一番うまくて、まずいもの - 離島の健康と...
Transcript of 一番うまくて、まずいもの - 離島の健康と...
【現病歴】 老人ホームに入所中の患者。 骨粗鬆症、逆流性食道炎、両側膝変形性膝関節症で他院外来通院中。 来院1週間前より、起居動作が困難に感じる程の全身倦怠感、日中の眠気を自覚していた。食欲もなかったが、無理して食事を摂っていた。 来院前日に、症状持続するため他院を受診し、採血が施行された。Na119mEq/lと低値を認めたため、当院外来を紹介受診した。
【症例】 83歳、女性 【主訴】 全身倦怠感、食欲低下、眠気、両膝痛
【既往歴】 ・両側変形性膝関節症 ・骨粗鬆症 ・逆流性食道炎 ・低Na血症 (詳細不明。1年前に他院に入院。 その際よりPSL 2.5mg/day内服処方された)。
【内服歴】 アルダクトン (25mg) 1錠分1 ロキソプロフェンNa (60mg) 2錠分2 ゲファニール (50mg) 2Cp分2 ランソラール (15mg) 1Cp分1 デパス (0.5mg) 1T分1 フォサマック (35mg) / week プレドニン2.5mg/day(一ヶ月前から隔日投与。 来院1週間前から中止)
身体所見
意識:清明 BP:124/79mmHg HR:90/分、整 RR:16回/分 SpO2 98%(室内気) BT:36.9℃ 眼瞼結膜:貧血なし 眼球結膜:黄疸なし 咽頭発赤なし 口腔内は湿潤 外頚静脈怒張なし 甲状腺腫大なし 心音:S1→S2→S3(-)→S4(-) 心雑音なし 肺音:清 雑音なし 腹部:平坦・軟 圧痛なし 肝・脾腫大なし 四肢:浮腫なし 皮膚:やや乾燥 関節:両側膝関節で腫脹・発赤・疼痛(+)
来院時検査所見 白血球
赤血球
Hb
MCV
血小板
7300 /μ L
389万 /μ L
11.2 g/dl
81.0 fl
36.9万 /μ L
AST
ALT
ALP
LDH
γ -GTP
T-Bil
CK
TP
Alb
Na
K
Cl
BUN
Cre
血糖
21 IU/L
18 IU/L
469 IU/L
200 IU/L
51 IU/L
0.6 mg/dl
32 IU/L
6.9 g/dl
3.6 g/dl
116 meq/L
4.8 meq/L
80 meq/L
13.2 mg/dl
0.30 mg/dl
96 mg/dl
AMY
CRP
51 IU/L
12.96 mg/dl
尿定性
比重
蛋白
潜血
糖定性
ケトン体
尿沈渣
赤血球
白血球
1.023
- - - -
1-3/HF 1-3/HF
静脈血液ガス
pH pCO2 HCO3- BE
7.46 37 mmHg 25.9 mmol/l 2.4 mmol/l
Problem List # 全身倦怠感
# 食欲低下
# 日中の眠気
# 両膝関節痛
# 低Na血症
# 両側変形性膝関節症
# 骨粗鬆症
# 逆流性食道炎
What will you do next?
What’s your diagnosis?
低Na血症の鑑別 Na135mEq/L未満
血清浸透圧 高値
290mOsm/L
以上
高浸透圧性低Na血症
正常
270-290mOsm/L 偽性低Na血症
高血糖、マンニトール投与
高脂血症、高タンパク血症 低値
270Osm/L未満
細胞外液量 増加
正常
ECFの増加を伴う低Na血症
心不全、肝硬変、ネフローゼ血症
ECFの変化しない低Na血症
SIADH、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症、心因性多飲
低下 ECFの減少を伴う低Na血症
尿Na排泄量
<20mEq/L
>20mEq/L
腎外性
腎性
嘔吐、下痢、熱傷、急性膵炎
ナトリウム喪失性腎炎(間質性腎炎、
慢性腎炎)、低アルドステロン症、利尿薬
1)内分泌代謝専門医ガイドブック.診断と治療社,2010
入院後経過①
両膝痛は偽通風疑いとして、NSAIDs投与。
低Na血症は入院後3%NSでNaの補正を開始し、
プレドニゾロン5mg/日を内服した。アルダクトン
は中止とした。補正後速やかに全身倦怠感・食
欲低下・眠気は改善した。しかしながら、補正を
やめると低Na血症が増悪した。
Day1 Day2 Day3 Day4 Day6
Na 116 124 129 125 124
3%NaClで補正
TSH 1.3ng/dl (正常 0.8-1.9)
FT4 1.4μ IU/ml(正常 0.4-4.0)
ACTH 13.3 pg/ml(正常 7.2-63.3 pg/ml)
Cortisol 22.3 μ g/dl(正常 4.5-21.1 μ g/dl)
尿中β 2ミクログロブリン 114μ g/l
尿中NAG 4.5 U/L
追加検査②
迅速ACTH試験:
Pre 30min 60min
Cortisol(μ g/dl) 22.3 29.7 32.2
頭部CT:軽度脳萎縮のみ
※食事は塩分10g食を3食ほぼ全量摂取
・SIADHの診断基準に合致するが、原因がはっきりしない。 ・副腎不全・甲状腺機能低下症は否定的。 ・薬剤性(アルダクトン)は否定的。 ・腎性塩類喪失状態だが、尿所見は特に以上がなく 腎障害を示唆する所見なし。
入院後経過②
MRHE疑いで診断的治療目的にフロリネフ投与開始
・第4病日よりフロリネフ(0.1mg)1T開始。
・第11病日よりフロリネフ(0.1mg)2Tに増量。
・以降Na133-134mEq/Lとなり、NaCl負荷も不要となり、退院の方針となった。
入院後経過③
Mineralo-corticoid responsive hyponatremia in elderly (MRHE)
・2001年に自治医大の石川らにより提唱。
・加齢によるレニンーアルドステロン系の反応低下によりNa保持機構の作用不全がおこり低Na血症となり、体液減少に対して代償的にADH分泌が亢進している病態。 ・高齢者の低Na血症の1/4がMRHEとの報告もある。 ・
SIADHとMRHEの相違
SIADH MRHE 低Na血症 低Na血症
低浸透圧血症 低浸透圧血症
高張尿 高張尿
腎機能正常 腎機能正常
副腎機能正常 副腎機能正常
浮腫なし 浮腫なし
脱水なし 軽度脱水・体液量減少
低尿酸血症 低尿酸血症
血症レニン活性低下 血症レニン活性抑制
血漿AVP上昇 血漿AVP上昇
低血圧経口
血清K正常上限
循環血液量低下
フルドロコルチゾン反応性