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41 2008.11 金属資源レポート 調南米鉱山現地調査報告 佐藤 壮郎 技術顧問 447はじめに 2008 年 6 月 6 日から同 13 日まで、チリ及びペルーにおいて、JOGMEC 主催の南米鉱山現地調査を行った。訪問 した鉱山は、チリの Canderalia、Atacama Kozan、ペルーの Cerro Verde、Antamina、Huanzala の 5 鉱山であり、 民間企業からは鉱山会社、商事会社の現地駐在員を中心に延 14 名が参加した。関係者の努力により、得る所の多 い充実した調査となった。以下に、訪問した鉱山の概略と筆者の印象をまとめた。 1. Candelaria(カンデラリア) 1 - 1. 鉱山概要 Candelaria は、コピアポの南南東約 25km にあるオー プンピット(一部坑内掘)銅・金鉱山である。操業会 社は Compania Constructual Minera Candelaria であり、 Freeport McMoRan が 80%、住友金属鉱山が 16%、住 友商事が 4%の権益を有している。埋蔵量は 496 百万 t、 品 位 Cu 0.55%、Au 0.13g/t、Ag 1.58g/t。2006 年 の 生 産実績は、粗鉱量 21.4 百万 t、品位 Cu 169,644t、Au 3.6t であり、精鉱の大部分は、住友金属鉱山の東予製錬所 へ送られている。 1 - 2. 地質及び鉱床 チリ北部からペルー南部へかけての Coastal Cordillera には、いわゆる IOCG(Iron Oxide Copper Gold)型 鉱床が数多く知られており、アンデス地域の重要なメ タロジェニック・プロビンスを形成している。鉱床生 成年代は、ジュラ紀から白亜紀前期であり、西から東 へ年代が若くなっている(図 1)。Candelaria は、そ の中で最大の鉱床であり、白亜紀前期のマグマ弧で形 成されたとされている(Sillitoe, 2003)。 このマグマ弧は、厚い火山・堆積岩類と gabbro から granodiorite 組成の膨大な量の深成岩の活動で特徴付 けられている。これらのマグマ活動は伸張性の場で行 われており、back-arc 或いは intra-arc の堆積盆が形成 され、蒸発岩の堆積もあった。主要な地質構造は、マ グマ弧に平行な連続性の良い断層系であり、1,000km 以上連続している Atacama 断層がその好例である。 Candelaria 周辺(Canderalia ~ Punt del Cobre 地域) の地質図と鉱床の分布を図 2、図 3 に示す。両図から も明らかなように、IOCG 型の Cu-Au 鉱床と鉄鉱床 (IOCGの鉄に富むエンド・メンバーとされる)は、 Atacama 断層とその派生断層とされる南北系の急角 度断層に沿って分布している。 鉱床周辺の地質は、図 3 に示されているように、西 側にカルクアルカリ質の Copiapo Batholith が広く分 写真 1. 南米鉱山現地調査参加者(Candelaria 鉱山事務所にて)

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南米鉱山現地調査報告

南米鉱山現地調査報告

佐藤 壮郎技術顧問

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はじめに2008 年 6 月 6 日から同 13 日まで、チリ及びペルーにおいて、JOGMEC 主催の南米鉱山現地調査を行った。訪問

した鉱山は、チリの Canderalia、Atacama Kozan、ペルーの Cerro Verde、Antamina、Huanzala の 5 鉱山であり、民間企業からは鉱山会社、商事会社の現地駐在員を中心に延 14 名が参加した。関係者の努力により、得る所の多い充実した調査となった。以下に、訪問した鉱山の概略と筆者の印象をまとめた。

1. Candelaria(カンデラリア)1-1. 鉱山概要

Candelaria は、コピアポの南南東約 25km にあるオープンピット(一部坑内掘)銅・金鉱山である。操業会社は Compania Constructual Minera Candelaria であり、Freeport McMoRan が 80%、住友金属鉱山が 16%、住友商事が 4%の権益を有している。埋蔵量は 496 百万 t、品位 Cu 0.55%、Au 0.13g/t、Ag 1.58g/t。2006 年の生産実績は、粗鉱量21.4百万t、品位Cu 169,644t、Au 3.6tであり、精鉱の大部分は、住友金属鉱山の東予製錬所へ送られている。

1-2. 地質及び鉱床チリ北部からペルー南部へかけての Coastal Cordillera

には、いわゆる IOCG(Iron Oxide Copper Gold)型鉱床が数多く知られており、アンデス地域の重要なメタロジェニック・プロビンスを形成している。鉱床生成年代は、ジュラ紀から白亜紀前期であり、西から東

へ年代が若くなっている(図 1)。Candelaria は、その中で最大の鉱床であり、白亜紀前期のマグマ弧で形成されたとされている(Sillitoe, 2003)。

このマグマ弧は、厚い火山・堆積岩類と gabbro からgranodiorite 組成の膨大な量の深成岩の活動で特徴付けられている。これらのマグマ活動は伸張性の場で行われており、back-arc 或いは intra-arc の堆積盆が形成され、蒸発岩の堆積もあった。主要な地質構造は、マグマ弧に平行な連続性の良い断層系であり、1,000km以上連続している Atacama 断層がその好例である。

Candelaria周辺(Canderalia~Punt del Cobre地域)の地質図と鉱床の分布を図 2、図 3 に示す。両図からも明らかなように、IOCG 型の Cu-Au 鉱床と鉄鉱床

(IOCG の鉄に富むエンド・メンバーとされる)は、Atacama 断層とその派生断層とされる南北系の急角度断層に沿って分布している。

鉱床周辺の地質は、図 3 に示されているように、西側にカルクアルカリ質の Copiapo Batholith が広く分

写真 1. 南米鉱山現地調査参加者(Candelaria 鉱山事務所にて)

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- 2km(NS) 1.5km(EW) 600m(depth)2.5km 1.5km 800m

- 4 1 300,000t 75,000t- 0.227% 0.227-0.4% 0.4%- Cu 0.7 0.8% Au 0.12 0.15g/t

Candelaria Norte

CandelariaSur

N

CandelariaNorte

CandelariaSur

Tuff

Lower AndesiteLar Fault

- 2 (Candelaria Norte, Candelaria Sur)- 4,000 /- 10.9 @2.15% Cu

写真 2. Candelaria 鉱山の採掘状況

図 1. 中央アンデス地域の IOCG 型鉱床及び斑岩型鉱床の時代別配列(Sillitoe, 2003)

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布している。貫入時期は 119 ~ 97Ma である。東側には、白亜紀前期の火山、堆積岩類が分布し、下部からPunta del Cobre 層(安山岩―デイサイト質火山岩類、上部で凝灰岩・砂岩・頁岩互層に漸移)、Chanarcillo層(石灰岩・砂岩・頁岩・凝灰岩)、及び後者と同時

異相の Bandurrias 層(陸成火山岩類)と名づけられている。

鉱床は、層理にほぼ平行な層状或いは脈状、細脈状、礫状鉱体として、Punta del Cobre 層の火山岩・火山砕屑岩中に産する(図 4、図 5)。初生銅鉱物は黄

図 2. (a)Atacama 地域の地質図と鉄鉱床及び IOCG 型銅・金鉱床の分布(b)Punta del Cobre 地域の主要 IOCG 型銅・金鉱床(Marschik and Fontbote, 2001)

図 3. Punta del Cobre 地域の地質図(Marschik and Fontbote, 2001)

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銅鉱のみであり、多量の磁鉄鉱及び / 或いは赤鉄鉱を伴う。鉱床の一部には、Ag、Zn、Mo 及び軽稀土が高濃度を示す部分がある。

変質帯は、主として鉱床外縁部の広範囲な Na(-Ca)変質と、鉱床近辺の K 変質に大別されるが、その鉱物組合せは特に鉱床周辺で大変複雑である(図 5)。

1-3. 所感IOCG 型とされている鉱床群は、濃集元素、形成年

代、地質環境等に関して非常に変化に富んでおり、その統一的な鉱床モデルをつくることは難しい。しかし、このタイプの特徴とされる①広範囲の Na(-Ca)変質、②蒸発岩(或いは高塩濃度プラヤ)の存在、③鉱床形成時の伸張性テクトニクス、④ Batholith 規模の大規模な貫入岩体の存在等は、多くの鉱床(特に銅に富む鉱床)に共通している(たとえば Hitzman et al.(1972))。

Candelaria 地域も、これらの特徴をすべて備えている。これらを踏まえ、また既存の同位体データ等

(Marschik and Fontbote, 2001)を考慮して、次のような鉱床形成モデルが考えられる。1) 伸張性テクトニクス場の火山弧の活動と背弧盆の

形成。背弧盆に浅海性堆積物(石灰岩、蒸発岩等)の堆積(> 140 ~ 112Ma)。

2)CopiapoBatholith の貫入(119 ~ 97Ma)と陸化。3) Batholith の貫入により生じた急傾斜の地温勾配に

より、背弧盆堆積層中に熱水循環系が発生。蒸発岩中の NaCl を溶かして高塩濃度化した熱水による、堆積岩中の Fe その他の金属元素の溶脱。広範囲の Na(-Ca)変質作用。

4) 熱水系の温度下降部(熱水上昇部)における酸化鉄鉱物(+Cu)の沈殿。

5) 貫入岩の固化に伴うマグマ性鉱化溶液の発生。K 変質作用。循環熱水との混合による Cu・Au 等の沈殿。

酸化鉄鉱物と銅鉱物が同一の場所に沈殿していることは、循環熱水系の上昇部とマグマ性溶液の通路が、同一の割れ目系(Atacama 断層とその分岐脈)に支配されていたためであろう。IOCG 型鉱化作用において、火成岩の貫入を受けた堆積岩中の蒸発岩は、鉄をはじめ様々な金属の溶脱・濃集に大きな役割を果たしたものと思われる。Candelaria においては、さらにマグマ性溶液からの有用金属の沈殿・濃集があり、大規模鉱床を形成したのではないだろうか。

2. Atacama Kozan(アタカマ鉱山)2-1. 鉱山概要

Atacama Kozan は、Candelaria の東側に隣接する坑内掘鉱山である(写真 3)。日鉄鉱業は 1990 年代の初頭よりこの地域において探鉱を開始し、埋蔵鉱量約 3千万 t、品位 Cu 1.5%、可採鉱量約 2 千万 t を確認した。1999 年 5 月、同社 60%、Inversiones Las Cruses 40%の資本比率による合弁会社 Sociedad Contructual Minera Atacama Kozan(アタカマ鉱山特約会社)を設立して、2003 年 6 月から商業生産が開始された。2007 年の生産実績は、粗鉱量 177.5 万 t、精鉱量 6.3 万 tであり、精鉱のうち 2.4 万 t が ENAMI へ、4 万 t がPPC 玉野製錬所へ送られている。

2-2. 地質及び鉱床鉱床は Candelaria とほぼ同一の層準に産し、マン

図 4. Candelaria-Punta del Cobre 地域の模式断面図断面線は図 3 参照(Marschik and Fontbote, 2001)

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ト状、角礫状、細脈状、網状を呈する(図 6)。鉱石鉱 物、 変 質 鉱 物 と も に Candelaria と 同 様 で あ り、Candelaria 鉱床の北東端(Candelaria Norte 鉱体)と連続しているらしい。採掘対象となっているのは主としてマント状鉱体であり、Punta del Cobre 層の安山岩溶岩(Lower Andesite)とそれを覆う凝灰岩、砂岩、頁岩互層の境界に沿って、東西約 800m、1.4kmの範囲に分布する。鉱体の厚さは最大 40m に達する。鉱石構成鉱物は大量の磁鉄鉱と黄銅鉱、黄鉄鉱であ

り、少量の磁硫鉄鉱と閃亜鉛鉱等を伴う。

2-3. 所感IOCG 型として一括りにされている鉱床には、鉄、

銅、金、ウラン、希土類元素等の様々な有用金属が濃集しているが、鉱床によってその量比に大きな違いがある。筆者の興味は、例えば豪州の Olympic Dam 鉱床(金属量:銅3,000万t、ウラン1,000万t、金1,000t)に見られる大量のウランの濃集が、なぜアンデス地域

図 5. Candelaria-Punta del Cobre 地域の酸化鉄鉱物と変質鉱物の分布(Marschik and Fontbote, 2001)mt=magnetite, ht=hematite, ab=albite, amph=amphibole, bio=biotite, chl=chlorite, cte=calcite, epi=epiodote, kspar=K-feldspar, plag=plagioclase, px=pyroxene, qtz=quartz, scap=scapolite

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の IOCG 型鉱床にはないかということであった。一つの仮説として、酸化的な循環熱水によって鉱床

層準上位の火山、堆積岩中からウランが溶脱され、マグマ性溶液と混合してウランが沈殿するというメカニズムが考えられる。これに従えば、循環熱水が還元的であればウランの濃集は起こらないことになる。コアの観察では、鉱床層準上位の Punta del Cobre 層とAbundancia 層中に多数の黒色頁岩層が挟在していることが確認できた。この黒色頁岩が、循環熱水に対する還元剤として働き、この地域にはウランの溶脱、濃集が行われなかった可能性が考えられるのではないか。

また、日鉄鉱業は 10 年間にわたる精緻な探査によって、潜頭性鉱床の発見に成功した。その探鉱経過

(一井他、2007)は今後の IOCG 型鉱床の探査に大い

に参考になろう。

3. Cerro Verde(セロベルデ)3-1. 鉱山概要

Freeport McMoRan(53.6%)、Compania de Minas Buenaventura S.A.(18.2%)の他、住友金属鉱山が16.8%、住友商事が 4.2%の権益を有する。斑岩型銅、モリブデン鉱床を採掘対象とする露天掘鉱山である。現在、探鉱出鉱中の Cerro Negro 鉱体を含めた鉱量・品位は 740 百万 t、品位 Cu 0.44%、Mo 0.014%である。酸化鉱及び二次富化鉱を対象とした SxEw と初生硫化鉱を対象とした浮遊選鉱の両プロセスを有する。後者における粗鉱処理量は 10.8 万 t/ 日で、精鉱の 50%が住友金属鉱山、東予製錬所、20%が住友金属鉱山以

SAG

2,500 / Cu 30 31%

写真 3. Candelaria 鉱山の選鉱場

図 6. Atacama Kozan の鉱床位置を示すCandelaria-Punta del Cobre 地域の西南西-東北東模式断面図(一井他、2007)

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5 km

N

Candelaria

FCX80%, 16%, 41%

Atacama Kozan

60%,Errazuriz 40%

El Gato

Santos San Jose

Biocobre

Capiapo

Teresita

Matta

Paipote

Alcaparrosa

Carola

Carola (SCM, Carola)

Socavón Rampa

(Pucobre)

(SCM Carola)Cu 162,000 t/y Cu 20,000 t/y

Cu 20,000 t/y

Cu 20,000 t/y

Cu 24,000 t/y

Cu 7,000 t/y

Cu 7,000 t/y

Cu 15,000 t/y

Cu 97,000 t/y

TIERRA AMARILLA

NANTOCO

PAIPOTE

COPIAPO

(Pucobre)

Cu 8,000 t/y

Cu 8,000 t/y

274,000 t/y

(Pucobre)

(Atacama Kozan)

(Can Can)

(Bio Bio)

(Ojos del Salado (FCX))

(Ojos del Salado (FCX))

(ENAMI)

(ENAMI)

(Trinidad)

写真 4. Candelaria 周辺の鉱山及び諸施設の位置関係(原図:Atacama Kozan)

写真 5. Cerro Verde 鉱山の露天掘(2008.5.25 撮影 JOGMEC 植松)

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外の日本に送られている。2007 年の生産量は、銅273,960t(精鉱分 181,620t + 地金分 92,340t)である。なお、2007 年に Mo 回収プロセスを新設し、現在試験操業中である。

3-2. 地質及び鉱床Cerro Verde は Sillitoe(2003) の Paleocene-Early

Eocene porphyry copper belt(図 1)中の斑岩型銅・

モリブデン鉱床であり、Cerro Verde、Santa Rosa 及び未開発の Cerro Negro 鉱床からなる(図 7)。鉱床母岩は先カンブリア紀の片麻岩及び古第三紀の花崗岩類 で あ り、Cerro Verde 鉱 床 は 両 者 の 境 界 部 に、Santa Rosa 鉱床は後者中に胚胎している(図 8)。花崗岩類の年代は Yarabamba Granodiorite が 62-68Ma、空間的に鉱床に密接に関連している dacite monzonite porphyry が 56-61Ma である。また、熱水活動の年

71°32' W

71°32' W

71°34' W

71°34' W

71°36' W

71°36' W

71°38' W

71°38' W

16°

30' S

16°

30' S

16°

32' S

16°

32' S

16°

34' S

16°

34' S

3 km

N

Cerro Negro鉱体

リーチング・パッド

Santa Rosaピット

Cerro Verdeピット

管理棟

電解工場

廃さいダム

図 7. Cerro Verde 鉱山のピット位置と鉱山施設

8 m/20,000 /

pH pH3.5PLS Cu 2.4 g/ PLS Pregnant Leach Solution

SX Cu 50 g/

写真 6. Cerro Verde 鉱山のリーチング・パッド

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代として Cerro Verde 鉱床で 61.8 ± 0.7Ma と 62.0 ±1.1、Santa Rosa 鉱床で 62.2 ± 2.9Ma が与えられている(Quang et al.,2003)。

鉱床の伸張方向、三鉱体の配列方向、斑岩や角礫岩の分布等は、北西―南東系の急傾斜広域断層(Incapuquio断層系の北西端)に支配されている。鉱化作用は、この断層系と局地的な北東―南西系の伸張性断層の交点に生じたとされる(Quang et al.,2003)。

3-3. 所感斑岩銅鉱床の開発に際しては、酸化鉱、二次富化鉱

の存在が重要である。Cerro Verde においても、1968年に Minero Peru により生産が開始された当初は、平均品位 Cu 1%のブロシャンタイトを主要銅鉱物とする酸化鉱(部分的に品位 Cu 2%強)を採掘していた。その後も 331 百万 t(Cu 0.52%)の二次富化鉱を採掘対象としていたが、2007 年 6 月からより低品位の初生硫化物鉱を対象にした浮遊選鉱施設がフル操業に入った(写真 7)。

Cerro Verde 鉱床における二次富化作用は、空隙に富んだ電気石角礫岩中で 300m の深さに達するが、一般には地表下 200m 以浅に 2 層の富化帯を形成してい

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2007 6890 US$4

HPGRMo Cu

HPGR: High Pressure Grinding Roll25 40%

15t 2 La Joya 58kmMatarani 62km

写真 7. Cerro Verde 鉱山の選鉱施設

図 8. Cerro Verde 鉱床周辺の地質図(Quang et al., 2003)

(上部暁新世)

(上部白亜紀-下部暁新世)

(上部白亜紀)

(白亜紀?)

(先カンブリア紀-古生代初期)

(上部ジェラ紀-下部白亜紀)

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る(図 9)。Santa Rosa 鉱床の二次富化帯は、Cerro Verde より薄い 1 層のみが存在する。

Quang et al.(2003)は二次富化帯構成鉱物の年代測定を行い、二次富化作用は始新世最後期から漸新世にかけて、当時の La Caldera 面(図 9 参照)の下で行われたことを明らかにした。筆者は漠然と鉱床の酸

化、溶脱、富化作用は現在でも進行中であると考えていたので、この結果は驚きであった。アンデス地域に限らず、斑岩型銅鉱床の探査の際には古地形、古環境等について充分な考察が必要であろう(参考文献:Sillitoe and McKee, 1996; Alpers and Brimhall, 1998; Bouzari and Clark, 2002 等)。

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図 9. Cerro Verde 鉱床の酸化帯・二次富化帯の位置を示す模式断面図数字はその生成年代(Quang et al., 2003)

4. Antamina(アンタミナ)4-1. 鉱山概要

Antamina はペルー北部の標高 4,200 ~ 4,800m の中央アンデス山岳地帯に位置する銅・亜鉛露天掘鉱山であり、2001 年に生産を開始した。BHP Billiton(33.75%)、Xstrata(33.75%)、Teck Cominco(22.5%)、三菱商事

(10.0%)が資本参加している。埋蔵量は 1,521 百万 t(品位 Cu 0.93%、Zn 0.51%、Ag 10.9g/t、Mo 0.02%)。粗鉱処理量は約 9 万 t/ 日で、2007 年の生産実績は銅341,324t、亜鉛 322,367t であった。

4-2. 地質及び鉱床Antamina は中央ペルー多金属帯として知られる鉱

床区のほぼ中央に位置している(図 10)。この帯には、中新世中~後期のカルクアルカリ質浅所貫入岩類に伴い、Cerro de Pasco、Milpo、Casapalca-Morococha 等

多数の熱水性 Pb-Zn-Ag 鉱床が生成されている。Antamina 鉱床周辺には、ジュラ紀後期から白亜紀

後期にかけての厚い海成堆積物が広く分布している。これらは、西側にあったマグマ弧の背弧海盆の堆積物と解されており、層厚は 5,000m 以上に達する(図 11)。暁新世後期(ca 41-40Ma)に Incanian の構造運動を受け、横臥褶曲や逆断層が発達している(図 12、図 13)。

中新世中-後期(ca 16.5-5Ma)にかけて、Cordillera Blanca Batholith の貫入を始め、この地域に広範なマグマ活動があった。Antamina 鉱床周辺の貫入岩類もこの時期のものである。

Antamina 鉱床は、白亜紀上部の Jumasha 層及びCelendin 層 に 貫 入 し た 石 英 モ ン ゾ ナ イ ト 斑 岩

(Antamina stock : 9.8-10Ma)とその周辺のスカルン中に胚胎されている(図 14、図 15)。現在採掘の対象となっているのは主としてスカルン中の銅・亜鉛鉱で

skarn ore

marble, hornfels

thrust

porphyry

Antamina anticline

hornfels, marble

4,700m Jumasha-CelendinFormation

写真 8. Antamina 鉱山の露天掘と鉱石等の分布

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bleached marble skarnore

Antamina

10m

写真 9. Antamina 鉱山の露天掘採掘状況

図 10. アンデス地域における metallogenic belt とその年代(Sillitoe, 2004)

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あり、Antamina stock から外側へ、① brown garnet endoskarn(黄銅鉱)、② brown garnet exoskarn(黄銅鉱)、③ green garnet exoskarn(黄銅鉱と閃亜鉛鉱)、④ wollastonite-green garnet skarn(斑銅鉱、閃亜鉛鉱

及びビスマス)と累帯配列を示す(図 15)。さらにこれらの周辺の大理石や再結晶化した石灰岩中には、脈状乃至マント状の wollasotonite-green garnet skarn に伴う亜鉛、鉛、銀の鉱化作用が認められる。

Antamina stock 自身も広範な斑岩型銅・モリブデン鉱化作用を受けており、これを含めた Antamina 鉱床の総地質資源量は、2000 年時点で 30 億 t、品位 Cu 0.55、Zn 0.46%、Ag 7.00g/t、Mo 0.02%、Bi 49.80ppmとされている(Lipton and Smith, 2005)。

4-3. 所感Antamina 周辺では、スパニアードの侵攻以前から

銅や金、銀が採掘されていたらしい。Antamina という地名自体、“anta”はケチュア語で“銅”を、“mina”はスペイン語の鉱山を意味するという(Redwood, 2004)。19 世紀後半から 20 世紀にかけて、小規模な探鉱や鉱山開発が行われたがいずれも放棄された。第

二次大戦後は Cerro de Pasco Corp,、国営会社の Minero Peru を始め、様々な企業間で鉱業権の移動があり、最終的に三菱商事を含む 3 社(最終的に 4 社)のコンソーシアムに売却された。開発決定の発表は 1998 年9 月になされ、2001 年 7 月に最初の銅、亜鉛精鉱が出荷された。開発に要した費用は、鉱山施設、港湾施設、太平洋沿岸の Huarmey 港までの 320km のパイプライン敷設等を含め 23 億 US $に達した(Lipton and Smith, 2005)。また環境対応として、選鉱場へ供給する鉱石の選別、有害物質の含有量によるズリの分別堆積等様々な対策が講じられている(写真 10)。

Antamina は標高 4,100 ~ 4,700m の山岳地帯にあり、インフラも整っていなかった。鉱床は氷河湖であるLake Antamina の下にあり(図 14)、その排水、湖底堆積物の除去にも多大の困難があったと聞いた。近世以降でも 150 年以上の探査、採掘の歴史があるこの地域で、世界最大のスカルン型亜鉛鉱床(世界第 3 位の亜鉛生産量)として喧伝される大鉱床がなぜ最近まで開発されなかったのか。今回の鉱山訪問では充分な聴取はできなかったが、探査手法、鉱量・ポテンシャル評価、住民・環境対策、資金調達等、当鉱山の開発に至るまでの経緯のケーススタディは、今後ますます遠隔化、困難化していく鉱山開発の意志決定の際に大い

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図 11. Antamina 地域の層序(Lipton and Smith, 2005)

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に参考になることであろう。

5. Huanzala(ワンサラ)5-1. 鉱山概要

Huanzala(三井金属鉱業 70%、三井物産 30%)は、Antamina の南南東約 50km に位置する坑内掘亜鉛、鉛、銀鉱山である。1968 年開山以来、埋蔵鉱量約 19 百万 t

のうち約 4 分の 3 が採掘済みである。2006 年から、Huanzala の南約 50km 地点に開発された Pallca 鉱山の鉱石を受入れている。2007 年の生産量は亜鉛 28,744t、鉛 15,269t であった。

5-2. 地質及び鉱床Huanzala は Antamina の南南東約 50km に位置する

(459)

図 12. Antamina 地域の地質図(Redwood, 2004)

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図 13. Antamina 鉱床を通る地質断面図、断面線の位置は図 12 参照(Redwood, 2004)

図 14.  Antamina 鉱床の地質とスカルン帯の分布(Redwood, 2004)

(460)

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(図 16)スカルン型鉛・亜鉛鉱床であり、周辺の地質及び地質構造は Antamina 鉱床周辺とほぼ同様である

(図 17)。鉱床は、横臥褶曲を受けて逆転している下部白亜系の Santa 層及びその上部層の Carhuaz 層の石灰岩中に 5 層にわたって胚胎されている(図 18、写真 11)。

鉱床は、脈状、レンズ状、不規則塊状鉱体として産するが、全体として母岩の層理面に平行な層状を示し、断続しながら 6km に及ぶ鉱化帯を形成している

(図 19)。鉱化作用に伴う変質はスカルン化と“白地”

化であり、それらの構成鉱物を鉱石鉱物組合せてと共に図 20 に示す。

鉱床近辺には、石英斑岩(7.7 ± 0.4Ma)と石英閃緑斑岩(9.2 ± 0.5Ma)の 2 種類の貫入岩が見られる

(図 21)。前者は、層理面に平行して鉱層間にシート状に貫入しており、黄鉄鉱鉱化を普遍的に受けている他、鉛、亜鉛の鉱染も認められる(深掘他、1980)。

5-3. 所感中 央 ペ ル ー 多 金 属 鉱 床 帯 に は、 今 回 訪 問 し た

図 15. スカルン帯と金属の分帯を示す Antamina 鉱床断面図断面線の位置は図 14 参照(Redwood, 2004)

3 A C 2A&B C

80%

M1 Low As High As High As2,100ppm As

Huarmey 320km

写真 10. Antamina 鉱山のズリ堆積場と廃さいダム

(461)

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0 50 100km

N

440km

(Huanzala 鉱山資料)

図 16.  Huanzala 及び Palca 鉱山の位置図(赤線は精鉱輸送経路)

図 17. Huanzala 及び Palca 鉱山周辺の地質図(Huanzala 鉱山資料)

Q

Ks-j

Ki-pt

Ki-ph

Ki-c

Ki-s

Ki-ch

DEPOSITO ALUVIALDEPOSITOS MORRENICOSAluvial Deposit, Morrein DepositGRUPO CALIPUYCalipuy Group

INTRUSIVO NEOGENOS (GRANODIORITE)Neogene intrusive (Granodiorite)

FORMACION JUMASHA, CalizaJumasha Formation

FORMACION PARIATAMBO, Caliza, LutitaPariatambo Formation

FORMACION CHIMU, Cuarcita

FORMACION CARHUAZ, Arenisca, LutitaCarhuaz Formation

Chimu Formation

Santa FormationFORMACION SANTA, Caliza

FORMACION PARIAHUANCA, CalizaPariahuanca Formation

FORMACION OYON, LutitaOyon Formation

Ki-o

FALLAFault

SOBRE ESCURRIMIENTOThrust

EJE ANTICLINALAnticline axis

EJE SINCLINALSyncline axis

(462)

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図 18. Huanzala 鉱床母岩の層序的位置と鉱床ゾーン(Huanzala 鉱山資料)

16

V-5V-1

V-2V-3

V-4

写真 11. Huanzala 鉱山全景と母岩の露出状況(Huanzala 鉱山作成)

(463)

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Antamina・Huanzala の他にも Cerro de Pasco(>120百万 t、品位 Zn 7.2%、Pb 2.2%)、San Gregorio(>70百万 t、 品位 Zn 7.4%、Pb 2.2%)、Colquijirca(>25百万 t、品位 Zn 7%)、Iscaycruz(>5 百万 t、品位 Zn +18%)、Morococha-Toromocho(>30 百万 t、品位 Zn +7%、1,978 百万 t、等価品位 Cu 0.6%)等が知られている。これらは、鉛、亜鉛を主体にした数千万~ 1億 t クラスの鉱床と、斑岩銅鉱床を伴う 10 億 t 以上の亜鉛、銅鉱床に明らかに二分される。

アンデス地域の他の鉱床帯に比べ、中央ペルー多金属帯においては数千 m に及ぶ厚い堆積層中にマグマの貫入があることが特徴である。おそらく鉛、亜鉛は堆積岩中に起源を持ち、Antamina や Toromocho ではそれに斑岩型の銅鉱化作用がオーバーラップしたの

ではないだろうか。より小規模で銅を欠く鉱床では、barren な貫入岩が熱機関としてのみ働き、周辺の堆積岩中の金属を抽出してきたのではないかというのが、筆者の当面の作業仮説である。

この地域の貫入岩(鉱化作用)の位置は、この地域の主要構造である北北西-南南東の走向をもつ褶曲軸や逆断層にほぼ直交する北東-南西系の構造に支配されているという意見がある(Love et al., 2004)。図 21におけるレクエルド断層は、そのような構造の一つではないだろうか。今後の研究の深化が待たれる。

おわりに今回の南米鉱山現地調査では、アンデス地域の代表

的な 3 種の鉱床タイプの鉱山を効率よく鉱山調査で

図 19. Huanzala 鉱床の鉱体投影断面図と石英班岩・鉱化変質等の位置(Huanzala 鉱山資料)

図 20. Huanzala 鉱床における鉱化ステージと鉱石・変質鉱物の組合せ(深堀他、1980)

(464)

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き、大変有意義であった。多人数を快く受入れて下さった各鉱山、ならびに住友金属鉱山、住友商事、日鉄鉱業及びアカタマ鉱山特約会社、三菱商事、三井金属鉱業及びサンタイルイサ鉱業の関係者の皆様に心よりの謝意を表する。

(2008.9.11)

引用文献Alpers, C.N. and Brimhall, G.H. (1988): Middle Miocene

climatic change in the Atacama Desert, northern Chile: Evidence from supergene mineralization at La Escondida. Geol. Soc. of Am. Bull., v.100, p.1640-1656.

Bouzari, F. and Clark, A.H. (2002): Anatomy, evolution, and metallogenic significance of the supergene orebody of the Cerro Colorado porphyry copper deposit, I Region, northern Chile. Econ. Geol., v.97, p.1701-1740.

Cardozo, M. (2006): Peruvian Andes: Geology and mineral potential. PDAC 2006.

深掘泰昌・相川潔・川崎正士(1980):Huanzala 鉱山

の地質と鉱床―その鉱物学的研究―。鉱山地質、v.30, p.103-118.

一井禎彦・阿部昭夫・市毛芳克・松永潤・三好誠・古野正憲・横井浩一(2007):チリ共和国

第Ⅲ州アタカマ鉱山の銅探鉱について。資源地質、v.57, p.1-14.

Love, D.A. and Clark, A.H. (2004): The lithologic, stratigraphic, and structural setting of the giant Antamina copper-zinc skarn deposit, Ancash, Peru. Econ. Geol., v.99, p.887-916.

Marschik, R. and Fontbote, L. (2001): The Candelaria-Punta del Cobre iron oxide Cu-Au(-Zn-Ag) deposits, Chile. Econ. Geol., v.96, p.1799-1826.

Quang, C.X, Clark,A.H., Lee, J.K.W. and Guillen B, J. (2003): 40Ar-39Ar ages of hypogene and supergene mineralization in the Cerro Verde-Santa Rosa porphyry Cu-Mo cluster, Arequipa, Peru. Econ. Geol., v.95, p.1683-1696.

Redwood, S.D. (2004): Geology and development history of Antamina copper-zinc skarn deposit, Peru. Society of

図 21. Huanzala 鉱床における鉱体・貫入岩・断層の位置関係を示す模式平面図図の横幅はほぼ 300m(Huanzala 鉱山資料)

GranodioritePorphyryQuartz Porphyry

Limestone

Ore Body

Wrench Fault

Reverse Fault

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Economic Geologists Special Publication 11, p.259-277.Sillitoe, R.H. (2003): Iron oxide-copper-gold-deposits; an

Andean view. Mineralium Deposita, v.38, 787-812.Sillitoe, R.H. (2004): Musing on future exploration targets

and strategies in the Andes. Society of Economic Geologists Special Publication 11, 1-14.

Sillitoe, R.H. and McKee, E.H. (1996): Age of supergene oxidation and enrichment in the Chilean porphyry copper province. Econ. Geol., v.91, p.201-211.

Chimu

Santa Carhuas

写真 12. Huanzala 鉱山の訪問メンバー(JOGMEC 関係者のみ)と案内者の方々

(466)

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