赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝...

31
赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 物理化学3演習

Transcript of 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝...

Page 1: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

赤外吸光分光法とラマン散乱分光法

物理化学3演習

Page 2: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

今日の概要

1.光について

光とは?

光と物質の相互作用

光の波長

2.赤外吸収スペクトル(IR:Infrared)振動,回転準位

気体の振動回転スペクトル

液体や固体のIRスペクトル

3.ラマン散乱分光法

光の散乱

ラマン散乱の原理

ストークス線,アンチストークス線

Page 3: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

1.光について

Page 4: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

波動説 粒子説反射・屈折・回折・干渉

→ 波の一般的な性質

コンプトン散乱

→ 光の粒子(光子)によって説明できる

光とは?

現在では波動性と粒子性をあわせもつと考えられている。

直交する電場(E)と磁場(B)の波

(電磁波)

光については昔から多くの議論がなされてきた...

λ<λ’

James Clerk Maxwell Arthur Holly Compton

光について

Page 5: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

光と物質の相互作用

透過

蛍光

物質物質

屈折

反射

燐光

散乱

光源

光線

光を物質に照射するといろんなことが起こる

赤外吸収スペクトル

ラマン散乱ペクトル

光について

Page 6: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

光の種類と波長

近赤外

遠赤外

マイクロ波

ラジオ波

紫外線

Ⅹγ線

可視領域可視領域

300nm

700nm

光は波長によって多くの種類が存在する。

3nm

3pm

30μm

30cm

波長波長 長長短短

λν chhE ==

エネルギーエネルギー大大 小小

光について

Page 7: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

2.赤外吸収スペクトル(IR:Infrared)

Page 8: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

分子のエネルギー準位

電子準位 振動準位 回転準位

・電子準位

・振動準位

・回転準位

分子は量子化されたエネルギー準位を持っている

軌道内の電子のエネルギー

分子内の結合の振動のエネルギー

分子の回転のエネルギー

赤外吸収スペクトル

Page 9: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

分子の回転運動

H-Cl分子の回転

剛体回転子のエネルギー

( )1+= JBJErJ = 0, 1, 2, ・・・ J = 0

J = 1

J = 2

J = 3

J = 4

回転のエネルギー準位

回転の角速度の増大

⊿J = ±1選択律

マイクロ波に相当

赤外吸収スペクトル

2B

4B

6B

8B

Page 10: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

分子の振動

H-Cl分子の振動

調和振動子のエネルギー

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛ +=

21

0 vhEv ν

v = 0, 1, 2, ・・・

v = 0

v = 1

v = 2

v = 3

振動のエネルギー準位

v = 4

分子振動の振幅の増大

⊿v = ±1選択律

赤外線に相当

赤外吸収スペクトル

0hν

0hν

0hν

Page 11: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

振動回転準位

v = 0

v = 1

v = 0

v = 1

v = 2

J = 0J = 1J = 2

J = 3

J = 0J = 1J = 2

J = 3

気体では振動準位と回転準位の遷移が同時に起こる

P枝 R枝

⊿v = 1選択律

⊿J = ±1

Q枝

⊿J -1 +10

v = 2

赤外吸収スペクトル

Page 12: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

気体の赤外吸収スペクトル (振動回転スペクトル)

( )121

0 ++⎟⎠⎞

⎜⎝⎛ +=+= JBJvhEEE rvt ν振動回転エネルギー

( )1~21~

0 ++⎟⎠⎞

⎜⎝⎛ +=+= JJBvGGG rvt ν

波数 / cm-1

P枝 R枝吸光度

ν~

(振動数の単位系)

赤外吸収スペクトル

Page 13: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

波数 / cm-1

P枝 R枝吸光度

ν~波数 / cm-1

P枝 R枝吸光度

波数 / cm-1

P枝 R枝吸光度

ν~

気体の赤外吸収スペクトル (振動回転スペクトル)

( ) ( ) ( )1~2~,1,1 0 ++=−++ JBJvGJvG ν

( ) ( ) JBJvGJvG ~2~,1,1 0 +=−−+ ν

B~4

v = 0

v = 1

J = 0J = 1J = 2

J = 3

J = 0J = 1J = 2

J = 3

P枝 R枝

P枝 :

R枝 :

B~2

~0ν

スペクトル線の間隔から が、B~

スペクトルの中心から がわかる。~

遷移後 遷移前

赤外吸収スペクトル

Page 14: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

振動回転スペクトルから何がわかるか?

22

2

82~

rh

IhchcBB

μπ===

h

結合距離

μπν k

21

0 =結合の力の定数

気体の振動回転スペクトルから様々な情報を得ることができる

赤外吸収スペクトル

振動回転スペクトルから気体分子の結合距離、結合の力の定数を求めることができる。

Page 15: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

固体や液体の赤外吸収スペクトル透過率(%

波数 / cm-11500 1000200030004000

アセトンのIRスペクトル

赤外吸収スペクトル

固体や液体では回転運動が制限されるため、回転遷移は見られない。

分子の振動準位の遷移によるIR吸収

Page 16: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

固体や液体の赤外吸収スペクトル

指紋領域指紋領域

アセトンのIRスペクトル

透過率(%

波数 / cm-11500 1000200030004000

C-H伸縮

C=O伸縮

O-HN-HC-H伸縮振動

C CC N

X Y Z伸縮振動

C C C OC N N O

伸縮振動

N-H変角振動

μπν k

21

0 =

赤外吸収スペクトル

Page 17: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

CO2の振動モード

対称伸縮振動

反対称伸縮振動

変角振動

分子には様々な振動モードが存在する。

それぞれの振動モードに対して異なる振動数を持つ

赤外吸収スペクトル

Page 18: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

赤外吸収スペクトルからわかること

赤外吸収スペクトル

気体の場合

回転振動スペクトル

固体や液体の場合

振動スペクトル

二原子分子の原子間距離、結合の力の定数を求められる。

分子内の結合を知ることができる。

未知試料の同定、官能基の導入など。

Page 19: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

3.ラマン散乱スペクトル

Page 20: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ラマン散乱の歴史

チャンドラセカール・ベンカータ・ラマン

インドのカルカッタ大学の教授

地中海の航海中に海の青い色に関心を持ち、光の散乱現象についての研究を始める

水の散乱光に入射光とは異なる波長の散乱光が存在することを見出す。

さらに1928年、ベンゼンの散乱光を写真乾板に記録することに成功した。これが世界最初のRamanスペクトルである。

この発見に対して1930年にノーベル賞が与えられた。

ラマン散乱分光法

アジアで最初の自然科学系ノーベル賞受賞者

Page 21: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

光の散乱

電場の影響がない原子 電場下の原子

+

+

誘起双極子モーメント原子核

電子雲

ラマン散乱分光法

電場下では電子雲が歪み、双極子モーメントが生じる

→ 誘起双極子モーメント

Page 22: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

光の散乱

光の電場による作用

+

+

+ +

散乱光 hνi (Reyleigh散乱)

ラマン散乱分光法

+ +

- -

E + +

- -

E

入射光 hνi

原子

光により電場が生じる

入射光の振動する電場により誘起双極子モーメントが振動することで、入射光と同じ振動数の散乱光が放出される。

Page 23: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ラマン散乱の原理

(a) (b) (c) (d) (e) (f) (g) (h)

ラマン散乱分光法

実際の原子では核が振動している(振動数ν≪νi )

光の電場の振動(νi )と原子核の振動(ν)で“うなり”が生じる

双極子モーメントの振動に(νi + ν)と(νi - ν)の成分が生まれる

Raman散乱

Page 24: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ストークス線とアンチストークス線

ボルツマン分布則より、v=1の分子の数はv=0の分子の数よりも少ない

ストークス線の強度 ∝ v=0の分子数アンチストークス線の強度 ∝ v=1の分子数

アンチストークス線の強度 < ストークス線の強度

ラマン散乱分光法

Page 25: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ラマン散乱の原理

ラマン散乱分光法

Eαμ =μ:誘起双極子モーメント

α:分極率

E : 光の電場

tcosEE iπν20=

QQ 0

0 ⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛∂∂

+=ααα

tQQ πν2cos0=

α0:平衡位置での分極率

E0:電場の振幅

Q :原子核の変位

Q0:原子核の最大変位

Page 26: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ラマン散乱の原理

ラマン散乱分光法

( ) ( )[ ]tcostcosEQQ

tcosE

tcostcosEQ

tcosE

tcosEQQ

iii

ii

i

ννπννπαπνα

πνπναπνα

πνααμ

−++⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛∂∂

+=

⋅⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛∂∂

+=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛∂∂

+=

22212

222

2

00

000

00

00

00

0

レイリー散乱 ラマン散乱

0≠⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛∂∂

0Qα

の場合のみラマン散乱が起こる

選択則

Page 27: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ラマン活性と赤外活性

ラマン散乱分光法

Page 28: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ラマン散乱と赤外吸収

ラマン散乱

分子の振動状態に関する知見を得るための技術

ラマン散乱分光法

v=0

v=1

IR

v=2

IR

v=0v=1v=2

hνi hνi + hνhν

吸収される光の振動数(or 波長)

から分子振動の知見を得る

入射光と散乱光の振動数(or 波長)の差

から分子振動の知見を得る

赤外吸収

Raman

Page 29: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

測定例

IR:吸収された光の振動数

ラマン:入射光と散乱光の振動数の差(ラマンシフト)

ラマン散乱分光法

IR

Raman

Page 30: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

ラマン散乱の測定技術

ラマン散乱分光法

ラマン散乱光の強度が非常に弱い!

きれいなスペクトルを得るには...

ラマン散乱分光法の短所は...

光源の強度を上げる 光源にレーザーを用いる

散乱強度を上げる 共鳴ラマン分光法

レイリー散乱に隠れてしまうS/Nの低下

Page 31: 赤外吸光分光法とラマン散乱分光法 t =G v +G r =ν v + BJ J 波数 / cm-1 P枝 R枝 吸光度 ν~ (振動数の単位系) 赤外吸収スペクトル 波数 / cm-1

共鳴ラマン

ラマン散乱分光法

吸収帯付近の波長を用いることで散乱強度が増大する

v=0v=1v=2

hνi hνi + hνRaman

v=0v=1v=2

電子準位

吸収帯