一番うまくて、まずいもの - 離島の健康と...

27
札幌東徳洲会病院 横村明高 瀬戸内徳洲会病院 伊東直哉 2013.4.18 名瀬徳洲会病院勉強会 一番うまくて、まずいもの

Transcript of 一番うまくて、まずいもの - 離島の健康と...

札幌東徳洲会病院 横村明高

瀬戸内徳洲会病院 伊東直哉

2013.4.18 名瀬徳洲会病院勉強会

一番うまくて、まずいもの

【症例】

83歳、女性

【主訴】

全身倦怠感、食欲低下

眠気

【現病歴】 老人ホームに入所中の患者。 骨粗鬆症、逆流性食道炎、両側膝変形性膝関節症で他院外来通院中。 来院1週間前より、起居動作が困難に感じる程の全身倦怠感、日中の眠気を自覚していた。食欲もなかったが、無理して食事を摂っていた。 来院前日に、症状持続するため他院を受診し、採血が施行された。Na119mEq/lと低値を認めたため、当院外来を紹介受診した。

【症例】 83歳、女性 【主訴】 全身倦怠感、食欲低下、眠気、両膝痛

【 Review of Systems 】 Positive: 両膝痛

Negative: 発熱、悪寒戦慄、頭痛、嘔気、嘔吐、咳嗽

喀痰、咽頭痛、鼻汁、腹痛、下痢、外傷歴

【既往歴】 ・両側変形性膝関節症 ・骨粗鬆症 ・逆流性食道炎 ・低Na血症 (詳細不明。1年前に他院に入院。 その際よりPSL 2.5mg/day内服処方された)。

【内服歴】 アルダクトン (25mg) 1錠分1 ロキソプロフェンNa (60mg) 2錠分2 ゲファニール (50mg) 2Cp分2 ランソラール (15mg) 1Cp分1 デパス (0.5mg) 1T分1 フォサマック (35mg) / week プレドニン2.5mg/day(一ヶ月前から隔日投与。 来院1週間前から中止)

【生活歴】

老人ホームに入所中。ADLは自立。

喫煙:never 飲酒:なし

【アレルギー歴】

food(-)、 drug(-)

身体所見

意識:清明 BP:124/79mmHg HR:90/分、整 RR:16回/分 SpO2 98%(室内気) BT:36.9℃ 眼瞼結膜:貧血なし 眼球結膜:黄疸なし 咽頭発赤なし 口腔内は湿潤 外頚静脈怒張なし 甲状腺腫大なし 心音:S1→S2→S3(-)→S4(-) 心雑音なし 肺音:清 雑音なし 腹部:平坦・軟 圧痛なし 肝・脾腫大なし 四肢:浮腫なし 皮膚:やや乾燥 関節:両側膝関節で腫脹・発赤・疼痛(+)

関節:両側膝関節で腫脹・発赤・疼痛(+)

来院時検査所見 白血球

赤血球

Hb

MCV

血小板

7300 /μ L

389万 /μ L

11.2 g/dl

81.0 fl

36.9万 /μ L

AST

ALT

ALP

LDH

γ -GTP

T-Bil

CK

TP

Alb

Na

K

Cl

BUN

Cre

血糖

21 IU/L

18 IU/L

469 IU/L

200 IU/L

51 IU/L

0.6 mg/dl

32 IU/L

6.9 g/dl

3.6 g/dl

116 meq/L

4.8 meq/L

80 meq/L

13.2 mg/dl

0.30 mg/dl

96 mg/dl

AMY

CRP

51 IU/L

12.96 mg/dl

尿定性

比重

蛋白

潜血

糖定性

ケトン体

尿沈渣

赤血球

白血球

1.023

- - - -

1-3/HF 1-3/HF

静脈血液ガス

pH pCO2 HCO3- BE

7.46 37 mmHg 25.9 mmol/l 2.4 mmol/l

胸部レントゲン

両膝レントゲン

来院時検査所見②

心電図: HR 84、Sinus Rhythm、normal axis、LVH

心エコー: EF63%、asynergy なし、TR⊿PG 26.1mmHg、 IVC 5mm

右膝関節液

色調: 褐色混濁 WBC: 30720/μl (多核球 76%, 単核球 24%), 糖 88mg/dl、 ピロリン酸カルシウム結晶陽性

Problem List # 全身倦怠感

# 食欲低下

# 日中の眠気

# 両膝関節痛

# 低Na血症

# 両側変形性膝関節症

# 骨粗鬆症

# 逆流性食道炎

What will you do next?

What’s your diagnosis?

低Na血症の鑑別 Na135mEq/L未満

血清浸透圧 高値

290mOsm/L

以上

高浸透圧性低Na血症

正常

270-290mOsm/L 偽性低Na血症

高血糖、マンニトール投与

高脂血症、高タンパク血症 低値

270Osm/L未満

細胞外液量 増加

正常

ECFの増加を伴う低Na血症

心不全、肝硬変、ネフローゼ血症

ECFの変化しない低Na血症

SIADH、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症、心因性多飲

低下 ECFの減少を伴う低Na血症

尿Na排泄量

<20mEq/L

>20mEq/L

腎外性

腎性

嘔吐、下痢、熱傷、急性膵炎

ナトリウム喪失性腎炎(間質性腎炎、

慢性腎炎)、低アルドステロン症、利尿薬

1)内分泌代謝専門医ガイドブック.診断と治療社,2010

追加検査①

尿検査: 尿Na 90mEq/L 尿浸透圧:598mOsm/L 血漿浸透圧:238mOsm/L

入院後経過①

両膝痛は偽通風疑いとして、NSAIDs投与。

低Na血症は入院後3%NSでNaの補正を開始し、

プレドニゾロン5mg/日を内服した。アルダクトン

は中止とした。補正後速やかに全身倦怠感・食

欲低下・眠気は改善した。しかしながら、補正を

やめると低Na血症が増悪した。

Day1 Day2 Day3 Day4 Day6

Na 116 124 129 125 124

3%NaClで補正

TSH 1.3ng/dl (正常 0.8-1.9)

FT4 1.4μ IU/ml(正常 0.4-4.0)

ACTH 13.3 pg/ml(正常 7.2-63.3 pg/ml)

Cortisol 22.3 μ g/dl(正常 4.5-21.1 μ g/dl)

尿中β 2ミクログロブリン 114μ g/l

尿中NAG 4.5 U/L

追加検査②

迅速ACTH試験:

Pre 30min 60min

Cortisol(μ g/dl) 22.3 29.7 32.2

頭部CT:軽度脳萎縮のみ

※食事は塩分10g食を3食ほぼ全量摂取

・SIADHの診断基準に合致するが、原因がはっきりしない。 ・副腎不全・甲状腺機能低下症は否定的。 ・薬剤性(アルダクトン)は否定的。 ・腎性塩類喪失状態だが、尿所見は特に以上がなく 腎障害を示唆する所見なし。

入院後経過②

MRHE疑いで診断的治療目的にフロリネフ投与開始

・第4病日よりフロリネフ(0.1mg)1T開始。

・第11病日よりフロリネフ(0.1mg)2Tに増量。

・以降Na133-134mEq/Lとなり、NaCl負荷も不要となり、退院の方針となった。

入院後経過③

Mineralo-corticoid responsive hyponatremia in elderly (MRHE)

・2001年に自治医大の石川らにより提唱。

・加齢によるレニンーアルドステロン系の反応低下によりNa保持機構の作用不全がおこり低Na血症となり、体液減少に対して代償的にADH分泌が亢進している病態。 ・高齢者の低Na血症の1/4がMRHEとの報告もある。 ・

SIADHとMRHEの相違

SIADH MRHE 低Na血症 低Na血症

低浸透圧血症 低浸透圧血症

高張尿 高張尿

腎機能正常 腎機能正常

副腎機能正常 副腎機能正常

浮腫なし 浮腫なし

脱水なし 軽度脱水・体液量減少

低尿酸血症 低尿酸血症

血症レニン活性低下 血症レニン活性抑制

血漿AVP上昇 血漿AVP上昇

低血圧経口

血清K正常上限

循環血液量低下

フルドロコルチゾン反応性

結語

・SIADHと診断された中に意外と

MRHEが隠れていると思われる。

・SIADHとなる原因が見当たらず、

治療に不応性の場合はMRHEを念頭に置く。

一番うまくて、まずいもの

この世で一番うまいものは何か?

一番うまくて、まずいもの

この世で一番うまいものは何か?

それは塩です。山海の珍味も塩の味付け次第でございます。

一番うまくて、まずいもの

では一番まずいものは何だ?

それも塩です。

どんなに美味しいものでも塩味が過ぎると食べられなくなります。

一番うまくて、まずいもの

優れた臨床医もまた、さじ加減ひとつで血清ナトリウムを改善するものです

そうか、ステロイドかっ!