

b.拡張期

E2 E3 E4 E5 E6

E2: 75年4月-77年1月 E3: 77年11月-80年2月 E4: 83年3月-85年6月 E5: 86年12月-91年2月 E6: 93年11月-97年3月

-

-

10

10-

-

-

の拡張期で強い類似性が見られる.この結果に対しては,経済状況ともあわせ

て様々な解釈が可能であろうが,時期的に近い局面で類似性が観察されること

は非常に興味深い点である.

2.8 時系列因子分析モデルと局面推移モデルの融合

2.3で述べた時系列因子分析モデルで得られた景気指数に対して,2.4の局面推

移モデルを適用するという試みもある.これは,Diebold and Rudebusch (1996)

において 初に提案されている.局面推移モデルはCIやGDP といった景気指

標に適用されることが多いので,新しい景気指標の1つである Stock-Watson の

景気指数に局面推移モデルを適用することはごく自然な展開である.

Diebold and Rudebusch (1996) の方法は,時系列因子分析モデルと局面推移

モデルをそれぞれプロトタイプのものとして扱っているが,これら2つのモデ

ルを統一的に扱うことは,理論的に見ても興味深く,いくつかの研究がなされ

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2.9 景気指標作成のための系列の選択

-86-

ている.Kim and Nelson (1998) では,Gibbs サンプリングの手法が適用されて

いる.その他,Chauvet (1998),Kaufmann (2000),加納他 (2001) などを参照

されたい.

2.9 景気指標作成のための系列の選択

DIやCIであれ,Stock-Watson の景気指標であれ,景気指標を作成するには,

それらを構成する複数の系列を選択しなければならない.実際,この系列の選

択は景気指標を論じる際の も重要な問題の1つである.結果として得られる

景気指標あるいは景気判断は,選択された系列に大きく依存するし,逆にまた

選択された系列が同じであれば,その総合方法や分析方法がどうであれ,似た

ような結果が得られると言われている.

では,どのような基準で系列は選択すべきであろうか.アメリカではスコア

リング・システムという方法が考案されたが,これはいくつかの選択基準に得

点を設定し,その基準を個別指標がどの程度満たすのかによって得点化し,そ

の得点の高い指標を選択しようとする方法である.このシステムは,主観の入

りやすい指標の選択をできるだけ客観的に行おうとするものである.スコアの

与え方自体が恣意的になりやすいが,その基準を明確にしたことは重要である.

基準としては,Zarnowitz and Boschan (1975a, b) で次の6つが挙げられている.

1. 経済的重要性(経済におけるカバレッジの広さ)

2. 景気との対応性

3. タイミング

4. 平滑性(不規則変動の小ささ)

5. 統計的充足性(過去のデータの遡及可能性)

6. 速報性

この中でウェイトが高いのが,タイミングであり,これは個別指標の山・谷(個

別循環)と基準日付との対応性をみたものである.日本の内閣府・経済社会総合

研究所のDIの採用系列も,基本的にはこれらの基準をもとに選択されている.

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2 景気分析の新しい動向

-87-

このような伝統的な方法以外にも,いくつかの選択方法が考えられている.本

書の1章で行われたロジットモデルを用いた方法もその1つである.旧 YRI イ

ンデックスでは,主成分分析の方法を用いて,日銀短観DIを参照変数として,

個別指標の選択が行われている.またKanoh (1989) やKanoh and Saito (1994)

では,景況感を重視し,やはり日銀短観DIを参照変数として,その変動にあっ

た動きをするように個別指標が選択され,旧経済企画庁のDIとの比較を行って

いる.その結果,旧経済企画庁のDIの指標の選択には主観的な要素が入り込ん

でいる可能性があることを指摘している.

2.10 景気指標の現状

以上のように, 近では様々な手法を用いて景気変動が実証的に分析されて

いるが,多くの人々にとって もよく用いられているのは,伝統的な方法で算

出された景気指標,すなわちDIやCIなどである.

わが国では,内閣府・経済社会総合研究所のDIが もよく用いられ,かつ注

目される景気指標であることは間違いないだろう.もちろん,DIでも先行,一

致,遅行指数があり,累積DIやヒストリカルDIなどもある.さらにCIも補完

的ではあるが,注目される指標である.

これら以外にも,企業などに景況感を調査し,それを指標化したビジネスサー

ベイと呼ばれるものもある.指標化にはDIの算式が用いられるが,個別指標の

減少と増加を0と1ではなく,-1と1とする場合が多い.代表的なものは,日

銀の短観DI(「企業短期経済観測調査」)や内閣府の「法人企業動向調査」の

BSIなどである.これら以外にも経済産業省や日本政策投資銀行などでも同様

の調査が行われている.これらは,人々の景気に対する実感を反映させようとす

る指標である.さらに,DIをはじめ各種の統計が景気の実感とあっていないの

ではないかという観点から2000年1月より導入された指標として,「景気ウォッ

チャー調査」がある.これは,たとえば飲食店の従業員やタクシーの運転手と

いった身近な人に対して景気状況を調査することによって,より消費者に近い

ところで景気をとらえ(いわゆる街角景気),実感を反映させようとする景気

指標である.

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2.10 景気指標の現状

-88-

これら以外にも民間で作成されている景気指標がいくつかある.日本経済新

聞社が公表している日経景気インデックス(日経BI)は,Stock-Watson の景気

指数の日本版である.採用されている系列も,先に述べた Stock-Watson 指数と

ある程度対応させ,生産指数,所定外労働時間,商業販売額指数,有効求人倍

率の4系列が選ばれている.この指数の特徴については,たとえば Fukuda and

Onodera (2001) を参照されたい.さらに日本経済研究センターでは,速報性の

ある月次GDP を作成している.また,旧山一経済研究所のYRI 景気インデッ

クス(現三和ミクロ景気インデックス)は主成分分析を利用した景気指数であ

る.さらに,ニッセイ基礎研究所がニッセイ景気動向判断指数 (NBI),三和総

合研究所が三和先行インデックスなどを公表している.

アメリカでは,DIよりもCIが景気指標の主流である.アメリカの代表的な景気

指標は,The Conference Board のCIである(旧商務省CI).また,Stock-Watson

の景気指標は実際にも注目されているようである.さらに,ECRI (Economic

Cycle Research Institute) では,CG (current gauge8;一致CI),LRG (long range

gauge; 長期先行CI),SRG (short range gauge; 短期先行CI) を作成しており,

日本を含む主要各国に対してもこうした指数を作成している.また景気の基準

日付は,全米経済研究所(NBER: National Bureau of Economic Research)で

決定されている.つまりアメリカでは,政府機関が基準日付を決定していない

し,景気指標も作成していない.重要な点は,景気指標とその結果としてもた

らされる基準日付は,政府の経済政策を評価する1つの指標であることから,政

策を行う主体である政府と,その評価を行う機関とを切り離しているという点

である.

また,CIの手法はインフレ予測のためのインフレ先行指標の作成にも利用さ

れることがある.たとえば,ECRIのFuture Inflation Gauge や三和総合研究

所の三和インフレ先行指数などである.

8名前は gauge であるが,CIの算式が用いられている.