回路シミュレータ LTspice の勧め
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回路シミュレータ LTspice の勧め 2014. 6. 20 K. Shibata
1. 回路シミュレータとは何か?
・ 自分でコンピュータ上に回路を作成し,
・ その回路の挙動
(a)電圧,電流,消費電力が時間的にどう変化するか
(b)抵抗値や容量等を変えたら,それがどう変わるか
(c)正弦波入力で,周波数を変えて出力の振幅や位相がどう変化するか (周波数応答)
など(その他もいろいろできます)を計算して,グラフに表示してくれる
とても便利なソフトウエアです。電気は目に見えないし,回路を実際に作るのは簡単ではな
いので,計算機上で手軽にいろいろな回路を作って挙動を観察できれば,断然理解が進む!
ここでは,一般的に良く使われ,たくさんの素子が利用できるリニアテクノロジー社の
LTspiceという回路シミュレータを紹介します。 何と,無料! しかも,インストールはとっても簡単!(メニュー等は英語だけど,頑張れ!)
(例1)図1のように,正弦波の
電圧を出力する交流電源
(緑)に,片側にしか電流を通
さないダイオードという素
子(LED[発光ダイオード]もその一種)を抵抗と直列につ
なぐと,抵抗の両端の電圧
(赤)は,電源電圧(緑)が正
(順方向)の時はそれにほぼ
一致するが,負(逆方向)にな
ると電流が流れないため,電
圧降下がなくなって 0V から下がらないことがわかる。横
軸は時間。
(例2)交流電源(緑)に抵抗 Rとコンデンサ Cをつなぐと,電流(赤)の位相が電源電圧
(緑)の位相より進む(波形全
体が左にずれる)。Rの値を大きくすると,図2のように,
インピーダンス(赤い矢印)
𝑍 = 𝑅 + !!"# の実部が大き
くなる。これにより,イン
ピーダンスの大きさ(矢印
の長さ)が大きくなるので,
図3のように,回路を流れ
る電流(赤)の振幅が小さく
なる。同時に,インピーダ
ンスの実軸からの角度が小
さくなるので,位相の進み
が小さくなって,電圧と電
流のピークのタイミングが
近づくことがわかる。
図2 抵抗値 Rの増加によるインピーダンス(赤矢印)の変化
図3 交流電源に可変抵抗とコンデンサを接続した場合
(緑: 電源電圧,赤:電流)
図1 交流電源にダイオード(D)と抵抗を接続した場合 (緑: 電源電圧,赤: 抵抗両端の電圧)
2.インストール
インストールはとても簡単!
・リニアテクノロジー社の LTspiceのページ http://www.linear-tech.co.jp/designtools/software/ へ行く。
("LTspice" と "リニアテクノロジー" で検索した方が楽かも) ・最初に出てくる項目の LTspice IVをクリックし,移動した後,右の方にある
"LTspice IV(Windows用)をダウンロード" をクリック。 ・ 小さいウィンドウが出て,Would you like to receive software Updates? と聞かれたら,"No thanks,
just download the software" をクリック。"Register …" を選んでも良いが,登録作業が必要になる。このメッセージが出なければ次へ。
・ LTspiceIV.exe をダウンロードする。直接「実行」を選択できる場合はそれで良い。 ・ 「ユーザーアカウント制御」のウィンドウが出て,変更を許可しますかと聞かれたら,「は
い」をクリック。出なければ次へ。 ・ ダウンロードした LTspiceIV.exeを実行する。(ダウンロードと実行を同時にやるように選択した場合は自動的に実行される)
・ License Agreement(ライセンス契約) が出たら,読んで,問題なければ Accept(受諾)のボタンを押す。その後,下の "Install Now"のボタンを押して,インストールを始める。
・ 別のウィンドウが出て,"You have User Account Control (UAC) enabled. … "というメッセージが出たら,OKのボタンを押す。出なければ次へ。
・ "LTspice IV has been successfully installed" と出たら,インストール終了! ・ "OK"ボタンを押すと,LTspiceが自動的に立ち上がる。ただし,ウィンドウが小さいので,右上の最大化ボタンで最大サイズにしておくと便利。
・ デスクトップ上に LTspiceのアイコンができているので,次回以降はこれをクリックして実行すれば良い。
3. 参考書等
ネット上に LTspiceの使い方を解説したページが多数あるので参考にできる。 解説本もある。(神崎康宏著,LTspice 入門編,CQ出版社,2,592円) 4. 使い方
図3の回路を実際に作成して,動作のシミュレーション(計算)をしてみよう。次ページの図
4は起動時に出るウィンドウの様子と,その上部のバー上のアイコンを説明した図である。
[起動,新しい回路図(Schematic)ウィンドウの表示]
起動後,上部のアイコンが並んでいるバーの一番左のアイコン をクリックすると新しい
回路図のスペースが表示される。表示されても見た目はあまり変わらないが,ウィンドウ
のタイトルが LTspice IV – [Draft1.asc] と,拡張子が.ascのファイル名が出ていれば良い。 [グリッドの表示] 上部のメニューのViewをクリックし,その中の Show Grid をクリックしてチェックを入れ,回路図上にグリッド(格子点)を表示させて見やすくする。
[抵抗の配置] 上部のバーの中の抵抗のアイコンをクリックし,ポインタを回路図上に移動すると,抵抗
の記号が出てくる。Ctrl-Rのキーを3回押して 270度回転 (90度回転させると,電流の向きが左向きになるため)させて横向きにした後,適当な場所で左クリックして配置する。右ボタンをクリックして配置モードを終了する(モードの終了は他の場合も右ボタンをクリッ
ク)。モードを終了させなくても,上部のバーの中の別のアイコンをクリックすればモード
は変わる。 [操作の取り消し] 前操作を取り消し(Undo)て戻るには,上部の反時計回りの回転矢印のアイコンをクリック。
図4 回路図作成画面とバー上のアイコンの説明(神崎康宏著: LTspice 入門編 より(転載許諾済み))
[素子等の移動,回転] 配置した抵抗(その他の素子等も同様)を移動したい場合は,上部のバーにある2つある
手のアイコン のどちらかをクリックし,移動したい素子等をクリックする。左ボタン
を押しながらドラッグ(ボタンを押したまま引っ張る)すれば,複数の素子等を同時に選ぶことができる。選んだら,選んだ素子等がポインタと一緒に付いてくるので,好きな位置に
持っていって左ボタンを押して配置する。回転させたい場合は,移動中に Ctrl-Rを押す。2つの手のアイコンの違いは,左側 が素子だけを動かす場合,右側 は配線の接続関係
を保ったまま素子を動かす場合に使う。このモードも右クリックで終了。 [素子等の削除] 素子等を削除したいときは,上部のはさみのアイコン,または,キーボード上の Deleteキーを押すとポインタがはさみのマークに変わるので,その状態で,消したいものをクリッ
クする。消したいものが複数ある場合は,左ボタンを押してドラッグして選択する。 [画面の拡大,縮小] 画面を拡大,縮小したい場合は,虫眼鏡のアイコンをクリック。特定の範囲を拡大したい
場合は,拡大したい範囲を左ボタンでドラッグして指定する。 を使うとウィンドウサイ
ズに合わせて表示してくれるので便利。 [コンデンサの配置] コンデンサも抵抗の場合と同様に配置する。
[電源の配置] 電源は,ANDの回路記号 のアイコンをクリックし,出て来た Select Component Symbol のウィンドウの下半分のスペースにおいて,スクロールバーで右の方に移動し,voltageと書かれているところを選び,OKを押す。すると, という記号が出てくるので,抵抗やコンデンサと同様に配置する。
[配線] 配線は,鉛筆で線を描いているアイコン をクリックした後,素子の端子(小さい□の部分)をクリックし,配線したい方向に動かす。線を折り曲げたい場合はそこで左クリックする。
[グラウンド(電圧の基準 0V)の配置] グラウンドは,配線の右隣の逆三角形から線が出ているアイコン をクリックする。これ
を複数置いた場合,すべて同じ電位 0Vに保たれる。
次に,各素子を右クリックして,素子のパラメータ(抵抗値や容量,電源電圧などの数値)を
設定していく。その際に,10の 3乗なら k,-3乗なら mなどの記号も使える。ただし,10の-6乗のマイクロは u,10の 6乗のメガはミリと区別するために meg と書く。 まず,マイクロを設定した際に文字化けをするのを防ぐように,上のバーからハンマーのアイ
コン をクリックして Control Panelを呼び出し,"Netlist Options" のタブを選ぶ。そして,最初に出てくる "Convert 'µ' to 'u' [*]" をクリックしてチェックを入れる。 [抵抗値の設定] 回路図上の抵抗を右クリックする。抵抗値(Resistance)のところに 3kと入れ,3kΩに設定する。ここでは他は何も入れずにデフォルトのままとする。
[コンデンサの容量の設定] コンデンサも右クリックし,ここでは容量(Capacitance)だけ 1uとし,1µFに設定する。
[交流電源の設定] 電(圧)源も右クリックして設定する。直流電源であれば,電圧 DC value と必要に応じて内部抵抗 Series Resistanceを入れれば良い。それ以外の場合は(直流でもスイッチを入れた直後の過渡的な様子を見る場合などは)Advanced のボタンをクリックし,新しく出て来たウィンドウ上で設定する。 交流電源の場合は,新しく出て来たウィンドウ上で SINEを指定する。ここでは,家庭用のコンセントに来ている商用電源の電圧をスライダック(変圧器)で 1/10の 10Vに落としたとして,振幅 Amplitude[V] 14.1,周波数 Freq[Hz] 60に設定し,その他の値は,設定しない。
[シミュレーション(回路動作の計算)の設定] 回路図の空いたところで右クリックして(または,上の Simulationのメニューから),Edit Simulation Cmdを選ぶ。時間応答を見る場合は,デフォルトの"Transient(過渡)"タブのままで良い。シミュレーションを終了する時間 stop timeを 100mに設定する。設定すると,その設定を表す文字列 (.tran 100m) が回路図上に現れるので,適当な場所に配置する。
[シミュレーションの実行] 上部のバーの人が走っている RUNアイコン (または,回路図で右クリックして一番上
にもある)をクリックすると,シミュレーションのウィンドウが現れる。 [電源電圧の観察] これでいよいよ波形の観察ができる。回路図上で配線上にポインタを持っていくと電圧プ
ローブ(探針)の形 になる。クリックすると,その点における電圧が表示される。ここで
は,電源電圧として電源上部の配線をクリックすると,シミュレーションのウィンドウに
正弦波が表示される。振幅が 14.1V,周期が 1/60=16.7msec になっていることを確認しよう。
図5 電源電圧の確認
[グラフの色,線の太さの変更] グラフ上部の文字が,それと同じ色のグラフが何のグラフかを表している。その文字を右
クリックすると,グラフの色や文字を変えることができる。上のメニューの Toolsから Color Preferencesを選び,WaveFormのタブを選択すると,グラフの背景や線の色を変更することができる。Schematicタブを選べば,回路図の色も変更できる。また,Toolsから Control Panelを開き,Waveformsのタブを選んで出てくる一番上の Plot data with thick linesをクリックしてチェックを入れると,波形の線を太くできる。
[回路図のグリッドの表示] 回路図上で右ボタンを押し,出てくるリストの中の Gridをクリックしてチェックを入れると,グラフにグリッド線が入れられる。
[回路を流れる電流の観察] 次に,電流を観察してみよう。ポインタを抵抗のところに持っていくとアイコンが電流プ
ローブの形 に変わるので,クリックすると,先ほど表示した電源電圧と一緒に,電流の時間変化の様子が別の色で表示される。これを見ると,電流の方が電源電圧より位相が少
し進んでいる(電流のピークが電圧のピークより少し前に出ている)ことがわかる。この
場合は,抵抗とコンデンサが直列に配置されているため,抵抗部もコンデンサ部も電流は
同じになる。電流の向き(アイコンの矢印でわかる)が逆の場合は,左の手のアイコン を
選んで,抵抗をクリックし,Ctrl-Rを2回クリックして 180度回転する。 [プロットするデータの選択] 観察したい電圧や電流をクリックすると,それまでのグラフに重ねて表示され,もう一度
同じところをクリックすると,それまで表示していたグラフが消えて,新しく表示したグ
ラフだけが残る。また,はさみアイコンをクリックして不要なものを選択的に消すことも
できる。右ボタンを押し,"Visible Traces"を選ぶと,リストから表示する信号を選ぶこともできる。ここでは,電源電圧のグラフを消し,電流のグラフだけを残しておこう。
[抵抗の両端の電圧の観察] 次に,抵抗の両端の電圧を測定してみよう。抵抗はどちらの端子もグラウンドに接続され
ていないので,両端の電位の差を取る必要がある。そこでまず,抵抗の左側の配線部に電
圧プローブのアイコンを持っていく。ここで,左クリックしたままポインタを動かす(ドラッグする)と,色の付いていない電圧プローブが現れるので,ボタンを押したまま,それを基準となる抵抗の右側の配線部まで移動して手を放す。すると,シミュレーションのウィ
ンドウに抵抗の両端の電圧を表す正弦波が表示される。これより,抵抗では電圧と電流の
位相が揃う(上がり下がりのタイミングが一致する)ことがわかる。グラフが重なってし
まって見にくい場合は,次のように縦軸のスケールを変えて,重なりをなくす。 [縦軸,横軸のスケールの変更] 縦軸,横軸のスケールを変更するときは,左側または下の数字を左クリックするとその軸
でいくつからいくつまで,どれぐらいの間隔で目盛りを打つかを指定することができる。
また,たとえば今のように,電圧と電流の両方を同じグラフに表示する場合,片方の目盛
りは右側に表示されている。また,特定の部分を拡大したい場合は,グラフウィンドウで,
左ボタンを押したまま拡大したいところをドラッグすると,その部分を拡大してくれる。 [コンデンサの端子間電圧と流れ込む電流の観察] 次に,コンデンサ上部の配線部を電圧プローブで2度左クリックし,コンデンサの端子間
電圧だけ表示し,その後,コンデンサ部を電流プローブで左クリックすると,コンデンサ
部での電圧と電流の波形が比較できる。 以上の操作で,次の図6のようなコンデンサの端子間電圧(緑)と流れ込む電流(赤)(この場合
は,抵抗とコンデンサは直列なので,どちらの電流も等しい)の時間変化の様子を表示する。
コンデンサでは電流(赤)の位相が電圧(緑)よりも位相が 90度進んでいる,つまり,赤のピークの方が緑のピークより1周期(360度)の 1/4だけ前(左)に来ていることがよくわかる。
図6 交流電源に抵抗とコンデンサを直列に接続したときのコンデンサにおける電圧と電流 (緑: コンデンサの端子間電圧,赤: コンデンサに流れ込む電流)
[消費電力の観測] 次に,消費電力の時間変化を観測してみよう。まず,グラフ上の空いたスペースで右クリ
ックして,出てきたメニューから Add Plot Planeを選択し,グラフのスペースをもう一つ作る。回路図のウィンドウをクリックして前面に出し,Altキーを押しながら,コンデンサのところにいくと温度計のような電力プローブ になるので,この状態で左クリックすると新
しくできたグラフスペースのところに消費電力(電圧×電流)の時間変化が見える。このとき,電圧と電流の位相が 90度ずれているので,電圧の変化を Vmsin120πtとすると,電流の変化は Imcos120πtとなる。消費電力は VmImsin120πt cons120πt = 0.5VmImsin240πtとなることから,消費電力の変化の周期は,電圧や電流の周期の半分であること,さらに 0を中心として振動しており,積分すると 0になることがグラフからも確認できる。
このようにして,抵抗の電圧,電流,電力のグラフも合わせて表示し,そのウィンドウを最
大化すると,下の図7のようになる。抵抗の消費電力も振動しおり,やはり周期は半分になる
ものの,負にはならず,1周期分積分すると正になって,エネルギーを消費することがわかる。
図7 交流電源に抵抗とコンデンサを直列につないだ場合の各素子での電圧,電流,電力の変
化。上2つのグラフが抵抗の場合,下2つがコンデンサの場合のグラフで,電圧(緑),電流(赤),電力(紫)の時間変化を表す。
次に,抵抗値 Rを変化させたときに,抵抗を流れる電流がどう変化するかを観察してみよう。
まず,時間波形のウィンドウに,電源電圧と回路を流れる電流を表示する。
[抵抗値を変更] 抵抗を右クリックし,抵抗値のところに 100と入れ 100Ωに設定する。回路図上の抵抗値の値の部分を右クリックしても値を変更することができる。
[シミュレーションの再実行] 回路に変更を加えた場合は,再度RUNアイコン を押してシミュレーションを実行する。
電流と電圧の位相差が大きくなったことが確認できる。逆に,抵抗値を 100kとすると,電圧と電流の位相差がほぼなくなることが確認できる。
[可変抵抗に変更] このように抵抗を変化させた時の電流の値を一つのグラフに一度に表示させてみよう。抵
抗を右クリックし,抵抗値のところを {VR}とする。"VR"という名前は何でも良いが,次の項目でパラメータ名を入れる際に,その名前を入れる。
[パラメータを変化させる設定] 上部のバーの一番右端の .op と見える directive(指示)アイコン をクリックする。ウィンドウが出てくるので, ".step param VR list 100 2k 5k 10k" と変化させる値を羅列し,OKボタンを押す。すると,回路図上にその文字が出てくるので,適当な位置に配置する。
[シミュレーションの再実行] Run のアイコンをクリックして,シミュレーションを再度開始すると,図3で見たように,抵抗の値が,設定した 100Ω, 2kΩ, 5kΩ, 10kΩの場合の電流波形を表示することができる。
[回路図等の保存] メニューから保存を選んで,回路図(シミュレーションの設定も含めて)を保存する。また,波形のグラフを選んで,保存すると,プロットの設定(どの値を何色で表示するなど)を
保存できるので,次回,シミュレーションを開始すると,すぐにグラフが表示される。 さらに,電源電圧が正弦波ではなく,方形波(ステップ)状に変化した場合(たとえば,あると
きスイッチを onにして直流電源と接続する場合になどに相当する)のその後の変化を見てみよう。このような,定常でない変化に対する応答を過渡応答と呼び,電気回路 IVで習う。
[電源の設定] 電源にステップ状の電圧やインパルス状の電圧を与える場合は,電源の設定で, ・SINEではなく,PULSEを選ぶ。 [方形波状(ステップ入力)の場合] ・最初の電圧 Vinitial: 0に設定 ・ONの時の電圧 Von: 1に設定 ・onになり始めてから onになるまでの立ち上がり時間 Trise: 1pに設定 ・たち下がり時間 Tfall: 1pに設定 ・onの時間 Ton: 50mに設定 ・1周期の時間 Tperiod: 100mに設定 [インパルス入力の場合] ・最初の電圧 Vinitial: に設定 ・ONの時の電圧 Von: 1megに設定 ・onになり始めてから onになるまでの立ち上がり時間 Trise: 1pに設定 ・たち下がり時間 Tfall: 1pに設定 ・onの時間 Ton: 1uに設定 Triseと Tfallは,値を入力しない場合や,0を入力した場合は,デフォルトの値が自動的に設定される。これが結構大きい値になるため, 1pのように小さい値を入れて理想値に近い値に設定しておく(実際は立ち上がるのにも時間がかかる)。インパルス入力は,理想計算ではデルタ関数(時刻 0だけ無限大の値を出し,それ以外は 0の関数)を入力とするが,回路シミュレータでは無限大の出力は出せない。したがって,デルタ関数が積分して1にな
ることから,Tonと Vonを掛け算して1になる条件で Vonを大きくする。 [シミュレーションの実行]
RCの回路で Rを 10kΩにし,ステップ状の電圧を与えると,図8のようになる。電源電圧(緑)が急激に変化すると,抵抗値に応じてコンデンサに電流が流れて電荷がたまり,コンデン
サの端子間電圧(赤)が電源電圧(緑)に遅れて追従していることがわかる。
図8 過渡現象(緑: 電源電圧,赤: コンデンサの端子間電圧)
電源電圧を 0V→1V→0V→1Vと方形波状に変化させた際のコンデンサの端子間電圧の変化 (チャレンジ) このとき,Rや Cが変化すると出力がどう変わるか,図3のようにそれぞれを変化させたときの様子を一つのグラフに表示してみよう!
次に,図9のように,正弦波を入力した場合に,その周波数を変化させて,入出力間の振幅
比,位相差の変化(周波数応答)を観察する場合の方法について見てみよう。まず,回路にコ
イルを追加し,自己インダクタンス Lを 1µHに設定し,抵抗値 Rを 0.1Ωにしておく。 [電源の設定] 周波数応答を見るために,電源を右クリックし,SINEや PULSEではなく(none)を選び,右側の small signal AC analysis の AC Amplitude を 1に設定する。
[シミュレーションの設定と実行] Edit Simulation Cmdを選び,タブを"Transient"から"AC Analysis"に変更する。周波数を変化させるが,周波数が 2倍になる間にいくつの周波数のデータを取るかを Number of points per octaveで決め(たとえば 100とする),スタートの周波数 Start Frequency を 0.1,終わりの周波数 stop Frequency を 1kに設定し,シミュレーションを実行すると,横軸が周波数のグラフが出てくる。実線がゲイン線図,破線(細い)が位相線図を表す。
図9 LCR共振回路の周波数応答(ここでは,入力を電源電圧,出力をコンデンサの端子間電圧とし,赤実線: 入出力間の振幅比(log),赤点線: 位相差)
赤の実線の振幅比の log をとって 20 倍したもの(ゲインと呼ぶ)が上に出っ張っているとこ
ろ(共振周波数)があるが,不思議なことにこのときはコンデンサの端子間電圧の振幅の方が電
源電圧の振幅より大きくなる。このときの入出力の時間変化を示したのが次の図10。
図10 LCR共振回路の共振状態(緑: 電源電圧,赤: コンデンサ端子間電圧)
このときの時間は系を観察してみよう。電源を SINE にし,周波数を共振周波数
12π LC
=1
2π 10−6 ×10−6=
12π ×10−6
=159.15kHz
に設定して(電圧は適当で良い),シミュ
レーションの設定をTransientに戻して 100µsecまでシミュレーションすると図7のようになり,赤のコンデンサの端子間電圧が徐々に大きくなって電源電圧よりかなり大きくなっていること
がわかる。自分で実際に電源周波数を変化させて確認してみよう。これはエネルギー保存則に
一見反しているように見えるが,力学で言うと,バネの固有振動数に合わせて力を加えた場合
に相当し,エネルギーが蓄積されてだんだん振幅が大きくなるのと同じであり,エネルギー保
存則には反していない。
次に,コンデンサがため池の役割を果たすことを実感するシミュレーションをしてみよう。
図1で,交流電源にダイオードを接続すると,ダイオードが片側しか電流を流さないため(こ
れを整流作用という),抵抗の両端の電圧は正弦波の正の部分だけになった。この回路に,
図11のように,大きな容量(ここでは 200µF)のコンデンサを接続してみよう。すると, ・ 電源電圧(緑)が高くなると,抵抗両端の電圧(赤)が高くなって,抵抗に電流が流れる。
・ それと同時に,コンデンサにも正の電流(青)が流れ込んで電荷がため池のように蓄えられる。
・ 電源電圧(緑)が小さくなると電荷を蓄えたコンデンサから抵抗に電流(青)が流れ出る(負に
なる)。そのため,抵抗の両端の電圧(赤)は,電源電圧と一緒には落ちず,コンデンサから
電荷が流れ出るにしたがって少しずつゆっくり減少する。
・ コンデンサの電荷が減少する(負の方向に電流が流れる)ときは,抵抗の値が大きいため,
その絶対値は正のときより小さい。
このようなコンデンサの働きを平滑化と呼び,交流電源から直流電源を作る(たとえば,ノート
PCの ACアダプタなど)際の基本原理の一つである。
図11 直流電源(緑: 電源電圧,赤: 抵抗の両端の電圧,青: コンデンサに流れ込む電流)
(チャレンジ)
図11の回路において,コンデンサの容量 C や抵抗の抵抗値 R の大きさを変化させた場合に,
図11のグラフがどのように変化するかを想像し,実際に動作させて確認してみよう。
5. まとめ
回路シミュレータがいかに便利か,また,簡単な回路であれば,使い方はそれほど難しくな
いかがわかってもらえたでしょうか。これによって,「電気は難しい〜」という先入観を取り払
い,少しでも,「面白い」と感じてもらえるとうれしいです。これから講義や実験で習ったりや
ったりしたことの確認などにどんどん活用してください。インピーダンスは交流の基礎で,「電
気回路 I」で習うでしょうし,「基礎実験 I」でオシロスコープを使って観察します。また,共
振の話も「電気回路 I」で習います。過渡現象の話は「電気回路 IV」,ダイオードは「電子回路」,
直流電源は「電子回路」や「工学実験 II」で実際に扱うことになると思いますし,それ以外に
も,「電気回路」や「電子回路」,さらには,「制御工学」で習うことをいろいろと回路シミュレ
ータを使って確認することができます。
回路シミュレータは,その素子の特性をかなり忠実に再現しています。たとえば,図1のダ
イオードは,順方向では,電圧が正の場合には抵抗 0 で電流がいくらでも流れるとする場合も
ありますが,実際には,0V よりも少し大きなところから電流が急激に大きくなるため,ダイオ
ードの両端にもわずかな電位差が生じます。これが,図中の2つのグラフが少しだけずれてい
る理由です。
しかし逆に,実際の回路とは異なるところもあることは理解しておいて下さい。たとえば,
実際の実験での回路では,様々な要因でノイズが載って測定値がばらつくことが良くあります
が,シミュレータでは,逆に人工的にノイズを載せることはできますが,実験を完全に再現す
ることはできません。また,シミュレータを使えばいろいろできるので,つい理論をおろそか
にしがちですが,試行錯誤するだけでは良い設計はできません。したがって,あくまでも理論
の理解を助けるツール,もしくは,理論を理解した上で使うように心掛けてください。
また,素子については,実際に商品としての素子を選べるものも多数あり,個々の素子に特
有な性質なども考慮されます。さらには,プリント基板設計のソフトにデータを渡して,基板
加工機(4Fにあります)で基板を作成し,自分だけの基板を作ることもできます。是非,使
いこなして,楽しんでください!