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1 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告) 肺高血圧症治療ガイドライン (2006 年改訂版) Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2006) 目  次 改訂にあたって…………………………………………………… 3 Ⅰ.総 論………………………………………………………… 3 Ⅰ- 1.肺高血圧症の定義 ………………………………… 3 Ⅰ- 2.肺高血圧症の臨床分類 …………………………… 4 Ⅰ- 3.肺高血圧症の症状,身体所見 …………………… 4 Ⅰ- 4.肺高血圧症の診断 ………………………………… 4 Ⅰ- 5.肺高血圧症の機能分類 …………………………… 7 Ⅰ- 6.肺高血圧症の病理 ………………………………… 7 Ⅱ.各 論………………………………………………………… 9 Ⅱ- 1.肺動脈性肺高血圧症 ……………………………… 9 A)特発性および家族性肺動脈性肺高血圧症 ……… 9 B)各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症 ……………16 B-1 膠原病性血管疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症 16 B-2 先天性心疾患に伴う肺高血圧症 ……………21 Ⅱ- 2.左心疾患に伴う肺高血圧症 ………………………24 Ⅱ- 3肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症26 A)慢性閉塞性肺疾患 …………………………………26 B)特発性間質性肺炎 …………………………………28 C)肺結核後遺症 ………………………………………29 D)睡眠時無呼吸症候群 ………………………………29 E)肺胞低換気症候群 …………………………………32 Ⅱ- 4慢性血栓性および/ または塞栓性疾患に伴う肺高 血圧症 ………………………………………………33 Ⅲ.肺高血圧症に関連する主な厚生労働省特定疾患…………36 (無断転載を禁ずる) 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本呼吸器学会,日本小児循環器学会,日本静脈学会, 日本心臓病学会,日本脈管学会,日本リウマチ学会,厚生労働省難治性疾患克服研究事業呼吸 不全調査研究班 班 長 野   三重県病院事業庁 班 員 久留米大学外科 藤田保健衛生大学心臓血管外科 東京女子医科大学心臓血管外科 千葉大学呼吸器内科 地   東邦大学医療センター大森病院小児科 愛知医科大学睡眠医療センター 岡山大学腫瘍・胸部外科 西 国立循環器病センター内科心臓血管内科 西 北海道大学第一内科 藤田保健衛生大学内科 自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科 班 員 日本肺血管研究所 三重大学大学院循環器内科学 協力員 北海道社会保険病院心臓内科 三重大学大学院循環器内科学 久留米大学外科 国立循環器病センター内科心臓血管内科 篠 邉 龍二郎 愛知医科大学循環器内科 千葉大学呼吸器内科 北海道大学第一内科 三重大学大学院循環器内科学 東京女子医科大学循環器内科 KKR 札幌医療センター 北里研究所メディカルセンター病院 仁明会齋藤病院 東京大学心臓外科・呼吸器外科 東京女子医科大学(名誉教授) (構成員の所属は 2007 年9月現在) 外部評価委員

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1Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005年度合同研究班報告)

肺高血圧症治療ガイドライン(2006年改訂版)Guidelines for Treatment of Pulmonary Hypertension(JCS2006)

目  次

改訂にあたって…………………………………………………… 3Ⅰ.総 論………………………………………………………… 3  Ⅰ-1.肺高血圧症の定義 ………………………………… 3  Ⅰ-2.肺高血圧症の臨床分類 …………………………… 4  Ⅰ-3.肺高血圧症の症状,身体所見 …………………… 4  Ⅰ-4.肺高血圧症の診断 ………………………………… 4  Ⅰ-5.肺高血圧症の機能分類 …………………………… 7  Ⅰ-6.肺高血圧症の病理 ………………………………… 7Ⅱ.各 論………………………………………………………… 9  Ⅱ-1.肺動脈性肺高血圧症 ……………………………… 9    A)特発性および家族性肺動脈性肺高血圧症 ……… 9    B)各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症 ……………16

     B-1 膠原病性血管疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症 …16     B-2 先天性心疾患に伴う肺高血圧症 ……………21  Ⅱ-2.左心疾患に伴う肺高血圧症 ………………………24  Ⅱ-3. 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症 …26    A)慢性閉塞性肺疾患 …………………………………26    B)特発性間質性肺炎 …………………………………28    C)肺結核後遺症 ………………………………………29    D)睡眠時無呼吸症候群 ………………………………29    E)肺胞低換気症候群 …………………………………32  Ⅱ-4. 慢性血栓性および /または塞栓性疾患に伴う肺高

血圧症 ………………………………………………33Ⅲ.肺高血圧症に関連する主な厚生労働省特定疾患…………36

(無断転載を禁ずる)

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本呼吸器学会,日本小児循環器学会,日本静脈学会,           日本心臓病学会,日本脈管学会,日本リウマチ学会,厚生労働省難治性疾患克服研究事業呼吸

不全調査研究班

班 長 中 野   赳 三重県病院事業庁

班 員 青 柳 成 明 久留米大学外科

安 藤 太 三 藤田保健衛生大学心臓血管外科

川 合 明 彦 東京女子医科大学心臓血管外科

栗 山 喬 之 千葉大学呼吸器内科

佐 地   勉 東邦大学医療センター大森病院小児科

塩 見 利 明 愛知医科大学睡眠医療センター

伊 達 洋 至 岡山大学腫瘍・胸部外科

中 西 宣 文 国立循環器病センター内科心臓血管内科

西 村 正 治 北海道大学第一内科

深 谷 修 作 藤田保健衛生大学内科

百 村 伸 一 自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科

班 員 八 巻 重 雄 日本肺血管研究所

山 田 典 一 三重大学大学院循環器内科学

協力員 石 丸 伸 司 北海道社会保険病院心臓内科

太 田 覚 史 三重大学大学院循環器内科学

岡 崎 悌 之 久留米大学外科

京 谷 晋 吾 国立循環器病センター内科心臓血管内科

篠 邉 龍二郎 愛知医科大学循環器内科

田 邉 信 宏 千葉大学呼吸器内科

辻 野 一 三 北海道大学第一内科

中 村 真 潮 三重大学大学院循環器内科学

松 田 直 樹 東京女子医科大学循環器内科

川 上 義 和 KKR札幌医療センター

近 藤 啓 文 北里研究所メディカルセンター病院

白 土 邦 男 仁明会齋藤病院

高 本 眞 一 東京大学心臓外科・呼吸器外科

門 間 和 夫 東京女子医科大学(名誉教授)

(構成員の所属は2007年9月現在)

外部評価委員

2 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

本ガイドラインで用いられる主な略語AASM American Academy of Sleep Medicine

ACC American College of Cardiology

ACCP American College of Chest Physician

ACE angiotensin converting enzyme

AcT acceleration time

AHA American Heart Association

AHI apnea hypopnea index

AI apnea index

ANP atrial natriuretic peptide

APAH associated pulmonary arterial hypertension

ASD atrial septal defect

BNP brain natriuretic peptide

cGMP cyclic guanosine monophosphate

CHD congenital heart disease

CO cardiac output

COPD chronic obstructive pulmonary disease

CPAP continuous positive airway pressure

CSAHS central sleep apnea-hypopnea syndrome

CSBS Cheyne-Stokes breathing syndrome

CT computed tomography

DIC disseminated intravascular coagulation

DM dermatomyositis

ECD endocardial cushion defect

ECG electrocardiogram

ECMO extracorporeal membrane oxygenation

EEG electroencephalogram

EMG electromyogram

ET endothelin

EOG electro-oculogram

ET ejection time

FDA Food & Drug Administration

FEV forced expiratory volume

FPAH familial pulmonary arterial hypertension

HIV human immunodeficiency virus

IIP idiopathic interstitial pneumonia

INR international normalized ratio

IPAH idiopathic pulmonary arterial hypertension

IPF idiopathic pulmonary fibrosis

IPVD index of pulmonary vascular disease

JACC Journal of the American College of Cardiology

MCTD mixed connective tissue disease

MRI magnetic resonance image

MVV maximal voluntary ventilation

NO nitric oxide

NPPV noninvasive positive pressure ventilation

NYHA New York Heart Association

OSAHS obstructive sleep apnea-hypopnea syndrome

PAH pulmonary arterial hypertension

PAHS primary alveolar hypoventilation syndrome

PAP pulmonary arterial pressure

PCH pulmonary capillary hemangiomatosis

PCWP pulmonary capillary wedged pressure

PDA patent ductus arteriosus

PDE phosphodiesterase

PGI2 prostaglandin I2, prostacyclin

PM polymyositis

PPH primary pulmonary hypertension

PPHN persistent pulmonary hypertension of the

newborn

PSG polysomnography

PTMC percutaneous transluminal mitral

commissurotomy

PVOD pulmonary veno-occlusive disease

PVR pulmonary vascular resistance

QOL quality of life

Qp pulmonary blood flow

Qs systemic blood flow

RDI respiratory disturbance index

REM rapid eye movement

RERA respiratory effort-related arousal

Rp pulmonary vascular resistance

Rs systemic vascular resistance

SHVS sleep hypoventilation syndrome

SLE systemic lupus erythematosus

SSc systemic sclerosis

UARS upper airway resistance syndrome

VC vital capacity

VSD ventricular septal defect

WHO World Health Organization

3Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

 本ガイドライン初版は,平成11年4月に発足したガイドライン作成班により,平成11年度から平成12年度にかけて作成された.その後の肺高血圧症の治療をめぐる進歩は目覚しく,新たな治療法を取り入れて平成17年度に部分改訂を行なうことになった. 今回の主な改訂点として,肺高血圧症の臨床分類をベニス分類に改めたこと,エンドセリン受容体拮抗薬やホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬といった新しい治療薬を加えたこと,エンドセリン受容体拮抗薬の適応取得やエポプロステノールの適応拡大を追加したことなどが挙げられる.さらに,今回の改訂版では慢性の肺高血圧症をきたす疾患を中心に取り上げることとし,急性かつ一過性の肺高血圧症をきたす急性肺血栓塞栓症については既に別のガイドラインが作成されているので今回のガイドラインからは削除した. また,厚生労働省難治性疾患克服研究事業呼吸不全調査研究班においても,肺高血圧症ガイドライン作成の検討が行われていたが,国内に肺高血圧症のガイドラインが複数存在するよりもひとつに統一するのが望ましいことにより,今回,ガイドライン改訂版の合同研究班参加学会へ「厚生労働省難治性疾患克服研究事業呼吸不全調査研究班」の名称を追加しガイドラインを統一した. 肺高血圧症の診断および治療は,本来,専門性の高い分野ではあるが,初版ガイドライン同様,一般医家も対象となる内容とした.また,依然として我が国におけるエビデンスが乏しいことより多くの部分で海外のデータを参考にしている点,現時点ではエビデンスは示されていなくとも高い効果が予想され将来期待される治療方法についてもそのことを断った上で記載した点は,初版と同様である.今後の研究結果に従い,将来は改訂を重ねる必要があることは言及するまでもない. ガイドラインにおいて,全症例に対する治療選択を画

一的に簡素化できるものでもなく,このガイドラインはあくまで治療選択における指針に過ぎないことを常に念頭におき,症例ごとに,その年齢や合併症といった背景を考慮したうえで,治療を選択する必要性があることを明記しておく.また,原疾患やその重症度によっては,検査や治療が重篤な合併症を引き起こす可能性を有しており,十分な経験を有する専門医や設備の整った施設で行われるべきものもあり,注意を要する. それぞれの治療法について,AHA(American Heart

Association)/ACC(American College of Cardiology)ガイドラインに従って,表1,表2のごとくに,「証拠のレベル」と「勧告の程度」を示した.今回,「証拠のレベル」,「勧告の程度」は,これまでの国内及び国外の既出の論文に基づいて執筆担当者が判断し,最終的には,班員及び外部評価委員の了承を得て決定したものである.

表1 証拠のレベル

Level A(高) 多数の患者を対象とする多くの無作為臨床試験によりデータが得られている.

Level B(中) 少数の患者を対象とする限られた数の無作為試験,あるいは非無作為試験または観察的登録の綿密な分析からデータが得られている場合.

Level C(低) 専門家の合意が勧告の主要な根拠となっている場合.

表2 勧告の程度

ClassⅠ 手技・治療が有用・有効であることについて証明されているか,あるいは見解が広く一致している.

ClassⅡ 手技・治療の有用性・有効性に関するデータまたは見解が一致していない場合がある.

  ClassⅡa データ・見解から有用・有効である可能性が高い.

  ClassⅡb データ・見解により有用性・有効性がそれほど確立されていない.

ClassⅢ 手技・治療が有用・有効ではなく,ときに有害となる可能性が証明されているか,あるいは有害との見解が広く一致している.

改訂にあたって

Ⅰ 総 論

1 肺高血圧症の定義

 肺高血圧症とは,肺動脈圧の上昇を認める病態の総称

であり,肺動脈圧上昇の原因は様々である(表3). 健常者では,安静臥位にて平均肺動脈圧は15 mmHg

を超えず,加齢による上昇を考慮しても20 mmHg以上にはならない.従って,一般には,安静臥位での平均肺動脈圧が25 mmHgを超える場合,また,慢性閉塞性肺疾患(COPD),特発性間質性肺炎といった肺疾患,睡眠時無呼吸症候群,肺胞低換気症候群では平均肺動脈圧が20 mmHgを超える場合に,肺高血圧症と診断される.

4 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

2 肺高血圧症の臨床分類

 2003年6月にイタリアのベニスで開催された第3回肺高血圧症国際シンポジウムで,これまでの肺高血圧症の臨床分類エビアン分類が改訂され,新しいベニス分類が提唱された(表3)1). ベニス分類では,肺動脈性肺高血症(pulmonary

arterial hypertension:PAH)が従来の原発性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension:PPH)と膠原病,先天性心疾患,門脈圧亢進症などの各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(associated pulmonary arterial hypertension

:APAH)の総称として採用された.そして従来のPPH

は特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary

arterial hypertension:IPAH)と家族性肺動脈性肺高血圧症(FPAH)と言う名称に変更された.その他にも,エビアン分類で肺静脈性肺高血圧症に分類されていた肺静脈 閉 塞 性 疾 患(pulmonary veno-occlusive disease:

PVOD)や,肺血管を直接障害する疾患による肺高血圧症に分類されていた肺毛細血管腫症(pulmonary

capillary hemangiomatosis:PCH)が,肺動脈性肺高血圧症のカテゴリーに加えられた.また,肺血管の圧迫による肺高血圧症が,サルコイドーシスなどとともに,その他の肺高血圧症のカテゴリーに分類された.

3 肺高血圧症の症状,身体所見

 肺高血圧症の自覚症状としては,労作時呼吸困難,易疲労感,動悸,胸痛,失神,咳嗽などがみられる.いずれも軽度の肺高血圧では出現しにくく,症状が出現した時には,既に高度の肺高血圧が認められることが多い.また,高度肺高血圧症には労作時の突然死の危険性がある. 他覚的所見としては,低酸素血症に伴うチアノーゼ,頸静脈怒張,肝腫大,下腿浮腫,腹水などが挙げられる.COPD,間質性肺炎,先天性心疾患に伴う肺高血圧症ではばち状指趾がみられることがある.さらに,頸静脈拍動におけるa波の増高,頸動脈拍動における小脈,右室肥大に伴う傍胸骨拍動,三尖弁閉鎖不全症に伴う第Ⅳ肋間胸骨左縁での汎収縮期雑音(吸気時に増強しRivero-

Carvallo徴候と呼ばれる),肺動脈弁閉鎖不全症に伴う第Ⅱ肋間胸骨左縁での拡張早期雑音(Graham Steell雑音),Ⅱ音肺動脈成分の亢進,収縮期早期のclick音,Ⅲ音,Ⅳ音を聴取することがある.

4 肺高血圧症の診断

 本疾患では,明らかな症状発現時には既に高度の肺高血圧症に進展していることが多く,可逆的な変化に留まっている早期に診断するためには,症状や身体所見についての徹底した問診や診察が重要であることはいうまでもない.無症候性患者を捉えるためには,後述したような肺高血圧症発症の危険度が高い患者群に対しての非侵襲的検査方法によるスクリーニング検査が必要である.図1に示したように,症状所見から肺高血圧症が疑われる症例や,症状がなくとも肺高血圧症の高リスク症例に対しては,簡便で非侵襲的な検査方法から行って,肺高血圧の存在を確認するのが一般的である.表4に主な肺高血圧症の危険因子を挙げる. 表5に,肺高血圧症の診断に用いられる主な検査方法を列記するが,特に有用な非侵襲的検査法として心エコー法が使用される.WHOのPPH国際シンポジウムで高リスク症例に対する6ヶ月毎のドップラー心エコー法が

表3 肺高血圧症の臨床分類

1.肺動脈性肺高血圧症(PAH)1)特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)2)家族性肺動脈性肺高血圧症(FPAH)3)各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(APAH)

a)膠原病性血管疾患,b)先天性短絡性疾患,c)門脈高血圧,d)エイズウイルス感染症,e)薬物と毒物,f)その他(甲状腺疾患,糖原病,ゴーシェ病,遺伝性出血性毛細血管拡張症,異常ヘモグロビン症,骨髄増殖性疾患,脾摘出)

4) 有意の肺静脈および/または肺毛細血管閉塞を伴う肺動脈性肺高血圧症

a)肺静脈閉塞性疾患(PVOD),b)肺毛細血管腫症(PCH)5)新生児持続性肺高血圧症

2.左心性心疾患に伴う肺高血圧症1)左心の心房性あるいは心室性心疾患2)左心の弁膜症

3.肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症1)慢性閉塞性肺疾患2)間質性肺疾患3)睡眠呼吸障害4)肺胞低換気障害5)肺結核後遺症6)高所における慢性暴露7)発育障害

4.慢性血栓性および/または塞栓性疾患における肺高血圧症1)近位肺動脈の血栓塞栓性閉塞2)末梢肺動脈の血栓塞栓性閉塞3)非血栓性肺塞栓症(腫瘍,寄生虫,異物)

5.その他の肺高血圧症サルコイドーシス,ヒスチオサイトーシスX,リンパ管腫症,肺血管の圧迫(リンパ節腫脹,腫瘍,線維性縦隔炎)

5Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

推奨されている. 無症候性患者でスクリーニング検査が勧められているのは,特に肺高血圧症合併頻度が高く有効な治療法のある強皮症スペクトラム(SSc,CREST症候群,overlap

症候群,混合性結合組織病(MCTD)などが含まれる.)と,IPAH/FPAHの家族である. 肺高血圧症の存在が確定した後に,原疾患が明らかな肺高血圧症ならば基本的には原疾患の治療も重要であり,図2のごとく肺高血圧症を来した原因を検索していくことになる.

血液検査 正常なことも多いが,慢性的な低酸素血症を伴う場合には多血症や,右心不全によるうっ血肝に伴う肝機能異常が認められる場合がある.また,最近では,肺動脈圧上昇に伴い,ANP,BNP,尿酸値の上昇も報告されている.心電図検査 長期に継続する肺高血圧症に伴い,右室肥大に伴った心電図変化が現れる.胸部X線検査 両側中枢側肺動脈の拡張と末梢肺動脈の急峻な狭小化,右心房,右心室の拡張に伴う心拡大が認められることがある.特に大量の左右短絡を有する短絡性心疾患の場合には中枢側肺動脈の拡張は著しく瘤状になることもある.また,長期高度肺高血圧の継続例では肺動脈壁に石灰化が認められる場合もある.動脈血ガス分析 肺高血圧症をきたす基礎疾患によるが,一般に,低炭酸ガス血症を伴った低酸素血症を認めることが多い.し

かし,COPDや肺胞低換気症候群による肺高血圧症では,高炭酸ガス血症を認める.

表4 肺高血圧症の危険因子

1.薬物,毒物1.1 確実

AminorexFenfluramineDexfenfluramineToxic rapeseed oil

1.2 可能性高いAmphetaminesL-tryptophan

1.3 可能性ありMeta-amphetaminesコカイン抗癌薬

1.4 可能性が否定できない抗うつ薬経口避妊薬女性ホルモン補充療法喫煙

2.条件2.1 確実女性

2.2 可能性あり妊娠体高血圧症

2.3 可能性が否定できない肥満

3.疾患3.1 確実

HIV感染3.2 可能性高い門脈圧亢進/肝疾患膠原病先天性左右シャント性心疾患

3.3 可能性あり甲状腺疾患血液疾患外科的脾臓摘出後の無脾症鎌状赤血球症βサラセミア慢性骨髄増殖性疾患

まれな遺伝子あるいは代謝疾患1aグリコーゲン蓄積疾患(von Gierke病)Gaucher病遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu病)

スクリーニング検査

精密検査

診断確定

無症状高リスク例症状,身体所見からの疑い例

心電図,胸部X線,心エコー,血液ガス

肺高血圧症疑い

胸部CT,MRI,肺換気血流シンチグラム右心カテーテル検査,肺動脈造影

図1 診断手順

表5 肺高血圧症の診断に用いられる主な検査法

血液検査心電図検査胸部X線検査動脈血ガス分析心エコー法胸部CT(コンピューター断層撮影法)検査胸部MRI(磁気共鳴映像法)検査肺機能検査肺シンチグラム右心カテーテル検査肺動脈造影肺生検

6 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

心エコー法 非観血的に肺高血圧の有無を診断するのに有用である.Bモード断層法では形態の変化を観察し,肺高血圧症では右心室,右心房の拡張と肺高血圧が高度の場合には心室中隔の左室側への偏位が認められる.また,肺高血圧症例では肺動脈弁のE-Fスロープの減弱,a-dipの消失がみられる.心エコー・ドプラ法を用いた肺動脈圧の推定には幾つかの方法があるが,三尖弁逆流から簡易ベルヌーイ式を用いて推定する方法がもっとも一般的である(表6).右室流出路の血流のejection time,preejection

time,acceleration timeあるいはそれらの比から推定す

ることもできる.肺高血圧症例では,推定肺動脈収縮期圧>40~50 mmHgや肺動脈収縮期流速加速時間/右心室駆出時間(AcT/ET)<0.3などがみられる.また,右心不全を呈する症例では,肝静脈,下大静脈の拡張,呼吸性変動の減弱を認める.胸部CT(コンピューター断層撮影法)検査 右心房,右心室,肺動脈の拡張を認める.肺高血圧症をきたした原因を探る上でも使用され,肺病変の評価及び造影剤を使用することで肺動脈内血栓や肺動脈病変の評価が可能であるが,末梢肺動脈の病変の描出には限界がある.胸部MRI(磁気共鳴映像法)検査 右心房,右心室,肺動脈の拡張といった形態変化の評価に有用である.慢性的な肺高血圧症症例では右心室壁肥厚の評価にも使用可能である.肺機能検査 肺高血圧症をきたした原因疾患により異なり,IPAH/

FPAHでは典型的には拡散障害を伴った軽度拘束性障害で,症例によっては残気量の増加と最大換気量の減少がみられる.また,COPDに伴う肺高血圧症では閉塞性換気障害が主体となる.肺シンチグラム 肺高血圧の程度の評価には使用できないが,肺高血圧症の原因検索に有用な場合がある.肺血流シンチグラム

肺高血圧症確定

胸部X線,胸部CT肺実質に所見あり

肺疾患に伴う肺高血圧症

動脈血ガス検査

肺実質に所見なし高炭酸ガス血症あり

肺胞低換気症候群に伴う肺高血圧症

心エコー

なし心疾患あり

先天性心疾患,左心性心疾患に伴う肺高血圧症

肺換気血流シンチグラム

右心負荷所見以外の心疾患なし換気血流不均等あり

肺塞栓症に伴う肺高血圧症

膠原病の診断基準

換気血流不均等なし満たす

膠原病性肺高血圧症

睡眠ポリグラフ検査

満たさず無呼吸あり

睡眠時無呼吸症候群に伴う肺高血圧症

特発性あるいは家族性肺動脈性肺高血圧症

なし

図2 肺高血圧症の原因疾患の鑑別方法

このフローチャートは,肺高血圧を来した原因疾患を鑑別する手順をできる限り簡略化して示しており,ここに示したような検査結果のみですべての症例の原因が確定するとは限らない.特に膠原病性肺高血圧症との鑑別では膠原病の診断が確定できない症例も多く存在しそういった症例では原発性肺高血圧症に準じて治療される.

表6 心エコー・ドプラ法による肺動脈圧の評価

三尖弁逆流速度   簡易ベルヌーイ式により右室収縮期圧を推定     RVSP = 4(VTR-P)2+RA     VTR-P : 最大三尖弁逆流速度,     RA : 右房圧(通常5 mmHgと仮定)肺動脈血流速度   Mid-systolic notch   PEP(pre-ejection period),AcT(acceleration time)   ET(ejection time)   PEP/ET,AcT/ET   簡易ベルヌーイ式により肺動脈拡張期圧を推定     PADP = 4(VPR-E)2+RVDPorRA     VPR-E : 拡張末期肺動脈血流速度     PADP : 肺動脈拡張期圧     RVDP : 右室拡張末期圧

7Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

は血流障害部位の検出に用いられるが,肺実質障害部位でも血流欠損を生じ,胸部X線検査や胸部CT検査といったほかの画像や換気シンチグラムを併用する.肺塞栓症や血管炎といった肺血管が原因の場合には,他の画像で異常が認められず,血流障害部位のみが楔状血流欠損像として描出される.右心カテーテル検査 上記検査にて,肺高血圧の存在が確かなときには,血行動態を評価する上で施行される. もし安静時に右心カテーテル検査にて肺高血圧が認められない場合,肺血行動態を運動負荷中に測定することが勧められる.運動負荷にて肺高血圧が生じてくる患者に対しては,他の肺高血圧症患者と同様に扱う. [測定すべき項目]   右心房圧   右心室収縮期圧,拡張末期圧   肺動脈収縮期圧,拡張期圧,平均圧   肺毛細管楔入圧   全身および肺動脈酸素飽和度   心拍出量肺動脈造影 侵襲的検査法であり,他の診断方法の進歩に従って,その使用価値は相対的に低下しつつあるが,肺高血圧症をきたした原因の鑑別が困難な症例に対しては,肺血管の形態変化を観察するためのgold standardである. 但し,高度の肺高血圧を認める症例では,右室の予備能が乏しく,本検査に伴う致死的合併症の頻度も増加するため,必要な症例に限って,専門施設で十分注意して施行する必要がある. また,バルーンにより閉塞した肺動脈遠位部より手押しでゆっくりと少量の造影剤を注入するwedged

pulmonary angiographyは,末梢の肺動脈の形態や病変を調べるのに有用である.肺生検 IPAH/FPAHの診断や肺高血圧症の重症度評価に用いられることがある.肺高血圧症の病理の項参照.

5 肺高血圧症の機能分類

 現時点では,肺高血圧症の臨床症状に基づく重症度分類として,表7に示したNYHA心機能分類とWHO肺高血圧症機能分類の両者が用いられている.それぞれの分類で各重症度レベルの内容はほぼ同一であることより,本ガイドラインでは,肺高血圧症の機能分類として,NYHA心機能分類とWHO肺高血圧症機能分類を組み合

わせてNYHA/WHO機能分類として用いることとした.

6 肺高血圧症の病理

1.肺動脈圧の上昇による肺高血圧1.1  IPAH/FPAH 閉塞性肺血管病変(先天性心疾患に詳述)2)が主体で発症と治療の違いから小児に多い若年型と大人に発症しやすい成人型に分けられる 3).しかしながら,これはあくまで病理組織学的な分類で若い人がすべて若年型で成人がすべて成人型であるとは限らない.若年型は原因不明の肺血管収縮のくり返しにより発症し,中膜の肥厚が先行するタイプで中膜の肥厚が高度になると血管攣縮により平滑筋細胞が壊死し血管炎を併発し中膜のフィブリノイド壊死 4)となる.その後閉塞性肺血管病変の完成像である叢状病変 5)に移行する.成人型は血管収縮はほとんどなく内膜病変が先行するタイプで初期には中膜の肥厚はほとんどみられず,内膜に線維性増殖がまず出現し,肺小動脈を閉塞し,最終的に叢状病変に移行する.

1.2 APAH(a)膠原病 強皮症(SSc):間質の浮腫と引き続いての肺線維症によって肺胞壁は肥厚してくる.肺小動脈中膜の肥厚と,内膜の線維化による血管内腔の狭窄により肺高血圧症が進行してくる 6).さらに毛細血管やごく末梢の肺細小動脈閉塞により,肺血管抵抗は上昇してくるものの,叢状

表7 肺高血圧症機能分類

NYHA心機能分類Ⅰ度:通常の身体活動では無症状Ⅱ度:通常の身体活動で症状発現,身体活動がやや制限さ

れるⅢ度:通常以下の身体活動で症状発現,身体活動が著しく

制限されるⅣ度:どんな身体活動あるいは安静時でも症状発現

WHO肺高血圧症機能分類Ⅰ度:身体活動に制限のない肺高血圧症患者

普通の身体活動では呼吸困難や疲労,胸痛や失神など生じない.

Ⅱ度:身体活動に軽度の制限のある肺高血圧症患者安静時には自覚症状がない.普通の身体活動で呼吸困難や疲労,胸痛や失神などが起こる.

Ⅲ度:身体活動に著しい制限のある肺高血圧症患者安静時に自覚症状がない.普通以下の軽度の身体活動では呼吸困難や疲労,胸痛や失神などが起こる.

Ⅳ度:どんな身体活動もすべて苦痛となる肺高血圧症患者これらの患者は右心不全の症状を表している.安静時にも呼吸困難および/または疲労がみられる.どんな身体活動でも自覚症状の増悪がある.

8 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

病変など閉塞性肺血管病変の終末像を呈する事はほとんどない. 皮膚筋炎:SSCとほとんど同じ経過をたどるがそれほど高度の閉塞性肺血管病変をきたすことは少ない. 全身性エリテマトーデス:SLEの症例のなかには肺線維症に伴い肺血管病変として内膜のmyointimal cellの増殖や内膜の細胞線維性肥厚が起こり,ごくまれに壊死性血管炎から叢状病変に移行することがある 7).(b)先天性心疾患 心室中隔欠損症などでは肺血管に直接圧負荷がかかるため物理的な力によって血管障害を誘発し閉塞性肺血管病変 2)が出現する.肺小動脈中膜は圧負荷に対して適応できるように平滑筋細胞を肥厚させるので,肺動脈圧が上昇すれば中膜の肥厚も進行する.完全大血管転位症やダウン症を伴う先天性心疾患では圧負荷に対しても中膜は十分肥厚できず閉塞性肺血管病変が早期に発生してしまうので早期手術が望まれる 8),9).内膜病変は直径100μm付近の筋性肺動脈(いわゆる肺小動脈)に発生しやすく,内皮細胞の増殖が起こると続いて内膜の細胞性肥厚が出現する 10).内膜細胞はやがて内膜の線維性肥厚に移行する.内膜の線維性肥厚は通常血管内腔を同心円状に狭窄するように進行する 4).急激な進行により内腔が完全に閉塞し高い肺動脈圧を呈した場合,末梢の血管は内圧が減って中膜の肥厚が退縮する.この所見を絶対的手術不適応とよび根治手術は肺血流量が得られないので禁忌である 11).内膜の線維性肥厚が高度になると血管壁への酸素供給が断たれるためそこの中膜は壊死に陥る.血管内圧が高いため壊死化した部分の中膜は動脈瘤のように突出して叢状病変が形成されてくる.叢状病変は拡張した血管と内腔をもち,内腔にはいくつもの腔が小片によってしきられ,増殖した内皮細胞,平滑筋細胞,筋線維芽細胞,マクロファージなどを含有する.中膜のフィブリノイド壊死から移行することもある 12).叢状病変は拡張病変や肉芽腫様病変などとともに閉塞性肺血管病変の完成像とされている.閉塞性肺血管病変の完成像の特徴は一度閉塞した肺小動脈の内腔あるいは外膜の一層の組織を用いて,広く拡張した側副血行路を形成することである.これが完成した状態は血行動態的なEisenmenger症候群になぞらえて病理組織学的にEisenmenger肺とよんでいるが,手術は禁忌であり,手術をしなくとも長期生存が可能になる 13).こうした状態ではもともと血管でない一層の組織の中を血液が流れるため出血しやすくEisenmenger終末期での喀血の原因となる.抗凝固剤は肺出血との兼ね合いから慎重投与が望ましい.

 閉塞性肺血管病変の重症度については古来Heath-

Edwards分類が使われてきたが 5),質的にしか重症度判定ができないので,肺生検による手術適応の決定に関しては数量的に適否の判定ができる index of pulmonary

vascular disease(IPVD)が有用である 8).この方法は病理組織標本内のすべての肺小動脈に1から4点までのスコア(1点:内膜病変のないもの,2点:内膜に細胞性肥厚を伴うもの,3点:内膜に線維性肥厚を伴うもの,4点:内膜病変により中膜の壊死破壊を伴うもの,)をつけその相加平均をとるものである.絶対的手術不適応の症例でなければ疾患によって多少の差はあるものの2.1以下が肺高血圧症を伴う先天性心疾患の根治手術の適応とされている 11),14),15).絶対的手術不適応の症例やIPVDが高く根治手術不適応とされた症例でも側副血行路が完成しEisenmenger肺となれば長期生存は十分に可能であり,QOLもそれほど悪くはないのでいたずらに危険をおかして手術してはいけない. 心房中隔欠損症では閉塞性肺血管病変のほかに縦走平滑筋と弾性線維からなる筋弾性線維症と肺小動脈血栓症がみられる 16).どんなに高度の肺高血圧症を呈していても単独の筋弾性線維症または肺小動脈血栓症では術後経過は良く手術適応となる.閉塞性肺血管病変を合併した場合には側副血行路が完成していなければ手術適応である. 閉塞性肺血管病変の中膜の肥厚,内膜の細胞性肥厚,初期の内膜の線維性肥厚及び筋弾性線維症は可逆的病変であり術後退縮する可能性がある.一方,叢状病変など,より進行した閉塞性肺血管病変は不可逆的である 17).(c)その他に門脈圧亢進症や肝硬変,HIV感染や薬物による肺高血圧,新生児持続性肺高血圧,PVODなどによっても進行性肺血管病変が認められる.

2.左心疾患による肺高血圧 僧帽弁狭窄症,閉鎖不全症などの後天性心疾患では肺静脈圧の上昇に起因する肺高血圧症により肺小動脈と肺静脈の中膜の肥厚が出現する.やがて肺小動脈,肺静脈の双方に内膜の線維性肥厚及び縦走平滑筋細胞の肥厚が起こってくる.まれに中膜の著しい肥厚が原因で血管炎から中膜のフィブリノイド壊死を生ずることはあるものの,肺血管を完全に閉塞し側副血行路を形成することはない.したがって,叢状病変や拡張病変など閉塞性肺血管病変の終末像をきたすことはまずない 4).このため高度の肺高血圧症を呈しても肺血管病変が原因で手術不適応とはならない 13).僧帽弁腱索断裂症の場合には突然肺高血圧症が発生するため正常の薄い肺小動脈中膜では高

9Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

い血管内圧に適応できない.肺小動脈中膜の肥厚には2~3週間要するため内膜に縦走平滑筋細胞を急速に増殖させて血管壁の強化を計っている 13).心筋梗塞の心室中隔穿孔で突然肺高血圧症が発生する場合も同様で,初期にまず肺小動脈内膜に縦走平滑筋細胞の増殖がみられ,引き続いて中膜の肥厚がおこる.

3.呼吸器疾患の低酸素血症による肺高血圧 COPD,睡眠時無呼吸症候群,肺胞低換気症候群など低酸素血症に起因する肺高血圧では通常肺動脈幹は大動脈より太く,肺小動脈中膜の肥厚は正常か軽度である.肺小動脈や細い肺静脈には低酸素血症からくる縦走平滑筋細胞の増殖が肺高血圧の程度に比例してみられる 18).また器質化した血栓に起因する偏在性の線維化が見られることがある.気管支拡張症では肺小動脈と気管支動脈との吻合による短絡がよく見られる.このため縦走平滑筋細胞の増殖や偏在性血栓の線維化がより高度に見られる.

4.肺血栓塞栓症による肺高血圧 大量の血栓によって肺血栓塞栓症が急激に起こると時に高度の肺高血圧を伴うが70%以上の肺血管が閉塞すると生命の危険がある.慢性期には肺動脈内血栓の溶解に伴い肺動脈圧は低下する.主肺動脈などには大量の血栓が付着し,やがて器質化する場合がある.慢性化してくると時として器質化した塞栓が再疎通する.弾性動脈には新旧さまざまな血栓が認められるが,多くは徐々に線維成分に変化する.肺小動脈では肺塞栓の初期には線維芽細胞が内皮形成を伴った血栓の中に増えてくるが徐々に線維化してくる 4).肺小動脈の横断面には丘状に偏在した線維性肥厚や再疎通した中隔が認められる.血栓が器質化すると閉塞性肺血管病変の内膜の線維性肥厚と区別がつきにくくなる.

5.肺血管の直接的な障害による肺高血圧 肺結核,サルコイドーシス,肺血管腫などにより2次的に肺高血圧をきたし,肺血管病変が発生することがある.

Ⅱ 各 論

1 肺動脈性肺高血圧症(PAH)

A 特発性および家族性肺動脈性肺高血圧症(IPAH/FPAH)

1.はじめに 本項は主にこれまで原発性肺高血圧症(PPH)として知られてきた疾患に対する治療ガイドラインについて解説する.ただ2003年に定められた肺高血圧症ベニス分類では,従来の孤発性PPHは特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)に,家族性PPHは家族性肺動脈性肺高血圧症(FPAH)に名称を変更することが提唱された.そこで以後本稿では従来のPPHを意味する内容についてはIPAH/FPAHと記載することとする. IPAH/FPAHは従来,原因不明で放置すれば予後は極めて不良の,しかも有効な治療法が無い疾患として知られてきた.しかし近年本症の発症にかかわる新知見が相次いで報告され,加えて種々の作用機序を持つ治療薬が臨床応用可能となり,生体-死体肺移植も実施されつつある.そこで2003年のベニスにおける第3回肺高血圧症国際シンポジウムでは,これまで得られたエビデンスを基として,PAH治療ガイドラインが作成され(2004年ACCPガイドライン)19),さらに2007年6月には改訂版が公表された(2007年ACCPガイドライン)20).しかし本邦では十分な治療のエビデンスが無いため,独自のIPAH/FPAH治療ガイドラインを作成することは困難である.そこで本肺高血圧症治療ガイドラインは2007年ACCPガイドライン準じ,我が国に特有の知見や事情が存在する場合にはこれ追加して作成することとした.

2.疫学,成因 疫学:海外の報告では,IPAH/FPAHの発症頻度は100万人に1~2人とされている 21).本邦の IPAH/FPAHの患者数については,厚労省が難治性疾患克服研究事業の一環として行っている原発性肺高血圧症:臨床調査個人票の集計結果を用いることが可能で,平成17年度の登録総数は853名であった.同年の本邦人口数でこれを補正すると,IPAH/FPAHの我が国での有病率は6.67人/100万人と算出される.

10 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

 成因:IPAH/FPAHの発症機序は未だ明らかではないが,近年本症における遺伝子異常の検索が進み,海外ではFPAHの約50%に,IPAHの約20%にbone morpho-

genetic protein receptor type 2 gene(BMPR2)の変異が存在することが報告されている 22),23).また,本来は遺

伝性出血性毛細血管拡張症の原因遺伝子であるactivin

receptor-like kinase 1 gene(ALK1) や 小 児 例 で は,endoglinの遺伝子異常が発見され,これらが本症発症の一因として認識されるようになってきた 24),25)

表8 原発性肺高血圧症の診断の手引き

 原発性肺高血圧症は,本来,原因不明の肺高血圧症に対する臨床診断名である.その診断根拠としては,  ① 肺動脈性(又は前毛細管性)肺高血圧症及び/又は,これに基づく右室肥大の確認.  ② その肺高血圧が原発性であることの確認が必要である.〔肺動脈性肺高血圧及び/又は,これに基づく右室肥大を示唆する症状や所見〕(1)主要症状及び臨床所見  ① 息切れ  ② 疲れやすい感じ  ③ 労作時の胸骨後部痛(肺高血圧痛)  ④ 失神  ⑤ 胸骨左縁(又は肋骨弓下)の収縮期性拍動  ⑥ 肺高血圧症の存在を示唆する聴診所見    Ⅱ音の肺動脈成分の亢進,Ⅳ音の聴取,肺動脈弁弁口部の拡張期心雑音,三尖弁弁口部の収縮期心雑音(2)検査所見  ① 胸部X線写真で肺動脈本幹部の拡大,末梢肺血管陰影の細小化  ② 心電図検査で右室肥大所見  ③ 肺機能検査で正常か軽度の拘束性換気障害(動脈血O2飽和度はほぼ正常)  ④ 心エコー法にて右室肥大所見及び推定肺動脈圧の著明な上昇  ⑤ 腹部エコー法にて肝硬変及び門脈圧亢進所見なし  ⑥ 頸静脈波でa波の増大  ⑦ 肺血流スキャンにて区域性血流欠損なし(正常又は斑状の血流欠損像)  ⑧ 右心カテーテル検査で    (a)肺動脈圧の上昇(平均肺動脈圧で25 mmHg以上)    (b)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(12 mmHg以下)〔原発性を推定するための手順〕 原発性肺高血圧症においては,ときに赤沈亢進・γグロブリン値の上昇・免疫反応の異常を認めることがあり,稀に関節炎・レイノー現象・脾腫などをみることもある. また,心肺の一次性又は先天性疾患が認められず,かつ肝硬変の存在も認められないもの.(3)除外すべき疾患 以下のような疾患は肺高血圧ひいては右室肥大,慢性肺性心を招来しうるので,これらを除外すること.  ①  気道および肺胞の空気通過を一次性に障害する疾患     慢性気管支炎・気管支喘息・肺気腫・各種の肺線維症ないし肺臓炎・肺肉芽腫症(サルコイドーシス・ベリリオーシス・

ヒスチオサイトーシス・結核など)・膠原病・肺感染症・悪性腫瘍・肺胞微石症・先天性嚢胞性疾患・肺切除後・高度のハイポキシア(高山病・その他)・上気道の慢性閉塞性疾患

  ② 胸郭運動を一次性に障害する疾患     脊柱後側弯症・胸郭成形術後・胸膜ベンチ・慢性の神経筋疾患(ポリオなど)・肺胞低換気を伴う肥満症・特発性肺胞低

換気症  ③ 肺血管床を一次性に障害する疾患     肺血栓症・肺塞栓症・膠原病・各種の動脈炎・住血吸虫症・鎌状細胞貧血・縦隔疾患による肺血管床の圧迫・肺静脈閉

塞症(pulmonary veno-occlusive disease)  ④ 左心系を一次性に障害する疾患    各種弁膜症(ことに僧帽弁狭窄症)・左心不全  ⑤ 先天性心疾患    心房中隔欠損症・心室中隔欠損症・動脈管開存症・その他(4)診 断 以下の項目をすべて満たすこと.  ① 新規申請時    (a)(1)主要症状及び臨床所見の①~⑥の項目の3項目以上の所見を有すること.    (b)(2) 検査所見の⑦肺血流スキャン,及び⑧右心カテーテル検査の所見を有し,①~⑥の項目で3項目以上の条件を

満たすこと.    (c)(3)除外すべき疾患のすべてを鑑別できること.  ② 更新時    (a)(1)主要症状及び臨床所見の①~⑥の項目の3項目以上の所見を有すること.    (b)(2)検査所見の④心エコーの所見を有し,①~③の項目で2項目以上の条件を満たすこと.    (c)(3)除外すべき疾患のすべてを鑑別できること.

11Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

3.診断 IPAH/FPAHの診断は,1)肺高血圧の存在診断,2)肺高血圧を主徴とする疾患間における鑑別診断,3)治療方針決定のための重症度評価,の3種の要素から成り立っている.一般に受け入れられている IPAH/FPAHの診断のための肺高血圧の定義は,安静時の平均肺動脈圧(mPAP)≧25mmHgまたは運動時mPAP≧30mmHgで,肺動脈楔入圧≦12mmHgである 26).表8(臨床調査個人用における診断基準)には現在我が国で用いられている,厚労省難治性疾患克服研究事業で定められた本症の診断基準を示す. 肺高血圧の存在診断:病歴,主訴,身体所見,胸部単純X線写真,心電図などから肺高血圧の存在が疑われれば心エコー・ドプラ法を用いて肺高血圧の有無を検査する.本法は現在最も簡便に肺高血圧の存在を検出できる診断法である.病状・病態と肺動脈圧の半定量評価の結果からより精査が必要ならば,右心カテーテル法で肺循環動態諸量の直接計測を行い確定診断とする. 肺高血圧性疾患内の鑑別診断:胸部X線写真,呼吸機能検査(肺換気シンチグラムを含む),心エコー,必要ならばCT・MRIを用いて,肺高血圧の原因となる呼吸器疾患,心疾患の存在を診断する.ついで肺血流シンチグラムを行う.IPAH/FPAHの肺血流シンチグラムは,ほぼ正常かまたは肺野の一部に粗大な低潅流領域を示す所見,小斑状不均一分布(mottled patternと称される)を示す所見が特徴である.肺血流シンチグラムで多発性楔状欠損像を呈する症例は,多くは慢性肺血栓塞栓症に合併した肺高血圧例(血栓塞栓性肺高血圧症)である.肺動脈造影は,IPAH/FPAHの確定診断法としての意義は少なく,特に重症例では重篤な合併症の発症も報告され,特別な目的以外には検査適応とはならない.IPAH/

FPAHと診断した症例については,病歴,身体所見,血液検査・免疫学的検査などから膠原病を,心エコー法で先天性心疾患を,腹部エコー検査等で門脈圧亢進症などのAPAHを再度鑑別し,IPAH/FPAHの確定診断を行う.IPAH/FPAHの確定目的での肺生検は,現在は特別な目的以外には実施されていない.第3回肺高血圧症国際シンポジウムの報告書では,IPAH/FPAHに関しては遺伝子診断も積極的に進めるべきとの勧告もなされている.

4.予後,重症度評価 予後:未治療 IPAH/FPAHの予後は極めて不良で,成人例では発症後の平均生存期間は2.8年とされ 27),死因は突然死,右心不全,喀血が多い.小児の未治療 IPAH

/ FPAHの予後は成人に比しさらに不良で,平均生存期

間が10ヶ月とされている 28).

 重症度評価:IPAH/FPAHの治療方針を決定する際には,右心カテーテル検査による肺循環動態諸量の評価は極めて重要である.特に右房圧・肺動脈圧・肺血管抵抗値とともに混合静脈血酸素飽和度(SvO2)は治療方針を決定する際に有用である.しかし本検査は侵襲的検査であることから意味なく頻回に施行することは適切でない.運動負荷試験(6分間歩行試験)29),BNP30),血中尿酸値 31)などが,本症の重症度評価や治療効果判定,経過観察に有用であることが報告されている.

5.治療 (表9) 我が国における IPAH/FPAH治療ガイドラインは,本来は本邦独自のエビデンスを基に作成することが理想である.しかし IPAH/FPAHは患者数が少なく,日本人のみを対象とした大規模臨床試験によるエビデンスを得ることは極めて困難である.欧米では2003年の第3回肺高血圧症国際シンポジウムにおいて,多くのエビデンスを基礎に本症治療の概要がまとめられ,2004年6月のJournal of the American College of Cardiology(JACC)誌 32),および同年7月にCHEST誌にACCP evidence-

based clinical guideline として発表された 19).また2007年6月にはその後に得られたエビデンスにより修正が加えられた改訂版ガイドライン(Updated ACCP evidence-

based clinical practice guideline,以後2007年ACCPガイドラインと略す)が公表された 20).即ち,2007年ACCP

ガイドラインは,現時点でのPAHに関するエビデンスを集約したものである.そこで,我が国の肺高血圧症治療ガイドラインも2007年ACCPガイドラインに準じ,しかし我が国に固有の処方可能な治療薬の差異などの事情を考慮して改変することが必要と思われる.尚,2007年ACCPガイドラインは2004年ACCPガイドラインの

表9 IPAH/FPAHに対する治療

ClassⅠ エポプロステノール (Level A) ボセンタン (Level A) 肺移植 (Level A) 在宅酸素療法 (Level C)ClassⅡa シルデナフィル(*) (Level A) 抗凝固療法 (Level B) Ca拮抗薬(*) (Level B) iloprost(*),treprostinil(*) (Level B) 一酸化窒素(NO)(*) (Level B)ClassⅡb ベラプロスト (Level B) 心房中隔裂開術 (Level B)

* 2007年7月現在,本症に対し保険未承認の薬剤

12 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

改訂版のため,内容は2004年版に比し簡略化されている.このため2007年度版には記載されていないが,治療に必要と思われる事項に関しては2004年版を引用し解説した. 図3に2007年ACCPガイドラインで推奨されたPAH

の治療手順を示す.以下の解説において,治療の勧告程度は2007年ACCPガイドラインの内容を本ガイドライン表2に準拠したものに改変して記載した. IPAH/FPAHの確定診断と重症度評価が行われた後,ワルファリンを用いた抗凝固療法(禁忌でない場合,IPAH/FPAHに対して:ClassⅡa,APAH に対して:ClassⅡb,ただし専門家の意見のみ),利尿薬,酸素投与(ClassⅠ,ただし専門家の意見のみ)が行われる.ついで2007年ACCPガイドラインでは,治療方針確定の手順として急性肺血管反応性試験を行うことが推奨されている(IPAH/FPAHに対して:ClassⅠ,APAHに対して:ClassⅡb,ただし専門家の意見のみ).反応性(+)

の症例についてはまず経口Ca拮抗薬が推奨される(IPAH/FPAHに対して:ClassⅡa,APAHに対して:ClassⅡa,ただし専門家の意見のみ).Ca拮抗薬治療開始後3ヶ月経過して,NYHAⅠ度またはNYHAⅡ度ならば本治療を続行する.Ca拮抗薬でNYHAⅠ~Ⅱ度を達成できない例は追加治療または治療薬の変更を考慮すべきである.2004年ACCPガイドラインでは血管反応性(-)例またはCa拮抗薬治療の無効例に対する治療薬として,ベラプロスト(経口),ボセンタン(経口),エポプロステノール(持続静注),treprostinil(持続皮下注,持続静注),iloprost(吸入)が採用されていた.2007年ACCPガイドラインでは,これにシルデナフィル(経口)が加わり,NYHAⅡ度例でシルデナフィル(ClassⅠ)などが,NYHAⅢ度例ではこれに加え,ボセンタン(ClassⅠ)かエポプロステノール(ClassⅠ)が適応とされ, NYHA Ⅳ度例も同様であるが,エポプロステノールの勧告度はClassⅠとボセンタンのClassⅡa

General treatment measures : oral anticoagulants [Class a],diuretic, oxygen

Symptomatic IPAH/FPAH

Acute vasoreactivity testing [Class ]

FC Ⅱ

Sildenafil [Class ]Treprostinil SCTreprostinil IV

Atrioseptostomyand/or

Lung transplantation

FC Ⅲ

Bosentan [Class ]Sildenafil [Class ]

Epoprostenol IV [Class ]Iloprost inh

Treprostinil SCTreprostinil IV

FC Ⅳ

Epoprostenol IV [Class ]Bosentan [Class a]

Iloprost inhSildenafil [Class b]

Treprostinil SCTreprostinil IV

(+)  (-)

Oral CCB[Class a]

No improvementor deterioration

ContinueCCB

SustainedResponse?

Combination therapyProstanoid

Bosentan Sildenafil

ⅠⅠⅠ

ⅠⅠ

図3

図は,IPAH/FPAHのみに限定した2007年ACCPガイドラインを示す.勧告の程度は原文を肺高血圧症治療ガイドラインで採用した勧告の程度(表2)に準じて改変した.本邦で入手困難な治療薬については省略した.

PAH:肺動脈性肺高血圧症IPAH:特発性肺動脈性肺高血圧症FPAH:家族性肺動脈性肺高血圧症

FC:機能分類,NYHA心機能分類とほぼ同じIV:静注SC:皮下注inh:吸入Oral CCB:経口カルシウム拮抗薬

13Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

より優先度は高い.これらの内科治療に反応しない例は,2004年ACCPガイドラインでは心房中隔裂開術や肺移植の適応とされていたが,2007年ACCPガイドラインでは外科的治療法の前に,新たにプロスタノイド, ボセンタン,シルデナフィルの併用療法の概念が導入されている.2004年ACCPガイドラインでは採用されていたベラプロストは,2007年ACCPガイドラインでは削除されている. 図3の2007年ACCPガイドラインを利用する場合に幾つか留意すべき事項がある.まず2007年ACCPガイドライン作成の基礎となったエビデンスは IPAH/FPAH

を対象とした検討から得られたものが主で,必ずしも膠原病,先天性心疾患,門脈圧亢進症などに合併するAPAHに対し,本ガイドラインを流用することが妥当とは限らない.最近では IPAH/FPAHと他のAPAH各疾患では,発症年齢や予後,肺血行動態に若干の相違が見られることが知られている.次に現時点では,我が国ではシルデナフィル,treprostinil,iloprostは未承認薬であり臨床応用は困難で,一方ベラプロストは国内臨床試験では有効性が示され治療薬として認められているため,本邦と欧米とでは使用可能な肺高血圧症治療薬に差異が存在する.さらに急性肺血管反応性試験についても,本試験は常に一定の危険性が存在し肺高血圧症の治療に精通した専門施設でのみ実施されることが強く推奨されているが,一方で本邦ではCa拮抗薬に反応する IPAH/FPAH

の頻度は極めて少ない可能性が指摘されている.これらより,我が国では急性肺血管反応性試験を省略し,NYHAⅡ度~NYHAⅢのPAHに対しては,まず十分量のベラプロストまたはボセンタンを投与し,反応例に対しては同薬の継続を,非反応例およびNYHAⅣ度例ではエポプロステノール持続静注法が導入される場合が多い.種々の作用機序の治療薬の併用療法については,今後の課題となる.小児 IPAH/FPAHにおいても,ベラプロスト,エポプロステノール,ボセンタンが選択でき,今後シルデナフィルの臨床応用が期待されている.内科的治療法に反応しない例が心房中隔裂開術や肺移植の適応となる.

1)抗凝固療法,酸素療法 PAH患者の肺血管には微小血栓が存在し,病態の形成と進展に肺動脈内の微小血栓が関与している可能性が示されている.IPAH/FPAH患者の生命予後に対するワルファリンの有効性の検討 33),34)から,IPAH/FPAH患者に対しては長期抗凝固療法の適応があるとされている.推奨される INRは1.5-2.5とされるがエビデンスはない.

逆短絡を伴う先天性心疾患合併の肺高血圧症では奇異性塞栓症を考慮しワルファリンの適応とされるが,喀血の危険性も高くなる.門脈圧亢進症による肺高血圧症では食道静脈瘤による消化管出血に注意する.エポプロステノール持続静注法中のPAHでは,カテーテルの血栓症を予防する目的で抗凝固療法が行われる場合がある. 酸素療法は予後延命効果に関して十分なエビデンスは示されていない.しかし専門家の意見として,低酸素性肺血管攣縮による肺高血圧の軽減や自覚症状,運動耐容能の改善を目的として酸素療法(在宅酸素療法)が行われる場合が多い.酸素投与量はSpO2>90%を目標とする.

2)急性肺血管拡張試験とCa拮抗薬 急性肺血管反応性試験は,基本的にはCa拮抗薬の有用性を探る試験であり,血管反応性があればCa拮抗薬で長期予後が期待できる 33),35).病状が不安定で重症右心不全を呈している IPAH/FPAH患者は,元来Ca拮抗薬の効果を期待することは困難で,急性肺血管反応性試験の実施自体も危険性が高いことに留意されたい.急性肺血管反応性試験には,NO吸入 36),エポプロステノール持続静注 37),アデノシン 38)などが用いられている.「平均肺動脈圧が10mmHg以上低下して40mmHg以下となり,心拍出量が不変または増加すること」が最近合意された肺血管反応(+)とする基準である 20). これまでの急性肺血管反応性試験において反応性(+)と判定された症例の比率は,Ca拮抗薬を試験薬とし平均肺動脈圧および肺血管抵抗が20%以上低下したものを有意と定義したRichらの報告では26.5% 33)であった.また近年のSitbonらの IPAH,557例についての検討では,NOまたは静注エポプロステノールを用い,Rich等の報告と同じ判定基準を用いた場合12.6%とされ,この内の約半数(対象の6.8%)がCa拮抗薬で1年以上臨床症状は安定していた 35).ただ急性肺血管反応試験の非反応例に対するCa拮抗薬治療は無効であり,逆に重篤な合併症が生じる場合があるので安易なCa拮抗薬の長期投与は慎むべきである.

3)エポプロステノールおよびその類似体 Prostacyclinは1976年に発見されていた血管内皮で産生される生理活性物質で,強力な肺血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を有し,さらに血管平滑筋増殖抑制作用を持つと考えられている 39).これまで IPAH/FPAHでは血中prostacyclinの減少と thromboxaneの増加が報告され 40),さらにはprostacyclin合成酵素の発現低下 41)も存

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

在し,これが本症発症の一因である可能性が示唆されてきた.そこでprostacyclinの投与は本症の基本的な治療手段となり得る可能性が予測された.このprostacyclin

を合成したものがエポプロステノールである.現在,IPAH/FPAHの治療薬として臨床応用されているエポプロステノール関連薬剤には,持続静注法で用いられるエポプロステノール,主として持続皮下注射で用いられるtreprostinil,吸入薬の iloprost,経口薬のベラプロストがある.エポプロステノール 現在,PAHに対する内科的治療法としては最も有効性が高い治療法である.エポプロステノールの IPAH/

FPAHに対する臨床応用は1980年にすでに症例報告があるが 42),その後長期エポプロステノール持続投与で病態が改善した一例報告がなされ 43),幾つかの多施設共同の臨床試験で治療効果が確認されたため 44),45),1995年米国食品医薬品局(FDA)は IPAH/FPAHに対する初の治療薬としてエポプロステノールを認可した.1996年,多施設共同の大規模前向き無作為化試験で,運動耐容能の増加と肺血行動態,予後改善効果が証明され 46),本治療法の IPAH/FPAHに対する標準治療法としての位置づけが確定した.さらに1998年の急性肺血管拡張効果が見られない症例でもエポプロステノールの慢性投与により病状改善効果が認められるとの報告 47)は,本薬剤が血管拡張作用効果以外の作用機序を持つ可能性を示唆し注目されている.エポプロステノール持続静注法はFDA

の認可からすでに10年が経過し,薬効については十分なエビデンスが蓄積されている.エポプロステノール持続静注法は膠原病に合併するPAHに対しても有効との報告がある 48).IPAH/FPAHを対象としたエポプロステノール持続静注法の長期予後は,1年目,2年目,3年目の生存率はそれぞれ87.8,76.3,62.8%(自然歴は58.9,46.3,35.4%)と報告されている 49).小児 IPAH/FPAH

での1,5,10年治療成功率は93%,86%,60%であり,他の治療法や移植を併用した生存率は97%,97%,78%である 50).また特にNYHAⅢ~Ⅳ度の重症 IPAH/

FPAHに限定した検討でも,1年目,2年目,3年目,5年目の生存率はそれぞれ85,70,63%,55%と良好である.ただし治療開始時に右心不全の既往,NYHAⅣ度,6分間歩行(250m以下),肺血行動態では右房圧>12mmHg,PAPm>65mmHgは長期予後不良を示唆する所見であり,また治療開始3ヶ月後に右心不全 NYHA

Ⅲ~Ⅳの持続,総肺血管抵抗値の低下が30%以下も予後不良のサインであり,肺移植の適応である 51). 2004年ACCPガイドラインでは,エポプロステノー

ルの実際の運用に関しては以下の様に記載されている.即ち,エポプロステノールは1~2ng/kg/minの微量から開始し,副作用と容認性を考慮しつつ1~2ng/kg/minずつ徐々に増量する.通常,各々の患者に関しては,それ以上増加の必要性がない投与量が存在すると推定され,これは個人差は大きいが,20~40ng/kg/minの間に存在する場合が多い.重篤な副作用としては,投与量が過量の場合に体血圧低下が生じる.軽微な副作用に関しては,頭痛,発赤,最初の咀嚼時の下顎痛,下痢,斑状紅斑などが見られるが,通常は濃度依存性で減量により消失する.長期にわたり至適量以上投与している場合にはhyperdynamic high output cardiac failureが生じる可能性がある.急なエポプロステノールの投与停止は rebound

から shock,突然死にいたる可能性があり行ってはならない.実際の治療では各症例に応じた維持量を設定が必要であるが,その決定には高度の専門性が要求されるので,本治療は肺高血圧症の治療に精通した施設で,熟練した内科医と看護師のもと行われるべきであることが強調されている.ベラプロスト ベラプロストは日本で開発され1995年より治療に用いられている最初の経口摂取可能なエポプロステノール類似体である.本邦では2つの後ろ向きの非無作為化試験の成績にて肺血行動態と予後の改善が報告され 52),53),比較的軽症の IPAH/FPAHでは広く処方されている.しかし海外における2つの無作為化二重盲験試験の結果では,6分間歩行による運動耐容能の短期改善効果は認められるが,肺血行動態や予後の改善は確認されていない54),55).このため残念ながらベラプロストは2007年ACCPガイドラインからは削除されている.ベラプロストは最大180μg/日(分3)まで処方可能である.treprostinil・iloprost

 treprostinilは持続皮下注射で,iloprostは吸入で用いられるエポプロステノール類似体で,前者は2002年5月に後者は2004年12月にそれぞれFDAから治療薬としての承認が得られている.しかし両者は本邦では現在未承認で治験も行われていないので,本薬剤の詳細は割愛する.

4)エンドセリン受容体拮抗薬 エンドセリン(ET)は,1988年に本邦の真崎・柳沢らによって発見された強力で,持続的な血管収縮作用を有する物質である.ETにはET-1,ET-2,ET-3のイソペプチドが存在する.ET-1は広く体内に発現するが,肺組織での濃度が最も高く,強力な血管収縮作用と平滑筋

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肺高血圧症治療ガイドライン

の分裂促進作用を有する.PAHでは血漿中や肺組織でET-1の発現と産生が亢進し,その程度と肺高血圧の重症度とに相関が見られる.そこで,PAHの発症または病態の維持(血管緊張度の亢進と肺血管増殖など)にET-1が寄与している可能性があり,ETの作用を阻害するET受容体拮抗薬はPAHの治療薬として期待されている.ET受容体にはET-1に選択的なETA受容体と非選択的なETB受容体が存在し,ETAと ETB両者の受容体拮抗薬(ボセンタンなど)と,選択的ETA受容体拮抗薬(ambrisentan,sitaxsentanなど)が開発されている.ボセンタンは,2001年に機能分類Ⅳ度を除く重症PAHを対象とした多施設共同無作為化二重盲検試験が行われ,NYHA機能分類や運動耐容能の改善(6分間歩行),肺循環動態の改善が得られ,観察中に死亡例や移植例は発生せず,その有効性が確認された.また副作用として肝機能障害の増加が見られたが,投与量の減量で軽快し可逆的であったことが報告された 56).ついで2002年に第二の大規模二重盲検試験も行われ,16週間の観察期間で同様の結果が得られた 57).そこで本薬は,米国では肝機能検査を一月に一回行う条件で2001年11月に,英国・ドイツでも2002年に認可された.ボセンタンは,本邦でも2005年7月にPAH治療薬としての承認が得られ,臨床応用が開始されている.IPAH/FPAHに対するボセンタンの長期予後改善効果については,本薬を第1次選択薬とした場合の1年生存率,2年生存率はそれぞれ96%,89%との報告がある 58).またNYHA Ⅲ度の重症IPAHにボセンタン治療を行った成績でも1年生存率,2年生存率はそれぞれ87%,75%と,エポプロステノール治療群に比して遜色の無い治療成績が得られている 59).ボセンタンは成人では最大 250mg/日(分2)で用いられる.小児での用量設定が確立されていないが,体重10kg~40kgでは,1.5-3.1mg/kgx2回 /日の投与で,4か月後には心係数,平均肺動脈圧,肺血管抵抗の改善がみられている 60),61).

5)Phosphodiesterase type 5阻害薬(PDE5阻害薬) シルデナフィルはPDE5阻害薬で,cGMPの分解を抑制する.cGMPは肺血管緊張度を低下させ増殖を制御する役割を担う重要な物質であることから,PDE5阻害薬は肺高血圧症治療薬としての可能性が検討されるようになった.そして2002年の少数例の検討ではあるが,シルデナフィルのPAH患者の肺血行動態を改善する急性効果が確認された 62).その後の無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果,肺循環動態の改善と6分間歩行の増加が得られ 63),シルデナフィルは米国では2005年6月,

欧州でも同11月に治療薬として正式に承認されている.シルデナフィルは小児領域でも有効例の報告があり,1mg/kgから4mg/kg/日,分4で,6分間歩行距離の増加,肺血管抵抗と主肺動脈圧の低下が得られている 64),65).

6)Combination治療 様々な作用機序の治療薬の出現に伴い,高血圧症や癌治療における治療法と同様コンビネーション治療の可能性についての関心が高まってきた.コンビネーション治療により薬効の相乗効果,相加効果が期待できる場合もあれば,投与量を減量し副作用が軽減させることができる可能性も期待できる.現在,PDE5阻害薬とエポプロステノールおよびその類似体との併用や,エポプロステノール持続静注法とボセンタンの併用治療の研究(BREATHE-2研究)も進んでいる 66).

7)外科療法 心房中隔裂開術:卵円孔開存を合併する IPAH/FPAH

は,非合併例より予後が良いことから,本手術法が発想された 67).心房中隔裂開術の手術死亡率は13%,30日生存率は82%とされるが,成績は報告によって一定していない.SpO2<80%の例,高度右心不全例は死亡率が高い.本法は他に採用し得る治療法が無いか,他の全てに治療に反応しない場合に限定すべきとされている68). 肺移植:あらゆる内科的治療に反応しないNYHAのⅢ~Ⅳ度の患者例が移植適応と考えられる68).欧米では,IPAH/FPAHは肺移植適応疾患の10%未満であるのに対して,日本では最も頻度が高いと予測されている 69).IPAH/FPAHに対する肺移植の5年生存率は通常50%未満で,他の疾患に対する肺移植よりも成績は劣るが,症例数の多い施設の成績は良好である 70).肺移植の術式には片肺移植,両肺移植,生体肺葉移植があるが,IPAH/

FPAHに対しては両肺移植が標準術式となりつつある.生体肺葉移植も体格の小さいレシピエントには可能である 71).左室駆出率が35%以下に低下している IPAH/

FPAH患者では,心肺移植が適応である可能性がある72).IPAH/FPAHに対する肺移植では,ワシントン大学が提唱したガイドラインが広く使用されてきたが(表10),近年,国際心肺移植学会も肺移植ガイドラインを発表している 73).本邦では肺移植を希望する IPAH/

FPAH患者は,専門医によって エポプロステノールを含めた可能な限りの内科的治療を受け,その上で移植認定施設での適応検討,中央肺移植検討委員会で承認を受けた後,日本臓器移植ネットワークに登録される手順とな

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

っている.

8)特殊な状態小児に特有な肺高血圧症:新生児持続性肺高血圧症(Persistent Pulmonary Hypertension of the Newborn:PPHN) PPHNは,肺血管抵抗の著しい上昇,心房または動脈管のレベルの右左短絡,高度の低酸素血症が特徴である.しばしば,肺間質性疾患(胎便吸引症候群,肺炎,敗血症),肺低形成,胎内での周産期ストレス,低血糖,胎児仮死,肺血管適応不全に合併する.多くは一過性であるが,一部では致死的である.IPAH/FPAHの一部には既に出生後から肺病変が存在する例があり,必ずしも後天的でない可能性が存在する.病理学的には末梢細小動脈の異常な筋性化が特徴である.治療はNO吸入かエポプロステノール静注が必要となり,最近ではPDE5阻害薬も有効であることが示されている.しかし,PDE5阻害薬は新生児,乳児では網膜への影響が存在する可能性があり注意する.重症例ではECMOが必要である.最近の死亡率は<20%である 74). 妊娠:多くの IPAH/FPAH患者は妊娠可能年齢の女性であり,妊娠中に本症が発見される場合も多い.Eisenmenger症候群の妊娠死亡率は36%,IPAH/FPAH

は30%,他のAPAHでは56%と報告され 75),避妊か早期の中絶が推奨される 76).しかしエポプロステノールの長期持続静注法やNO,Ca拮抗薬で出産に成功した報告もある. 門脈圧亢進症:慢性肝疾患で肺血管病変合併例には,肝肺症候群(hepatopulmonary syndrome)と門脈圧亢進症に合併する肺高血圧症(portopulmonary hypertension)があるがその発生機序は不明である.門脈圧亢進症は,初期には肺高血圧は存在するものの比較的高心拍出量状態にあるが,末期は IPAH/FPAHに類似した病態となりエポプロステノール持続静注法の適応となる 77). 以上2004年ACCPガイドライン,2007年ACCPガイドラインについて一部改編して解説した.ただ本疾患は,現在その疾患概念や治療法の変化が極めて大きく,また個々の病態も極めて多彩である.したがって本ガイドラ

インを参考としつつも,教条的にガイドラインに準じるのでは無く,各症例の病態を正確に把握し適切な治療法の選択を行う努力を欠いてはならない.

B 各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(APAH)

B-1)膠原病性血管疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症

1.要旨 膠原病には肺高血圧症がしばしば合併する.それには,他に誘因がみられない IPAH/FPAH様の肺高血圧症,肺血栓症や間質性肺炎などに続発しておこる肺高血圧症などに大別される. 膠原病合併肺高血圧症の病態改善のための治療は,内科的には血管拡張薬,強心薬,抗凝固薬などがある.これらの投与は,IPAH/FPAHあるいは,慢性血栓性および/または塞栓性疾患における肺高血圧症の治療指針に準じて行われる. しかしながら膠原病合併肺高血圧症に対して,ステロイド薬や免疫抑制薬の投与が有効であったとの報告も見られる.また,膠原病合併肺高血圧症は膠原病という基礎疾患を有しているため,肺高血圧症発症前より定期的に経過観察されていることもあり,肺動脈圧が比較的低く,肺高血圧症に由来する臨床症状・所見が出現する前に肺高血圧症が発見されることもある.短期間(1年間)の経過観察ではあるが,心エコーによる推定肺動脈収縮期圧40mmHg以下の患者では肺動脈圧の増悪はなく,肺高血圧症に由来する症状・所見も有さないことより,積極的な治療対象とすべきは,肺動脈収縮期圧40mmHg

以上の肺高血圧症との報告がある.これらについては今後のさらなるエビデンスの集積が必要である.

2.疫学,原因1)膠原病に合併する肺高血圧症の疫学 膠原病の肺高血圧症合併率についてはいくつかの報告がある(表11)が,施設や症例の収集条件の相違により差が見られる.代表的なデータとして,1998年度の「厚生省特定疾患皮膚・結合組織調査研究班混合性結合組織病分科会」での調査成績 78),2003年度の「厚生労働科学研究免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業,全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究」での調査成績 79)を示す.前者は日常診療のなかで主治医が肺高血圧症を合併していると認識している患者に関する調査であり,後者はMCTDに合併する肺高血圧症のスクリーニングのための診断の手引き 80)

表10 IPAH/FPAHに対する肺移植適応基準

ワシントン大学 国際心肺移植学会

NYHA機能分類 Ⅲ~Ⅳ Ⅲ~Ⅳ

中心静脈圧 >10 mmHg >15 mmHg

平均肺動脈圧 >50 mmHg >55 mmHg

心 係 数 <2.5 L/min/m2 <2.0 L/min/m2

17Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

(MCTDにおける肺高血圧症の診断基準)(表12)に基づき,心エコー検査を原則的に施行することを前提とした調査(施行率35.9%)である.前者ではMCTD 7.0%,SSc 5.0%,全身性エリテマトーデス(SLE)1.7%,多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)0%,重複症候群5.4%に肺高血圧症の合併がみられた.後者ではMCTD 16.0%,SSc 11.4%,SLE 9.3%,PM/DM 1.5%に肺高血圧症の合併がみられた.いずれもMCTDやSScなど強皮症スペクトラムの疾患群で高率であった.後者では肺高血圧症合併40例中19例で肺高血圧症に由来する臨床症状・所見を認めず,心エコー検査を施行しなければ発見されなかったと思われる. 一般に肺高血圧症の予後は著しく不良である.また,予後良好と考えられていたMCTDの最大の死因が肺高血圧症であることも判明している.1997年度の「厚生省特定疾患皮膚・結合組織疾患調査研究班混合性結合組織病分科会」での調査 81)ではMCTDに合併する肺高血圧症を解析すると,予後が比較的良好な群と通常の肺高血圧症と同様予後不良な群に分けられることが判明し

た.予後悪化因子として,分割表法では肺線維症,肺拡散能障害,労作時胸骨後痛,胸骨左縁収縮期雑音,疲れ易さ,筋逸脱酵素上昇があった.また,多変量解析では多発関節炎,肺高血圧症の確診例,筋逸脱酵素上昇,SSc関連の皮膚病変が抽出された.さらに,PM/DMの診断基準を満たす例の生命予後は不良であった.2)膠原病に合併する肺高血圧症の原因 膠原病合併肺高血圧症を発症機序の上から,①何らかの免疫異常に起因する血管炎が誘因として推測されるが,その他には明らかな誘因はなく,肺動脈末梢での内腔の狭窄,閉塞によるもので IPAH/FPAHと類似の病態と考えられるもの(膠原病に合併する肺高血圧症の主要病態),②抗リン脂質抗体症候群や高安動脈炎などによって肺動脈に慢性血栓塞栓症が生じ,その結果肺高血圧症が続発してくるもの(慢性マクロ肺血栓塞栓症およびIPAH/FPAHと鑑別不可能な慢性ミクロ肺血栓塞栓症がある.),③SScなどにしばしば合併する間質性肺炎(肺線維症)が肺血管床を減少させるような重度な場合にそれに続発してくるもの(実際には間質性病変が強くてもあまり肺動脈圧は上がらない),④高安動脈炎やSLEで報告のある肺動脈末梢の血管炎によるもの,に大別される.

3.診断方法1)膠原病の診断 各種膠原病には,それぞれ分類基準が作成されているので,それを参考にして診断をすすめる.2)肺高血圧症の診断 膠原病の中でも,MCTDやSScなどの,いわゆる,強皮症スペクトラムの疾患や,SLEでは肺高血圧症を合併しやすい傾向がある.その肺高血圧症の診断のためには,労作時の息切れ,顔面や下肢の浮腫,Ⅱ音肺動脈成分の亢進などの自他覚症状の有無が重要である.それがない場合でも必要に応じて,胸部X線写真,心電図検査,心エコー検査などの肺高血圧症のスクリーニング検査を施

表11 膠原病における肺高血圧症の出現率

慶大内科 自治医大アレ・膠科

福島医大第2内科

MCTD班内PH合併率調査

全身性自己免疫疾患班内PH合併率調査

1984 1984 1995 1998 2003

MCTD 5/35(14.3%) 1/8 (12.5%) 4/26(15.4%) 16/230(7.0%) 8/50(16.0%)

SSc 6/83 (7.2%) 2/28 (7.1%) 1/17 (5.9%) 26/320(5.0%) 12/105(11.4%)

SLE 5/314 (1.6%) 4/84 (4.3%) 4/64 (6.3%) 14/847(1.7%) 18/194 (9.3%)

PM/DM - 0/10 (0%) 0/15 (0%) 0/154 (0%) 1/66 (1.5%)

Overlap 15/43(34.0%) 5/17 (29.4%) - 2/37(5.4%) -

RA - 0/78 (0%) 0/72 (0%) - -

表12 MCTD肺高血圧症診断の手引き

Ⅰ.臨床および検査所見  1.労作時の息切れ  2.胸骨左縁収縮期性拍動  3.第2肺動脈音の亢進  4. 胸部X線写真で肺動脈本幹部の拡大あるいは左第2

弓突出  5.心電図所見上右室肥大あるいは右室負荷  6.心エコー所見上右室拡大あるいは右室負荷Ⅱ.肺動脈圧測定  1. 右心カテーテル検査で平均肺動脈圧が25 mmHg以

上  2. 心エコー・ドプラ法による右心系の圧が右心カテー

テルの平均肺動脈圧25 mmHg以上に相当診断: MCTDの診断基準を満たし,Ⅰの4項目以上が陽性,

あるいはⅡのいずれかの項目が陽性の場合,肺高血圧症ありとする.Ⅰの3項目陽性の場合,肺高血圧症疑いとする.

除外項目  1)先天性心疾患      2)後天性心疾患      3)換気障害肺性心

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

行することが望まれる. WHO82)でも強皮症スペクトラムの疾患では無症状でも年1回の心エコー検査によるスクリーニングをすすめている.肺高血圧症が疑われる場合には,右心カテーテル検査による肺動脈圧,肺血管抵抗などの測定が必要である. 安静時の平均肺動脈圧が25 mmHg以上をもって肺高血圧症と診断する. 右心カテーテル検査の施行が事情によってできない場合を含めて,膠原病(特にMCTD)に合併する肺高血圧症のスクリーニングのための診断の手引き 80)(MCTD

における肺高血圧症の診断基準)(表12)が提唱されている.3)肺高血圧症発症機序の鑑別 肺高血圧症発症機序が IPAH/FPAH様のものと,慢性肺血栓塞栓症や間質性肺炎(肺線維症)などに続発したものとを鑑別しておくことが治療上必要である.そのためには,肺換気血流シンチグラムでの多発性の血流欠損により慢性肺血栓塞栓症の合併,胸部X線写真や胸部CT所見などにより間質性肺炎(肺線維症)の合併の有無をみておくことが重要である.

4.膠原病合併肺高血圧症の治療(表13) 膠原病合併肺高血圧症の治療は発症機序に基づき,IPAH/FPAH様の肺高血圧症,慢性肺血栓塞栓症に合併する肺高血圧症,間質性肺炎(肺線維症)に合併する肺高血圧症などと異なる.それら肺高血圧症の病態改善の治療はそれぞれ IPAH/FPAH(図3),慢性血栓性および/または塞栓性疾患における肺高血圧症,間質性肺疾患

に伴う肺高血圧症に記述されている治療指針に準じておこなわれる.詳細はそれらの章を参照されたい. 膠原病では肺高血圧症以外の臓器病変に対してステロイド薬が投与され,活動性が強く難治性の場合にはステロイドパルス療法や免疫抑制薬の併用などがおこなわれる.また,膠原病合併肺高血圧症の発症機序には免疫学的異常が関与している可能性もある.従って,これらの免疫療法が膠原病合併肺高血圧症にもよい影響を与える可能性があり,有効であったとの報告もみられる.そこで,膠原病合併肺高血圧症に対してステロイド薬や免疫抑制薬の使用も勘案した治療指針(図4)が,「厚生労働科学研究難治性疾患克服研究事業混合性結合組織病研究班」(主任研究者近藤啓文),「免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究班」(主任研究者三森経世)

抗凝固療法・酸素療法

肺血管反応性の評価肺血管反応性の評価

膠原病の疾患活動性

NYHA≦Ⅱ

ボセンタン

続行

肺移植

ステロイド薬免疫抑制薬

PH発症早期・進行性

Ca拮抗薬ベラプロスト エポプロステノールシルデナフィル*

*:保険適応外

あり なし

No

No

無効

有効 Yes

Yes

non-respondernon-responder responderresponder

図4 膠原病性PHの治療ガイドライン(文献83より引用一部改変)

表13 膠原病性血管疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症の治療

ClassⅠ 抗凝固療法 (Level B) 酸素吸入 (Level B) ベラプロスト(*) (Level B) ボセンタン (Level B) シルデナフィル(*) (Level B) エポプロステノール (Level B) 一酸化窒素(NO)(*) (Level B)ClassⅡa iloprost(*),treprostinil(*) (Level B)ClassⅡb 免疫抑制療法 (Level B)   ステロイド薬   免疫抑制薬 Ca拮抗薬(*) (Level B)

* 2007年7月現在,本症に対し保険未承認の薬剤

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肺高血圧症治療ガイドライン

と「免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業免疫疾患の合併症とその治療法の関する研究班」(主任研究者橋本博史)との協議のもと合同で作成された 83).この治療指針に沿って治療をおこなうのが適当と考えられる.1)肺高血圧症の病態改善a)日常生活の指導 ①安静 ②減塩および水分摂取の制限 ③過労を避けた生活b)薬物療法 ①血管拡張療法(IPAH/FPAHを参照) ②抗凝固療法(IPAH/FPAHを参照) ③強心薬,利尿薬(心不全を伴う症例)c)その他 ①在宅酸素療法(IPAH/FPAHを参照) ② 慢性肺血栓塞栓症に伴う肺高血圧症では肺動脈血栓内膜摘除術も検討

2)免疫療法(ClassⅡb,Level B) 免疫療法の有効性については,それが有用であったとの報告例もあるが,評価されうる充分なデータはまだ不足しているのが現状である.しかし,現在えられる免疫療法の有用性についての報告の一部を紹介する.a) 1993年から1999年に医学中央雑誌に掲載された肺高血圧症関連報告1154件の報告中,膠原病合併肺高血圧症関連の報告数は110件で,免疫療法についての報告(学会発表をも含めて)をみると(表14),検討可能症例数は59例であった.パルス療法を含むステロイド薬治療群では有効例32例,有効の可能性あり例は9例,無効例は11例であった.一方,免疫抑制薬治療群では有効例6例,有効の可能性あり例は1例,無効例は2例であった 84).

 これらの報告には症例報告が多く含まれている.従って,有効症例が報告されがちとなるバイアスもかかる.さらに,種々の血管拡張薬との併用例であ

るので有効性を一概に免疫療法に帰することはできず,高いレベルのエビデンスとはいえない.

b) 厚生省特定疾患皮膚結合組織病調査研究班混合性結合組織病分科会参加施設内の症例について,1999年に治療法と予後に関する疫学調査がおこなわれた.

   解析対象として膠原病合併肺高血圧症症例39例が調査され,ステロイド薬投与後の肺動脈圧はステロイド薬非投与群に比し有意な減少(p<0.05)がみられた(図5)85).

c) 治療指針の実際 ①抗凝固療法:消化管潰瘍のないことを確認してから開始するのが望ましい.(ClassⅠ,Level B)

 ②酸素吸入:血中酸素飽和度が90%以下の症例に適用.(ClassⅠ,Level B)

 ③ステロイド薬,免疫抑制薬:確立された治療法ではない.膠原病の疾患活動性があれば,それに対してステロイド薬や免疫抑制薬が使用され,同時に肺高血圧症に対する効果を判定する.また,ステロイド薬や免疫抑制薬の適応となるような膠原病の疾患活動性がなくても肺高血圧症が発症早期で進行性(可逆性病変の存在が示唆される)の場合はエビデンスには乏しいが,一度試みる価値がある.早期進行例の定義はないが,NYHAI度(~Ⅱ度)で,可能であれば肺高血圧症に由来する臨床症状が出現する以前であることが望ましい.ステロイド薬の投与量に関しては,プレドニゾロン(PSL)中等量以上(30

なし あり

ステロイド剤投与

心エコーによる推定肺動脈収縮期圧改善度(m

mH

g

p=0.0388

50

40

30

20

10

0

図5 膠原病合併PHに対するステロイド薬の効果

表14 既報告例(本邦)よりみた免疫療法の有用性(1993~1999,医学中央雑誌)

●PH関連報告数: 1154件●膠原病合併PHの報告数: 110件 検討可能症例数: 59例●ステロイド(パルス療法を含む) 有効例 32例 有効の可能性あり例 9例 無効例 11例●免疫抑制薬(AZT,CPM,CPMパルス) 有効例 6例 有効の可能性あり例 1例 無効例 2例

20 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

~60mg)で投与する.膠原病の疾患活動性がなく,肺高血圧症早期進行例に投与した場合には,効果がないと判断すれば中止し,他の治療法を速やかに導入する.免疫抑制薬には保険適応がない.(ClassⅡb,Level B)  プレドニゾロン 45mg/日(分3)  アザチオプリン(イムラン) 100~150mg/日(分2~3)

  シクロホスファミド(エンドキサン) 500~1000mgを500mlのブドウ糖液に混注し,ゆっくり点滴静注

 ④肺血管反応性の評価:可能であればおこなうことが望ましいが,必須ではない.

 ⑤Ca拮抗薬:Ca拮抗薬は肺血管反応性がある場合に選択する.(ClassⅡa,Level B)  ニフェジピン(アダラートL) 40mg/日(分2)

 ⑥ベラプロスト:ベラプロストは肺血管反応性がみられない場合にも有効な例がある.徐放薬については現在(平成17年7月)治験が進行中である.(Class

Ⅰ,Level B)  ベラプロストナトリウム(ドルナー,プロサイリン) 60~180μg/日(分3)

 ⑦ボセンタン:エンドセリン受容体拮抗薬.エンドセリンは血管内皮細胞で産生される強力な血管収縮物質であり,血管平滑筋の増殖因子でもある.ボセンタンはエンドセリンの受容体に結合する物質で,血管収縮抑制作用を示す.経口薬であり,その効果はベラプロストより強くエポスロステノールより弱い程度と思われる.NYHA/WHO機能分類クラスⅢおよびⅣに用いる.クラスⅠおよびⅡの症例でも使用を考慮する場合もある.(ClassⅠ,Level B)  ボセンタン(トラクリア) 62.5~125(~250)mg/日(分2)

 ⑧シルデナフィル:cGMP特異的PDE5に対する選択的阻害薬.この酵素は肺と陰茎に多量に存在する.体血圧を低下させず肺動脈圧を低下させ,心拍出量を増加させる.肺血管反応性の有無にかかわらず使用したり,他の薬剤との併用が考えられる.現在保険適応はないが,2005年6月米国FDAはPAHの治療薬として認可した.(ClassⅠ,Level B)  シルデナフィル(バイアグラ,レバティオ) 50mg/日(分2)

 ⑨エポプロステノール(フローラン):PGI2は血小板凝集抑制作用と血管平滑筋弛緩作用を持つ.エポプロステノールはベラプロストとともにこのPGI2ア

ナログである.有効例は多いが,24時間持続静注が必要であり,有効治療域に達するまで薬剤量を漸増する必要があることやわずかな投与量の変動で作用・副作用が変動しやすいこと,毎日新たな薬液を調製する必要があるなど使用に際し煩雑な面もある.また,薬剤の調製や投与ルートへの接続を清潔操作でできるよう患者を十分に教育しておくことも重要である.循環器専門医との連携のもと導入すべきである.在宅持続静注療法も含め保険適用である.(ClassⅠ,Level B)

 ⑩その他の薬剤  一酸化窒素(NO):強力な血管拡張作用を有する.新生児における肺高血圧症による低酸素性呼吸不全の改善に対し,INO maxという商品名のNOがオーファンドラッグの指定を受けている.(ClassⅠ,Level B)  iloprost,treprostinil:いずれもエポプロステノ

ール類似体である.まだ本邦では使用されていない.(ClassⅡa,Level B)

3)本治療指針の問題点 厚生労働省3班による治療指針にはこの指針を適応すべき肺高血圧症の程度(重症度)についての記載がない.厚生科学研究免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と治療法に関する研究班における調査 86)では,膠原病合併肺高血圧症の37例中19例が肺高血圧症に由来する臨床症状・所見を認めず,推定肺動脈収縮期圧が40mmHg以下の症例でこれら臨床症状・所見を認めないこと,推定肺動脈収縮期圧が40mmHg以下の症例では,観察期間が1年と短期間ではあるが肺動脈収縮期圧は変化しない傾向のあることが判明した.現時点では,これら肺動脈圧が比較的低く,臨床症状・所見を認めない軽症肺高血圧症患者は注意深く観察をし,推定肺動脈収縮期圧が40mmHg

以上の肺高血圧症患者に本治療指針を適応すべきとも考えられる.

5.今後の課題 膠原病合併肺高血圧症は基礎疾患を有しているため,肺高血圧症の発病時・発病前から受診していることが多い.したがって,肺高血圧症の発症早期からその経過を観察することが可能である.また,IPAH/FPAHと異なり,免疫療法の有用性も示唆されている.以上のことより,膠原病合併肺高血圧症において少なくとも①膠原病合併肺高血圧症の経過(特に肺動脈圧が比較的低い軽症例),②免疫療法の有用性の2点について今後エビデンスを集

21Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

積していくことが必要であろう.

B-2)先天性心疾患に伴う肺高血圧症

1.要旨 先天性心疾患(CHD)に合併する肺高血圧症は,主に中等量以上の左右短絡が持続した結果生じるもので,適切な時期に根治術を行い ,肺血流を正常化させれば肺高血圧は可逆的である.しかし手術が不可能な症例や,手術時期が遅れた症例,さらに約1/3の症例では肺血流増加の時期がないまま成長し,これらの症例では肺動脈の閉塞性病変が進行して非可逆的となる.その結果,左右短絡の減少と右左短絡の増加によるチアノーゼが生じ,この病態はEisenmenger症候群と呼ばれる.左右短絡性CHDで肺高血圧症になると肺うっ血症状が軽くなり,肺血管抵抗(Rp)が12単位・m2以上となり,肺体血管抵抗比も1に近くなる.Eisenmenger症候群の予後は数年から40歳代までと様々で,最後の2-3年は低酸素血症,心不全症状が強い. 本稿の多くは,日本循環器学会ガイドライン「成人先天性心疾患診療ガイドライン」87)と,Canadian Consensus

Conferenceのガイドライン 88)の肺高血圧症関連の勧告に準拠しているので参照して頂きたい.

2.疫学,原因 Eisenmenger症候群はこの20年間で小児期の患者は減少傾向にあるが,手術不能のまま学童や思春期,成人期に達した症例,術後肺高血圧症例が散見される.心室中隔欠損(VSD),動脈管開存(PDA),心内膜床欠損(ECD),完全大血管転位,Down症候群,多脾症候群,主要体肺側副血行合併例等では肺高血圧症が起こりやすく,心房中隔欠損(ASD)では成人までは肺高血圧症になりにくい.大きな心内短絡による肺血流増加と肺動脈圧上昇では組織学的変化は6ヶ月前後からはじまり,2歳以後では非可逆的になるとされている.一部の奇形症候群,例えばDown症侯群+心内膜床欠損,チアノーゼに肺血流増加を伴う大血管転位では生後2-3ヵ月から始まっている事がある. その病理像の特徴は,肺細小動脈と300μm以下の動脈の変化である.肺細小動脈の中膜,内膜肥厚,さらにplexiform lesion,中膜の菲薄化や動脈瘤,拡張を来す.肺動脈病変は,Heath-Edwardsにより I-Ⅵ度に分類され,Ⅳ度以上は不可逆的変化と考えられている 89). 臨床経過は原因となる心疾患により異なる.大きなVSDを持つ症例の15%では幼少期にRpの上昇をきたす.2歳までに根治手術が行われれば肺高血圧が残存す

ることはほとんどないが,手術時期の遅れた症例では残存肺高血圧をみることがある. 大きなPDAの経過はVSDと同様である.ASDでは小児期は通常正常肺動脈圧であり,20%の症例で30歳代以降に肺高血圧の進行をみることがある.

3.診断方法A.症 状 軽症例では安静時無症状で,運動時に全身血管抵抗が下がった時にのみチアノーゼが出現する.進行例では強いチアノーゼ,ばち状指,ヘマトクリット60-70%の多血症,比較的貧血がある.右左短絡が増加しヘマトクリットが65%に達すると血液粘稠度が亢進するが酸素運搬能はかえって低下し,血栓塞栓症の合併率は高くなる.その他全身に合併症が見られる 90)(表15). 診察上,前胸部拍動,右室挙上がある.Ⅱ音は単一化し分裂幅は狭く,Ⅱ音肺動脈成分は亢進する.両心室圧が等しくなるため短絡性雑音は弱くなり,雑音が減弱するため欠損孔が閉鎖したかと錯覚することがある.右左短絡の多くは拡張期におこる.肺動脈弁逆流雑音(Graham-Steell雑音)や三尖弁逆流雑音が聴かれ,右心系のⅣ音が聴かれることがある.左右短絡による肺血流増加による肺うっ血の症状は殆どなくなり,右心不全や低酸素血症が目立つようになる.B.検 査(表16)1)胸部X線検査:肺高血圧症では近位主肺動脈,左・右肺動脈枝は太くなるが,末梢肺血管陰影はtapering,細小化,枯れ枝状を呈し,肺野が明るくなる.肺血流が多い時期には肺うっ血像があり,末梢血管はとぐろ状に蛇行する.PDAでは心拡大はないが,ASDでは若干大きい.

2)心電図検査:右軸偏位,両室または右室肥大のみ.右房負荷があれば三尖弁逆流の合併がある.

3)心エコー法:右房圧,右室圧,肺動脈圧上昇.前駆出時間/駆出時間比の増加.短絡血流は減少し,両方向短絡が見られるようになる.

表15:成人期Eisenmenger症候群の合併症 51)

1.心血管系 不整脈,心不全,失神,突然死,感染性心内膜炎,奇異性血栓

2.血液学的異常 赤血球増多症,過粘度症候群,低色素性小球性貧血

3.出血傾向 喀血,鼻出血,生理出血4.中枢神経 脳血栓塞栓症,脳梗塞,脳膿瘍,失神5.腎臓 慢性腎炎,糸球体硬化症6.その他 高尿酸血症,痛風性関節炎,肥厚性関節炎,

バチ状指

22 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

4)肺血流シンチグラフィー:IPAH/FPAH,肺血栓塞栓症,肺性心の鑑別診断に有用である.

5)心臓カテーテル検査:基礎疾患を確定し肺高血圧の程度を算出する.さらに酸素,一酸化窒素(NO)吸入,プロスタサイクリン(PGI2),Ca拮抗薬等の血管拡張薬への反応性をみる事も有用である.

4.重症度判定 心臓カテーテル検査で,肺血管抵抗が800 dynes・sec・cm-5ないし,10~15単位・m2以上をEisenmenger

化した重症肺高血圧症と定義し,8~10単位・m2は手術境界領域の肺高血圧である.Eisenmenger症候群になるとVSD,ASDでは15~40単位・m2まで上昇する.Eisenmenger症候群では純酸素や血管拡張薬に対する反応は IPAH/FPAHに比し少ない.負荷によって肺血管抵抗が6単位・m2以下となる症例は予後良好である(表17).

肺生検による病理組織像 手術適応の境界例では生検により,重症度,手術適応を決定する場合がある.また内科的治療の選択においても八巻らの形態学的分類が有用である.一般的にHeath-

Edwards分類 91)(Ⅰ-Ⅵ度)(表18)に従い判定するが,Ⅳ度以上は非可逆的である.Heath-Edwards分類Ⅲ度以上は手術禁忌とされ,肺小動脈内腔の閉塞と,末梢血管の中膜の肥厚の退縮所見は絶対的禁忌である.重症例(Heath-Edwards分類Ⅳ-Ⅴ度)では一度閉塞した肺細小動脈の近傍に拡張した壁の薄い側副血行路が形成さ

れ,出血し易く,喀血の原因となるため抗凝固薬の使用は危険である 90).Heath-Edwards分類Ⅳ-Ⅵ度は中膜壊死,拡張病変,叢状病変が混在し,八巻はこれを一括して肺小動脈に壊死破壊を認めるものとして分類している. その他,生検標本で Index of Pulmonary Vascular

Disease(八巻)を参考にして,その scoreから手術適応を決定できる.

5.治療方針A.内科治療(表19) CHDに伴う肺高血圧症の治療は,IPAH/FPAHと同様に肺血管拡張薬+抗心不全薬+利尿薬である.抗血小板薬,抗凝固薬は,出血傾向が助長され慎重投与すべきである.NYHAⅡ度以下では,経口薬にて管理することが可能な場合があり,Ⅲ~Ⅳ度ではエポプロステノール持続静注療法も考慮できることがある.肺高血圧を合併したCHDに対してもエポプロステノール持続静注療法は,平均肺動脈圧(-21%),心係数(+69%),肺血管抵抗値(-52%),NYHA機能分類(-31%),6分間歩行距離(+13%)での改善の報告がある92). 瀉血はHt>65%か,症状のある患者に行うが,貧血に注意する.心外手術前には1-2単位の瀉血が推奨される 93).

表17 肺高血圧症に対する心臓カテーテルの負荷試験

急性負荷試験a. 酸素吸入:純酸素(100%O2),10~15L/分を10~

15分吸入させ,各循環諸量を測定.b. 肺血管拡張薬の負荷テスト NO吸入,ATP,プロスタサイクリン投与により,可逆性の有無が検索できる.

c. 判定基準 平均肺動脈圧が10mmHg以上低下して40mmHg以下となり、かつ心拍出量は変化なしあるいは増加する場合を良好な反応と定義する.

負荷試験によりRpが6単位・m2以下になる症例は予後が良好である.

表18 Heath-Edwards分類 48)

Ⅰ度:肺小動脈の中膜筋層の肥厚Ⅱ度:肺小動脈の内膜の細胞増殖により内腔狭小化   (Ⅰ,Ⅱ度は可逆的,Ⅲ度以上は非可逆的)Ⅲ度:内膜の細胞増殖がさらに繊維化し内腔が狭くなった状

態Ⅳ度:小動脈の拡張性病変,血管腫状変化Ⅴ度:糸球体様変化,内腔閉塞,叢状変化plexiform lesion

拡張病変Ⅵ度:壊死性動脈炎   (Ⅳ,Ⅴ度では血管壁の希薄な側副血行路,肺動脈瘤

が形成される)

表16 一般検査

1. 血算,生化学,尿一般,血液型,感染症スクリーニング 2. 血液凝固(PT,aPTT,トロンボテスト,第Ⅷ因子,von

Willebrand抗原,アンチトロンビンⅢ,プロテインC,プロテインS,フィブリノゲン)

3. 血管作動性物質(hANP,BNP,エンドセリン -1,アドレノメジュリン,TXB2,6-keto-PG F1α)

4. 甲状腺機能検査 5. 膠原病の検査(赤沈,免疫グロブリン,血清補体価,抗

核抗体,抗DNA抗体,抗RNA抗体,抗セントロメア抗体,抗リン脂質抗体,リウマチ因子など)

6. 胸部X線検査 7. 12誘導心電図検査 8. 心エコー法 9. 経皮酸素飽和度モニタリング(労作時,睡眠時を含む) 10. 肺(換気)・血流シンチグラフィー 11. 6分間歩行テスト(酸素吸入あり・なし) 12. 心臓カテーテル検査 13. 肺機能検査 14. 運動負荷心電図,24時間ホルター心電図 15. 心筋シンチグラフィー・心プールシンチグラフィー 16. 胸部CT検査および心臓MRI検査

23Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

B.外科治療(表20) 先天性心疾患に伴う肺高血圧症に対する根治術は,適切な時期に手術を行えば正常化するが,Eisenmenger症候群となった重症肺高血圧症では禁忌である(ClassⅠ,Level B).境界肺高血圧症例,手術時期が遅れた症例では,術後に肺血圧が十分に低下しなかったり,10数年後の遠隔期に再度肺高血圧症を発症することがある 94)

(ClassⅠ,Level B).

 軽症例では内科的治療の方が予後は良いとされる.手術適応の境界にある肺高血圧症症例では肺生検による適

応決定が必要になる場合がある.

2.肺・心肺移植(ClassⅠ,Level C)95),96)

 根治術の適応がないと考えられる症例で,肺,心肺移植の禁忌事項の無い症例で考慮される.移植の informed

consentが必要であり,脳死肺移植か生体肺葉移植についての適応を決定する.修復可能な心内奇形に対しては,先天性心疾患に対する心内修復術と,片肺又は両肺移植の同時手術が行われる.修復不可能な心奇形症例,左心不全合併例に対しては心肺移植の適応が検討される.

6.日常生活管理 日常生活においてもEisenmenger症候群では表21に示す病状悪化因子に注意する.また,生活制限上で注意すべきことがある(表22).A.妊娠,出産の問題(ClassⅢ,Level C) 基本的には,Eisenmenger症候群では妊娠分娩は禁忌である.一般的な心疾患ではNYHAI,Ⅱ度が対象となるが,心不全増悪,母体死亡の可能性がある.肺高血圧症のない左右短絡性疾患は low riskであるが,チアノーゼを呈しているCHD(Fallot四徴,Eisenmenger症候群)では,母死亡30-70%,胎児死亡28-50%との報告もある.分娩後数日以内に死の転帰をとることも少なく無い.その他早産,胎児発育不全,未熟児,感染症,育児の負担,心理的社会的問題がある 97),98).B.心以外の手術,麻酔 全身麻酔は血管拡張をきたし,右左短絡を増強する.循環血液量の減少は,低血圧,低酸素血症,血液濃縮を

表19 先天性心疾患に伴う肺高血圧症の内科治療

慢性期の治療(機能分類Ⅰ~Ⅱ)

ClassⅠ1.在宅酸素療法(経鼻カニューラにて1-4L/分) (Level B)2.強心薬,抗心不全薬(ジゴキシン,ACE阻害薬など) (Level B)3.利尿薬(フロセミド,スピロノラクトンなど) (Level B)ClassⅡa1.経口血管拡張薬 (Level B)  ベラプロスト(0.5~2μg/kg/日,最大180μg/日)  ニフェジピン,またはアムロジピン等併用

心不全増悪期の治療(機能分類Ⅲ~Ⅳ)

ClassⅠ1.酸素吸入(経鼻カニューラ又はマスクで終日2-10L/分) (Level B)2. カテコラミン(ドブタミン,ドパミン)さらにPDE阻害薬(ミルリノン,オルプリノンなど)の併用 (Level B)

ClassⅡa1.エポプロステノール持続静注療法 (Level B)2.一酸化窒素(NO)(5~20 ppm)+酸素吸入 (Level C)

表20 肺高血圧を合併したCHDの根治術の適応

(ClassⅠ,Level B)a)心房中隔欠損(ASD)

ASDではQp/Qs>1.3で,Rp 14単位・m2以下は手術適応とする.Rp/Rs>0.85なら適応なし.0.5<Rp/Rs<0.85なら,酸素負荷,薬物負荷への反応性,肺生検所見などを参考にして決定.Rp/Rs<0.5以下は適応.

b)心室中隔欠損(VSD)肺高血圧のあるVSDでは生後9ヶ月までに,根治術を施行することが望ましい.Qp/Qs>1.3で,Rpが8-10単位・m2以下は手術適応.Rpが上昇している症例では,トラゾリン負荷又は酸素負荷でRpが7単位・m2以下となる症例は手術適応.安静時,運動時に明らかな右左短絡のあるEisenmenger症候群は手術禁忌.

c)動脈管開存左右短絡を有していれば手術適応とする.

d)大血管転位肺高血圧を合併する完全大血管転位では生後3ヶ月までに手術を済ませることを目標とする.

(Qp: 肺血流量,Qs: 体血流量,Rp: 肺血管抵抗,Rs: 体血管抵抗)

表22 日常生活上の制限

a) 激しい運動,長い階段の昇降,学校の体育は原則として禁止.

b) 高地の滞在,旅行,航空機搭乗は避けるか,酸素の携帯が勧められる.

c) 学童心臓検診の心臓病管理区分表では,Ⅰ,Ⅱ区分で,C以下となることが多い.

d) 妊娠・出産は禁忌.経口避妊薬も使用すべきではない. e) 感染予防 細菌性心内膜炎の予防のため歯科処置,手術に際しては抗生物質の投与が必要.

f) 低酸素血症が強い場合は安静時でもSp O2<92%なら在宅酸素療法を行う.

表21 Eisenmenger症候群病状悪化因子

(Level C,ClassⅢ)妊娠,全身麻酔,脱水,大量の出血,貧血,非心臓手術,心臓手術,血管拡張薬,利尿剤,経口避妊薬の一部,抗血小板薬,抗凝固薬,心臓カテーテル検査,運動負荷検査,空気フィルターのない静脈ライン,長時間の座位,高地訪問,肺感染症,喫煙

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

増強するので,十分な補液管理を必要とする.

7.長期予後 肺高血圧症をともなったCHDの死因は主に,低酸素血症と不整脈で,心内膜炎,脳膿瘍,脳血管障害,肺梗塞,肺出血,喀血にも注意する.その他,多血症,貧血,血小板減少,溶血,DIC,脳血栓,塞栓,中枢神経異常,痛風,高尿酸血症,慢性腎炎,関節炎,バチ状指,歯肉炎等もみられる.突然死もあり,一般的な予後は15~60歳,平均45~50歳と幅がある.また高いRpで高年齢で根治手術をした症例では,遠隔期にもEisenmenger

症候群が発症することがある.

2 左心疾患に伴う肺高血圧症

1.疫学,原因 種々の後天性の左心疾患はしばしば肺高血圧症を伴う(表23).これらの疾患では基本的には肺静脈圧の上昇が肺毛細管を介して肺動脈系に伝搬されることによって引き起こされる.さらに肺静脈圧の上昇の肺動脈への直接の伝搬に加えて肺動脈の反射性の収縮,長期に肺動脈圧の上昇が続くと細動脈レベルでの解剖学的変化も生じ肺高血圧は進行する.肺高血圧を伴う後天性左心疾患として最もよく知られているのは僧帽弁狭窄症であるが,この疾患に伴う肺高血圧を増強させる因子としてはさらに(1)左房内血栓による左房内占拠,肺静脈開口部の狭窄,閉塞,(2)左房壁石灰化によるコンプライアンスの低下,肺静脈開口部の狭窄,閉塞,(3)他弁膜症の合併(表24)があげられる(Level C).

2.診断方法および重症度判定 肺静脈圧の上昇は胸部X線写真などからも定性的にはある程度類推することは可能であるが定量的意義は低い.非侵襲的方法で簡便かつ信頼性の高い評価法は心エコー・ドプラ法である.心エコー・ドプラ法による肺動脈圧の推定には幾つかの方法があるが,三尖弁逆流から簡易ベルヌーイ式を用いて推定する方法がもっとも一般的である(総論参照).

心臓カテーテル検査 サーミスター付きバルーンカテーテルを用い右心カテーテルを行い肺動脈圧および肺動脈楔入圧を,熱希釈法により心拍出量を測定する.これらの値より肺血管抵抗を計算する.肺血管抵抗(PVR)(dyne・sec・cm-5)は次の式で求められる.   PVR=(mPAP-mPCW)×80/CO

   mPAP:平均肺動脈圧(mmHg),   PCWP:肺動脈楔入圧(mmHg),   CO:心拍出量(L/min) 肺実質の障害が無い場合,肺動脈楔入圧は肺静脈圧に等しいと考えて良い.肺動脈楔入圧が技術的問題などにより測定できない場合には肺動脈拡張期圧から類推することができる.また僧帽弁狭窄などの左室流入路狭窄を有する疾患が無い場合には左室拡張期圧は左房圧や肺静脈圧にほぼ等しい.

3.治療(表25) 後天性左心疾患にともなう肺高血圧症ではあくまで原疾患の治療を優先する.例えば弁膜症に対する弁置換術やバルーン弁形成術,冠動脈疾患に対する血行再建術などがそれである.慢性心不全の治療については「慢性心不全治療ガイドライン」を参照されたい 99).

肺高血圧の是正を考慮した薬物治療(表26) 肺高血圧を改善するためにはまず肺静脈圧を下げることが必要である.ただし肺高血圧を是正すること自体が原疾患の予後の改善につながるかどうかに関してはエビ

表24 僧帽弁狭窄症における肺高血圧増強因子

左房内血栓    巨大血栓による左房内占拠         肺静脈開口部狭窄・閉塞左房壁石灰化   コンプライアンス低下         肺静脈開口部狭窄・閉塞連合弁膜症    僧帽弁閉鎖不全症         大動脈弁狭窄症         大動脈弁閉鎖不全症         三尖弁閉鎖不全症

表23 後天性心疾患に伴う肺高血圧症

左室拡張期圧の上昇をきたす疾患    左室収縮機能不全       拡張型心筋症       虚血性心筋症    左室拡張機能不全       肥大型心筋症       拘束型心筋症       収縮性心膜炎       大動脈弁狭窄症       高血圧性心疾患左房圧の上昇をきたす疾患    僧帽弁狭窄症    僧帽弁閉鎖不全症    左房粘液腫肺静脈灌流障害によるもの    外部からの圧迫       縦隔線維症       肺門リンパ節腫大       肺および縦隔腫瘍    肺静脈閉塞

25Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

デンスがない.利尿薬は循環血液量を低下させることにより有効に肺静脈圧を低下させることができる.また硝酸薬をはじめとする血管拡張薬は肺動脈に対する直接の拡張作用と同時に全身動脈および静脈拡張によっても肺静脈圧を低下させる.ただし大動脈弁狭窄症や僧帽弁狭窄症などの狭窄性弁膜症においては血管拡張薬は心拍出量のさらなる低下を招くので原則として用いるべきではない(Level C).急性左心不全や慢性心不全の急性増悪では強心薬により左室ポンプ機能の改善も肺静脈圧を低下させることができるが,血管拡張作用を合わせ持ったいわゆる inodilatorはその直接肺動脈拡張作用によりさらに有効に肺血管圧を低下させる 100)(Level B).IPAH/

FPAHにたいする有効性が認められているエポプロステノールの左心機能不全患者に対する長期投与に関しては寧ろ死亡率が増加するという臨床試験の結果が報告されており 101)(Level B),長期には用いるべきではない.

一酸化窒素(NO)吸入療法の肺高血圧に対する効果 一酸化窒素(NO)は肺高血圧をともなった後天性左心疾患の血行動態を改善する可能性がある.実際に左室収縮機能不全患者に一酸化窒素(NO)吸入を試みた報

告では 肺動脈圧および肺血管抵抗は低下しガス交換も改善する 102)(Level B).しかし一方で高濃度では肺動脈楔入圧の上昇も見られ,左心機能自体の改善は見られない 103)(Level B).

PTMCの肺高血圧に対する効果 弁膜症で特に肺高血圧症をきたしやすいのは大動脈弁狭窄症と僧帽弁狭窄症である.このうち僧帽弁狭窄症はバルーンカテーテルによる交連切開術(PTMC)が第一選択となる.肺高血圧を伴う僧帽弁狭窄ではPTMCは肺高血圧の是正に有効でPTMC直後に肺動脈圧はある程度低下し,その後もさらに肺動脈圧の低下が見られる104),105)(Level B).

外科治療(表27)左心の弁膜症 弁膜症に対しての外科治療法は弁形成手術および人工弁置換手術であるが基本的に自己弁温存手術が第一選択の手術となる. 僧帽弁狭窄症に対しては前述のごとくPTMCが有効であるが,左房内血栓を有する症例などは人工心肺下,直視下交連切開手術の適応となる.局所の肥厚硬化や石灰化は処置しできるだけ自己弁温存に務める(Level C).しかし,SellorsⅢ度以上の高度弁病変や僧帽弁閉鎖不全を有する症例は人工弁置換手術の適応となる.適切な手術を施行すれば肺動脈収縮期圧が100 mmHg以上の高度肺高血圧症においても肺血圧は低下し予後も良好である.106)-108)(Level B)左心の心房性心疾患 左房内粘液腫では術前心カテーテル検査約半数に平均肺動脈圧25 mmHg以上の肺高血圧症が認められる 109)

(Level B).まれに肺静脈そのものの灌流障害も肺高血圧の原因となる.外科的摘出術の適応となるが時に緊急手術となることがある 110)(Level B).その場合,塞栓症を併発する可能性が高いため心臓カテーテル検査は施行せず,心臓エコー検査のみで手術となる場合が多い.手術においては,良性腫瘍であるが再発の可能性があり発生基部組織を十分に切除する必要がある.

表25 左心疾患に伴う肺高血圧症の治療

ClassⅠ 原因となる後天性の左心疾患の治療 (Level A) 1. 左室機能不全に対する薬物治療,非薬物治療,心移植 2. 冠動脈疾患に基づく左心機能不全に対する血行再建 3. 僧帽弁狭窄症に対するPTMC 4. 肺高血圧を伴う弁膜症,左房粘液腫に対する手術治療ClassⅡa 1. 心機能不全にたいする肺高血圧の是正を考慮した薬物

治療(表26) (Level B) 2. 後天性左心疾患に対する手術治療後の患者の一酸化窒

素(NO)吸入療法 (Level B)ClassⅡb 1. 内科的治療における一酸化窒素(NO)吸入療法 (Level B)ClassⅢ 1. 左心機能不全患者に対するエポプロステノールの長期

投与 (Level B) 2. 狭窄性弁膜症,閉塞性肥大型心筋症に対する血管拡張

薬 (Level C)

表26 心機能不全に対する肺高血圧の是正を考慮した薬物治療

1)肺動脈に対する直接拡張作用を有する心不全治療薬   硝酸薬その他の血管拡張薬,ACE阻害薬   PDE阻害薬2)肺静脈圧を低下させる心不全治療薬   a) 循環血液量の減少によって肺静脈圧を低下させる薬剤      利尿薬   b) 心ポンプ機能の改善によって肺静脈圧を低下させる

薬剤      強心薬,血管拡張薬

表27 肺高血圧を伴う弁膜症,左房粘液腫に対する手術治療

弁 膜 症  僧帽弁狭窄症   僧帽弁交連切開手術,           人工弁置換手術  僧帽弁閉鎖不全症 僧帽弁形成手術,人工弁手術  連合弁膜症    病変弁に対する的確な外科的処置左房粘液腫  腫瘍摘出手術

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

4.治療効果,予後判定 後天性左心疾患に肺高血圧症を合併すると予後にも影響を及ぼすと予想されるが,肺高血圧症と後天性の左心疾患の予後を検討した研究は比較的少ない.連続ドプラ法により三尖弁逆流速度から推定した肺高血圧が虚血性および非虚血性心筋症の患者の予後および臨床イベントの予測因子となることが報告されている 111)(Level B).さらには肺高血圧の程度そのものよりも治療に反応して低下するかどうかが臨床経過の予測因子として重要であるという 112)(Level B).肺高血圧が薬物治療に反応するかどうかは心不全患者の心臓移植後の予後を決定する上でも重要であり,欧米ではこれについて幾つかの研究がある 113),114)(Level B). 肺高血圧の有無は心機能不全患者の運動耐容能の決定因子としても重要である.心不全患者において肺高血圧を合併する症例では運動に対する心拍出量の増加が抑制されており肺高血圧が心不全患者における運動耐容能の低下の一因となっているとの報告がある 115)(Level B).

5.今後の展望,課題 後天性の左心疾患に伴う肺高血圧症はそれが結果であって,病態の中心をなすものではないとの捉えかたから原疾患の治療のみに着目され,肺高血圧症自体を標的とした治療は積極的には行われないのが現実である.今後,後天性左心疾患における肺高血圧症の意義がさらに理解され,その改善をめざした治療が行われることが期待される.

3 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症

要旨 肺高血圧症は表28に示した様々な慢性呼吸器疾患に合併するが,特に本邦ではCOPDに伴うことが多い.ほかに肺結核後遺症,間質性肺炎の他,睡眠呼吸障害,呼吸中枢の異常などでも肺高血圧症の合併がみられる 116).肺高血圧症の診断は呼吸器疾患に伴わない場合,平均肺動脈圧25 mmHg以上とされるが,呼吸器疾患に伴う場合は20 mmHgで肺高血圧症ありと判断する.多くの場合低酸素血症による血管攣縮やリモデリング,および肺血管床の減少が発症に関与し,酸素療法のほか,睡眠呼吸障害や呼吸中枢異常では経鼻的持続陽圧呼吸などの換気補助療法が治療の中心となる.本章ではCOPD,肺線維症(特発性間質性肺炎),睡眠呼吸障害,および肺胞低換気障害に合併した肺高血圧症について概説する.

A 慢性閉塞性肺疾患(COPD)

1.疫学,原因 COPDとは有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を呈する疾患である 117).病態として中枢と末梢の気道,および肺胞における炎症反応が最も重要であるが,肺循環系にも様々な器質的・機能的影響がおよび,特に低酸素血症を伴う重症例では肺高血圧症を合併しやすい. COPDに合併する肺高血圧症の原因は肺血管床の減少のほか,低酸素血症に伴う肺血管攣縮や血管壁のリモデリングと考えられている 118).ほかにアシドーシス,血液の粘稠度の上昇も肺動脈圧の上昇に関与する.

2.診断方法 COPDの診断は喫煙歴を含む病歴,身体所見,呼吸機能検査および胸部X線写真を参考にする 117).このうち呼吸機能検査では閉塞性換気障害(気管支拡張薬投与後の一秒率70%未満)が診断上重要である.COPDに合併する肺高血圧症および肺性心の診断に重要な点を以下にあげる. a. 心電図検査:通常の右室肥大の基準では約3分の1

しか診断できないとされ,逆に基準を満たす場合には高度の右室肥大の存在が疑われる.通常の基準とは別にWHOの診断基準があり表29に示す 119).

 b. 動脈血ガス分析:COPDでは動脈血ガス分析値と肺循環障害の程度がよく相関する.動脈血酸素分

表28 肺高血圧症を合併する主な呼吸器疾患

●主に閉塞性換気障害を呈する肺疾患 ・慢性閉塞性肺疾患 ・気管支喘息 ・嚢胞性線維症 ・閉塞性細気管支炎 ・気管支拡張症●主に拘束性換気障害を呈する肺疾患 ・肺結核後遺症 ・特発性間質性肺炎 ・肺サルコイドーシス ・神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症,両側横隔膜麻痺など) ・脊柱側彎症 ・胸郭形成術後 ・塵肺 ・薬剤関連肺疾患 ・過敏性肺臓炎 ・膠原病合併肺疾患 ・その他の間質性肺炎●呼吸中枢異常による呼吸不全 ・原発性肺胞低換気症候群 ・肥満低換気症候群(ピックウィック症候群) ・睡眠時無呼吸症候群

27Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

圧が室内気吸入下で60 Torr以下であれば肺高血圧を合併していることが多く,アシドーシスを伴っていればさらに合併率は高い.運動時あるいは夜間のみに低酸素血症と肺動脈圧の上昇がみられることがあり 120),121),その場合動脈血酸素飽和度の経皮的モニタリングが有用である.

 c. 心エコー法:経胸壁操作のほか肋骨弓下操作で明瞭な画像が得られることが多い 122).右心系の評価は右室流出路における血流加速時間(acceleration

time:AcT),右室駆出時間(ejection time:ET)および三尖弁閉鎖不全の逆流速度の計測などにより行う.

 d. 右心カテーテル検査:WHOの基準では平均肺動脈圧25 mmHg以上を肺高血圧症としているが,COPDの場合は一般に20 mmHg以上で肺高血圧症と診断する.本検査は侵襲的であり,胸部X線写真,心電図,心エコー法のほかMRI検査 123),核医学的検査 124)などの非侵襲的検査結果も勘案した上で施行の必要性を判断する.

3.重症度判定 呼吸機能検査を用いた判定基準ではCOPDの病期は表30のようにゼロ期(at risk)から最重症(Ⅳ期)に分類される 125),126).本疾患に合併する肺高血圧症の重症度分類はないが,一般に平均肺動脈圧は20~35 mmHg

程度にとどまる.

4.治療(表31) 肺高血圧に対する治療は慢性安定期と急性増悪期とで異なる.前者では酸素療法,後者では酸素療法に加え抗菌薬など増悪因子への対処が中心となる.

1)慢性安定期 a. 酸素療法:COPDに合併する肺高血圧症に対して

唯一有効性が証明されている治療法である.本治

療(在宅酸素療法)の施行によって肺高血圧ないし肺性心の発生あるいは進行の阻止,および生命予後の改善が期待され 127),128),さらにうつ傾向の軽減など精神神経機能への効果も期待できる 129).本治療の保険適応基準は2004年に改定されたのでこれを表32に示す 130).ここで動脈血酸素分圧とパルスオキシメータで測定した酸素飽和度との対応は「PaO2 55 Torr以下」は酸素飽和度88%以下,「PaO2 60 Torr以下」は同じく89%以下と一般に解釈される.また「睡眠時または運動負荷時の著しい低酸素血症」については,動脈血酸素分圧が55 Torr以下あるいは酸素飽和度88%以下であれば著しい低酸素血症があると考えてよい.ただし運動時のみ,および睡眠中のみの低酸素血症に対する在宅酸素療法の長期効果についてはエビデンスに乏しく意見が一致していない 131).なお,酸素の投与にあたっては低流量から開始しCO2ナルコーシスを避ける注意が必要である.

 b. 血管拡張薬:血管拡張薬は直接的な肺動脈圧降下作用を持つ一方,低酸素性肺血管攣縮を解除することによる低酸素血症の増悪や体血圧の低下をもたらす可能性がある.現在までにエポプロステノール持続静注療法を含む種々の血管拡張薬の全身

表30 COPDの病期

1期 軽症~中等症:50%<FEV1.0%predicted2期 重症    :35%<FEV1.0%predicted<50%3期 最重症   :FEV1.0%predicted<35%

表31  COPDに伴う肺高血圧症の治療

ClassⅠ 1.適応基準を満たす症例に対する在宅酸素療法 (Level A)ClassⅡa 1.適応基準を満たす症例に対する肺移植 (Level B)ClassⅡb 1.血管拡張薬の経口または(持続)静脈内投与 (Level B) 2.一酸化窒素(NO)の吸入投与 (Level B) 3.volume reduction surgery (Level B) 4.リハビリテーション (Level B)

表32 社会保険による在宅酸素療法の適応基準

 諸種の原因による高度慢性呼吸不全例または肺高血圧症の患者のうち,安定した病態にある退院患者および手術待機の患者について,在宅で患者らが酸素吸入を実施するもの.

 高度の慢性呼吸不全例のうち,対象となる患者は動脈血酸素分圧(PaO2)55 Torr以下の者およびPaO2 60 Torr以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症を来す者であって,医師が在宅酸素療法を必要であると認めた者. なお,適応患者の判定に,経皮的動脈血酸素飽和度測定器(パスルオキシメータ)による酸素飽和度から求めたPaO2を求めることは差し支えない.

(厚生省保険局医療課,厚生省老人保健福祉局老人保健課編 社会保険,老人保健診療報酬点数表の解釈 平成6年4月版より引用)

表29 WHOの心電図による右室肥大診断基準

1.V3R,V1のqRパターンがあれば確実2.ない場合は以下の3項目のうち2項目以上を満たすもの   a.R/S V5<1   b.R/S V1>1   c.不完全右脚ブロック

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

投与が試みられたが,酸素療法のような有用性は証明されていない.一酸化窒素(NO)の吸入療法も現時点では推奨されないが 132),133),酸素吸入との併用が有効であるとの結果が最近報告され今後の検証が待たれる 134).

 c. 外科療法:肺移植は肺高血圧症を合併したCOPD

症例にも適応があり,国際心肺移植学会のCOPD

に対する肺移植の適応基準にも「肺高血圧症の合併」が含まれている(表33)135).一方,COPDに対する新たな治療法としてvolume reduction surgery

が近年注目されているが,本治療法の肺高血圧に対する効果はまだあきらかではない 136).逆に酸素吸入中の平均肺動脈圧が30 mmHg以上の症例は適応から外す基準が一般に用いられている 137).リハビリテーションは運動耐容能の改善をもたらすものの,肺循環動態への効果は証明されていない138).

 d. 禁煙:喫煙はCOPDの主要な危険因子である.逆に禁煙は肺機能の低下を遅延させる最も効果的で費用対効果の優れた方法である 139).禁煙の肺高血圧症そのものへの影響に関する知見は乏しいが,COPDの重症化を防ぐことから肺高血圧症合併例でも是非試みるべき治療である.

2)急性増悪期 急性増悪期には通常低酸素血症は悪化し,その結果肺動脈圧も一般に上昇する.原疾患の悪化の原因としては下気道感染が最も多く,その他気胸,喘息発作,誤嚥,喀血,去痰困難,他臓器の機能障害などが挙げられる.また酸素の過剰投与によるCO2ナルコーシスも肺高血圧症増悪の誘因となる. 治療は低酸素血症の改善を第一の目標とし,高炭酸ガス血症を伴う場合には換気補助療法を考慮する.換気補助 療 法 で はnoninvasive positive pressure ventilation

(NPPV)の適応をまず考慮し,NPPVの装着が困難な場合,誤嚥がある場合,気道内分泌物の除去が必要な場合などは挿管下の人工呼吸を考える.その他増悪因子に応じて抗生物質,気管支拡張薬,ステロイド薬(プレドニン換算で0.5 mg/kg/日,1週間程度を目安とする),去痰薬,利尿薬などの投与を行う.

5.治療効果,予後判定 COPD症例の5年生存率は中等症以上の症例で約50%,在宅酸素療法を受けている症例では約40%とされるが140),肺高血圧症の存在は年齢や低肺機能と共に予後増悪因子と考えられている 141).なお酸素投与の急性効果と予後との間には関連がない場合があり 142),酸素投与によって急性期に肺動脈圧の低下がなくとも予後改善効果が否定できない点に注意が必要である.

6.今後の展望,課題 現在COPDは世界の死亡原因の第4位であり 143),その有病率と死亡率はさらに上昇すると予測されている.今後の課題としては病態の解明に加え,禁煙プログラムなどによる一次予防や早期発見・治療が重要である.またエポプロステノールやボセンタンなどの新たな治療薬の開発やその効果の検証,および再生医療などの領域で更なる進歩が期待される.

B 特発性間質性肺炎(IIP)1.疫学,原因 IIPは7つに分類される原因不明の間質性肺炎の総称であり,その中には IIPの50%以上を占める特発性肺線維症(IPF)が含まれる.IIPの一部の症例では肺高血圧症を合併し,その機序は肺実質障害に伴う細動脈・毛細血管の圧排,閉塞(肺血管床の減少)および低酸素性肺血管攣縮と考えられている 144).

2.診断 2004年に日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会から診断と治療の手引きが示され,ここに IIP診断の指針が示されている 145).肺高血圧症の合併の有無はCOPDの場合と同様の手順で検索するが,IIPにおいても夜間あるいは労作時の低酸素血症が肺高血圧症の発症や進行に関与する場合があり,この場合動脈血酸素飽和度モニタリングが有用である.

3.治療(表34) IIPそのものにはステロイド療法が試みられるが,病型によって反応は異なる.また最も頻度の高い IPFに関してもステロイド治療の有効性を示す根拠は乏しく,さらに同薬の肺高血圧症に対する直接的な効果もあきらかではない.一方,在宅酸素療法は予後改善効果が明らかではないものの,一部の症例で肺循環動態を改善する場合がある.Ca拮抗薬などの血管拡張療法の効果は証明されていないが 146),2003年に肺線維症に合併した肺高

表33 国際心肺移植学会のCOPDに対する肺移植適応ガイドライン

●一秒量が予測値の25%未満●高炭酸ガス血症(PaCO2 55 Torr以上)●肺高血圧症の合併● 長時間の酸素療法を必要とし,高炭酸ガス血症を合併する症例は特によい適応

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肺高血圧症治療ガイドライン

血圧にシルデナフィルが有効であるとの報告がなされ,今後の検証が待たれる 147).なお高炭酸ガス血症を伴う呼吸不全に陥った場合には換気補助療法を考慮する.

C 肺結核後遺症1.疫学,原因 肺結核後遺症における肺高血圧症の合併は広汎な無気肺病変を有する症例,あるいは片肺切除術,胸郭形成術後で低酸素血症を伴う症例で頻度が高い.肺高血圧症の発症機序は低酸素血症に伴う肺血管攣縮・リモデリングと肺実質障害に伴う肺血管床の破壊・減少が主である.COPDと比較すると実質障害の影響が相対的に大きく,また一部の症例では肺動脈内腔の類上皮様細胞肉芽腫による直接的な狭窄,閉塞が関与する.

2.診断 肺結核後遺症の診断は病歴,画像所見およびツベルクリン反応などを参考にする.肺高血圧症の診断はCOPD

の場合と同様に行うが,肺結核後遺症に伴う肺高血圧症はPaO2が60 Torrを割った初期から発現し,またPaO2が60 Torr以上でも合併する高炭酸ガス血症や睡眠時の低酸素血症等によりすでに肺高血圧を来している症例が多い 148).

3.治療(表35) COPDと同様在宅酸素療法は本疾患患者の平均肺動脈圧を低下させる 149).気管支拡張薬,去痰薬など他の内科的治療は間接的に肺循環動態を改善する可能性を持つが,酸素療法が唯一効果の検証された治療法である.なお肺高血圧症の急性増悪にはCOPDと同様の原因が考

えられるが,肺結核の再発の頻度も高くその場合一般的な呼吸循環管理に加え抗結核薬の投与を行う.

D 睡眠時無呼吸症候群1.要旨 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome)150)に代表される睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing)は,1999年American Academy of Sleep Medicine(AASM)委員会からの報告書において,①閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群(obstructive sleep apnea-hypopnea syndrome

; OSAHS),②中枢型睡眠時無呼吸低呼吸症候群(central

sleep apnea-hypopnea syndrome ; CSAHS),③チェーン・ス ト ー ク ス 呼 吸 症 候 群(Cheyne-Stokes breathing

syndrome ; CSBS),④睡眠時低換気症候群(sleep

hypoventilation syndrome ; SHVS)という4つの症候群に分類(以下AASM分類と略す)された 151),152).これら睡眠呼吸障害のなかでもOSAHSとSHVSでは肺高血圧を合併することが報告されている 153)-158).

2.疫学,原因 睡眠呼吸障害のなかで最も罹病率が高いのは,いびきと昼間の眠気を主訴とし,肥満に関連して高血圧,糖尿病(NIDDM),虚血性心疾患,脳血管障害などの合併率が高いOSAHSである.表36に,AASM分類におけるOSAHSの診断基準を示す151),152).OSAHSの罹病率は,米国では30~60歳の男性4%,女性2%であり,わが国の名古屋市近郊の調査では男性の3.3%,女性の0.5%である 159),160).他の睡眠呼吸障害であるCSAHS,CSBS,SHVSの罹病率はいまだ不明である. OSAHSでは,睡眠時無呼吸に伴う低酸素状態に呼応した一過性の肺動脈圧上昇を認めるが,その肺動脈圧はREM(rapid eye movement)期に最大となる 157).昼間覚醒時にも持続する肺高血圧の合併率は10~79%であるが,慢性肺疾患を除いた場合には昼間の肺高血圧の合併率は10~41%である 153)-156),158).Chaouatら 156)は,OSAHSにおける肺高血圧の合併は220例中37例(17%)と20%以下であり,肺高血圧の合併例は合併しない例に比べて肺活量(VC)や一秒量(FEV1.0)が有意に低下し,動脈血CO2分圧(PaCO2)が有意に上昇すると報告している.基礎疾患として慢性肺疾患の合併の有無を明らかにすることは,OSAHSにおける肺高血圧を評価する場合に非常に重要である 158).OSAHSにおける持続性の肺高血圧は,睡眠中の高度な低酸素血症によって生じうるが,それよりも昼間の低酸素血症が原因である可能性が大きい 154).肺胞低換気に起因する肺胞低酸素は,

表34 IIPに伴う肺高血圧症の治療

ClassⅡa1. 高炭酸ガス血症を伴っていない低酸素血症に対する酸素療法 (Level C)

2. 高炭酸ガス血症を伴った場合の換気補助療法 (Level C)3. 感染が明らかな増悪因子となっている場合の抗菌療法 (Level C)4. 気道収縮が明らかな増悪因子となっている場合の気管支拡張療法 (Level C)

5. ステロイド薬の全身投与 (Level C)

表35 肺結核後遺症に伴う肺高血圧症の治療

ClassⅠ 1.適応基準を満たす症例に対する在宅酸素療法 (Level B)ClassⅡa 1. 気道収縮あるいは気道分泌の亢進している症例に対す

る気管支拡張薬,去痰薬 (Level C) 2.肺結核の再燃を伴う場合の抗結核薬 (Level C)

30 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

低 酸 素 性 肺 血 管 攣 縮(hypoxic pulmonary

vasoconstriction)を生じ,OSAHSにおける肺高血圧の発生にも大きな影響を及ぼす.他に肺高血圧の成因としては,高炭酸ガス血症による肺血管攣縮,閉塞性無呼吸中の努力性吸気時にみられる胸腔内圧の陰圧増大などが影響すると考えられている.

3.診断方法 睡眠時無呼吸の診断は,終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography ; PSG)によって行う.PSGでは,脳波(EEG),眼球運動(EOG),頤筋電図(EMG),鼻孔部と口の換気曲線,胸郭と腹部の呼吸運動曲線,心電図(ECG),ならびにパルスオキシメーターによる経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を連続的に記録することが必要である.無呼吸は10秒以上の換気停止であり,低呼吸とは換気曲線の振幅が前後の安定した呼吸の50%以上の低下が10秒以上持続したものである.ただし,振幅が50%未満でもSpO2の3%以上の低下か脳波上の覚醒反応(arousal)を伴うものは低呼吸と判定する.無呼吸指数(apnea index ; AI)は睡眠時間1時間当たりに出現する無呼吸の回数,無呼吸低呼吸指数(apnea

hypopnea index ; AHI)は睡眠時間1時間当たりに出現

する無呼吸数と低呼吸数の和である.PSG下の食道内圧モニター(胸腔内圧モニターの代用)は,OSAHSとCSAHSとの鑑別のみならず,呼吸努力関連覚醒(respiratory effort-related arousal ; RERA)152)の判定に有用である.RERAとは,無呼吸や低呼吸の基準を満たさないが呼吸努力に関連した10秒以上の覚醒反応を睡眠中に生じる病態の新しい指標で,上気道抵抗症候群(upper airway resistance syndrome ; UARS)161)に特徴的である.AHIと睡眠1時間あたりのRERAの和を睡眠呼吸障害指数(respiratory disturbance index ; RDI)と呼び,RDIを睡眠呼吸障害の重症度判定の指標として用いることがある. PSG下の肺動脈圧測定には通常スワンガンツカテーテルが用いられる 156),158).右房圧は胸腔内圧とほぼ並行して変動するため,スワンガンツカテーテルによる肺動脈圧と右房圧の同時記録は,吸気努力のない時相(胸腔内圧の影響を最小限)での肺動脈圧変化を評価するのに適している 162).しかし,肺動脈圧は昼間の値が高い例ほど夜間睡眠中も並行して上昇するため,昼間に持続的な肺高血圧を証明できれば,ルーチン検査としてPSG

下の夜間に肺動脈圧の測定を行うことは不要である.また超音波ドプラ検査上の肺動脈血流速波形あるいは三尖

表36 閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)の診断基準(AASM委員会)107),108)

次の基準のAまたはBに加えてCを満たす必要がある。A. 他の因子によってうまく説明できない過剰な日中傾眠.B. 他の因子によってうまく説明できない2つ以上の次の項目がある.  ―睡眠中の窒息感やあえぎ  ―繰り返す睡眠からの覚醒  ―熟眠感の欠如  ―日中疲労感  ―集中力の障害C. 終夜モニターで睡眠1時間あたり5回以上の閉塞性呼吸イベントがあること. このイベントは閉塞性無呼吸/低呼吸あるいは呼吸努力関連覚醒のいかなる組み合わせでもよい.重症度判定基準A.眠気の程度 1.軽 度: あまり注意力を必要としない活動中に眠ろうと思っていないのに思わず眠ってしまう.例えば,テレビをみてい

るとき,読書中,乗客として乗り物に乗っているときなどに眠ってしまう.社会生活や職業(仕事)に支障はあまりない.

2.中等度: いくらか注意力を必要とする活動中に眠ろうと思っていないのに思わず眠ってしまう.例えば,コンサート,会議や発表など自分も参加しているような活動中に眠ってしまう.社会生活や仕事にある程度支障をきたす.

3.重 度: かなり注意力が必要な活動中に眠ろうと思っていないのに思わず眠ってしまう.例えば,食事中,会話中,歩行や運転中などに眠ってしまう.社会生活や仕事にきわめて支障をきたす.

B.睡眠関連閉塞性イベント 1.軽 度:1時間あたり5ないし15回 2.中等度:1時間あたり15ないし30回 3.重 度:1時間あたり30回以上関連徴候 1.いびき  2.肥満  3.高血圧  4.肺高血圧  5.睡眠断片化  6.睡眠関連不整脈 7.夜間狭心症  8.胃食道逆流 9.生活の質の障害  10.不眠増悪因子 1.肥満特に上半身肥満 2.男性 3.上顎骨/下顎骨の低形成を含む頭部顔面異常 4.扁桃肥大を含む咽頭軟部組織やリ

ンパ組織の増大 5.鼻閉 6.家族歴

31Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

弁逆流波形から肺動脈圧を評価する方法は昼間の簡便法として有用である.

4.重症度判定 表36に,AASMによるOSAHSの診断基準と重症度判定基準を示す 151),152).肺高血圧症は通常昼間覚醒時の持続性肺高血圧を意味するが,その診断基準は肺動脈収縮期圧30 mmHg以上または平均肺動脈圧20 mmHg以上(PAHのWHO基準は平均肺動脈圧25 mmHg以上)で,睡眠呼吸障害の患者でもほとんど同じ基準値が用いられている 158).肺動脈圧の正常値は昼間の覚醒時に測定された値のみが用いられており,夜間睡眠中の正常値が昼間覚醒中と異なるか否かは明らかにされていない.OSAHSにおける睡眠中の肺動脈圧は,non-REM期よりもREM期で最大値を示す157).この機序は不明であるが,REM期には交感神経系の緊張亢進を伴い,持続時間の長い無呼吸が出現して高度の低酸素血症を生じ,より強い低酸素性肺血管攣縮を起こしやすいのが原因と考えられている 162).

5.治療(表37) OSAHSの治療は,睡眠中に生じる上気道の狭窄や抵抗を除去することである.その治療効果によって無呼吸が改善されれば夜間の低酸素血症が軽減あるいは消失するため,低酸素性肺血管攣縮などに基づく肺動脈圧の上昇はなくなると考えられる.最も普及したOSAHSの治療法は,わが国でも平成10年4月から医療保険が適応された在宅持続陽圧呼吸療法(nasal continuous positive

airway pressure ; nasal CPAP)である.

睡眠時無呼吸症候群の治療

nasal CPAP治療の適応基準1. 在宅持続陽圧呼吸療法の実施要領(平成10年4月医療保険適応 ,平成16年2月改正)

(1) 在宅持続陽圧呼吸療法とは,睡眠時無呼吸症候群である患者について,在宅において実施する呼吸療法をいう.

(2) 対象とする患者は,以下のすべての基準に該当する患者とする.但し,AHI≧40である患者については,イの要件を満たせば対象患者となる.

  ア  AHI≧20.  イ  日中の傾眠,起床時の頭痛などの自覚症状が強

く,日常生活に支障をきたしている症例.  ウ  PSG上,頻回の睡眠時無呼吸が原因で,睡眠

の分断化,深睡眠が著しく減少または欠如し,持続陽圧呼吸療法によりPSG上,睡眠の分断化が消失,深睡眠が出現し,睡眠段階が正常化する症例.

2. American College of Chest Physician(ACCP)のCPAP

治療ガイドライン 163)

(1) PSG上のAHI>30/hr:症状の有無に関係なく無条件に適応.

(2) 5<AHI<30:有症状(日中傾眠,精神神経機能障害,不眠,高血圧,冠動脈疾患,脳血管障害)の場合に適応.

(3) 5<AHI<30:無症状の場合には適応なし.

6.治療効果,予後判定 睡眠時無呼吸症候群に合併した肺高血圧(症)に対する治療効果の検討はいまだ十分に行われていない.気管切開術後には,無呼吸の正常化に伴い肺高血圧が改善することが報告されている 164).しかし,nasal CPAPが肺高血圧の合併に及ぼす影響については,長期的な検討でもnasal CPAP治療後に肺動脈圧は不変あるいは上昇傾向を示すことが指摘されている 165),166).これは,nasal

CPAPの効果として上気道閉塞の開放後も陽圧が肺まで加わり続けて肺血管抵抗が有意に増加するためである.一方,nasal bilevel PAP治療ではこの影響が少なく,肺高血圧を改善するという報告がある 167).

7.今後の展望 最近,睡眠時無呼吸症候群に対するnasal CPAP治療はわが国でも脚光を浴びて普及しつつあるが,その肺循環に及ぼす影響は短期的にも長期的にも十分には解明されていない.Kesslerら 168)は,睡眠時無呼吸症候群に合併した軽度あるいは中等度の肺高血圧に対する特別な治

表37 睡眠時無呼吸症候群に伴う肺高血圧症の治療

ClassⅠ 1.OSAHSに対するnasal CPAP (Level A)  但し,nasal CPAPの肺高血圧に対する有効性はClassⅡb (Level C) 2.肥大した口蓋扁桃やアデノイドの摘出術 (Level B) 3.軽症OSAHSに対する口腔内装置 (Level B) 4.高炭酸ガス血症を伴う場合のnasal bilevel PAP (Level C) 5.気管切開術 (Level C) 6.粘液水腫の甲状腺ホルモン補充療法 (Level C)ClassⅡa 1.口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (Level B) 2.CSAHSに対する薬物療法(アセタゾラミド) (Level C)ClassⅡb 1.単純肥満の体重減量療法 (Level B) 2. OSAHSに対する薬物療法(アセタゾラミド,プロゲス

テロン) (Level C)

32 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

療は不要であると述べている.しかし,OSAHSに肺高血圧を合併する機序とともに,その肺高血圧治療の必要性の有無については更なる検討を加える必要がある.

E 肺胞低換気症候群1.要旨 肺胞低換気症候群(alveolar hypoventilation syndrome)は,ほぼ正常の肺機能でありながら慢性の高炭酸ガス血症をきたす症候群である.中枢神経系に明らかな原因がみとめられる場合には中枢性肺胞低換気症候群,明らかな原因が認められない場合には原発性肺胞低換気症候群(primary alveolar hypoventilation syndrome ; PAHS)とされる.睡眠時の低換気は多くの例で覚醒時の高炭酸ガス血症が出現する以前に起こっているため,AASM分類 上 のSHVSに は 肥 満 低 換 気 症 候 群(obesity

hypoventilation syndrome),中枢性肺胞低換気症候群,PAHSなどのほとんどが包括されるが,中枢性肺胞低換気症候群はPaCO2が上昇しない場合にCSAHSと分類される 152).我が国では,厚生省特定疾患呼吸器系疾患調査研究班呼吸不全調査研究班が「肥満低換気症候群,原発性肺胞低換気症候群の診断および治療のための指針」を提案している.表38,39は,厚生省呼吸不全研究班が作成した肥満低換気症候群,PAHSの診断基準を示す169). 肥満低換気症候群は,OSAHSのうち,高度肥満に伴った肺胞低換気による慢性の高炭酸ガス血症と低酸素血症をきたす症候群で,典型的なものがピックウイック症候群(Pickwickian syndrome)といわれる.覚醒時に慢性の高炭酸ガス血症がなければ,高度肥満を伴う重症のOSAHSであっても肥満低換気症候群とはいわない.高度肥満では肺活量が減少し拘束性の換気障害をきたす.肥満低換気症候群では,高度な脂肪沈着による胸郭コンプライアンスの低下と呼吸筋力の低下があり,さらに正常群よりも高炭酸ガス換気応答および低酸素換気応答が低下していると考えられる.厚生省呼吸不全研究班では,

肥満低換気症候群は肺高血圧を58%,右心不全を34%と高頻度に合併し,その予後は通常のOSAHSよりも悪いと報告している 170). PAHSは極めて稀な疾患で,厚生省呼吸不全研究班の調査による全国推定患者数は40人(95%信頼区間30~50人)である.PAHSの原因としては,化学呼吸調節系の障害が考えられているがなお不明な点が多い.臨床症状は,慢性の肺胞低換気に伴う低酸素血症と高炭酸ガス血症,および睡眠呼吸障害によって引き起こされる.低酸素血症はチアノーゼ,多血症をきたし,低酸素性肺血管攣縮によって肺高血圧,右心不全を引き起こす.高炭酸ガス血症とそれに伴う呼吸性アシドーシスは,低酸素血症と相まって知的障害や意識障害をきたし,CO2ナルコーシスに陥りやすい.

2.治療表40,表41

表38 肥満低換気症候群(OHS)の診断基準(厚生省特定疾患呼吸不全研究班)126)

下記(1)~(4)のすべてを満たす場合に肥満低換気症候群と診断する.(1)高度の肥満(BMI≧30 kg/m2)を呈する.(2)日中における高度の傾眠を呈する.(3)慢性の高炭酸ガス血症(PaCO2≧45 Torr)を呈する.(4)睡眠時呼吸障害の重症度が重症以上   (無呼吸指数≧30,SaO2最低値≦75%,SaO2<90%の時間が45分以上または全睡眠時間の10%以上,SaO2

<80%の時間が10分以上などを目安にして総合的に判定する)であること。

表39 原発性肺胞低換気症候群(PAHS)の診断基準(厚生省特定疾患呼吸不全研究班)126)

下記(1)~(8)のすべてを満たす場合に原発性肺胞低換気症候群と診断する.

(1) 慢性の高炭酸ガス血症(PaCO2≧45 Torr)を呈する.(2) 自発的過換気により高炭酸ガス血症の改善が見られる(PaCO2 5 Torr以上の低下).

(3) ほぼ正常な肺機能(%VC≧60%,およびFEV1.0%≧60%を目安とする)であり,肺の器質的疾患が血液ガス異常の主体であることが除外されること.

(4) 薬剤等による呼吸中枢抑制や呼吸筋麻痺が否定され,かつ神経筋疾患などの病態が否定されること.

(5) 画像診断および神経学的所見により,呼吸中枢の異常に関連する中枢神経系の器質的病変が否定されること.

(6) 睡眠時における低酵素血症の増悪をみとめる(基準値より4%以上のSaO2の低下,またはSaO2<90%の時間が5分以上,またはSaO2<85%に達する場合を目安として総合的に判断する).

(7) BMI<30 kg/m2であること.(8) 典型的な睡眠時無呼吸症候群を除く.

表40 肥満低換気症候群に伴う肺高血圧症の治療

ClassⅠ 1.nasal CPAP (Level B) 2.体重減量療法(食事療法,運動) (Level B) 3. 中等症,重症例に対する非侵襲的換気療法(non-invasive

positive airway pressure ventilation ; NPPV) (Level B) 4.酸素療法 (Level B)ClassⅡa 1.軽症例に対する口腔内装置 (Level C) 2.重症例に対する気管切開+人工呼吸 (Level C)ClassⅡb 1.肥満例に対する食欲減退薬(マジンドール) (Level C) 2. 低換気状態に対する呼吸中枢刺激薬(アセタゾラミド,

プロゲステロン) (Level C)

33Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

4 慢性血栓性および/または塞栓性疾患に伴う肺高血圧症

1.要旨 慢性肺血栓塞栓症は,器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞した疾患の総称である.ここで慢性とは,6ヶ月以上にわたって肺血流分布ならびに肺循環動態の異常が大きく変化しない,とする基準が用いられることが多い 171).なかでも,血栓により閉塞した肺動脈の範囲が広く,肺高血圧症を合併し,労作時の息切れなどの臨床症状が認められる慢性血栓塞栓性肺高血圧症が重要である.その臨床経過により,過去に急性肺血栓塞栓症を示唆する症状が認められる反復型と明らかな症状のないまま病態の進行がみられる潜伏型に分けられる.慢性血栓塞栓性肺高血圧症は,軽症では抗凝固療法を主体として病態の進行を防ぐ内科治療が有効であるが,安定期の平均肺動脈圧が30mmHgを超える症例では,その後,肺高血圧症の進展がみられたとされ,肺高血圧の程度が重症な例では内科的治療には限界があり,予後不良とされてきた 172),173).近年,手術(肺血栓内膜摘除術)によりQOLや生命予後の改善が得られる症例が存在するため,その正確な診断と手術適応を考慮した重症度評価が重要である 174)-178).なお,慢性血栓塞栓性肺高血圧症は,厚生労働省が指定する治療給付対象疾患としては,特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)という名称が用いられる.また,本ガイドラインで用いられる慢性肺血栓塞栓症は,肺高血圧型と同義として用いられている.本ガイドラインでは,診断,重症度判定とそれに続く治療方針ならびに治療効果について述べる.

2.疫学,原因 我が国における,急性例および慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は,欧米に比べ少ない.少し古い報告ではあるが,剖検輯報にみる病理解剖を基礎とした検討

でも,その発生率は米国の約1/10とされている 179).米国では,急性肺血栓塞栓症の年間発生数が50-60万人と推定されており,急性期の生存症例の約0.1~0.5%が慢性血栓塞栓性肺高血圧症へ移行するものと考えられてきた 180).しかし,最近,急性例の3.8%が慢性化したと報告され,急性肺塞栓症例では,常に本症への移行を念頭におくことが重要である 181). 本症の正確な発症機序はいまだ明らかとはいえない.前述のごとく欧米を中心に,急性例からの移行とする説があるものの,わが国においては女性に多く,深部静脈血栓症の頻度が低いHLA-B*5201や -DPB1*0202と相関するタイプがみられることが報告された 182).これらのHLAは急性例とは相関せず,欧米では極めて頻度の少ないタイプのため,欧米例と異なった発症機序を持つ症例の存在が示唆されている.

3.診断 慢性肺血栓塞栓症は厚生労働省特定疾患呼吸不全調査研究班により作成された診断基準をもとに診断を進める183)(表42).まず疑い症例を選別する方法として,表42に示した症状や臨床所見を参考にしながら,動脈血ガス分析,胸部X線写真,心電図検査,心エコー法に見られる特徴的所見の有無を検索する.さらに診断を確定するには,肺血流分布の異常と肺高血圧の確認が必要である.前者の確認には,肺換気血流シンチグラムにて換気に異常のない肺血流分布異常が6ヶ月以上不変であること,もしくは肺動脈造影にて特徴的所見である 1)pouch

defects(小袋状変化) 2)webs and bands(帯状狭窄) 3)intimal irregularities 4)abrupt narrowing 5)complete obstructionのうちの少なくとも1つ以上が証明されることが必要で 184),後者の確認には右心カテーテル検査が必要である. 近年,肺動脈内の器質化血栓を確認する手段として,造影Helical CT検査が用いられ,肺動脈区域枝レベルまでの血栓の検出と肺動脈肉腫や肺動脈炎などとの鑑別に役立っている.また血管内エコーは,肺動脈内腔を直接観察することで,血栓の付着や内膜肥厚の程度を評価するのを可能にし,外科治療の可否を決定する上で有力な検査法になりうる.

4.重症度判定 本症の生命予後およびQOLは,肺高血圧の程度に大きく左右されることが知られている 172),173).一般に肺動脈平均圧で30 mmHg未満の症例の予後は良好とされ,心拍出量の低下ならびに肺血管抵抗の上昇に伴い,日常

表41 原発性肺胞低換気症候群(PAHS)に伴う肺高血圧症の治療

ClassⅠ 1.酸素療法 (Level B) 2.NPPV (Level B)ClassⅡa 1.横隔膜ペーシング (Level C) 2.重症例に対する気管切開+人工呼吸 (Level C)ClassⅡb 1.陰圧換気法 (Level C) 2. 低換気状態に対する呼吸中枢刺激薬(テオフィリン,

アセタゾラミド,ドキサゾラム,プロゲステロン) (Level C)

34 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

生活は大きく制限されその予後も不良となる. 一般に予後を基準とした重症度分類は,肺高血圧の程度によるものである.平均肺動脈圧で30 mmHg未満もしくは肺血管抵抗で300 dynes・sec・cm-5未満の症例の予後は良好である一方,肺血管抵抗が1000 dynes・sec・cm-5以上の症例の予後は不良とされている 173),185).

また,NYHA/WHO機能分類Ⅱ度以下の軽症例の予後は良好とされている 186). 外科治療の適応は原則としてNYHA/WHO機能分類Ⅲ度以上となる.

表42 特発性慢性血栓塞栓症(肺高血圧型)の診断の手引き

 器質化した血栓により,肺動脈が慢性的に閉塞を起こした疾患である慢性肺血栓塞栓症のうち,肺高血圧型とはその中でも肺高血圧症を合併し,臨床症状として労作時の息切れなどを強く認めるものをいう.(1)主要症状及び臨床所見   ① Hugh-JonesⅡ度以上の労作時呼吸困難又は易疲労感が3ヵ月以上持続する.   ② 急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難,胸痛,失神など)が,以前に少なくとも1回以上認められている.   ③ 下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹及び疼痛)が以前認められている.   ④ 肺野にて肺血管性雑音が聴取される.   ⑤  胸部聴診上,肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(Ⅱ音肺動脈成分の亢進,Ⅳ音,肺動脈弁弁口部の拡張期心雑音,

三尖弁弁口部の収縮期心雑音のうち,少なくとも1つ)がある.(2)検査所見   ① 動脈血ガス分析     (a)低炭酸ガス血症を伴う低酸素血症(PaCO2≦35 Torr,PaO2≦70 Torr)     (b)AaDO2の開大(AaDO2≧30 Torr)   ② 胸部X線写真     (a)肺門部肺動脈陰影の拡大(左第Ⅱ弓の突出,又は右肺動脈下行枝の拡大:最大径18 mm以上)     (b)心陰影の拡大(CTR≧50%)     (c)肺野血管陰影の局所的な差(左右又は上下肺野)   ③ 心電図検査     (a)右軸偏位及び肺性P     (b)V1でのR≧5 mmまたはR/S>1,V5でのS≧7 mmまたはR/S≦1   ④ 心エコー法     (a)右室肥大,右房及び右室の拡大,左室の圧排像     (b)心ドプラ法にて肺高血圧に特徴的なパターン又は高い右室収縮期圧の所見   ⑤ 肺換気・血流シンチグラム      換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が,血栓溶解療法又は抗凝固療法施行後も6ヵ月以上

不変あるいは不変と推測できる.推測の場合には,6ヵ月後に不変の確認が必要である.   ⑥ 肺動脈造影      慢性化した血栓による変化として,apouch defects(小袋状変化),bwebs and bands(帯状狭窄),c intimal

irregularities,dabrupt narrowing,ecomplete obstructionの5つのうち少なくとも1つが証明される.   ⑦ 右心カテーテル検査     (a)慢性安定期の平均肺動脈圧が25 mmHg以上を示すこと.     (b)肺動脈楔入圧が正常(12 mmHg以下)(3)除外すべき疾患 以下のような疾患は,肺高血圧症ないしは肺血流分布異常を示すことがあるので,これらを除外すること.   ① 左心障害性心疾患   ② 先天性心疾患   ③ 換気障害による肺性心   ④ 原発性肺高血圧症   ⑤ 膠原病性肺高血圧症   ⑥ 大動脈炎症候群   ⑦ 肺血管の先天性異常   ⑧ 肝硬変に伴う肺高血圧症   ⑨ 肺静脈閉塞性疾患(4)診断基準 以下の項目をすべて満たすこと.   ① 新規申請時    (a)(1)主要症状及び臨床所見の①~⑤の項目の①を含む少なくとも1項目以上の所見を有すること.    (b)(2) 検査所見の①~④の項目のうち2項目以上の所見を有し,⑤肺換気・血流シンチグラム,又は⑥肺動脈造影の

所見があり,⑦右心カテーテル検査の所見が確認されること.    (c)(3)除外すべき疾患のすべてを鑑別できること.   ② 更新時    (a)(1)主要症状及び臨床所見の①~⑤の項目の①を含む少なくとも1項目以上の所見を有すること.    (b)(2)検査所見の①~⑤の項目のうち⑤の所見と2項目以上の所見を有すること.    (c)(3)除外すべき疾患のすべてを鑑別できること.

35Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

5.治療方針(図6,表43) NYHA/WHO機能分類 I度 ,Ⅱ度は原則として血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法が選択され,血栓溶解療法は無効である.さらに抗凝固療法が禁忌である場合や抗凝固療法中の再発などに対して,下大静脈フィルターを挿入,留置する. NYHA/WHO機能分類Ⅲ度以上で,付着血栓の近位端が主肺動脈から葉動脈(特に2葉以上)にある例では,後述する外科治療(肺血栓内膜摘除術)が推奨される.なお,わが国においては,区域動脈に限局する例の手術成績の評価は定まっていない 187),188).術前に造影helical

CT検査,肺動脈造影で正確に評価することが外科治療の効果をあげる上で重要である 187),189).手術不能例は次項の内科治療,再重症例は肺移植の適応が考慮される.

6.内科治療および肺移植 血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法に加え,本症において,肺動脈性肺高血圧症に準じた血管拡張薬のベラプロストナトリウム 190),191),クエン酸シルデナフィル 192),エポプロステノール持続静注療法等193)-195),ボセンタン 196)-198)の投与を行う場合があるが,その有用性についての明確なエビデンスはなく,研究段階である.しかしながら,原則としてNYHA/WHO機能分類Ⅲ度以上の症例で,末梢血栓例や,重症例で手術を施行しない例,合併症を有したり本人が手術を希望しない例,手術後に肺高血圧症が残存する例,が適応となる.また,肺血管抵抗高値例の術前使用も試みられている 194),195).多くの症例では低酸素血症を呈するため,在宅酸素療法を含めた長期酸素療法が適応となる.この他,右心不全に対して,利尿薬等の投与もなされる.末梢血栓例では,最大限の内科治療にもかかわらず進行する例では,両側片肺移植(ただし年齢55歳未満)の適応が考慮される.

7.外科治療1)外科的適応 本症の治療方針を決定するには肺動脈造影,胸部CT,血管内超音波法,右心カテーテル検査などの所見が重要である.そして肺動脈の閉塞形態と臨床症状(NYHA/

WHO機能分類Ⅲ度以上で非ショック例)から手術適応を決定する.肺動脈の閉塞形態では中枢型(主肺動脈や

NYHA/WHO機能分類≧Ⅲ度

NYHA/WHO機能分類≦Ⅱ度

平均肺動脈圧<30mmHgかつ肺血管抵抗<300dyn・s・cm-5

平均肺動脈圧≧30mmHgまたは肺血管抵抗≧300dyn・s・cm-5

深部静脈血栓症血栓反復

深部静脈血栓症血栓反復

葉動脈~本幹血栓 区域

抗凝固療法

抗凝固療法

酸素療法・利尿薬等

肺移植(55歳未満)

亜区域

肺血栓内膜摘除術+下大静脈フィルター

酸素療法

下大静脈フィルター

*評価は定まっていない

血管拡張療法*(ベラプロスト・シルデナフィルボセンタン・エポプロステノール

持続静注療法等)

肺高血圧症残存

下大静脈フィルター

図6 慢性肺血栓塞栓症の治療選択指針(案)

表43 慢性血栓性および/または塞栓性疾患にともなう    肺高血圧症の治療

Class Ⅰ 1.超低体温循環停止法による血栓内膜摘除術   (葉動脈~本幹の血栓) (Level C)ClassⅡa 1.抗凝固療法 (Level C)ClassⅡb 1.下大静脈フィルター留置 (Level C) 2.酸素療法 (Level C) 3.血管拡張療法 4.超低体温循環停止法による血栓内膜摘除術   (区域動脈の血栓) (Level C) 5.肺移植 (Level C)

36 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005 年度合同研究班報告)

肺葉動脈から近位部区域動脈に壁在血栓や内膜肥厚が存在)が良い手術適応であり,閉塞が末梢型(遠位部区域動脈以下に病変が存在)では現在では手術困難である199).このため肺葉動脈から区域動脈に壁在血栓が存在しているか,肺動脈壁が肥厚していることを正しく診断することが重要である.本症に対する手術適応として,Dailyらは肺血管抵抗300dyne・sec・cm-5以上,肺動脈造影で閉塞性病変を肺葉動脈まで認めること,Jamieson

らは1)平均肺動脈圧30mmHg以上,肺血管抵抗300dyne・sec・cm-5以上,2)血栓の中枢端が手術的に到達しうる部位にあること,3)重篤な合併症がないことなどをあげている.2)手術術式 急性肺血栓塞栓症と異なり,本症で見られる血栓は淡白色を呈していて,器質化した血栓が肺動脈壁に固く付着しているので,手術ではこの器質化血栓を肺動脈内膜とともに摘除する必要がある.胸骨正中切開,超低体温間歇的循環停止法による両側肺の血栓内膜摘除術はDailyら 200),Jamiesonら 201)San Diegoグループによって確立された方法である.本症は通常両側病変であり,両側肺へ同時にアプローチできること,合併する他の心病変にも対応可能なこと,開胸による肺出血の危険が少ないことなどにより,現在では本症に対する標準術式となった.開胸して胸腔内から肺動脈にアプローチする方法は一般的には行われない. イ)超低体温循環停止法による血栓内膜摘除術の要点 慢性例では内膜摘除を伴わない血栓塞栓摘除は全く有効ではないため,血栓内膜摘除を行うに際して剥離面の決定が第一に重要となる.内弾性板と中膜の間が理想的な剥離面である.第二に重要な点は器質化血栓は強固でちぎれにくいので,血栓内膜を少しずつ剥離して引っ張りながら末梢側に剥離を進めて行き,区域動脈まで樹枝状に器質化血栓を内膜とともに摘除することである.第三に無血術野を得ることが重要である.このためにJamieson剥離子は有用であるし,適宜間歇的に循環停止を行う.一回の循環停止時間は15分までとして,必要なら静脈酸素飽和度が90%になるか,10分間は必ず再灌流を行って再度循環停止とする.本術式の問題点としては閉塞性病変が末梢性であって,手術手技的に血栓内膜摘除が施行できない症例をどうするか,また壁在血栓が脆くて引っぱりながらの剥離ができない症例をどう対処するかにある. ロ)周術期の患者管理 本症の手術では術前後の呼吸循環管理が重要である.術前は心不全をコントロールしておく.肺動脈圧が高度

であればエポプロステノール持続静注療法を行ってから手術とする.術中に経皮的心肺補助装置(PCPS)を装着して ICUに帰室した症例では,2-3日時間をかけて離脱を試みる 202).術後の再灌流障害による肺浮腫や気管内出血は最も注意すべき合併症である.呼吸不全が遷延化したら長期にPEEPをかけながら人工呼吸管理を慎重に行う.気道出血やドレーンからの出血が心配なくなったらヘパリンを開始し,ワルファリンの経口投与に変更して行く.肺高血圧が残存する症例では血管拡張薬(PGE1,PGI2など)と,カテコラミン投与により長期にわたる右心不全管理を要する.3)外科治療の成績 本症に対する超低体温循環停止下の血栓内膜摘除術の手術成績は,Dailyらは11.7%(12/103),12.6%(16/127)200),Jamiesonらは8.7%(13/150),1990年からの357例では5.1%,最近の報告ではTschollらは10.1%(7/69),Thistlethwaiteらは6%(66/1100)199),安藤らの待機手術84例では7例(8.3%)203),Jamiesonらの最近の500例では22例(4.4%)201)の手術死亡であった.各施設とも最近になって手術成績の向上が得られており,耐術例においては術後著明な臨床症状と呼吸循環動態の改善が認められている.しかしながら,閉塞形態が末梢型の手術成績は不良で1ヶ月以内の手術死亡率が14.3%の報告もあり 199),今後の外科的問題点である 203).

8.今後の展望,課題 本症に対する血栓内膜摘除術は,わが国においては,最近の周術期管理の進歩により,従来手術関連死亡率が高かった肺血管抵抗1100 dynes・sec・cm-5以上の症例でも中枢側に血栓がある例においてはその手術成績も極めて良好となった.一方,重症例で血栓が区域に限局する例での成績は良好とはいえない 186),187).末梢病変が優位である例に対する正確な術前評価法を確立し,周術期管理を更に進歩させること,さらに本症の病態,発症機序の解明,病型と手術成績や肺血管拡張療法の有効性との関連に関する検討が今後の重要な課題と考える.

Ⅲ 肺高血圧症に関連する主な厚生労働省特定疾患

 肺高血圧症を来す原因疾患のうち,表44に挙げたものは,2007年7月現在,難病として厚生労働省の定めるところの特定疾患であり,診断の手引きに従って診断し,申請すれば患者自己負担額の全額もしくは一部が公費負

37Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肺高血圧症治療ガイドライン

担となる.

表44 肺高血圧症に関連する主な厚生労働省特定疾患(2007年7月現在)

・原発性肺高血圧症・特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)・全身性エリテマトーデス・強皮症,皮膚筋炎又は多発性筋炎・混合性結合組織病・特発性間質性肺炎・特発性拡張型(うっ血型)心筋症・サルコイドーシス・肥満低換気症候群・肺胞低換気症候群

38 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

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