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39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:園田明永,他 1.内シャント(自己血管による動静脈瘻)の インターベンション治療 滋賀医科大学 放射線医学講座 園田明永,金﨑周造,大田信一,新田哲久,大谷秀司,友澤祐樹 渡辺尚武,河野直明,外山哲也,田中豊彦,古川 顕,村田喜代史 はじめに 日本透析医学会のホームページ(http://docs.jsdt. or.jp/overview/)によると 2009 年の慢性透析患者数は 290,675 人と前年度より 8,530 人増加している。日本の 総人口から換算すると約 439 人に1 人の割合となる。透 析技術の発達に伴い 10 年以上の長きにわたって透析を 受ける患者も着実に増えており,透析ルートの維持管 理の必要性は日々高まっていると考えられる。 透析には大きく分けて血液を体外へ導出して濾過と 不純物の除去を行う血液透析(hemodialysisHD)と自 身の腹膜を透析膜として利用する腹膜透析(peritoneal dialysisPD)がある。我々,インターベンショナル ラジオロジストが関わる主なものとしては血液透析ア クセスルートの修復・維持が挙げられる。 本稿では血液透析アクセスルートの中でも,日本で 頻度の高い自己血管内シャント(subcutaneous native arteriovenous fistulaAVF)の修復術(経皮的血管形成 術:percutaneous transluminal angioplastyPTA)につ いて,これからシャント PTA を始めようとする先生方 を対象に基本手技を中心に解説する。 シャントの種類 自己血管を用いた内シャント作製部位は多岐に渡る。 透析バスキュラーアクセス ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 代表的な部位としては手関節付近でのシャント,前腕 中央付近でのシャント,肘窩部のシャント,上腕部の シャントなどがある。動脈との吻合形式には側端吻合, 側側吻合,端端吻合などがあるが (図 1) ,側側吻合は sore-thumb 症候群(シャント静脈本幹から手指への血 流逆流・うっ血) 1をおこすことがあり,端端吻合は末 梢動脈を結紮するためあまり用いられていないようで 実際の臨床では側端吻合の症例に出会うことが多い。 適 応 基本的な適応としては,透析量の減少(50%以上の 狭窄,血栓閉塞など)がある症例やシャント静脈中枢 側の狭窄・閉塞による腕全体の腫脹に対する責任血管 の拡張・閉塞原因除去などがある 23禁 忌 ① Steal (スティール)症候群 内シャントでは動脈の血流が直接静脈に流入するた め動脈硬化病変が強い患者ではシャント部よりも末梢 での動脈血流が低下し虚血状態を生じることがある。 安静時でも手指の痛みがあったり潰瘍を呈する患者で はシャント閉塞術が必要となる 4。ただし動脈狭窄が原 因である場合は責任動脈の PTA が有効なこともある。 20769 側側吻合 端端吻合 側端吻合 静脈 動脈 側端吻合 側端吻合のCTA像 静脈 動脈 図 1 動脈との吻合形式 側端吻合に出会う頻度が高い。

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:園田明永,他

1 . 内シャント(自己血管による動静脈瘻)のインターベンション治療

滋賀医科大学 放射線医学講座園田明永,金﨑周造,大田信一,新田哲久,大谷秀司,友澤祐樹渡辺尚武,河野直明,外山哲也,田中豊彦,古川 顕,村田喜代史

はじめに

 日本透析医学会のホームページ(http://docs.jsdt.or.jp/overview/)によると2009年の慢性透析患者数は290,675人と前年度より8,530人増加している。日本の総人口から換算すると約439人に1人の割合となる。透析技術の発達に伴い10年以上の長きにわたって透析を受ける患者も着実に増えており,透析ルートの維持管理の必要性は日々高まっていると考えられる。 透析には大きく分けて血液を体外へ導出して濾過と不純物の除去を行う血液透析(hemodialysis:HD)と自身の腹膜を透析膜として利用する腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)がある。我々,インターベンショナルラジオロジストが関わる主なものとしては血液透析アクセスルートの修復・維持が挙げられる。 本稿では血液透析アクセスルートの中でも,日本で頻度の高い自己血管内シャント(subcutaneous native arteriovenous fistula;AVF)の修復術(経皮的血管形成術:percutaneous transluminal angioplasty;PTA)について,これからシャントPTAを始めようとする先生方を対象に基本手技を中心に解説する。

シャントの種類

 自己血管を用いた内シャント作製部位は多岐に渡る。

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代表的な部位としては手関節付近でのシャント,前腕中央付近でのシャント,肘窩部のシャント,上腕部のシャントなどがある。動脈との吻合形式には側端吻合,側側吻合,端端吻合などがあるが(図1),側側吻合はsore-thumb症候群(シャント静脈本幹から手指への血流逆流・うっ血)1)をおこすことがあり,端端吻合は末梢動脈を結紮するためあまり用いられていないようで実際の臨床では側端吻合の症例に出会うことが多い。

適 応

 基本的な適応としては,透析量の減少(50%以上の狭窄,血栓閉塞など)がある症例やシャント静脈中枢側の狭窄・閉塞による腕全体の腫脹に対する責任血管の拡張・閉塞原因除去などがある2,3)。

禁 忌

①Steal(スティール)症候群 内シャントでは動脈の血流が直接静脈に流入するため動脈硬化病変が強い患者ではシャント部よりも末梢での動脈血流が低下し虚血状態を生じることがある。安静時でも手指の痛みがあったり潰瘍を呈する患者ではシャント閉塞術が必要となる4)。ただし動脈狭窄が原因である場合は責任動脈のPTAが有効なこともある。

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側側吻合

端端吻合

側端吻合

静脈

動脈

側端吻合

側端吻合のCTA像 静脈

動脈

図1 動脈との吻合形式側端吻合に出会う頻度が高い。

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②局所の感染 人工血管のように頻度は高くないが,慢性透析患者は免疫などの生体防御反応が低下した状態にあることが多く,皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌などよって穿刺部から感染することがある5)。感染シャント血管のPTAは静脈内の感染を拡大したり septic emboliの危険があり,PTAは避けて抗生剤による治療や外科的適応を考慮すべきである。③ヨード造影剤アレルギーの患者 透析患者は当然ながら腎機能も悪く,代替造影剤としてGd造影剤はnephrogenic systemic fibrosis(NSF)6)

のリスクがあるため,使用できない。ただし,CO2を用いた造影 7,8)なら代替手段として使用可能である(図2)。④その他 シャント作製から1ヵ月以内の吻合部病変,尺側動脈閉塞例における吻合部病変なども原則禁忌と考えられている。

使用する道具

①バルーンカテーテル PTAバルーンカテーテルは様々なものが発売されており,その長さ・硬さやガイドワイヤーへの追従性,柔軟性など使用者の好みも大きく分かれるものと思われる。カテーテルの長さが短いものは操作性がよいが,照射野近くになり術者の被曝が増えるデメリットがある。長いものはその逆のデメリットをもつ。選択するバルーンサイズ バルーンの直径は狭窄近傍の正常と思われる血管径に対して同等またはワンサイズ増しの径を選択することが多い。ノンコンプライアントバルーン,セミコンプライアントバルーン バルーンには,バルーンに高い圧を加えてもバルー

ン径が規定された径より大きくならないノンコンプライアントバルーン,バルーンに加えられた圧力に応じてある程度バルーン径も拡大するセミコンプライアントバルーンがある(図3)。②ガイドワイヤー バルーンカテーテルの適合ガイドワイヤーは大きく0.018インチ以下のものと0.035インチのものに分かれる。後の手技の項でもう少し詳しく述べるが,これも狭窄部の通過性や細い側枝への迷入のしにくさや血管損傷のリスクなどで好みの分かれるところである。③その他のカテ類 PTAバルーン以外にも常備しておきたいものとしてストレートカテや先端が45度程度に屈曲したカテーテル,血栓除去用カテーテル,塞栓コイル,冠動脈用ステントなど。また,長さが測定できるエックス線不透過マーカーなども用意しておくと狭窄部の評価やバルーン径の選択に重宝する。

前準備,処置

 シャントPTAは準緊急検査として事前の画像情報なく施行されることも多い。しかし,術前のCTAやMRA,エコー,過去の血管造影画像などがあるとシース挿入位置・その方向の決定,適合バルーン径の決定などに使用でき便利である。事前の画像があれば手技時間の短縮にも貢献すると思われ予定手技の折には術前の画像評価を標準としている施設もある。 もちろん緊急でも,PTAを依頼された折にはエコーがあれば責任病変の存在部位・数,静脈の走行などを比較的正確に評価することができる。エコーがない場合は聴診を用いたり触診で thrill(* thril;“ドクドク”という拍動ではなく,“ザーザー”という流れ)が増強,その後急激に減少する所見や血管が細くなったり硬くなる部位などを参考に狭窄部を推定する。

手 技

造 影 造影ルートとしてシャント静脈から逆行性に造影する方法と上腕動脈から造影する方法がある。

b

c

a

5mm

図2 CO2ガス造影像CO2ガスを10㎖シリンジから手押しで圧入した症例。ガスは造影剤のように血液に混ざらずに血液を押しのけるように断続的に噴出するため,所々とぎれとぎれになったり,血管上層を走行するなどの欠点はあるがPTAに耐えるだけの画像は描出可能である。

図3 ノンコンプライアントバルーンとセミコンプライアントバルーンa : 5㎜径のバルーンを挿入し圧をかけていく。b : ノンコンプライアントバルーンではバルーン径が5㎜径に留まる。c : セミコンプライアントバルーンは高い圧では,5㎜径を越えて拡張してしまう。

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 静脈造影としては,患者を寝台に寝かせた後,上腕にマンシェットや駆血帯を巻く。腕全体を10%ポビドンヨード(イソジン)などで消毒後,穿刺予定部をキシロカインで局所麻酔し(透析患者は出血しやすく,血腫を作ると穿刺がしにくくなることもあり,26G針で麻酔している),18~22Gサーフローで静脈を狭窄部方向に向けて確保する。

穿 刺

 穿刺は血腫形成を避けるため前壁穿刺を基本とする。穿刺針は,外筒が血管内腔をとらえると血液が内筒と外筒の間に入り込むフラッシュバック付きのものがあれば穿刺時の失敗が減り便利である(図4)。穿刺すべき血管に針先が当たりにくい時は,人さし指の腹を血管走行の真上に押し付け,その直下に感じる拍動または血管壁をめがけて指ぎりぎりで針を刺すようにすると上手くとらえられることが多い(図5)。血管確保後,清潔シーツをかけるわけであるが,PTA手技中

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に血管破綻が生じても視覚的にすぐ発見・圧迫できたり,血管内を通過するガイドワイヤーやカテーテルを体表から触れて確認したりすることができるようシャント血管が広く露出されるようにする(図6)。造影時は上腕に巻いたマンシェットを収縮期圧より20~50mmHg高くして造影(手押しにて2~3倍希釈造影剤を20㎖ほど)すると動脈吻合部を越えて良好に造影されることが多い。ネラトンチューブを2本巻いて造影することもあるが動脈血流量が多いと不十分な造影となる(図7)。また動脈側まで十分に造影剤が逆流した時点でマンシェットの圧を徐々に下げることで静脈全体の流れを把握できる。 動脈経由の造影の方法としては,肘部内側で触れることの多い上腕動脈に22Gサーフローを留置し造影(2~3倍希釈造影剤5~10㎖)する方法もある。造影剤量が少なくて済む,中枢動脈から中心静脈までの比較的自然な血流観察が可能である9),余計な静脈側副路が出ずシャントの全体像をつかみやすいなどの利点

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図4 フラッシュバック付きサーフローでの前壁穿刺のコツ

a : 30度前後の浅い角度で針のカット面を上に向けて穿刺。まずは内針に血液がかえってくる。

b : この時点で,針先を180度回転させる。そうすると血管後壁と針先が少し離れるため,さらに進める余裕ができるばかりでなく,また,針先で後壁を傷つける可能性が減る。

c : 針を進めると外筒にも血液がかえってくる。

d : 内筒をかぶせる。c

cd

針を180度回す。

a b

さらに進める

余地ができる。

内筒に血液流入

外筒に血液流入

血管

血管

図5 触れにくい血管の穿刺人さし指の長軸を血管に合わせ,指のおなかで血管拍動を触れ自分の指をささないように注意しながら,指の直下の拍動部めがけて針をさす。指のおなかと血管前壁の距離をなるべく短くするのがコツ。

図6 PTA部にかけた清潔シースPTAを行う血管全体が見渡せるように露出させる。造影後,ガイドワイヤー操作やバルーン拡張などで生じた血管損傷を早期に発見するためである。

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があるが,橈骨動脈は肘部よりも高位で分岐する変異があり10)順行性に針を入れたり,造影剤量が少なかったりすると橈骨動脈が描出されないことがあることを知っておく必要がある。

シース挿入

 基本的に瘤化した部分は破裂のリスクがあるのでシース挿入は避ける方がよい。静脈が全体的にほぼ一様に太くなるのは拡張であるが,周囲の静脈とは異なり部分的に瘤状に膨らむものには注意が必要である。特に光沢があるものは破裂のリスクが高いと言われている。 シースの挿入は,肘窩の動脈から順行性に入れる方法,狭窄部より下流部に入れる方法,狭窄部より上流部に入れる方法,吻合部よりも末梢の静脈に挿入する方法などがあるが(図8),閉塞・狭窄状況や残存静脈の状態により最もアプローチ容易と思われる血管を選択するほうが失敗は少なくなる。ただし,動脈からのアプローチは動脈のスパスムを誘発したりシャントへの供血血管である動脈の狭窄や閉塞をもたらす可能性もあり注意が必要である。

 また,シースには先端にマーカーがついたものがある。これを使うと透視下で先端位置が確認しやすく狭窄部近傍でシース挿入しなければならないときなどシース先端位置を微妙に調節でき重宝するが,シースとダイレーターの間に段差が大きくシース挿入時に皮膚のカットが必要な場合が多い。透析患者では拡張した静脈は皮膚の表層に近いことが多く,皮膚にカットをいれることで血管損傷をきたすリスクがないとは言えない。先端にマーカーがないものは,シースとダイレーターの段差が少なくカットを入れる必要がほとんどない。 シャントPTA用のシースは長さが3㎝ほどと短いものが多く,シースを挿入したあとは滅菌したテープなどでシースをしっかり固定しておく方がよい。バルーンの出し入れ時にシースが抜けてしまうことを防ぐことができる。

ヘパリン化

 PTA中に血栓が生じることを防止しておくため,遅くともバルーン拡張前にはへパリン(2,000~3,000単位)を静脈注射しておく。

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a b

c

静脈 動脈

d

図8 シースの挿入部a : 狭窄部より下流に入れる方法。狭窄後の部分であり,圧も低く血管損傷のトラブルがあっても対処しやすい。

b : 狭窄部より上流に入れる。穿刺部として選ばざる得ないときも多い。狭窄部よりも上流であるため圧が高く,微小な血管損傷でも大きな血腫をつくることがある。

c : 動脈からのアプローチ。順行性で順路を造影しながら手技を進めることができる。動脈損傷のリスクがある。

d : 吻合部よりも末梢側の血管が発達しているならそこからアプローチすることもある。)。

図7 マンシェットを使った静脈からの造影像手押し2~3倍希釈造影剤20㎖。a : 最高血圧150mmHgの男性患者。肘窩よりシース挿入し,上腕に巻いたマンシェットを150mmHgで加圧した造影。静脈の描出は不十分で吻合部や狭窄部は不明瞭である。

b : aと同様の症例。マンシェットを200mmHgまで上げると吻合部を越えて動脈が良好に描出されている。

a b

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インディフレーターの準備

 インディフレータ内はPTAバルーンを膨らませる器具である。2~3倍に希釈した造影剤を満たしておくが,内部やルート上の空気はきっちりと抜いておく方がバルーン拡張時に狭窄と見間違えるようなアーティファクトを作製しない。

ガイドワイヤーでの狭窄部通過

 0.018インチ以下のガイドワイヤーでは先端が血管壁や細い枝に引っかかってうまく進まないことがよくある。0.035インチのガイドワイヤーなら腰が強くかつ0.018インチ以下のガイドワイヤーより太いため,細い血管に迷入しにくいという利点をもつ。ただ,当然ながら扱いを雑にすると血管損傷のリスクは太いガイドワイヤーのほうが高く,好みが分かれるところではある。 ガイドワイヤーがうまく狭窄部や吻合部を通過しない時,病変部や吻合部を体表から鉗子などで圧迫して走行を変えてやると通過しやすくなることもある。 その他,吻合部近傍などで静脈が瘤状に拡張し先の

血管が選択しにくいときは45度程度に先端を曲げたカテーテルで探ると比較的容易に通過できることも多い(図9)。 可能ならガイドワイヤーは病変部を越え動脈の体幹側や手掌末梢の動脈・静脈に進めておく。バルーン拡張時に血管損傷をしてもガイドワイヤーがしっかり入っていれば速やかに同部にバルーンを進めて止血が可能である。また,バルーンが拡張するときに少なからずバルーンカテーテルが前後に滑ることがあり,バルーン先端で血管壁を傷つけるリスクを減らすことができる。

バルーン拡張

 狭窄部が複数ある場合,動脈吻合部から最も遠位の狭窄部から拡張するほうがよい。近位側から拡張した場合に血管損傷が起きると圧が高い状態での損傷のため出血量が多くなったり,血が止まりにくいなどのトラブルが予想されるからである(図10)。また,病変部がバルーン長より長い場合は,一度拡張したバルーンは通過性が落ちるため,押し込むより引く方が狭窄部を通過しやすいのでシース挿入部より遠位を軽度拡

a

b

c

静脈 動脈

① ②

吻合部に近いほど血管内圧は高い

図9 瘤化した部分での選択方法a, b : 狭窄部の手前が瘤化してい

る時はガイドワイヤーがなかなか狭窄部に入らないことが多い。

c : 先端を軽度屈曲させたカテーテルで口を探りながら造影すると狭窄部をとらえやすい。

図10 多発した狭窄部の血管内圧狭窄部より吻合側に近いほど血管内圧は高い。よってバルーン拡張時の血管損傷時には,圧が高いほう(②)が大きなトラブルになりやすいので,まずは圧の低いほう(①)から拡張する。①を拡張したあとなら②でトラブルがあっても圧は下がっているのでリスクを減らすことができる。

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張後,近位をしっかり拡張し,さらに遠位をしっかり拡張と順次行うほうがよいかもしれない。

疼痛対策

 拡張時は疼痛を伴うため,拡張する部位が体表からあらかじめわかっている場合は,リドカイン貼付剤などを貼っておくとよい。拡張する部位にキシロカインを皮下注射したり,ソセゴン0.5~1Aの ivやドルミカム10㎎/2㎖を生食で20㎖に薄めたものを,2~5㎎静脈注射する方法もある。痛みは自制できる範囲であることも多いので特に何もしないことも多い。

バルーン拡張

 インディフレーターを用いて1気圧/秒程度で透視を見ながら優しく拡張していく。バルーンには,奨励拡張圧(nominal pressure)と最大拡張圧(rated burst pressure:RBP)があるが,基本的にはRBPを超えないように拡張することが望ましい。RBPを超えるとバルーンが破裂することがあるためである。透視下で狭窄が消失したらその圧よりも2~3気圧上げて,60~120秒程度維持し,その後1気圧/秒程度でゆっくりと減圧する。バルーンを抜いて拡張前と同様の方法で造影し,狭窄部を評価し,くびれが消失していれば手技は終了となる(図11)。

拡張不十分症例

リコイル(Recoil) バルーンを拡張した状態だとくびれも消失しきれいに拡張しているのに,バルーンを減圧すると再狭窄する場合,バルーンでの長時間拡張(5分程度)を試みる。それでも再狭窄するなら部位によりステントの使用も検討する11)。ただし,留置部位の穿刺ができなくなる,保険がきかないなどの欠点もある。

頑固な狭窄 20気圧程度の加圧では拡張しない時,高耐圧バルーンやcuttingバルーンの使用なども考慮する11)。

血管拡張のendpoint

 通常はくびれが消失するまでをendpointとするが,容易にくびれが消失しないことも多い。多少くびれが残っても透析医と相談のうえ透析するのに十分な血液量(150~300㎖/分)がシースから脱血可能であれば手技を終了することも多い9)。

血栓閉塞症例

 閉塞部をストレートカテや先端を45度程度軽度屈曲させたカテとガイドワイヤーを用いて突破する。パルススプレーカテや血栓吸引カテなどを用いて血栓をある程度除去後,バルーン拡張で小さな血栓は粉砕する。小さな血栓なら体表から手でもんで消えることもある。 パルススプレーカテーテル使用時は,生食20㎖+ウロキナーゼ24万単位+ヘパリン1,000単位を0.2~0.5㎖/10~30秒ずつ圧入し溶解を試みる。

シースの抜去

 シース抜去後,圧迫止血(5~10分)を行う。著者は特に薬剤を使わず止血を行っているが,ヘパリン投与後であり止血しにくいこともあり施設によっては硫酸プロタミンを投与してから抜去している。硫酸プロタミンは急速に静注すると血圧低下を招くことがあるため,20㎖程度に生食で薄めて数分かけてゆっくり静注する必要がある。 圧迫止血はシース挿入部を指先やガーゼなどで血流を止めない程度に圧迫(シース挿入部から出血はしないが,指先に thrillは感じる程度)5~15分圧迫するこ

図11 バルーン拡張前後の写真a : バルーン拡張開始時は,くびれを認める。b : くびれが無くなった状態が,加圧終了の目安となる。

拡張中 拡張後

くびれあり くびれ消失

a b

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とで通常止血可能である。

PTAの治療効果

 文献により幅があるが,1次開存率12ヵ月で約50%前後といわれている5,9)。治療後,3ヵ月以内に狭窄することが2回以上つづくような症例は,ステントの使用やシャントを作製し直すことも検討すべきである。

副作用,合併症

 合併症の発生率は,2~15%と言われている。主なものは,穿刺部感染,血腫(仮性瘤,血管破綻),静脈・動脈閉塞,肺塞栓(脳梗塞),脳出血,造影剤の副作用などである12,13)。バルーン解除時に血管破綻部から血液が漏れて血腫形成することがある。まずは,拡張部の皮膚が見えるように術前に拡張部を十分に露出させ早期発見することが重要である。血管破綻部にバルーンを再挿入し,バルーンを低圧(2~4気圧)で加圧しつつ,皮膚の上から同部を10~15分程度用手圧迫止血する。それでも止血できないときは,カバードステント,外科的治療なども考慮する。血栓溶解療法併用時には筋肉内,脳内に出血を来すことがある。これを防ぐためにはウロキナーゼの使用量を24~48万単位くらいをめどにする必要があると言われている。肺塞栓,脳梗塞は大きな血栓が飛んだときにその危険がある。大きな血栓を飛ばさないことは重要であるがシャントPTAのリスクについて患者へのインフォームドコンセントは最も重要と考える。

おわりに

 内シャント(自己血管による動静脈瘻)におけるPTA治療の基礎的手技について解説した。これから新たにシャントPTAを始めようとする先生方の多少とも参考になれば幸いである。

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9) 前田清澄,青木 茂,永田 保,他:透析シャント不全の IVR. 臨床画像 21 : 1210 - 1222, 2005.

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2 . グラフトアクセスのインターベンション治療関西医科大学 放射線科学講座,石切生喜病院 放射線科1)

狩谷秀治,谷川 昇,米虫 敦,中谷 幸,八木理絵,白石友邦1),澤田 敏

適 応

 グラフトアクセス(AVG)狭窄に対するバルーン拡張術(PTA)の適応は自己血管吻合の内シャント(AVF)と基本的には同じでNKF-K/DOQI Clinical Practice Guidelinesに基づき50%以上の狭窄とそれによる臨床的異常,生理学的異常がある場合となる。臨床的異常,生理学的異常とは血栓閉塞,静脈圧の上昇,再循環,身体的異常所見,透析効率の低下,アクセス血流量の低下など正常な血液透析を行うことに支障をきたすことである。したがって上記の異常なくエコーや血管造影で狭窄を認めるだけでは適応にならずバルーンPTAを行うべきではない。50%以上の狭窄があり狭窄音を呈していても正常な血液透析が長期にわたり可能なAVG,AVFはいくらでもある。

準 備

 バルーンPTAは外来で行うべきでありとくに理由がない限り入院は必要ない。我々は上記適応に加えPT-INR<2.0,血小板数>25,000,グラフト感染がないことを原則としている。手技中のヘパリン化は必ずしも必要でなく文献でもさまざまである。我々は全身のヘパリン化を行っていない。カテーテルやシースからヘパリン加生理食塩水(へパ生)を用いたフラッシュは適宜行っている。他の血管造影手技と同様の清潔操作で行うが,バスキュラアクセス(VA)の IVRでは血管造影所見のみならず術中に血管の視診,触診が重要であるためドレープでアクセスを覆い隠さずアクセス全体を消毒し露出させておかなければならない。特にバルーンPTAの技術的成功を判断するために触診によるスリルの評価は不可欠である1)。血圧計,心電計,酸素濃度の計測は他の IVR同様に行う。

バルーンカテーテル

 グラフトや流出静脈の狭窄には20から30気圧の高耐圧または超高耐圧バルーンを使用し,10から20%オーバーサイズのバルーンを使用する。我々は5㎜径グラフトには6㎜径バルーン,6㎜径グラフトには7㎜径バルーンを用いている。流出静脈狭窄への使用はAVFと同様10から30%オーバーサイズを使用する。動脈吻合部や流入動脈の狭窄に対する拡張にはオーバーサイズ

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の使用は避ける。動脈と同径かアンダーサイズを用いる。VAに対するバルーンPTAでは細径のワイヤ対応のバルーンカテーテルは基本的に必要がないことは文献からも明らかである。このカテーテルは特殊型に分類され償還価格が高く特殊な状況以外に使用するべきでない。我々はここ数百例に標準型バルーン以外使用していない。VAにはプッシャビリティーがよくインフレーション,デフレーションの早いバルーンカテーテルが適している。吻合部を通過する時もワイヤのシャフト部分まで挿入しておけばある程度柔軟性のある標準型バルーンでも必要なトラッカビリティーは満たされる。カテーテルの通過が困難な場合には皮膚の上から手でアシストしカテーテルのたわみを軽減できることを忘れてはならない。我々はBlue MaxTM 20TM(Boston Scientific)や超高耐圧のConquestTM(BARD)を使用している。Blue MaxTM 20TMはプッシャビリティーに優れ,デフレーションが早く,チップが短いといった点でVAのバルーンPTAに適している。デフレーションが早いと拡張後早く造影できるので血管破裂の有無の判断が早い。またConquestTMは30気圧まで拡張可能である。20気圧まではバルーンにくびれが残る硬い狭窄はいくらかあるが,30気圧でもバルーンにくびれが残る狭窄はかなり少ない2)。また我々は完全拡張できない要因として適切なオーバーサイズのバルーンを使用していないこともあるのではないかと考えている。

シース

 シースのサイズは術中に使用する可能性がある最も大きいサイズのバルーンカテーテルに合わせて選ぶ。我々は基本的に6F以上のサイズを使用し,6から7Fを多用している。バルーンカテーテルを挿入したままでシースのサイドアームから造影とフラッシュが十分に行えることが大事である。VAでは8F程度のシースまでは問題なく止血でき慢性期にシース挿入部の狭窄が問題になることはほとんどない。出血傾向や静脈圧が高い場合など止血に時間がかかる時には三方活栓を利用した止血方法(Woggle technique)があり外来 IVRの件数をこなすには助けになる(図1)3)。この方法を利用した止血デバイス(SlipNot, Merit Medical Systems)も米国では市販されている。バルーンカテーテルが挿入された状態でシースのサイドアームからへパ生や造

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影剤をボーラス注入すると注入圧を要するのでサイドアームがシース本体から外れる製品もある。我々の使用の範囲ではスーパーシース(メディキット)では破損した経験がない。

ワイヤ

 末梢では0.035インチのアングル型ラジフォーカスタイプを使用する。我々はインタースルーTM(テルモクリニカル)を使用している。先端から15㎝までメジャーが付いており目視での血管の計測に便利である。ワイヤ先端が照射野外であってもメジャーが照射野内であればメジャーの動きでワイヤをホールドできているかわかる。ワイヤが中心静脈に及ぶ場合にはベンソンタイプまたは先端 J型のワイヤを用いる。中心静脈狭窄に対するバルーンPTAやステント留置時ではワイヤ先端を下大静脈まで十分に挿入しておく。

手 技

 AVG,AVFともシースは流出静脈またはグラフトに挿入する。流入動脈からアプローチする報告もあるが,外来治療で安全に行い,安価な標準型バルーンを用いることが難しくなる。静脈弁が原因の狭窄などで逆向性に動脈吻合部近くの狭窄をワイヤで突破することが難しい場合には,上腕動脈に順行性に留置した22Gエ

ラスター針からマイクロガイドワイヤを挿入して順行性に狭窄部を突破しPull-throughにした後,逆向性にバルーンカテーテルを挿入することで解決できる。 AVGの狭窄で最も多い部位は静脈吻合部であり(図2),これに対するバルーンPTAは特に難しいことはないがグラフト内狭窄を伴っている場合があるのでいずれにもアプローチできるようにシース挿入位置の考慮が必要である。集中的に穿刺されている部位にはグラフト内狭窄の可能性があり穿刺跡を参考にこの部位へのバルーンPTAも考慮したシースの挿入位置が良い。脱血用穿刺跡,送血用穿刺跡の部位のいずれからも離れた位置から挿入するとシースの向きを変えることですべての狭窄へアプローチできることも少なくない(図3)。 静脈吻合部の狭窄は強固であることが少なくない。通常バルーンの拡張でバルーンにくびれが残る症例もカッティングバルーンを使用すれば低圧で完全拡張可能である4)。また超高耐圧バルーンもほとんどの狭窄をバルーンにくびれを残すことなく拡張することができる2)。許容できるオーバーサイズバルーンでバルーンにくびれを残さず拡張させることが長期開存につながるという見解が現在主流である。我々はAVGの静脈吻合部狭窄にカッティングバルーンを使用すると通常バルーンによる拡張よりも一次開存率が高くなると報告した(p=0.039)5)。しかしこの時は超高耐圧バルー

図1 三方活栓を利用した止血方法(Woggle technique)a : シース挿入部周囲に糸をかける。b : 三方活栓(白矢印)にシースダイレーターの先端を切り落とし短くしたもの(黒矢印)を接続し,糸(黒矢頭印)をダイレータと三方活栓に通す。

c : 糸を引っ張りダイレータを押し付ける。d : 活栓(白矢頭印)を閉じて糸を引っ張った状態で固定する。

ac

bd

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a b c d

図3 1本のシースでグラフト全域の狭窄へアプローチしバルーン拡張を行った。グラフトではシースを反転させる操作は容易である。たとえシースが抜けたとしてもグラフトの止血は容易である。a : 動脈吻合部近くのグラフトに留置したエラスター針から造影剤を注入して得られた血管造影。グラフト内に複数の狭窄を認めた。ループの中央部分(黒矢印)はカーブが強いので透析時の穿刺に選ばれることが少なく狭窄がないことが多い。

b : 狭窄がない区間の中央から6Fシースを静脈側に向けて留置しバルーン拡張を行った。シース挿入位置を示すためにおかれた金属針(白矢印)。

c : ワイヤを挿入したままシース挿入部近くまでシース先端(黒矢頭印)を引いた。d : シースの向きをやや動脈側へ向け静脈側へ挿入していたワイヤ(白矢頭印)を反対の動脈側へ進めた。

e : ワイヤに追従させてシースを挿入した。シースを進めるときはダイレータを挿入したうえで行う。シースが動脈側へ向いたので動脈側の狭窄へもアプローチが可能となった。

図2 右前腕ループグラフトの血管造影a : 静脈吻合部狭窄(黒矢印)。グラフト内狭窄(白矢印)。シース(黒矢頭印)。グラフト径は5㎜。

b : 静脈吻合部に対するバルーンPTA。バルーン径6㎜。15気圧で完全拡張が得られた。c : グラフト内狭窄に対するバルーンPTA。バルーン径6㎜。15気圧で完全拡張が得られた。

d : 拡張後血管造影

c de

a b

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ンがなく20気圧までの拡張にとどまり通常バルーン群ではバルーンにくびれが生じた状態で終わったものもあった。超高耐圧バルーンとカッティングバルーンを比較した報告はない。

不成功例への対応

 3ヵ月以内に2回以上のバルーンPTAを必要とした場合にはバルーンPTAは不成功と判断し外科的再建を選択すべきである。外科的再建が可能な症例では IVR治療にこだわってはいけない。特にAVGの静脈吻合部狭窄ではバルーンPTA後3ヵ月間開存しない症例も少なくないが漫然とバルーンPTAを繰り返さず外科的にグラフトを延長する再建を行う。外科的再建が困難な症例では,困難な外科的再建を行う,長期留置カテーテルを使用する,バルーンPTAを繰り返す,ステント留置を行う,あるいは表在化動脈へ変更するなどを検討することになる。

ステント留置

a.適 応 有効性に限界があり適応は極めて限定されるべきである。バルーンPTAで臨床的成功が得られない,または3ヵ月以上の開存が得られない症例はバルーンPTAとしては不成功であり,まず外科的再建を考慮すべきである。外科的再建が困難な場合にはステント留置も考慮される。ステントは後の外科的再建の妨げになってはならず,穿刺の妨げにもなってはならない。

b.臨床成績 バルーンPTAで技術的不成功または短期開存例のAVGへのステント留置の臨床的成功率は94%であり,バルーンPTAで技術的不成功の症例でも86%と高い6,7)。バルーンPTA後3ヵ月以内に再狭窄したAVGにステント留置を行うと開存期間を延長させることができる(p=0.006)6)。しかしAVGにおいてステント留置を行っ

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図4 Arrow-TrerotolaTM PTD (Arrow)a : バスケットに似た形状のワイヤ(白矢印)がカテーテル先端にあり手元のモーターで回転させる。

b : 左前腕のループグラフト内から流出静脈の橈側皮静脈に至るまで大量の血栓があった。Arrow-TrerotolaTM PTDを使用し短時間で治療し得た。先端部(黒矢印)が高速で回転し血栓を破砕する。

a b

た群とバルーンPTA単独で成功した群の一次開存率を比較するとステント留置群はバルーンPTA単独成功群に及ばない(p=0.028)6)。また二次開存を保つために繰り返し必要となるバルーンPTAの回数はバルーンPTA単独成功群よりもステント留置群のほうが多い(p<0.001)。これらの結果を考えるとバルーンPTA単独での成功率および開存期間の向上を目指しなるべくstentの使用は避けるべきと結論できる。

血栓閉塞

 血栓閉塞の治療手段はマッサージ,ウロキナーゼを用いたLyse & wait technique,Thrombolytic device(Arrow-TrerotolaTM PTD, Arrow)の使用,Throm-

bectomy device(Thrombuster, カネカメディックス,HYDROLYSERTM, Cordis)などある8,9)。Thrombolytic deviceとThrombectomy deviceのコンセプトが違うことは理解しておかなければならない。Arrow-TrerotolaTM PTDは血栓閉塞のVAのに極めて有効であるが日本で入手できない(図4)9)。日本で使用できるThrombec-tomy deviceの有効な報告もある。しかし我々の使用の範囲では血栓除去よりも結局これらのデバイスが通過することによる血栓の破砕による効果が大きいと考えられ有効性には疑問が残る。VAにおける血栓閉塞の治療は血栓を体外に取り出すことも有効ではあるが,基本は血栓を破砕,溶解し速い血流を回復させ小さな残存血栓を流出路へ飛ばしてしまうことであると我々は考えている。 血栓閉塞の場合,まず動脈吻合部を用手圧迫し,動脈吻合部近くのグラフトからウロキナーゼとヘパリンをゆっくり注入しグラフトのマッサージを行う(図5)。これはベッドサイドでできる方法であり紹介元でも我々の施設に来る前にできるだけ施行するようにお願いしている。これだけで血流が開通することも少なくなく,開通しなくても血栓はずいぶん少なくなっている。我々はマッサージを強力な血栓破砕術と位置付け

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ている。マッサージはグラフト内の血栓を静脈側へ押し出すように行うことがコツである。また乾いた皮膚ではマッサージをしづらいのでハイポアルコールで皮膚を濡らして行っている。 我々の経皮的治療手段の基本はウロキナーゼを用いたLyse & wait techniqueをモディファイした方法である8)。ロングシースとバルーンカテーテルを使用した手技でかかる時間も少ない(図6)。動脈側へ血栓を飛ばさないように注意して手技を行わなければならない。

図5 ベッドサイドあるいは手技前に行うウロキナーゼ注入とマッサージ

動脈吻合部を強く用手圧迫し,できるだけ動脈吻合部に近いグラフト内へウロキナーゼとヘパリンをゆっくりと注入する。注入とグラフトのマッサージを交互に行う。マッサージはグラフト内の血栓を静脈側へ押し出すように強く行う。

a

V V V V VA A A A A

b c d e

図6 Lyse and wait techniqueをモディファイした静脈吻合部狭窄が原因のグラフト内血栓に対する経皮的治療法a : 血栓閉塞したグラフト内。グラフト動脈側に先端が動脈吻合部まで届くシースを1本,グラフト静脈側に先端が静脈吻合部まで届くシースを1本留置する。使用するバルーンカテーテルに適合するサイズよりも大きめのシースを使用する。

b : 動脈吻合部をバルーンで閉塞し,動脈側シースからゆっくりとヘパリン加生理食塩水で薄めたウロキナーゼを注入しグラフトを強くマッサージする。動脈側シース先端はバルーン近くまで進めておく。静脈側シースは静脈吻合部近くまで進めておく。注入とマッサージを繰り返す。静脈吻合部の狭窄のため注入しづらい場合には静脈側シースのサイドアームのコックを開放にしておく。

c : 動脈側シースからゆっくりと造影剤を注入し血栓がある程度少なくなったことを確認し,静脈吻合部の原因狭窄にバルーン拡張を行う。

d : 再び動脈吻合部をバルーンで閉塞し,動脈側シースから強くフラッシュし血栓を流出路へとばす。残存血栓がある場合にはマッサージやバルーンカテーテルで破砕する。

吻合部末梢側の動脈に血栓を認めた場合でも症状が生じることは少ないが,生じた場合あるいは可能であれば血栓除去を行う。吻合部中枢側の流入動脈をバルーンで閉塞し末梢側動脈からグラフトへの血流を発生させて末梢側の血栓をグラフト内へ引き込むテクニック(Backbleeding)やウロキナーゼの注入など行う10)。スルールーメンのフォガティーカテーテルは残存血栓の破砕に有効である。

合併症

a.バルーンPTAによる血管破裂 血管破裂は決して少なくない。この対策として複数の狭窄が存在する場合は流出路から拡張し,順行性の造影ルートを確保し,破裂が生じた場合可能な限り血液を血管外に漏らさないことが大切である。拡張を吻合部側から行い流出路に狭窄を残すと血管破裂が生じた場合,流出路の狭窄で血流が堰き止められ破裂部の血圧が高く止血が困難となる。また止血できても流出路のバルーンPTAの際に再出血する可能性も高くなる。中枢を駆血して逆向性に造影を行う場合,血管破裂部の血圧を上げることになり血液を血管外に多く漏らすことになる。したがって血管外漏出像の確認には順行性の造影ルートが好ましい。血液が漏れると血腫が生じバルーンPTAに成功しても圧迫により血流が低下し不成功に終わる可能性がある。血液をなるべく

静脈

動脈

ウロキナーゼ注入

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漏らさない対策として我々は以下のことを実行している。バルーンのデフレーション前に造影の準備をしておく,デフレーション中は血流の上流を用手圧迫し血流をとめておく,デフレーション終了後に用手圧迫解除と同時に造影し血管外漏出像があればすぐに低圧でバルーンのロングインフレーションを行うといったことである。我々はロングインフレーションを1回5分とし止血できるまで繰り返し行う(図7)。ロングインフレーション時には前後の血管に血栓が生じないようフラッシュすることが大切である(図8)。このためには長く太いシースが有利である。

b.スチール症候群・静脈高血圧症 アクセス血流量が多い場合では手指への血流が低下しスチール症候群が生じることがある。また流出路中枢の狭窄や側副路を介しアクセス血流が多量に末梢方

向へ逆流する場合には静脈高血圧症が生じる。スチール症候群と静脈高血圧症が複合的に生じ手指の虚血が生じることも少なくない。このような場合には逆流する側副路への経路をコイル塞栓すると静脈高血圧が改善しなおかつ流出抵抗が増すのでアクセス血流が低下し手指への血流が増加する11)。上腕で吻合されたAVFでも同様の虚血が生じることがあり不要な側副路があればコイル塞栓を行うと有効なことがある。

c.ヨード造影剤アレルギー ヨード造影剤アレルギーの患者の IVRにはCO2を造影剤として用いた造影が有効である。CO2造影はヨード造影ほど鮮明に診断できないが,血管造影のみならず触診やエコーが診断のサポートになるVAには手技を進める上でのマッピングとして十分使用できる 12)。繰り返し行うことが少なくないVAのバルーンPTAで

図8 バルーン拡張による止血中のフラッシュシース先端をバルーンカテーテル近くまで進めシースのサイドアームからヘパリン加生理食塩水でフラッシュ(矢印)を行う。必要に応じバルーンカテーテルに挿入しているワイヤを抜去しバルーンカテーテル先端からもフラッシュ(矢印)を行う。先端をバルーンカテーテル近くまで挿入できる長さのシースが必要。

図7 バルーン拡張による血管破裂と止血方法a : 左上腕ループグラフトの静脈吻合部の狭窄病変(黒矢印)。b : バルーン拡張後造影にて造影剤血管外漏出像を認める(白矢印)。バルーンカテーテルは拡張後動かしていない。

c : 4気圧の低圧でバルーン拡張をすぐに行い止血する。5分を1クールとし造影剤血管外漏出像がなくなるまで繰り返す。

d : 造影にて造影剤血管外漏出像を認めなくなった。バルーン拡張による圧迫は14クール行い合計70分かけて止血に成功した。

ac

bd

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は過去の画像を参考にすれば閉塞症例であってもCO2

造影を用いた手技で成功できる。エコーのみでPTAを行うことも不可能ではないが我々が使用しているワイヤ等は添付文書上ではX線透視下で使用することが明記されておりヨード造影剤が使用できなくても透視を使用することは安全のため必須である。

AVGの管理

 AVFの場合では触診でほとんどのアクセス不全を診断できるがAVGの場合では静的静脈圧の測定やエコーによる流量測定が必要になってくる。NKF K/DOQIのガイドラインでは1から数ヵ月に一度グラフト内の血流測定や静的グラフト内圧の計測を推奨している。我々の施設では透析毎のアクセスの観察は穿刺を行う看護師行い,静的グラフト内圧の計測は臨床工学士が行い,アクセスのエコー検査は臨床検査技師が行っている。したがってバルーンPTA後の経過観察にはコメディカルとの連携が大切である。アクセス不全の所見は多岐にわたるのでスタッフが異常所見を見逃さないために当施設ではバスキュラアクセススコアリングを使用し経過観察を行っている(表1)。また透析を我々の施設で行っていない紹介患者においては紹介元との連絡を密にしなければ適切な管理は難しい。治療を行った患者の観察ポイントを紹介元へ伝えバスキュラアクセススコアリングによる評価をお願いしている。

観察項目 スコア

1 駆血にて狭窄部位の触知 1点2 スリルの低下 2点3 拍動への変化 2点4 血管の怒張の増強 3点5 瘤の変化 5点6 静脈高血圧症の増強 7点7 スチール症候群の増強 7点8 狭窄音の聴取 1点9 シャント音の低下 2点10 断続音の聴取 2点11 血栓性閉塞 7点12 穿刺困難 5点13 再循環の疑い 5点14 QBを確保できない脱血不良 7点15 QBを確保できない静脈圧上昇 7点16 静脈内圧の上昇 グラフト5点/自己血管3点17 静脈内圧の下降 グラフト5点/自己血管3点18 止血時間の延長 1点19 連続したスリル −2点 

定期的なシャント造影は必要なく定期的な予防的PTAなどしてはならない。

【参考文献】1) Trerotola SO, Ponce P, Stavropoulos SW, et al: Phys-

ical examination versus normalized pressure ratio for predicting outcomes of hemodialysis access interventions. J Vasc Interv Radiol 14: 1387 - 1394, 2003.

2) Trerotola SO, Stavropoulos SW, Shlansky-Goldberg R, et al: Hemodialysis-related venous stenosis: treat-ment with ultrahigh-pressure angioplasty balloons. Radiology 231: 259 - 262, 2004.

3) Simons ME, Rajan DK, Clark TW: The Woggle technique for suture closure of hemodialysis access catheterization sites. J Vasc Interv Radiol 14: 485 -488, 2003.

4) Kariya S, Tanigawa N, Kojima H, et al: Percutaneous transluminal cutting-balloon angioplasty for hemodi-alysis access stenoses resistant to conventional bal-loon angioplasty. Acta Radiol 47: 1017 - 1021, 2006.

5) Kariya S, Tanigawa N, Kojima H, et al: Primar y patency with cutting and conventional balloon angio-plasty for different types of hemodialysis access ste-nosis. Radiology 243: 578 - 587, 2007.

6) Kariya S, Tanigawa N, Kojima H, et al: Peripheral stent placement in hemodialysis grafts. Cardiovasc Intervent Radiol 32: 960 - 966, 2009.

7) Kariya S, Tanigawa N, Kojima H, et al: Residual stenosis after conventional balloon angioplasty for hemodialysis shunt failure: treatment with metallic stent placement and post-balloon dilatation. Radiat Med 23: 51 - 55, 2005.

8) Cynamon J, Lakritz PS, Wahl SI, et al: Hemodialysis graft declotting: description of the "lyse and wait" technique. J Vasc Interv Radiol 8: 825 - 829, 1997.

9) Trerotola SO, Vesely TM, Lund GB, et al: Treatment of thrombosed hemodialysis access grafts: Arrow-Trerotola percutaneous thrombolytic device versus pulse-spray thrombolysis. Radiology 206: 403 - 414, 1998.

10) Patel AA, Tuite CM, Trerotola SO: Mechanical thrombectomy of hemodialysis fistulae and grafts. Cardiovasc Intervent Radiol 28: 704 - 713, 2005.

11) Kariya S, Tanigawa N, Kojima H, et al: Transcatheter coil embolization for steal syndrome in patients with hemodialysis access. Acta Radiol 50: 28 - 33, 2009.

12) Kariya S, Tanigawa N, Kojima H, et al: Efficacy of carbon dioxide for diagnosis and intervention in patients with failing hemodialysis access. Acta Radiol 51: 994 - 1001, 2010.

表1 バスキュラアクセススコアリング表評価項目や点数はスタッフにて検討を繰り返し決めた。当施設独自のものであり程度や解釈の違いによりどの施設にも用いることができるものではない。透析毎にその患者を担当するスタッフがスコアリングを行う。5点以上であればスタッフミーティングで再評価の上エコー検査や造影検査を検討する。

技術教育セミナー / 透析バスキュラーアクセス

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第39回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:杉本幸司,他

3 . 透析シャント機能不全に対するIVR~その適応と限界−閉塞例を中心に~

神戸赤十字病院/兵庫県災害医療センター 放射線科1),神戸大学病院 放射線科・血管内治療センター2)

杉本幸司 1,2),森 岳樹 1),山口雅人 2),奥野晃章 1),木下めぐ美 1),上嶋英介 1)

はじめに

 日本透析医学会ホームページにおける日本透析医学会統計調査委員会による2009年の報告(図説・我が国の慢性透析療法の現況)では,我が国の慢性透析患者数は29万人を超過し,毎年1万人前後のペースで増加している。特に,最近の傾向として,透析導入年齢の上昇とこれに伴う患者の高齢化や,糖尿病性腎症や腎硬化症に起因する透析導入患者の増加などが示されている。一方,透析シャント機能不全に対する IVR治療は,deviceの進歩とともに,すでに第一選択の治療法としての地位を確立しており,そのニーズは年々高まりを見せている。このような背景から,高齢者や高度動脈硬化合併例などの技術的難易度の高い症例に遭遇する機会も増加している1)。 本稿では,第39回日本 IVR学会総会技術教育セミナー(2010年5月,東京)において発表した内容をもとに,我々の施設における治療成績とそれに基づく本治療法の適応と限界について考察する。

透析シャント機能不全の病態とIVR治療

 透析シャント機能不全とは,シャントの血液量が低下し血液透析のために必要な血流量が得られない状態,またはシャントに起因する浮腫や疼痛などの何らかの症状が出現した状態をいう。症状として,シャント血流量(QB)の低下,吻合部から動脈血が静脈に流れる時の振動(スリル)の低下(一般的に,スリルが触知できれば450㎖/min以上の流量があるといわれている),返血静脈圧の上昇(QB 200㎖/minで静脈圧125~150mmHg以上),再循環率の上昇,抜針後の止血時間の延長,シャント肢の腫脹・末梢の浮腫などが挙げられる。原因となるのは,シャント血流を介した動脈血流の乱流や非生理的な圧力,shear stressによる静脈壁の血栓形成や内膜の線維化(新生内膜形成),頻回の穿刺による血栓形成と内膜過形成や平滑筋の増殖などとされている。狭窄は動静脈短絡の静脈側に最も多く,吻合部から1~5㎝の部位に生じやすい。また,作成後6ヵ月前後に起こりやすいとされている。 シャント機能不全をきたす病態としては,シャント本幹の狭窄による血流低下,血栓性閉塞(狭窄が高じて閉塞に陥った状態),静脈高血圧(シャント流出部の

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狭窄・閉塞),新造設時のシャント静脈発育不良などがある。血栓性閉塞は,血液凝固異常や血圧低下(腕を下にした体位でシャントの局所血流が低下した場合も含む)などによって急激に起こりえる。また,吻合部から静脈側にかけての閉塞が多く,多くの場合は閉塞内部に原因となる狭窄性病変を持つ。静脈高血圧には,シャント閉塞による手指静脈のうっ血や潰瘍形成をきたすSore-thumb syndromeや,鎖骨下静脈など中枢側排出路の閉塞による上腕部腫脹などが含まれる2)。 透析シャント機能不全に対する IVRの中でも中心的な役割を果たすのがpercutaneous transluminal angio-plasty(PTA)である。その利点は,シャント再造設の機会を将来に温存できる(透析シャントの外科的再建回数には限度がある)こと,外科的手術と比較して低侵襲かつ短時間であること,高い初期成功率などが挙げられる。一方,欠点としては早期再狭窄(短期間でPTAを反復してシャントを温存しているのが実情),高価な材料費,バルーン拡張時の強い疼痛,保険請求上の問題(透析シャント機能不全に対する末梢血管拡張術という項目が設けられていない)などが挙げられる。 透析シャント機能不全に対する IVR治療は,透析血管自体に器質的な原因がある場合,すべてに適応があると考えても差し支えないと思われる。ただし,その絶対的並びに相対的禁忌として,穿刺部やグラフト感染,過剰シャントによる相対的狭窄,Steal症候群,仮性動脈瘤に接した病変,シャント造設術後1ヵ月以内の吻合部狭窄,尺骨動脈閉塞下の吻合部や橈骨動脈病変(循環障害)などがあることを知っておく必要がある。一方,本稿の主題である「透析シャント機能不全に対する IVRの限界」とはどのような病態であろうか?次項では,我々の施設における治療成績の検討から,「IVR医がギブアップし,シャント再造設を余儀なくされる病態」を探りたい。

透析シャント機能不全に対するIVR治療成績とその限界

(1)当院におけるIVR治療の概要 当院は,慢性維持透析の施設を有しておらず,ほぼ全患者が近隣の透析施設からの紹介である。このため,原則的に1泊2日入院にて治療(外来手術も可能)を行っている。特に,他院で手技的不成功に終わった困難症

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例の紹介が多い傾向にあり,急性閉塞症例に対する緊急治療にも対応している。 IVR手技の基本的手順は,本特集に掲載された論文に示されている方法と大きな相違はない。すなわち,conventional balloonによるPTAに加え,必要に応じて血栓溶解,血栓除去,cutting balloonや高耐圧balloonによるPTAなど,複数の手技を組み合わせて行っている。また,閉塞例などでは動静脈側からの複数アプローチやpull-through法の利用を行うこともある3)。

(2)治療成績とその限界 最初に,当施設で透析シャント機能不全に対するIVR治療成績を評価する際に便宜的に用いている閉塞病変の分類について紹介しておく。我々は,閉塞例を急性と慢性に分類して検討している。すなわち,側副路の発達がなく閉塞から早期に透析困難となった症例を急性閉塞例,透析シャント静脈側本幹が閉塞した後,側副血行路を介するルートで一定期間透析を行っていた症例を慢性閉塞例としている4)。①急性閉塞例に対する治療成績 2003年8月から2010年3月の間に行った932回(404患者,429シャント)の IVR治療のうち,各シャントに対する初回 IVR治療429回について解析を行った。病変の内訳は,狭窄240例(55.9%),閉塞165例(38.5%),鎖骨下病変24例(5.6%)であった。この結果,手技的成功率は全体で94.6%,狭窄例で99.2%(238/240),閉塞例で87.9%(145/165),鎖骨下病変で91.7%(22/24)で,閉塞例で成功率が有意に低下していた。また,1年後の1次および2次開存率をみると,狭窄では各々61.4%と95.3%,閉塞では各々43.3%と85.0%で,閉塞例で低下する傾向がみられた(図1)。

 一方,429例中66例が,初回治療時に前腕のnative shunt(自家動静脈吻合)の急性閉塞で,その手技的成功率は83.3%(n=55/66)であった。この66例に関する統計学的解析を行ったところ,手技的成功率は10㎝を超える長区間閉塞と上腕よりも中枢の静脈に閉塞が及ぶ症例で有意に低下していた。以上より,「中枢側の静脈におよぶ長区間閉塞が IVR治療の1つの限界である」と考えられる(表1,図2,3)。 次に,全932回の IVR治療のうち急性閉塞に対するIVR治療を施行した症例を抽出して検討を行ったところ,25例の不成功例を認めた。これらの症例に見られた病変の特徴として,閉塞部の硬化による開通不能(5例:20%),残存血栓(20例:80%),静脈瘤(16例:

62.5%)などが挙がった。従って,「静脈瘤があり,多量血栓を伴う硬い閉塞はIVR治療の1つの限界である」と考えられる。

日数

0

.2

.4

.6

.8

1累積開存率

0 200 400 600 800 1000 1200

累積2次開存

累積1次開存

0

.2

.4

.6

.8

1

0 200 400 600 800 1000 1200日数

累積2次開存累積1次開存

累積開存率

狭窄(n=169) 3M 6M 12M 24M

1次開存2次開存

92.7%98.8%

73.1%97.4%

61.4%95.3%

38.9%93.9%

閉塞(n=54) 3M 6M 12M 24M

1次開存2次開存

75.4%90.5%

61.7%87.9%

43.3%85.0%

37.9%85.0%

図1 当院における透析シャント機能不全に対するIVR後の成績

Clinical characteristic Relative risk p-Value 95% CI

⑴Age⒴<70 vs ≧70 2.69 0.4 0.25〜28.45⑵Sex Men vs Female 0.51 0.51 0.06〜3.83⑶occluded length <10㎝ vs ≧10㎝ 11.75* 0.03* 1.16〜118.46

⑷Diabeties mellitus 0.47 0.57 0.03〜6.42⑸Arterial stenosis 0.27 0.84 0.007〜10.90⑹Central lesion 7.49* 0.03* 1.20〜49.85⑺Calcificatio 4.29 0.26 0.34〜54.18

*Statistically significcant

表1 技術的成功に関与する因子の解析 (n=11/66;Logistic regression analysis for   procedural failure)

狭窄病変の累積開存率 閉塞病変の累積開存率

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②慢性閉塞例に対する治療成績 2003年8月から2009年2月の間に治療した慢性閉塞例は75例であり,少なくとも1回の透析が可能となった臨床的成功率は90.7%(68/75例)であった。このうち,主経路閉塞部を拡張できた症例は45例(閉塞部突

(223)85

破の技術的成功率67.2%;主経路拡張群),側副路の狭窄部を拡張して透析を維持した症例は23例(側副路拡張群),治療を断念した症例は7例であった。長期開存率をみると,1年後の1次および2次開存率は,主経路拡張群で各々35.7%と92.8%,側副路拡張群で各々

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図2 症例1(急性閉塞例)a : 動脈側からの造影で吻合部の閉塞を認める(矢印)。

b : シャント部の透視像で,吻合部の高度石灰化がみられた(矢印)。

c : 静脈側アプローチも試みたが,閉塞部が硬くガイドワイヤーが通過しなかった。静脈内に血栓も見られる。

ac

b

ac

b

図3 症例2(急性閉塞例)a : 動脈側からの造影で吻合部直後の静脈側に静脈瘤が多発している(矢印)。2つ目の静脈瘤部で血栓による完全閉塞を認める。

b : 閉塞は中枢側にもおよび,静脈瘤がさらに多発している(矢印)。

c : 血栓吸引,血栓溶解,PTAなどを併用し,可及的に開通を目指したが,腋窩部の狭窄が硬く,十分な拡張を得られなかった。血栓も多量であったため,十分な血流を得ることができず,治療を断念した。

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側副路PTA(n=21)、 6M 85.8% 12M 81.0% 24M 76.1%

主経路PTA(n=42)、 6M 100% 12M 92.8% 24M 85.7%

0

.2

.4

.6

.8

1

0 250 500 750 1000 1250 1500 1750 2000

開存率

日数

主経路PTA側副路PTA

p=0.073

図5 症例3(慢性閉塞例)a : 動脈側からの造影で,シャント静脈の本幹(主経路)は完全に閉塞しており(点線部),側副路(矢印)が発達して透析を維持していたことがわかる。

b : 主経路の拡張に成功した。

a b

図6 症例4(慢性閉塞例)a : 動脈側からの造影で,シャント静脈の本幹(主経路)は完全に閉塞している(点線部)。発達した側副路がみられるが,中枢側でさらに閉塞していた(矢印)。

b : 主経路はガイドワイヤーが通過せず,発達した側副路の閉塞部を拡張しようと試みたが,血栓と硬い狭窄のため十分な拡張が得られなかった(矢印)。

a b

図4 慢性閉塞症例における主経路拡張群と側副路拡張群の累積2次開存率

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52.4%と81.0%であった。この結果から,慢性閉塞例でも主経路の再開通が可能であれば良好な長期開存を得ることができ,悪くとも側副血行路を拡張すれば,比較的長期にわたる透析維持が可能であることが示された。逆に,「慢性閉塞例で IVR治療を断念せざるを得ない例は1つの限界である」ともいえる(図4〜6)。

まとめ

 透析シャント機能不全に対する IVR治療は,狭窄病変のみならず多くの閉塞病変に対しても有効と考えられる。一方,治療成功率を比較すると,閉塞病変で治療断念例が散見され,本治療における限界を示すものと思われる。これら限界を示唆する症例の特徴として,長区間閉塞,石灰化を含む閉塞部硬化,上肢などの中枢静脈に及ぶような多量血栓,静脈瘤合併,および開通不能な主経路閉塞などが挙げられる。

【参考文献】1) Sugimoto K, Higashino T, Kuwata Y, et al: Percuta-

neous transluminal angioplasty of malfunctioning Brescia-Cimino arteriovenous fistula: analysis of factors adversely affecting long-term patency. Eur Radiol 13: 1615 - 1619, 2003.

2) 後藤靖雄:透析シャントの IVR,改訂版 IVR 手技,合併症とその対策,山田章吾,高橋昭喜監修.メジカルビュー社,東京,2006,p329 - 337.

3) 丸川太朗:透析シャントの血管形成術・血栓溶解療法,IVRマニュアル,打田日出夫,山田龍作監修.医学書院,東京,2008,p81 - 86.

4) Miyayama S, Yamashiro M, Yoshie Y, et al: Technical success rates and long-term patency of endovascular treatment for occluded native hemodialysis fistu-las: comparison between thrombotic occlusion and nonthrombotic occlusion. Jpn J Radiol 28: 512 - 519, 2010.