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生命保険法文献紹介No.11 保険法文献研究会 服部栄三・田辺康平 加藤勝郎・古瀬村邦夫 西嶋梅治・商法618条に関する一考察 -文研論集(生命保険文化研究所)91号1頁-28頁(平成2年6 月)- 生命保険法制研究会の一員として、告知義務に関する商法678 条の改正試案作成を担当した著者が、その準備作業の一段階とし て発表した、いわば中間報告である。克明に問題点を取りあげ、 かつ実務の実態をふまえた上でその見解を示しているが、貴重な 論稿である。 1.はじめに(略) 2.告知義務機能の変化と制度存続の安否 従来から、生命保険と 告知義務とは密接・不可分の関係にあり、告知義務制度が存在しない と生命保険事業の根幹が揺らぐものと考えられてきたが、近時これに 対し正面から挑戦する幾つかの読みがなされている。それは、第一に 現行の告知義務制度は完全に形骸化されていること、第二に団体保険 や信用生命保険では告知義務違反による保険金支払拒否が事実上困難 になっていること、第三に保険会社の危険測定技術の飛躍的向上によ -161一

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生命保険法文献紹介No.11

保険法文献研究会

服部栄三・田辺康平

加藤勝郎・古瀬村邦夫

西嶋梅治・商法618条に関する一考察

-文研論集(生命保険文化研究所)91号1頁-28頁(平成2年6

月)-

生命保険法制研究会の一員として、告知義務に関する商法678

条の改正試案作成を担当した著者が、その準備作業の一段階とし

て発表した、いわば中間報告である。克明に問題点を取りあげ、

かつ実務の実態をふまえた上でその見解を示しているが、貴重な

論稿である。

1.はじめに(略)

2.告知義務機能の変化と制度存続の安否  従来から、生命保険と

告知義務とは密接・不可分の関係にあり、告知義務制度が存在しない

と生命保険事業の根幹が揺らぐものと考えられてきたが、近時これに

対し正面から挑戦する幾つかの読みがなされている。それは、第一に

現行の告知義務制度は完全に形骸化されていること、第二に団体保険

や信用生命保険では告知義務違反による保険金支払拒否が事実上困難

になっていること、第三に保険会社の危険測定技術の飛躍的向上によ

-161一

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生命保険法文献紹介NoJ.1

り被保険者の告知に依存する必要が減少していること、などをその論

拠とする。たしかに、告知義務制度の機能は時代とともに変化し、部

分的に減退しているようにみえる。しかし、だからといって告知義務

制度を立法で廃止すべきだとするのは早計であり、この制度の機能と

その限界を見きわめた上で、これを維持すべきである。

3.商法678条の改正に関する生保業界の要望とその検討  生保業

界は、商法678条の改正の必要については、大正の初期(旧商429条

時代)から強く要望している。その内容は、診査医が外務員の請託を

容れることなどにより、診査を粗略にし、それが保険者側の過失とさ

れることから、告知義務違反を理由とする解除が不可能となること、

死因と告知義務違反との因果関係がない場合には保険金支払義務を免

れえないことを悪用して保険金詐取が行われること、などから、(彰保

険契約申込書の中で保険者が明示的に質問した事項はすべて重要事項

とみなす旨の明文の規定を設けるべきこと、②保険者が過失により告

知義務違反に該当する重要事項を知らないときは解除権を失う旨の規

定を削除すべきこと、③死因と告知義務違反事実との因果関係がない

場合における保険者の有責を定める規定を削除すべきこと、などで

あった。

4.因果関係不存在の場合の契約解除権  保険者が告知義務違反を

理由として契約を解除したときは、保険者は原則として保険金支払義

務を免れるが、例外として、保険契約者側が危険の発生と告知義務違

反事実との間に因果関係がなかったことを証明した場合には、保険金

支払義務を免れないという規定(商645条2項、678条2項)につい

ては批判があり、立法論としてこれを削除すべきであるという主張が

ある。たしかに、契約締結時における契約選択資料の正確性の保障と

いう告知義務制度の趣旨、および告知義務違反がある場合に保険者の

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生命保険法文献紹介No.11

解除権を認める理由からいえば、因果関係の有無を問わず、一律に保

険者の免責を肯定すべきだとも考えられる。しかし、私見は、結論と

して、これを維持すべきものと考える。その理由は、①この場合は、

告知義務違反の事実が保険者に対してなんらの不利益をも及ぼさず、

その危険負担に全く影響しなかったこと、②保険者の免責による保険

金受取人の致命的打撃と保険契約者が危険負担料を支払っていること

の重みを考慮すべきこと、③告知義務違反制度の教育的ないしは一般

予防的機能を過度に期待すべきではないこと、⑥事前的観察と事後的

観察との局面の違いを直視すべきこと、⑤外国法にあっても、この効

果を認めるものがあること、などである。

5.保険者(特に診査医)の過失  保険契約者側に告知義務違反が

あっても、保険者において、その不告知・不実告知の対象たる事実を

過失により知らなかったときは、解除権は発生しない(商678条1項

但書)。そこで、特に診査医の手抜き等による告知事項の不知につ

き、契約締結費用と診査医の報酬とのからみにおいて困難な問題が生

ずる。たとえば、告知義務違反を理由とする保険者の解除に対し、保

険契約者側が診査医のOKを理由に保険者の解除に対し強い不信感を

抱くことが起りうる。しかし、保険医の診査には、病気治療のための

診査とは異なる困難な面もあり、診査医のOKを楯にとることを認め

るのは必ずしも妥当でない。したがって、診査医の過失については医

療過誤におけると同一のレベルは要求できず、高度の注意を基準とす

ることはできない。そのような考慮の下で、保険者の過失を解除権阻

却事由とする現行商法678条1項但書の規定は維持されるべきものと

考える。

まとめ(略)‘

ー163一

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生命保険法文献紹介No.11

石山卓磨・英国保険法における最高信義の義務

-現代保険法海商法の諸相(中村眞澄・金澤理教授還暦記念論文集

第2巻)535頁-570頁(成文堂刊・平成2年2月)-

英国の1906年海上保険法には、被保険者の告知義務を明記す

る反面、保険者のそれを明記する規定がなかったが、近時保険者

に告知義務違反を認めるリーディング・ケースが現われ、保険者

の告知義務の根拠を、真実なる開示・告知を意味する英米法上の

最高信義の義務に求めた。そこで、本稿は被保険者と保険者の告

知義務について丹念に判例を紹介しながら考察する。わが保険法

理論にとっても示唆に富む比較法的研究である。

1.はじめに  ユーべリマ・フアィディーズ(uberrima fides)と

は、英米法上は、何も黙秘していない完璧な誠実さを表現する慣用語

である。英米契約法では最高信義の契約という契約類型があり、そこ

では、一方の当事者は他方の当事者に対し、その者の判断に影響を及

ぼすとみられるすべての情報を伝えるべき義務があるものと考えられ

ている。そのため、すべての重要事実が開示されない限り、当該契約

は取消しうるものとされている。

2.被保険者における最高信義の義務(1)初期の告知義務 17世

紀のリーディング・ケースは、被保険者にのみ厳しい告知義務を課す

先例とされているが、保険者にも被保険者に対する情報提供義務があ

ると判示している。ところで、19世紀未までは被保険者の告知義務

も定着したわけではない。

(2)今世紀の告知義務(イ)不告知と不実表示  保険契約申込

者は締結時までに、保険者の知らないまたは知っているとみなされな

い重要事実を告知すべきである。告知の対象は事実であって、申込者

-164-

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生命保険法文献紹介No.11

の意見などは除外される。不告知の場合には、保険者は契約を取消し

うる。この最高信義の義務法理の基本的効果は、重要事実に関する不

実表示の場合にも認められ、申込者の過失は問わない。なお、判例

は、知るべきであった事実にまで告知義務の範囲を拡張している。

(ロ)重要性の判断基準  ①合理的な被保険者が重要と信ずべき

事実か、あるいは②合理的な保険者が重要と信ずべき事実か、が判例

・学説上論議されてきたが、近時の判例は②の立場である。1906年

海上保険法18条2項につき、慎重な保険者の判断に影響を与えたで

あろう事実が重要事実である、との近時の判決がある。

(ハ)重要事実の例  道徳的危険に関し判例では、過去における

保険契約の拒絶例は非海上保険の場合に重要事実に当り、また過去の

保険金請求の事実についての申込用紙の質問に対する無回答の場合や

申込者の過去の犯罪歴も重要事実に当るとされている。

(ニ)告知不要事項  重要事実でも①危険を減少させる事実、②

保険者が知っているか、または知っているとみなされる事実、③保険

者が告知受領を放棄した事実、は告知不要である。ところで、②につ

き、保険者の代理人がその権限の範周内で行動している過程で得た知

識は本人に帰属し、本人が知っていたとされる点は重要である。ま

た、③につき、申込用紙で過去5年内の損害の有無を問う場合は、そ

れ以前の損害が重要事実とされても保険者の受領放棄とされる。ま

た、同種類の保険に関し過去の保険金請求の有無を問う場合は、他種

の保険に関しては受領放棄とされる。

(ホ)保険代理人に対する告知  保険代理人が申込人に質問し、

その回答を申込者に代って申込用紙に記入する際に虚偽記入をした場

合、代理人の知識は保険者に帰属するとみるか否かで、判例は契約を

有効または無効とするか分かれている。英国の法律改正委員会は代理

-165一

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生命保険法文献紹介No.11

人の知識は保険者のそれとみなすべき旨勧告しているが、立法措置は

とられていない。

(へ)業界の対応  英国保険協会とロイズは1986年改正の保険業

務報告書で、被保険者の告知義務過重の批判に対応して規定を設けた

が、批判を解消するには至っていない。

3.保険者における最高信義の義務-Banque Keyser Ullmann S.A.

V.Skandia(U.K.)Insurance Co.Ltd.and others  この事件で

Steyn判事は、最高信義の義務について、保険契約の当事者には、

悪意を避けるだけでなく、すべての重要な事実を告知することにより

最高の信義をつくすべき相互的義務が課され、そしてこの義務は保険

契約の成立前に、そしてすべての保険契約に適用される。さらに、最

高信義の義務違反に基づき保険者に対し損害賠償を請求しうるために

は、被保険者は自己が保険者の不告知に誘導されて契約を締結したこ

との立証責任を負う、と判示した。ところで、本件判旨のように、最

高信義の義務は当該保険契約に基づくものでないとの立場に立つなら

ば、それは衡平法上の信託関係あるいはコモン・ロー上の注意義務に

基づくと解される。なお、本判決が最高信義の義務の相互的性格を確

認している点、また救済策として損害賠償請求を認めている点も注目

される。

4.むすび(略)

-166-

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生命保険法文献紹介No.11

中西正明・最近の生命保険告知義務判例

-(I)保険学雑誌515号70頁-87頁(昭和61年12月)、(II)阪

大法学39巻3・4合併号(平成2年3月)-

最近の判例を素材として、生命保険契約における告知義務違反

の成立要件を考察したものである。著者は、「総合判例研究叢書

・商法(8)」(昭和37年10月・有斐閣)に『保険契約におけ

る告知義務』を発表しているが、本稿は著者の告知義務をめぐる

総合判例研究の一環をなすものである。論点が見事に摘示されて

いるが、興味深い研究と認められる。

(I)について

1.はしがき  本稿では次の5件の下級審判決を取り上げ、告知義

務違反の成立要件の問題を検討する。①福岡地裁小倉支部昭和46年

12月16日判決(判例タイムズ279号342頁)、②京都地裁昭和47年8月

30日判決(生命保険協会会報53巻2号59頁)、③東京地裁昭和53年3月

31日判決(判例時報924号120頁)、④大阪高裁昭和53年7月19日(判

例時報909号91頁)、⑤熊本地裁昭和56年3月31日判決(判例時報1028

号108頁)。

2.各判決の概要 (Bは被保険者である医者が、右上腹部の腫壇を

覚知しながら告知せず契約した事例、②は被保険者が気管支炎をわず

らっていたが、まだ肺気腫ではなく、風邪程度の自覚しかなく、これ

を告知しなかった事例、(諺は告知書扱契約において、肝機能の障害が

あることを告知していなかった事例、⑥は前胸部痛、上腹部痛および

食道の通過障害があり、医者から手術をすすめられていたのを告知し

なかった事例、⑤は白血病で死亡した被保険者について、問題の事実

が告知書の質問事項のいずれにも該当しないので、保険者が質問した

-167-

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生命保険法文献紹介No.11

ことの敵をもってその事実を重要事実とすることはできないとした事

例である。

3.各論点についての検討(1)総説  ①③⑥判決では、告知義務

違反の成立が認められ保険者勝訴、②⑤判決では、告知義務違反の成

立が認められず保険者敗訴になっている。判旨の結論にはいずれも賛

成である。

(2)保険者の質問  私見としては、保険者が保険契約の当時に

その事実の告知をうけていたとしても、同一の条件で契約を締結した

はずであると考えられる場合には、保険者に解除権を認めるべき実質

的理由はなく、したがって一般的には重要事実であるか否かの判断を

加えるのが適当である。

(3)告知義務の基準時  保険者の責任開始の時期が契約成立の

時より前にさかのぼる場合は、告知義務の基準時は、通常は、保険者

の責任開始の時であると解すべきである。

(4)重要事実  当該保険契約締結の当時、その保険者が準拠し

ていた契約締結の基準に照らして、重要事実かどうかを決定すべきで

ある。

(II)について

はしがき  東京高裁昭和63年5月18E】判決(判例タイムズ693号

205頁)を取り上げ、これを中心に生命保険契約の告知義務に関する

諸問題を検討する。

1.事実の概要  本件被保険者は、保険契約申込当時青森県の病院

に入院中で、外泊許可を得て東京に行き友人方で契約申込の手続をし

ている。被保険者は肺癌、脳腫瘍、骨腫瘍および糖尿病であった。本

人には糖尿病以外教えられていない。契約締結にあたり、被保険者は

糖尿病は告知したが、入院中である等の告知はしていない。被保険者

-168---

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生命保険法文献紹介No.11

は肺癌で死亡した。原判決および本判決は告知義務違反の成立を認め

るとともに、保険者に過失はないとした。

2.質問表の効力(1)総説、(2)学説、(3)従来の判例(以上

略)

(4)本判決の検討  本判決では、質問表で質問したという事実

は、被保険者が問題の事実を告知しなかったという事実認定の面で一

定の意味を与えられている。

(5)告知義務を回答義務とする約款規定との関係  最近の生命

保険の約款では、告知義務を保険者が質問した事項に答える義務とす

る趣旨の規定を設けているのが通常である。このような約款規定は有

効であり、その文言に応ずる効力を認めなければならない。本件の場

合もこのような約款規定があったと思われるが、なぜか本判決は約款

規定には言及せず、もっぱら商法の規定(商678条)によって判決し

ている。

3.その他の諸問題(1)被保険者の病名の不知  この場合の告知

義務の内容について、本判決は従来の判例理論に従っている。

(2)重要事実  本判決は、重要事実であるかどうかの判断を保

険者にとって重要であるかどうかの基準によっているものと考えられ

るが、これは支持されてよい。

(3)告知義務者の悪意・重過失  この悪意・重過失の認定の問

題についても、保険者の質問に特別の意義を認め、「保険者が質問し

た事実については被保険者はその重要性を知ったものと推定すべきで

ある」と説く最近の学説があるが、本判決は保険者の質問にこのよう

な効果を認める考えを採用していない。

(4)保険者の過失  本件の場合、保険者が血糖値検査等の精密

検査を行わなかったことは保険者の過失といえないと判示している

-16年一一一

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が、正当である。判旨が商法678条1項にいう過失は「通常なすべき

注意を欠く」意味であると述べている点も、正当である。ただし、い

わゆる「通常なすべき注意」は、一般には、保険診査にあたり通常な

すべき注意の意味に理解しなければならない。

糸川厚生・生命保険契約上の権利の差押についての考察

-文研論集(生命保険文化研究所)92号91真一137頁(平成2年

9月)-

生命保険制度は、従来、専ら家計の安全のためのものと考えら

れていたが、近時は、ローン債権担保のための団体信用生命保険

や財産形成のための一時払養老保険などが現われ、その解約払戻

金請求権または保険金請求権が差押の対象となることが多い。本

稿は、これら請求権の差押に関する理論上、実際上の問題につき

詳細に論ずるもので、興味深い論稿である。

はじめに(略)

1.有効継続中の生命保険契約上の権利の財産性(1)生命保険契約

に包括されている諸権利間の関係  生命保険契約に包括されている

保険契約者側の財産権は、満期保険金、高度障害保険金、死亡保険金

のほか、解約により生ずる解約払戻金についての請求権である。これ

らの権利は、その一つが発生すれば他は消滅するという関係にあると

いう意味で条件付権利であるが、その差押は一般に可能であると解さ

れている。

(2)質権設定と差押  生命保険契約の担保的利用としては、担

保的譲渡のほか質権設定により行われるが、・保険契約者と被保険者と

-170-

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生命保険法文献紹介No.11

が別人のときは被保険者の同意を要する。これに対し、差押は、それ

がなされても生命保険契約は有効に継続し、また各条件付債権につい

ての差押は他の債権には影響を及ぼさない。

2.解約払戻金請求権の差押(1)解約権行使の方法  解約払戻金

請求権を差押えた債権者が解約権を行使する方法として判例の認める

のは、①債権者代位権に基づく解約権の行使、②差押債権者の取立権

に基づく解約権の行使である。

(2)債権者代位権による場合  債権者代位権によるためには、

通説によれば、債務者の無資力が要件とされる。しかし、特に財産権

的意味の濃厚な一時払養老保険や変額保険等については、銀行預金や

投資信託と区別して特に保護されるべき理由がないので、差押債権者

の利益を考慮して、無資力を要件とせず解約権の代位行使を認めるべ

きであろう。

(3)差押債権者の取立権能による場合  差押債権者の取立権能

には解約権も含まれると解し、これによった下級審判例もある。た

だ、仮差押では取立までできず、保険金受取人が保険契約者と異なる

ときは、事故発生の場合を考慮して債権者代位により受取人指定撤回

権を行使しておく必要があろう。

(4)解約払戻金差押後の保険料払込の継続  差押の効力発生時

点後の保険料払込の継続により増加した部分の解約払戻金は、差押の

対象にならない。

(5)差押債権者による保険料の払込  解約払戻金のみならず、

保険金請求権をも差押えた場合には、保険契約者の保険料払込の継続

は期待できないが、差押債権者は、保険契約者に代わって保険料払込

をなしうるものと解すべきであろう。しかし、差押債権者は、この場

合、民法500条により保険者に代位して保険契約者に対し保険料請求

-171-

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生命保険法文献紹介No.11

権を行使しても、保険料支払債務が不完全債務であることから、その

弁済を受けることは困難であろう。

(6)保険金受取人の期待権保護の問題  この間題については、

保険契約の種類や内容によって異なるので、個別的に判断すべきであ

る。私見は、政策的に立法的解決が望ましいと考える。ドイツ保険契

約法177条は、保険金請求権等の差押の実行につき保険金受取人の介

入権を認めている。

3.保険金請求権の差押(1)有効継続中の生命保険契約の保険金請

求権の差押  保険契約者が同時に被保険者であり、かつ保険金の受

取人である場合は間虜はないが、第三者が死亡保険金受取人である場

合には、保険契約者の債権者である差押債権者は、保険契約者の受取

人指定撤回権を債権者代位権により行使しておかないと、条件付保険

金請求権に対する差押は実効性がない。

(2)有効継続中の生命保険契約の解約払戻請求権と条件付保険金

請求権が別個の債権者により差押を受けた場合  保険金請求権の差

押があったときは、解約払戻金請求権の差押も含まれるとの見解もあ

るが、否定されるべきであろう。したがって、後で差押えた解約払戻

金請求権の差押債権者の解約権の行使による換価が、先行する保険金

請求権の差押に妨げられずに行われることになる。

(3)高度障害保険金の特殊性  高度障害保険金受取人は、常に

被保険者自身に特定されているから、保険契約者が同時に被保険者で

ある場合を除いては、保険契約者の債権者は、高度障害保険金請求権

を差押えることはできない。

(4)特約に基づく障害給付金・入院給付金と差押、(5)保険契約

者の債権者よりみた保険金・解約払戻金の差押の可否(以上略)

(6)保険契約者の債権者は債権者代位権により受取人指定変更権

-172-

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生命保険法文献紹介No.11

を行使して、債権者自身を保険金受取人に措定できるか  高度障害

保険金は被保険者が受取人となると約款で定められており、また死亡

保険金の受取人変更については被保険者の同意が必要であるが、満期

保険金についてはこのような制限はない。しかし、受取人を債権者自

身に変更しても、他の債権者が債権者代位権を行使してその指定を撤

回することができるので無意味である。したがって、受取人指定変更

権の債権者代位行為は、指定撤回権の行使に限定して認められるべき

であろう。

4.二人以上の債権者による債権者代位権の行使と保険金の支払先

保険事故発生後の保険金支払請求および有効継続中の生命保険契約

の解約による解約払戻金支払請求は、所定の請求書頬により請求がな

されてから、約款上5日を経過した時点で履行期が到来するので、そ

の間に、複数の債権者による債権者代位権に基づく権利行使が行われ

ることがありうる。この場合、複数代位債権者の債権額の合計が保険

金額の範囲内であれば、解約請求は、保険金減額請求権の代位請求と

読み替えて、解約を認めずに複数代位債権の満足を図るべきである。

複数代位債権者の債権額が解約払戻金ないし保険金額を上回る場合に

は、債権者代位権の行使は早い者勝ちとなるが、債権者代位権が強制

執行の準備と責任財産の保全にあるとすれば、少なくとも、一方に対

する支払が完了する以前にあっては、保険者が供託できるものとする

のが望ましいが、現在はそれができない。

5.まとめ、おわりに(以上略)

-173-1

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生命保険法文献紹介No.11

原田策司・長期型傷害保険の解約権について

-前掲中村・金澤記念429真一449頁-

長期型(3年ないし10年)傷害保険については、保険金額お

よび解約返戻金の高額化などによって解約権の問題が重要となっ

てきたが、そこで、保険者の解約権および保険契約者の解約権の

差押ないし代位行使について考察したものである。長期型傷害保

険が増加してきている状況にかんがみ、重要な研究と認められ

る。

1.まえがさ  現行商法には、傷害保険契約に関する規定はない。

そこで、この保険契約については、傷害保険約款に従うこととなる。

ただし、この約款に規定がない場合には、傷害保険に関する慣習法ま

たは判例法の通用、あるいは損害保険または生命保険に関する商法の

規定の類推適用によることとなる。

2.保険者の解約権(1)総説  長期型傷害保険の保険金額の高額

化によって、道徳的危険(保険事故招致など)の心配も高まってきた

が、この危険を防止する方策の一つとして保険者からの契約解除権

(解約権)が重要な意味をもってきた。この解約権には任意解約権と

特別解約権とがある。

(2)任意解約権  これは、傷害保険普通保険約款(以下普傷約款

と略す)16条2項の定めるものであるが、同条項によると、保険者

は、「この保険契約を解除する相当の理由があると認めたときは、解

除する日の30[]前までに書面により・・・保険契約を解除すること

ができ」る。そして、この解約は将来に向ってのみ効力を生ずる。

(3)特別解約権  上記の任意解約権に加えて、学説は特別解約

権を認め、保険契約者等が保険者との間の信頼関係を破壊する行為、

-174-

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生命保険法文献紹介No.11

たとえば故意による事故招致を行ったときは、保険者は保険契約を解

除することができる、と解している。そして、これと同様に解する下

級審判例(大阪地判昭和60年8月30日判例時報1183号153頁、東京地判昭

和63年5月23日判例時報1297号129頁)も出ている。

ところで、特別解約権の根拠づけに関しては、雇傭契約関係のやむ

を得ない事由による解除を定めた民法628条の類推適用をあげる見解

が有力である。

いずれにしても、特別解約権を認めてよいと考えられるが、これに

よる解約の効果(遡及効か将来効か)に関しては、危険が著しく増加

した場合の解約権および解約の効果を定めた商法657条を通用して、

解約の効果は解約の事由が生じた時点から保険契約はその効力を失う

と解すべきである。

3.保険契約者の解約権の差押と債権者代位行使(1)総説、 傷害

保険の保険契約者は、いつでも契約を解約することができる(普傷約

款16条3項)。そして、解約によって解約返戻金が保険契約者に支払

われる。そこで、保険契約者の債権者としては、(D上記の解約権を差

押え、自ら解約権を行使する、②上記の解約権を債権者代位権に基づ

いて代位行使する、という二つの方法が考えられる。

(2)解約権の差押  解約権は一身専属的な権利ではないから、

その差押は可能である。この差押の方法は、まだ具体化していない解

約返戻金請求権を差押え、その取立権を取得し、この取立権に基づい

て解約権を行使するという方法による(大阪地判昭和59年5月18日判

例時報1136号146頁)。ただし、反対説も主張されている。

(3)解約権の債権者代位権による行使  これは、民法423条1

項の定める債権者代位権に基づいて、債務者たる保険契約者の解約権

を代位行使し、解約返戻金を受取る方法である(東京地判昭和59年9月

-175-

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生命保険法文献紹介No.11

17日 判例時報1161号142頁)。

(4)要約  解約権の差押または代位行使は、上述のように可能

であるが、他方では、このことによって債務者たる保険契約者等に不

利益をもたらすおそれがある。そこで、約款によって解約権の差押ま

たは代位行使を制限することが考えられる。しかし、この制限は長期

保険については難しいと認められるので、介入権制度を導入するほか

ないであろう。すなわち、保険金受取人または保険契約者の配偶者お

よび子が、保険契約者の同意を得て、解約返戻金相当額を差押債権者

に弁済するという形で保険契約に介入することを許す制度(ドイツ保

険契約法177条参照)を約款によって導入すること(この約款による導入は

許される)が適当と思われる。

志田惣一・生命保険契約における解約の法的性質一解約をめぐる保険

給付概念の考察

-前掲中村・金澤記念671真一695頁-

生命保険契約における解約については、わが国の商法には規定

はないが、それは保険契約者の権利と解されている。そこで、本

稿は、解約の法的性質に関するフランス・ドイツの学説・判例を

考察し、解約は契約の法的概念では説明不可能で、その法理的根

拠は法律または約款の規定に求めざるをえないとする。生命保険

契約と解約との関係を明確にした注目すべき研究である。

1.はじめに(略)

2.解約と生命保険契約(1)フランスの学説では、解約は生命保険

契約と別個の契約に基づくものであるとし、解約を①売買、②更改

一176-

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生命保険法文献紹介No.11

または③清算、のいずれと解するにせよ、新たな合意が必要であり、

解約をその効果であると考えている点は共通している。このことか

ら、解約は生命保険契約が当然に予定しているものではなく、また解

約権を認めることは保険者にとり義務的なものでないということにな

る。ところで、①②における合意が新たな債権の成立に関するものな

のに対し、③では新たな債権は保険契約関係の終了についての合意の

効果として成立する点で相違がある。

(2)フランスの判例では、債権者、破産管財人あるいは保険金受

取人が解約権を行使できるかが問題とされ、解約権が一身専属権か否

かの点で対立していた。肯定する判例は、解約権は保険契約者のみが

行使できるとしたが、判例の多くは、解約の権利性を前提とした上

で、解約権は財産的価値を有し、他人が行使してもその本質的内容に

変化を生じないとの理由でその代位行使を認めた。

(3)今日のフランスでは、解約権が義務的なものとして法定され

たので(1930年フランス保険契約法77条1項)、保険者の同意は不要とな

り、解約は保険契約者の請求のみで効果を生じる保険契約者の権利と

して考えられている。

3.解約の法理的根拠(1)生命保険契約における解約の位置づけに

ついて、学説は3つに分れる。①解約に基づく請求を原状回復の請求

あるいは不当利得の返還として理解し、解約に際しての保険契約者の

責任準備金に対する権利の根拠を契約の一般的法理に求める立場、②

解約権は持分の返遼請求あるいは寄託物の返還請求として理解し、生

命保険契約の特殊の内容、例えば責任準備金に対する保険契約者の権

利に根拠を求める立場、③解約権は法律または約款により生命保険契

約に特別に付加されたものと解し、規定を欠く場合には解約を請求で

きないとする立場、の3説である。

-177l-

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生命保険法文献紹介No.11

(2)保険契約の解約は過去の法律関係に影響しないこと、責任準

備金の額に含まれる予定率に従った利息は原状回復の概念になじまな

いこと、各期の保険料全額が保険契約者の義務として払込まれている

ので、不当利得返還請求権の成立は困難であること、などから①説は

疑問である。他方、責任準備金は法律上保険契約者に帰属していると

考えると、保険契約者はその返還請求権を有するとする②説は理解で

きるが、今日責任準備金は保険者の所有権の対象と考えられているの

で、この説も疑問である。結局、解約は契約の法的概念からは説明不

可能なものであると考えられ、したがって、その法理的根拠を法律・

約款の規定に求める(診説が妥当と認められる。

(3)上記③説によると、解約権を認めることにより生命保険契約

概念が影響を受けるかどうかという問題があるが、保険者の負担する

債務は保険金の支払のみであり、そして解約返戻金請求権は変形され

た保険金請求権であるから、生命保険契約の概念は修正をうけない。

他方、法律・約款の規定を欠く場合、解約はできないかどうかの問題

がある。これについては、実務上約款により解決されているものの、

解約返戻金請求権が生命保険契約の概念から法的に導きうるとするこ

と、すなわち保険契約者の当然の権利として約款にかかわらず認めら

れることが望ましいが、理論的にはそれは難しいと考えられる。とい

うのは、責任準備金が実質的には保険契約者に帰属しているというこ

とを保険契約法のレベルで説明できないからである。

4.おわりに  解約権は約款により生命保険契約に付加された権利

であるが、保険制度上不可欠のものとして法律または約款により義務

的なものとされるので、規定を欠くときは保険契約者は解約すること

が困難である。これが妥当でないとすれば、解約権を保険契約者の当

然の権利として構成する必要があろう。

-178-

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生命保険法文献紹介No.11

戸出正夫・保険契約における事故招致免責について

-北見大学論集23号57真一76頁(平成2年3月)-

損害保険・生命保険のいずれにおいても、保険契約者・保険金

受取人等が保険事故を惹起させた(事故招致)ときは、保険者は

保険金を支払う義務を免れるが(免責)、これにつき比較法的お

よび理論的考察を行ったものである。この免責の法的性質ないし

理論的根拠は公序則(反公序良俗性)に求められるとしている

が、この間題の新しい見地からの検討として注目される。

1.問題の所在  商法641条は、損害保険につき、保険契約者また

は被保険者の悪意・重過失による損害は、保険者がこれを項補する責

任を負わない旨を定める。また、商法680条は、生命保険につき、①

被保険者の自殺、犯罪または死刑の執行による死亡、②保険金受取人

の故意による被保険者殺害、③保険契約者の故意による被保険者殺

害、の諸場合には保険者は保険金を支払う責任を負わない旨を定め

る。これらの事故招致免責の性質・根拠、あるいはその射程距離など

を改めて検討する必要がある。

2.諸外国の立法例(1)日本商法の模範となったドイツ保険契約法

は、損害保険における事故招致免責については日本商法とほぼ同様で

あるが、生命保険におけるそれについては日本商法より寛大主義の立

場をとっている。すなわち、上記③の保険契約者の故意による被保険

者殺害を免責事由から除外し、この場合には保険金受取人の指定だけ

が効力を失うものとしている。

(2)スイス保険契約法は、生命保険に特有な免責規定のないこ

と、また故意による事故招致であっても、それが人道に基づくもので

ある場合には免責とならない旨を定めていること、に特色を有する。

-179-

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生命保険法文献紹介No.11

(3)フランス保険法典は、損害保険と生命保険とに共通な規定と

して、過失による事故招致を免責事由から除外し、寛大主義に一歩進

んでいる。他方、生命保険につき、2年以上経過後の被保険者の自殺

を免責事由としない点でも、寛大主義の特色を示している。

(4)イタリア民法は、損害保険・生命保険共通の規定として、重

過失による事故招致を原則的に免責事由としているが、特約により免

責事由から除外することを許している。また、スイス法と同様、人道

による故意の事故招致を免責事由から除外している。

3.事故招致免責の法的性格(1)これについては、つぎのように学

説が分かれている。

(イ)一般責任理論説  これは、故意・過失によって生じた不利

益はその者が自ら負担すべきである(自己責任)とする一般責任理論

から事故招致免責を説明する見解である。

(ロ)危険除斥(制限)説  これは、故意・過失による事故(危

険)を最初から除斥して保険者が保険を引受けることに根拠を求める

見解である。

(ハ)条件(前提)説  これは、故意・過失によって事故を招致

しないことが保険金請求権発生の条件ないし前提となっているとする

見解である。

(ニ)技術説  これは、保険事故には偶然性が要求されるが、故

意に招致された事故はこの偶然性を欠いているとする見解で、非偶然

説とも呼ばれる。

(ホ)条件成就説  これは、民法130条の反面解釈に基づくもの

で、信義則説と呼ぶこともできる。すなわち、この反面解釈によっ

て、条件の成就によって利益を受ける者が信義誠実に反してこの条件

を成就せしめたときは、条件は成就しなかったものとみなす、と解す

-180-

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生命保険法文献紹介No.11

ることができるが、保険事故招致の場合にも、保険事故が生じなかっ

たものとみなして、保険者が免責されると解するわけであり、これが

わが国の通説となっている。

(2)上記の条件成就説ないし信義則説の一部には、故意の事故招

致を公序良俗違反あるいは反倫理的なものとして捉える見解(公序

則説)がある。ところで、信義則は権利行使が信義誠実に従ってなさ

れることを要求する市民法原理である(民法1条2項)。これに対し、

公序別は公序良俗に反する法律行為を無効とする社会法原理である

(民法90条)。したがって、両者は異なるものであり、それゆえまた、

信義則説と公序則説とは区別されなければならない。私見は、このよ

うにして信義則説と区別された公序則説をとりたいと考える。

4.事故招致免責の射程(1)わが国をも含めて、重過失による事故

招致の場合をも免責事由としている立法例が多いが、この免責は公序

良俗違反を理由とするものではなく、政策的見地に基づくものにすぎ

ない。したがって、公序則説の立場からいえば、重過失による事故招

致を免責事由から除外する特約は、これを有効としてよいこととな

る。

(2)被保険者の自殺については、被保険者が保険金受取人に保険

金を受けとらせる目的で自殺した場合は時期に関係なく公序別に違反

するが、この目的のない自殺の場合は時期に関係なく公序別に違反し

ない。ただ、この目的の有無は立証が不可能に近いので、1定年限内

の自殺を画一的に免責とするフランス法やわが生命保険約款の立場

は、支持しうる。

-181一