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1.材料強度論の基礎
次の項目について説明する。
(1) 原子炉に使用される材料
(2) 材料強さ
(2.1) 静的強さ
(2.2) 破壊靭性
(2.3) 疲労強度
(2.4) 高温強度
(2.5) 環境効果ー応力腐食割れー
(2.6) 中性子照射の影響
(3) 材料の強度と機器構造物の強度
軽水炉構造設計
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(1) 原子炉に使用される材料
構造力学の観点から求められる性質
(1)高品質であること。即ち、内部欠陥が尐なく、均質性が良好であることなど。
(2)機械的性質,疲れ特性が良好なこと。
(3)破壊靭性が優れていること。
(4)溶接性,加工性が良好なこと。
(5)冷却材に対する耐食性,耐応力腐食割れ性が優れていること。
その他,誘導放射能を生じる元素が尐ないこと(原子炉容器,炉内構造物など),中性子照射脆化か尐ないこと(原子炉容器など),中性子吸収断面積が小さいこと(炉内構造物など)などの諸特性も機器が置かれている状況によって必要となる。
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(1) 原子炉に使用される材料(2)
各種原子炉の運転圧力・温度
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(1) 原子炉に使用される材料(3)
軽水炉の構造
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(1) 原子炉に使用される材料(4)
原子炉本体の構造
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(1) 原子炉に使用される材料(5)
原子炉容器に用いられる材料に関しては,上・下鏡に強靭な低合金鋼(SA533BCI.1(SQV2A*1)あるいはSA302B(SBVIB*2))が,またフランジ,ノズルなどに強靭な低合金鍛鋼(SA508CI.2(SFVQ2A*3)あるいはSA508CI.3(SFVQIA*3)がもっぱら用いられている。また,内面の冷却材と接する部分は腐食を防止するため,ステンレス鋼で肉盛(オーバレイクラッド)がなされている。
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(1) 原子炉に使用される材料(6)
*1 SQVの規格名称および記号の意味は,それぞれ「圧力容器用調質型マンガンモリブデンニッケル鋼」および「S:Stee1,Q:Quenched,V:Vessel」である。なお,調質型とは焼入れ焼戻しの意味である。
*2 SBVの規格名称および記号の意味は,それぞれ「ボイラ及び圧力容器用マンガンモリブデン鋼」および「S:Steel,B:Boiler,V:Vessel」である。 *3 SFVQの規格名称および記号の意味は,それぞれ「圧力容器用調質型合金鋼鍛鋼品」および「S:Steel, F:Forging, V:Vessel,Q:Quenched」である。 *4 NCF-TBの規格名称および記号の意味は,それぞれ「熱交換器用継目無ニッケルクロム鉄合金管」および「N:Nickel,C:Chromium,F:Ferrum,T:Tube,B:Boiler」である。
軽水炉本体
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(1) 原子炉に使用される材料(7)
蒸気発生器
蒸気発生器(PWR)には,立型U字管の構造を有する伝熱管(内側を原子炉から送られた高温高圧水が,外側を2次系の水が循環する)が用いられている。蒸気発生器本体(胴,上・下鏡)には,低合金鋼(SA533BCI.1 (SQV2A)あるいはSA533BCI. 2(SQV2B))が,伝熱管にはニッケル・クロム・鉄合金(インコネル600合金(NCF600TB*4))がもっぱら用いられている。
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(1) 原子炉に使用される材料(7)
原子炉格納容器
原子炉格納容器は,万一の事故の際,原子炉で発生する放射性物質の拡散を防止する最終の障壁である。原子炉格納容器の材料としては,従来よりSGV49とよばれる鋼板がもっぱら用いられており,また改良型原子炉格納容器の開発とともにSPV50も併用されている。最近ではプラントの大型化に併い,プレストレスト・コンクリート製格納容器(PCCV)が採用される例もある。
高速増殖炉
原子炉容器の材料は,高温強度特性,冷却材である液体金属ナトリウムとの共存性などの点からオーステナイト系ステンレス鋼が選ばれている。また主配管材料としては,同様な理由からオーステナイト系ステンレス鋼が用いられることが多いが,2次系に対しては,多尐低温になるのでクロムモリブデン鋼が使用される場合もある。
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(2) 材料の強さ
(2.1) 静的強さ
引張試験は,通常,右図のような試験片をつくり,これを試験機にかけてゆっくりと引張って破断させる。このとき,下図のような応力-ひずみ線図が求められる。
(1)伸び(elongation):
(2)引張強さ(ultimate strength):
(3)降伏応力(yield stress),
降伏点(yield point):
(4)絞り(contraction):
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(2) 材料の強さ
(2.1) 静的強さ(2)
(1)伸び(elongation):
ε=(L’-L)/L X 100 (%), L:引張前の標点間距離,L’:引張破断後の標点間距離
(2)引張強さ(ultimate strength):
σu=Pmax/A, Pmax:試験中に示した最高荷重,A:試験片平行部の引張前の断面積
(3)降伏応力(yield stress),降伏点(yield point):
σy=Py/A, Py:伸びが急増する点の荷重で,軟鋼や中炭素鋼ではこの点が明瞭に表われるが,合金や非鉄金 属では,明瞭でないので,残留ひずみが0.2%になる公称応力を耐力と称し,降伏点に対応させている。
(4)絞り(contraction):
φ=(A-A')/A×100 (%), A:引張前の試験片平行部の断面積,A':引張破断後の試験片平行部における破断部の面積
計測項目
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(2) 材料の強さ
(2.1) 静的強さ(3)
1. 材料の引張強さおよび降伏点は延性破断を防止するための基準強度を与える基礎となっている。
2. すなわち,引張強さは,力学的な意味で材料が不安定になることなしに耐えうる最大許容荷重を規定する指標となり,一方降伏点は大きな塑性変形が始まらないような最大許容荷重を規定する指標となるという意義を有している。
3. また,伸びおよび絞りは破断までの塑性変形能力を示すものであり,これらが十分であることが塑性設計法による合理的な構造設計を行う前提となっている。
静的強さと破損モードとの対応関係
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(2.2) 破壊靱性
1. ガラスやセラミックスの破壊様式と軟鋼やプラスチックのそれとでは大きな違いがある。
2. 前者は,いったん破壊が始まると,その後に外力を増さなくともき裂が高速度で伝播し,きわめて短時間のうちに破壊が終了してしまう。また,そのとき塑性変形はほとんど生じないかあるいはきわめて限られた部分にのみわずかに生じており,破壊時のひずみは小さい。
3. 一方,後者は,き裂が発生しても外力をさらに増加しないとき裂は拡大せず,したがって,き裂の発生から最終的破壊まで時間がかかり,塑性変形が大きくなる。このように,破壊または破断について異なる様式が存在するので,前者の様式の破壊を脆性破壊,後者のそれを延性破壊と分けて考える。
4. 脆性破壊と延性破壊の破壊様式の違いは,材料に固有の性質でなく,それが置かれている環境などによっても変りうる。たとえば,室温で延性破壊する鋼板も,温度を下げていくとある温度(脆性遷移温度という)以下では,変形の際の吸収エネルギーが小さくなり,脆性破壊となる。
脆性破壊と延性破壊の相違
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(2.2) 破壊靱性(2)
脆性破壊の発生条件
脆性破壊の発生の防止は,破壊力学が基本となっている。脆性破壊の発生条件は,
KI≧Kic
KI:き裂の応力拡大係数,
KIc:材料の破壊靭性値
KIcは,破壊靭性値(正確には,平面ひずみ破壊靭性値という)なる材料物性値であり,き裂の発生に抵抗する”耐き裂性“ともいうべき性質のものである。破壊靭性値は,コンパクトテンション試験片または3点曲げ試験片を用いて求めることが多い。KIcが求まると,構造部材中の任意のき裂に対して応力拡大係数を求め,上式から、脆性破壊が発生するか否かを判定する。
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(2.2) 破壊靱性(2) 脆性破壊の発生条件(2)
ASME Boiler and Pressure vessel Code Section IIIでは, ASME SA533B鋼,SA508鋼のようなフェライト系鋼材に対する設計用の破壊靭性値の指針として参照破壊靭性KIRが与えられている。すなわち,各種の破壊靭性データの下限包絡線として
KIR=26.78十1.223exp{0.0145(T-RTNDT十160)} (ksi√in)
T:温度(F),RTNDT:関連適合温度(F)
が与えられている。RTNDTは関連適合温度とよばれるもので,靭性が十分に高い場合は,落重試験から決定されるNDT温度に等しいとされている。
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(2.3) 疲労強度
1. 材料に引張と圧縮を交互に加えたり,あるいは繰返し曲げを与えるとその荷重の大きさが静的破断荷重よりも小さいにもかかわらず,何回かの繰返しの後で破壊する。このように材料に応力を繰返し作用させることにより破壊する現象を,材料の疲労と言う。
2. 材料の疲労には,繰返し応力の大きさ,繰返し数のほかに,(1)材質,表面の粗さ,(2)部材の寸法,形状(とくに切欠きなどによる応力集中),(3)熱処理,表面加工, (4)環境条件(温度,腐食性環境など),(5)応力の種類(引張―圧縮,曲げ,ねじり,平均応力の有無)などの多くの要素が影響する。
3. 繰返し荷重下の金属材料の疲労破壊は,微小き裂の発生および疲労き裂の伝播という二つの過程に分けることができる。すなわち,金属材料は,繰返し荷重が作用すると,材料の表面に微小すべりを生じ,この微小すべりはやがて,微小な突出しや入り込みを形成し,それを起点として疲労き裂が発生する。また,その後の荷重繰返しで,き裂は成長,進展し,最終破断に至る。
4. 疲労破面を電子顕微鏡により観察すると,各サイクルに対応するしま模様(ストライエーションとよばれる)がみられ,その数や間隔からき裂成長過程の情報が得られる。
疲労強度の基本的事項
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(2.3) 疲労強度(2)
1. 構造物の損傷事故例の調査によれば,損傷事故の原因の中で疲労の占める割合がきわめて高い。損傷事故の原因として疲労を考えると,疲労き裂が成長伝播して構造物を破損させるとともに,疲労き裂が繰返し荷重によって成長し,限界き裂長さに達して脆性破壊や急速な伝播型破断という破局的な破損に移行したり,あるいは疲労き裂の成長により残留断面積が減尐して延性破断につながる恐れがある。
2. 疲労破壊については,たとえば高速回転機器のように短期間のうちに荷重繰返し数が,107回以上にもなるような場合には,いわゆる疲労限が設計上重要視される。このように繰返し数が105~107回となる場合を高サイクル疲労という。高サイクル疲労では,応力は弾性限以下であるのに対し,繰返される応力が材料の降伏点を越えるような場合には,塑性変形が生じ,比較的小さい繰返し数で破損する。この場合の繰返し数は105回程度以下であり,この領域の疲労現象を低サイクル疲労とよんでいる。原子炉構造物では,一般に原子炉の運転および起動・停止に伴う有意な荷重変動はたかだか105回と推定されるので,低サイクル疲労を考えた疲労設計を行う。また流体や熱の振動による疲労も存在し、この場合は高サイクル疲労である。
疲労き裂の重要性と低サイクル疲労の考慮
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(2.3) 疲労強度(3)
疲労寿命の評価法において,しばしば,疲労き裂の発生点になる切欠き部などの応力集中部では,繰返し荷重の下で,高応力,高ひずみ状態の繰返し変形が実現されており,このようにして生じる塑性ひずみが疲労破壊にとってもっとも重要な力学的因子であると考えられている。 MansonとCoffinは,それぞれ独自に低サイクル疲労について,塑性ひずみ範囲を変数とする実験式を導いている。
:塑性ひずみ範囲,Nf:破損繰返し数,α,C:材料定数
上式は,広範囲の金属材料に対して成立つことが確認されている。
CNεα
fp
pε
上式は,広範囲の金属材料に対して成立つことが確認されている。式に含まれる材料定数Cは,材料の静的破断延性と密接な関連があることが知られている。たとえば,引張試験をNf=1/4サイクルの低サイクル疲労試験と考えて,上式において 1/2εp =εf のとき, Nf =1/4とおくと,C=2εf(1/4)
αと表される。さらに,α=0.5とおくと,C=εfとなる。この他に,Cとの関係については,いくつかの提案があるが,Cはほぼ1/2 εf
とεfの間に収まる定数とされている。また,αは通常材料によらず約0.5~0.6程度の値とされている。
低サイクル疲労寿命の予測式ーManson-Coffin式
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(2.3) 疲労強度(4)
実用的立場からは,ひずみを弾性ひずみと塑性ひずみに分離せず全ひずみに基づいて疲労寿命を評価する方が便利である。 Mansonは,材料の全ひずみ範囲と破損寿命との間の関係について
: 引張強さ,E:ヤング係数,RA:絞り(%)
:静的破断延性, =ln{100/(100-RA)}
を導いた.上式において,右辺第1項および第2項はそれぞれ弾性ひずみ範囲および塑性ひずみ範囲を表している。
0.5f
0.5f
0.12fut Nε/E)N(3.5σε
u
fε fε
Langerは,全ひずみ範囲( = + )のうち,塑性ひずみ範囲 についてはManson-Coffinの式でα=0.5およびC=1/2 とし,一方弾性ひずみ範囲については破損繰返し数との関係を無視し,疲労限による/Eで置き換えて
という簡略式を導いている。
E
σ
N2
εε c
f
ft
tε
eεeε pεpε
fε
疲労寿命の実用式
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(2.3) 疲労強度(5)
疲労き裂の進展に関しては,進展速度が両対数方眼紙上で下図のような傾向を示すことが知られている。ここで,図の横軸は荷重繰返しにおける応力の最大値および最小値に対応して定まる応力拡大係数の最大値Kmaxおよび最小値Kminの差に等しい,応力拡大係数の変動幅ΔKである。疲労き裂の進展が観察されなくなるΔKのしきい値をΔKthとよぶ。疲労き裂の進展速度da/dNは,かなり広範囲の領域で両対数方眼紙上で直線となるので
a:き裂寸法,N:繰返し数,Cおよびn:材料定数
と表すことができる。図に示すように,き裂進展の勾配を定めるパラメークnについては,鉄鋼では2~6程度の範囲にあることが多い。なお,上式はParis則として知られている。
nΔKCdN
da
疲労き裂の進展速度- Paris則-
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(2.3) 疲労強度(5)
き裂の進展速度は,雰囲気,温度,繰返し速度,応力比などさまざまな因子の影響を受けるが,これらの影響はCやnに含ませることにより処理される。また,応力比R(=最小応力値/最大応力値=Kmin/Kmax)の影響を考慮して
m
n
R1
ΔKC
dN
da
(m:材料定数)
(Roberts&Erdoganによる)
ΔKKR1
ΔKC
dN
da
c
n
(Kc:破壊靭性値)
(Forman et al.による)
き裂の進展速度へ諸因子の影響
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(2.4) 高温強度
高温において材料に一定荷重が作用し続けると,時間の経過とともに徐々にひずみが増加して,ある時間後には引張強さより低い応力で破断することがある。このように一定の荷重のもとで時間とともに材料の変形が進行する現象をクリープとよび,これによって生じる破壊をクリープ破断という。
(1)ひずみ速度が時間とともに減尐し,クリープ曲線の勾配がゆるやかになっていく段階。この段階は,1次クリープ(primary creep ; 第1期クリープ)または遷移クリープ(transient creep)とよばれる。
(2)ひずみ速度が一定,すなわちクリープ曲線の勾配が一定となる段階。この段階は,2次クリープ(secondary creep;第2期クリープ)または定常クリープ(steady state creep)とよばれる。
(3)再びクリープ曲線の勾配が急になって,ついに破断に至る段階。この 段階は,3次クリープ(tertiary creep ; 第3期クリープ)または加速クリープ(accelerating creep)とよばれる。
クリープ
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(2.4) 高温強度(2)
クリープ曲線は,一定温度でも左図に示すように加えた荷重の大きさによって異なる。また,加えた荷重が一定でも右図に示すように温度によって変化する。
このようなクリープ曲線を数式表示したものをクリーブひずみ式とよんでいる。たとえば,2次クリープに注目すると,クリープひずみ速度は,時間によらず一定で応力と温度の関数になるが,その最も簡単な表示はノルトン則(Norton's law)とよばれ
nc Bσε
と表すことができる。その他,種々のクリープひずみ式の表示法が提案されているが,1次および2次クリープ領域を表す式として
B, n : 材料定数(温度依存性を有する)
tεe-1Ce-1Cε mt2-r
2
t-r
1c
の形の定式化(Blackburn型とよばれている)がしばしば用いられる。右辺第1項と第2項は1次クリープひずみを,第3項は2次クリープひずみを表す。
クリープひずみ式
クリープ破壊
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金属は高温(通常,絶対温度(K)で表した融点の約1/2以上の温度で,たとえば鉄は905K(632で),鉛は300K(27℃))で一定の荷重が作用すると,時間とともに徐々にひずみが増えていく.この現象をクリーブ変形という.クリープ変形は破壊を伴い,弾性範囲内の比較的小さな応力でも生じるため,高温での重要な損傷モードの1つである.すなわち,金属は高温使用で伸びて壊れるのである. クリープ破壊は主に結晶粒界で起こり,図に示すように,粒界すべりによる粒界三重点でのくさび型き裂と空孔の拡散によるキャビティに大別される.図に結晶粒界上のクリープキャビティの一例を示す.最終破断は結晶粒界上でき裂またはキャビティが発生、成長、合体することである。
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(2.4) 高温強度(3)
高温構造物の設計を行う場合,使用期間に等しいクリープ破断時間をもたらす応力値が,許容応力を設定する基礎データとなる。たとえば,高温プラントの設計寿命を30~40年と設定すると,30~40年という長時間のクリープ破断に関する情報が必要となる。しかし,このような長時間に渡る強度データをクリープ破断試験によって直接求めることは,労力,費用の点からも困難である。したがって,クリープ破断試験の結果得られるデータを一般化し,長時間側へ外挿してクリープ破断時間およびクリープ破断応力を推定する方法が用いられる。
クリープ破断時間推定法
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Norton則
Larson-Miller法:クリープ破断における温度の影響
nc Bσε
温度の影響
RT
QexpBσε n
c
Q:活性化エネルギー、R:ボルツマン定数、T:絶対温度
RT
Qexp'A
t
ε
r
r
RT
QexpA"
t
1
r
(平均値をとって)
RT
QA"lntln r
各応力に対してlntrと1/Tをプロットすれば直線になる。
σfconstR
QClntT r
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(2.4) 高温強度(4)
Larson-Miller法では,理論的根拠に基づいて温度と時間のクリープ破断に対する影響を一元的にまとめたパラメータを用いており,パラメータ法と呼ばれる。たとえば,Larson-Millerパラメータを用いると,温度T,応力σおよびクリープ破断時間tRの異なる多数のクリープ破断試験データを下図に模式的に示すように統一的に整理し,統計処理を施して,最適曲線あるいは下限曲線が得られる。たとえば,Pの表示式として応力の対数のn次式を適用すると
n
1i
niR logσAClogtTP
したがって,上式で未知数はC,A0, A1, ‥・,Anの(n+2)個であるので,(n+2)個以上のクリープ破断試験データを用いて統計処理し,これらの未知数の最適値を求めて最適曲線を決定すれば,任意の温度,応力に対するクリープ破断時間の平均的な値を上式より計算することができる。このようにパラメータPを用いる方法によれば,ある温度の長時間クリープ破断データを,それより高温の短時間クリープ破断試験データから外挿推定することができる。
クリープ破断の外挿推定
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(2.4) 高温強度(5)
高温における荷重繰返しに対する破損寿命について検討しよう。下図はSUS304鋼についてひずみサイクル中に引張保持を挿入した場合の破損繰返し数の変化を示したものである。このように,高温ではひずみサイクル中に保持時間を挿入したり,あるいはひずみ速度を低下させたりすると破損までの繰返し数が低下することが知られており,この現象は一般にクリープ疲労とよばれている。このような疲労寿命に時間依存性が現れる温度領域とクリープが顕著になる温度領域がよく一致しているので,その主たるメカニズムの一つは,ひずみサイクル中に生じるクリープ効果によるものと考えられている。
クリープ疲労
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(2.5) 環境効果-応力腐食割れ-
原子カプラントの構造材料に及ぼす環境効果として重要なものの一つに応力腐食割れがある。これは,本来耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼において,溶接部,とくに溶接熱影響部が,溶接入熱による金属組織の変化のため耐食性が減尐し,溶接により発生する引張残留応力などの条件と相まって高温水中でクラツクを生じる現象である。応力腐食割れは下図に示すように,
①溶接入熱などの熱影響部の耐食性劣化,
②溶存酸素,塩素などの腐食性環境,
③材料に加わる高い引張残留応力
の3要因がある条件を越えて重なって作用したとき,発生する割合が高くなるといわれている。
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応力腐食割れ
溶継手の熱影響部は,溶接入熱により550~800℃の鋭敏化温度に達し,Cr(クロム)が結晶粒界に拡散移動する.さらに,炉水温度280℃に長期間(10~20年)曝されることにより,Crの拡散移動が助長される。Crは結晶粒界に沿って炭化クロムとして析出し,結晶粒界近傍のCr濃度が大きく減少し,Cr欠乏層が形成される。Cr欠乏層では結晶粒界の耐食性が著しく低下し,溶接残留応力に起因して粒界型応力腐食割れ(IGSCC)が発生する.
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(2.5) 環境効果-応力腐食割れ-(2)
その対策としては,これら3要因のうち一つ以上を除去するか,あるいはしきい値以下に下げることである。すなわち下記のような各種の対策が平行的にとられることが多い。
(a)脱気運転法
(b)低炭素含有量のステンレス鋼
(c)管内面の残留応力を圧縮応力側に
(a) 1次冷却材の循環運転を行っている余熱除去系統の一部を脱気装置に通し、溶存酸素の除去を行う。 燃料取替用水タンクからの1次冷却材系統水張り時に、
脱気装置を通し、溶存酸素を除去しながら水張りを行う。
対策の詳細
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(2.5) 環境効果-応力腐食割れ-(3)
(b)鋼材中に含有する炭素量が多いと,溶接の熱サイクルによりオーステナイト系ステンレス鋼の溶接熱影響部では,鋼中に固溶している炭素が粒界へ主としてクロム炭化物(Cr23C6)として析出する。この析出に伴い炭化物の周囲には耐腐良性を維持しているCrの濃度が低くなり,結果として腐食しやすくなる。このため溶接施工時に溶接熱影響部の結晶粒界にクロム炭化物が析出しにくい低炭素含有量のステンレス鋼が開発され,耐応力腐食割れに成果を収めている。応力腐食割れ対策材料の例としてSUS316の化学成分を示している。。
低炭素含有量のステンレス鋼
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(2.5) 環境効果-応力腐食割れ-(4)
(c)応力腐食割れは,冷却材に接触する管内面で発生するので,管内面の応力を圧縮側にしておくことは応力腐食割れ対策として有効である。管を溶接する場合,初層を盛ってシールした後,流動水を管内面に流しつつ溶接する水冷溶接法を用いると,溶接熱影警部の鋭敏化を減尐させると同時に,管内面の残留応力を圧縮側にすることができる。
一方,すでに完成した溶接継手に対しては,右図に示すように管内面を水冷しながら配管溶接部の外表面を高周波誘導加熱コイルで加熱して管内外面に温度差を与えると,外面付近は圧縮熱応力によって降伏し,一様温度状態に戻したときには,管内面の溶接引張残留応力は低減もしくは圧縮側に移行させることができる。この方法は,誘導加熱処理法とよばれており我が国で開発された。
既存配管への対策
残留応力の制御
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(2.6) 中性子照射の影響
原子炉容器などに用いられているフェライト系構造材では,中性子の照射を受けると,成分,組織によりその影響の程度は異なるが,強度(引張特性)については上昇し,延性,靭性については低下すること,また疲労特性についてはほとんど変化がないことなどが知られている。この中で靭性に及ぼす中性子照射の影響については,構造物の健全性を維持する上できわめて重要なので,古くから研究されているが,従来その原因として高速中性子を中心とした原子のはじき出しが最もよく効いているというのが通説となっている。以下では,靭性に及ぼす中性子照射効果の評価について説明しよう。
原子炉容器の主要材料であるSA533B c1.1鋼(SQV2A)に関して,中性子照射によって靭性(シャルピー衝撃試験における吸収エネルギで表す)がどのように変化するかを試験により求めた例を上図に示す。
延性,靭性の低下
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(2.6) 中性子照射の影響(2)
ここにみられるように,靭性に及ぼす中性子照射効果の一般的傾向として,(1)遷移曲線が高温側にシフトすること,(2)上部柵エネルギ(吸収エネルギー温度曲線において,高温側水平部のエネルギ値)が低下することが知られている。(1)については,延性破壊から脆性破壊への遷移温度(NDT温度),実用的には関連適合温度RTNDT,の上昇という形で表現されることが多い。
RTNDTが中性子照射によりどれ程上昇するかという点については,過去に多くの研究が行われてきており,RTNDTの上昇量ΔRTNDTについて化学成分の影響を含めた形でいくつかの評価式にまとめられている。たとえば,NRC Regulatory Guide 1.99 Revision 1(1977)によると,
ΔRTNDT(°F)=[40+1000(% Cu- 0.08)+5000(% P- 0.008)] ・ [f/1019]1/2 f:中性子照射量(n/cm2(E>1Mev)) %Cu:銅の重量%(%Cu≦0.08の場合は%Cu=0.08として評価する) %P:リンの重量%(%P≦0.008の場合は%P=0.008として評価する)
原子炉容器の設計,製造においては,上述の知見が反映された基準に基づく他,実際の運転下では原子炉の適当な場所に代表部材(母材,溶接金属,溶接熱影響部)の監視試験片を挿入して照射し,計画的に取り出して破壊試験を行うことにより供用中の靭性の変化を確認することになっている。
物理的影響と規格への反映
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(3) 材料の強度と機器構造物の強度
多くの構造物では,単軸引張などの単純な応力場よりもさらに複雑な多軸応力場にあるため,これらの応力状態に対して降伏現象が始まる条件(降伏条件)を求める必要がある.この際,多軸応力場にある構造部材の降伏条件を実験的に求めることは可能ではあるが,不便で費用がかかる方法なので,通常,単軸引張,ねじりなどの簡単な実験より得られたデータに基づいて降伏条件を求める方法が用いられている。この多軸応力状態における降伏条件に関し,いくつかの理論を以下に紹介しよう。
(1)最大主応力説
(2)最大せん断応力説(Trescaの理論)
(3)せん断ひずみエネルギ説(von Misesの理論)
構造物の応力場
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(3) 材料の強度と機器構造物の強度(2)
(1)最大主応力説
最大主応力σ1が,同一材料の単軸引張試験の降伏点σyに達したとき降伏するという理論である。
(2)最大せん断応力説(Trescaの理論)
最大せん断応力τmaxが,純粋せん断(ねじりの荷重)における降伏点kに達したとき降伏するという理論である。すなわち
τmax=(σ1-σ2)/2=k
単軸引張の場合の降伏現象に適用すると,σ1=σy, σ3=Oなので
k=σy /2
となる。したがって,降伏条件は,次のように書くことができる。
σ1-σ3=σy
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(3)せん断ひずみエネルギ説(von Misesの理論)
単位体積当たりの変形のせん断ひずみエネルギ
U=(1+ν)/(6E){(σ1-σ2)2+(σ2-σ3)
2十(σ3-σ1)2}
(νはポアソン比)
が,単軸引張で降伏点まで変形した材料の単位体積当たりのせん断ひずみエネルギUkに達したとき降伏が生じるという理論である。単軸引張の場合の降伏現象に適用することにより,U=(1+ν)/(6E){2σy
2}. したがって,降伏条件は次のように書くことができる。
(σ1-σ2)2+(σ2-σ3)
2十(σ3-σ1)2 =2σy
2 (5.23)
これらの3説について,2次元応力状態(σ3=O)の場合と図示すると,先図のようになる。2軸応力の実験結果によると,実験値は最大せん断応力説とせん断ひずみエネルギ説のほぼ中間にくるものが多く,両者とも降伏現象を良好に説明していると考えられるが,やや後者の説を支持する実験値が多いようである。
(3) 材料の強度と機器構造物の強度(3)
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(3) 材料の強度と機器構造物の強度(4)
原子力設備の設計基準である通産省告示501号やASME Boiler and Pressure Vessel Code Section Ⅲでは強度理論として最大せん断応力説を採用している。この理由として,
① 図にみられるように,最大せん断応力説が,せん断ひずみエネル ギ説に包絡されており,安金側である。
② 定式化が簡単で使いやすい。
③ 疲労破損の防止の判定基準として最大せん断応力説が優れている。
があげられている。
規格への反映
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中間レポート
原子炉の構造設計や保全に関連して、有限要素法や破壊力学が使用された例を調べ、レポート用紙A4で3~4枚でまとめよ。
締め切り: 1月26日(火)の講義のときに集める。