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実現可能性を考慮した法人税制・ 個人資本所得税制の改革
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2008 年 10 月 26 日 日本財政学会第 65 回大会 京都大学 1
実現可能性を考慮した法人税制・個人資本所得税制の改革
早稲田大学政治経済学術院助手井上智弘
2008 年 10 月 26 日日本財政学会第 65 回大会 京都大
学 2
概要 問題意識
消費課税は現実には適用されていない 消費課税だけでなく,代替案についても検討する
税制の評価基準 中立性・税制の実現可能性
税制改革案 消費課税 → 代替案( CBIT, ACE ) → 代替案( BEIT )
結論
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学 3
問題意識 所得課税から消費課税への移行は古くから検討
されてきたが,現在,消費課税を採用する国はない
なぜ,採用されないのか? 現行税制からの乖離,未経験の税制
税収への影響や税制移行についての議論を詰めきれていない
現実への適用(税制の実現可能性)に関する問題を踏まえて,消費課税の代替案も含め,各税制案の検討を行う
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学 4
前提 主に,企業課税に注目する 小国開放経済を仮定する(グローバル経済の想
定) 個人課税が企業投資にもたらす影響は考慮しない 個人課税と企業課税の分離
現行の資本所得課税(企業段階+個人段階)と税収中立的な税制移行を仮定する
国際課税に関する問題については検討しない 企業課税だけを用いて解決できる問題には限りがある 国際課税制度とのかかわりについては考慮しない
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学 5
企業課税の問題 税制の非対称性
負債と自己資本の扱いの違い → 資本構成の選択を歪める 支払利子控除/自己資本コストの非控除
法人・非法人ごとに異なる課税 → 企業形態の選択を歪める 投資決定に与える歪み
個別資産について減価償却控除と経済的減価償却が異なる 損失の繰越期間制限など,損失の繰り越しが不完全
→ 投資資産の選択と投資水準の選択を歪める
課税が企業行動に対して非中立的
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学 6
税制の評価基準 中立性( A ) → 税制改革案の基礎的条件税制改革案の基礎的条件
資本構成の選択( A-1 ),企業形態の選択( A-2 ), 投資資産の選択( A-3 ),投資水準の選択( A-4 )
実現可能性( B ) → 現実への適用を考慮した条現実への適用を考慮した条件件 中立的な税制の執行可能性( B-1 ) 税収の安定性( B-2 ) ― ただし,税率は一定 税制移行に伴う措置( B-3 )
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学 7
税制改革案【消費課税】( 1/2 )
税制移行後は投資支出は即時償却されるため,税制移行前の未償却資産に対する措置が必要となる
課税は企業形態に依存しない 正常収益に課税しないため,課税ベースは狭くなる ・・・ 消費課税
税制案 Flat Tax
― Hall & Rabushka (1995)
HCT (Hybrid Consumption Tax)
― McLure & Zodrow (1996)
企業段階 R ベースキャッシュ・フロー税 R + F ベースキャッシュ・フロー税
個人段階 賃金税(前納方式の支出税)相違点 金融取引を含めない
→ 金融機関への課税の問題金融取引を含める → 利子と配当の区別が必要
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学 8
税制改革案【消費課税】( 2/2 )
中立的な税制の執行可能性( B-1 ) 負のキャッシュ・フローの繰り越しにはリスクフリーの利子率の設定が必
要 税収の安定性( B-2 )
投資支出に影響され,不安定である 投資の一部を借入で賄う場合, R + F ベースではある程度安定的になる
税制移行に伴う措置( B-3 ) 未償却資産の控除や金融取引の扱い( R ベース)が問題になる
中立性( A ) 実現可能性( B )
A-1 A-2 A-3 A-4 B-1 B-2 B-3
Flat Tax ( R ベース) ○ ○ ○ ○ △ × ×
HCT ( R + F ベース) ○ ○ ○ ○ △ △ ×
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学 9
税制改革案【代替案】( 1/2 )
企業課税で負債と自己資本の扱いを等しくする 課税は実質的には企業形態に依存しない ACE の控除は税制上で自己資本として計算された「株主基金」に基づく
各期の減価償却控除≠経済的減価償却でも中立的になる ACE では個人課税を別に設定する必要がある
税制案 CBIT (Comprehensive Business Income Tax) ― US Treasury (1992)
ACE (Allowance for Corporate Equity) ― IFS (1991)
企業段階 支払利子控除の廃止 自己資本コストの控除の追加個人段階 資本所得非課税 -相違点 企業段階で正常収益に課税 企業段階で超過収益のみに課
税
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学 10
税制改革案【代替案】( 2/2 )
CBIT は中立性を満たさない 中立的な税制の執行可能性( B-1 )
ACE は株主基金や控除額の計算にリスクフリーの利子率の設定が必要 税収は相対的には安定( B-2 ) 税制移行に伴う措置( B-3 )
未償却資産に対する特別な措置を必要としない ACE は税制移行時の株主基金を設定することで一度に移行可能
中立性( A ) 実現可能性( B )
A-1 A-2 A-3 A-4 B-1 B-2 B-3
CBIT ○ ○ × × - ○ ○
ACE ○ ○ ○ ○ △ ○ ○
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学 11
税制改革案【 BEIT 】( 1/3 ) ACE は基準を満たすが,個人課税をどうするか
国際的租税競争による企業課税の税率引き下げ傾向 小国開放経済 → 個人課税は企業の投資に影響しない
個人段階で正常収益に課税(課税ベースの拡大) 投資家の資産選択を歪めない課税
BEIT (Business Enterprise Income Tax) ― Kleinbard (2005) COCA (Cost of Capital Allowance) システム
企業段階:資本構成(負債・自己資本)に関係なく一律の控除 個人段階:資産額に応じた正常収益課税
課税は企業形態に依存しない
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学 12
税制改革案【 BEIT 】( 2/3 ) 企業段階
控除する正常収益=企業の総資本額× 利子率( COCA 率) 負債・自己資本の区別をしない
ACE と同じシステム( Boadway & Bruce, 1984 )に基づく控除 各期の減価償却控除≠経済的減価償却でも課税は中立的
個人段階 課税する正常収益=企業に投資した資産額×COCA 率 分配の有無に関係なく課税する
資産選択を歪めずに正常収益に課税する
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学 13
税制改革案【 BEIT 】( 3/3 )
中立的な税制の執行可能性( B-1 ) ACE と同様にリスクフリーの利子率の設定が必要
税収は相対的には安定( B-2 ) 税制移行に伴う措置( B-3 )
未償却資産に対する特別な措置を必要としない COCA システムは段階的に,他のシステムは一度に移行する
中立性( A ) 実現可能性( B )
A-1 A-2 A-3 A-4 B-1 B-2 B-3
BEIT ○ ○ ○ ○ △ ○ ○
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学 14
結論 消費課税の代替案( ACE, BEIT )は中立性を満たし
つつ,消費課税よりも高い実現可能性をもつ 利子率の問題は残るが, BEIT は企業課税だけでな
く,個人課税についても望ましい性質をもつ
【今後の課題】 個人課税についての詳細な検討 国際課税についての検討 税務行政上の問題の具体的な検討