ピット誤り率特性の優劣比較に使用すべき · Vol. 31 No.158 電波研究所季報...

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Vol. 31 No.158 電波研究所季報 March 1985 pp.17-26 調査・解説 ピット誤り率特性の優劣比較に使用すべき 信号対雑音電力比 笹岡秀一* (昭和59 10 16 日受理) ONTHECRITERIONOFSIGNAL-TO-NOISEPOWERRA TIO SUITABLEFOREVALUATING THEBITERRORRATEPERFORMANCE By HideichiSASAOKA Sincebiterrorrate(BER)isoneofthemostimportantfiguresofmeritin degital communica- tionsystems,superiorityorinferiorityofsystems can beestimatedbyusingthecharacteristicsof BERversussignal-to-noisepowerratio(SNR). Inordertoevaluatejustlythe merits of perfor- manceofsystems,itshouldbenoticedthatthecharacteristicsofBERvs.SNRdependonacrit- erionofSNRaboutwhichvariousdifinitionsarepossible.Thoughitisrather a common knowlege indigitalcommunicationsystemsenginering,thereareseveralpaperswhichmakeunsuitableesti- mationofsystemperformancebyusingunsuitableSNR. ThispapersurveystherelationbetweenBERandeachofvariouskindsofSNRsandcomments onacriterionofSNRsuitableforcomparingtheBERperformanceofdigitalcommunicationsys- tems. ThispaperexplainsthatthelowerbandofBERwhenoptimumfilterisusedislimitedby Eb/noandthatEb/n0isacriterionofSNRsuitableforcomparingtheBERperformance. 1. はじめに ディジタル変復調方式の性能を表す最も基本的な特性 は,加法的なガウス性雑音が存在する場合における信号 対雑音電力比(SNR )対ピット誤り率(BER )特性であ る.それゆえ,ディジタル変復調方式の性能を SNR BER特性によって評価するととが多い. また,方式諸 元が異なる各種の変復調方式に対しでも, SNR BER 特性を用いて性能の優劣比絞を行える.ととろが,信号 対雑音電力比としては,復調器の帯域ろ波器の入力点又 は出力点における平均値又はピーク値 SNRなど,各種 SNRが定義可能である.また,それらの SNRI ζする BER 特性が意味するものもそれぞれ異なる.した がって,各種のディジタル変復調方式の SNRBER 本通信機器部通信方式研究室 17 特性の優劣比較を行う場合には,不公平な評価を避ける ためどのような条件の下での比較であるかを明らかにし て,比較の尺度として適切な信号対雑音電力比を選択す る必要がある. ζれらに関して,信号対雑音電力比とピット誤り率と の関係, SNRBER特性の比較における注意点,ピ ット誤り率を直接に規定する信号対雑音電力比,ピット 誤り率の理論限界値を与える信号対雑音電力比などにつ いては,多くの教科書的な本川(2J 聞に記述されている. したがって,とれらを参考l とすれば SNRBER 特性 の優劣比較に使用すべき信号対雑音電比力は容易に決定 できる.ととろが,不注意や思い違いによって不適当な 優劣比較を行っている論文が少なからずある.例えば, 異なる SNRi ζ対する BER 特性を複数の論文から引用 して同一に比較したもの, SNRの定義の解釈を誤った SNR の測定に問題のあるもの,比較の条件に対して

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Vol. 31 No.158 電波 研究所季報 March 1985 pp.17-26

調査・解説

ピット誤り率特性の優劣比較に使用すべき

信号対雑音電力比

笹岡秀一*

(昭和59年10月16日受理)

ON THE CRITERION OF SIGNAL-TO-NOISE POWER RA TIO

SUITABLE FOR EVALUATING

THE BIT ERROR RATE PERFORMANCE

By

Hideichi SASAOKA

Since bit error rate (BER) is one of the most important figures of merit in degital communica-

tion systems, superiority or inferiority of systems can be estimated by using the characteristics of

BER versus signal-to-noise power ratio (SNR). In order to evaluate justly the merits of perfor-

mance of systems, it should be noticed that the characteristics of BER vs. SNR depend on a crit-

erion of SNR about which various difinitions are possible. Though it is rather a common knowlege

in digital communication systems enginering, there are several papers which make unsuitable esti-

mation of system performance by using unsuitable SNR.

This paper surveys the relation between BER and each of various kinds of SNRs and comments

on a criterion of SNR suitable for comparing the BER performance of digital communication sys-

tems. This paper explains that the lower band of BER when optimum filter is used is limited by

Eb/no and that Eb/n0 is a criterion of SNR suitable for comparing the BER performance.

1. はじめに

ディジタル変復調方式の性能を表す最も基本的な特性

は,加法的なガウス性雑音が存在する場合における信号

対雑音電力比(SNR)対ピット誤り率(BER)特性であ

る.それゆえ,ディジタル変復調方式の性能を SNR対

BER特性によって評価するととが多い. また,方式諸

元が異なる各種の変復調方式に対しでも, SNR対 BER

特性を用いて性能の優劣比絞を行える.ととろが,信号

対雑音電力比としては,復調器の帯域ろ波器の入力点又

は出力点における平均値又はピーク値 SNRなど,各種

の SNRが定義可能である.また,それらの SNRIζ対

する BER特性が意味するものもそれぞれ異なる.した

がって,各種のディジタル変復調方式の SNR対 BER

本通信機器部通信方式研究室

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特性の優劣比較を行う場合には,不公平な評価を避ける

ためどのような条件の下での比較であるかを明らかにし

て,比較の尺度として適切な信号対雑音電力比を選択す

る必要がある.

ζれらに関して,信号対雑音電力比とピット誤り率と

の関係, SNR対 BER特性の比較における注意点,ピ

ット誤り率を直接に規定する信号対雑音電力比,ピット

誤り率の理論限界値を与える信号対雑音電力比などにつ

いては,多くの教科書的な本川(2J聞に記述されている.

したがって,とれらを参考lとすれば SNR対 BER特性

の優劣比較に使用すべき信号対雑音電比力は容易に決定

できる.ととろが,不注意や思い違いによって不適当な

優劣比較を行っている論文が少なからずある.例えば,

異なる SNRiζ対する BER特性を複数の論文から引用

して同一に比較したもの, SNRの定義の解釈を誤った

りSNRの測定に問題のあるもの,比較の条件に対して

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適切でない SNR'.を用いたものなどがある.

そ乙で本稿では,とれらの誤りを避ける上で少しでも

参考になるように,テ’ィジタJレ変復調方式の SNR対

BER特性の優劣比較を行う場合の注意点についてまと

めた.はじめに,各種の SNRが定義できるととを示し

たあと,各種の SNRと BERとの関係及びそれらの

SNR対 BER特性の意味を検討した.特Iζ,Eb/no(ビ

ット当たりの信号電力対雑音電力密度比)の定義, Eb/

no対 BER特性の意味及び Eb/noの測定法について

は,詳しく取扱った.また, SNRと BERとの関係に

関して誤解しやすい点についても明らかにした.

2. システム・モデルと信号対雑音電力比

2. 1 システム・モデル

乙とでは,簡単化のために2進ディジタル信号の同期

検波方式について取扱う.検討の対象としたシステム・

モデルを第1図に示す.受信信号は,帯域ろ波器で雑音

稽域を制限したあと同期検波器lζ入力する.同期検波器

では,帯域ろ波器出力信号と同期検波用の基準信号とを

乗積してベースパンド信号を出力する.判定器では,標

本点におけるベースパンド信号の値をしきい値と比較す

るととによって,マーク・スペース( 1または0)の判定

を行いデータを出力する.第1図は, 2相 PSK同期検

波及びオン・オフキーイング周期検波のシステムを簡約

化して表したものである. 2値 FSK周期検波のシステ

ムは,帯域ろ波器及び同期検波器が2系統で構成される

が,等価的に第1図のシステムと見なすととができる.

本稿で対象とするシステムでは,メモリのない検波器

を用いるととを想定する.すなわち,検波後は高周波成

分を除いてベースパンド信号を取り出すだけで,ベース

パンド信号がひずむようなろ波を行わない なお,同期

検波方式は線形変換であるので,検波後i乙ろ波を行うシ

ステムは,検波前に帯域ろ波器があるシステムと等価で

ある.

図において, Sin(t)と n;n(t)は帯域ろ波器入力にお

ける信号及び雑音, s(t)と n(t)は帯域ろ波器出力(検

波器入力)における信号及び雑音, Sd(t)とnd(t)は検

波器出力(判定器入力)における信号及び雑音である.

帯域ろj皮器入カ 検i皮器入力

電 波 研 究 所 季 報

n印(t)はガウス性雑音と仮定する.とのとき, n(t)及

び陶(t)もガウス性雑音となる.

2.2 各種の信号対雑音電力比

第1図のシステム・モデルに対して,各部における平

均値 SNR及びピーク SNR (または標本点 SNR)は

第1表のように定義できる.CNR及び rinは,帯域ろ

波器入力における平均値 SNR及びピーク SNRであ

る.乙こで, Uin(t)及び p;n(t)は,それぞれ S帥(t)及

び n印(t)の包絡線, tpは Uin(t)が最大となる時刻で

ある.なお, CNRは,搬送波対雑音電力比と呼ばれて

いる.SNRr及びTは,検波器入力における平均値SNR

及びピーク SNRである.ことで, u(t)及び p(t)は,

それぞれs(t)及びn(t)の包絡線,品はTが最大となる

時刻である.SNRb, rb及び r.は,判定器入力におけ

るベースパンドでの平均値 SNR,ピーク SNR及び標

本点 SNRである.ことで, deはSd(t)の直流(DC)成

分, tsは判定器での標本の時刻, aは判定のしきい値で

ある.しきい値の設定は,オン・オフキーイング周期検

波の場合に特に重要であり,マークとスペースによらず

Sbが同ーとなるように行われる.なお, SNRbは Sd(f)

の DC成分の取扱いによって第1表に示すように 2通

りに定義できる.

以上のように定義された各種の SNRは,お互に無関

係ではなく,帯域ろ波器の特性及び検波方式とその特性

等lζ依存している.すなわち, CNRとSNRrとの関係

は,帯域ろ波器の鮒生IC依存する.SNRrとSNRbとの

関係は,検波方式や基準信号の位相の調書き精度lζ依存す

る.また, rinとTとは,帯域ろ波器で生じる波形ひず

みが大きくなると,ほぼ無関係となり,ピーク点、も異な

る乙とが多い. rと rbとの関係は,検波方式や基準信

号の位相の調整精度に依存する.しかし,位相調整が最

適の場合には, Tと rbとが, 3.2で示すように密接な

関係にある.rsは標本点を最適に設定した場合ICrbと

なる.次lζ,平均値SNRとピーク SNRとの関係は,

帯域ろ波器の特性及び変調信号の形状に複雑に依存し,

一般に簡単な関係式で表せないととが多い.

本稿では,ピーク(または標本点) SNRを,ビット

周期で繰返す多数のピークまたは標本点における信号電

判定器入力

基準信号 標本化パルス

第1図 同期検波方式を用いた2進テ’ィジタJレ復調器の構成

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Vol. 31 No.158 March 1985 19

第1表各種の信号対雑音電力比

平均値 SNR ピーク SNRまたは標本点SNR

帯域ろ波器入力

CNR=C/N

- 1 fT 1 一一一I-Utn(t) 2dt T Jo 2

- 1 p 1 --I -Ptn(t)2 dt T Jo 2

周期検波器入力

(帯域3波器出力)

ゐL

L

d

-U

2

2

u

p

l

一21

一2

a

n

u

m

A

A

U

NPjrJ

U山

1一T1

一T

一一一一一一

f

r

r

m

s

N

S

rin=S1n/N1n

Stn=す納得ω

Nin=÷扇孟)2

r=S1/N1

&=すu(t,.)2

め=÷雨E

SNRb=Sb/Nb

Sb=÷J:s•(が dt判定器入力

(周期検波器出力)まTこは,

Sb=τ~ J:<s•(の-dc)2 dt

Nb=τ~f;刷(の2 dt

r b=Sb(t,.)/ Nb(t,.)

r,=Sb(t,)/ Nb(t,)

Sb(t) = (s•(の -a)2

Nb(の=助(t)2

注) Tは平均電力を求めるために必要な十分に長い時間,一てーは集合平均の窓味

カと平均雑音電力の比で定義した.乙の定義では,各標

本点(あるいはピーク点)における信号電力はすべて等

しいことを前提としている.ととろが,笑際のシステム

では,符号間干渉のためピークまたは標本点での信号電

力が標本点(またはピーク点)ごとに異なる.このよう

に信号電力が変化するために SNRが変化する場合の取

扱いについては,本稿の範囲外とする.なお,符号間干

渉を雑音と見なせる場合には,信号電力を一定値と仮定

しでもよいので,本稿の定義が有効である.ただし,と

の場合には,雑音がガウス性雑音と符号間干渉による雑

音の和となるので,注意を要する.

各種の SNRの測定については,平均値 SNR の測

定が比較的容易である.平均値 SNR は,信号電力及

び雑音電力を電力計で測定するととにより求められる.

ととろが,ピーク(または標本点) SNRを求めるには,

オシロスコープ等を用いてピーク(または標本点)での

信号電力を測定し,一方,時間平均と集合平均が等しい

ととを仮定して雑音電力の平均値を電力計等で測定する

必要がある.さらに,符号間干渉により信号電力の変動

がある場合には,ピーク(または標本点) SNRの測定

がかなり困難となる.

3. ピット誤り率を決定する信号対雑音電力比

3. 1 判定器入カでの標本点SNRとビ・7ト誤り率

判定器入力での信号は,データのマーク及びスペース

に対応して複極性信号あるいはオン・オフ信号となる.

一方,判定器入力での雑音はガウス性である.との場合

lζ,ピット誤り率はパルス標本と rms雑音の比のみに

関連する山.との比は,判定器入力での標本点 SNR

(rs)を用いて、Jr.と表される.符号間干渉や判定し

きい値不良等がなく, r.が一定値とすると,ピット誤

り率 Peは,

Pe=-!-e巾ム ……(1) ~ y 2

と表される.r. iζ対するピット誤り率の理論値は,付

録IIC示すように変調方式(例えば, 2相 PSK, 2値

FSK,オン・オフキーイング,ベースパンド伝送等)に

よる差異はないm.

とのようにピット誤り率は標本点 SNRにより決定で

きるが,標反転点 SNRは標本点の設定に依存して変化す

るので,比較の尺度として適当なものでない.そとで,

標本点を最適に設定した場合の SNR,すなわちピーク

SNRを比較の尺度とする方が適当である. ζのピーク

SNR対 BER特性は,判定器の性能にのみ依存する.

それゆえ, rb対 BER特性の理論値iζ対する測定値の

劣化iζは,判定しきい値の設定不良,標本点の設定不良

等による劣化が含まれる.なお,判定しきい値の設定不

良があると, 7 ーク及びスペースに対する誤り率が異な

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り,理論値より一方は小さく,もう一方は大きくなる.

しかし,両者の平均誤り率は理論値より大きくなる.

rbを直接に測定することは難しい. しかし, h は種

々の方法で,別の信号電力と雑音電力の比を用いて表す

乙とができる川.

3.2 検波器入力及び出力でのピーク SNRの関係

判定器入力におけるピーク SNR(rゆと検波器入力に

おけるピーク SNR(r〕とは,密接な関係にある.基準

信号の位相調整が十分である場合には,その関係が各変

復調方式に対して一意的に求められる.乙のととが成立

つのは,検波後にろ波を行わない場合である.乙の場合

には,新たに波形ひずみが発生せず,従ってピークが具

なるとともない.基準信号の位相が最適である場合に,

2相 PSK, 2値 FSK及びオン・オフキーイングの同

期検波に対して, rbとTとの関係は,付録Ilζ示すよ

う』ζ

rb=2r ; PSK周期検波の場合 ¥

rb= r ; FSK同期検波の場合 | 1 …(2)

rb=tr ;オン・オフキーイング{

同期検波の場合 ! となる(2).なお, Tは文献〔2〕で標本時点における帯域

ろ波器出力の SN比として使用されている Tと同じもの

である.r.対 BER特性は,(1)式に示すように変復調

方式によらず同一であるが, T対 BER特性を求める

と,変復調方式とその特性に依存するビット誤り率の相

違が明らかとなる.

(2)式は基準信号の位相が最適の場合の式である.最適

な位相からの偏差を dゆとすると, 2相 PSK同期検波

の場合に

rb =2r cos2 (LIゆ) ・・・・(3)

と表される.他の変復調方式の場合も同様な関係とな

る. r対 BER特性は,検波器及び判定器の性能に依存

する.それゆえ, T対 BER特性の理論値lζ対する測定

値の劣化には,判定器での劣化以外に周期検波用基準信

号の位相オフセット及びジッタに起因する信号電力の減

少による劣化などが含まれる.

4. 理論限界値を与える信号対雑音電力比

4. 1 検波器入力での標本点 SNRの最大値

ビット誤り率は帯域ろ波器出力におけるピーク SNR

( r)に依存するが,伝送路の状態は Tよりむしろ帯域

ろ波器入力における信号対雑音電力比(CNR)でより

よく表される.そ乙で,ことでは CNRを同ーの条件

(乙乙で雑音電力は一定帯域幅内の雑音電力を用いる)

の下での比較について考える. ζのときに,ピット誤り

率の最小値(理論限界値)がどのように信号対雑音電力

電波研究所季報

比と関係するかが重要となる.ビット誤り率の理論限界

値は,帯域ろ波器の特性を Tが最大となるという意味で

最適にした場合(整合ろ波器を用いた場合)のTに対し

て求められる.そ乙で以下では, Tの最大値と CNRと

の関係を検討する.

付録Elζ示すように, O<t <Tで包絡線が、/2Cと

なる矩形の信号パルス注l)を用いた場合に, Tの最大値

T抗日は,

r E CT_C 一一明日-n;;--n;;--瓦E ・・・(4)

となる 121. ここで, noは雑音電力密度(片側雑音電力

密度), Rは変調速度(記号伝記塞度) Tはデータ間隔,

Cは信号電力(搬送波電力)である.また, Eは受信さ

れた IF帯域での信号パルス Re(Qin(t)ei2πf ct}の全エ

ネJレギーで,

E=すj二|の刷協 ・..(5)

と表される.ここで, q川(t)は信号パルスの複素包絡線

である.一方,準最適ろ波の場合IC, rは最適でないた

めの劣化係数Fを用いて

r = f3右 俗)と表される.本稿が対象とした2進ディジタル信号の合

場ICは, Rはデータ信号速度(ビット伝送速度)と等し

くなり, EはIF帯での信号パルス( 1ビット分)の全エ

ネルギーであり,ピット当たりの信号電力 Ebとなる.

Eb/no対 BER特性は,帯域ろ波器,検波器及び判定

器を含む復調器全体の性能IC依存している.それゆえ,

Eb/no対 BER特性の理論値lζ対する測定値の劣化に

は,判定器及び検波器での劣化以外iζ,帯域ろ波器が最

適でないための劣化が含まれる.

4.2 送信パルス波形変形の影響

3. 1では,受信される信号パルスが矩形の場合を取扱

った.ととろが,送信側及び伝送路で帯域制限があると,

変調器出力における信号ノマJレスが矩形であっても,受信

される信号ノマJレスは矩形でなくなる.乙の場合でも,帯

域ろ波器入力における信号電力をCとすると,付録皿lと

示すように,

r -E - g ηiax-ーーー一一一ーーーー一--= ・・・(7)

n0 n0 K

と表される.乙のζとは,整合ろ波器を用いて最適受信

を行う場合lζ,ビット誤り率が信号のエネルギーに依存

し,信号の波形に依存するのではないととを示してい

る13).とのように,受信される信号ノ{)レスが矩形でな

注1) ディジタル通信方式において,ある 1つの符号情報を伝送するのに用いるバノレス状の有限時間長の信号i波形

を,信号ノれレス(または情報パノレス〉と呼ぶ.

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Vol. 31 No.158 March 1985

く,受信信号の包絡線が変動する場合でも, Eb/noは性

能比較のための有益な尺度である.ただし, Eb/noは受

信信号のピーク値に対する制限等がなく,受信信号の電

力一定の条件の下での比較を行う場合に適した尺度であ

る.

一方,受信信号の包絡線のピーク値が同ーの条件の下

で性能比較を行う場合には, Eb/noより別の尺度の方が

有効である.定包絡線信号の電力をξとすると,振幅は

、弓でとなるが,との振幅と包絡線のピークが同ーとな

る信号の電力をCとすると, lp=C!Cで定義されるら

は帯域制限による電力損失と関係した量となる.ここ

で,信号対雑音電力比として, C/(n0R)を用いると,

C = E Tmax

n0 R lp n0 lp ・・・(8)

となる.(7)式で, lpは信号パルスが矩形の場合に 1と

なり, Cは無変調の場合の電力IC等しい.

ε/(担。R)対 BER特性は,送信側の出力電力のピー

ク値の制限と復調器の性能とに依存している.それゆ

え, c/(刃oR)対 BER特性の理論限界値に対する測定

値の劣化には,復調器による劣化以外に,信号パルスの

エネルギーが矩形の場合に比べて減少しているための劣

化分が含まれる.

4.3 信号対雑音電力比の測定法

検波器入力におけるピーク SNR(r)を直接測定する

ととは容易でないが, rの最大値 Tmaxは C/(n0R)と

関係づけられるので比較的容易に測定できる.c及び

noは帯域ろ波器入力において測定可能なものである.

C/noの測定法としては次のようなものが考えられる.

(1)信号オン・オフ法

信号が損失なく通過する等価雑音帯域幅(W)の既知な

帯域ろ波器を用い,信号オン時に信号と雑音との全電力

P,を測定し,信号オフ時に雑音のみの電力 P2を測定

する.P1及び P2は,それぞれ, P1=C+n0W及び

九=noWと表されるので, C/noは

C ー (P1-P2)Wno P2

・・・(9)

より求められる.

(2)無変調波法

無変調搬送波を用い,スベクトJレ分析器でCと noを

それぞれ測定する.別にらを測定等により求めておい

て, Clno=Clp/舟oより C/noを求める.

上記の2種類の測定法には,それぞれ長所と短所があ

るので,場合lと応じて使い分けるとよい.測定器として

スペクトル分析器を使用できる場合には,(2)の測定法が

容易である.

21

5. 各種の SNRとピット誤り率との関係

第2図に各種の SNR聞の関係及び各種の SNRとビ

ット誤り率との関係、を示す.ピット誤り率を直接に決定

する SNRは,判定器入力における標本点 SNR(Ts)で

あり, BERは(1)式で表される.標本点を最適に設定し

た場合のれが Tbであり, Tbと検波器入力におけるピ

ーク SNR(r)とは,(2)式に示すように比例関係にあ

る.またr対 BER特性は変復調方式i乙依存する. E!no

は Cl(noR)と等しく,最適ろ波器を用いた場合の T

は, Tの上限値 Tmaxと等しくなる.E/n。対 BER特

性は,帯域ろ波器の特性lζ依存し,最適ろ波器を用いた

場合iζ理論限界値が得られる.

ディジタル変復調方式のピット誤り率特性の比較は,

Tb, r及び E/n。等の SNRを用いて行うことができ

る.しかし,その意味する内容はそれぞれ異なる.すな

わち Tb対 BER特性は,判定器の性能評価に使用でき

る. r対 BER特性は,検波器及び判定器の性能評価

に使用でき, E/n。対 BER特性は,帯域ろ波器が最適

でないための劣化も含めた復調器全体の性能評価lと使用

できる.

搬送波電力対雑音電力密度比(C/no)は,他の SNR

よりも伝送路の特性をより良く表しており, E/n0及び

CNRとも密接に関係している.C/noは BER特性の

比較のために有益な尺度である.C/no対 SNR特性

は,同ーの伝送路条件の下での復調器全体の性能評価に

使用できる.検波器入力及び判定器入力における平均値

SNR(SNRr及び SNRb)は, T及び Tbと一定の関係

になく, BERとも密接に関係していない.また,椿域

ろ波器入力におけるピーク SNR(Tin)も, T及び Tb

と一定の関係になく, BERとも密接に関係していない,

したがって, SNRr対 BER特性, SNRb対 BER特性

及び riπ 対 BER特性は,各種のディジタル変復調方

式のビット誤り率特性の相互比較を行うのに適していな

い.しかし,乙のととは,特定の方式諸元の伝送システ

ムに対して,変復調器の性能訓面のためにζれらの特性

を使用するととが不適当である乙とを意味するものでは

ない.それぞれのシステムに対して各種の SNR聞の関

係(比例係数)を理論または測定により求めておけば,

必要に応じて E/no対 BER特性等への換算が行える.

次に, SNR及びピット誤り率lζ関して誤解しやすい

点を示す.

(注意点1) E/noは帯域ろ波器出力におけるピーク

SNRの上限 er畑山)を与えるものである.そのため,

帯域ろ波器出力における SNRであると誤解しやすい.

Eは帯域ろ波器入力におけるシンボル(記号)あたりの信

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22 電波研究所季報

SNR1 =~1 CNR SN Rb=αSNR1

手=rmaよ Y畠' 0

Yb=αy

吋 erfc/f(吋平均 SNR関係の記号CNR:帯域ろ波器入力での平均 SNR(搬送波対雑音電力比), SNRr:検波器入力(帯域ろ波器出力)での平均SNRSNRb :判定~入力(検波器出力)での平均 SNR, C/no:搬送波電力対雑音電力密度比

E/no:帯域ろ波探入力での信号ノマノレス l個の全エネノレギ一対雑音電力密度比

(b) ピーク及び標本点 SNR関係の記号

r,. :帯域ろ波器入力でのピーク SNR,r:検波lfil入カ(帯域ろ波lfil出力)でのピーク SNRrb:判定器入力(検波器出力)でのピーク SNR,r,:判定器での標本点 SNR

(c)相互関係を示す線の意味2重実線:一意的に定まる街接な関係,実線+破線:理怨的な場合には一意的IC定まる密接な関係

実線:かなり密接な関係(比例関係や上限を与える関係など),破線:関係はあるがシステムIC依存して変化す

る関係(d) その他の記号

R:記号伝送速度(2進の場合はピット伝送速皮), w:帯域ろ波器入力雑音の等価雑音帯域幅

B:帯域ろ波器の等価雑音帯域幅, l:帯域ろ波器による信号電力損失, α:検波による SNR改善係数

第2図各種の信号対雑音電力比とピット誤り率との関係

号電力 CTIζ等しいが,検波器入力におけるシンボル当

たりの信号電力 SrT lζ等しいとは限らないζとに注意

すべきである.

(注意点2) 帯域ろ波器入力において信号に包絡線変

動がある場合1C,そのピーク値における SNRとろ波後

のピーク SNRとは,必ずしも一定の関係にない.ろ波

後のピーク SNRはむしろ E/noIC関係しており,最適

ろ波器を用いた場合には, E/n0と等しくなる.

6. システム・モデルの範囲外への拡張

乙乙では,本稿で前提としたシステム・モデルとは異

なるシステムに対して,本稿での議論が適用可能かどう

かを検討する.

検波前に十分にろ波を行う帯域ろ波器がなく,検波後

iζ低域ろ波器でろ波を行うような変復調方式は,本稿で

の検討の範囲外であった.しかし,とのようなシステム

も等価変換すれば,仮想的に第1図のシステム・モデル

となるので,本稿の議論が適用可能となる.ただし,と

の場合に rゃ SNRrは仮想的な意味しか持たなくなる

ので,注意を要する.しかし, E/noは実質的な意味を

持っており, aE/n0が Tbの上限値を与える.

本稿では,帯域ろ波器入力における雑音電力密度 N

(f)が,一定値 n。となることを前提とした. しかし,

実際のシステムでは,復調器より前段にある増幅器等の

利得・周波数特性や雑音スペクトル特性が平坦にならな

い場合など, no が一定との前提が成立しない乙とも多

い.乙のような場合には, no が求まらないので, El目。

の定義があいまいとなる.しかし,搬送波の中心周波数

での雑音電力密度,あるいはある帯域内(例えば帯域幅

R の帯域内)での平均の雑音電力密度をおとして,

E/ii0を求める ζとができる.この El員。も BER特性

の詞:佃のために有益な尺度であるが, El品。は Tの最大

値としての意味を持たない.しかし, N(f)が一定値

noと見なせる所に測定点、を変更して C及び noを測定

できれば, E!no=C!(n0R)を用いて, 正確な E/noが

求められる.

本稿では, 2進ディジタル伝送の場合を検討した. 4

進, 8進となっても, E/no対 BER特性は性能訓面の

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Vol. 31 No.158 March 1985

ための重要な特性であるととに変わりがない.しかし,

E/n0は,同一 C/no と同ーの記号伝送速度の条件の下

での性能比較に適した尺度である.それに対して,同ー

の C/no同ーのビットと伝通墓度の条件下での性能比較

のためには, Eb/noの方が尺度として適している.乙こ

で, Ebは Elmで表され, mは1ジンボJレmビットを

意味する.乙の場合には, Eb/no=rとはならず, Eb/

no= r Imとなる.

また本稿では,同期検波方式の場合について検討した

が,非同期検波では一般に非線形な検波となるので,本

稿の議論が適用できないところが多い.すなわち非同期

検波の場合には,検波器出力での雑音がガウス性となら

ない.また,判定器入力におけるピーク SNRと E/no

とが比例関係にない.乙のため,ビット誤り率の理論特

性は変復調方式及び諸元に依存し,同期検波方式のよう

に判定器入力における標本点 SNRi乙対して一意的に決

まらない.さらに,ビット誤り率の理論限界値が,同期

検波方式の場合のように E/noのみに依存する乙ともな

い.それゆえ,非同期検波方式に対しては,ビット誤り

率特性の優劣比較の尺度として E/noが適切とは言え

ず,むしろ同一伝送路条件の下での比較という観点から

C/noを用いる方が適当である.しかし,同一の記号伝

送速度で比較を行う限りは, C/noと E/noとが比例関

係にあるので,便宜上 E/n0を用いても支障がない.

7. まとめ

各種のディジタル変復調方式のビット誤り率特性の優

劣比較において,どのような信号対雑音電力比を用いる

のが妥当かについて調査を行い,誤解し易い点について

解説を行った.結論として,ピット誤り率特性の優劣比

較の尺度としては,従来からよく用いられている Eb/no

を使用することが望ましいこと, Eb/noを求めるにはC

及び noを測定するのがよいととを明らかにした.ま

た,各種の信号対雑音電力比の聞の関係やSNR対BER

特性の意味についても明らかにした.

本稿は「解説Jであるので,誤った知識・情報を読者

に伝えないために,誤った説明や分かりづらい説明がな

いように心掛けた積りであるが,著者の力不足から不十

分なととろも多いと恩われる.不十分な点については,

読者の御指摘,御意見及び御助言に期待し,内容の見直

し及び補足については今後の課題としたい.

おわりに,御検討・御助言を頂いた通信方式研究室横

山室長をはじめ研究室の各位に感謝します.

23

付録I 検波器入力及び判定器入力の

ピーク SNR

rbと Tとの関係は,変復調方式lζ依存する.また,

同期信号の位相設定が不完全な場合i乙,その関係は位相

誤差にも依存する.乙乙では,位相誤差の影響について

簡単に取扱ったあとで, 2相 PSK, 2値 FSK,オン・

オフ同期検波方式に対して, rbと Tとの関係を求め

る.

(1) 同期信号の位相誤差の影響

第1図の検波器入力での信号 s(t)が,複素包絡線

u(t)と複素搬送波 ei2πfctを用いて,

s(t) =Re(u(t)ej2r.f ct} (I 1)

と表されるとする.次l乙,周期検波用の基準信号が,

2 cos(2πfct+引で与えられると,判定器入力での信号

Sd(f)は,

Sd(t)=Ra(u(t)e-N) (I-2)

と表される.次に, ピーク点 tmにおける u(t)の偏角

をゆ協とすると, u(恥)=u(tm)ei仰であるので,

Sd(tm) =u(tm)cos(秒間-tp) (I-3)

と表される.sa(tm) は基準信号の位相併に依存し,

<P=<Pmまたはゆ=<Pm+π の場合lζ !sd(t抗)|が最大

となる.

基準信号の位相殺は,通常 Jsd(t隅)Iが最大となる

ようにゆ=併協に設定される.位相設定が完全な場合

に, Sd(f郁)=u(t間)となる.一方,位相設定が完全でな

く,位相誤差 iltpがある場合には, Sd(f郁)=u(tm)COS

(flゆ)と表される.乙のとき,信号電力 Sb(tm)はcos2

(iltp)に比例し,一方,雑音電力 Nbは iltp!ζは依存し

ないので, h は cos2(fl引に比例する.その結果, rbとTとの関係も cos2(iltp)に依存する.

各変復調方式に対する rbとTとの関係の比較では,

最適な設定での rbとTとの関係が重要であるので,以

下では位相設定が完全な場合を取扱い,簡単のため併協

=ゆ=Oと仮定する.

(2) 2相 PSK同期検波方式

PSK 周期検波方式のシステム・モテ‘ルを第3図lζ示

す.図において検波器に含まれる低域ろ波器は,高周波

成分を取り除くためのもので,帯域制限を行うものでは

ない.検波器入力での信号 s(t)及び雑音叫t)は,ピ

ーク点において,

s(tm)ニu(tm)cos(2πfctm)

n(tm)ニ x(tm)cos(2πfct抗) 、‘,,,aaz Ti

〆6

、EEEa

目、,EEEEEJ-y(tm)sin(2ir fctm)

と表される.乙乙で,ヱ(t)及び y(t)はピーク点、での信

号と同相及び直交の雑音である.一方,判定器入力での

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24 電波研究所季報

基準信号 標本化パルス

COS (2nfct)

第3図 2相 PSK同期検波方式のシステムモデJレ

信号 Sd(f)及び雑音 na(t)は,ピーク点において

Sd(fm) =U(fm) 1 } (I-5)

nd(fm) =x(tm) J

と表される.従って, rb及び Tは,

rb=Sd(tm)2/右京高戸=u(t明)2/N1 (I-6)

r =s(恥)怖予す仇)2JN1 (I一7)

と求められる.ここで,帯域ろ波器出力での雑音電力の

ピーク点での値 N1は,雑音の包絡線 p(t)または信号

と同相の雑音成分 x(t)を用いて,め寸前予=

王び;)2と表される.以上の結果から, 2値 PSK方式

の場合には, rb=2rとなる.また,ピット誤り率 Pe

は,

かすe叫子=ferfc.Vr cr-s)

となる.

(3) 2値 FSK同期検波方式

FSK周期検波方式のシステム・モデル図を第 4図iζ

示す.第4図は, 2系統の出力の最大値判定を,減算と

極性判定で実現するモデルである.図で信号が含まれて

いる周波数万i側の系統において,帯域ろ波器出力にお

けるピーク SNRは, 7となる. 一方,極性判定器入

力での信号 Sd(f)及び雑音 nd(t)は,ピーク点におい

基準信号2cos(2πf ,t)

てSd(f明)=u(tm) 1

} (I-6) nd(f抗)=x1 (tm)-x2(fm) J

と表される.乙こで, X1(f)及び X2(f)は基準信号1及

び2と同相成分である.X1(f)と X2(t)とは異なる帯域

の雑音であるのでお互いに独立となる. na(tm)の平均

電力は,

元事可・=Xiet可2+五百可2=2N.r ( I-10)

となる. 2値 FSK同期検波方式を用いた場合に, hは

rb=u2(tm)/(2N1) (I-11)

となる.以上の結果から, rb=rとなる.また,ビット

誤り率 Peは,

Pe=-!-erfc Ji_=4-e此 J--1ー (I-12);::: • 2 孟’ 2

となる.

(4) オン・オフキーイング同期検波方式

オン・オフキーイング周期検波方式のシステム・モデ

ルを第5図lζ示す.データのマーク及びスペースに対し

て信号をオン及びオフすると,検波器入力での信号s(t)

は,ピーク点において

s(tm) =u(t冊)cos(2πJct) 1 :マークのとき ~ (I 13)

s(t隅)=0 :スペースのとき )

第4図 2値 FSK同期検波方式のシステムモデル

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Vol. 31 No.158 March 1985 25

s.(t) +n.(t)

基準信号 判定しきい値様本化パルスcos (211fct)

第5図 オン・オフキーイング周期検波方式のシステムモデル

となる.極性判定器入力での信号 Sd(t)は,判定器の判

定しきい値aを a =u(tm)/2とすると,ピーク点にお

いて,

Sd(t抗 )=u(t心/2 :マークのとき

Sd(tm) = -u(tm) /2 、‘,Ja4・

E4

7i

r

,‘、

、Illi--,:スペースのとき

となる.一方,雑音 nd(t)はピーク点において, nd

(tm) =x(向)となる.オン・オフキーイングを用いた場

合に Tbは,

Tb=Sd(tm)2/五百t;;J2=u(t隅)2/(4N1) (I-15)

と表される.一方,検波器入力でのピーク SNRは,マ

ークの場合に Tと等しくなる.以上の結果,オン・オフ

キーイング方式の場合に Tb-T/2となる. また, ビッ

ト誤り率九は,

九=←叫子=←刈.£/--) (I-16)

と表される.

付録E 検波器入力におけるピーク SNR

の最大値(2)

検波器入力におけるピーク SNRは,帯域ろ波器の綴

幅・周波数特性及び遅延・周波数特性に関係している.

乙乙では,最適な帯域ろ波器を用いた場合l乙得られる rの最大値を求める.

帯域ろ波器入力での信号 S叩 (t)をデータと信号パル

スを用いて,

00 Sin(t) L: bnRe (q叫(t・ nTs)ei2'τfc1) (Il-1)

n=一。。

と表す.乙こで, bnはデータの7 ークとスペースに対

してlとー1の値を取る.qin(t)は,都域ろ波器入力で

の信号ノ'I}レスの複素包絡線である. Tsは標本間隔であ

り,標本点は nTsIC設定されるとする.次lζ,帯域ろ

波器出力での信号 s(t)を,

。。s(t) = L: bnRe (q(t)eJ2πf ct)

n~ ー。。

(Il-2)

と表す.乙乙で, q(t)は帯域ろ波器出力での信号パルス

の複素包絡線である.得域ろ波器の等価低域系でのイン

パルス応答を h(t),周波数応答を H(f)とすると,

q(t) = J:00qin(i-)h(fーで〕dτ

=J二QinCf)H(f)ei叩 df (II-3)

と表される.ととで, Q加 Cf)は qin(f) の周波数スペ

クトルである.

標本時点 t=Tsにおいて帯域ろ波器出力信号の SNR

が最大となるのは,周波数応答 H(f)が

Qin (j) -i2 fT H(f) =K一一一-e πf'l' No Cf)

(II-4)

となる場合である.乙こで, *印は複索共役であり, K

は比例係数であり, NoCf)は n(t)の等価低域系での

電力スペクトルである.乙の場合ICTの上限値は,

r 孟l.\""旦~斗2dfJー00 NoCf)

(II-5)

となる.特に,雑音の電力スペクトル密度が平坦な場合

には, NoCf)=noとなるので,

r豆去(-H二IQ印(川 (II-6)

と表される. (II-6)式において括弧内は帯域信号ノf

ルス(搬送波に乗った信号パルス)の全エネルギーEIC

相当し,

E=tJ二IQin Cf) Iばfすj二Iqin <t> 1 'dt

(II-7)

と表される.以上の結果から,実現し得る最大の SNR

は,

f E no

(II-8)

と求められる.なお, SNRを最大とする等価低域系で

のインパルス応答 h(t)は,

h(t) =q何キ(Ts-t) (II 9)

で与えられる.

整合ろ波器が回路で簡単に実現できる場合は,信号パ

ルスの包絡線が矩形の場合である.搬送波の電力がCで

あるときに, qiη(t)を

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26

(? : O< t <T

:他の期間

とし,標本時点をも=T Iζ選ぶと,

f A : O< t <T, A=一定h(t) =~

(II-10)

l 0 :他の期間 (Il-11)

となるろ波器は,時定数Tをもっ理想、的な積分ろ波器と

なる.との理想積分ろ波器は,孤立した単一パルスの場

合に最適であるが,パルス列に対しては符号間干渉が生

じる欠点がある.そこで,積分一放電ろ波器を用いると

T(t) =Ct/n0, となるが,標本時点では

T CT - 勿1αx-ーーー一一一no

(II-12)

となる.以上の結果から,

T E CT ~ mαx=←一一=一一ー=一一一n0 n0 n0K

(II-13)

と表される.乙乙で, Rは変調速度(記号伝送速度)であ

り, 2進ディジタル伝送の場合にはデータ信号速度(ビ

ット伝送速度)となる. (II-13)式は, Tmaxが帯域ろ

波器入力で測定可能な値である C及び noを用いて求

められる乙とを示している.

次に,準最適ろ波の場合にrは,

T CT l !~h(Tー材\2=-

no T!二Ih(t) 12at (II-14)

で表される と乙で, ,8=l !~h(Tー材12 /T !二lh

(t) I 2dtは, 帯域ろ波器が最適でないために生じる Tの

劣化を意味する.

付録E 受信号パルスが矩形でない場合

の rmax

送信側で変調信号が帯域制限され,受信された信号パ

電波研究所季報

Jレスが矩形でない場合には,整合ろ波器を簡単iと実現で

きない.しかし,整合ろ波器を使用したとすれば,信号

パルスが矩形の場合と同様に T抗日=E/no となる.信

号パルスの全エネルギーEと帯域ろ波器入力での信号電

力の平均値Cとの関係は,

C=SinW=limτι京 lNT Sin(t)ψ N『 田 2NTJ-NT

1 f' NT 1 00

=ーニ- nm 1 ーニー 〉;2T N→co J-NT 2N n,;三∞

lq何 (t-nT)l2dt

=_L¥・co lqin(t) l2dt=l 2T Jー∞

(][-1)

であるので, E=CTとなる.よって,

T E ~ 明 αs一一ー一一一一 一n0 n0K

(][-2)

と表される.以上の結果は,帯域ろ波器入力での信号電

力の平均値がCであれば,入力信号の包絡線が一定かあ

るいは変動するかにかかわらず, T明日は同じであるこ

とを意味している.

参考文献

(1) Bennet, W.R. and Davey, J. R., データ伝送,

甘利省吾監訳, ラティス刊,昭和48年.

(2) Stein, S. and Jones, Jふ,現代の通信回線理論,

関英男監訳,森北出版,昭和45年.

(3) Taub, H. and Schilling, D.L., Principles of

Communication Systems, chap. II, McGraw-Hill,

1971.

111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 I I