愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web...

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第第 . 第第 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 。、、 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜 夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜 夜夜 夜夜夜夜夜 。、、()一( galaxy 夜夜 夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜 夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 ()一、6。 夜夜“夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜”夜 夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 1924。、 (Edwin Hubble)夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 、。 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜 一、、 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜 夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜 (6)。 夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜 、体、、 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 ( 5-1)。 夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜 、()。、 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜 。、、 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 、( 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜 夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 、)。、、 夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜夜 、、、。 1

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Page 1: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

     第5章 銀河

1   概要

夜空を眺めると多数の星々が見えるそのため長い間私たちが眺め

ている星々の世界こそが宇宙そのものであると考えられていたしかし

実 際 に は 数 百 万 個 か ら 数 千 億 個 も の 星 ( 恒 星 ) が 一 つ の 銀 河

(galaxy )を構成しており宇宙にはそのような銀河が一千億個以上存

在していることがわかってきている太陽系が属している銀河系(天の川

銀河)は多数ある銀河の一つであるが第6章で詳しく説明する

ldquo rdquoこの 恒星の宇宙から銀河の宇宙への変革 は1924年に起こった

この年エドウインハッブル(Edwin Hubble) はアンドロメダ星雲の距

離を測定し私たちの住む銀河とは別の銀河であることを証明したこれ

がきっかけとなり宇宙には多数の銀河が存在することがわかったのであ

一般に銀河系から銀河系以外の他の銀河までの距離は銀河系の大きさ

と比べて非常に遠くそのため肉眼で夜空に確認することのできる銀河は

アンドロメダ銀河や大小マゼラン雲(第6章参照)などわずか数個しかな

いしかし望遠鏡などを使って暗い天体まで観測すると我々が普段見

ている明るい星々の隙間から遠くの宇宙に存在する多数の銀河を見るこ

とができる(図5-1)

銀河の大きな特徴はその見かけの姿(形態)の多様性である星は点

または球状にしか見えないが多数の星の集合である銀河はさまざまな形

をしている円形や楕円形の銀河横から見ると比較的薄い円盤状の銀

河その円盤に渦巻模様が見える銀河また規則性のない非対称な形状の

銀河など多種多様である(私たちは銀河を天球面に投影して見ているの

で実際の観測では二次元の形状を見ていることに注意)また明るさ

や見た目の色大きさ渦巻模様の様子などさまざまな特徴を持つ銀河

が存在しまさに千差万別である

 

1

図5-1 ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の観測中央やや下で十字に輝

いているのが銀河系の中の星の一つでそれ以外の天体は銀河系とは別の

銀河 (NASAESASTScI)

  可視光(肉眼で見ることのできる波長帯の電磁波)で銀河を観測する

と銀河を構成する多数の星から放射される光が支配的なので銀河内の

星の分布を見ていることになるしかし銀河の構成要素は星だけではな

い星を作る材料となる星間雲や星からの光を吸収散乱する宇宙塵など

の星間物質(第13章参照)も銀河の重要な構成要素であるまた電磁

波はいっさい出さないが星や星間物質よりもはるかに大きい質量を持つ

ダークマター(第4章参照)が銀河を重力的に支配している宇宙では

このような星星間物質ダークマターからなる銀河が複数(多数)集ま

り銀河群銀河団大規模構造(第3章参照)のような階層構造を形成

しているその意味で銀河は宇宙の最も基本的な構成要素である

2

  宇宙が誕生してから現在まで137億年経過しているが(第1章参

照)宇宙の歴史の中で銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿

で存在していたわけではない宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆら

ぎが重力不安定性によって増幅されてダークマターハローが形成され

(第1章)その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマター

の重力に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形

成され始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時

代に始まる以後約130億年の間に成長し現在の宇宙で見られるよう

な銀河に進化したと考えられている

  この章では現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類法やその性質

を解説する後半では遠方銀河の観測の現状を紹介した後で宇宙の歴

史の中で銀河がどのように形成され進化してきたかを解説する

2  銀河の分類

 現在の宇宙にはさまざまな特徴を持つ銀河が存在するがこれらの銀河

を分類する方法としてもっとも基本的なものが銀河の形態による分類

(形態分類morphological classification)である銀河はその形態の特

徴によって以下に示す種類に分類される

楕円銀河

 楕円銀河(elliptical galaxy )は天球面に投影されたみかけの形状

が円形および楕円形に見える銀河である楕円銀河の3次元構造は一般的

に回転楕円体であると考えられている(ただし厳密にいえば3軸不等

の形状をしていると考えるべきであろう)

 楕円銀河の可視光の表面輝度分布(次節参照)を調べると中心付近で

明るいがかなり外側まで光芒が広がっている傾向が見られる(図5-

2)

3

図5-2 すばる望遠鏡による楕円銀河M87 (国立天文台)

円盤銀河

 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河( disk galaxy )と呼ばれる円盤

(disk )成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ

(bulge )と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大き

さは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る)

円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な

銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(bar バーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは

棒渦巻銀河(barred spiral galaxy )と区別して呼ばれる

4

図 5 - 3ハ ッ ブ ル 宇 宙 望 遠 鏡 に よ る 渦 巻 銀 河 M101 (左) と

NGC3710 (右) (NASAESASTScI)

S0 銀河

 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy )と分

類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀

河としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多

数のS0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀

河の仲間である

図5-4ハッ

ブル宇宙望遠鏡による不規則銀河NGC1427 (左)とNGC3256 (右) 

(NASAESASTScI)

不規則型銀河

 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河と

5

いった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy )と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に1936 年にハッブルが提唱したハッ

ブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態

という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence )と呼ば

れることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッ

ブルの音叉図と呼ばれることもある

 

図5-5ハッブルの音叉図(ハッブル系列) (The Realm of Nebulae Hubble 1937)  

 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順にSa Sb およびSc 銀河(棒

渦巻銀河の場合はSBa SBb およびSBc 銀河)と名付けられている

 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

よ り 扁 平 な 形 を し た 楕 円 銀 河 が 配 置 さ れ て い る 左 側 か ら

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E0 E1 E2 hellipE7 と細かく分類されているここでE のあとの

数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [ 楕円の扁平率は半長

軸と半短軸の長さを a とb とすると(a ndash b) a で与えられる]

 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側にSd 銀河( 棒渦巻銀河の場合はSBd 銀河) を加え

さらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている(図5

-14参照)

 便宜上 楕 円 銀 河 と S0 銀 河 を 合 わせて早期型銀 河 ( early-type galaxy )渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy )と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較

的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type spiral )またSc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼ぶこともある

 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている

矮小銀河

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 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

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が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

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ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

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X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

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射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

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星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

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で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 2: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図5-1 ハッブル宇宙望遠鏡による銀河の観測中央やや下で十字に輝

いているのが銀河系の中の星の一つでそれ以外の天体は銀河系とは別の

銀河 (NASAESASTScI)

  可視光(肉眼で見ることのできる波長帯の電磁波)で銀河を観測する

と銀河を構成する多数の星から放射される光が支配的なので銀河内の

星の分布を見ていることになるしかし銀河の構成要素は星だけではな

い星を作る材料となる星間雲や星からの光を吸収散乱する宇宙塵など

の星間物質(第13章参照)も銀河の重要な構成要素であるまた電磁

波はいっさい出さないが星や星間物質よりもはるかに大きい質量を持つ

ダークマター(第4章参照)が銀河を重力的に支配している宇宙では

このような星星間物質ダークマターからなる銀河が複数(多数)集ま

り銀河群銀河団大規模構造(第3章参照)のような階層構造を形成

しているその意味で銀河は宇宙の最も基本的な構成要素である

2

  宇宙が誕生してから現在まで137億年経過しているが(第1章参

照)宇宙の歴史の中で銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿

で存在していたわけではない宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆら

ぎが重力不安定性によって増幅されてダークマターハローが形成され

(第1章)その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマター

の重力に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形

成され始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時

代に始まる以後約130億年の間に成長し現在の宇宙で見られるよう

な銀河に進化したと考えられている

  この章では現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類法やその性質

を解説する後半では遠方銀河の観測の現状を紹介した後で宇宙の歴

史の中で銀河がどのように形成され進化してきたかを解説する

2  銀河の分類

 現在の宇宙にはさまざまな特徴を持つ銀河が存在するがこれらの銀河

を分類する方法としてもっとも基本的なものが銀河の形態による分類

(形態分類morphological classification)である銀河はその形態の特

徴によって以下に示す種類に分類される

楕円銀河

 楕円銀河(elliptical galaxy )は天球面に投影されたみかけの形状

が円形および楕円形に見える銀河である楕円銀河の3次元構造は一般的

に回転楕円体であると考えられている(ただし厳密にいえば3軸不等

の形状をしていると考えるべきであろう)

 楕円銀河の可視光の表面輝度分布(次節参照)を調べると中心付近で

明るいがかなり外側まで光芒が広がっている傾向が見られる(図5-

2)

3

図5-2 すばる望遠鏡による楕円銀河M87 (国立天文台)

円盤銀河

 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河( disk galaxy )と呼ばれる円盤

(disk )成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ

(bulge )と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大き

さは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る)

円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な

銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(bar バーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは

棒渦巻銀河(barred spiral galaxy )と区別して呼ばれる

4

図 5 - 3ハ ッ ブ ル 宇 宙 望 遠 鏡 に よ る 渦 巻 銀 河 M101 (左) と

NGC3710 (右) (NASAESASTScI)

S0 銀河

 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy )と分

類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀

河としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多

数のS0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀

河の仲間である

図5-4ハッ

ブル宇宙望遠鏡による不規則銀河NGC1427 (左)とNGC3256 (右) 

(NASAESASTScI)

不規則型銀河

 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河と

5

いった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy )と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に1936 年にハッブルが提唱したハッ

ブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態

という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence )と呼ば

れることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッ

ブルの音叉図と呼ばれることもある

 

図5-5ハッブルの音叉図(ハッブル系列) (The Realm of Nebulae Hubble 1937)  

 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順にSa Sb およびSc 銀河(棒

渦巻銀河の場合はSBa SBb およびSBc 銀河)と名付けられている

 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

よ り 扁 平 な 形 を し た 楕 円 銀 河 が 配 置 さ れ て い る 左 側 か ら

6

E0 E1 E2 hellipE7 と細かく分類されているここでE のあとの

数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [ 楕円の扁平率は半長

軸と半短軸の長さを a とb とすると(a ndash b) a で与えられる]

 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側にSd 銀河( 棒渦巻銀河の場合はSBd 銀河) を加え

さらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている(図5

-14参照)

 便宜上 楕 円 銀 河 と S0 銀 河 を 合 わせて早期型銀 河 ( early-type galaxy )渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy )と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較

的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type spiral )またSc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼ぶこともある

 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている

矮小銀河

7

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 3: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

  宇宙が誕生してから現在まで137億年経過しているが(第1章参

照)宇宙の歴史の中で銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿

で存在していたわけではない宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆら

ぎが重力不安定性によって増幅されてダークマターハローが形成され

(第1章)その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマター

の重力に引かれてダークマターハローの中で重力収縮が進み星が形

成され始めるこの星の集団としての銀河の形成は宇宙年齢が数億年の時

代に始まる以後約130億年の間に成長し現在の宇宙で見られるよう

な銀河に進化したと考えられている

  この章では現在の宇宙で見られる多種多様な銀河の分類法やその性質

を解説する後半では遠方銀河の観測の現状を紹介した後で宇宙の歴

史の中で銀河がどのように形成され進化してきたかを解説する

2  銀河の分類

 現在の宇宙にはさまざまな特徴を持つ銀河が存在するがこれらの銀河

を分類する方法としてもっとも基本的なものが銀河の形態による分類

(形態分類morphological classification)である銀河はその形態の特

徴によって以下に示す種類に分類される

楕円銀河

 楕円銀河(elliptical galaxy )は天球面に投影されたみかけの形状

が円形および楕円形に見える銀河である楕円銀河の3次元構造は一般的

に回転楕円体であると考えられている(ただし厳密にいえば3軸不等

の形状をしていると考えるべきであろう)

 楕円銀河の可視光の表面輝度分布(次節参照)を調べると中心付近で

明るいがかなり外側まで光芒が広がっている傾向が見られる(図5-

2)

3

図5-2 すばる望遠鏡による楕円銀河M87 (国立天文台)

円盤銀河

 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河( disk galaxy )と呼ばれる円盤

(disk )成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ

(bulge )と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大き

さは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る)

円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な

銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(bar バーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは

棒渦巻銀河(barred spiral galaxy )と区別して呼ばれる

4

図 5 - 3ハ ッ ブ ル 宇 宙 望 遠 鏡 に よ る 渦 巻 銀 河 M101 (左) と

NGC3710 (右) (NASAESASTScI)

S0 銀河

 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy )と分

類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀

河としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多

数のS0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀

河の仲間である

図5-4ハッ

ブル宇宙望遠鏡による不規則銀河NGC1427 (左)とNGC3256 (右) 

(NASAESASTScI)

不規則型銀河

 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河と

5

いった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy )と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に1936 年にハッブルが提唱したハッ

ブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態

という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence )と呼ば

れることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッ

ブルの音叉図と呼ばれることもある

 

図5-5ハッブルの音叉図(ハッブル系列) (The Realm of Nebulae Hubble 1937)  

 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順にSa Sb およびSc 銀河(棒

渦巻銀河の場合はSBa SBb およびSBc 銀河)と名付けられている

 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

よ り 扁 平 な 形 を し た 楕 円 銀 河 が 配 置 さ れ て い る 左 側 か ら

6

E0 E1 E2 hellipE7 と細かく分類されているここでE のあとの

数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [ 楕円の扁平率は半長

軸と半短軸の長さを a とb とすると(a ndash b) a で与えられる]

 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側にSd 銀河( 棒渦巻銀河の場合はSBd 銀河) を加え

さらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている(図5

-14参照)

 便宜上 楕 円 銀 河 と S0 銀 河 を 合 わせて早期型銀 河 ( early-type galaxy )渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy )と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較

的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type spiral )またSc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼ぶこともある

 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている

矮小銀河

7

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 4: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図5-2 すばる望遠鏡による楕円銀河M87 (国立天文台)

円盤銀河

 円盤構造を持つ銀河は円盤銀河( disk galaxy )と呼ばれる円盤

(disk )成分に加えて渦巻銀河の中心には回転楕円体をしたバルジ

(bulge )と呼ばれる成分があるが円盤成分に対するバルジ成分の大き

さは銀河ごとにまちまちである(バルジ成分を持たない渦巻銀河も存在す

る)

円盤銀河は円盤内の構造による違いでさらに2 種類に大別される

渦巻銀河(spiral galaxy)は円盤の渦巻状の模様(渦状腕)が特徴的な

銀河である(図5-3)一方円盤内に銀河中心を通る棒状の構造

(bar バーと呼ばれる)を持つ銀河が半数以上を占めているこれらは

棒渦巻銀河(barred spiral galaxy )と区別して呼ばれる

4

図 5 - 3ハ ッ ブ ル 宇 宙 望 遠 鏡 に よ る 渦 巻 銀 河 M101 (左) と

NGC3710 (右) (NASAESASTScI)

S0 銀河

 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy )と分

類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀

河としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多

数のS0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀

河の仲間である

図5-4ハッ

ブル宇宙望遠鏡による不規則銀河NGC1427 (左)とNGC3256 (右) 

(NASAESASTScI)

不規則型銀河

 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河と

5

いった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy )と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に1936 年にハッブルが提唱したハッ

ブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態

という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence )と呼ば

れることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッ

ブルの音叉図と呼ばれることもある

 

図5-5ハッブルの音叉図(ハッブル系列) (The Realm of Nebulae Hubble 1937)  

 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順にSa Sb およびSc 銀河(棒

渦巻銀河の場合はSBa SBb およびSBc 銀河)と名付けられている

 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

よ り 扁 平 な 形 を し た 楕 円 銀 河 が 配 置 さ れ て い る 左 側 か ら

6

E0 E1 E2 hellipE7 と細かく分類されているここでE のあとの

数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [ 楕円の扁平率は半長

軸と半短軸の長さを a とb とすると(a ndash b) a で与えられる]

 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側にSd 銀河( 棒渦巻銀河の場合はSBd 銀河) を加え

さらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている(図5

-14参照)

 便宜上 楕 円 銀 河 と S0 銀 河 を 合 わせて早期型銀 河 ( early-type galaxy )渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy )と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較

的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type spiral )またSc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼ぶこともある

 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている

矮小銀河

7

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 5: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図 5 - 3ハ ッ ブ ル 宇 宙 望 遠 鏡 に よ る 渦 巻 銀 河 M101 (左) と

NGC3710 (右) (NASAESASTScI)

S0 銀河

 楕円銀河と渦巻銀河の中間の種族としてS0 銀河(S0 galaxy )と分

類されるものがあるこれらは円盤構造を持つが渦巻構造を持たない銀

河としてハッブルによって仮説的に導入された種族であるが現在では多

数のS0 銀河が実際に見つかっている円盤を持つので広義には円盤銀

河の仲間である

図5-4ハッ

ブル宇宙望遠鏡による不規則銀河NGC1427 (左)とNGC3256 (右) 

(NASAESASTScI)

不規則型銀河

 現在の宇宙に見られる大部分の銀河は楕円銀河S0 銀河渦巻銀河と

5

いった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy )と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に1936 年にハッブルが提唱したハッ

ブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態

という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence )と呼ば

れることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッ

ブルの音叉図と呼ばれることもある

 

図5-5ハッブルの音叉図(ハッブル系列) (The Realm of Nebulae Hubble 1937)  

 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順にSa Sb およびSc 銀河(棒

渦巻銀河の場合はSBa SBb およびSBc 銀河)と名付けられている

 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

よ り 扁 平 な 形 を し た 楕 円 銀 河 が 配 置 さ れ て い る 左 側 か ら

6

E0 E1 E2 hellipE7 と細かく分類されているここでE のあとの

数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [ 楕円の扁平率は半長

軸と半短軸の長さを a とb とすると(a ndash b) a で与えられる]

 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側にSd 銀河( 棒渦巻銀河の場合はSBd 銀河) を加え

さらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている(図5

-14参照)

 便宜上 楕 円 銀 河 と S0 銀 河 を 合 わせて早期型銀 河 ( early-type galaxy )渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy )と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較

的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type spiral )またSc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼ぶこともある

 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている

矮小銀河

7

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 6: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

いった回転対称性のよい形態を示すが大小マゼラン雲に代表されるよう

な非対称な形をした銀河も存在するなかには銀河中心を定義することが

難しいような形の銀河もある(図5-4)これらの規則性の乏しい形を

した銀河はまとめて不規則銀河(irregular galaxy )と分類される

 上に述べた銀河の分類は基本的に1936 年にハッブルが提唱したハッ

ブル分類に基づいているハッブルは図5-5のように左から楕円銀河

S0 銀河渦巻銀河の順に並べて銀河の形態の整理を試みた銀河を形態

という系列で分類したのでハッブル系列(Hubble sequence )と呼ば

れることもあるまた音叉を横にしたような図になっているのでハッ

ブルの音叉図と呼ばれることもある

 

図5-5ハッブルの音叉図(ハッブル系列) (The Realm of Nebulae Hubble 1937)  

 渦巻銀河については棒状構造を持つかどうかによって渦巻銀河と棒

渦巻銀河の2系統に分かれているそれぞれの系統では右に行くほどバ

ルジ成分が暗く渦状腕の巻き方がゆるく渦状腕のぶつぶつが目立った

銀河が配置されている左側から順にSa Sb およびSc 銀河(棒

渦巻銀河の場合はSBa SBb およびSBc 銀河)と名付けられている

 楕円銀河については円形の楕円銀河が一番左側にあり右に進むほど

よ り 扁 平 な 形 を し た 楕 円 銀 河 が 配 置 さ れ て い る 左 側 か ら

6

E0 E1 E2 hellipE7 と細かく分類されているここでE のあとの

数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [ 楕円の扁平率は半長

軸と半短軸の長さを a とb とすると(a ndash b) a で与えられる]

 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側にSd 銀河( 棒渦巻銀河の場合はSBd 銀河) を加え

さらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている(図5

-14参照)

 便宜上 楕 円 銀 河 と S0 銀 河 を 合 わせて早期型銀 河 ( early-type galaxy )渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy )と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較

的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type spiral )またSc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼ぶこともある

 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている

矮小銀河

7

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 7: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

E0 E1 E2 hellipE7 と細かく分類されているここでE のあとの

数値は楕円銀河の扁平率を10倍したものである [ 楕円の扁平率は半長

軸と半短軸の長さを a とb とすると(a ndash b) a で与えられる]

 ハッブル系列は銀河を形態の特徴を基準にして並べたものであったが

銀河の詳しい観測が進むにつれ銀河を構成する星の年齢星の総質量

あるいは星の材料となる星間雲の量などの銀河の本質的な物理量がこの系

列に沿って系統的に変化していることが分かったそのためハッブル系

列は銀河の性質やその進化を理解する上で重要だと考えられている現在

では渦巻銀河の右側にSd 銀河( 棒渦巻銀河の場合はSBd 銀河) を加え

さらにその右側に不規則銀河を配置した拡張版がよく使われている(図5

-14参照)

 便宜上 楕 円 銀 河 と S0 銀 河 を 合 わせて早期型銀 河 ( early-type galaxy )渦巻銀河と不規則銀河を合わせて晩期型銀河( late-type galaxy )と呼ぶことが多いまた渦巻銀河の中でもSa などの比較

的ハッブル系列で左側に位置する渦巻銀河を早期型渦巻銀河(early-type spiral )またSc など右側の渦巻銀河を晩期型渦巻銀河( late-type spiral )と呼ぶこともある

 この早期型と晩期型の名前の由来はハッブルがこの形態分類法を発表

した当時銀河は形成の初期段階では球状の構造をしておりだんだん扁

平化し(ここまでは楕円銀河)さらに時間の経過とともに渦巻銀河のよ

うな構造に進化していくと考えられていたことによるしかし現在では

これとは逆に楕円銀河の方が渦巻銀河に比べて古い星で構成されてい

ることが観測的に分かっているつまり楕円銀河の方がむしろ誕生して

から長い時間が経過した銀河であるそのため楕円銀河から始まって渦

巻銀河に進化したとする説は否定されているしかし早期型と晩期型と

いう用語だけは歴史的に使用され続けている

矮小銀河

7

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 8: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

 これまでに述べてきた銀河のハッブル分類は比較的明るく大きな銀河

(giant galaxy とも呼ばれる)に対する形態分類であるハッブル系列に

分類される銀河と比べて暗い矮小銀河(dwarf galaxy )は異なる形態分

布を持つことが知られているここではB バンド(重心波長=440nm )

の絶対等級でminus 18 等級よりも暗い銀河を矮小銀河と定義する

 矮小銀河はその形態により2 種類のタイプに分類されるひとつは楕

円銀河に類似した構造を持つ矮小楕円銀河(dwarf elliptical )および矮小

楕円体銀河(dwarf spheroidal )であるもう一つは非対称で規則性が乏

しい形態を示す矮小不規則銀河(dwarf irregular)である矮小楕円銀河

と矮小楕円体銀河を早期型矮小銀河(early-type dwarf )また矮小不規

則銀河を晩期型矮小銀河(late-type dwarf )と呼ぶこともある

 矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河は表面輝度(次節参照)によって比較

的明るい表面輝度の矮小楕円銀河と比較的暗い矮小楕円体銀河とに分け

られるがその境界となる条件は明確に定義されているわけではない

 矮小銀河の中には中心の狭い領域に若い星が密集していると考えられ

ている青色コンパクト矮小銀河(blue compact dwarf galaxy BCDG)や

観 測 す る こ と が難し い 非 常 に表面 輝度が低い 銀 河 ( low surface brightness galaxy LSBG )などに分類される銀河も存在する(図5-

6)

 

図5-6ハッブル宇宙望遠鏡による青色コンパクト銀河 NGC1075(左)と低表面輝度銀河Malin 1 (右)

8

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

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  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 9: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

( 左 図 httphubblesiteorggalleryalbumpr2003007a 右 図

Barth 2007 AJ 133 1085 より改変)

3  銀河の観測的特徴

 ここでは銀河の性質を特徴づける基本的な物理量について解説する星

の集団としての銀河の性質と関係が深い観測量が主であるが星間物質や

ダークマターに関わる物理量も含めて説明する

3-1 光度

 銀河の光度(luminosity )とは銀河の明るさのことである銀河から

単位時間当たりに放射される光(電磁波)のエネルギーとして定義される

物理量である紫外線可視光および近赤外線の波長帯では絶対等級で

表されることも多い私たちは銀河の情報を電磁波で検出しているので

銀河の光度はもっとも基本的な観測量といえる注意すべきことは観測

する波長帯によってその波長の光を出している銀河の構成要素が異なる

ことであるしたがってさまざまな波長帯での銀河の光度を調べなけれ

ば銀河の全体像を理解することはできない

紫外線可視光および近赤外線

 紫外線可視光および近赤外線の波長帯の光はおもに銀河を構成する

星から放射されているしたがってこれらの波長帯での銀河の光度は

その銀河に含まれる 星の総量を反映している 銀河の可視光帯での光度は広

い範囲に及んでおり太陽光度の一千万倍程度の矮小銀河から数千億倍程

度の巨大銀河まで存在している

 光度毎の銀河の単位体積当たりの存在数を示したものを銀河の光度関数

(luminosity function)と呼ぶ(図5-7)銀河は一般に暗い銀河の

数は多く明るくなる(図の左側に向かう)につれて徐々に銀河の数密度

9

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 10: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

が減りある光度を超えると急激に減少するこのような銀河の光度関数

の形は

Φ (L )=φiquest( LLiquest )α

exp (minusLLiquest )の関数形でよく表されることが知られており提案者にちなんでシェヒ

ター関数(Schechter function )と呼ばれるLは比較的明るい光度にお

いてこの光度を超えると銀河の数が急激に減少する特徴的な光度を表し

ている一方α は光度が暗いところで暗くなるにつれて銀河の数がど

れくらい増えていくかを示しておりφ は全体的な銀河の数を表すパラ

メータである銀河の光度の分布がこのような形になっている理由は銀

河がどのように形成されたのかということと密接に関係していると考えら

れている

 

図5-7銀河の光度関数(上)横軸は可視光の絶対等級を表し縦軸

は各等級をもつ銀河の単位体積あたりの個数を表している誤差棒が付い

た折れ線グラフが観測結果を表す太いなめらかな曲線はこの結果にもっ

ともよく合うシェヒター関数下段のパネルはこの光度関数を求めるため

に使った銀河の個数を示している絶対等級で暗いほど観測された銀河の

個数がしだいに減っていくのは光度が暗い天体ほど我々から比較的近い

ところまでしか観測できないためである (Blanton et al 2001 AJ 121 2358 より改変)

10

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 11: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

ま た 紫外線か ら近赤外線で のスペクトル エネルギー 分 布

(spectral energy distribution SED )は銀河に主として含まれる星の種族で決

まる(図5-8)

大質量星は寿命が1億年以下であり宇宙や銀河の年齢と比べて短い

しかしこれらの星が大量にあると紫外線の光度が卓越するので銀河の

紫外線光度は最近生まれたばかりの星の総量をよく反映している(1億年

以上前に生まれた大質量星はすでに寿命を迎えて死んでいるため)その

ため紫外線光度は銀河における星生成率(star formation rate SFR )

のよい指標を与える

一方近赤外線で主としてエネルギーを放射する小質量星は寿命が

現在の宇宙年齢と同程度かそれより長いそのため近赤外線での銀河の

光度は銀河が生まれてから現在までに生成された星の積算量のよい指標

となる

図5-8銀河の紫外線可視光および近赤外線でのスペクトルエネル

ギー分布横軸は光の波長を示し縦軸は各波長での明るさを表すある

時刻に銀河の星がいっせいに生まれた場合時間とともにどのように各波

長での明るさが変わっていくかを示している紫外線は比較的短い時間で

何桁も暗くなるのに対して近赤外線では変化は少ない

11

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 12: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

中間赤外線と遠赤外線

 中間赤外線と遠赤外線の波長帯では銀河内に含まれる宇宙塵(ダス

ト)からの放射が観測されるダストは特に紫外線の光をよく吸収して温

められ(30K から50K 程度)熱放射を出すこれが中間赤外線や遠

赤外線帯での放射となる(第13章参照)したがってこれらの波長帯

での銀河の光度は紫外線で明るい質量の大きい星とその光を吸収する

ダストがどれだけの量あるのかをよく表していると考えられ上で述べた

星生成率の指標としてもよく使われる(図5-9)

電波

 電波の波長帯では中性水素原子ガスや一酸化炭素などの分子ガスから

ある特定の波長で放射される輝線の光度を測定することによってその銀

河にこれらの星間雲がどれだけ存在しているかを推定することができる

図5-9あかり衛星による渦巻銀河M81の近赤外線(左)と中間赤外線

(右)の画像近赤外線ではなめらかに分布している小質量星が主に観測

される一方中間赤外線では渦巻腕のなかで生まれたばかりの大質量星

の紫外線を 吸 収 し て暖め ら れ た ダストの熱放 射 が 観 測 さ れ る

(JAXA )

12

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 13: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

X 線

X 線の波長帯では活動銀河中心核(AGN 第12章参照)や質

量が大きい銀河のまわりの高温プラズマからの光がおもに観測されX 線での銀河の光度はAGN の活動性や銀河の重力に捕えられた高温ガスの

質量を反映していると考えられている

以上のように銀河はいろいろな波長でそれぞれ異なる構成要素に

よって光を放射している各波長帯で放射されるエネルギーの大きさ(明

るさ)を比べるとほとんどの銀河の場合紫外線から近赤外線における

星からの放射と中遠赤外線におけるダストの熱放射が大部分のエネル

ギーを占めている(図5-10)

図5-10渦巻銀河M101 のスペクトルエネルギー分布横軸が観測

する光の振動数縦軸は各波長帯における明るさを示すいろいろな波長

帯での銀河の明るさを比べてみると星が主に光っている紫外線から可視

光近赤外線に渡る波長帯とダストが熱放射を行っている中遠赤外線

の波長帯で特に明るいことがわかるこの例のように一般に銀河から放

13

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 14: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

射されるエネルギーの大部分は星とダストからの放射で占められている

3-2 質量

 銀河の進化を考える上で銀河の質量は非常に重要な物理量であるな

ぜなら銀河がどのような物理過程を経て現在の質量を獲得してきたか

は宇宙の構造形成と関連する問題でもあるからである

 銀河の質量の大部分はみずからは光を発しないダークマターが担って

いるため(第4章参照)直接的な観測によりこれを測定することは難し

いがその重力による影響を間接的に観測することで質量を推定すること

ができる

 銀河の力学的質量は銀河内の星やガスの運動状態を調べることで評価さ

れる円盤銀河ではその円盤成分の回転運動(本章3-2節参照)を維

持するために必要な重力を求めることができるまた回転運動がない場

合でも力学的平衡状態にある系において運動エネルギーの総和T と重

力ポテンシャルエネルギーU の間に成り立つビリアル定理2T + U = 0 を用いて質量を推定することができる

楕円銀河では銀河を構成する星の速度分散の測定(銀河を分光観測

することで視線方向の運動(速度)の情報を得ることができる)から運

動エネルギーの総和を求めビリアル定理を通じて重力ポテンシャルエネ

ルギーを計算できるこの重力ポテンシャルエネルギーと質量を結びつけ

るビリアル半径はおおよそその銀河の典型的な半径(たとえば半光度半

径本章3-3節参照)と同程度なので求めたポテンシャルエネルギー

と銀河のサイズから力学的質量を推定できるまたこの他にもX 線で観

測される銀河のまわりの高温プラズマの情報からそのガスを重力で束縛

しておくために必要な力学的質量を見積もることもできる(第4章)こ

のようにして求められた銀河の総質量は銀河を構成する星の質量の10

倍以上にも及ぶことが多い

 銀河を構成する星の総質量(銀河の星質量力学的質量とは異なること

に注意)は銀河の基本的な物理量のひとつである銀河の中で星が生まれ

る時には質量の小さい星ほど数多く形成されるまたこれらの小質量

14

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 15: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

星は寿命が長いので銀河の星質量の大部分は太陽質量 (M) 程度以下

の小質量星が担っているこれらの小質量星はおもに近赤外線帯にエネル

ギーを放射するので近赤外線での銀河の光度が銀河の星質量をよく反映

するこれらの小質量星の平均的な質量-光度比はよくわかっているので

銀河の光度から星質量を推定することができる銀河の色やスペクトルか

ら推定できる星の年齢や金属量についての情報(本章3-5節および3-

6節を参照)も加えると質量-光度比のより正確な値がわかり近赤外線

の光度から星質量を高い精度で推定することができる銀河の星質量は小

さい銀河で数百万M であり巨大な銀河では数千億M におよぶものま

である

 星の材料である中性水素原子ガスや水素分子ガスなどの星間雲の質量も

銀河の進化段階を考える上で重要である中性水素原子ガスは電波の21

cmの波長で放射される輝線を観測しその光度を求めることで質量を推

定することができる一方分子ガスの大部分を占める水素分子ガスから

の放射は非常に微弱で観測が難しいそのため一酸化炭素分子などの比

較的強い分子輝線の強度から間接的に水素分子ガスの質量を推定している

しかし水素分子と他の分子の存在量の比がいろいろな特徴を持つ銀河

の間で一定とみなせるのかどうかははっきり分かっておらず推定され

る水素分子ガスの質量には比較的大きな誤差が伴う可能性がある(詳しく

は第13章参照)

 現在の宇宙で見られる大部分の銀河においてはこのようにして求めら

れる星間雲の質量は一般に星質量の約10程度であるしかし矮小不

規則銀河の中には星質量よりも星間雲の質量の方が大きな銀河も存在す

3-3 表面輝度分布

 表面輝度(surface brightness )は天球面上に投影された単位面積あた

りの明るさである紫外線可視光近赤外線における銀河の表面輝度分

布は銀河内での星の空間分布に関する情報を与えてくれる現在の宇宙

15

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 16: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

で見られる大部分の銀河は銀河の中心に近いほど表面輝度が高く外側

にいくにつれて次第に暗くなる(銀河相互作用の結果大きな擾乱を受け

た銀河の中にはこの傾向を示さないものもあるたとえばリング銀河な

ど)

 銀河の中心からの距離に対して表面輝度がどのように変化していくかを

表したものを銀河の表面輝度プロファイル(surface bright profile )と呼

ぶが形態分類によって楕円銀河あるいは渦巻銀河というように同じ

種族に分類された銀河同士では非常に形の似た表面輝度プロファイルを

持つことが知られている楕円銀河では銀河の中心からの半径rに対し

て表面輝度は

I (r )=I eexp minus767[( rr e )1 4

minus1]で表されるここでre は銀河の広がり具合を決めるパラメータでこの値

の半径よりも内側に含まれる光度が全光度[I( r) をrが無限大まで積分

し た値 ] の半分 に な る よ う に 定義さ れ て い る こ の re は有効半径

(effective radius )と呼ばれ楕円銀河の大きさの指標として使われる

(本章3-4節参照) I e は全体の表面輝度の明るさを決めるパラメータ

で半径がre での表面輝度として定義されるこのような表面輝度プロ

ファイルは発見者の名前にちなんでドボークルール則(de Vaucouleurs law )あるいは指数関数の中のr1 4 の部分にちなんで14 乗則と呼ばれ

 一方渦巻銀河の円盤成分の表面輝度プロファイルは

I (r )=I 0exp (minusr h)

で表されるここでh は銀河の拡がり具合を表わすパラメータでスケー

ル長(scale length )と呼ばれる I 0 は全体の明るさを決めるパラメータ

でこの場合は中心での表面輝度の値として定義されるこのような表面

輝度プロファイルは指数関数則(exponential law )と呼ばれるただし

渦巻銀河のバルジ成分は楕円銀河と同様にドボークルール則に従う場合が

多い

 ドボークルール則と指数関数則の形を比べるとドボークルール則の方

16

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 17: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

が中心付近に光度が集中しており急な傾きのプロファイルになっている

(図5-11)またドボークルール則は外側までいくと逆に傾きがゆ

るやかになりなかなか表面輝度が下がりきらない傾向もある

 なぜ楕円銀河が一様にドボークルール則に従う表面輝度プロファイルを

持ちまた渦巻銀河の円盤部が一様に指数関数則に従う表面輝度プロファ

イルを持つのか完全に理解されているわけではないただそれぞれの

形態の銀河が形成される物理過程を反映していることは確かであろう

 銀河の平均表面輝度もよく用いられる観測量の一つである物理的には

銀河の中で星がどの程度の密度で分布しているかを大雑把に表したものと

考えることができる3次元のユークリッド空間を考えると銀河のみか

けの大きさは銀河までの距離に反比例して小さくなるのでみかけの面積

は距離の2乗に反比例する一方銀河のみかけの明るさは距離の2乗に

反比例して暗くなるので銀河のみかけの平均表面輝度は銀河までの距離

に依存しない観測量になっているしかしこのような近似が成立するの

は比較的我々から近い距離にある銀河の場合だけである宇宙論的距離に

ある遠方の銀河に対しては宇宙膨張の効果で(1+z )4 (ここでz は赤方

偏移第1章参照)に反比例して距離とともに暗くなるので注意が必要

である

図5-11Sb 銀河NGC488 の

表面輝度分布横軸が銀河中心か

らの半径縦軸が表面輝度を示す

+が観測データ点線がドボーク

ルール則(バルジ成分)一点鎖

17

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 18: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

線が指数関数則(円盤成分)実線は2つの足し合わせを表わす中心は

ドボークルール則外側は指数関数とよく合っている (左図Kent S M 1985 ApJS 59 115 より改変右図米国国立光学天文台)

3-4 サイズ

 銀河を構成する星やガスがみずからの重力によってつぶれずにその広が

りを維持しているのはそれらの星やガスが重力と釣り合うだけのなんら

かの運動を行っているからである銀河の大きさ(サイズ)はこの銀河

の中での星やガスの力学的構造(運動)を反映しているため銀河の形成

過程を考える上で重要な物理量となっている

 天球面上での銀河の見かけのサイズとその銀河までの距離を測定するこ

とで実際の物理的サイズを求めることができる多くの銀河では銀河

の外側にいくにつれ表面輝度がなめらかに暗くなりしだいに夜空と区別

がつかなくなっていて銀河の端(輪郭)が明確にわかることはほとんど

ないしたがって「銀河のサイズ」を議論するときには測定する範囲

を明確にしなければならない

 銀河のサイズとしてよく使われる観測量のひとつは半光度半径(half light radius )であるこれはその半径より内側で積分した光度が銀河

の全光度のちょうど半分となる半径として定義される(本章3-3節のド

ボークルール則の有効半径re は半光度半径そのものである)銀河の明確

な端が定義できない場合でもある程度外側まで含めるように明るさを測

ると光度を測る半径を多少変化させても(外側では非常に暗くなってい

るので)測定される光度はほとんど変わらなくなるその意味である程

度大きな半径で測定することにより銀河の全光度を推定することが可能で

ありこれを基準として半光度半径を定義することができる

多くの銀河の場合半光度半径は観測される見た目の銀河の大きさ

(半径)のおおよそ3分の1程度になるたとえば銀河系は差し渡し

30kpc (約10万光年)程度の大きさで半径にすると15kpc になるが

半光度半径は6kpc 程度と評価されている現在の宇宙で見られる銀河の

18

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 19: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

半光度半径は小さい銀河で1kpc 以下のものから大きい銀河で10kpcを超えるものまであるまた銀河団の中心にいる非常に巨大な楕円銀河

であるcD 銀河(cD galaxy )の中には100kpc を超える半光度半径を持

つ銀河も存在する非常に明るい銀河を除けば同じ全光度の楕円銀河と

渦巻銀河では一般に楕円銀河の方が小さい半光度半径を持つ傾向がある

半光度半径以外では前節で述べたように表面輝度プロファイルに

よって定義される有効半径やスケール長が銀河のサイズの指標として使

われることもあるまた銀河の全光度を測るための目安の半径として以

下の半径もよく用いられる(1)クロン半径(Kron radius )銀河の

各場所での表面輝度で重みづけをして平均した半径(2)ペトロシアン

半径(Petrosian radius )ある半径での表面輝度とそこから内側での平

均表面輝度の比を基準にして定義される半径

3-5 色

 天体の色は異なる波長帯での明るさの比として測定される観測量であ

る紫外線可視光および近赤外線の波長帯では異なる波長帯での等級

の差として表されることが多いこれらの波長帯では短い波長の方が相

対的に明るいほどldquo 色が青いrdquo また長い波長の方が明るいほどldquo 色が赤

いrdquo と表現される紫外線可視光近赤外線での銀河の色はその銀河

にどのような色を持つ星がどれだけあるかを反映している大質量星は高

温で青い色を示すが寿命が短い一方小質量星は低温で赤い色をしてい

て寿命が長い結局どのような星がどの程度含まれているかが銀河の

色をおもに決めている

銀河の中で新しく星が生まれている状況では明るい大質量星の影響

が強く銀河は全体として青い色を示す一方星が新たに生まれなくな

るとより寿命の短い質量の大きい星から順に死んでいくために銀河の

中では徐々により質量の軽い星だけが生き残ることになるそのため銀

河の色は時間の経過とともに赤くなるこのように銀河の色は銀河にお

ける星形成史(star formation history )を反映している

19

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 20: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

個々の星の色は質量に加えて金属量(本章3-6節参照)にも依存

している金属量が多い星間雲から生まれた星は一般に赤い色を示し金

属量が少ないほど星の表面温度が高くなり青い色を示すそのため金属

量に富んだ星が多い銀河ほど銀河全体でより色が赤くなる傾向がある

金属量は星形成史に比べると銀河の色への影響はそれほど大きくないが

どの銀河も星が生まれなくなってから長い時間が経過している楕円銀河同

士で色の比較を行う場合にはその効果は重要である

またダストを豊富に含む銀河ではダストによる星間減光の効果

(短い波長の光ほど吸収されやすい詳しくは第13章参照)によって銀

河の色が赤くなるダストを豊富に持つ銀河ではガス量そのものも多い

ので活発に星が生まれている傾向があるこのような銀河では多くの若

い大質量星が存在するにもかかわらず星間減光のために比較的赤い色を

示すことが多い

 個々の銀河の中でも上記の効果によって場所ごとに色が異なっている

のが一般的であるたとえば渦巻銀河の円盤成分では新たに星が生まれ

ていて青い色を示すがバルジ成分は古い星ばかりなので円盤成分より赤

くなるまた現在の宇宙で見られる楕円銀河の多くは銀河の中心に近

いほど赤い色を示す傾向がある

 中間赤外線遠赤外線の波長帯の銀河の光はおもにダストの熱放射に

よるものである一般にダストの温度は10K から数十K 程度である(第

13章参照)温度が高いほどより短い波長で相対的に明るくなる(黒体

放射で近似できる場合が多い)ので中間赤外から遠赤外線の波長帯の

SEDから温度の情報を得ることができる

 銀河の色は2つの異なる波長の見かけの明るさの比なのでみかけの明

るさが銀河までの距離の2乗に反比例して暗くなる効果は影響しない(2

つの波長の間でこの効果が相殺するため)しかし宇宙論的な距離にあ

る銀河については宇宙膨張による赤方偏移(第1章参照)の効果が銀河

の見かけの色に大きな影響を及ぼす赤方偏移zの距離にある銀河から出

た光は我々に届く時には波長が(1+z ) 倍に引き伸ばされて観測される

そのためある特定の2つの波長で銀河の色を測定した場合その銀河か

20

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 21: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

ら出たときにはそれぞれ1 (1+z )倍の波長の光を使って色を測定しているこ

とになるしたがってまったく性質が同じ銀河であってもより赤方偏

移が大きい(より遠くにある)銀河ほどより短い波長の光を観測してい

ることになり本来銀河から放射された波長が異なっている分だけ見かけ

の色も変化する異なる赤方偏移の銀河の色を同じ条件で比較するには

それぞれの銀河の赤方偏移に応じて(1+z ) 倍の波長帯での色を求める必要

があるまたこの赤方偏移によって銀河の色が変化することを逆に利用

して観測された銀河の色から赤方偏移を推定することもできる(測光赤

方偏移本章6-3節参照)

3-6 金属量

 天文学における金属量(metallicity)とは水素とヘリウム以外の元素の

量のことを指しこれらの元素をまとめて重元素(heavy element)と呼

ぶ宇宙初期のビッグバン元素合成では炭素より重い元素は作られず(第

1章参照)宇宙の重元素のほとんどは銀河の中で生まれた星内部の原子

核反応による元素合成と星が死ぬ際の超新星爆発に伴う元素合成によっ

て作られる(第7章参照)

ガスから作られた星は星風や超新星爆発を通じて再び星間ガスへと

還元されるその際星内部で合成された重元素を含んだガスがまき散ら

されるので次に生成される星はより金属量の多い星になるこのサイク

ルが繰り返されることで時間とともに宇宙の中で重元素量が増加してき

たと考えられているしたがって銀河の中の星やガスの金属量は過去

にその銀河でどれだけの星が生まれて重元素をまき散らしてきたかを反映

しており銀河の星形成史を理解するために重要な観測量である

前節で述べたように星の金属量はその色に影響を与える特定の波長

で測定した銀河の色からその銀河を構成する星の金属量を推定すること

ができるが不定性は比較的大きい高い精度で金属量を測定するには

各重元素およびそのイオンの吸収線を調べる必要があるこのためには高

いSN でスペクトルを得る必要がある

21

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 22: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

また大質量星が数多く存在する銀河では水素(や重元素)が電離

されHII 領域が形成されているそこから放射される各重元素(中性原子

とイオン)の輝線と水素原子からの輝線の強度比からガスに含まれる金

属量を推定できる一般に吸収線よりも輝線の観測の方が容易である遠

方の銀河のガスの金属量についても輝線の観測による測定が進められて

いる

3-7 環境

 銀河は宇宙の中で一様に分布しているわけではなく一般的な低密度領

域(フィールドと呼ばれる)から銀河群や銀河団などさまざまな環境に

分布している(第3章参照)銀河団のように多数の銀河が非常に密集し

た場所にいる銀河から大規模構造のフィラメントやシート状の構造の中

にいる銀河ボイドと呼ばれるわずかな数の銀河が非常にまばらに分布し

ている場所で孤立している銀河までさまざまな環境に置かれた銀河が存

在する現在の宇宙では銀河団のように銀河が密集している領域では楕

円銀河やS0 銀河が多く銀河の数密度が低い場所では渦巻銀河が多いこ

と が知ら れ て お り こ れ を 形 態 密度関係(minus morphology-density relation )と呼ぶ(図5-12)また銀河の数密度が高い環境ほど星

が新たに生まれずに古い星ばかりの銀河が多く密度が低い環境にある銀

河は星が活発に生まれているものが多いこのように銀河の置かれた環

境と銀河の物理的性質の間には密接な関係がある

 では環境はどのようにして銀河に影響を与えるのだろうか考えられ

る物理過程のひとつは近接した銀河同士による重力相互作用である互

いの銀河に潮汐力が働くことで形態が非対称な形に歪められたり銀河の

中のガスにも潮汐力が及んで衝撃波が起きたりガスが銀河中心に落ち込

んでいくことにより活発な星形成が起こってガスが消費されることが期

待されるさらに銀河同士が衝突合体すると大規模な星形成と形態の大

きな変化が起こった後楕円銀河的な形態に進化すると考えられている

銀河が密集している環境ではこのような銀河同士の近接相互作用が頻繁

22

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 23: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

に起こることが期待される

また銀河団の中では銀河団を満たしている高温プラズマと銀河と

の相互作用によって銀河内のガスがラム圧(ram pressure 動圧とも

いう)によってはぎ取られることがある

銀河が誕生し始めた宇宙初期においては将来銀河団になるような領

域はダークマターの密度がまわりに比べて高くガスから星が生まれる条

件が満たされやすいために周囲よりも早い時期に銀河形成が起こったの

ではないかとも考えられている銀河が誕生してから現在に至るまでの

どの時代における環境効果が銀河の性質にもっとも強く影響を与えている

のかについては現在のところはっきり分かっていない

 銀河の環境の測定方法には2 種類ある一つは天球面上をある大きさ

のマス目に分けて各マスに入っているある基準以上に明るい銀河の個

数を数える方法であるもう一つは各銀河からある一定の距離以内にど

れだけの数の銀河がいるかを測る方法である一定の距離の代わりに各

銀河から5番目に近い銀河までの距離や10番目に近い銀河までの距離を

使いその距離より内側の領域にある銀河の数密度を評価してもよい

またあるスケールでの銀河の空間分布の疎密の度合いを測る指標と

して2点相関関数がよく使われる(第3章参照)こちらは個々の銀河

がどれくらいの密度の環境にいるのかを測るのではなくある特定の種類

の銀河や特徴を持つ銀河が各距離スケールにおいて一様分布の場合と比

べてどれだけ強く密集しているかを統計的に測定する方法である一般に

銀河の環境を測定するためにはその環境を構成している多数の銀河の距

離を高い精度で決定する必要があり大規模な赤方偏移サーベイが必要に

なる(第3章参照)

23

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 24: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図5-12銀河の形態 密度関係横軸は銀河の数密度縦軸は楕円銀minus河S0 銀河渦巻銀河の割合を示すそれぞれが楕円銀河が

S0 銀河times が渦巻銀河+不規則銀河( Dressler A 1980 ApJ 236 351 より改変)

4  銀河の形態と性質

この節では本章の2節で分類された現在の宇宙で見られる各種類の

銀河がそれぞれどのような物理的性質を持つのかについて簡単に紹介する

4-1 楕円銀河とS0 銀河

 楕円銀河とS0 銀河は渦巻銀河や不規則銀河と比べて可視光の波長帯

での光度が明るい銀河の割合が高くしたがってより星の総量が多い銀河

が多いこれらの銀河は銀河団など銀河が密集した場所に多く存在してお

り銀河団の中心領域では大部分の銀河が早期型銀河である一方で銀

河のあまり集まっていない場所ではこれらの銀河の割合は比較的低い

 現在の宇宙においては早期型銀河はほとんど例外なく赤い色を示して

おりこれらの銀河では新しく星が生まれておらず古い星から構成され

ていることがわかる表面輝度分布はおおよそドボークルール則に従って

24

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 25: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

おり晩期型銀河と比べて銀河の中心部分に光度が集中している傾向があ

る 

 明るい楕円銀河では表面輝度分布の等高線(等輝度線isophote と

呼ばれる)の長軸の向きが表面輝度によって変化する現象が観測されてい

るこれはこれらの銀河の構造が3軸不等の回転楕円体であることを示唆

している楕円銀河ではおもに星のランダムな運動によってその構造が維

持されておりその速度分散が方向によって異なる大きさを持っているこ

とが3軸不等構造の原因だと考えられている

 また楕円銀河の等輝度線の形を詳しく調べると純粋な楕円からのずれ

が見られ楕円銀河は箱型(boxy )楕円銀河と円盤型(disky )楕円銀

河に細分される(図5-13)それぞれの種類の銀河の中における星の

運動を調べると円盤型では比較的大きな速度の回転運動が見られるのに

対して箱型では回転運動は弱くランダム運動が支配的であることがわか

るこの点で箱型と比べて円盤型の楕円銀河は晩期型銀河に近い性質を

持っているといえるそのためハッブル系列の楕円銀河の部分を図5-

5のように見かけの扁平率の順番に並べるかわりに左側に箱型右側に

円盤型の楕円銀河を配置した改良版のハッブル系列が使われることも多い

(図5-14)

図5-13円盤型楕円銀河(左)と箱型楕円銀河(右)の等輝度線の模

式図比較のため理想的な楕円とともに示してある(Bender R et al 1988 AampAS 74 385 より改変)

25

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 26: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図5-14改良版ハッブル系列楕円銀河を見かけの扁平率の順番では

なく左から箱型円盤型の順番で並べているまたSc SBc 銀河のさ

らに右側に不規則銀河が追加されている

(Kormendy amp Bender 1996 ApJ 464 L119 より改変)

 すでに述べたように早期型銀河は基本的に赤い色を示すその中でも

明るい銀河ほどより赤い色を示す傾向がありこれを早期型銀河の色 等minus級関係(color-magnitude relation )と呼ぶ(図5-15左)銀河のス

ペクトルの特定の波長に現れる重元素の吸収線の観測などから質量の大

きい早期型銀河ほどより金属量の多い星で構成されていることがわかって

おりこれが色 等級関係のおもな原因と考えられているminus 

図5-15(左)早期型銀河の色等級関係明るい銀河ほど赤い色を示

す(Chang Ret al 2006 MNRAS 366 717 ) (右)楕円銀河

の基準平面サイズ速度分散平均表面輝度の3つのパラメータか

らなる三次元空間上で楕円銀河は一様に分布するわけではなくある

26

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 27: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

平面上に分布する図の縦軸はその平面を真横から見ることに対応す

るように速度分散と表面輝度を組み合わせたものになっている実線

が基準平面を示しており楕円銀河はその線に沿った分布をしていて

平面の厚み方向のばらつきは非常に小さいことがわかる

(Djorgovski S amp Davis M 1985 ApJ 313 59 より改変)

 また楕円銀河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が低い傾向が

あり発見者の名前にちなんでコルメンディ関係(Kormendy relation )

と呼ばれている一方楕円銀河の光度と星の速度分散の間には光度が

速度分散の4乗にほぼ比例するという関係がありこれは発見者の名前に

ちなんでフェイバー ジャクソン関係(minus Faber-Jackson relation )と呼

ばれている

 さらに楕円銀河のサイズ星の速度分散および平均表面輝度の3つ

観測量の間にはrepropσ5 4 I eminus56 という関係があるそのためこれらの

観測量(の対数)を3軸にとったパラメータ空間上では楕円銀河はこの

関係に従っ た あ る平面 上 に 分 布 す る こ れ を 楕 円 銀 河 の 基 本平面

(fundamental plane )と呼ぶ(図5-15右)楕円銀河では力学的平

衡状態にあってビリアル定理が成り立っていることおよびこれらの銀河

の質量 光度比が他の物理的性質にあまり依存せずに同じような値であるminusことがおもな要因になって基本平面が実現されていると考えられている

4-2 渦巻銀河

 渦巻銀河は早期型銀河と比べて可視光光度が比較的暗いものまで幅

広く分布しているただし低光度の銀河の割合が多いのは晩期型渦巻銀

河であり早期型渦巻銀河は比較的明るい銀河の割合が多い

 銀河団など銀河が密集した領域では渦巻銀河の割合はあまり高くないが

銀河がそれほど密集していない宇宙のより一般的な場所では渦巻銀河が

多い渦巻銀河のバルジ成分は赤い色をしており比較的古い星から構成

されていてその性質は早期型銀河との類似点が多い円盤成分は青色を

しており若い星が多く新しく星が生まれている星の材料である星間

27

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 28: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

雲の大部分はこの円盤成分に付随している円盤の半径方向で見ると水

素分子ガスは比較的中心部に集中して分布しているのに対して中性水素

ガスは星の分布よりもはるかに外側まで分布している円盤成分には星間

雲とともにダストも存在しており可視光の波長で円盤を横から見ると

このダストによる吸収によって円盤の中央部に黒い筋(ダストレーン

dust lane と呼ばれる)が見える(図5-3右)

銀河全体での色はバルジ成分が明るい早期型渦巻銀河ではより赤く円

盤成分がより明るい晩期型渦巻銀河では青くなる(図5-16下)星に

対する星間雲の質量比も早期型渦巻銀河から晩期型渦巻銀河へ移るに従っ

て増加する傾向があり晩期型渦巻銀河ほど星の材料であるガスに富んで

いる(図5-16上)渦巻銀河のガスの金属量については明るく質

量の大きい銀河ほど金属量が高い傾向があることが知られている(図5-

17左)

 渦巻銀河の表面輝度分布はバルジ成分が卓越している中心部では早期

型銀河と同様のドボークルール則的なプロファイルで円盤成分が支配的

になる外側の方では指数関数則に従っている(図5-11)渦巻銀河の

円盤成分は回転運動によりその形状を維持しているがその回転速度を各

半径で見てみると(回転曲線)中心付近を除くと半径によらずほぼ一定

の値を持つ傾向がある(第4章参照)これはダークマターを含めた質

量密度が半径の2乗に反比例するような分布であることを示唆している

28

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 29: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

 図5-16(上)銀河の形態と中性水素原子ガスの質量と可視光

(B バンド)の光度との関係可視光の光度が大雑把に星の量を表わすの

で縦軸はおおよそ星に対するガスの質量比とみなすことができる

(下)銀河の形態と可視光での色の関係(Roberts M S amp Haynes M P 1994 ARAampA 32 115 より改変)

 また渦巻銀河の光度と回転速度の間には光度が回転速度のおよそ3

~4乗に比例する関係があり発見者の名前にちなんでタリー フィッminusシャー関係(Tully-Fisher relation )と呼ばれる(図5-17右)

29

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 30: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図5-17(左)晩期型銀河の光度とガスの金属量の関係横軸は絶対

等級縦軸はガス中に含まれる水素原子の数に対する酸素原子の数を対数

で示しておりガスの金属量を表すよい指標である点線は全体の銀河の

分布をもっともよく表す直線を示す4本の実線は上下の2本が各光度で

銀河全体の95が含まれる金属量の範囲を中央付近の2本は68の

銀 河 が含まれる範囲をそれぞれ示している ( Tremonti C A et al 2004 ApJ 613 898 より改変 )   (右) 渦 巻 銀 河 のタリー フィッminusシャー関係横軸は回転速度縦軸は絶対等級を表わすが可視光(Bバンド)が近赤外線(K バンド)での明るさを使った場合(Bell E F and de Jong R S 2001 ApJ 550 212より改変)

 近赤外線の光度を使うと回転速度の約4乗に比例するのに対して可視

光のB バンド(波長450nm 帯)の光度では回転速度のおよそ3乗に比例

するこの違いは可視光ではダストによる星間減光や星の質量 光度比minusの影響を受けていることが原因であるしたがって銀河の星質量をよく

表わす近赤外線の光度と回転速度の関係の方がより基本的な物理的性質

を反映していると考えられている

 渦巻銀河の光度サイズ回転速度の間には楕円銀河の基本平面と同

様に相関関係があることが知られておりこれをスケーリング平面と呼ぶ

ことがあるこの相関関係は回転運動によって重力と釣り合っているこ

30

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 31: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

とと質量 光度比がどの渦巻銀河でもあまり変わらないことに起因してminusいると考えられている

4-3 不規則銀河

 不規則銀河は渦巻銀河よりもさらに可視光の光度で暗い傾向があり

現在の宇宙では比較的明るい銀河における不規則銀河の割合は低い色は

渦巻銀河よりも青い銀河が多く活発に星が生まれていて若い星の割合

が大きい名前が示すとおり非対称で規則性に乏しい形をしているが不

規則銀河長軸と短軸の比の分布を統計的に調べると回転楕円体よりは円

盤状の構造を持つ傾向が示唆されている

 不規則銀河の中には大きな銀河と近接しているものがありこれらの

銀河は近くの銀河との重力相互作用(潮汐力)によって不規則な形態に

なったものと考えられている

 不規則銀河はガスに富んでいるものが多く星の質量に対するガスの質

量は渦巻銀河と比べても大きい(図5-16上)星の分布よりもはるか

に外側までガスが分布している不規則銀河も存在する

 不規則銀河のガスの金属量は少なくとくに光度の暗い銀河ほどガスの

金属量が少ない傾向があるガスから星が作られることで銀河が進化して

いくという観点から考えるとこれらの特徴は不規則銀河の多くが銀河進

化の初期段階にあることを示唆している

4-4 矮小銀河

 矮小楕円銀河は赤い色をしており古い星から構成されている明るい

楕円銀河と比べるとやや青く楕円銀河の色等級関係の光度の暗い方への

延長線上に分布しているまた星の金属量も明るい楕円銀河と比べて低

く質量が小さい楕円銀河ほど金属量が低いという傾向に合致している

ガスは星の質量と比べて非常に少ない星の回転運動はほとんど見られず

ランダム運動によってその形状を保っていると考えられている

31

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 32: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

一方矮小楕円銀河と矮小楕円体銀河の表面輝度分布は明るい楕円銀

河とは異なり指数関数則によって表されることが多いただし表面輝度

プロファイルの形は光度に依存しており明るくなるにつれてドボーク

ルール則に近づいていく傾向があるまた矮小楕円銀河と矮小楕円体銀

河にはサイズが大きい銀河ほど平均表面輝度が明るい傾向がありこれ

は明るい楕円銀河のコルメンディ関係(本章4-1節参照)とは逆の傾向

になっている早期型矮小銀河は明るい銀河に付随していることが多い

 矮小不規則銀河は色が青く現在も星が新たに生まれていて若い星が多

い一般に矮小不規則銀河は星質量と比べて豊富なガスを持っているこ

れらのガスの空間分布は可視光での形態と似て複雑な形態を示すがガス

の回転運動が観測されている銀河も多い一方質量への寄与は小さいが

古い星の成分も存在しておりこれらは比較的対称性のよい分布をしてい

て指数関数則に従う表面輝度分布を示すガスの金属量は明るい渦巻銀

河や不規則銀河と比べて少ないが光度が明るい銀河ほどガスの金属量が

高い傾向があり明るい渦巻銀河や不規則銀河で見られる傾向と合致して

いる矮小不規則銀河は周辺に銀河が存在しない孤立した環境で発見さ

れることが多い

4 5 スターバースト銀河minus

 銀河の形態とは関係ないがここでスターバースト銀河 (starburst galaxy) と呼ばれる激しい星生成を経験している銀河を紹介しておく活

動銀河中心核(第12章)の研究と相まって1980年代から銀河中

心領域で激しい星生成が発生している銀河が注目されるようになったま

た1984年太陽光度の1兆倍ものエネルギーを赤外線で放射してい

る超高光度赤外線銀河 (ultra luminous infrared galaxy ULIRG) が発

見されたこれらULIRG のエネルギー源もスターバーストが原因になって

いる(ダストが大質量星の紫外線で数十K に温められ赤外線を放射して

いる)したがって銀河の進化の過程ではスターバーストという激し

いモードの星生成現象も重要であることが認識されるようになった

32

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 33: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

 スターバーストの明確な定義はないが短い期間(数千万年)に大質量

星(10M 以上の質量を持つ星)が1万個以上生成される現象である

ULIRG の場合は生成される大質量星の個数は1億個にもなるスターバー

ストで生成された大質量星は数千万年以内に超新星爆発を起こして死ぬ

したがってスターバーストの後には必ず超新星爆発が連鎖的に起こる

フェーズがやってくる多数の超新星残骸が重なり合い高温のプラズマ

からなるスーパーバブルが形成されるこのスーパーバブル内の圧力に

よって銀河の中にあるガスが吹き上げられ銀河の外側まで流れ出してい

くことがあるこれを銀河風 (galactic wind)あるいはスーパーウイン

ド (superwind) と呼ぶ

 スターバースト銀河は相互作用銀河(interacting galaxy) でよく発見さ

れるまたULIRG はほぼ全てが合体銀河 (merging galaxy あるいは

単に merger) である銀河の合体には2 種類ある一つは普通の銀河同

士が合体するものでメジャーマージャー (major merger) と呼ばれ

るもう一つは普通の銀河とその衛星銀河 (satellite galaxy) が合体す

るものでこちらはマイナーマージャー (minor merger) と呼ばれて

いるULIRG は明らかにメジャーマージャーを経験している一方ス

ターバースト銀河の方はマイナーマージャーを経験しているものが少な

からずあるしたがってスターバーストは何らかの外的要因に起因して

発生可能性が高く銀河円盤で発生する普通の星生成のモードとは異なる

 しかし次節で紹介するように銀河は小さな構造から大きな構造へと

合体を繰り返しながら進化してきたことが示唆されているその意味では

スターバーストというモードも銀河進化の一翼を担っていると考えた方が

よいだろう実際本章の6 3節で紹介する遠方銀河(若い銀河)の中minusには明らかにスターバーストを起こしているものが圧倒的に多い

5  銀河形成論

 宇宙は誕生以来137億年に渡り膨張を続けて現在に至っている(第

1章参照)銀河は宇宙の始まりから存在していたわけではなく宇宙の

33

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 34: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

進化が進む中で形成され成長して現在の宇宙で見られる姿に進化してき

たこの節ではどのようにして銀河が形成されたのかについて現在考

えられている描像を紹介する

 第1章でみたとおり現在の宇宙で見られる構造は初期宇宙における

微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって成長してできあがったものだと

考えられている物質が放射に対して優勢な時期になると宇宙の質量の

大部分を占めるダークマターの微小な密度ゆらぎが成長し始め密度の非

一様性が大きくなる最初まわりよりわずかに密度が高かった領域はみ

ずからの重力でまわりの物質を集めつつ収縮しますます密度が高くなる

そしてやがて収縮が止まり粒子のランダム運動で形状が維持されるダー

クマターハローとなる(第1章参照)観測から求められた密度ゆらぎ

のパワースペクトルは小さな質量スケールほどゆらぎのコントラスト

(でこぼこ具合)が大きいことを示しており(第3章参照)小さい質量

のダークマターハローがまず形成されたと考えられるその後近傍に

あるハロー同士が合体を繰り返すことによって時間とともに次第に質量

の大きなダークマターハローに成長する(図5-18)

 一方放射(光子)の圧力によって密度ゆらぎが成長できなかったバリ

オン成分(陽子や中性子からなる物質ここではおもに水素からなるガス

第1章参照)は光子の脱結合後光子から切り離されてダークマター

の重力に引きつけられることで密度ゆらぎが成長するダークマター

ハローができた時にはその中のバリオンのガスはハローの質量に応じた

平衡温度になると考えられるしかしダークマターと異なりバリオン

ガスは電磁波を放射することでエネルギーを放出することができるその

結果系の温度は下がっていく(放射冷却radiative cooling )

 温度が下がると運動エネルギーが小さくなり重力を支えきれなくなる

のでさらに収縮して密度が高くなる100万K 程度の温度では電離し

たガスからの制動放射1万K 程度ではおもに水素やヘリウム他の重元

素原子からの輝線放射によってガスは冷えるこのガスの冷却が効率よく

起こるとガスは収縮し続け分子雲を経て星が形成されると考えられて

いるガスが力学的平衡状態に落ち着くことなく星が生まれるまで効率

34

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 35: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

的に冷却される条件は温度と密度でおおよそ決まるこの条件が満たされ

るダークマターハローの質量は100億から10兆M と見積もること

ができるがこれはまさに観測された銀河の総質量の範囲とおおよそ合致

している

 このような過程を経て星の集団としての最初の銀河が生まれたのが宇宙

誕生後およそ数億年の頃であると考えられている実際5-6節で述べ

るように宇宙年齢5億年の時代の銀河が発見されており少なくとも宇

宙年齢5億年には銀河が存在していたことがわかっている銀河の誕生後

はダークマターハローに新たに物質が落ちてきてさらに星が作られ

るまたダークマターハロー同士の合体によってより大きな銀河に

成長すると考えられるこのような銀河進化のシナリオを階層構造的クラ

スタリングシナリオ (hierarchical clustering scenario) と呼ぶ

図5-18銀河形成の概念図初期宇宙の微小な密度ゆらぎが成長して

ダークマターハローが形成されるハローは合体をくりかえしながらよ

り質量の大きなハローに成長するハローが形成される時にその中のガス

は加熱されるがその後放射冷却によって温度が下がりさらに収縮が進

むとやがて星形成が起きる

一方で銀河の中においては新たな星の形成を阻害する過程も存在

する星が作られると質量の大きい星は比較的短時間で超新星爆発を起

こす(第7章参照)その爆発によってガスにエネルギーが注入され温

35

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 36: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

められると(ガスの冷却と逆の効果になり)星の形成が抑制される多

くの超新星爆発が起きる場合には銀河の中のガスをダークマターハ

ローの外まで吹き飛ばしてしまう可能性もあるまた活動銀河中心核

(AGN 第12章参照)からの強い放射やジェットも超新星爆発と同

様にガスにエネルギーを与えて星形成を抑制する可能性があるこれらの

超新星爆発や AGN に よ る 星 形 成 を抑制す る効果をフィー ドバッ ク

(feedback )と呼ぶまた他の銀河やクェーサー(第12章参照)か

らの強い紫外線放射にさらされている場合にも水素ガスが温められるこ

とで(水素ガスは電離される)やはり星形成が抑制される可能性がある

 このようにおもに重力のみが働いているダークマターと比べてバリ

オンガスにはさまざまな物理過程が働いているただし銀河における星

生成の物理過程はまだはっきりとはわかっていないのが現状である

6  銀河の進化

 ここでは銀河が誕生してからどのように進化してきたかについてお

もに遠方の銀河の観測からこれまでに分かってきたことを紹介する

6-1 遠方銀河観測と銀河進化

 137億年前に宇宙が始まってから現在まで銀河がどのように形成

進化してきたのかを調べる上で宇宙論的な遠方にある銀河の観測は非常

に強力で必要不可欠な手段となっている光は真空中を毎秒約30万キ

ロメートルの有限の速さで進むため(第1章参照)天体からの光が我々

に届くまでには有限の時間がかかるたとえば太陽から地球の距離はお

よそ1億5000万キロメートルで太陽から出た光は地球に届くまで約

8分かかるそのため私たちが今見ている太陽は約8分前に太陽から出

た光であり常に8分前の太陽の姿を見ていることになるつまり光速

度が有限なので遠方の天体を観測するとその天体の過去の姿を見るこ

とになる250万光年の距離にあるアンドロメダ銀河からの光が地球に

36

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 37: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

届くまでには250万年かかるので現在観測しているアンドロメダ銀河

は250万年前の姿である同様に10億光年の距離にある銀河なら1

0億年前100億光年先にある銀河なら100億年前の姿を見ることが

できる

 したがってさまざまな距離にある銀河を多数観測することで各時代

における銀河の平均的な性質を調べることができるこのとき大切なこと

は十分広い領域の探査を行うことである宇宙の密度ゆらぎのコントラ

ストは大きな空間スケールほど小さいのでより広い領域(100 Mpc 以上

のスケール) に渡って平均をとれば宇宙の場所ごとの違いが小さくなる

ことが期待される(第3章参照)なお場所毎に銀河分布の性質が異な

ることはコズミックヴァリアンス(cosmic variance )と呼ばれる

結局銀河進化の平均的描像を得るには(1)昔まで時間をさかの

ぼるために非常に遠方の(すなわち非常に暗い)銀河まで観測することと

(2)各時代でなるべく広い領域に渡って数多くの銀河を観測すること

の2 点が重要になる

6-2 赤方偏移サーベイによる銀河進化の研究

 5-3節で述べた銀河の物理的性質の多くを観測から求めるためには

銀河までの距離の測定が必要不可欠である遠方銀河の観測によって銀河

の進化を調べる場合個々の銀河までの距離はその銀河がどの時代の銀河

なのかを決定づける点でもっとも重要な観測量といえる遠方の銀河ま

での距離を測定する基本的な方法は分光観測を行って銀河のスペクトル

を得ることである銀河のスペクトル上に現れる輝線や吸収線連続光の

ジャンプといった特徴はそれぞれ特定の波長で銀河から放射されるので

観測された特徴がどの波長に現れたかを調べることでその銀河の赤方偏

移を測定することができる

 赤方偏移サーベイとはある天域の中で一定の見かけの等級より明るい

銀河をすべて分光観測し赤方偏移(銀河の距離)を測定する探査法のこ

とである(第3章参照)宇宙地図を作成し宇宙の大規模構造を調べる

37

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 38: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

ことを目的としたものだが得られたデータから銀河の進化も調べること

ができる

 赤方偏移がz~01程度(約10億光年の距離に相当)の比較的近傍銀河

のサーベイとしては2000年代に入って2dF とSDSS がそれぞれお

よそ20万個100万個という大規模な銀河サンプルを使って現在の

宇宙における銀河の光度や色形態などの統計的性質を非常に高い精度で

明らかにしたこれらは遠方銀河の観測結果と比較するための基準として

銀河進化の研究の基礎となっている

サ ー ベ イ

赤方偏移 銀河の個

望遠鏡 特徴

CFRS 0ltzlt1 1000 個 CFHT 遠方銀河分光の先駆

VVDS 02ltzlt12

10 数万

VLT 非常に多数の銀河を

分光

DEEP2 07ltzlt13

5 万個 Keck 質のよいスペクトル

zCOSMOS 02ltzlt12

4 万個 VLT HSTとの組み合わせ

表5-1主なz~1の赤方偏移サーベイ

 宇宙論的に遠方の銀河の研究を目的とした赤方偏移サーベイの先駆けと

なったのは1990年代後半に行われたカナダフランス赤方偏移サー

ベイ(Canada France Redshift Survey CFRS )であるCFRS は口径

36m のCFHT(Canada France Hawaii Telescope) 望遠鏡を使って赤方偏

移が0ltzlt1 の約1000個の銀河の赤方偏移を測定したその結果約

80億年前の宇宙では現在より明るい銀河の数が多く現在よりもずっ

と活発に星が生まれていたことを明らかにした(本章6-4節参照)ま

た同時期に本格的に活躍し始めていたハッブル宇宙望遠鏡( Hubble

38

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 39: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

Space Telescope HST )の観測が行われ80億年前の活発に星が生ま

れている銀河の多くは不規則な形態を示す銀河であることがわかった

 2000年代に入るとKeck 望遠鏡やVLT(Very Large Telescope) な

どの口径8-10m 級の望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の赤方偏移サー

ベイが行われるようになった(表5-1)

 VVDS(VIMOS VLT Deep Survey) サーベイは10数万個に及ぶ銀河の赤

方偏移を測定し銀河の光度分布の進化を詳しく調べ宇宙における星形

成活動が約80億年前から現在までどのように低下してきたのかを明らか

にした

 DEEP2 サーベイ(Keck 望遠鏡の多天体可視光分光器DEIMOS を使用し

た銀河の分光サーベイLRIS を使用したサーベイはDEEP) は星がほと

んど生まれていない赤い銀河と星が活発に生まれている青い銀河の光度

や星質量の分布を調べ約80億年前の宇宙では質量の大きい銀河の半分

近くが活発に星を生成していることを発見した(現在の宇宙では質量の大

きな銀河ではほとんど新たに星が生まれていないことに注意)

 質量の小さい銀河は今も昔もその多くで星が新たに生まれている銀河

が多いが約80億年前から現在までの間に質量の大きい銀河の多くで星

形成が止まったことを銀河進化のダウンサイジング(downsizing )と

いうつまり宇宙の中でおもな星形成活動(銀河の成長)が起きている

場所が時間とともにしだいに質量の小さな銀河だけに限られていくこと

を意味する

 一方HSTやすばる望遠鏡など世界中の望遠鏡を使ったさまざまな波

長帯での観測プロジェクト(多波長サーベイと呼ばれる)の一つとして

COSMOS (宇宙進化サーベイ)プロジェクトがあるこの一環として行

われている赤方偏移サーベイzCOSMOS では銀河進化と環境の関係に着

目した研究が行われている上で述べたように質量の大きい銀河ほど星形

成が止まりやすい傾向がある一方で本章3-7節で述べたように銀河が

密集 し た環境ほど 星 形 成 を行っ て い な い 銀 河 が 多 い傾向が あ る

zCOSMOS ではこの2つの傾向を約80億年前から現在までに渡って調

べたその結果銀河の質量に関係する星形成を止める機構と銀河の環境

39

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 40: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

に関係する星形成を止める機構は互いに独立している可能性が示唆され

ている

 上記の3つのサーベイより規模は小さいがHSTの撮像観測プロジェク

トと連動した赤方偏移サーベイも行われている一般に遠方銀河は小さく

見えるので地上からの観測では地球大気の効果(星がまたたいて見える

効果)で像がぼやけてしまい赤方偏移が03 を超えるような銀河の形態

の詳細を調べることは困難である一方HSTは大気圏外から観測している

ために地球大気の影響を受けず高い空間解像度で観測できる(第16章

参照)最近では補償光学(adoptive optics )という大気のゆらぎの影

響を軽減する技術が発達したのでむしろ地上の大望遠鏡の方がHSTより

高い空間解像度を得ることも可能になってきているしかし現状では補

償光学を使った観測は狭い視野に限られる欠点があるこの点でHSTは遠

方銀河の形態を調べる上で非常に強力な手段となっており多数の遠方銀

河の形態についての統計的研究は大部分がHSTを用いて行われてきている

サーベイ名 バンド 面積 ( 平方分)

限界等級

HDF U B V I 5 ~28HDF South U B V I 5 ~28HUDF B V i z 10 ~29GOODS B V i z 320 ~275GEMS V z 900 ~27COSMOS I 7200 ~27表5-2ハッブル宇宙望遠鏡による主な撮像サーベイ

遠方銀河の研究におけるHST撮像サーベイの先駆けは1990年代

半ばに行われたハッブルディープフィールド(Hubble Deep Field HDF)であるHDFは約5平方分角の領域を合計100時間以上かけてひ

たすら観測することによりそれ以前の観測と比べてはるかに暗い天体

40

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 41: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

まで検出することに成功し遠方銀河研究に衝撃を与えたHDFは非常

に遠方の銀河探査においてその威力を見せつけたが0ltzlt1 の時代にお

ける銀河の形態進化の研究にも大きく貢献したその後HDFと同様の観

測がHDF-South として南天で行われた後2000年代に入ってHSTに

搭載された新型カメラ( Advanced Camera for Surveys )を用いて

ハ ッ ブ ル ウ ルトラ ディープフィー ル ド ( Hubble Ultra Deep Field HUDF )が行われHDFよりもさらに暗い銀河を発見研究でき

るようになった(表5-2)HUDF が深さ(より暗い天体を検出するこ

と)を追求したのに対して広さを追求した撮像サーベイも計画され南

北2つの160平方分の領域を持つGOODS サーベイや観測対象をzlt1の銀河に絞るかわりに約900平方分に渡る広さを持つGEMS サーベイが

行われた2平方度(7200平方分)に渡る上記のCOSMOS はさらに

広さに特化したHST撮像サーベイといえるこれらのHSTの観測と赤方偏

移サーベイの組み合わせによってz~1の宇宙では現在と比べて明るい

不規則銀河の数が急増していることその一方で現在の宇宙と近い数(少

なくとも半分程度以上)の楕円銀河や渦巻銀河もすでに存在していたこと

が分かっているまた本章3-7節で述べた銀河の形態 ‐ 密度関係も

このz~1の時代にすでに成立していたことが示唆されている

6-3 遠方銀河探査

 前節で紹介した赤方偏移サーベイで観測された銀河は赤方偏移が13 程度以下のものが大部分でありより遠方の銀河の割合は低いこれは同

じ見かけの明るさの場合手前にある比較的光度が低めの銀河と比べると

本来の光度が明るい遠方の銀河の数は非常に少ないからであるより遠方

の銀河ほど見かけが暗くなるので赤方偏移の測定のためにより多くの観

測時間が必要になる遠方の銀河を研究するために見かけが暗い銀河をす

べて観測してもその中で目的の遠方銀河の割合が非常に低いというこ

とでは効率が悪すぎるそこで赤方偏移が14 を超えるような遠方の銀

河を研究する際には比較的多くの時間が必要な分光観測を行う前に撮

41

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 42: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

像観測から得られる銀河のSED(あるいは色)を用いて遠方の銀河を選

出する手法が使われている

  そ の代表的 な方法の 一 つ が ラ イ マ ン ブレー ク法( Lyman break method )であるこの方法で選出された遠方銀河はライマンブレーク銀

河(Lyman break galaxy LBG )と呼ばれる

 またこの手法とは別に高赤方偏移銀河のライマンα 輝線を狭帯域

フィルターを用いた撮像観測でとらえることによって遠方銀河の選出を行

うこともよく行われているこの方法で選出された遠方銀河はライマンα輝線銀河(Lyman α emitter LAE )と呼ばれる

 ここではこれら二つの方法と検出された銀河の性質を解説するその

あとで他の方法を用いた遠方銀河探査について触れることにする

ライマンブレーク銀河

 波長が912nm より短い紫外連続光は水素原子を電離することができる

この特徴的な波長はライマン端(あるいはライマンリミット)と呼ばれて

いる銀河から放射される紫外連続光のうちライマン端より波長の短い

紫外線は星自身の大気や星間雲の中の中性水素原子にほぼ完全に吸収され

るそのためライマン端より短い波長では銀河からの放射は急に暗くな

るこの特徴をライマンブレークと呼ぶ

 遠方銀河の場合銀河間物質中の中性水素原子によって1216nm より

短い波長の光が吸収され実際には1216nm を境に暗くなることが多い

この急に暗くなる波長はその銀河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々

に届くたとえば赤方偏移z=3の銀河では912times (1+z )=3648 nm 以下の

波長ではほとんど光が届かず1216times (1+z )=4864nm より短い波長でも暗

くなっておりこれより長い波長では明るく見えるこの急に明るさが変

わる特徴を利用して遠方の銀河を選び出す手法がライマンブレーク法であ

る実際には他の距離にある銀河との区別をつけやすくするために図

5-19のようにライマンブレークより短い波長帯で1バンド長い方

の波長帯で2つのバンドを使って撮像観測を行うそうすると一番短い

42

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 43: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

波長帯では極端に暗い(ほとんどなにも映らない)のに対して真ん中と

長い波長帯では明るく観測されるこの特徴を持つ銀河を選び出せばそ

の多くが遠方の銀河というわけであるこの方法で選ばれた遠方の銀河を

ライマンブレーク銀河(Lyman Break Galaxy LBG )というライマン

ブレーク銀河に選ばれるためには(912nm より波長の長い)紫外線で

それなりに明るい必要があるので星が新たに生まれていてかつ紫外線

を吸収してしまうダストが少ない銀河が多い

 1996年に最初の赤方偏移z~3(約115億年前)のライマンブレー

ク銀河の発見が報告されたがそれまでは赤方偏移が2 を超える遠方の銀

河はクェーサーや電波銀河などのAGN (第12章参照)に限られてい

たそのような遠方のldquo 普通rdquo の銀河をたくさん見つられるようになった

という点でライマンブレーク法は遠方銀河の観測に革命をもたらしたと

いえる

図5-19ライマンブレーク法の概要実線は赤方偏移3の銀河に期待

されるスペクトル点線はライマンブレーク法に使われる3つのフィル

ターを示すこの例ではUバンドでは暗いがGバンドとRバンドで明

るい天体が赤方偏移3の銀河だと期待できる

ライマンブレーク法は適用する波長帯を長い方へシフトさせることで

43

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 44: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

より赤方偏移の大きな(より遠方の)銀河を探査できる実際に最初の発

見以降赤方偏移が45そして6を超えるライマンブレーク銀河が

次々と発見された赤方偏移が7を超えるとライマンブレークが可視光

から近赤外線の波長帯に移る近赤外線では地球大気が明るいため地上

の望遠鏡では非常に暗い遠方銀河の観測は難しいそのため赤方偏移が

7(約129億年前)を超えるライマンブレーク銀河の研究は主として

HSTを用いて行われている実際赤方偏移が8~10のライマンブレー

ク銀河の候補も見つかっているただしこれらの天体はあまりに暗いの

で現状では分光観測によって赤方偏移を確認された天体はない

ライマンα 輝線銀河

 銀河の中で新しく星が生まれていて大質量星が多くあるとその紫外線

によって水素が電離され(HII 領域第13章参照)その電離ガスから

水素や重元素の輝線がそれぞれ特定の波長で放射されるこの輝線を利用

して遠方の銀河を選び出すことができる選び出された天体は一般に輝線

天 体 ( emission-line object ) あ る い は 輝線銀 河 ( emission-line galaxy )と呼ばれる

図5-20ライマンα 輝線天体探査の概要実線は赤方偏移5の銀河に

期待されるスペクトル太い点線(斜線の領域)が狭帯域フィルターを表

し細い点線は広帯域フィルターを示すこの例では720nm 付近で観

44

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 45: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

測される銀河のライマンα 輝線がちょうど狭帯域フィルターに入って明る

くなる一方広帯域フィルターでは銀河の暗い部分も含めて広い波長を

観測するので比較的暗くなる

 具体的な方法としては特定の狭い波長帯だけの光を通す狭帯域フィル

ターと幅広い波長帯の光を通す広帯域フィルターを組み合わせる手法がよ

く使われる

 輝線を出している銀河はその輝線の波長でのみ特に明るい輝線は銀

河の赤方偏移に応じて波長が伸びて我々に届くがその輝線の波長が狭帯

域フィルターの波長と合致した時にその銀河は明るく見える(図5-2

0)同じ銀河を広帯域フィルターで観測すると広い波長で平均される

ことにより輝線の影響は弱くなりさほど明るく見えないこの広帯域観

測では暗いが狭帯域観測では明るい天体が輝線天体ということになるそ

の天体がどの輝線によって狭帯域観測で明るくなっているかが分かると

輝線ごとに銀河から放射された時の波長は決まっているので赤方偏移を

求めることができる

特に中性水素原子から1216nm の波長で放射されるライマンα 輝線

は赤方偏移が3~7の範囲で可視光の波長帯の狭帯域フィルターで観測

できるため遠方銀河探査でよく使われておりこの方法で選ばれた銀河

をライマンα 輝線銀河(Lymanα emitter LAE )と呼ぶこの手法による

探査は1990年代半ばまでなかなか成功しなかったが8m級望遠鏡で

より暗い天体まで観測することで遠方のライマンα 輝線銀河が発見される

ようになった

 輝線天体には選ばれた時点で赤方偏移が高い精度で特定されること

またその強い輝線により分光観測を使った赤方偏移の確認が行いやすいと

いった利点があるそのため1990年代後半にz=3を超えるライマン

α 輝線銀河が発見されるようになりその後続々とより高い赤方偏移の銀

河がこの手法で発見され2000年代の最遠方天体の記録更新に大きく

貢献した(本章6-5節参照)日本のすばる望遠鏡は一度に広視野を撮

像できる能力によってライマンα 輝線探査の手段として非常に強力であ

45

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 46: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

り多数の赤方偏移が6を超えるライマンα 輝線銀河を発見したこれら

のライマンα 輝線銀河は銀河形成だけではなく宇宙再電離(第14章参

照)の様子を知るための重要な手がかりとなっている

ライマンα 輝線銀河の多くは比較的質量が小さく非常に若い星か

ら構成されている傾向があるしかしどのような物理的条件で銀河から

強いライマンα 輝線が出るのかについてはいまだにはっきりとはわかっ

ていない

その他の手法で選出された遠方銀河

(1) バルマーブレーク法による遠方銀河探査

 ライマンブレークの代わりにバルマーブレークと4000Å ブレークと

呼ばれる360~400nm の波長を境に短い波長側で急に暗くなる特徴を

利用して遠方の銀河を選び出す方法もあるそのひとつは近赤外線のJバンド(12μ m帯)とK バンド(22μ m帯)の色(J-K )が特に赤い

銀河を選び出す方法でこの手法で選び出された銀河は遠方赤色銀河

(Distant Red Galaxy DRG )と呼ばれるこれらはおもに赤方偏移が2

~4の銀河でバルマーブレークと4000Å ブレークが赤方偏移して

036times (1+z ) 040times (1+z )=12 20μmの波長で観測されるこれらの銀河はブ

レークより短波長側のJ バンドでは暗いのに対して長波長側のK バンド

で明るくなりその結果J-K の色が非常に赤くなる

遠方赤色銀河は強いバルマーブレークと4000Å ブレークを示す比

較的古い星で構成された銀河か活発に星が生まれているがダストによる

吸収が大きいことにより赤くなっている銀河で比較的大きな星質量を持

つ可視光や近赤外線の波長帯で赤く紫外線で暗いまた星質量が大き

いといった物理的特徴はライマンブレーク銀河やライマンα 輝線銀河と

は対照的であるライマンブレーク法やライマンα 輝線天体探査では見逃

されていた銀河を発見できるという点で遠方赤色銀河はこれらの方法と

相補的な関係にある

46

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 47: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

(2 ) BzK法で検出された遠方銀河

 バルマーブレークを使ったもうひとつの方法にBzK法(B z Kの3バ

ンドを使うことからこう呼ばれる)があるおもに赤方偏移が14~25 の

銀河をz バンドとK バンドの間に赤方偏移したバルマーブレークが入る

ことを利用する方法である選ばれた銀河はBzK 銀河と呼ばれるこの方

法は赤い青いといった銀河のスペクトルの特徴にあまりよらずにそ

の赤方偏移にある銀河の大部分を選び出せるという利点があるこれらの

バルマーブレーク4000Å ブレークを用いた選択法も用いる波長帯

をより長い方へシフトさせることによってより遠方の銀河を探査するこ

とができる

(3) サブミリ波銀河

サブミリ波で検出される銀河は赤方偏移の大きい(たとえばz~1-4程度)のものが多いこれは数十K の温度のダストからの熱放射のピーク

が遠赤外線(波長約100μ m)にありこれが赤方偏移してサブミリ波帯

で観測されるからである一般にサブミリ波で発見された遠方の銀河をサ

ブミリ波銀河(sub-mm galaxy SMG)と呼ぶサブミリ波銀河では爆

発的な星形成にともなってダストが大量に作られていて多数の大質量星

からの紫外線放射がダストに吸収されそのエネルギーの大部分をダスト

の熱放射として遠赤外線の波長で出しているものだと考えられている

サブミリ波銀河はダストによる吸収が非常に強いので紫外線はおろ

か可視光でもほとんどの光が吸収され可視光から近赤外線の観測波長で

はほとんど検出されない銀河も存在するその点で上で述べた可視光か

ら近赤外線の観測を用いた遠方銀河の選択方法と相補的であるこれらの

銀河では非常に活発に星が生まれているので銀河が急速に成長してい

る進化段階と考えられるまたこれらの銀河は100億年以上前の宇

宙における星形成活動の大きな割合を占めていた可能性がある

47

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 48: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

なおSMG は近傍宇宙にあるULIRG と類似した性質を持っている

(4)測光赤方偏移による遠方銀河探査

 ここまでに紹介した方法は比較的少数のフィルターを使った撮像観測

で効率的に遠方の銀河を選び出す方法であったがこれらを全部組み合わ

せたような赤方偏移の決定法もある前節で述べたHDFを契機としてあ

るひとつの領域を多数の波長帯で撮像観測する多波長サーベイが行われ

るようになったこのような場合多くの波長帯での情報を同時に使うこ

とによって(分光観測することなく)赤方偏移を比較的高い精度で決定

することができる原理としては上述の方法と同様にライマンブレーク

やバルマーブレーク輝線などの特徴を捉えてそれらを本来の波長と比

較することによって赤方偏移を求めるというものだが情報が増える分

決定精度を上げることができるこのような方法で求められた赤方偏移を

測光赤方偏移(photometric redshift )と呼ぶこれは赤方偏移を決め

て遠方の銀河を選び出すだけではなく比較的広い波長に渡るスペクトル

の情報によって銀河の星質量や星の年齢ダスト吸収量星生成率など

の物理的性質を推定できるという利点もある

 以上見てきたように1990年代後半以降遠方銀河探査は飛躍的に

進展したこれらの観測から明らかになった初期宇宙における銀河進化の

様子については次節で紹介する 

6-4 宇宙における星形成史

 ここではおもに赤方偏移が1を超える遠方銀河探査によって見えてきた

銀河進化について紹介する特に銀河を構成する星々がどの時期にどの

程度生成されたかに焦点をあてる

 宇宙における星形成史を調べる際以下に紹介する二つの方法を用いる

ことが多い一つは銀河の紫外線光度関数の進化を赤方偏移の関数として

48

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 49: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

調べ る方法で あ る も う 一 つ は 宇 宙 に お け る 星 生 成率密度( star formation rate density )を赤方偏移の関数として調べる方法であるこ

れら二つの方法と結果を紹介した後でさらに関連する話題を紹介してい

くことにしよう

銀河の紫外線光度関数の進化

 遠方銀河の光は宇宙膨張により波長が伸びて我々に届くので遠方銀河

を可視光で観測するとその銀河の紫外線の光を見ていることになる銀

河の紫外線光度はその銀河における星生成率を反映しているので(本章3

-1節)紫外線光度関数を調べることでどの程度活発に星を作ってい

る銀河がどれくらい多く存在するかがわかる

図5-21はライマンブレーク銀河の紫外線光度の分布の進化をプ

ロットしたものである各赤方偏移での光度関数を比べてみると現在か

ら赤方偏移が2まで時間をさかのぼるにつれて明るい銀河の数が増えて

いることがわかる赤方偏移2から4までは似たような分布を示しそこ

からさらに昔赤方偏移7までは再び明るい銀河の数密度が減っている

したがって星生成率の高い銀河の数が宇宙初期の赤方偏移7から4ま

で時間とともに増加し赤方偏移4から2までの時代にもっとも多くなり

赤方偏移2から現在にかけて減少したことがわかる

49

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 50: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図5-21ライマンブレーク銀河の紫外線光度関数の進化横軸が銀河

の紫外線光度縦軸が各光度の銀河の単位体積あたりの数を示す左が赤

方偏移3から現在まで右が赤方偏移7から赤方偏移3までの進化を表し

ている現在から赤方偏移2-3までは昔の時代ほど明るい銀河の数が多

いのに対して赤方偏移3から7では昔ほど明るい銀河の数が少なくなっ

ていることに注意(Wyder T K et al 2005 ApJ 619 L15 Arnouts S et al 2005 ApJ 619 L43 Oesch P A et al 2010 725 L150 Reddy N A et al 2009 692 778 Bouwens R J et al 2011 ApJ 737 90 のデータから作成)

星生成率密度の進化

 各時代で宇宙の中でどれくらい活発に星が生まれていたかを表わす指標

として星生成率密度(star formation rate density SFRD )を使うことが

多いこれは宇宙の単位体積あたりの星生成率を表わす

 個々の銀河の星生成率を推定する方法は上記の紫外線光度を用いる方法

や大質量星によって電離されたHII 領域からの輝線の光度を使う方法

大質量星からの紫外線を吸収したダストが再放射する遠赤外線の光度を用

いる方法などがよく使われる

50

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 51: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

 図5-22はいろいろな方法で求めた各赤方偏移での宇宙の平均的な星

生成率密度をプロットしたもので提唱者の名前にちなんでマダウプ

ロット(Madau plot )と呼ばれるこれを見ると赤方偏移が7~8

(宇宙年齢にして約6億年)あたりから赤方偏移3(宇宙年齢約20億

年)まで次第に星形成が活発になっていき赤方偏移が3から1(宇宙

年齢およそ20~60億年)の間に最盛期を迎えて赤方偏移1から現在

までの約80億年の間に約110 程度にまで星生成率密度が減少してきた

ことがわかるこの宇宙の中でどの時代にどれくらいの星が作られてきた

かの歴史を宇宙の星形成史(cosmic star formation history )と呼ぶ宇

宙の歴史の中のおよそ130億年間の星形成史の描像が見えてきたことは

ここ15年ほどに渡る遠方銀河の観測的研究によるもっとも大きな成果と

いえる

図5-22宇宙の平均星生成率密度の進化横軸は赤方偏移(宇宙年

齢)縦軸は単位体積あたりの星生成率を表わす( Ouchi M et al 2009 ApJ 706 1136 より改変)

銀河の星質量関数の進化

51

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 52: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

 星の集団としての銀河の成長を考える上で銀河の星質量は星形成率と

並んで重要な物理量である光度関数と同様な考え方で星質量毎の銀河

の個 数密度を表したものが銀 河の星質 量関数( galaxy stellar mass function )であるいろいろな時代の星質量関数を求めることでどの時

代にどれくらいの規模の銀河がすでに存在したかを調べることができる

(図5-23左)これを見ると時間とともに銀河の数が全体的に増加

してきたことがわかる特に赤方偏移が1から現在までに比べると赤

方偏移3から1程度までの間に銀河の数が急速に増加しているまた異

なる星質量での進化の度合いに着目するとこの赤方偏移が3から1まで

の時代には1011M 程度の星質量を持つ銀河の数が特に大きく増加した

可能性がある図5-23(右)は宇宙の平均星質量密度の進化を示した

もので各時代に宇宙の中にどれだけの量の星があったかを表している

星質量密度は星生成率密度と同じようにある体積の中に存在する銀河の

星質量を合計してそれを体積で割ることにより求められている図5-

23(右)は宇宙全体で星の総質量が時間とともに増加していった様子を

表している時代ごとの増加の度合いを見ると赤方偏移が1から現在ま

での約80億年の間に2倍弱程度増加しているのに対して赤方偏移3か

ら1までの約40億年の間に星質量は約5倍に増加しておりこの時代に

宇宙の中で急速に星が増えていったことがわかるこれは宇宙の星生成

率密度(図5-22)がもっとも高かった時期に一致している

52

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 53: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

図5-23(左)銀河の星質量関数の進化横軸が銀河の星質量縦軸

は各星質量を持つ銀河の単位体積あたりの数を示す(右)宇宙の平均星

質量密度の進化横軸は赤方偏移縦軸は単位体積あたりの星質量を示す

異なるシンボルはいろいろなサーベイによる観測結果を示している観測

ごとにある程度のばらつきはあるものの時間とともに宇宙の中で星が増

えてきた様子が見て取れる(Kajisawa M et al 2009 ApJ 702 1393より改変) 

銀河のガスの金属量の進化

 ガスの金属量はその銀河の中でどれだけのガスの量(割合)を星に

変えたのかを反映しているのでその進化を調べることで銀河の星形成

史の重要な手掛かりを得ることができる図5-24は銀河の星質量に

対するガスの金属量の分布を示している赤方偏移が2や3といった遠方

の銀河においても本章4-2節で述べたような質量の大きい銀河ほどガ

スの金属量が高い傾向がある各時代のガスの金属量の進化の度合いを見

ると赤方偏移07から現在までは進化は非常に小さいのに対し赤方

偏移07から2や4までの進化は大きいことがわかる金属量の強い進

53

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 54: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

化はこの時代に星形成が活発に起こって銀河が急成長を遂げたことを示

唆している各星質量での進化を見ると質量の小さい銀河では赤方偏移

07を超えると大きな進化が見られるが大質量の銀河では赤方偏移0

7から現在まで進化が見られず07と2の間の進化も比較的小さい

これらの大質量銀河は赤方偏移が3-4から2の間に活発な星形成によっ

て大きく成長したのかもしれない逆にいえばこの結果は大質量銀河に

おける星形成は赤方偏移が2から07の間に大部分が完了したことを示

唆しており本章6-2節で述べたダウンサイジングの傾向とも合致して

いる

図5-24銀河の星質量に対するガスの金属量の進化横軸は星質量

縦軸はガス中の水素原子に対する酸素原子の個数を対数で表している

とは赤方偏移3-4のライマンブレーク銀河の観測結果実線は各赤方

偏移での分布を表わす(Mannuci F et al 2009 MNRAS 398 1915より改変) 

銀河の形態の進化

54

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 55: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

遠方の銀河の形態についてもHSTによる近赤外線観測で研究が進ん

でいるたとえば星が活発に生まれている赤方偏移2の銀河をH バンド

(16μ m帯)で観測すると銀河の静止波長における可視光帯の放射を

見ていることになるそのため近傍銀河の可視光帯の観測結果と直接比

較することができるその結果渦巻銀河のような形態を示す銀河は少な

く非対称な形や複数の塊に分かれた銀河が多いことがわかってきている

これらの銀河の表面輝度分布は指数関数則に従う傾向があるものの天球

面上での長軸と短軸の比の統計的分布は円盤状の形よりもむしろ3軸不

等の楕円体を示唆しているこのような形態を持つ原因としては昔の宇

宙では(宇宙全体が小さかったので)銀河同士の重力的相互作用や合体が

頻繁に起こったか現在の宇宙の不規則銀河のように星の質量に比べてガ

スの質量が大きい場合には星形成が不規則な分布で起こりやすいことが考

えられる

一方星が新たに生まれていない比較的古い星からなるz~2の銀河

の形態を調べると同程度の星質量を持つ現在の楕円銀河よりはるかにサ

イズが小さい銀河が発見されたこれらの非常にサイズが小さい銀河の数

(密度)は現在の楕円銀河と比べてかなり少ないがその星質量の大きさ

を考えると現在の楕円銀河に進化しているものと推測されるどのように

してz~2から現在までの間にサイズがそれほど大きくなったのかについて

はいくつかアイデアが提案されているもののよくわかってはいない

本章5-2節で述べたようにz~1の時代には楕円銀河や渦巻銀河の

形態を持つ銀河が数多く観測されているのに対してz~2の銀河の形態は

現在の銀河とは大きく異なっているそのため現在の宇宙で見られる銀

河の形態はこの赤方偏移が2から1の時代(宇宙年齢30~60億年)

に出来上がったのではないかと考えられている

6-5 最遠方銀河

 最後にもっとも遠くの天体の発見の歴史を振り返っておこう196

0年代半ばに赤方偏移が2を超えるクェーサーが発見され一気に初期

55

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 56: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

宇宙の時代の天体が観測されるようになったそれ以降30年以上に渡っ

てクェーサーが最遠方天体を担ってきたがこれらは電波源として発見さ

れた天体であったまたクェーサーを除いた銀河の中でもっとも遠い天

体も同じく電波観測によって発見されたAGN である電波銀河(第1

2章参照)であったクェーサーによる最遠方記録の更新は1990年代

初めの赤方偏移4897のクェーサーの発見まで続いた

 転機が訪れたのは1990年代後半でHSTによる観測によって銀河

団の大きな質量によって重力レンズの影響を受けて強く引き伸ばされた天

体(アークと呼ばれる)が発見されケック望遠鏡によって赤方偏移が4

92であることが確認された1990年代後半はライマンブレーク法

の確立とケック望遠鏡による分光観測によって赤方偏移が3を超える

(AGN ではない)ふつうの銀河が次々と発見され始めた時期で199

8年には赤方偏移が560のライマンブレーク銀河が発見され最遠方天

体となった翌年には赤方偏移574のライマンα 輝線銀河が最遠方記

録を更新するに至りライマンブレーク法と輝線天体探査を使った可視光

観測によって最遠方天体が発見される時代に突入した

1990年代初めから最遠方記録の更新がなかったクェーサーにおい

ても2000年代に入ってSDSS サーベイの非常に広域にわたる可視

光観測データにライマンブレーク法と同様の手法を適用することによっ

て赤方偏移が6を超えるクェーサーが発見されるようになった201

2年6月現在もっとも遠方のクェーサーは近赤外線の広域サーベイで

あるUKIDSS のデータを使って同様の手法をさらに長い波長帯に適用す

ることで発見された赤方偏移7085の天体である(第12章参照)

一方2000年代に入って本格稼働を始めた日本のすばる望遠鏡はこ

のライマンブレーク法と輝線天体探査による遠方銀河の探査に大きく貢献

したすばる望遠鏡は8m級望遠鏡の中で唯一主焦点の観測装置(主焦点

カメラSuprime-Cam )を持っており口径8mの集光力と30分角ス

ケールの広い視野を併せ持つことによって可視光で広い領域を非常に暗

い天体まで観測することができるこの他の望遠鏡にない特徴を最大限に

活用することで2000年代における最遠方天体の多くはすばる望遠

56

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

58

  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
Page 57: 愛媛大学cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/~tani/BBALL/FINAL/Cha… · Web view宇宙の歴史の中で、銀河は最初から現在の宇宙で見られるような姿で存在していたわけではない。宇宙初期のダークマターの微小な密度ゆらぎが重力不安定性によって増幅されてダークマター・ハローが形成され(第1章)、その後バリオン(おもに水素からなる)ガスがダークマターの重力に

鏡によって発見されたライマンα 輝線銀河が占めることになった

 1990年代後半に初めて距離測定が成功して以降最遠方記録を急速

に伸ばしているのがガンマ線バースト(第7章参照)であるガンマ線

バーストはガンマ線で突然明るく輝き数十ミリ秒から100秒程度で暗

くなる現象であるがその後に続くX 線から電波までの幅広い波長にわた

る残光の観測によって同定することが可能であるガンマ線バーストの

検出を目的とした衛星(HETE-2 とSwift 衛星)とそれに連動した世界

中の地上望遠鏡による観測によって数多くのガンマ線バーストの赤方偏

移が同定されてきている2005年には赤方偏移が6を超えるものが発

見され2009年には最遠方記録を大幅に更新する赤方偏移82のガ

ンマ線バーストが発見されるに至ったガンマ線バーストは発生後すば

やく望遠鏡を向けることができれば残光が比較的明るい状態で観測でき

る可能性があり今後最遠方記録をさらに更新していく上で有力な手段

になるだろう(第7章参照)

 2012年6月現在分光観測によって確実に赤方偏移が確認されてい

るもっとも遠い天体はすばる望遠鏡を用いて発見された赤方偏移72

15のライマンα 輝線銀河である(図5-25)HSTによる長時間観測

によって赤方偏移が8から10の候補も見つかっているがこれらはあ

まりに暗いために現状の望遠鏡で分光観測することが難しく赤方偏移の

確認ができていない今後の大幅な記録更新には手前に銀河団がある領

域で重力レンズによって本来よりも明るく見える天体を見つけるかより

大きな口径を持つ次世代望遠鏡による観測が必要になる

57

図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

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  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化
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図5-252012年6月現在確認されているもっとも遠方の天体赤

方偏移7215のライマンα 輝線天体SXDF-NB1006-2 のすばる望遠鏡

による画像(左)とKeck 望遠鏡によるスペクトル(右)約1 0μ m付近に見える左右非対称の輝線が赤方偏移したライマンα 輝線 (国立天

文台)

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  • 1 概要
  • 2 銀河の分類
  • S0銀河
  • 3  銀河の観測的特徴
  • 4 銀河の形態と性質
  • 5 銀河形成論
  • 6 銀河の進化