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犬からのメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の検出

増田加奈子 1）　秋田　裕子 1）　平塚　貴大 1）

上岡　尚民 2）　高尾　信一 1）

（受付：平成 28年 2月 12日）

Detection of the methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci from dogs

KANAKO MASUDA1）, HIROKO AKITA1）, TAKAHIRO HIRATSUKA1）,

NAOTAMI UEOKA2） and SINICHI TAKAO1）

1） Hiroshima Prefectural Technology Research Institute, Public Health and

Environment Center, Minami-machi 1-6-29, Minami-ku, Hiroshima 734-

0007

2） Ueoka Animal Clinic, 2-18-11 Yoshijimahigashi, Nakaku, Hiroshima-shi,

Hiroshima 730-0822

SUMMARY

Isolation of Staphylococci from 18 samples collected from dogs and cats （17 animals

in total） brought to our animal hospital was attempted to investigate carrying resistant

bacteria, and coagulase-negative staphylococci （CNS） were isolated from 5 samples of

4 dogs. No Staphylococcus was isolated from any of 4 samples of 4 cats. Four of the 5

strains isolated from dogs were methicillin-resistant CNS （MRCNS） and these tended to

be resistant to various antimicrobial agents.

Since MRCNS is problematic, such as causing postoperative infection, in the medical

field, it may also be important for the veterinary field to comply the standard measures

to prevent transmission of resistant bacteria.

── Key words: Coagulase-negative staphylococci, Methicillin-resistant, dogs

1）広島県立総合技術研究所保健環境センター（〒 734-0007 広島市南区皆実町 1-6-29）2）うえおか動物病院（〒 730-0822 広島市中区吉島東 2-18-11）

報 告

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広島県獣医学会雑誌　№ 31（2016）

序　　　文

　ブドウ球菌はヒトや動物の常在菌であるが，抗菌薬の使用等による薬剤耐性化及び環境中への拡散が問題となっている 1）．医学領域では，特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌（以下，MRSA）が院内感染起因菌として問題視されている．一方，獣医学領域においても，実際に，犬及び猫からメチシリン耐性 Staphylococcus pseudintermedius（以下，MRSP）が分離され 2），犬の咬傷によりヒトがMRSPに感染した事例もあることから 3），MRSAと同様な耐性菌の出現が危惧されている．そこで今回，我々は犬及び猫から分離されたブドウ球菌について，薬剤感受性，メチシリン耐性遺伝子（以下，mecA）保有状況，mecAを持つ可動性遺伝子カセット Staphylococcal cassette chromosome mec（以下，SCCmec）型を調査したので，その概要を報告する．

材料及び方法

1．対象　2015年 4月から 5月に動物病院に来院した犬 13頭及び猫 4頭から病変部スワブ（シードスワブ 2号，栄研化学）あるいは尿を計 18検体採取した．2．菌分離及びコアグラーゼ試験　検体を 7.5％ NaCl加 TSB培地で 36℃ 24時間増菌培養後，卵黄加マンニット食塩寒天培地（マンニット食塩培地，日水）に塗抹した．培養後，1試料あたり 3コロニーを分離し，グラム染色（フェイバー G，日水）及びウサギ血漿（ウサギプラズマ，栄研化学）を用いた試験管法によりコアグラーゼ試験を行い，コアグラーゼ陰性株について以下の検査を実施した．3．薬剤感受性試験　自動細菌検査装置（VITEK2，シスメックス・ビオメリュー）でペニシリン G（PCG），アンピシリン・

スルバクタム（ABPC/SBT），セファゾリン（CEZ），ゲンタマイシン（GM），レボフロキサシン（LVFX），バンコマイシン（VCM），ミノサイクリン（MINO）及びホスホマイシン（FOM）の 8薬剤を測定した．4．mecA の検出及びSCCmec 型別　Lysostaphynを 1ug/100ul濃度に溶かした TEバッファーに菌を懸濁し，37℃で 10分間インキュベートした後，100℃で 10分間加熱し，上清を DNAテンプレートとし，PCR法 4，5）により行った．5．菌種同定及び塩基配列の決定　菌種の同定は，16S rRNAシークエンスにより行った．16s rRNA の 増 幅 に は プ ラ イ マ ー 10F （5＇-GTTTGATCCTGGCTCA-3＇） 及 びプライマー800R（5＇-TACCAGGGTATCTAATCC-3＇）を使用した 6）．塩基配列の決定は Big Dye Terminator v3.1（ABI）を用いて ABI3500にて実施した．得られた塩基配列から BLAST解析にて菌種を同定した．

結果及び考察

　対象とした 18検体のうち，犬 5検体からブドウ球菌が分離された．それらのブドウ球菌陽性例の概要を表 1に，また，分離株の mecA保有状況，SCCmec

型別及び薬剤感受性試験結果を表 2に示した．　18検体中 ,犬 5検体からブドウ球菌が分離され，それらは全てコアグラーゼ陰性ブドウ球菌（以下，CNS）であった．分離株のうち，PCG，ABPC/SBT，CEZ，GM，LVFX，FOM の 6 薬 剤 耐 性 が 2 株，PCG，ABPC/SBT，CEZ，FOM の 4 薬 剤，PCG，GM，LVFXの 3薬剤，PCGの 1薬剤耐性がそれぞれ 1株であった．mecAは 3薬剤以上耐性の 4株から検出され，SCCmec型別では 3株が V型，1株が型別不能であった．　16s rRNAシークエンスの結果，菌種は 4株がStaphylococcus spp., 1株が Staphylococcus schleiferi

要　　　約

　動物病院に来院した犬及び猫計 17頭 18検体からブドウ球菌（Staphylococci）の分離を試み，耐性菌の保有状況を調査したところ，犬 4頭 5検体からコアグラーゼ陰性ブドウ球菌（CNS；Coagulase-nagative staphylococci）を分離した．猫からは 4頭 4検体全てで分離されなかった．犬から分離した 5株うち 4株がメチシリン耐性 CNS（MRCNS）であり，それらは各種抗菌薬に耐性を示す傾向があった．　MRCNSは，医学領域において術後感染などで問題となっているため，獣学領域においても耐性菌を伝播させないために，標準予防策を遵守することが重要であると考えられる．

──キーワード：コアグラーゼ陰性ブドウ球菌，メチシリン耐性，犬

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広島県獣医学会雑誌　№ 31（2016）

と同定された．S. schleiferiは動物に常在し，時にヒトに病原性を示すとの報告もある 7）．　そして，5株中 4株からmecA遺伝子が検出され，mecA保有株では各種の抗菌薬に耐性を示す傾向があった．SCCmec型別では，市中感染型MRSAに多い V型が検出された．この V型はサイズが 28.6kbと小さく，メチシリン感受性ブドウ球菌に挿入される頻度が高いと考えられるため 8），メチシリン耐性菌が広がりやすい可能性が示唆される．　CNSは医学領域においてカテーテル関連血流感染症，心内膜炎，術後感染を含む創部感染など，多彩な感染症の原因となっている 9）．加えて，メチシリン耐性 CNS（以下，MRCNS）は市中において増加しているとの報告もあり 10），警戒が必要である．　今回の調査では，犬 17頭中 4頭からMRCNSが分離された．CNSはヒトにも定着しやすいため，MRCNSがヒトに伝播する可能性は高いと考えられる．MRCNSはMRSAと同様に感染経路は接触感染であり，易感染動物及び易感染者に伝播，感染させな

いためには，獣医学領域においても，手指衛生などの標準予防策を遵守することが重要であると考えられる．

文　　　献

１） 泉谷秀昌：食品を介した抗生物質耐性菌の世界的感染拡大について．日食微誌，31（2），57-62（2014）

２） Bardiau, M., et al. : Characterization of m e t h i c i l l i n - r e s i s t a n t S t a p h y l o c o c c u s

pseudintermedius isolated from dogs and cats. Microbiol Immunol., 57, 496-501（2013）

３） B o r j e s s o n , S. , e t a l . : S t a p h y l o c o c c u s

pseudintermedius can be misdiagnosed as Staphylococcus aureus in humans with dog bite wounds. Eur J Clin Microbiol Infect Dis., 34, 839-844（2015）

４） Hiramatsu, K., et al.: Analysis of borderline-resistant strains of methicillin-resistant Staphylococcus aureus using polymerase chain reaction. Microbiol Immunol., 36, 445-453（1992）

５） Zhang, K., et al.: Novel multiplex PCR assay for characterization and concomitant subtyping of staphylococcal cassette chromosome mec types I to V in methicillin-resistant Staphylococcus

aureus. J Clin Microbiol., 43, 5026-5033（2005）６） The Japanese Pharmacopoeia 15th edition :

表 1　コアグラーゼ陰性ブドウ球菌（CNS）が分離された犬患畜の概要菌株 No. 検体名 品種 年齢 性別 疾患名 罹患期間 基礎疾患，併発症 薬歴

1 耳垢スワブ T・プードル 16y 去勢オス 外耳炎 3y 僧房弁閉鎖不全 ミミピュア2 皮下膿瘍スワブ A・C・スパニエル 12y オス 耳垢腺癌 不明 緑内障 オーグメンチン3※ 口唇皮膚〜膿 A・C・スパニエル 6y オス 膿瘍 3m 緑内障 セファレキシン・ミノサイクリン4※ 皮下膿瘍 A・C・スパニエル 6y オス 膿瘍 1w 緑内障 ミノサイクリン・ファロペネム5 耳垢スワブ W・コーギー 12y 避妊メス 外耳炎 5m アトピー性皮膚炎 ゼナキル

※菌株 No.3及び No.4は同一犬から分離

表 2　mecA 保有状況，SCCmec 型別及び薬剤感受性試験結果

菌株 No. 1 2 3※ 4※ 5

mecASCCmec型

＋ ＋ ＋ − ＋V V UT − V

ペニシリン系 PCG R R R R R

ABPC/SBT S R R S R

セフェム系 CEZ S R R S R

アミノグリコシド系 GM R R R I S

キノロン系 LVFX R R R S S

グリコペプチド系 VCM S S S S S

テトラサイクリン系 MINO S S S S S

ホスホマイシン系 FOM S R R S R

UT：型別不能，S：感受性，I：中間，R：耐性※菌株 No.3及び No.4は同一犬から分離

表 3　シークエンスによる同定結果

菌株 No. BLAST解析結果 相同性1 Staphylococcus spp. 99.7%

2 Staphylococcus spp. 99.1%

3※ Staphylococcus spp. 99.4%

4※ Staphylococcus spp. 99.5%

5 Staphylococcus schleiferi 100%

※菌株 No.3及び No.4は同一犬から分離

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広島県獣医学会雑誌　№ 31（2016）

Rapid identification of microoganisms based on molecular biological method. The MHLW Ministerial Notification., 285, 1741-1742（2006）

７） Kloos, W.E. and Bannerman,T.L.: Update on clinical significance of coagulase-negative staphylococci. Clin Microbiol Rev., 7, 117-140（1994）

８） 山田達男ほか：メチシリン耐性黄色ブドウ球菌（MRSA）．モダンメディア，54，95-103（2008）

９） 平潟洋一：コアグラーゼ陰性ブドウ球菌感染症．化学療法の領域，25，1717-1720（2009）

10） Jamaluddin, T.Z., et al.: Extreme genetic diversity of methicillin-resistant Staphylococcus

epidermidis strains disseminated among healthy Japanese children. J Clin Microbiol., 46, 3778-3783（2008）