利根川水系 利根川・江戸川河川整備計画(原案)の概要 - …利根川水系利根川・江戸川河川整備計画(原案)の概要 3 4 2. 河川整備の現状と課題
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1
高水流量観測の非定常性を克服する試み
一般財団法人河川情報センター
河川情報研究所 研究第2部長
栗城 稔
平成25年度河川情報シンポジウム
洪水の非定常性がもたらす問題
1. 極めて短い時間内の流速の変化や流速分布の変化(流れの乱れ)(秒単位)
2. 流量観測中の流量変化(分~時間単位)
3. 水位流量関係(洪水時)のループ(日単位)
リアルタイムでの流量推定が困難
過去の流量に誤差が発生1
3
水位(m)
流量(m3/s)
減水期にのみ流量観測を行った場合、観測値だけでH-Q関係を作ると、増水期の流量を低く見積もってしまう。
ループがもたらす問題(1洪水のH-Q関係)
4
水位(m)
流量(m3/s)
ループがもたらす問題(1年間のH‐Q式を作成する際)
中小洪水
大洪水の減水期と中小洪水の観測値でH‐Q式を作成する。
正しい(定常の)H‐Q式が作成できない
5
4
ループに関連する課題
• 1洪水のH-Q関係を正しく求めたい
• 1年間のH-Q式を正しく作成したい
増水期も減水期も観測すれば(一応)解決する。
• 洪水流量を(H-Q関係から)リアルタイムで計算したい。
• 過去の洪水時の流量を正しく再現したい。
(流出モデルのキャリブレーションのため)
6
リアルタイムの洪水流量把握
例えば:
• 河口堰への洪水流入量を、上流の流量観測所のH‐Q関係から推測し、ゲート操作を決定する。
• 増水期に定常のH‐Q関係から流量を算出した場合、洪水波形によっては過小評価となる可能性がある。
7
5
過去の洪水時の流量の再現
例えば:
• ある流量観測所地点で、過去の洪水の水位観測値からH‐Q式にもとづいて流量を算出し、流出モデルのキャリブレーションを行う。
• (定常の)H‐Q式を使うと、ある水位に対し増水期には小さ目に、減水期には大きめに流量が算定され、モデルが正しく同定されない可能性がある。
正しいH‐Q式でも
8
流出モデルのキャリブレーションに過去の流量を使う
流量(m3/s)
時間
水位(m)
時間
水位ハイドログラフ
(観測値)
流量ハイドログラフ
( H‐Q換算)
本当の流量ハイドログラ
フ(想定)
誤った流量ハイドログラフを使ったためモデルが正しく同定されない
正しいH‐Q式
発生する可能性のあるケース
9
6
標高(m)
距離
ループ発生の原因
洪水時の縦断水面形(模式図)
他の原因•洪水の増水期と減水期で流下断面積が異なる。•洪水の増水期と減水期で横断面上の水面形状が異なる(水位観測の位置)
3
21RI
nv
10
洪水伝播速度
ループの幅とハイドログラフの尖り
流量(m3/s)
水位(m)標高(m)
流量(m3/s)
水位(m)
尖った波
饅頭状の波
太いループ
薄いループ
距離
標高(m)
距離
水面勾配>>河床勾配
水面勾配≒河床勾配
水面勾配<<河床勾配
11
7
この補正を各流量観測値について行えば、流れの非定常性を排除した水位流量関係が得られる。
定常状態の流量(Qc)を算出する補正
エネルギー勾配が時間的に不変
m
cmc I
IQQ
観測流量
定常流量
定常水面勾配
実測水面勾配
12
ループの補正のイメージ
水位(m)
流量(m3/s)
QmQc
m
cmc I
IQQ
13
8
この補正により洪水(非定常)時の流量を推定することができる。
水位流量関係(定常)から洪水時の流量を推定する方法
リアルタイムに
逆に
c
mcm I
IQQ
HQ式換算流量
流量推定値
実測水面勾配
定常水面勾配
14
水位(m)
流量(m3/s)
QmQc
H
洪水時の流量推定法(イメージ)
c
mcm I
IQQ
15
9
河川砂防技術基準調査編 第2章 水文・水理観測
第4節 流量観測 29ページ
る。
(反時計回りのループを描く場合)近隣の水位観測所との水位差(水面勾配)を考慮した水位流量曲線の導入を検討することを標準とする。
16
水面勾配によるループ補正が行われない3つの理由
1. 当該地点の水面勾配を直接測定することができない。
2. 適当な2地点(一つは当該地点)で水位の計測が行われていない。
3. 洪水時の水位は大きく波立ち、適当な測定値を得ることが難しい。
17
10
ループの幅とハイドログラフの尖り
流量(m3/s)
水位(m)水位(m)
時間
流量(m3/s)
水位(m)水位(m)
時間
水位の急激な上下
比較的緩やかな上下
太いループ
薄いループ
18
水位の時間微分による補正
河道を縦断的に見たときに現れる水面のピークが下流に移動することで、ある断面での水位の上下が形成される。
↓
水位の時間微分(dh/dt)を使った流量補正の可能性
Lewisの式Linsley, R.K. ら, “Hydrology for Engineers” p.68,1958
19
11
水位流量曲線式作成照査支援システム操作運用マニュアル
ここに、
I :推定水面勾配
Im,C:洪水ごとに変わる定数
洪水ごとに変わる定数が必要となると,定常の水位流量関
係を推定することはできたとしても,定常の水位流量関係から,
リアルタイムの流量を推定することは困難
t
ttHtH
cII m
ˆ1ˆˆ
水位変化率法
逆に20
定常水面勾配
水位の時間微分による補正式
非定常時の流量を水位変化に基づいて補正して、定常時の流量を得る式
洪水伝播速度:測定していない項
5.0
*
11
t
h
CIQ
Q
cc
m
USGS: Measurement and Computation of StreamflowVolume 2. Computation of Discharge, 1983
Discharge Ratings Using Slope as a Parameter
21
定常流量
観測流量
12
マニング則の場合
Klaitz‐Seddonの法則
複断面河道の低水路水深と高水敷幅の相対関係では1.0以下もあり得る(福岡ら)
波の速度と断面平均流速の関係
dA
dR
R
AVC m 3
21
断面平均流速
洪水伝播速度
流下断面積
径深
広幅長方形断面:1.67三角形断面:1.33
22
断面固有の定数
水位変化によるループ補正の基本式
α : 定数(洪水伝播速度と断面平均流速の比)
未知数:数値実験によって確認
5.0
*
11
t
h
VIQQ
mmc
観測流量
定常流量
水位変化
平均河床勾配 平均断面流速
mV
C
23
13
数値実験の条件(基本ケース)
項目 設定 備考河床幅 1,000m
広幅長方形断面堤防法面勾配 垂直
粗度係数 0.030
河床勾配 1/4,000 緩流河川
河道延長 20km
ピーク流量 6,500m3/s
上流端で与える波形ベース流量 500m3/s
洪水波形 正規分布形
洪水継続時間 15時間
下流端水位 500m3/sの等流水位 一定値
24
数値実験の概念図(基本ケース)
15k
0.0m
ピーク流量=6,500m3/sCommonMP1次元不定流要素モデル
HとQのハイドログラフ
H‐Q関係のグラフ
25
14
上流端のハイドログラフ(基本ケース)
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
-16 -14 -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16
時間
流量(m3/s)
ピーク流量:6,500(m3/s)
1,000 m3/s以上の継続時間:約15時間
26
15km地点のハイドログラフ(基本ケース)
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
7.5
8.0
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
流量(m3/s) 水位(m)
時間
流量
水位
27
15
水位流量曲線(15K地点)(基本ケース)
4
4.5
5
5.5
6
6.5
7
7.5
8
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
水位
H(m
)
流量Q(m3/s)
水位計算結果(H-Q)
28
α=1.0
4
4.5
5
5.5
6
6.5
7
7.5
8
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
水位
H(m
)
流量Q(m3/s)
水位計算結果(H-Q)
15k0 α=1
4
4.5
5
5.5
6
6.5
7
7.5
8
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
水位
H(m
)
流量Q(m3/s)
水位計算結果(H-Q)
15k0 α=3
α=3.0
水位流量曲線(15K地点)補正あり(基本ケース)
4
4.5
5
5.5
6
6.5
7
7.5
8
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
水位
H(m
)
流量Q(m3/s)
水位計算結果(H-Q)
15k0 α=2.2
α=2.2
29
16
水面勾配を使った補正(標準法)(基本ケース)
4
4.5
5
5.5
6
6.5
7
7.5
8
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
水位
H(m
)
流量Q(m3/s)
水位計算結果(H-Q)
Qc(15k-16k)水面勾配による補正
30
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
‐4 ‐2 0 2 4 6 8
補正前後の流量ハイドログラフ比較
補正前
補正後
流量(m3/s)
時間
31
17
αについての考察
α:波の速度と断面平均流速の比
αを適当に仮定すれば妥当なループ補正が可能
αは何に依存するのか。
洪水ごとに違うαが必要となるのか。
αを(流観値以外の要素で)推定することは可能か。
32
注目した要素と設定条件
1. 流量規模
ピーク流量が3,500、6,500、9,500 m3/s(3ケース)
2. 洪水の鋭さ(波形は正規分布形)
流量が1,000 m3/s以上の継続時間(上流端)が、
5‐ 7時間、11‐19時間、21時間以上 (3ケース)
3. 河床勾配
1/1000~1/4000 (4ケース)
合計: 3X3X4=36ケース
33
18
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
9000
10000
0 0 0 0 0
-36 -24 -18 -12 -6 0 6 12 18 時間
流量(m3/s)
上流端で与えたハイドログラフ
ピーク流量:3,500, 6,500, 9,500 m3/s
1,000 m3/s以上の継続時間: 5‐7時間,11‐19時間,21時間以上
1,000 m3/s以上の継続時間
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
9000
10000
0 0 0 0 0 0 0 0 0
-36 -24 -18 -12 -6 0 6 12 18 時間
流量(m3/s)
数値実験(36ケース)
15k
0.0m
CommonMP1次元不定流要素モデル
HとQのハイドログラフ
H‐Q関係のグラフ
35
19
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
7.5
8.0
8.5
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000
水位
H(m
)
流量Q(m3/s)
洪水の規模と鋭さ
ピーク流量: 9,500 m3/s1,000 m3/s以上の継続時間: 5時間
河床勾配:1/4,000
1時間の水位上昇
ピーク流量: 3,500 m3/s1,000 m3/s以上の継続時間: 36時間河床勾配:1/4,000
36
水位観測所と流量観測所の位置が異なっていると、ループができることがある。
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000
水位
H(m
)
流量Q(m3/s)
ピーク流量: 3,500 m3/s、1,000 m3/s以上の継続時間:36 時間、河床勾配:1/4,000
洪水規模が小さく、ゆったりした洪水
15km地点の水位と流量
10km地点の水位と15km地点の流量
補正はできない
37
20
流量規模とαの関係
ピーク流量によらずαは同程度
地点を固定すれば
1.7
1.8
1.9
2.0
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
3000 5000 7000 9000
α
ピーク流量Q(m3/s)
I=1/1,000
I=1/2,000
I=1/3,000
I=1/4,000
洪水継続時間が
5時間急激な水位
の上下
α
38
洪水の鋭さとαの関係
洪水の鋭さによらずαは同じ程度
地点を固定すれば
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
2.0
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
α
最大の1時間あたり水位上昇量(m/hr)
1/1,000
1/2,000
1/3,000
1/4,000
●:ピーク流量3,500m3/s
▲:ピーク流量6,500m3/s
×:ピーク流量9,500m3/s
α
39
急激な水位の上下
21
y = 0.0001x + 1.7833
1.8
1.9
2.0
2.1
2.2
2.3
2.4
500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500
α
河床勾配(I=1/X)
河床勾配とαの関係
河床勾配の一次関数
α
40
αについての作業仮説
αは洪水規模に依存しない
αは洪水の鋭さに依存しない
αは河床勾配に依存する
どうも
ようだ
41
α(すなわちI*α)は地点に固有の定数
ある洪水で特定の箇所のI*αを推定出来れば、別の洪水にも適用可能
22
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500
水位
H(m
)
観測流量 Q(m3/s)
実際の流量観測結果への適用
• A川、 B観測所(平成17年9月洪水無補正)
9月6日11時
9月7日15時
河床勾配約1/1,00042
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500
水位
H(m
)
流量 Q(m3/s)
実測流量
計算流量
• A川、 B観測所(平成17年9月洪水の補正)
I*α=1/1,250
実際の流量観測結果への適用
43
23
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
水位
H(m
)
観測流量 Q(m3/s)
• 十勝川、茂岩観測所(平成18年8月洪水無補正)
8月19日6時
8月20日13時
河床勾配約1/5,000
実際の流量観測結果への適用
44
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
1000 1500 2000 2500 3000
水位
H(m
)
流量 Q(m3/s)
実測流量
補正流量
• 十勝川、茂岩観測所(平成18年8月洪水の補正)
Q = 58.22x(H‐0.11)2
Q= 51.33×(h+0.24)2
観測データのままでHQを作成すると
実際の流量観測結果への適用
I*α=1/6,67045
24
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
水位
H(m
)
観測流量 Q(m3/s)
• 下降期のみの観測だった場合
ありがちなケース
正しいHQ式が得られない
46
5.0
*
11
t
h
A
QI
QQm
cm
非定常の流量推定
HQ式
時系列より
横断図
水位観測値
断面に固有
繰り返し計算によってQmを求める
47
25
水位(m)
流量(m3/s)
QmQc
H
洪水時の流量推定法(イメージ)
5.0
*
11
t
h
AQ
IQQ
mcm
48
非定常の流量推定の実例
計算条件:11時50分の水位:5.95m12時の水位:6.0m
水位6.0mの時流量(定常):Qc = 58.22x(H‐0.11)
2より、
流下断面積: 横断図より、
繰り返し計算により、Qm=2,235m3/s
茂岩観測所 I*α=1/6,670(断面固有)
⊿H/⊿t=0.05/600
10%以上の増加
Qc=2,000m3/s
A=1,000m2
5.0
*
11
t
h
AQ
IQQ
mcm
49
26
流出モデルのキャリブレーションに補正した流量を使う
流量(m3/s)
時間
水位(m)
時間
水位ハイドログラフ
(観測値)
流量ハイドログラフ
( H‐Q換算)
流量ハイドログラフ(補正後)
補正した流量ハイドログラフでモデルを同定する
H‐Q式
実現可能
補正
50
まとめ
水位流量関係(洪水時)のループを解消する手法として水位の時間微分による補正法を提案
1観測所の水位観測によって流量の非定常性を補正
高い水位に対応する(定常の)流量データが数多く得られる
洪水(非定常)時の流量を(定常の)水位流量関係からリア
ルタイムに求めることができる(過去のデータの補正も可能)
結論:追加の施設整備を必要とせず,通常の観測の方法で得られ
るデータのみで洪水時のループを補正することが可能であり,
過去のデータにも適用可能である点で,水面勾配によるルー
プの補正よりも優れている.
51
27
留意点
当該流量観測所の地点が「河道によるコントロール」になっていることが必要である。
流量観測地点と異なる地点の水位でHQをプロット
するとループを描くが、このような間違った観測地点で得られたデータを補正できる訳ではない。
洪水中の粗度係数・河川断面形の変化や、それらの経年的変化については考慮していない。
52
最後に一言
ご清聴ありがとうございました。
53