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租税回避への対応と関係する 最近の判例等の動向 早稲田大学会計研究科 教授 青山慶二 1

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租税回避への対応と関係する 最近の判例等の動向

早稲田大学会計研究科 教授 青山慶二

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1.租税回避に対する租税法のスタンス (1)租税回避の多様性

• 定義 伝統的定義 ➣課税要件充足性の回避(課税要件アプローチ) ➣公平負担の原則に反する「不当な」課税要件法の欠缺の利用 *「課税要件法の欠缺」に、課税減免規定に関する適用除外基準の欠 缺を含めると拡張的定義と範囲は同一 拡張的定義 ➣ 課税根拠規定と課税減免規定の双方につき、立法の趣旨目的に

照らして不当な利用(趣旨目的アプローチ) • 近接する概念との区分 節税、租税逋脱(脱税)、脱法行為、権利濫用

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(2).租税回避をめぐる環境の変化

• 課税物件(所得、消費、資産)を生み出す経済活動の複雑・多様性 グローバル化 ICTの高度化 製造・物流・サービスなどにおけるIOT 複雑なファイナンス取引 規制改革

• 上記に伴う課税要件規定の量的拡大(課税要件の基礎となる事実の法 律条文への描写の困難性を含む) • 一般的租税回避否認規定(GAAR)への依存の拡大 • 複数の課税管轄を通じた租税回避行動(租税裁定行為)の拡大

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(3)我が国の対応ぶりの特徴 • 厳格な租税法律主義に基づく立法政策

自由主義的な予測可能性を最大限尊重する立法 詳細な基本通達によるソフトローの支配する広範な領域 アドバンス・ルーリングへの低い依存 • 裁判所における趣旨・目的解釈の抑制(司法抑制主義) 制定法主義の原則 借用概念論をベースとした文理解釈への依存 課税減免規定の限定解釈論あるいは濫用法理の適用領域の不明確性 • 最近の租税回避を扱った4形態の判決事例の検討

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2.具体例その1 借用概念の解釈による解決

(無制限納税義務の根拠事実からの離脱事例)

• 武富士事件判決 (原審:H.20.1.23東京高裁) 贈与税回避を可能にする状況を整えるために香港に出国するものであることを認識し,本件期間を通じて国内

での滞在日数が多くなりすぎないよう滞在日数を調整していたと認められるから,原告の香港での滞在日数を重視し,これを国内での滞在日数と形式的に比較してその多寡を主要な考慮要素として本件香港居宅と本件杉並居宅のいずれが住所であるかを判断するのは相当ではない。

原告は, 本件期間を通じて4日に1日以上の割合で国内に滞在し,国内滞在中は香港への出国前と変わらず本件杉並居

宅で起居していたこと, 香港への出国前から,内国法人の役員という重要な地位にあり,本件期間中もその役員としての業務に従事し

て昇進もしていたこと, 父の跡を継いで本件会社の経営者になることが予定されていた重要人物であり,内国法人の所在する我が国が

職業活動上最も重要な拠点であったこと, 香港に家財等を移動したことはなく,香港に携行したのは衣類程度にすぎず,本件香港居宅は,ホテルと同様の

サービスが受けられるアパートメントであって,長期の滞在を前提とする施設であるとはいえないものであったこと,

香港において有していた資産は総資産評価額の0.1%にも満たないものであったこと, 香港への出国時に借入れのあった銀行やノンバンクの多くに住所が香港に異動した旨の届出をしていないなど

香港を生活の本拠としようとする意思は強いものであったとはいえないこと などからすれば,原告が本件期間の約3分の2の日数,香港に滞在し,現地において関係者との面談等の業務

に従事していたことを考慮しても,本件贈与を受けた時において原告の生活の本拠である住所は国内にあったものと認めるのが相当であり,上告人は法1条の2第1号及び2条の2第1項に基づく贈与税の納税義務を負う。

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• 上告審判決:H.23.2.18第2小法廷

法1条の2によれば,贈与により取得した財産が国外にあるものである場合には,受贈者が当該贈与を受けた時において国内に住所を有することが,当該贈与についての贈与税の課税要件とされている(同条1号)ところ,ここにいう住所とは,反対の解釈をすべき特段の事由はない以上,生活の本拠,すなわち,その者の生活に最も関係の深い一般的生活,全生活の中心を指すものであり,一定の場所がある者の住所であるか否かは,客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である

香港に赴任しつつ国内にも相応の日数滞在していた者が国外財産の贈与を受けた場合において,当該贈与を受けたのが上記赴任の開始から約2年半後のことであり,通算約3年半にわたる赴任期間中の約3分の2の日数を香港の居宅に滞在して過ごし,その間に現地での業務に従事していたなど判示の事実関係の下では,上記期間中の約4分の1の日数を国内の居宅に滞在して過ごし,その間に国内での業務に従事していた上,贈与税回避の目的の下に国内での滞在日数が多くなりすぎないよう調整していたとしても,その者は,当該贈与を受けた時において,相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)1条の2第1号所定の贈与税の課税要件である国内(同法の施行地)における住所を有していたということはできない。

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本件事案の特徴 (1)事実認定

• 課税要件事実の存否認定にかかる租税計画 贈与を受けた時点において国内に住所を有するという贈与税の課税要

件(当時の相法1条の2) 海外移住は個人、法人を問わず究極の租税計画として一般的には否 認対象とならず 立法措置としての市民権課税(広義では相続税における国籍要件を 含む) • 本件は法制度間における居住要件の差異(所得税の場合)は利用せず 我が国の居住要件 香港の居住要件

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本件事案の特徴 (2)借用概念の解釈

• 借用概念としての住所

• 法の趣旨・目的に基づく本判決と異なる解釈の余地の検討 租税法が住所の有無に依拠して納税者のステータス(無制限/制限)を区分する

立法趣旨は何か 応益説の立場 日常生活の衣食住の限定的評価ではなく、管轄地との社会的・経済的結 びつきの重視 「生活の本拠」は、各法律において一義的に解釈されるべきかの観点 民法において有力な住所複数説の更なる検証

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4.具体例その2 (課税要件事実の充足判断による解決)

フィルムリース最高裁判決事件 (1審判決の要旨)

映画フィルムの所有権の所得等を内容とする契約に基づく取引は、その実質において、映画製作会社による映画興行に対する融資であって、租税負担を回避する目的のために、契約書上、映画の所有権を取得するという形式、文言が用いられたにすぎないと認定して、映画フィルムの減価償却費を損金の額に算入したことは相当でない (原審判決の要旨:私法上の法律構成による否認論の是認) 課税庁が租税回避の否認を行うためには、原則的には、法文中に租税回避の否認に関する明文の規定が存する必要があるが、仮に法文中に明文の規定が存しない場合であっても、租税回避を目的としてされた行為に対しては、当事者が真に意図した私法上の法律構成による合意内容に基づいて課税が行われるべきである。 従って、原判決も認定するとおり本件取引のうち本件出資金は、その実質において、控訴人ら組合員がエンペリオンを通じ、CPIIによる本件映画の興行に対する融資を行ったものであって、エンペリオンないしその組合員である控訴人は、本件取引により本件映画に関する所有権その他の権利を真実取得したものではなく、本件各契約書上、単に控訴人ら組合員の租税負担を回避する目的のもとに、エンペリオンが本件映画の所有権を取得するという形式、文言が用いられたにすぎないものと解するのが相当である。

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(最高裁判決要旨) 外国の映画制作会社が制作した映画に投資を行う名目で結成された民法上の組合が,外国銀行からの借入金及び組合員の出資金を原資として,当該映画の所有権等を取得する旨の契約を締結すると同時に,当該映画の配給権を配給会社に付与する旨の配給契約を締結した場合において,当該配給契約により当該映画に関する権利のほとんどが配給会社に移転され,当該組合は実質的には当該映画についての使用収益権限及び処分権限を失っていること,当該組合は当該映画の購入資金の約4分の3を占める借入

金の返済について実質的な危険を負担しない地位にあることなど判示の事情の下においては,当該映画は,当該組合の事業において収益を生む源泉であるとみることはできず,当該組合の組合員である法人の法人税の計算において法人税法(平成13年法律第6号による改正前のもの)31条1項所定の減価償却資産に当たらない。 •

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本事案の特徴 (1)減価償却制度の解釈による解決

• 所有権の帰属と「事業の用に供する」の切り離し 実定法の枠内(法2二三号:「償却すべきものとして政令で定めるもの」 令13:「事業の用に供していないものを除く」)での解釈 --あくまでも所有権者に減価償却の権利が専属していることを 前提にした取り扱い --その効果は、リース取引における「受益者概念」に沿った課税 要件認定との類似 リース取引をめぐる我が国の立法史(米国との比較) • その背後にある事業リスク配分とかい離した所得帰属結果に対する否定

的姿勢 国境を越えた課税ベース計算の分割による租税計画の許容性(外税 控除事件との類似性)

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(2)私法上の法律構成による否認論

• 私法上の法律構成による否認論に踏み込まず 同理論の採用はこれまで最高裁がとってきたスタンス(租税回避行 為へは実定法の個別課税要件事実の解釈の範囲内で対応)から逸 脱との懸念 採用した場合の波及効果の斟酌も • 原審段階では、課税庁が提示した同理論の枠組みの受け入れ

• 判決の評価 有力説:私法上の法律構成論に対し最高裁は積極的に拒否 反対説:上記最終判断を最高裁は留保(判断の先送り)

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3.具体例その3 (課税減免既定の限定解釈論) りそな外国税額控除余裕枠事件

(原審判決:H15.5.14大阪高裁) • 上記事実関係等の下において、本件取引に係る外国法人税について法人税法

69条が適用されるべきであると判断し、これに反する本件各処分は違法であるとして、原告の取消請求をいずれも認容した第1審判決に対する控訴を棄却した。理由の要旨は、次のとおりである。 (1) 本件取引の経済的目的は、C社及びB社にとっては、C社からB社へより低いコストで資金を移動させるため、被上告人を介することにより、その外国税額控除の余裕枠を利用してクック諸島における源泉税の負担を軽減することにあり、被上告人にとっては、外国税額控除の余裕枠を提供し、利得を得ることにあるのである。このような経済的目的に基づいて当事者の選択した法律関係が真実の法律関係ではないとして、本件取引を仮装行為であるということはできない。 (2) 被上告人は、金融機関の業務の一環として、B社への投資の総合的コストを低下させたいというC社の意図を認識した上で、自らの外国税額控除の余裕枠を利用して、よりコストの低い金融を提供し、その対価を得る取引を行ったものと解することができ、これが事業目的のない不自然な取引であると断ずることはできない。したがって、本件取引が外国税額控除の制度を濫用したものであるということはできない。

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(上告審判決:H.17.12.19第2小法廷) 我が国の銀行が、本来は外国法人が負担すべき外国法人税(外国の法令により課される法人税に相当する税)について対価を得て引き受ける取引を行い、同取引に基づいて同銀行が負担した外国法人税が上記対価を上回るため、同取引自体によっては損失を生ずるが、上記外国法人税の負担を自己の外国税額控除の余裕枠を利用して国内で納付すべき法人税額を減らすことによって免れ、最終的に利益を得ようとする目的で上記取引を行ったという事情の下においては、上記外国法人税を法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条の定める外国税額控除の対象とすることは、外国税額控除制度を濫用し税負担の公平を著しく害するものとして許されない。

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本件事案の特徴 (1)課税減免規定の解釈としての位置づけ

• 判決自身はそのような位置づけと明言はしていない • 「課税減免規定の限定解釈」の妥当性を根拠づける論拠 米国グレゴリー判決の事業目的法理に基づく限定解釈 解釈による減免趣旨の確定は一義的か 課税根拠規定に関する趣旨・目的解釈との定性的な違いは何か 単に立法趣旨の推認が相対的に容易という事情によるのか • 権利濫用法理との境界線は 本判決を法の一般法理である権利濫用法理の適用とみた場合の射程

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本件事案の特徴 (2)外国税額控除制度の課税要件

• 税額控除と損金算入 通常の扱い(税額の損金算入)と優遇措置(外税控除)という 位置づけの妥当性 外国子会社配当益金不算入制度への解釈の波及の可能性 • 控除枠制度の趣旨 繰延とその期間制限 いわゆるself-help(彼我流用のための事業立地の選択プラニング)に よる場合との相違点 • 減免規定との位置づけによる限定解釈と制度濫用論との間のギャップ

• 最高裁はなぜ「限定解釈」論を明示しなかったのか

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5.具体例その4

(一般的否認規定の解釈適用) IBM事件東京高裁判決

• (1審判決の要旨) 持株会社が複数事業年度においてその子会社に当該子会社の株式の一部の譲渡をそれぞれして有価証券の譲渡に係る譲渡損失額(当該株式の譲渡に係る対価の額と当該株式の譲渡に係る原価の額との差額)を上記の各譲渡をした日の属する各事業年度の所得の金額の計算上損金の額にそれぞれ算入したという事実関係のもとで、その結果生じた欠損金額に相当する金額を含むいわゆる繰越欠損金を連結納税の承認があったものとみなされた連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価されるべきであるとして否認した課税庁の処分を認めるには足りないとされた事例 (控訴審判決のポイント) ,同項が同族会社と非同族会社の間の税負担の公平を維持する趣旨であることに鑑みれば,当該行為又は計算が,純粋経済人として不合理,不自然なもの,すなわち,経済的合理性を欠く場合には,独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含むものと解するのが相当であり,このような取引に当たるかどうかについては,個別具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。

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本事案の特徴 (1)ハイブリッドミスマッチの利用案件

• 日米の課税制度の違いを利用した租税計画 チェックザボックスによる中間持株法人(有限会社)のミスマッチの創出 --米国から見れば国内持株会社の一部(支店扱い:株式譲渡は 内部取引) --我が国では、独立した内国法人 日米条約による譲渡所得課税の排除 • 連結納税制度を利用した欠損金の活用

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(2)既存の一般的否認規定の射程

• 132条の要件 (争われた3要件) ①中間持株会社の設置についての正当な事業目的の存否 ②一連の行為の独立企業間取引とのかい離 ③株式譲渡損の連結損金控除という租税回避目的の存否 (高裁では②に集中した判断) • 否認に際しての他の法令適用という選択肢(岡村教授説) 連結納税にかかる一般的否認規定(法132条の3)の適用 Yahoo事件判決と同趣旨の連結納税制度の趣旨に反するとの立論 完全支配法人からの自己株取得行為についての「株式譲渡」の否認

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3.立法論としての租税回避否認条項(GAAR) (1)各国の状況

• 2010 米国IRC7701条o項の新設 判例法で確立された経済実質原則(Economic Substance Doctrine)を 制定法で確認 主観要件(相当の目的)と客観要件(経済ポジションの変更)の双方 を満たして初めて経済実質あるとされ否認を免れるとの立場 • 2013 同年の英国財政法206~215条でGAARを制定 2011年のアーロンソン報告を反映したもの 「二重の合理性テスト」(当事者間の租税取極めは、合理的な一連 の行為として合理的に考えることができない場合に濫用を認定して 否認できるとするテスト)が特徴 上記の「租税取極め」とは租税便益の取得がその主たる目的の 一つである場合の取極めをいう。 上記濫用認定に際してのガイダンスは法令が規定

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• ドイツ 租税基本法42条(1977) 「法の形成可能性の濫用によって租税法律を回避することはできな い」との一般原則(1項) 相当な法形成と比べて法律の定めのない租税便益へと導くような不 相当な法形成が選択されたとき、濫用を認定(2項、2008改正で追加) *相当な法形成と不相当な法形成についての司法判断の必要性 • カナダ 所得税法245条(1988) 租税回避取引については、租税上の便益を否定するために、その状況 において合理的であるように取引を決定すべきとする原則 真実の事業目的がない場合に適用

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(新興国の事例) インド(所得税法10章A、95~102条) 2分肢テスト(主観+客観要件)による許容されない租税回避取極め の判定 GAAR発動に要する承認パネルなどの手続き要件の整備 中国のGAAR(2007新企業所得税法47条) 国境を越えた取引をターゲットにした条文構成 (前置した国際課税に関する個別規制規定が捕捉しないものに対 する劣後的なCatch-all条項) --所得金額を減少させる結果となる合理的な事業目的を持たな い取引を対象 --通達による広範なルールの補足 株式の間接譲渡など 南アフリカのGAAR(2006改正所得税法80A条) 先進国と同様の2分肢テストの導入

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3.立法論としての租税回避否認条項(GAAR) (2)BEPSによる提案

• 国際的二重非課税防止ためのBEPSにちりばめられたGAARの理念

• ベースは、個別ルールの明確化による対応 BEPS15項目の狙う3原則 ーー各国税制の調和による一貫性の確立 ーー実体規定の改正(陳腐化した国際基準の効果回復) ーー企業活動の透明性向上 • 実体法改正は、価値が創造された国で納税するルールへの

集約

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• 租税回避否認の考えが集約されているBEPS項目 (制度設計の改善による防止) 1.ハイブリッドミスマッチ取極めへの対応 ①二重経費控除と②経費控除対象支払の収受国における非課税 状況の解消(リンキングルール) 2.タックスヘイブン税制(CFC税制) 各国の導入とその内容のベストプラクティスモデルを参照した整備 3.利子控除の制限(仕組み、閾値の調和) 4.有害税制への対抗(パテントボックス税制の許容条件の明確化) 5.人為的なPE認定の回避(条約のPE条項の改正による対応) 6.無形資産などの移転価格税制算定方法の精緻化 (GAARの発想の導入) 1.条約濫用防止対応 特典制限条項(LOB条項)と主要目的テスト(PPT)の条約への装備 2.移転価格関係 関連者間のリスク・資本にかかるルールにおける関連者間取引の引き直し を含む所得再配分 24

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3.立法論としての租税回避否認条項(GAAR) (3)我が国にとっての課題

• 条約や移転価格面での契約実態に基づくGAAR機能条項の拡大 条約におけるPPTを利用した便益否認 移転価格におけるリスクフリー中間法人(Cash-box法人 等)が介在する取引についての私法契約の引き直し • 国際課税における経済実質に着目した立法改正・解釈コメンタリー改正

の進展 帰属主義の適用(機能、リスク分析) 利益結果による再計算(移転価格の所得相応性基準) 準備的・補助的業務の全体的認定 条約における受益者概念の拡大(条約適格者認定、情報交換)

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(参考)条約濫用の防止 財務省資料

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(参考)リスクと資本に関する移転価格ルール等(行動9・10)

① 趣旨は、グループ内企業に対する「リスク移転及び過度な資本配分」 によるBEPS防止策 例:単に資金だけ提供している実態のない関連会社(Cash Box) への超過収益の配分拒否 ② 関連者間取引で商業的合理性のない場面での、当該取引の否認 ③ グローバルバリューチェーンでの利益配分についての「利益分割法」 の利用のためのガイダンスの検討(OECDで継続審議) (注) 取引の否認及び利益分割法については、当局の恣意的な適用を防 止するために詳細なガイダンスが必要とビジネス界からの指摘あり

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• GAAR導入検討の可能性 (不要論) 租税法律主義の法理念に基づく絶対的不要論 増加しつつある個別状況に対応するGAARで十分とする考え方 --同族会社、組織再編、連結納税、帰属主義 (必要論) 歳入当局のニーズ(現行ツールによる否認漏れがもたらす不公平へ の懸念) グローバル化、ICT化の中での速い取引変化サイクルへの立法中心 主義の立ち遅れ 諸外国GAAR適用拡大からの我が国へのプレッシャー • Next Step(必要とした場合の制度設計) (参照)フィナンシャルレビュー特集号の森信論文

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