資 料 ディジタルガンマカメラおよびSPECT装 置の定期点検指針†

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Transcript of 資 料 ディジタルガンマカメラおよびSPECT装 置の定期点検指針†

RADIOISOTOPES,47,424-434(1998)

資 料

デ ィジタルガ ンマカメ ラおよびSPECT装 置 の定期点検指針†

日本 アイソトープ協会医学 ・薬学部会

核医学イメージング ・検査技術専門委員会††

113-8941東 京 都 文 京 区 本 駒 込2-28-45

Key Words : gamma camera, scintilation camera, single photon

emission computed tomography, routine inspection,

phantom

1.は じ め に

信頼性の高い核医学画像を得るには,ガ ンマ

カメラやSPECT装 置の性能を常に良好な状態

に保つことが重要である。 このためには検出器

や装置の性能を定期的に点検調整することが必

要 となる。ガンマカメラ性能の定期点検につい

ては,先 にアイソトープ協会核医学イメージン

グ規格化専門委員会から 「シンチカメラ性能の

定期点検 に関す る勧告」1)が公表 されている。

しかし,当 時のガンマカメラはいわゆるアナロ

グ型であり,デ ィジタル型ガンマカメラおよび

SPECT装 置が普及 した現在,こ れらに適合 し

た定期点検法の必要性2)から,当 委員会か ら指

針を示すこととなった。 この指針は,使 用者の

立場か ら日常 の定期点検を容易 に行えること,

および装置性能の変化や劣化を的確に把握でき

ることを基本方針 として次の考え方を取 り入れ

た。

(a)付 属 の デ ー タ処 理 装 置 が 利 用 で き る こ

と。

(b)視 覚的評価を可能なかぎり採 り入れる。

(c)本 指針独 自の試験方法 も併せ提案する

(NEMA規 格などに従 った試験が,使 用者

では困難である場合やNEMA規 格などに

記載のない項 目などについて)。

したがって本指針は装置の厳密な性能試験を

目的とするものではなく,良 好な性能の保持お

よび性能劣化の把握のための点検および試験測

定に重 きをおいた。なお,以 下に記述する “装

置”にはガンマカメラおよびSPECT装 置を含

めるものとする。

本試案 は松平委員を中心に第3回-5回 核医

学イメージング ・検査技術専門委員会(平 成9

•õ Guideline for Routine Inspection of Digital

Gamma Camera and SPECT System. Subcom-

mittee for Radionuclide Imaging and Tech-

nique, Medical and Pharmaceutical Committee,

Japan Radioisotope Association : 2-28-45, Hon-

komagome, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8941, Japan.

††核医学イメージング・検査技術専門委員会

委 員 長 利 波 紀 久(金沢大学医学部)副委員長 金 尾 啓 右(日本核医学技術学会)

委 員 阿 部 欣 二(慶應大学医学部)石 原 十三夫(群馬県立医療

短期大学)

福喜多 博 義(国立がんセンター東病院)

藤 田 透(京都大学医学部

附属病院)

本 田 憲 業(埼玉医科大学総合

医療センター)

松 田 博 史(国立精神 ・神経センター武蔵病院)

松 平 正 道(先端医学薬学

研究センター)

松 本 徹(放射線医学

総合研究所)

村 田 啓(放射線医学

総合研究所)

油 井 信 春(千葉県がんセンター)

渡 辺 俊 明(西新潟中央病院)

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425May1998 ディジタル ガンマカ メラおよびSPECT装 置 の定期点検指針

年5月20日,10月21日,平 成10年2月13日)に

お い て審 議 検 討 の うえ作 成 さ れ た もの で あ る。

2.定 期点検の方法および期間

装置の性能評価や試験法には次のような方法

があるが,そ の内容 は基本的にほぼ同 じであ

る。定期点検は,こ れらの方法あるいは本指針

による簡易法,こ れらの組合せで使用者が最 も

容易で適当と考える手段で行 うものとする。毎

回の定期点検は,同 じ方法により同 じ条件で行

うことが肝要である。

【主な性能試験法】

(a)ア ンガ ー型 シ ンチ レー シ ョ ンカ メ ラの性

能 試 験 条 件3)(ア イ ソ トー プ協 会 法:RI協

会 法)

(b)IEC法4)

(c)NEMA法5)

(d)JESRA法6)

(e)日 本 放 射 線 技 術 学 会 法(技 術 学 会 法)7)

(f)メ ー カ ー独 自 の方 法

(g)Single Photon Emission Computed

Tomography装 置 の 性 能 試 験 条 件8)(RI

協 会 法)

(h)使 用者独自の方法,そ の他

定期点検および性能試験は,そ の項目により

原則 として次のような時期,期 間ごとに実施

し,異 常が認め られたな らば修理,調 整を行

う。

【性能試験および定期点検の期間】

(a)設 置 時 お よ び オ ーバ ー ホ ール 時

(b)毎 日

(c)1週 間 ご と

(d)3か 月 ご と

(e)6か 月 ご と

(f)必 要 時

SPECT装 置の性能 は当然,ガ ンマカメラと

しての性能が基本となるので,本 指針に示す点

検項 目はガンマカメラ性能を含めたSPECT装

置のための記 述 とな ってい る。 したが って

SPECT機 能を備えないガンマカメラの定期点

検は,SPECTに 関する性能試験項目を除外 し

て行うものとする。

評価法には多 くの項目において視覚評価法と

定量評価法がある。定量評価が困難な場合は視

覚評価による試験で定期点検を行 って もよい。

毎日行う視野均一性などの試験は視覚評価によ

り行い,適 当な期間ごとに定量評価を加える方

法で行ってもよい。

3.設 置時の性能試験

装置設置時にはすべての性能を試験すること

が理想的である。

この項では本指針による “簡易な試験法”を

併記する。 この方法は必ず しもNEMA規 格等

に合致 しているとは限らない。この試験では特

に指定 しない限り,次 の条件に従ってデータ収

集するものとする。試験方法の記載のない項目

については文献を参照されたい。

(1)核 種 に は99mTcを 用 い る。

(2)波 高分 析 ウイ ン ドウ幅 は光 電 ピ ー クを 中

心 に20%と す る。 ま た は メ ー カ ー の 指 定

す る方 法 で 行 う。

(3)計 数率特性試験以外 は測定計数率を20

kcps以 下 とする。

(4)固 有空間分解能試験など,コ リメータを

取 り外 して測定 す る試 験 は,有 効視 野

(UFOV)外 を3mm厚 の鉛 リングで遮蔽

する。また線源検出器間距離はUFOVの

5倍(角 形視野では対角線の5倍)以 上 と

する。またはメーカーの指定する方法で行

う。

な お,ピ クセ ル サ イ ズ や収 集 カ ウ ン ト密 度 な

ど に関 連 す る収 集 マ ト リク ス は50cm×35cm

程 度 の大 視 野 カ メ ラを想 定 した記 述 とな って い

る。

3・1固 有空間分解能

コ リメー タな しで試 験 す る。

3・1・1視 覚 評 価

鉛 バ ー フ ァ ン トム を検 出器 表 面 に 置 き,通 常

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Vol.47,No.5426 RADIOISOTOPES

図1固 有分解能測定用 の鉛 ス リッ トの例

UFOVの5倍 以 上 の 距 離 か ら点 線 源 で 照 射 し,

そ の 画 像 の 解 像 度 で 評 価 す る3),7)。収 集 マ トリ

ク ス は512×512,収 集 カ ウ ン トは5000kカ ウ

ン トとす る。

鉛バーファントム解像度(D)とFWHM(R)

との間にはおおよそ次の関係がある。

D≒0.5(~0.6)×R

3・1・2定 量 評 価

(1)線 源

鉛 ス リ ッ トに よ り,検 出 器 表 面 上 で 幅1.0

mm以 下,長 さ50mm以 上 に コ リメ ー トされ

た放 射 線 ビー ム。

長 さがUFOV程 度の鉛 スリット(図1)を

用いることにより測定回数を減 らすことができ

る。

NEMA規 格(JESRA規 格 で も よ い)で 用 い

られ る鉛 ス リ ッ トフ ァ ン トム を 使 用 して も よ

い。

(2)収 集 マ ト リク ス

1024×1024matrixま た は2倍 拡 大 収 集 に

よ る512×512matrix。

ピクセルサイズをmm単 位で正確 に求めて

お くことが必要である。

(3)デ ー タ収集

最 高 ピク セ ル カ ウ ン トで1000カ ウ ン ト以 上

を収 集 す る。

測定位置は,視 野中心およびX軸 およびY

軸上における有効視野半径の1/2の 点 とする。

各点における測定 はXお よびY方 向について

行うことが望ましい。以上の測定が困難である

な ら視野中心のみの測定を行い,同 時 にXお

よびY方 向の鉛バーファントムによる視覚的

評価を加えることにより試験を簡略化 してもよ

い。

(4)評 価法

得 られ た 線 広 が り関 数(line spread func-

tion)か らFWHMやFWTMを 求 め る。 収 集

マ ト リ ク ス の ピ ク セ ル サ イ ズ(mm)か ら,

mm単 位 のFWHM等 を算 出す る。

3・2総 合(シ ステム)空 間分解能

コ リメ ー タを 装 着 して 測 定 す る。

3・2・1視 覚 評 価

鉛バーファン トムをコ リメータ表面から10

cmの 距離 に平行に設置する。均等性の良好な

面線源で照射 し,得 られた画像の解像度で評価

する3),7)。収集マ トリクスおよび収集カウント

は固有空間分解能に同 じ。

3・2・2定 量 評 価

(1)線 源

内径1.0mm以 下の線状線源。

内 径1.0mm以 下 の細 い チ ュ ー ブ や ガ ラス

管 にRI液 を封 入 す る。

(2)収集 マ ト リク ス

固 有 空 間 分解 能(3・1・2)に 同 じ。

(3)デ ー タ収 集

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427May1998 デ ィジタルガ ンマカメ ラおよびSPECT装 置の定期点検指針

固 有 空 間分 解 能(3・1・2)に 同 じ。

た だ し,線 源 は コ リメ ー タ線 源 間 距 離10

cmに 配 列 す る。

(4)評 価法

固有 空 間分 解 能(3・1・2)に 同 じ。

3・3全 身ガンマカメラの総合空間分解能

全身ガンマカメラは検出器 と検査用ベッドが

相対的に移動するため,空 間分解能の劣化する

可能性がある。 このため定期的な性能検査が求

められる。

3・3・1視 覚 評 価

鉛 バ ー フ ァ ン トム を コ リメ ー タ表 面 か ら10

cm離 して ス キ ャニ ン グ寝 台 上 平 行 に 設 置 し,

均 等 性 の良 好 な面 線 源 で照 射 しなが ら全 身 撮 像

モ ー ドで デ ー タ収 集 を行 う。 得 られ た画 像 の解

像 度 を評 価 す る。 収 集 マ ト リク ス は検 出器(ま

た は ス キ ャニ ン グ寝 台)移 動 に対 して直 角 方 向

を256(pixel size約2mm×2mm,X,Y pixel

同size)と し,約5000kカ ウ ン トを収 集 す る。

3・3・2定 量 評 価

(1)線 源

総合 空 間分 解 能(3・2・2)に 同 じ

(2)収 集 マ ト リクス

検 出器(ま た は ス キ ャニ ング寝 台)移 動 方

向 に 対 し て 直 角 方 向 の マ ト リ ク ス を512

(pixel size約1mm×1mm,X,Y pixel同

size)と す る。

(3)デ ー タ収 集

最 高 ピ クセ ル カ ウ ン トで1000カ ウ ン ト以

上 を収 集 す る。

測定位置は,視 野中心およびX軸 方向にお

ける有効視野径1/2の 点 とする(図2)。 線源

はコリメータ線源間距離10cmに 配置する。

(4)評 価法

Y方 向 のline spread function か ら,

FWHMお よ びFWTMを 求 め る。

3・4SPECT空 間分 解 能

3・4・1視 覚 評 価

Derenzo,Jaszczak,RI協 会9)な どのSPECT

用 フ ァ ン トム に よ るSPECT画 像 の解 像 度 で評

価 す る。 フ ァ ン トム 内 の放 射 能,収 集 マ ト リク

ス(一 般 に128×128matrix),回 転 半 径,コ リ

メ ー タ,収 集 角 度,収 集 時 間,再 構 成 条 件 な

ど,定 期 点 検 ご と に行 うSPECT条 件 を 同一 と

す る。

3・4・2定 量 評 価

(1)線 源

総 合 空 間 分 解 能(3・2・2)に 同 じ。

(2)収 集 マ ト リクス

256×256matrixま た は2倍 拡 大 収 集 に よ

る128×128matrix。

ピクセルサイズをmm単 位で正確に求め

ておくことが必要である。

(3)デ ー タ収 集

線状線源を回転中心および半径7.5cmの

位置 に回転軸 に平行に配列 して収集 する。

360° 収集 とし,収 集角度を4°-6°(投 影方

向:90-60)と する。

(4)再 構成

rampフ ィル タ を用 い た フ ィル タ補 正 逆 投

影 法 とす る。 断 層 像 は4ス ライ ス加 算 した厚

さ と す る。 再 構 成 に あ た っ てsmoothing,

Butterworth filter,Wiener filterな どの画

像 処 理 は行 わ な い。 した が って十 分 な収 集 カ

ウン トが必 要 で あ る。

(5)評 価 法

視野中心部の線状線源横断像のFWHMお

図2全 身 ガ ンマカメ ラの空 間分解能 の測定

(43)

Vol.47,No.5428 RADIOISOTOPES

よびFWTMで 評価する。

(備考):上 記 各 項 に示 した よ うな試 験 条 件 に

よ れ ば,視 野50cmの ガ ンマ カ メ ラ の 場 合,

planar像 で は約1/7FWHM以 下,SPECTで

は約2mmの デ ー タサ ンプ リ ング間 隔 に よ る収

集 が 可 能 で あ る。

3・5固 有視野均一性

コ リメ ー タな しで 試 験 す る。

固有視野均一性は最 も変動,劣 化 しやすい性

能項目である。定量評価法の主な ものに次の2

種類の方法がある。

NEMA法5),JESRA法6),IEC法4)

積分均一性

微分均一性

ア イ ソ トー プ協 会 法3)

相対的不均一度

最大偏差

3・5・1視 覚 評 価

有 効 視 野 内 を 均 等 照 射 して 画 像 デ ー タ を得

る。 収 集 マ ト リ ク ス を256×256と し,600

counts/pixel以 上 を 収 集 す る。

評 価 は サ イ ズ7cm径 程 度 の画 像 を 観 察 して

行 う3),7)。

3・5・2定 量 評 価

次のいずれかの方法により,有 効視野内の最

高カウント(Cmax)お よび最小カウン ト(Cmin)

を求め均一性を次式で算出する。定量評価には

画像による視覚評価を加えることが望ましい。

均一性=〓(%)

有 効 視 野 内 を均 等 照 射 して 画 像 デ ー タ を 得

る。 収 集 マ ト リ ク ス を64×64と し,10k

counts/pixelを 収 集 す る。 視 覚 評 価 の た め に

収 集 した256×256マ ト リクス画 像 を64×64画

像 に変 換 して評 価 に 利 用 して も よ いが,こ の 場

合,ス ム ー ジ ング は変 換 後 に行 う。

(1)表 示 ウ イ ン ドウを 調 節 す る こ と に よ り求

め る方 法

64×64マ ト リ ク ス画 像 に9点 荷 重 ス ム ー ジ

ング を施 し,表 示 ウ イ ン ドウ を調 節 す る こと に

よ り画 像 内 の最 高 カ ウ ン ト(Cmax)お よ び 最 低

カ ウ ン ト(Cmin)を 探 し出 す。 これ らの カ ウ ン

トが%値 で表 示 さ れ る もの で あ って もよ い。 装

置 に よ り若 干 異 な る が,一 般 に は画 像 表 示 ウ イ

ン ドウのupper levelを 最 高 カ ウ ン トレベ ル あ

る い はそ れ よ りわ ず か に上 位 に設 定 し,lower

leve1を 調 節 す る こ と に よ り読 み 取 る こ とが で

き る。lower levelを 上 限 ま で調 節 し,画 像 の

各 ピ ク セ ル の カ ウ ン トが す べ て 消 去 さ れ る

threshold level値 がCmaxで あ り,下 方 へ 調 節

して 各 ピ クセ ル の す べ て が 表 示 さ れ るthresh-

old level値 がCminで あ る。

(2)ROI設 定 に よ り求 あ る方 法

ROI内 情 報 の うち,最 高 お よ び最 小 ピ ク セ

ル カ ウ ン ト(Cmaxお よ びCmin)を 求 め る こ とが

で き るROI設 定 ソ フ トウ エ ア を 有 す る場 合,

この 方 法 が 有 用 で あ る。 前 項(1)と 同 様 に64×

64マ ト リ ク ス画 像 に9点 荷 重 ス ム ー ジ ング を

施 し,有 効 視 野 全 体 にROIを 設 定 してCmaxお

よびCminを 読 み取 る。

3・6総 合視野均一性

コ リメ ー タを装 着 して試 験 す る。

均等な面線源で有効視野を照射 し,そ の画像

データを評価する。

データ収集条件および評価法は固有視野均一

性と同様である。総合視野均一性の変動はコリ

メータの破損等が起こらない限り固有視野均一

性のみに依存すると考えてよい。 したが って,

コリメータの破損や更新がない限り基本的には

設置時の検査のみでよく,定 期点検は固有また

は総合均一性のどちらか一つの方法のみの試験

でよい。

3・7SPECT画 像 均 一 性

一般にRI(通 常99mTc)水 溶液を封入 した円

筒 ファン トムのSPECTデ ータで評価する8)。

評価は固有視野均一性に準 じて,視 覚的評価法

あるいは定量評価法により行う。

(44)

429May1998 デ ィジタルガ ンマカメ ラおよびSPECT装 置の定期点検指針

3・8画 像直線性(画 像歪)

(1)視 覚評価

コリメータなしで鉛格子状パターンを均等照

射 し,そ の画像を観察 して評価する。

評価法はRI協 会法3)や技術学会法7)で行うと

よい。

(2)定 量評価

次のいずれかの方法で行う。

NEMA法4),JESRA法5),RI協 会 法2)

3・9総 合感度

有効視野範囲内の線源(一 般に面線源)に 対

する感度をcps/MBqで 表す。線源の放射能濃

度が正確に求められていることが重要であり,

校正されたキュリーメータ等による放射能の測

定値と正 しい線源容積が必要である。コリメー

タおよび核種により総合感度は異なり,線 源コ

リメータ間距離に依存性がある。核種ごとおよ

びコリメータごとに測定距離を定めて測定する

必要がある。

3・10SPECT感 度

RI水 溶 液 を 封 入 し た 円 筒 フ ァ ン トム の

SPECTデ ー タに よ り単 位 放 射 能 当 りス ラ イ ス

当 りの計 数 率(cps/kBq/ml/slice)で 表 す。 正

確 な放 射 能 濃 度 が 必要 で あ る こ と は前項 と同 様

で あ る。

3・11検 出器の方向に伴 う均一性および感

度の変動

検出器の向きにより感度や視野均一性 に変動

を認めることがある。 これは地磁気 による影響

と言われている。この変動は特にSPECTに お

いて問題となる。装置を設置したときに検出器

の方向毎の視野均一性および感度を試験するこ

とが望ましい。

3・12計 数率特性(時 間分解能:分 解時間)

分 解 時 間 を求 め る に は一 般 に麻 痺 型 モ デ ル

(paralyzable type:放 射 能 ・計 数 率特 性 はあ

る計数率で最高値を示 し,放 射能がさらに増加

すると,そ の増加に従い,計 数率は逆に減少す

る。non-paralyzable typeは ある計数率以上

で飽和する)で 計算 した方が合理的である。

放射能と計数率の関係を計数率特性曲線で表

し,計 数率損失20%を 示す計数率や最大計数

率で評価す る。 分解時間(τ)は 計数率損失

20%を 示す入力計数率R(cps,特 性曲線直線部

外挿により求める)と 実測計数率Rob(cps)か

ら算出する。

特性曲線 の横軸 となる放射能 は正確 に求 め

られ るべ きで あ り,こ れには短半減期核種

(99mTcな ど)の 減衰を利用する方法と種々の強

度の放射能を正確に計量する方法がある。前者

による方法が一般に容易である。

(1)paralyzable(麻 痺 型)モ デ ル に よ る計 算

τ=〓(s)

(2)non-paralyzable(非 麻 痺 型)モ デ ル に

よ る計 算 式

τ=〓(s)

3・13エ ネ ル ギ ー分 解 能

γ 線 ス ペ ク トル 光 電 ピ ー クの 半 値 幅

(FWHM)で 評価する。

装置または付属のデータ処理装置の波高分析

装置の性能により次のいずれかの方法で行う。

(1)100チ ャ ン ネル 以 上 の エ ネ ル ギ ー チ ャ ン

ネル を 有 し,チ ャ ンネ ル ご と の カ ウ ン トが サ ン

プ リ ング可 能 な装 置 に お い て は エ ネ ル ギ ー ス ペ

ク トル を 測 定 し,NEMA5),JESRA6),RI協 会

法3)等 で 行 う とよ い。

(備考):NEMA規 格などに示 されている精

度で測定するためには約200チ ャンネル以

上が必要と考え られる。

(2)カ ウ ン トサ ンプ リ ングが 不 可 能 また は困

難 な装 置 に お い て は,ス ペ ク トル を ハ ー ドコ

ピ ー して 定 規 で 実 測 す る。

(45)

Vol.47,No.5430 RADIOISOTOPES

図3鉛 容器(断 面図)

3・14γ 線 エ ネ ル ギ ー に よ る画 像 のず れ

γ線エネルギーの相違にかかわ らず収集 され

た画像の大きさおよび位置は一致 していること

が必要である。特に複数のエネルギーピークを

持つ核種による複数 ウイ ンドウデータ収集,異

なる核種による画像の減算等を行 う場合にこの

画像のずれには注意 しなければならない。

3・14・1線 源

底 に 直径3mm,長 さ6mmの 孔 を 開 け た鉛

容 器 に 線 源 を い れ る(図3)。 線 源 に は67Gaを

用 い る。 目的 に よ って は99mTcお よ び201Tlの

混 合 液 で も よ い。 ま た99mTcと201Tlを 別 々 に

測 定 して もよ い。 た だ し,こ の場 合 は鉛 容 器 の

位 置 を絶 対 に移 動 して は な らな い。

線源位置は中心視野(CFOV,UFOV×0.75)

外縁 と ±X軸 および ±Y軸 の交点,合 計4点

とす る。

3・14・2デ ー タ収 集

収 集 マ ト リク ス は256×256と す る。

67Gaを 用 い る と き は3ウ イ ン ドウ モ ー ドで

収 集 す る。 他 の2核 種 を用 い る とき は それ ぞ れ

を シ ン グ ル ウ イ ン ドウ モ ー ドで 収 集 して も よ

い。

最 高 ピ クセ ル カ ウ ン ト1000カ ウ ン ト以 上 を

収 集 す る。

3・14・3評 価 法

(1)定 量評価

各 エ ネル ギ ー ウ イ ン ドウの 点 像 の 重 心(マ ト

リク ス)座 標 を算 出 す る。 点 像 を 中心 に5×5

マ ト リク ス程度 の デ ー タ に よ り計 算 す る。

Mc=〓

こ こ でMcは 重 心 マ ト リク ス座 標,Miは 計 算

範 囲 内 の 各 マ ト リク ス座 標,Ciは 各 マ ト リク

スの カ ウ ン トを示 す。

(2)画 像 のsubtractionに よ る 方 法10)

エネルギーウイ ンドウの低い画像か ら高い画

像の引算処理を行う。一般にγ線 エネルギーの

高い画像の方が固有分解能 は良好であるため,

エネルギー レベルによる画像のずれがなければ

引算画像 は中心部が抜 けた均等な リング状を示

す。画像のずれが存在すると,減 算画像は三 日

月形などの不均等な画像 となる(図4)。

3・15画 像 デ ー タ のgainお よ びoffset

画像信号のgainは 画像サイズを左右 し,画

像信号のoffsetは 画像中心 と画像マ トリクス

中心の一致に影響を及ぼす。

画像信号のgainお よびoffsetの 誤差は多検

出器型SPECTや 画像間の加減乗除に悪い影響

を与え,offsetの ずれはSPECTの 電気的回転

中心のずれの原因 となる

点 検 は有 効 視 野 の画 像 サ イ ズ お よ び有 効 視 野

の中 心 と画 像 マ ト リクス 中心 の一 致 性,こ れ ら

の変 動 の 有 無 を試 験 す る。 そ の方 法 はRI協 会

法 “Single Photon Emission Computed

Tomography装 置 の性 能 試 験 条 件 ”8)およ び

“SPECT装 置 の 回 転 軸 ず れ お よ び イ メ ー ジ サ

イ ズ変 動 に関 す る 日常 試 験 ”9)を参 照 さ れ た い。

3・16SPECT回 転 中 心

回転中心の精度は機械的回転中心および電気

的回転中心の二つの要素で定まる。

(1)機 械的回転中心

回転中心に関係する機械的精度で決まり,装

置設置後に原因を突き止め修正することは一般

(46)

431May1998 デ ィジタルガ ンマカ メラおよびSPECT装 置の定期点検指針

図4γ 線 エネルギーによ る画像ずれの試験

に困難であることが多い。検出器の取付け位置

のわずかな誤差や重量による検 出器のたわみな

どが原因となる。 しか しこの誤差は多 くの場

合,一 定であると考え られるので,SPECT再

構成時に一定の補正を行 うことで解決可能であ

る。 この補正 ソフ トウエアは一般に組み込まれ

ており,自 動的に補正される。

(2)電 気的回転中心

画像 データのoffsetの ずれが大 きな原因で

回転中心に狂いが生ずる。

SPECT回 転中心試験に対 して次の三つ の方

法を提案する。

(1)サイノグラムによる方法

(2)点線源のSPECT像 による方法

(3) RI協 会法

3・16・1サ イ ノ グ ラム に よ る方 法

サ イ ノ グ ラム に よ り回 転 中心 を算 出 す る ソ フ

トウエ ア が用 意 さ れて い る な ら,回 転 中心 軸 ず

れ は容 易 に求め られ る。 この方 法 の詳 細 に つ い

て はRI協 会 法 “Single Photon Emission

Computed Tomography装 置 の 性 能 試 験 条

件 ”8)を参 照 され た い。

3・16・2点 線 源 のSPECT像 に よ る方 法

細 い 管 状 の線 源 を 視 野 内 の 任 意 の位 置(3-

4箇 所)に 配 列 す る(図5)。 回転 軸 方 向 に平

行 に配 列 して デ ー タ収 集 を行 う。 収 集 マ ト リク

ス は128×128と す る。 再 構 成 したtransaxial

像 で 観 察 す る。 線 源 に は 内 径1mm程 度 の

チ ュー ブを用 い る。

回転軸ずれが存在すると点像 にぼけが生 じ,

軸ずれの程度が大 きくなると像はリング状を呈

図5回 転中心試験

(47)

Vol.47,No.5432 RADIOISOTOPES

(48)

433May1998 デ ィジタルガ ンマカメ ラお よびSPECT装 置 の定期点検指針

す る。

3・16・3RI協 会法

SPECT試 験用ファン トムを用いる方法であ

る。 このファントムを用いればSPECTの 空間

分解能および視野均一性 も同時に評価可能であ

る。本法 は視覚的評価法であるが,正 常時の画

像 と比較することにより,性 能変化を比較的容

易に把握することが可能であり,定 期点検 には

有用な方法である。詳細 は “SPECT装 置の回

転軸ずれおよびイメージサイズ変動 に関する日

常試験”9)を参照されたい。

3・17全 身 ガ ンマ カ メ ラの スキ ャ ン速 度

一定範囲を移動するに要する時間をストップ

ウオッチ等で計測 し,単 位時間当り移動する距

離cm/minを 求める。

4.毎 日の点検調整

(1)始 業点検

ねじ類のゆるみ,接 触安全センサー動作等の

安全点検や機械的,電 気的動作状況を点検す

る。動作時の異常音,異 常運動や振動などに注

意する。

(2)エ ネ ル ギ ー ウイ ン ドウの調 整

自動調整や自動設定機構の有無にかかわらず

毎 日調整すべきである。使用核種を変えたとき

にも調整する。

(3)バ ッ ク グ ラ ウ ン ドカ ウ ン ト

装置やその周辺の汚染状況や動作状態の把握

に有効な場合があるので,測 定することが望ま

しい。

(4)固 有視野均一性または総合視野均一性

5.1週 間ごとの点検調整

(1)画 像 デ ー タのgainお よ びoffset

(2)SPECT回 転 中心

(3)SPECT画 像 均 一 性

6.3か 月ごとの点検調整

(1)固 有画像直線性

(2)γ 線 エ ネ ル ギ ー に よ る画 像 のず れ

(3)SPECT空 間分 解 能

7.6か 月ごとの点検調整

(1)固 有分解能

(2)計 数率特性

(3)エ ネルギー分解能

(4)全 身ガンマカメラの総合空間分解能

(5)全 身ガンマカメラのスキャン速度

8.必 要時の性能試験

画像の異常や性能劣化が考えられる現象が発

生 したとき,こ れに対応 した試験を行い原因を

究明する必要がある。検出器固有の性能は正常

であっても,画 像データに異状が発生 した場合

などはコリメータの変形なども考えられる。

9.定 期点検,性 能試験結果の記録

定期的に行 った性能試験の結果 は記録 し,装

置の性能変化の把握および調整,修 理のための

資料 とする。視覚的評価のデータは定期試験の

比較観察のために欠 くことのできない資料 とな

るので保存する。記録用紙の例を表に示す。

10.あ と が き

核医学イメージング装置は性能変化の大 きな

装置であるため,信 頼性ある核医学データを提

供するためには定期点検を実施 し常に良好な性

能を保つことが不可欠である。 しかし,す べて

の性能項 目にわたり,こ れを試験することはか

なりの時間と労力を要する。性能の変動 は装置

によりかなりのばらつきが認め られるので,装

置 ごとにその傾向をつかみ効率的に性能試験を

行 うことも必要である。

文 献

1) 日本 ア イ ソ トー プ協 会 核 医 学 イ メ ー ジ ング規 格

化 専 門 委 員 会:シ ンチ カ メ ラ性 能 の 定 期 点 検 に

関 す る勧 告,Radioisotopes,26,73-76(1977)

2) 日本 アイ ソ トープ協会 核医学 イメージ ング規格

(49)

Vol.47,No.5434 RADIOISOTOPES

化専門委員会:核 医学 イメージ ング装 置の保 守

点検 に関 する実体調査報告,ibid,41,55-70

(1992)

3) 日本 ア イ ソ トー プ協 会 核 医学 イ メ ー ジ ン グ規格

化 小 委 員 会:ア ンガ ー型 シ ンチ レー シ ョ ンカ メ

ラの性 能 試 験 条 件,ibid., 26, 743-746 (1977)

4) IEC Publication 789 : Characteristics and test conditions of radionuclide imaging

device, 1992-01

5) National Electrical Manufacturers Associa-tion : NEMA Standards Publication for Per-

formance Measurements of Scintillation

Cameras, No. NU 1-1994 (1994)

6) 日本 放 射線 機 器工 業 会:JESRAX-51A,“ ガ

ン マ カ メ ラ の 性 能 測 定 法 と表 示 法 ”,SC-4401

(1997)

7) 日本 放射線技 術学会:RI体 外測定 装置 の性 能

検 査法,日 本放技学会誌,34,634-654(1979)

8) 日本 ア イ ソ トー プ協 会 核 医学 イ メー ジ ン グ規 格

化 専 門 委 員 会:Single Photon Emission Com-

puted Tomography装 置 の性 能 試 験 条 件,Ra-

dioisotopes,33,162-169(1984)

9) 日本 アイ ソ トープ協会 核医学 イ メージング規格

化専門委 員会:SPECT装 置の回転軸ず れお よ

びイメージサ イズ変動に関す る日常 試験,ibid.,

39,53-59(1984)

10) 大 屋 信 義:ガ ンマ カ メ ラのQC,日 放 技 学 会 誌,

50,547-549(1994)

(50)