ジオエコノミクス・レビュー Vol.16 20160917

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1 ジオエコノミクス・レビュー 1 巻 16 号 実践編 今号の趣旨 北朝鮮が 5 度目の核実験を実施しました。中国が無事 G20 のホストを成功させ たように見えたその直後でした。世界は北朝鮮を止められるのでしょうか。専門家たち の見解を見ていきたいと思います。 中国は動くのか 北朝鮮の核実験を制止するうえでカギを握るのは中国です。中国は爆発を伴う核 実験の一時停止継続を確認する国連安保理声明に賛成しました。しかし これまでもそうであったように、安保理は北朝鮮の行動を抑制できてい ません。これまでの制裁も実際には多くの抜け道が指摘されています。 中国としては朝鮮半島が統一されることも、北朝鮮が崩壊することも好 ましくなく、緩衝地帯として機能している現体制が続くのが最も好都合 とされているためです。 米国は表向き韓国の朴政権への配慮として圧力をかけ続けている一 方、「平和協定の問題についての論議も水面下で始めている」米国単独での制裁強化は意味があるか では米国が単独で制裁強化に踏み切ることで、北朝鮮を抑制することはできるので しょうか。米外交誌「フォーリン・ポリシー」のある記事では、北朝鮮を国際金融システ ムから孤立させれば良い、金正恩のクレジットカードを奪ってしまえば良いという意見 も出されていました。しかしながら、これに関しても別のニューヨーク・タイムズの記事に ご挨拶 本ニューズレターも第 16 号発行と なりました。 本ニューズレターでは最近注目を集 めている「ジオエコノミクス」的観点か ら日本企業を取り巻く政治経済情 勢を分析し、皆様のビジネス上の意 思決定の一助となれればと思ってお ります。 今回は 5 度目の核実験を実施し た北朝鮮について見てみます。 株式会社藤村総合研究所 代表取締役 藤村慎也

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ジオエコノミクス・レビュー 1 巻 16 号 実践編

今号の趣旨

北朝鮮が 5 度目の核実験を実施しました。中国が無事 G20 のホストを成功させ

たように見えたその直後でした。世界は北朝鮮を止められるのでしょうか。専門家たち

の見解を見ていきたいと思います。

中国は動くのか

北朝鮮の核実験を制止するうえでカギを握るのは中国です。中国は爆発を伴う核

実験の一時停止継続を確認する国連安保理声明に賛成しました。しかし

これまでもそうであったように、安保理は北朝鮮の行動を抑制できてい

ません。これまでの制裁も実際には多くの抜け道が指摘されています。

中国としては朝鮮半島が統一されることも、北朝鮮が崩壊することも好

ましくなく、緩衝地帯として機能している現体制が続くのが最も好都合

とされているためです。

“米国は表向き韓国の朴政権への配慮として圧力をかけ続けている一

方、「平和協定の問題についての論議も水面下で始めている」”

米国単独での制裁強化は意味があるか

では米国が単独で制裁強化に踏み切ることで、北朝鮮を抑制することはできるので

しょうか。米外交誌「フォーリン・ポリシー」のある記事では、北朝鮮を国際金融システ

ムから孤立させれば良い、金正恩のクレジットカードを奪ってしまえば良いという意見

も出されていました。しかしながら、これに関しても別のニューヨーク・タイムズの記事に

ご挨拶

本ニューズレターも第 16 号発行と

なりました。

本ニューズレターでは最近注目を集

めている「ジオエコノミクス」的観点か

ら日本企業を取り巻く政治経済情

勢を分析し、皆様のビジネス上の意

思決定の一助となれればと思ってお

ります。

今回は 5 度目の核実験を実施し

た北朝鮮について見てみます。

株式会社藤村総合研究所 代表取締役

藤村慎也

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よれば、北朝鮮は中国でパートナーを見つけるか、あるいはダミー会社を作って中国

のより小さな銀行と取引することで、米国による制裁の実効性を失わせているようで

す。

クリントン氏なら対話、トランプ氏なら圧力か

では米国は今後どういう政策を取っていくのでしょうか。

実は米国は「非公式」に北朝鮮との交渉を続けているとされています。米国は表向

き韓国の朴政権への配慮として圧力をかけ続けている一方、「平和協定の問題に

ついての論議も水面下で始めている」(平井氏)との見方があります。平井

氏は「共和党のトランプ政権になればどうなるか分からないが、民主党のク

リントン政権になれば、一連の米朝非公式協議や平和協定論議の下準備は意

味を持ってくる。朴槿恵政権はあと 1 年半で終わるが、米国の次期政権はい

つまでも朴政権に付き合うわけにはいかないだろう」と述べています。

北朝鮮は「経済」と引き換えに交渉する用意があることをほのめかしている

ようです。問題はその取引が米国にどれだけの譲歩を強いることになるか、

また、米国内のタカ派を押さえることができるのか、ではないでしょうか。圧力による解決も糸口が見えていない以上、

次期大統領がどちらになろうが、抜本的な解決への道筋は見えてこないのが現状だと思われます。

参考文献

平井久志「北朝鮮の外交攻勢(下)米国が強める「圧迫」と「協議継続」」Foresight 2016 年 6 月 15 日

Jane Perlez, “Few Expect China to Punish North Korea for Latest Nuclear Test”, The New York Times, Sep

11, 2016

Joel S. Wit, “How the Next President Can Stop North Korea”, The New York Times, Sep 13, 2016

「対北朝鮮で制裁強化確認 日中外相が電話協議」 日本経済新聞 2016 年 9 月 15 日

Robert A. Manning, “The Next North Korea Debate”, Foreign Policy, Sep 15, 2016

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