1970年代米国における大規模公開会社 取締役会改...

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332 目 次 一.はじめに 二.大規模公開会社取締役会改革論が提唱された 背景 1.一連の企業不祥事に対する SEC の調査 2.連邦証券諸法違反による社外取締役への責 任追及 3.取締役会に関する実態調査 4.模範事業会社法の改正 5.小括 三.大規模公開会社取締役会改革論の展開 1.アイゼンバーグによる取締役会改革論 ⑴ 取締役会に関する法規定と現実の乖離 ⑵ 現行法を前提とした取締役会改革論に対 する批判 ⑶ 取締役会が現実に果たすことのできる機 ⑷ モニタリング機能を十分に発揮するため の取締役会の構成 ⑸ 独立取締役からなる監査委員会の設置 ⑹ 小括 2.リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革 ⑴ 独立社外取締役によるモニタリングの必 要性 ⑵ 具体的な場面における独立社外取締役の 役割 ⅰ 財務諸表監査が行われる際の役割 ⅱ 合併取引が行われる際の役割 ⅲ 敵対的 TOB が行われる際の対象会社 における役割 ⅳ SEC による調査および私的訴訟の提 起が行われる際の役割 ⅴ 経営者の報酬を決定する際の役割 ⅵ 経営者の業績評価を行う際の役割 ⑶ 小括 3.コフィーによる取締役会改革論 ⑴ ミニ取締役会の創設 ⑵ 投資会社法上の独立取締役に関する判例 の分析 ⅰ 被告が顧問弁護士の助言を信頼してい たと抗弁する場合 ⅱ 被告が経営判断の問題であると抗弁す る場合 ⅲ 原告が権利能力外の法理を主張する場 ⑶ 小括 四.結語 1970年代米国における大規模公開会社 取締役会改革論の検討 投資会社独立取締役制度が大規模公開会社取締役会 改革論に与えた影響について 清水真人* * 徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部准教授 一.はじめに 本稿の課題は,1970年代米国における大規模 公開会社取締役会改革論は,1940年投資会社法 の独立取締役制度の影響を大きく受けて展開さ れたものであるという点を明らかにすることで ある。投資会社法上の独立取締役制度は1940年 の投資会社法制定時に導入され,その後投資会 社の分野で生じた様々な問題に対処するために 強化され発展してきた歴史を有していることか 1 ,同制度が1970年代米国における大規模公 開会社取締役会改革論に与えた影響を明らかに することにより,米国における独立取締役制度 の歴史は1940年の投資会社法制定当時にまで遡 ることができる点を明らかにし,またこの時代

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目 次一.はじめに二.大規模公開会社取締役会改革論が提唱された

背景 1.一連の企業不祥事に対する SEC の調査 2.連邦証券諸法違反による社外取締役への責

任追及 3.取締役会に関する実態調査 4.模範事業会社法の改正 5.小括三.大規模公開会社取締役会改革論の展開 1.アイゼンバーグによる取締役会改革論  ⑴ 取締役会に関する法規定と現実の乖離  ⑵ 現行法を前提とした取締役会改革論に対

する批判  ⑶ 取締役会が現実に果たすことのできる機

能  ⑷ モニタリング機能を十分に発揮するため

の取締役会の構成  ⑸ 独立取締役からなる監査委員会の設置  ⑹ 小括 2.リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革

論  ⑴ 独立社外取締役によるモニタリングの必

要性

  ⑵ 具体的な場面における独立社外取締役の役割

   ⅰ 財務諸表監査が行われる際の役割   ⅱ 合併取引が行われる際の役割   ⅲ 敵対的 TOB が行われる際の対象会社

における役割   ⅳ SEC による調査および私的訴訟の提

起が行われる際の役割   ⅴ 経営者の報酬を決定する際の役割   ⅵ 経営者の業績評価を行う際の役割  ⑶ 小括 3.コフィーによる取締役会改革論  ⑴ ミニ取締役会の創設  ⑵ 投資会社法上の独立取締役に関する判例

の分析   ⅰ 被告が顧問弁護士の助言を信頼してい

たと抗弁する場合   ⅱ 被告が経営判断の問題であると抗弁す

る場合   ⅲ 原告が権利能力外の法理を主張する場

合  ⑶ 小括四.結語

1970年代米国における大規模公開会社取締役会改革論の検討─�投資会社独立取締役制度が大規模公開会社取締役会�

改革論に与えた影響について清水真人*

* 徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部准教授

一.はじめに

 本稿の課題は,1970年代米国における大規模公開会社取締役会改革論は,1940年投資会社法の独立取締役制度の影響を大きく受けて展開されたものであるという点を明らかにすることである。投資会社法上の独立取締役制度は1940年

の投資会社法制定時に導入され,その後投資会社の分野で生じた様々な問題に対処するために強化され発展してきた歴史を有していることから1,同制度が1970年代米国における大規模公開会社取締役会改革論に与えた影響を明らかにすることにより,米国における独立取締役制度の歴史は1940年の投資会社法制定当時にまで遡ることができる点を明らかにし,またこの時代

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にまで遡り独立取締役制度を検討することにより,同制度を支える歴史的経緯および思想的背景にまで迫ることができると考えるからである。 1970年代米国においてはペン・セントラル社やスターリング・ホーメックス社の破綻,さらには大企業による海外政府高官への違法献金等の一連の企業不祥事が発生し,その際に会社の組織運営に関する客観的な情報が取締役会に伝達されず,取締役会が監督機能を全く発揮していないことが問題となった。そこで当時のコーポレート・ガバナンスの主要論者は,従来経営体と位置付けられてきた取締役会を経営監督機関として再構成し,取締役会構成員の過半数は独立取締役から構成されるとするとともに,取締役会が監督機能を十分に果たすことができるよう取締役会に対し客観的な情報が十分に伝達される体制を構築するよう取締役会制度改革を主張するようになった。 そこで,当時の主要論者は大規模公開会社取締役会改革論を提唱したが,その際にこれらの議論に大きな影響を与えたのが投資会社法上の独立取締役制度である。例えば,アイゼンバーグはモニタリング・モデルを提唱する際に,投資会社法上の独立取締役制度に対し取締役会制度改革の先例として多く言及している2。また,リーチ&ムンドハイムはミューチュアル・ファンドの独立取締役制度をモデルとして,大規模公開会社における独立社外取締役の役割について議論を展開している3。さらに,コフィーは投資会社の独立取締役に関する一連の判例を検討し,これらの判例で展開された法理は投資会社に特有のものではなく,大規模公開会社においても同様に適用される可能性が高いと指摘しながら,独自の取締役会改革論を提唱している4。そこで,これらの主要論者による取締役会改革論に対して投資会社法上の独立取締役制度が如何なる影響を与えているのかを明らかにすることにより,これらの取締役会改革論は1970年代において突如として生み出されたものではなく,1940年投資会社法制定当時から投資会社の分野でなされてきた独立取締役制度運営

に関する実務上および学問上の成果を踏まえた上で提唱されたものであるという点を明確にしたい。 投資会社法上の独立取締役制度が当時の大規模公開会社取締役会改革論に大きく影響を与えた理由としては,次の点を挙げることができる。 第一に,投資会社法の独立取締役制度は投資会社の領域における深刻な利益相反問題および違法行為に対処するために導入され,発展してきた歴史的経緯を有しているという点である。投資会社の資産は現金および流動性の高い証券等で構成されており,これらが内部者により横領され,投機の手段として用いられ,さらには投資顧問の運用報酬や各種手数料を生み出す手段として悪用されるといった濫用の歴史を繰り返してきた。そして,これらの濫用事例に対処するために投資会社法上の独立取締役制度は強化されてきた歴史を有しており,そして同制度はこれらの濫用事例に上手く対処してきたと評価されている5。このような投資会社の分野における独立取締役制度運営の経験および成果が,大規模公開会社において同様の問題に対処するための先例として,当時の取締役会改革論者により大きく評価されたものと思われる。 第二に,投資会社の独立取締役制度はその導入当初から投資顧問およびその利害関係者の監督者として位置付けられてきたという点である。投資会社の運営は外部の投資顧問により行われるのが一般的であり,投資会社の独立取締役は投資顧問による運営を監督することが役割とされ,このような構造を前提に投資会社法は制定された6。また,投資会社の取締役会は1960年代に手数料問題に関する議論が進展するにつれ,監督機関として明確に位置付けられるようになっていった7。そして投資会社の取締役会が監督機関としての役割を十分に果たすことができるよう,1970年投資会社法改正により,独立取締役の独立性が強化されるとともに,取締役会に投資顧問契約の評価に関する十分な情報提供がなされるよう投資顧問による情報提供義務および独立取締役の投資顧問に対する情報要求

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義務が定められた。このように業務運営と監督機能が明確に分離された投資会社のガバナンス構造が,モニタリング・モデルが想定する取締役会と経営者の役割分担に非常に類似し,かつ投資会社における取締役会の独立性を確保し,取締役会への十分な情報提供を行う体制が法的に構築されていたことから,当時の取締役会改革論者が投資会社法上の独立取締役制度を多くの点で参照したと考えることができる。 第三に,投資会社法上の独立取締役に与えられた特別な役割が,当時の取締役会改革論者が構想する独立取締役の役割に類似していたという点である。すなわち,投資会社法15条⒜項および⒞項は,投資会社が定常的に当該投資会社に対して定常的にサービスを提供する投資顧問または元引受人と契約を締結するに際しては,独立取締役の過半数による承認を要すると規定し,また投資会社法32条⒝項は,投資会社における独立会計士の選任は独立取締役の過半数により行われなければならないとしている。このように特別の権限を独立取締役に付与することにより,その監督機能を実効あらしめようとしているからである。当時の取締役会改革論者が構想していた独立取締役の役割も,最高経営責任者の選解任および業績評価,並びに監査委員会構成員としての公認会計士候補者の推薦および公認会計士の解任勧告とされていることから,改革論者の提唱する独立取締役の役割は投資会社の独立取締役制度を先例として考案されたものと評価できるように思われる。 第四に,投資会社のガバナンスは早くも1970年代において訴訟リスクへの対応を投資顧問およびその利害関係者に意識させるものとして発展していたという点である。前稿で検討したように,1970年の投資会社法改正後,裁判所は投資顧問またはその利害関係者の責任について判断する際に,独立取締役が真に独立していたかどうか,また独立取締役が利害関係者から十分情報を得た上で問題点について十分な議論を尽くし判断を下したか否かを非常に重視するようになった8。そして,これらの条件が満たされ

ている場合には,裁判所は投資顧問またはその利害関係者の責任を否定し,逆にこれらの条件が満たされていない場合にはこれらの者の責任を肯定するとの判例法理が形成されていった。当時の取締役会改革論者は自らの改革論を展開するにあたってこれら投資会社における一連の判例を分析し,そこで展開されている法理は投資会社に特有のものではなく大規模公開会社においても同様に適用される可能性が高いと指摘しながら,取締役会の独立性の確保および取締役会に対し客観的な情報を十分伝達するための体制構築について議論を展開している。 第五に,投資会社のガバナンスは SEC と投資会社業界との間で激しい議論や駆け引きが行われ,それらの結果を反映して発展してきたという歴史的経緯を有している点である。1940年投資会社法制定時においても,1970年投資会社法改正の際にも,連邦議会において SEC と投資会社業界との間で激しい議論が展開され,最終的に両者の間で行われた妥協により投資会社法の制定および改正は実現してきた。この点をどう評価するかは判断が分かれるところであると思われるが,投資会社業界の意見が法制度に反映されることにより,投資会社の発展を阻害することなく投資者保護および証券市場の機能維持が実現されてきたと評価できるように思われる。この点について,当時の取締役会改革論者は明確には言及していないが,投資会社法を論ずるにあたり当然の前提になっていると思われる。 本稿の構成は次の通りである。はじめに,第二章において1970年代に大規模公開会社取締役会改革論が提唱された背景について確認する。次に,第三章において当時の主要論者であるアイゼンバーグ,リーチ&ムンドハイム,コフィーによる大規模公開会社取締役会改革論について検討し,投資会社法上の独立取締役制度がこれらの議論に対して如何なる影響を与えているかを明らかにする。最後に,第四章において本稿の纏めを行い,今後の研究課題について検討する。

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二.大規模公開会社取締役会改革論が提唱された背景

 本章においては,1970年代米国において大規模公開会社取締役会改革論が提唱されるに至った背景について確認する。

1.一連の企業不祥事に対する SEC の調査 1970年代初頭においては,ペン・セントラル社およびスターリング・ホーメックス社の破綻,並びに大企業による海外政府高官への違法献金等の一連の企業不祥事が発生し,これらの事件に対する調査の結果,取締役会に会社の組織運営に関する客観的な情報が伝達されず,取締役会が監督機能を全く発揮していなかったことが明らかとなった。これら一連の不祥事に関するSEC の調査では,次のような事実が明らかとなった。 ペン・セントラル社に対する SEC の調査9では,同社の社外取締役が事業運営を経営者に任せきりにし,監督責任を全く遂行していなかった実態が明らかとなった。同社の社外取締役は,取締役会の席上で社内取締役が行う口頭の説明に満足し経営成果を判断するために不可欠な情報を自ら要求せず,同社が倒産に瀕するまで経営上の基本問題および財務状態の悪化を全く把握していなかった。さらに,経営者の誠実性を疑わせるような事実が発覚した際にも,経営者との対決を慎重に回避する態度に終始していた。その結果,同社の経営に関する重大な事態を知らないまま同社は倒産するに至った。 次に,スターリング・ホーメックス社に対する SEC の調査10においても,取締役会が形骸化していた実態が明らかとなった。すなわち,同社の取締役会では業務運営についてほとんど議論がなされず,その意思決定は実際上,社内取締役で構成される経営執行委員会で行われていた。同社には2名の社外取締役がおり,そのうち1名は弁護士であり,労務コンサルタントとしてスターリング社と契約を締結し,同社の

設立と同時に取締役に就任していた。当該社外取締役は経営者に対して会社経営について一般的な質問をしたにとどまり,それで必要な情報は入手できたものと信じていた。もう1人の社外取締役は,他会社の元経営者であり同社の取引先である投資銀行の要請によりスターリング社の設立後に取締役に就任した者であり,経営者との電話会合で同社の経営情報を得ていた。両者とも,同社の公認会計士が同社の会計処理は会計原則に合致していると容認している事実を信頼し,同社の会計処理に精通しようとする努力を何ら払わなかった。また,途中で当該公認会計士が解任された際にも,それについて何ら調査を試みなかった。さらに,スターリング社では会社経営に関する重要情報が取締役に提供される体制が全く構築されておらず,社外取締役は同社の業績予想,事業計画並びに実際の業績に関する情報を得ていなかった。 さらに,1970年代において相次いで発覚した海外政府高官に対する不正支出問題に対して行われた SEC による調査11では,企業が外国政府高官等に対して違法な献金を行うために,会社資金の一部を別口でプールしていた事実が明らかとなった。しかし,そのような事実は取締役会,とりわけ社外取締役には全く知らされていなかった。このような資金のプールについて会社の財務諸表には全く記載はなされていなかったことから,連邦証券諸法の情報開示規定に違反する行為として SEC による一連の調査が行われ,それに続き制度改革が実行されることとなった12。 以上のような取締役会の機能不全という問題に対処するために,どのように取締役会制度改革を行うべきかが課題となった。

2.連邦証券諸法違反による社外取締役への責任追及

 この時代においては,連邦証券諸法違反を理由に大規模公開会社の社外取締役に対し民事責任が追及されるようになり,社外取締役が財務書類等の記載の正確性についてどの程度の調査

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義務を尽くすべきかが問題とされるようになった。 まず,Escottv.BarChris 事件13においては,取締役に就任したばかりであり会社の事情を熟知する機会をほとんど有していなかった社外取締役の目論見書の虚偽記載に対する責任が問題となった。この点につきニューヨーク州南部連邦地方裁判所は,たとえ彼がいかに取締役に就任したばかりであったとしても取締役としての責任を負うとし,続けて1933年証券法11条⒝項に基づく信頼の抗弁を主張するためには,慎重な者が自己の資産を管理する際に用いる相当な注意をもって事実を調査しなければならないとした。そして,バークリス社による報告を信頼し,銀行および手形割引人によるバークリス社の信用調査に関する報告,並びに同社の成長性に関するブローカーの評判を聞いたのみでは合理的な調査を行ったことにはならないとして,社外取締役の損害賠償責任を認めた。 次に,Lanzav.Drexel 事件14においては,不実開示を理由に SEC 規則10b-5による社外取締役の損害賠償責任が問題となった。この点につき第2巡回区連邦控訴裁判所は,社外取締役についても不実表示について損害賠償責任を負う場合があると明確に判示した。そして,本件においては,社外取締役は最高財務責任者に対し修正された損益計算書について説明を求めたこと,社外取締役の提案に基づき取締役会が一定期間における会社による全ての新聞発表を弁護士にチェックさせたこと,並びに社外取締役が外部の経営コンサルタントを雇うよう示唆していたことを理由に,十分な調査を実行していたとして,社外取締役の責任を認めなかった。 さらに,Gouldv.AmericanHawaiianSteamshipCo. 事件15においては,会社合併に関する委任状説明書の虚偽記載に対する社外取締役の責任が問題となった。この点につきデラウェア州連邦地方裁判所は,社外取締役が委任状説明書を実際に確認せず記載事項の正確性に関する弁護士の見解を信頼だけでは十分な確認を行ったことにはならないとして,本件委任状説

明書の重大な虚偽記載について,SEC 規則14a-9により損害賠償責任を負うと判示した。 以上のように,社外取締役についても財務書類等における記載事項の正確性について十分な調査を行わない場合には,それらの虚偽記載により損害を被った投資家に対し損害賠償責任を負うことが一連の判例で示されていった。

3.取締役会に関する実態調査 また,大規模公開会社の取締役会に関する実態調査も1970年代に大規模取締役会改革論が提唱された背景をなしている。メイスによる実態調査16では,取締役会は会社法上は経営体と位置付けられているにもかかわらず,実際は経営体として機能していないことが明らかとなった。メイスは自らの調査結果について,次のように結論付けている。 ①事実上の支配力を持つ最高経営責任者が,

取締役会構成員を選任している。 ②最高経営責任者が,取締役会の行うことお

よび行わないことを決定している。 ③取締役として選任された者は,当該会社と

同等の名声のある組織の長であり,通常,それらの者は第一義的には自らの会社に対し責任を負っている。

 ④事業,財務,法律,そして人事部門の長は,他の組織の取締役として貢献するには限られた時間しか有しない極めて多忙な人たちである。

 ⑤ほとんどの取締役会は,最高経営責任者に対し助言またはアイデアを提供する機関として貢献している。

 ⑥ほとんどの取締役会は,組織に対し何かしらの規律─すなわち株式会社の良心としての規律─をもたらすことに貢献している。

 ⑦ほとんどの取締役会は,危機的な事態が発生した際には,意思決定を行うことができ,また実際に意思決定を行っている。

 ⑧ほんの僅かの取締役会のみが,会社の目的,戦略,全般的な方針を策定している。ほどんどの取締役会はそのような事項の策定を

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行っていない。 ⑨ほんの僅かの取締役会のみが,経営者に対

し鋭い質問をしている。ほとんどの取締役会ではそのような質問は行われていない。

 ⑩ほんの僅かの取締役会のみが,最高経営責任者の業績を事後的に評価している。そして最高経営責任者を選任し,解任も行っている。ほとんどの取締役会ではそのようなことは行われていない。

 以上のような取締役会に関する法規定と実態との乖離にどう対処するかが課題となり,当時の取締役会改革論者はこれらの点を認識しながら取締役会改革論を展開することとなった。

4.模範事業会社法の改正 この時期においては社外取締役が取締役会構成員として大規模公開会社の取締役会に参加する状況が米国企業において進展するようになり,これに対応して模範事業会社法の文言の改正が行われている17。すなわち,従来は「会社の事業および業務は取締役会により運営されなければならない」と規定していたものが,1974年模範事業会社法改正により,「会社の事業および業務は取締役会の指示のもとに運営されなければならない」(※下線筆者)とその文言が改正された18。そこで「取締役会の指示のもとに」という文言をどのように解釈すべきか,また取締役会はどのような役割を果たすことで当該文言が定める義務を履行することになるかが問題とされるようになった。 なお,このような状況を反映して,1974年にデラウェア州一般事業会社法の取締役会に関する規定についても同様の改正が行われている19。

5.小括 以上が,1970年代米国において大規模公開会社取締役会改革論が提唱された背景である。 1970年代初頭において相次いで問題となった企業不祥事に際しては,取締役会に対して会社の組織運営に関する客観的な情報が伝達されず,その結果,取締役会が監督機能を全く発揮して

いなかったことが問題となった。また,連邦証券諸法違反を理由に社外取締役に対して訴えが提起されるようになり,社外取締役が財務書類等の虚偽記載について十分な調査を尽くしていない場合には,投資家に対し虚偽記載を理由に損害賠償責任を負うことが一連の判例で示されていった。さらには,大規模公開会社の取締役会に関する実態調査では,従来から経営体と位置付けられている取締役会が実際上全く会社経営を行っていない実態が明らかとなった。そこで,これらの問題点に如何に対処するかという点から,大規模公開会社における取締役会改革論が提唱されることとなった。 これらの背景を踏まえ,次章においては,本稿の主題である当時の主要論者により提唱された取締役会改革論に対し投資会社法上の独立取締役制度が如何なる影響を与えているか検討する。

三.大規模公開会社取締役会改革論の展開

 本章においては,当時のコーポレート・ガバナンスの主要論者である,アイゼンバーグ,リーチ&ムンドハイム,コフィーによる取締役会改革論についてその内容を概観するとともに,それらの取締役会改革論に対し投資会社法上の独立取締役制度がどのように影響を与えているか検討する。

1.アイゼンバーグによる取締役会改革論20

 はじめに,アイゼンバーグによる取締役会改革論について検討する。

⑴ 取締役会に関する法規定と現実の乖離 アイゼンバーグはまず取締役会に関する法規定と現実との乖離について問題提起し,多くの州会社法は「会社の事業および業務は取締役会により運営されなければならない」と規定し,大規模公開会社の取締役会は法律上,業務運営機関と位置付けられているにもかかわらず,実際はいかなる意味においても業務運営を行って

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おらず,それどころか業務の方針すら決定せず,さらには業務方針の承認を行うことに対してさえ消極的であると指摘する。そして,実際上業務方針の決定は経営者が行っていると指摘している21。 その原因として,アイゼンバーグは次の点を挙げている。第一に,取締役会は時間的に大きな制約を受けているという点である22。すなわち,当時の統計によると,ほとんどの大規模公開会社の取締役会は平均して年間わずか12回しか開催されず,それらの会社のうち約半数は年6回しか取締役会を開催していなかった。さらに,取締役会に費やす時間も非常に短く,約半数の企業は年間18時間未満しか取締役会の開催に時間を費やしていなかった。このように時間的に非常に大きな制約を受けているため,取締役会が会社業務を運営することはできず,それどころか会社業務の方針すら決定できないとアイゼンバーグは指摘している23。 第二に,取締役会は情報面においても大きな制約を受けているという点である24。すなわち,経営者は取締役会に対し経営に関する情報を十分に提供しておらず,また取締役自身も会社情報に自由にアクセスできなかった。また,取締役は提供された情報を評価し,または情報を直接収集するために活動する自らのスタッフを有していないのが通常であり,取締役のために情報収集の役割を果たすのは経営者の下で働く従業員であった。さらに,取締役が情報を追加的に入手することも困難であり,また多くの場合,取締役はどのような情報を要求すべきかについて全く無知であった25。このような状況において取締役が追加の情報を得るために,経営者に対し挑戦的な質問をすることは不適切であるとみなされていた26。これらの点から,取締役は会社経営に関する十分な情報を得ることができず,またこれらの情報は経営者の統制下に置かれているとアイゼンバーグは指摘している27。 第三に,取締役会構成員の過半数が社内取締役から構成されていたという点である28。このような構成では会社内部で事前に決められてい

ることに反対する行動を取締役会で提起することはできず,また社外取締役であるとしても,それらの者は当該会社と取引関係にある者が多いことから,取引関係を維持するために経営者に対抗するような行動をとることはできないとアイゼンバーグは指摘している29。また,取締役会構成員の選任に関しては,最高経営責任者が事実上その決定権を握っており,自らにとって都合のよい者が取締役に選任されているのが当時の取締役会の実態であり,そして,最高経営責任者が取締役選任権を握っているということは取締役の解任権も掌握していることを意味しており,最高経営責任者に反抗しようとする者は取締役としての地位を剥奪されるおそれがあると言われていた。よって,たとえ最高経営責任者によって経済的・心理的に拘束されていない者であっても経営者に反抗できないと指摘されていた30。これらの事情から,取締役は経営者に挑戦的な態度をとることはできないとアイゼンバーグは評価している31。 アイゼンバーグは以上のような取締役会に関する法規定と現実の乖離を指摘した上で,大規模公開会社における取締役会がそのような状況に置かれているにもかかわらず,当時の会社法は取締役会が実際に会社の業務運営を行っていることを前提としており,そして裁判所もそのような前提に基づいて判決を下していると指摘し,さらに裁判所および立法者もこのような事実を前提に社外取締役が承認を行ったという事実を重視し過ぎていると批判している。そして,このような取締役会に対する前提と現実との間に生じている歪みは,株主,立法者,並びに一般市民を,経営者と利害関係を有しない取締役会が会社業務を監督しているとの幻想に引きずり込み,意味ある規制を行うことを妨げる要因になると警鐘を鳴らしている32。 アイゼンバーグは,以上のように取締役会に関する法規定と現実との乖離を指摘し,その原因を分析しているが,その際に投資会社法上の取締役会に関する研究成果を引用し,大規模公開会社における取締役会の状況との比較を行っ

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ている。これらの投資会社の取締役会に関する研究成果には,次のような事実が示されている。 第一に,投資会社の取締役会においても時間的制約が問題とされていたという点である33。投資会社の独立取締役も時間的な制約により投資顧問を十分に監督できないというジレンマを抱えていた34。そこで,このような時間的制約を前提に,投資会社の取締役会はどのような役割を果たすことができるかについて議論が展開されることとなった。 第二に,投資会社の取締役会においても,独立取締役が取締役会において経営者に質問するのは適切でないとみなされていたという点である35。ナットは,投資会社の取締役会においても,独立取締役が取締役会において経営者に質問するのは適切でないとみなされている状況を紹介し,そして経営者に質問する場合は個人的に行うべきと言われている点に言及している36。 第三に,投資会社においても独立取締役を事実上選任するのは投資顧問であり,投資顧問は自らに対し反抗的な者を独立取締役として選任しないと言われていたという点である37。ペンシルヴェニア大学ロースクールで開催されたミューチュアル・ファンド・コンファレンスにおいても,独立取締役を選任するのは投資顧問であり,投資顧問は自らに反抗的な者を独立取締役に選任しないとの指摘がなされ,この点について議論が展開されている38。 第四に,投資会社に関する判例においても裁判所は社外取締役が承認を行ったという事実を重視していたという点である。投資顧問の運用報酬が過度に高額であり投資会社の資産の浪費に該当するか否かが争われた Meiselmanv.Eberstadt 事件39において,裁判所は社外取締役が当該運用報酬を承認したとの事実を重視し原告の訴えを退けているが,この点についてアイゼンバーグは大規模公開会社における他の判例との比較を行っている。 以上に加え,アイゼンバーグは経営者と利害関係を有しない取締役会が会社業務を監視しているとの幻想を抱かせることになると論じるに

あたって,『機関投資家報告書』40,『PPI レポート』41,『ウォートン報告書』42,さらにナットの論文43をそれぞれ引用し,投資会社法上の独立取締役制度について次のように言及している。 「例えば,1940年投資会社法において議会は投資会社とその投資顧問との利益衝突を以下の手段により規制しようと試みた。すなわち,投資会社の取締役会構成員の6割超がその投資顧問の関係者であってはならないと明白な方法で指図することにより,そして投資会社とその投資顧問との間で締結された契約は株主もしくは独立取締役の過半数による定期的な承認を得なければならないとすることによって規制しようとしたのである。しかしながら,実際上このような規制方法はほとんど意味をなさないことが明らかとなった。なぜならば,投資会社の独立取締役は,他の会社の社外取締役と同様に,取締役会によって支配されていたのではなく投資顧問を代表する内部者により選任され,そして教え込まれていたからである。また形式上は

『関係者』ではないとされていたにもかかわらず,これらの者はしばしば内部者と密接に結び付いていた。 投資会社法は1970年に徹底的な見直しがなされた。とりわけ,特別の責任が投資会社の取締役に課せられた。すなわち,投資会社の独立取締役は投資顧問契約の『契約条項を評価するのに通常必要であると認められる情報を要求しそれを評価する』という義務である。そして,投資顧問に対してはその受領する報酬に関して信認義務を負う旨が明確に定められた。」44

 アイゼンバーグはこのように言及し,投資会社の分野においても大規模公開会社における問題と同様の問題が生じており,それらの問題を解決するために1970年投資会社法改正が行われたという点を先例として評価している。

⑵ 現行法を前提とした取締役会改革論に対する批判

 次にアイゼンバーグは,大規模公開会社の取締役会改革論について,取締役会が会社業務の運営を行うという現行法の規定を前提とする議

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論には,①職業家取締役(professionaldirec-tors),②常勤取締役(full-timedirectors),③完 全 担 当 職 員 付 取 締 役 会(fullystaffedboards)に関するものがそれぞれ存在すると言及しつつも,これらの提案は全て現実の取締役会をあるべき取締役会の姿に合わせようとするものであると批判し,取締役会が実際に果たすことができる役割を前提に取締役会改革を実行すべきであると主張している45。ここでは,特に投資会社法上の独立取締役制度について言及していない。

⑶ 取締役会が現実に果たすことのできる機能 取締役会が現実に果たすことのできる機能としてアイゼンバーグは,①最高経営責任者に対する助言役および相談役としての機能,②会社の主要業務に関する授権者としての機能,③会社の業務運営に際してある一定の集団の利益を代表する機能,④最高経営責任者の選任,業績評価,並びに解任を行う機能を挙げている46。そして,④の機能が取締役会固有の機能として最もふさわしいと主張している47。 その理由は次のように説明されている。第一に,後任の最高経営責任者の選任は非常に重要であり,形式的な手続にとどまらないものだからである48。第二に,後任の最高経営責任者を選任するという役割は,時間的に制約があり業務上の知識が十分でない者により構成される取締役会でも十分果たすことができるからである49。第三に,最高経営責任者の解任権は,その行使の前提として最高経営責任者の業績を監督評価することが要求されることから,最高経営責任者を選任する機能よりも重要であるからである50。 以上のような,最高経営責任者を選任し,その業績を評価し,そして解任する役割を担う取締役会のモデルを,アイゼンバーグは「モニタリング・モデル(monitoringmodel)」と名付け,市場メカニズムまたは他の利害関係者では十分に果たすことのできない役割であると強調している51。

⑷ モニタリング機能を十分に発揮するための取締役会の構成

 取締役会がモニタリング機能を十分に発揮するための条件として,アイゼンバーグは,①取締役会の経営者からの独立性の確保,および②取締役会に対し客観的な情報が十分に伝達される体制の確保を挙げている52。しかし,当時の取締役会にはこのような条件は確保されていないとし,その原因を次のように指摘している。 第一に,取締役会自体が経営者を監視するのではなく,業務運営の一環として経営方針を策定する立場にあると認識しているという点である53。第二に,取締役会構成員自体が経営者と経済的・職業的に密接な繋がりを有している場合が多く,経営者から独立した立場にあるとは言えない点である54。第三に,取締役会は会社運営に関する情報を経営者に対し依存関係にある者から入手しているという点である55。 これらの点から,現行の取締役会ではモニタリングを実効的に行うことは期待できないことから,取締役会の構成を変革する必要があるとアイゼンバーグは主張する。そして,取締役会をモニタリング機関と再構成する場合に考えられる形態として,①取締役会構成員全員が独立取締役からなる単層制取締役会,②取締役会構成員の過半数が独立取締役からなる単層制取締役会,③業務執行者と監査役が別個の機関を構成する二層制の各形態が考えられるとしている56。そして,これらの形態の中で,取締役会構成員の過半数が独立取締役からなる単層制取締役会が,当時の米国における大規模公開会社のガバナンス形態として最もふさわしいと主張している。その理由は次の通りである。 第一に,このような形態は当時の米国における大規模公開会社の取締役会の実態に一番近く,容易に達成することができるからである57。第二に,法文上,独立性の要件を定義するにあたりあまり神経を使わなくてもよく,商業銀行家や引退した役員等,独立性の観点から問題があるような者も取締役となる資格を有することになるからである58。第三に,たとえ経営者から

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独立していない者が取締役会構成員として参加することになるとしても,そのような者が取締役会に存在することで有益な議題が取締役会で議論されることが期待できるからである59。第四に,経営者と独立取締役の双方が取締役会の構成員となることにより,最低でも形式的には重要な問題が取締役会に上程されることになり,このことは取締役会が監督機能を果たす上で非常に望ましいからである60。 ただし,このような過半数の独立取締役から構成される取締役会がそのモニタリング機能を十分に発揮するためには二つの条件を充足する必要があるとアイゼンバーグは指摘している。その条件とは,第一に,独立性の定義は極めて厳格に定められなければならないという点である61。よって当該会社の役員,当該会社と職業上または取引上重要な関係にある者,そしてそれらの者の親族は独立取締役として扱われてはならないとしている。第二に,独立取締役が形式上のみならず実質上も独立性を有し,最高経営責任者を選任および解任する権限を有していなければならないという点である62。 そして,これら二つの条件は,集団としての独立取締役に会社の委任状機構の管理が完全に委ねられた場合にのみ,充足することができるとしている63。委任状機構を支配する者が事実上,取締役会構成員の選解任権を握っており,そして取締役会が次の段階として経営者の選解任権を握っているからである。 以上のように,あるべき取締役会の構成について論じる際に,アイゼンバーグは投資会社法上の独立取締役に対し多く言及している。 第一に,取締役会構成員全員が独立取締役である単層制取締役会を論ずる場面において,その構成員に顧問弁護士や取引先のような外部者を取締役会構成員に加えることは取締役会の客観性を損なうものであると論じる際に,1970年改正投資会社法における「利害関係者」の定義を参照している64。投資会社の分野では1960年代において独立取締役が投資顧問およびその利害関係者から十分に独立していないことが問題

となり,1970年改正によって独立取締役の独立性が強化され,投資顧問の顧問弁護士や重要な取引先,関係者の親族も独立取締役としての資格を有しないこととされた65。 第二に,独立取締役の独立性の概念は極めて厳格でなければならないと論じる際に『ウォートン報告書』を参照している66。同報告書では,投資会社法上は独立取締役の要件を満たす者が投資顧問によって推薦されている実態が問題とされ67,このような問題点に対処するために1970年投資会社法改正が行われた。 第三に,委任状機構の実質的管理が集団としての独立取締役により行われなければならないと主張する際に,投資会社の独立取締役について書かれている一連の論文68を引用し,そして投資会社において任意に委任状機構を独立取締役に管理させている事例について次のように紹介している。「幾つかの投資会社においてはすでに社外取締役の選任に際して類似の慣行に従いはじめている。しかしながら,このような取り決めは任意のものであり,また投資会社においては,独立取締役は取締役会の40パーセントを構成すればよいとされているので,取締役会の支配を独立取締役に帰属させるのに必要なものとなるには至っていない。」69

 第四に,委任状機構を独立取締役の支配に委ねることは独立取締役の独立性を構造的にも精神的にも促すことになり,取締役会のモニタリング機能が完全に発揮されることになるという点を論じるにあたって,以下のように投資会社法上の独立取締役制度に言及している。「ある目的のために独立取締役を当該会社の特別機関として取り扱うという手法についてもまた,その先例を投資会社法の中に見出すことができる。投資会社法はある一定の問題は取締役会の過半数ではなくて,独立取締役の過半数で決すべきことを規定している。おそらく法は取締役会議長も独立取締役であることを要求しているのであろう。なぜならば,取締役会議長の座は取締役会のリーダーシップの焦点となる可

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能性があるからである。そのリーダーシップは肩書だけではなく,取締役を招集する能力,議事日程,主要な取締役会を通じて発揮されるものだからである。」70

 このように,アイゼンバーグが大規模公開会社におけるあるべき取締役会の構成およびそれを達成するための条件について論じる際に投資会社法上の独立取締役制度について多く言及しているのは,投資会社の領域においても取締役会を監督機関として機能させるために1960年代において学者および実務家から様々な問題提起がなされ,それらを踏まえて1970年に大幅な制度改革を実行した歴史的経験を有していたからであると思われる。

⑸ 独立取締役からなる監査委員会の設置 アイゼンバーグは,取締役会がモニタリング機能を発揮し経営者による業務運営の成果を適正に評価するためには財務書類が経営者の恣意により歪められることなく作成される必要があるが,しかし実際上は会計基準の選択権および公認会計士の選解任権が経営者に握られていると問題提起している71。 その上で,このような状況を根本的に変革し,取締役会に経営成果に関する客観的な情報が伝達されるようにするためには,経営者から真に独立した会計士に会計基準を選択する権限を付与する必要があるとしている72。そして,そのように会計士の独立性を確保するためには,独立取締役のみから構成される監査委員会を設置し,同委員会が①取締役会を代表して会計士候補者の推薦および解任の勧告を行う排他的な権限を有し,かつ②会計士が活動する際の指揮を執るとともに,会計士が職務に従事する際の指針を策定する役割を果たすよう,制度改革を行わなければならないと主張している73。そして,このような主張を行う際に,投資会社法上の独立取締役制度に対して次のように言及している。「会計士の選任および解任を経営者の支配下から移転させた印象的な立法による先例がまたもや存在する。投資会社法は,登録投資会社の会計士が独立取締役の過半数により選任され,そ

して株主総会の承認を受けるべきことを要求している。……」74

 投資会社法において独立会計士の選任が独立取締役の過半数により行われることとなったのは,1940年投資会社法制定時であり75,その枠組みが1970年投資会社法改正により強化されている。このような投資会社における歴史的経緯をアイゼンバーグは先例として評価している。

⑹ 小括 以上が,アイゼンバーグによる取締役会改革論の内容と,それに対し投資会社法上の独立取締役制度が与えた影響についてである。 アイゼンバーグは,大規模公開会社の取締役会が果たすことのできる役割を,最高経営責任者の選任,業績評価,および解任とし,このような役割を果たす取締役会のモデルをモニタリング・モデルと名付けた。そして取締役会構成員の過半数が独立取締役からなる取締役会がその形態としてもっともふさわしいと主張している。そして,このような取締役会が実際に機能するためには,独立取締役の独立性の要件は極めて厳格でなければならず,かつ集団としての独立取締役に委任状機構の管理が委ねられなければならないとしている。さらに,取締役会に会社経営に関する客観的な情報が十分に伝達される体制を確保するためには,独立取締役からなる監査委員会を設置し,そこが公認会計士の選解任について勧告を行う体制が重要であると主張している。 以上のような議論を展開するにあたって,アイゼンバーグは投資会社法上の独立取締役制度に対し先例として多く言及している。投資会社の分野においても1970年代の大規模公開会社における問題と同様の問題が生じ,それらの問題に対処するために1960年代において様々な議論が展開され,その成果を踏まえ1970年に投資会社法改正が行われた。また,アイゼンバーグが提唱するようなモニタリング・モデルに類似した法的枠組みを投資会社法のガバナンスではすでに1940年の投資会社法制定時に導入し,それを発展させてきた歴史的経緯を有している。こ

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れらの点が,アイゼンバーグが取締役会改革論を提唱するに際し,先例として大きく影響を与えたものと思われる。

2.リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論76

 次に,リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論を概観し,それに対して投資会社法上の独立取締役制度が如何なる影響を与えているか検討する。 リーチ&ムンドハイムはアイゼンバーグの提唱するモニタリング・モデルを踏まえながら,支配株主が存在せず,所有構造が分散している大規模公開会社を想定して取締役会改革論を展開している77。そして,そのような議論を展開する前置きとして,独立社外取締役の役割をミューチュアル・ファンドの独立取締役制度をモデルとして新たに提唱すべきであると以下のように明言している。「独立した監視者のモデルは,ミューチュアル・ファンド業界においてすでに存在している。ミューチュアル・ファンドの運営は,典型的には,別個の事業体である投資顧問により行われている。当該投資顧問の使用人の何人かは当該ファンドの取締役会の役員として職務に従事している。それに加えて,投資顧問を支配している者は通常当該ファンドが発行する証券の元引受人をも支配しているか,またはそれらに対し重要な利害関係を有している。このようなファンドとその利害関係者との間に内在している現実の利害衝突を考慮して,投資会社法はファンドの取締役会の一定割合は投資顧問および元引受人と利害関係を有しない者で構成されるよう要求している。さらに,投資会社法は投資顧問とファンドとの間および元引受人とファンドとの間における契約は,法により要請されたファンドの独立取締役が,それらの契約を考慮するために招集される取締役会に自ら出席し,その過半数により承認されなければならないと規定している。投資会社法の下において,取締役は投資顧問契約を合理的に評価するために必要な

全ての情報を要求しそれを評価する義務があり,投資顧問はそれらの情報を提供する義務がある。それに加えて,独立取締役の適格要件として法の定義には,投資顧問または元引受人と金銭的その他重要な利害関係を有している者は排除されている。」78

「…ミューチュアル・ファンドに対し要求される独立取締役をモデルとした事業会社の独立社外取締役によるモニタリングの役割は,実際に会社株主にとってのみならず経営者にとっても利益となるであろう。このことは近時における一連の訴訟の結果に見出すことができる。その一つである Pumav.Mariott 事件において,デラウェア州裁判所は会社とその内部者との間における利害衝突の可能性を有する取引は裁判所の審査を受ける必要はないと以下のように判示した。 『なぜならば,問題とされている取引は独立

社外取締役による独立した経営判断の行使の結果として遂行されたものだからである。独立社外取締役の唯一の利害関係は当該会社がさらなる発展を遂げることだけである。よって情報に基づかない裁判所の意見は,経験豊富な独立性を有する取締役会のメンバーの意見に取って代わることはできない。』

 最近,連邦地方裁判所はある事例において株主代表訴訟を却下するよう要求を受けた。その事例では,当該会社の利害関係を有しない取締役が,株主による当該訴訟は会社の最善の利益に反すると判断した。裁判所は当該取締役が独立性を有するかどうかを判断し,そして取締役の判断は支持することができるとし,証拠開示手続の中止を認めた。 最近の他の事例において,裁判所はミューチュアル・ファンドの取締役による経営判断を支持するよう求められた。その経営判断とは,ポートフォリオ証券の売買執行に関連して当該ファンドが支払った売買委託手数料の取り戻しを行うべきではないとする取締役の判断である。裁判所は取締役による経営判断を支持することを拒否した。その理由は,社外取締役は情報に

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基づいた経営判断を行う機会を有していなかったと裁判所が結論付けたからであった。経営者である取締役(彼はおそらく手数料の取り戻しを求めないことに利害関係を有していたと思われる)は独立取締役に対し手数料の取り戻しに関して十分認識させ,そして手数料の取り戻しを行うことの利点および欠点を指摘することを怠った。」79

 以上のように,リーチ&ムンドハイムは投資会社法における潜在的な利益相反に対処するための法的枠組み,および投資会社の分野における一連の判例に言及した上で,ミューチュアル・ファンドの独立取締役制度をモデルとして大規模公開会社の独立社外取締役の役割について議論を展開すべきであるとしている。この点については,投資会社の分野において展開された判例法理を大規模公開会社のガバナンスにおいても同様に受け止めようと認識しているように思われる。 また,ムンドハイムは1960年代にミューチュアル・ファンドの手数料問題との関係で,投資会社法上の独立取締役の役割および責任について詳細な議論を展開していることから80,そこでの知見が以下で検討する大規模公開会社取締役会改革論を提唱する際にも活かされているように思われる。 次に,リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論の内容について検討する。

⑴ 独立社外取締役によるモニタリングの必要性

 リーチ&ムンドハイムは,独立社外取締役による経営者に対するモニタリングの必要性一般について次のように述べている。すなわち,経営者は会社の事業運営と財務状況に関する内部統制を構築しており,それらは最終的に最高経営責任者のもとに収束しているが,この段階において独立社外取締役によるモニタリングが必要であるとリーチ&ムンドハイムは強調している。なぜならば,経営者はこの段階において会社業務に関して経営判断を行う最適な立場にいるが,しかし,経営者の経営判断がその個人的

利益のために歪められる可能性が存在し,また経営者の提案に基づく活動が当該会社に対し重大な影響を及ぼすと予想される場合,その経営判断をより慎重に審査する必要があるからである81。 ただし,独立社外取締役のモニタリング機能を論じる際の注意点として,リーチ&ムンドハイムは次の2点を指摘している。第一に,事業運営に関する経営判断はあくまでも経営者が行うのであって,独立社外取締役が経営者に代わって自ら経営判断を行うのでは決してないという点である82。このような誤解はとりわけ独立社外取締役に専門のスタッフを用意し,会社経営に関する情報の収集および分析を行わせるべきとの議論がなされる際に問題となると指摘している。第二に,独立社外取締役によるモニタリングはあくまでも何が当該会社にとって最善であるかを判断するために経営者を監督し,質問等を行うものであって,独立社外取締役が経営者と敵対的な関係にあることが要求されているのではないという点である83。もし敵対的な関係を要求するとするならば,多くの人材が独立社外取締役になることを控えることになってしまうからである。また,独立社外取締役は社内取締役と共に,取締役会の目標を定め,それを達成する責任を有しているからである84。

⑵ 具体的な場面における独立社外取締役の役割

 以上のように独立社外取締役によるモニタリングの必要性を論じた上で,リーチ&ムンドハイムは経営者と株主の利益が相反する可能性が高い具体的な場面における独立社外取締役のモニタリングの役割,およびそのような役割を遂行するにあたり依拠することのできる情報について議論を展開している85。

ⅰ 財務諸表監査が行われる際の役割 リーチ&ムンドハイムは,社外の会計監査人が財務諸表監査を行う際に経営者から不当な影響を受けることを未然に防止しその独立性を確保するために,監査委員会を設置する必要性があると強調する86。そして,監査委員会には主

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として3つの機能があり,その機能とは,①会計監査人を推薦する機能,②当該年度になされた会計監査の範囲について審査する機能,③会計監査の結果に対する審査および議論を行う機能であるとしている87。 次に,監査委員会の構成について,理想的には3〜4人の独立社外取締役のみから構成されることが望ましいとする。そして,構成員の何人かは金融または会計について訓練を受け,または実務経験を有している者であることが望ましいとしている。ただし,あくまでも重要なのは財務諸表を評価する監査委員会のメンバーがお互いを困惑させずにうまく意思疎通を行うことであると強調している88。 続けて,監査委員会の会合の頻度およびその役割について議論を展開している。監査委員会の会合の頻度については,外部監査人と最低年2回は開催するのが望ましく,また会合を行う際には,経営者の同席なしに行われるべきであるとしている89。そして,一回目の会合では提案された監査範囲の審査を行うべきであるとしている90。続く二回目の会合は監査終了後,財務諸表が公表される前に行われるべきであり,その際には,監査の過程で発覚した問題点および監査報告書の様式およびその内容について審査すべきであるとしている91。 最後に,会計監査人は当該財務諸表に関して意見を述べるのみならず社内の会計慣行についても勧告を行うことが予想されることから,その場合には監査委員会として次のことを行うべきであるとし,その具体的な内容として①会計監査人の職務および取締役会に提出される監査報告書の審査,②経営者と監査人との間で意見の不一致が生じた領域の審査,③当該会社の会計慣行が同業他社の会計慣行と著しく乖離していないかどうかに関する審査,④新たに導入される会計原則が当該会社の財務諸表作成にどのような影響を及ぼすと予想されるかに関する調査を挙げている92。 この当時はすでに多くの大規模公開会社において監査委員会が設置されていたが,その役割

については必ずしも明らかにされていなかった。そこでリーチ&ムンドハイムは独立社外取締役の導入を前提とした上で,上記のように議論を展開したのである。

ⅱ 合併取引が行われる際の役割 リーチ&ムンドハイムは,州会社法において合併契約は取締役会により承認されなければならないと規定していることから,独立社外取締役は合併に関する意思決定に深く関与することになると強調する93。そこで,独立社外取締役が合併の提案を受けた場合,その合併決議後,そのような意思決定を行った理由を十分に説明できるよう,十分な情報と理解に基づいて判断を行わなければならないとし94,合併が行われる際の独立社外取締役の役割およびその役割を遂行する際に依拠すべき情報について次のように議論を展開している。 まず,独立社外取締役が合併の際にそもそもモニタリング機能を果たすことができるかどうかという根本的な問題が存在するとし,具体的に次の点を問題点として挙げている。すなわち,①経営者は合併取引の枠組みを決定するに際し排他的な役割を果たすべきかどうか,②経営者によりなされた提案は合理性を有するが独立社外取締役自らが望ましいと考える内容とは異なる場合,当該合併に賛成すべきかどうか,③独立社外取締役は合併に関し,どの程度経営者が提供する情報に依拠することができるかという点についてである95。そして,これらの点を踏まえた上で,独立社外取締役は合併契約を次の観点から評価すべきであるとしている。すなわち,①当該合併が会社にとって魅力的であるかどうか,および②独立社外取締役自身が善意かつ自らの最善の経営判断に従って会社の長期的利益に対する影響を重点的に考慮しているか否かという観点である96。また,合併契約を評価する際に,従業員や顧客等の株主以外の利害関係者の利益を考慮することができるかどうかは法律上明確には定められていないが,独立社外取締役がそれらの者の利益に対する影響を考慮することはおそらく排除されていないとしてい

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る97。ただし,独立社外取締役は当該会社の株主に対する影響を考慮すれば十分であり,それに基づいて当該合併について評価を行えば訴訟の危険に晒されることはないと指摘している98。 次に,合併が行われる際の経営者による提案および経営者により提供される情報への依拠の適否について次のように議論を展開している。 はじめに,経営者の提案および情報に依拠してよい場合とは,経営者の利益と株主の利益とが一致すると独立社外取締役が考える場合であり,その例として,当該会社が業務関係を有している小規模な会社を買収する場合を挙げている99。ただし,この場合においても独立社外取締役は当該取引に関する疑問点を全て同僚の取締役や経営者に伝え,それに対して十分な回答を要求しなければ,適切な監視を行ったことにはならないと注意を喚起している100。そして,このような手続を履行したならば,独立社外取締役が経営者の合併に関する勧告が合理的な経営判断であると信じる場合,たとえ自らが経営者の立場にあったならば他の判断を下したであろうと考える場合であっても,当該合併に賛成するのが適切であるとしている101。 次に,独立社外取締役が経営者の提案および情報に依拠してはならない場合とは経営者と株主の利害が鋭く対立する場合であり,その例として,非上場化合併(goingprivatemerger)の場合を挙げている102。このような場合,独立社外取締役は当該合併の遂行の可否の決定に積極的に参加し,合併条件の交渉に積極的に関与しなければならないとしている103。また,独立社外取締役は経営者が合併条件の正当性を裏付けるために提供する情報に全面的に依拠することは非常に大きなリスクを伴うことを認識しなければならないと指摘し,このような場面ではやはり外部の弁護士や投資銀行家の助言を受けるべきであると主張している104。 最後に,上記2つの場面の中間に位置付けられる場合として,通常の合併取引の場合を挙げている105。そして,このような場合は,経営者の個人的利益がどの程度経営判断に影響を及ぼ

すか明らかでない場合が多く,また経営者の個人的利害は全く絡んでいないが,当該合併の結果が会社に対し大きな影響を及ぼす可能性もあるとしている106。そこで,頻繁に合併が提案される会社の場合には,日常的に合併提案について審査する独立社外取締役からなる委員会を設置すべきであると主張している107。そして,当該委員会が合併に関する審査を行う際に十分な情報を持ち合わせていないと感じる場合には,外部の専門家および経営者に追加的な情報を提供するよう要求すべきであり,反対に,外部の専門家および経営者が当該合併につき大きく私的利益を有している場合には,当該委員会自らの選択で他の専門家の助言を受けるべきであると主張している108。

ⅲ 敵対的 TOB が行われる際の対象会社における役割

 リーチ&ムンドハイムは,敵対的 TOB が行われる場面では対象会社の経営者の利益と株主の利益が大きく乖離し,敵対的 TOB の結果によっては対象会社の経営者はその地位を失い,または失わないとしてもより厳しい監視の下で経営を行わなければならなくなることから,独立社外取締役は敵対的 TOB の場面において特に経営者に対する監視を注意深く行わなければならないと指摘する109。その上で,対象会社の経営者が当該公開買付に反対の意を表明している場合に独立社外取締役はどのように行動すべきかについて議論を展開している。 まず,対象会社が公開買付に反対した場合に独立社外取締役が負うリスクとして,次の点を挙げている。すなわち,①買付者を撤退させ株主が有利な価格で株式を売却する機会を奪ってしまうことから,独立社外取締役が対抗策の決定に参加し,または黙認した場合においてその対抗策が不適切であったと裁判所が判断した場合,独立社外取締役は買付者または対象会社の株主に対して責任を負わなければならないという点,および②敵対的 TOB への対抗策には巨額の費用がかかり,対象会社の取締役会は会社財産を公開買付に対抗する目的で使用すること

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を正当化することにつき責任を負うという点である110。そこでこれらのリスクを認識しながら,独立社外取締役はモニタリングの役割を担わなければならないことになる。 はじめに,敵対的 TOB への対抗策を講じることが正当化される場合としてリーチ&ムンドハイムは次の場合を挙げている。すなわち,第一に,買付者が会社財産を喰い物にする可能性を有しており,または会社を不適切に運営する可能性を有している場合である111。ただし,この場合においても対象会社の経営者が買付者の悪性を誇張する可能性がある点を十分認識しなければならないと指摘している112。 第二に,市場価格にプレミアムが付されているにもかかわらず,買付価格が不十分な場合である。このような場合には敵対的 TOB に対して対抗策を講じることにより,より有利な買付価格を提示する他の買付者が現れるかもしれず,または当初の買付者がより有利な価格を提示する可能性があるからである。また,当該買付価格は当該株式の市場価格が一時的に値下がりしたために買付価格が魅力的になっただけにすぎない場合も考えられ,さらには当該買付者が株主に対しその持ち株全てを十分な価格で処分する機会を提供していない可能性もあるからである113。 ただし,リーチ&ムンドハイムは,敵対的TOB の場面において独立社外取締役がそもそも有効にモニタリングの役割を遂行できない可能性があると指摘している。なぜならば,①独立社外取締役は公開買付に関連する情報を入手し,当該公開買付に反対することの利点およびそのための手続の適正性について議論する時間をほんの僅かしか確保することができず,また,②独立社外取締役は自らの訴訟リスクを回避するために会社は何ら対抗策を講じず,そして株主自らが当該公開買付に応じるか否かを判断すれば良いとの結論を下す可能性があるからである114。 しかし,以上のような独立社外取締役がモニタリング機能を果たすことへの障害が存在しう

るにもかかわらず,独立社外取締役のみから構成される委員会を設けて,敵対的 TOB への対抗が意味をなすかどうかを決定させることは望ましいとリーチ&ムンドハイムは主張している115。そして,当該委員会は経営者から公開買付に対抗する理由の説明および他の関連情報の提供を受けると同時に,経営者の同席なしに当該会社の投資銀行家や外部の弁護士との会合を行うべきであるとしている。それにより,当該委員会が対抗策を続行するとの結論を下す際に当該公開結論を根拠付ける有益な情報を得ることができるからである116。その際に,当該委員会は,当該公開買付に関する情報を収集するために,買付者の代表者と別途会合を持つべきかどうかを考慮すべきであるとしている117。 最後に,独立社外取締役からなる委員会は,経営者から提供される情報および顧問弁護士または経営者に雇われた専門家による助言を信頼することで満足するのが通常であるが,しかし経営者またはそれらの専門家が何が会社にとって最善であるか客観的に判断を下せないとの結論に至ることもあり得るとし,そのような場合には,当該委員会は外部の専門家から助言を受けるべきであると主張している118。

ⅳ SEC による調査および私人による訴訟提起が行われる際の役割

 リーチ&ムンドハイムは,独立社外取締役は次の点を認識しながらこれらの場面において手続に関与しなければならないとしている。第一に,独立社外取締役は,あくまでも当該会社の株主に対し(特別の場合には債権者等他の利害関係者に対しても)忠実義務を負っているという点である。よって株主や他の利害関係者の利益を考慮せず経営者のために行動することがあってはならないとしている119。第二に,連邦証券諸法上,当該会社は重要情報の開示が求められているという点である。よって,これら連邦証券諸法上の情報開示義務を履行するという観点から独立社外取締役は行動しなければならないと指摘している120。以上を踏まえた上で,リーチ&ムンドハイムは次のように議論を展開

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している。 まず,連邦証券諸法違反について調査が行われる場合について,独立社外取締役は誰が提供する情報に依拠して行動したら良いか,また,独立社外取締役自らが調査を行うべきか,それとも外部の専門家に調査を委ねるべきかについて判断を迫られることになると指摘している121。そして,いずれの場合であっても次のような方法に従って,提供される情報に依拠すべきであると述べている。すなわち,下部の従業員による証券諸法違反が問題となった際に経営者がその問題に関与していない場合には,経営者の提供する情報を信頼しても何ら問題はないとする122。その一方,経営者がその問題に関与している場合には,経営者からの情報を信頼してはならず,外部の専門家から助言を得て独自に調査を行うべきであるとしている123。さらに,会社の内部情報が確実なものであると信頼できない場合には独自の調査を行うべきであると主張している124。 次に,株主代表訴訟が提起された場合について,取締役会は株主の請求に応じて当該訴えを提起するかどうか判断しなければならない立場にあるとし,そして,最近の判例の傾向として,当該訴訟に利害関係を有していない取締役会構成員が,当該訴訟の提起は当該会社の最善の利益に反すると判断した点を重視していると指摘し,よって,この場合に独立社外取締役の判断は決定的に重要であると強調している125。 問題は,この際に独立社外取締役はどのように当該訴訟に関する情報を入手したら良いかという点である。この点について,当該会社の顧問弁護士が被告側についている場合は,独立社外取締役は他の弁護士から助言を受けるべきであるとしている126。 他方,被告が当該会社の顧問弁護士以外の弁護士に依頼している場合は,独立社外取締役が当該会社の顧問弁護士の助言に従うことができるかどうかは問題になる点であるとしている127。例えば,当該被告に対し,当該取引は合法であると当該会社の顧問弁護士が助言していたよう

な場合には,当該顧問弁護士は会社の利益のために中立的な立場から行動することが期待できないからである。独立社外取締役は以上のことを考慮に入れた上で,当該取引に関する情報を入手するために社外の専門家を利用するかどうかを判断しなければならないとしている128。

ⅴ 経営者の報酬を決定する際の役割 リーチ&ムンドハイムは,独立社外取締役のみから構成される報酬委員会が経営者の報酬を決定すべきであるとし129,そして,報酬委員会が十分に機能するためには次のような条件を満たす必要があると主張している。 第一に,報酬委員会は経営陣の報酬に関する一般原則を定めるガイドラインを策定すべきであるという点である130。そして,その際に外部の専門家を利用することは有益であるとしている131。また,当該ガイドラインは,たとえ取締役会の一部の者により策定された場合であっても,取締役会全体で審査されるべきであるとしている132。 第二に,報酬委員会は最高経営責任者が具体的な報酬の配分を行う際に,上記ガイドラインに従っているかどうか監督し,もしガイドラインに従っていない場合にはその是正を勧告すべきであるという点である133。他方,最高経営責任者は報酬委員会に対し,具体的な報酬の配分がガイドラインに従って適正になされたことを示す準備をすべきであり,ある特定の従業員の成果を示す情報の入手および評価に関して報酬委員会に情報提供を行う準備をすべきであるとしている134。そして,報酬委員会がガイドラインに沿って報酬の決定がなされていると評価することができ,また最高経営責任者が行った配分手続が妥当であると評価できる場合は,最高経営責任者の報酬に関する勧告をそのまま受け入れることができるとしている135。 第三に,インセンティブ報酬は,とりわけ,基本理念および実際に付与される場面の両観点から綿密に審査されるべきであるという点である136。この点について,報酬委員会はインセンティブ報酬の付与が会社の業績に対する貢献を

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評価できる役職員に限定されており,かつ役職員の成果がインセンティブにどの程度結び付いているか測定できる場合に限定されていることを確認すべきであると主張している137。 第四に,最高経営責任者の報酬を定める場合,当該会社の報酬制度全体,最高経営責任者により達成された成果,将来の業績に対する期待,そして競合関係にある会社が採用している報酬制度との関係を考慮することになるという点である138。 第五に,報酬委員会は報酬の配分に対する審査を行うことにより経営者の主要職員に対する評価に関する洞察力を得ることができることから,報酬委員会は当該会社の役員養成プログラムに関与すべきであるという点である139。それにより,報酬委員会は,当該会社が中堅幹部を養成する計画を有しており,そしてトップの地位を承継するための十分な規定を有していることを確保することができるからである140。

ⅵ 経営者の業績評価を行う際の役割 リーチ&ムンドハイムは,取締役会がモニタリング機能を十分に発揮するには,定期的に経営者の業績を評価する必要があり,そのような評価を行うためには経営に関する情報が不可欠であるから,取締役は取締役会に提供される公式の情報だけを頼りにするのではなく,経営者と非公式に面談し,情報を入手すべきであるとしている141。 また,経営者の業績評価は独立社外取締役が他の独立社外取締役と経営に関する印象や考えを共有し合ってのみ達成できるものであることから,独立社外取締役は,経営に対する評価を交換するだけでなく,お互いに知り合えるように取締役会全体とは別に独立社外取締役のみで会合を開くべきであるとしている142。 最後に,独立社外取締役が経営者の成果を効果的に監督できるようになるためには,経営者と取締役会との心理的な関係が根本的に変革されなければならないと指摘している143。嘗ては,取締役会は経営者のものであると考えられてきたが,そのような考えは変更されなければなら

ず,そのためには経営者が効果的に監督を行う取締役会を欲するだけでは十分でなく,経営者が強力な取締役会に対して説明を行うことが強制されるような仕組みが説明責任履行の観点から会社内部に設けられなければならないと主張している144。

⑶ 小括 以上が,リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論および,それに対し投資会社法上の独立取締役制度が与えた影響についてである。 リーチ&ムンドハイムは,ミューチュアル・ファンドの独立取締役制度をモデルとして大規模公開会社における独立社外取締役の役割について議論を展開している。それは,投資会社法ではミューチュアル・ファンドの株主と投資顧問およびその利害関係者との間に存在する潜在的な利益相反関係に対処するための法的枠組みが構築されており,そのような枠組みを参照することは大規模公開会社において経営者と株主との間における利益相反問題に対処するために有効であると考えられたからである。また,投資会社の分野における一連の判例の展開は,大規模公開会社のガバナンスに対しても影響を及ぼす可能性があることを認識していたこともその理由として挙げることができる。さらに,ムンドハイム自身が1960年代に投資会社の独立取締役の役割について詳細な研究を行っていたことも,ミューチュアル・ファンドの独立取締役制度をモデルとして取締役会改革論を提唱する際の知見として活かされているように思われる。 リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論は,大規模公開会社において独立社外取締役の導入を促すとともに,独立取締役が具体的な場面において如何なる行動をとるべきか,その際に経営者およびその利害関係者が提供する情報に依拠することができるか否かについて具体的な指針を示した点に重要な意義があるように思われる。当時は社外取締役が取締役会構成員として大規模公開会社の取締役会に参加する状況が徐々に促進されていたが,その具体的な行動指針および各種委員会の役割等についての議論

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はまだ始まったばかりであった。このような状況において提唱されたリーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論は,その後の米国における独立取締役制度の展開に大きな影響を及ぼしているように思われる。

3.コフィーによる取締役会改革論145

 最後に,コフィーによる取締役会改革論に対し,投資会社法上の独立取締役制度が如何なる影響を与えているか検討する。コフィーは1970年代に発覚した大企業による海外政府高官に対する違法献金問題を取り上げ,これらの問題が発生した原因として取締役会に会社の組織運営に関する客観的な情報が十分に伝達されていなかった点を指摘している。その上で,取締役会が監督機能を十分に果たすことができるよう,独自の取締役会改革論を提唱している。

⑴ ミニ取締役会の創設 コフィーは,取締役会が監督機関としての役割を十分発揮するための制度改革として,ミニ取締役会の創設を提唱している。それは,一連の企業不祥事において経営者が情報の隠匿を行い,取締役会構成員とりわけ社外取締役に重要情報が伝わらず,取締役会が監督機関として全く機能していなかったからである。また,現代における企業組織は非常に複雑化しており,取締役会まで客観的な情報が伝わりにくくなっている内部構造を有している。そこで,ミニ取締役会を会社内部に設置することにより問題が生じている現場から取締役会への情報伝達の距離を短縮することができ,その結果,取締役会がより効果的に企業内において監督機能を発揮することができるようになるとコフィーは主張している146。 ミニ取締役会は企業内におけるそれぞれの部門毎に設けられ,中央の取締役会に情報を伝達する役割を果たす。そして,ミニ取締役会は独立の外部者により構成され,中央の取締役会構成員がその議長になる147。このような構成を採用することで,それぞれのミニ取締役会はそれぞれが担当する部門のモニタリングに専念する

ことができるからである。また,このようなミニ取締役会を設けることで通常の情報網に加え新たな情報網が構築され,それにより通常の情報網により提供される情報が歪曲されていないかどうかチェックすることができ148,さらに,ミニ取締役会は将来の社外取締役を訓練する場として機能することも期待できるからである149。最後に,このような提案は大規模公開会社においてそれ程費用をかけずに実現することが可能であるとコフィーは強調している150。 以上のように,コフィーは,取締役会がその監督機能を十分に果たすためには取締役会に客観的な情報が十分に伝達される仕組みを構築しなければならないとしているが,取締役会の監督機能を確保する観点からのみミニ取締役会の創設を提唱しているのではない。もう一つの理由は,経営者が取締役会に対して客観的な情報を十分に提供する体制を構築しないと,それを理由に経営者の責任が問われる裁判例が投資会社の分野ですでに生じはじめていたからである。コフィーはこれら一連の判例を検討し,これらの判例で展開されている法理は決して投資会社に特有のものではなく,近い将来大規模公開会社においても同様に適用される可能性が高いと指摘している。 以下,コフィーによる投資会社の独立取締役に関する一連の判例分析について検討する。

⑵ 投資会社法上の独立取締役に関する判例の分析

 コフィーは,企業による不正支出を原因に提起された株主代表訴訟を想定し,その中で訴訟当事者である原告と被告はどのような主張を展開することができるかを論じ,その際に投資会社の独立取締役に関する一連の判例に分析を加えている。

ⅰ 被告が顧問弁護士の助言を信頼していたと抗弁する場合

 コフィーは,被告が顧問弁護士による助言を受けていたとの抗弁を行った場合について,従来は会社役員が顧問弁護士の意見を信頼して行動したとの主張は代表訴訟において裁判所が当

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該役員に対する訴えを棄却する有力な手段であると考えられてきたとし,そのような主張は,被告が以下の事実を立証した場合に認められてきたと指摘している。すなわち,その要件とは,①被告に助言を行った顧問弁護士が当該助言を行った分野に関し十分な知識を有していたと被告が合理的に信じていたこと,②当該顧問弁護士が関連した情報につき完全な開示を受けていたこと,③当該助言が法的問題に関連したものであって事業一般に関するものではなかったこと,④被告が実際に当該助言を信頼していたことであるとしている151。コフィーはこれらの要件に加え,最近の判例は五番目の要件として,⑤当該助言を行った顧問弁護士が利益相反に服していなかったことを要件としているように思われると指摘している152。 コフィーはこの五番目の要件との関連で,投資会社法上の独立取締役に関する判例であるMosesv.Burgin 事 件153,Fogelv.Chestnutt事件154,Papilskyv.Berndt 事件155,Tannen-baumv.Zeller 事件156の一連の判決を取り上げ,次のように分析を加えている。「Fogelv.Chestnutt 事件は,ファンドの取締役会が当該ファンドの投資顧問に雇われている顧問弁護士の意見を信頼していたというものであった。当該顧問弁護士は,売買委託手数料の取り戻しは取引所規則に違反すると助言していた。株主代表訴訟において被告は当該顧問弁護士の助言を信頼していたと抗弁を行ったが,裁判所によってそのような主張は受け入れられなかった。それは当該顧問弁護士が利益相反の状態にあったからであった。」157

「Papilskyv.Berndt 事件は,ファンドの取締役会は有名なニューヨークの弁護士事務所の意見を信頼していたというものであり,そして当該助言の内容も明確であった。……しかし株主代表訴訟においては,被告による顧問弁護士の意見を信頼していたとの抗弁は裁判所により否定された。その理由は,当該弁護士事務所がファンドとその投資顧問の双方を代表しており,利益相反関係にある両当事者に対し助言を行っ

ていたからであった。……また,被告側が売買委託手数料の取り戻しに関する自らの職務上の助言を補強するために法的助言を行うタイミングとその方法を入念に調整していた点にも裁判所が注目したからであった。」158

 このように判例を分析した上で,これらの判例から次のような法理を導くことができるのではないかとコフィーは主張している。「以上二つの事例は,たとえ取締役会が顧問弁護士からの助言を得ていたとしても,社内取締役および会社役員は,独立取締役が独立の立場から調査を行うことを妨げないために,売買委託手数料の取り戻しの可否に関する相異なる見解につき話し合う義務を負っていることを示した判例のように思われる。これらの事例は単に偏った法的助言に関するものとしてよりも,むしろ取締役会が選択しうるあらゆる可能性について効果的に話し合う義務との関連で顧問弁護士の助言を信頼していた事例であると理解できる。 そして後者のような解釈は,Mosesv.Burgin事件を出発点として考えた場合,妥当性を有する。そして,Tannenbaumv.Zeller 事件においては,取締役会が弁護士事務所から受け取った手紙には,売買委託手数料を取り戻すことができるとの弁護士事務所の見解と並んで,売買委託手数料を取り戻すことができないとしている SEC や証券取引所の見解についても公正に記述されていた。そこで裁判所は,このような助言は効果的な話し合いをさせるものであるとして,このような助言がなされた場合は,当該顧問弁護士がたとえ利害関係を有していたとしても,そのことにより独立取締役がなした判断の合理性は侵害されないと判示した。」159

 コフィーはこのように判例を分析した上で,取締役会が選択しうるあらゆる可能性について効果的な話し合いを行う義務に関するこれら投資会社法上の一連の判例は,投資会社に特有のものではなく大規模公開会社に対しても拡張されうる義務であり,それは以下のような三つの理論によって裏付けられるとしている。

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「第一に,Mosesv.Burgin 事件判決は情報開示義務を投資会社法特有のものでありコモン・ローとは無関係であるとは想定していないという点である。当該事件は,コモン・ロー上の大多数の原則が同じ結論に至るということを想定しており,このようなコモン・ロー上のルールを見つけ出すことは決して難しくない。確かにMoses 事件から Tannnenbaum 事件に至る一連の投資会社の判例は投資会社に特有の性質および利益相反並びに自己取引を強調しているが,しかしこれらの要素は単に情報開示義務を強めているのであって情報開示義務を作出しているのではない。加えて,不正支出に関する報告の結果により,自己取引が頻繁に発覚している以上,今日においてこれらの判例を投資会社特有のものであると理解する理由はほとんど存在しない。ある会社の従業員が会社を代表して無謀にまたは誤って違法行為を行ったとしたら,その結果会社に生じた損害について会社に対し責任を負うことは明らかである。そのことから取締役会に対し情報開示を行わないということ自体が,従業員が利益相反に直面していると理解することができる。このような利益相反は当該従業員が偶発的な責任を隠蔽したいと望むことから生ずるものである。よって大多数の不正支出事例は利益相反に関係していると理解することができることから,もし情報開示が取締役会に対してなされていたならば取締役会は異なる行動をとっていたであろうという Moses 事件判決の前提は拡大して適用することができる。 第二に,Moses 事件判決で示されたルールを拡張することにより投資家の利益が社外取締役によって代表されているという暗黙の表示がなされているという点である。投資会社法は一定割合の独立取締役を法律上要求しているが,大規模公開会社においては投資会社法が要求している基準を満たし,またはそれを超えて社外取締役を採用しているとの慣行が広く行われている。今日において大規模公開会社の大多数がその取締役会構成員の過半数を社外取締役としており,このことは法的な重要性を有している。

社外取締役を任意に採用することによって,Moses 事件判決が独立取締役の存在を法的に要求していることに伴って暗示した『効果的な話し合い』を行うという禁反言上の義務が課されることになると解すべきである。……社外取締役が取締役会に採用されることによって投資家の当該会社に対する信頼を誘出することになる。このような投資家の信頼を前提とすると,禁反言の概念が妥当すると考えられる。なぜならば,独立した取締役会が存在することにより,経営者は,外部者が会社経営を監視しているということを投資家に示唆することになるからである。このような表示は裁判所が『効果的な話し合い』を行う義務を認識することにより拘束性を有するものとなるであろう。 第三に,……一連の投資会社法上の判例は黙示の連邦法上の信認義務の基準を基礎にしているという程度において,これらの基準は間もなく証券取引所に上場している企業全体を包含するために一般的なものとなる可能性があるという点である。SEC はニューヨーク証券取引所に対し上場要件として『独立の』取締役会の存在を考慮するよう働きかけるようになった。もしニューヨーク証券取引所が SEC の承認により取締役会の過半数が外部者であることを要求する規則を採用するならば,……投資会社法上要求されている情報開示義務を課す法的基礎が同様に出来上がることになる。連邦証券諸法は一体となった規制体系を想定していることから,1934年証券取引所法と1940年投資会社法は同様な方法で解釈されるべきであり,同様の命題は利害関係を有しない取締役を要求することから導き出すことができる。両法とも株主を保護するためにこのような要求を行っている。そしていずれの事例においても経営者が利益相反にある状況で取締役会に対し完全な情報開示を行わないならば社外取締役の要請が実効性を有しない。 もしこれらの社外取締役導入が採用されたならば,このような要請は株主代表訴訟によって強制されることになるであろう。幾つかの先例

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は,株主が取引所規則違反により損害を被ったとして直接訴えを提起するであろうと示唆している。」160

 以上のように,コフィーは投資会社の独立取締役に関する一連の判例を分析した上で,大規模公開会社においても同様に,ある問題が生じた場合に,経営者が取締役会に当該問題に関する客観的な情報を十分に提供した上で,取締役会と当該問題について取締役会が選択しうるあらゆる可能性について効果的な話し合いを行わない場合には,経営者が同様の責任を問われる可能性があると指摘している。

ⅱ 被告が経営判断の問題であると抗弁する場合

 コフィーは,被告が経営判断の問題であると抗弁する場合を論ずるにあたって,どのような方法で取締役会の独立性を高めることができるかについて言及し,その上で裁判所主導による独立性強化の方法に注目している。その理由は,このような方法による取締役会の独立性強化は,法による強制を伴わないことから,会社の自治に対して干渉する余地が他の方法と比べて非常に小さいからである。また,このような方法は訴訟が提起された場合に経営判断原則に依拠したいと考える経営者が自発的に,独立社外取締役により構成される指名委員会に委任状機構の支配を譲り渡す積極的なインセンティブにもなると指摘している161。 そしてコフィーは,このような裁判所主導による独立取締役の導入を促す兆候を表すものとして,投資会社法上の独立取締役に関する判例である Laskerv.Burks 事件第一審判決162に言及し,代表訴訟を却下すべきとする取締役会の判断を裁判所が尊重する傾向が投資会社法の分野においてすでに現れてきていると指摘している163。

ⅲ 原告が権利能力外の法理を主張する場合 コフィーは,原告が権利能力外の法理を主張する場合について検討する際に,投資会社に関する Mosesv.Burgin 事件判決は権利能力外の法理の適用に影響を及ぼす可能性があると指摘

している。すなわち,会社役員が利益相反に直面している状況において完全な情報開示を行わず行動した場合,取締役会は当該役員に対して付与していた一定の権限を付与しなかったであろうと想定でき,したがって,会社役員が付与された権限を超えて行動し,かつ完全な情報開示を行わずになした行為は,権利能力外の法理により,取締役会によって否認されるという一般原則が成り立つ可能性があると指摘している164。

⑶ 小括 以上が,コフィーによる取締役会改革論の内容および投資会社法上の独立取締役制度がこれらの議論に対して与えた影響についてである。 コフィーは投資会社の独立取締役に関する一連の判例を分析した上で,これらの判例で展開された法理は投資会社に特有のものではなく,大規模公開会社においても同様に提供される可能性があるとしている。そこでこれらの判例法理の展開に基づく訴訟リスクに対処するために取締役会改革を遂行しなければならないとして,独自の取締役会改革論を提唱したのである。 コフィーが自身の判例分析の中で強調している,経営者が取締役会が選択しうるあらゆる可能性について取締役会と効果的な話し合いを行わなければならないとの義務は,1970年投資会社法改正後における一連の判例により展開されたものであり,これらの判例は1970年投資会社法改正による独立取締役の独立性強化および取締役会に対する客観的な情報を十分に提供するための体制の確保を前提として展開されたものである。よって,コフィーによる取締役会改革論は,投資会社の分野で独立取締役制度を運営してきた歴史的経験を踏まえたものであると理解することができるように思われる。

四.結語

 本稿においては,1970年代米国における大規模公開会社取締役会改革論について検討し,これらの改革論に対して投資会社法上の独立取締

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役制度が如何なる影響を与えているかを明らかにしてきた。 1970年代米国においては一連の企業不祥事が問題となり,その際に取締役会に対して会社の組織運営に関する客観的な情報が伝達されず,取締役会が監督機能を全く発揮していないことが問題となった。また,連邦証券諸法違反を理由に社外取締役に対して訴訟が提起され,社外取締役が財務書類等における記載事項の正確性についてどの程度調査義務を尽くすべきかが問題とされるようになった。さらに,大規模公開会社の取締役会に対する実態調査により,法律上は業務運営機関と位置付けられている取締役会が実際は業務の基本方針すら策定していないことが明らかとなった。そこで,これらの問題に如何に対処するかが課題となった。 そこで,これらの課題に対処するために当時のコーポレート・ガバナンスの主要論者により大規模公開会社取締役会改革論が提唱されたが,それらの議論に対して大きく影響を与えたのが投資会社法上の独立取締役制度である。アイゼンバーグはモニタリング・モデルを提唱するにあたって,取締役会制度改革の先例として投資会社法上の独立取締役制度に多く言及している。また,リーチ&ムンドハイムはミューチュアル・ファンドの独立取締役制度をモデルとして,大規模公開会社における独立社外取締役の役割について議論を展開している。さらに,コフィーは,投資会社の独立取締役に関する一連の判例を分析した上で,これらの判例で展開された法理は投資会社に特有のものではなく,大規模公開会社においても同様に適用される可能性が高いと言及しながら,独自の取締役会改革論を提唱している。このように投資会社の独立取締役制度は70年代の取締役会改革論に大きな影響を与えていることから,これらの取締役会改革論を評価し,そしてこれらの議論がその後の大規模公開会社における独立取締役制度の展開に与えている影響を考察するにあたっては,投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開にまで遡る必要があるように思われる。

 本稿に続く研究課題は,これら当時の主要論者により提唱された大規模公開会社取締役会改革論がその後の米国における独立取締役制度の展開に如何なる影響を与えているか引き続き検討することである。アイゼンバーグが提唱したモニタリング・モデルは,如何なる経緯を経てALI コーポレート・ガバナンス原則に結実しているのか,リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論は1980年代における M&A や敵対的 TOB の場面における取締役会の役割,さらにはインセンティブ報酬の拡大に対する報酬委員会による規律といった問題に如何なる影響を与えているのか,コフィーが投資会社法の判例分析により導き出した取締役会に対し客観的な情報を十分に伝達した上で取締役会が選択しうるあらゆる可能性について効果的に話し合いを行う義務は,その後どのように大規模公開会社における法理として展開していったのかといった点について,国内外における数多くの先行研究を参照しながら,今後の研究テーマとして取り組んでいきたい。

1 投資会社法制定時から1970年代までの投資会社法上の独立取締役制度の発展については,拙稿「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開─投資会社法制定時から1970年代までを中心に(1)(2・完)」早稲田大学 GCOE企業と法創造9巻1号323頁以下,9巻2号(掲載頁未定)(2012)で検討した。

2 Melvin. A. eisenberg, The sTrucTure of The corporATion139-85(1976).

3 NoyesE.Leech&RobertH.Mundheim,The Outside Director of the Publicly Held Corpora-tion,31bus lAw1799(1976).

4 JohnC.Coffee,Jr. ,Beyond the Shut-Eyed Sentry: Toward a Theoretical View of Corpo-rate Misconduct and an Effective Legal Respon-se,63vA. l. rev.1099(1977).

5 SEC,reporT on The public policy iMplicA-Tions of invesTMenT coMpAny growTh, h.r. rep.No.2337,at71-72 (1966) [hereinafterPPIreporT]. 北茂訳『投資会社の成長と国策の帰結─ SEC 報告書』86 〜 87頁(大阪証券業協会,

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1969)(初出:インベストメント22巻3号〜 23巻4号(1969 〜 1970))。Division of invesTMenT MAnAgeMenT, sec, proTecTing invesTors: A hAlf cenTury of invesTMenT coMpAny regulA-Tion253(May1992).

6 この点については,三浦康平「独立取締役の役割─米国一九四〇年投資会社法を素材として─」同法61巻5号152 〜 153頁(2009)を参照。

7 RobertH.Mundheim, Some Thought on the Duties and Responsibilities of Unaffiliated Di-rectors of Mutual Funds,115U.pA. l. rev.1058(1967).

8 この点については,拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役の歴史的展開

(2・完)」(掲載頁未定)で検討した。9 SECsTAff reporT on The finAnciAl collAp-

se of The penn cenTrAl coMpAny, The speciAl subcoMM. on invesTigATions, house coMM. on inTersTATe AnD foreign coMMerce(1972).SECによる本件調査の内容については,神崎克郎「米国の社外取締役の法的責任」商事816号39頁

(1978),志谷匡史『マーケットメカニズムと取締役の経営責任』224 〜 225頁(商事法務,1995)で検討されている。また,JefferyN.Gordon,The Rise of Independent Directors in the Uni-ted States, 1950-2005: Of Shareholder Value and Stock Market Prices,59sTAn l. rev.1465,1515(2007). も参照。

10 SEC,reporT of invesTigATion in The MATTer of sTirling hoMex corporATion , [1975-1976TransferBinder]FED.sec. l. rep.(CCH)¶80,219(1975).SEC による本件調査については,神崎・前掲注(9)「米国社外取締役の法的責任」42頁,志谷・前掲注(9)225 〜 226頁で検討されている。

11 SEC,reporT on QuesTionAble AnD illegAl corporATe pAyMenTs AnD prAcTices, 94th cong. , 2d sess. subMiTTeD To The senATe coMM. on bAnking, housing AnD urbAn AffAirs(May12,1976).Gordon,supranote9,at1516-17. を参照。

12 この点については,柿﨑環『内部統制の法的研究』16 〜 23頁(日本評論社,2005)を参照。

13 Escottv.BarChrisConstr.Corp.,283F.Supp.643(S.D.N.Y.1968). 本判決については,神崎克郎[1970-71]「アメリカ法」93頁以下,川口幸美『社外取締役とコーポレート・ガバナンス』157 〜 159頁(弘文堂,2004),黒沼悦郎『ア

メリカ証券取引法[第二版]』72 〜 75頁(弘文堂,2004)で検討されている。

14 Lanzav.Drexel&Co.,479F.2d1277(2dCir.N.Y.1973). 本判決については,神崎・前掲注

(9)「米国社外取締役の法的責任」42頁,山村忠平「社外取締役の法的責任:ランザ事件を中心として」青法21巻3・4号89頁以下(1979),並木俊守「アメリカの社外取締役の義務と責任」日法46巻2号7頁以下(1988),川口・前掲注

(13)160 〜 162頁で検討されている。15 Gouldv.AmericanHawaiianS.S.Co.,351F.

Supp.853(D.Del.1972). 本判決については,神崎・前掲注(9)「米国社外取締役の法的責任」41 〜 42頁,川口・前掲注(13)167 〜 168頁,黒沼・前掲注(13)209頁で検討されている。

16 Myles l. MAce, DirecTors: MyTh AnD reAli

Ty205-06(1971). マイルズ・L・メイス(道明義弘訳)『アメリカの取締役 神話と現実』237 〜238頁(文眞堂,1991)。メイスの研究成果については,伊勢田道仁『取締役会制度の現代的課題』133 〜 135頁(大阪府立大学経済学部,1994),志谷・前掲注(9)195 〜 196頁で検討されている。

17 CommitteeonCorporateLawsoftheAmeri-canBarAssociation,ModelBusinessCorpora-tionsActwithRevisionsThrough1974,Ad-dendumBat143.

18 Id.at139.19 Del.CodeAnn.Tit.8.§141(a)(Supp.1977).

同条項については,北沢正啓・浜田道代訳『デラウェア会社法』30頁(商事法務研究会,1988)を参照。

20 eisenberg, supranote2,at139-85.アイゼンバーグの取締役会改革論については,上田宏「アメリカ会社法における取締役会─アイゼンバーグの提案を中心として─」月刊監査役160号50頁以下 (1982),志谷・前掲注(9)233 〜 235頁,川口・前掲注(13)34 〜 35頁で検討されている。

21 eisenberg,supranote2,at140-41.22 Id.at141.23 Id.at141-43.24 Id.at143.25 Id.at144.26 Id.27 Id.at143-44.28 Id.at144-45.29 Id.at145-46.

Page 25: 1970年代米国における大規模公開会社 取締役会改 …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/15.pdf1970年代米国においてはペン・セントラル社 やスターリング・ホーメックス社の破綻,さら

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30 Id.at146-47.31 Id.at147.32 Id.at148.33 WilliamJ.Nutt,A Study of Mutual Fund In-

dependent Directors,120U.pA. l. rev.179,221(1971).

34 PPIreporT,supranote5,at130.北・前掲注(5)152頁。この点については,拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役の歴史的展開⑴」340頁で検討した。

35 Nutt,supranote33,at221-22.36 Id.37 University of Pennsylvania Law School Con-

ference on Mutual Funds,115U.pA. l. rev.663,739(1967).

38 Id.39 Meiselmanv.Eberstadt,39Del.Ch.563,568,

170A.2d720,723 (1961). 本判決については,北・前掲注(5)156 〜 157頁,石田眞得『投資会社法の研究─利益相反規制を中心に』117頁

(大阪府立大学経済学部,2004)を参照。40 SEC,insTiTuTionAl invesTor sTuDy reporT,

h.r. Doc.No.64(1971).41 PPIreporT,supranote5,at157.42 whArTon sch. of fin. & coMMerce, A sTuDy

of MuTuAl funD, h.r. rep. no.2274(1962)[he-reinafterwhArTon reporT].

43 Nutt,supranote33,at221-22.44 eisenberg,supranote2,at149.45 Id.at149-56.46 Id.at157-68.47 Id.at162.48 Id.at163.49 Id.at163-64.50 Id.at164-65.51 Id.at166-68.52 Id.at170-71.53 Id.at171.54 Id.55 Id.at172.56 Id.57 Id.at174-75.58 Id.at175.59 Id.at175.60 Id.61 Id.62 Id.at175-76.63 Id.at176.

64 Id.at173.65 この点については,拙稿・前掲注(1)「米国

投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開⑴」340 〜 341頁,同・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開

(2・完)」(掲載頁未定)で検討した。66 eisenberg,supranote2,at175.67 whArTon reporT,supranote42,at465-66.68 Comment,Duties of the Independent Director

in Open-End Mutual Funds,70Mich. l. rev.696,724 (1972);DonaldW.Glazer,A Study of Mutual Fund Complexes,119U.pA. l. rev.205,234-35(1970);Nutt,supranote33,at216.

69 eisenberg,supranote2,at176.70 Id.at176.71 Id.at187,189,196.72 Id.at199.73 Id.at205.74 Id.at208.75 この点については,拙稿・前掲注(1)「米国

投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開⑴」334 〜 335頁で検討した。

76 Leech&Mundheim,supranote3,at1799.リーチ&ムンドハイムによる取締役会改革論については,石田宣孝「《紹介》アメリカにおける社外取締役の実態─ノイエス・E・リーチ,ロバート・H・マンダイム教授(ペンシルバニア大学法学部)著「大会社における社外取締役」(31TheBusinessLawyer1799-1838 (Feb.20.1976)) の要約を中心として─」国士舘大学比較法制研究3号115頁以下 (1978),志谷・前掲注

(9)235 〜 236頁で検討されている。77 Leech&Mundheim,supranote3,at1806.78 Id.at1804.79 Id.at1805-06.80 Mundheim,supranote7,at1058-72. この点

については,拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開(2・完)」(掲載頁未定)で検討した。

81 Leech&Mundheim,supranote3,at1804.82 Id.at1805.83 Id.84 Id.at1806.85 Id.at1814.86 Id.at1814-15.87 Id.at1815.88 Id.89 Id.

Page 26: 1970年代米国における大規模公開会社 取締役会改 …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/15.pdf1970年代米国においてはペン・セントラル社 やスターリング・ホーメックス社の破綻,さら

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90 Id.91 Id.92 Id.93 Id.at1816.94 Id.at1816-17.95 Id.at1817.96 Id.97 Id.98 Id.99 Id.100 Id.101 Id.102 Id.at1817-18.103 Id.at1818.104 Id.105 Id.106 Id.107 Id.108 Id.at1818-19.109 Id.at1819.110 Id.111 Id.112 Id.113 Id.at1819-20.114 Id.at1820.115 Id.116 Id.117 Id.118 Id.at1821.119 Id.120 Id.121 Id.122 Id.123 Id.at1821-22.124 Id.at1822.125 Id.126 Id.at1823.127 Id.128 Id.129 Id.130 Id.131 Id.132 Id.at1823-24.133 Id.134 Id.135 Id.136 Id.137 Id.

138 Id.139 Id.140 Id.141 Id.at1825.142 Id.at1826.143 Id.at1826-27.144 Id.145 Coffee,supranote4,at1099.コフィーの取締

役会改革論については,志谷・前掲注(9)236〜 237頁においても検討されている。

146 Coffee,supranote4,at1147-48147 Id.at1149.148 Id.149 Id.150 Id.at1149-50.151 Id.at1200.152 Id.153 Mosesv.Burgin,445F.2d369(1stCir.1971).

本判決については,拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開

(2・完)」(掲載頁未定)で検討した。154 Fogelv.Chestnutt,533F.2d731(2dCir.N.Y.

1975). 本判決は,石田・前掲注(39)134 〜 135頁で検討されている。拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開(2・完)」(掲載頁未定)においても検討した。

155 Papilskyv.Berndt,1976U.S.Dist.LEXIS14442 (S.D.N.Y.1976). 本判決については,拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開(2・完)」(掲載頁未定)で検討した。

156 Tannenbaumv.Zeller,552F.2d402(2dCir.1977). 本判決は,志谷匡史「社外取締役制度の省察─改正商法の批判的検討─」姫法36号58頁

(2002),石田・前掲注(39)135 〜 136頁で検討されている。拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開(2・完)」(掲載頁未定)においても検討した。

157 Coffee,supranote4,at1201.158 Id.at1201-02.159 Id.at1203.160 Id.at1204-07.161 Id.at1234-35.162 Laskerv.Burks,426F.Supp.844 (S.D.N.Y.

1977). 本判決については,拙稿・前掲注(1)「米国投資会社法における独立取締役制度の歴史的展開(2・完)」(掲載頁未定)で検討した。

Page 27: 1970年代米国における大規模公開会社 取締役会改 …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/15.pdf1970年代米国においてはペン・セントラル社 やスターリング・ホーメックス社の破綻,さら

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163 Coffee,supranote4,at1235.164 Id.at1171-72.

※本稿は,平成19年・20年度科学研究補助金(若手研究B)(課題番号:19730080)による研究成果の一部である。