子ども-大人インタラクションの認知科学的分析とモデル化に向けて(大森...

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子ども-大人インタラクションの 認知科学的分析とモデル化に向けて 大森隆司(玉川大学工学部)

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Page 1: 子ども-大人インタラクションの認知科学的分析とモデル化に向けて(大森 隆司)

子ども-大人インタラクションの認知科学的分析とモデル化に向けて

大森隆司(玉川大学工学部)

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コミュニケーション行動のモデル化

1. コミュニケーションのモデル化(概念)

2. 対人インタラクションロボット

3. 保育士の行動決定モデル

4. 改良プレイメイトロボットによる遊び実験

5. 戦略的インタラクション : 興味の誘導による遊び

6. まとめ

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基盤:意図を読む

ユーザの意図を推定

⇒ 協調的振舞い

机で作業中。

掃除は後で・・

ロボットの意図を推定

他者と協調的に振舞う行為者

例) 掃除ロボット

机を掃除しに来たな。

席を立とう・・

意図理解と対応行動

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より深い相手の理解

「相手の推定内容」の推定「机で作業中」である事を

推定し,掃除は後回しに

してくれるだろう。

作業を続けよう・・・机で作業中。

掃除は後で・・

1段「深い」推定!

推定の深さ

= 推定のレベル

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なぜ我々は他人の意図が判るのか?

• 意図/目的は直接には観測できない– 意図の推定ができないと日常活動に困る

– でも我々はある程度は推定できる....なぜ?

• 前提:「他人は自分と同じように考える」

– 自分の行動決定についての知識を他者に転用「自己モデル」 → 「他者モデル」 として使用

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他者理解の基本原理

• 「モデル」 というものの導入による計算的方法

• 自己についての知識(自己モデル)による対象の内部過程の推定

自己についての理解

内部状態

行動決定過程

環境の認識

行動

観察

注意

他者

行動

観察

内部状態

行動決定過程

環境の認識

注意

転用の理解

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相手も含む行動決定

意図行動

他者の意図

自己 他者

意図

他者の意図・行動予測モデル

行動

他者の意図推定モデル 受動的な意図推定

能動的な行動誘導

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背景と目的

• 子供の遊び相手となるロボット

⇒ 長く遊び続けられること

飽きてきた?

普通のロボットとでは飽きる

人とは長続きする

人とのやりとり感

遊びへの興味を引きつける

相手として認められる

遊びへの興味

対人感覚

遊びへの興味引きつける!

対人感覚

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人-ロボットインタラクション 先行研究

神田 他:人間と相互作用する自律型ロボットRobovieの評価,日本ロボット学会誌,2003

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珍しいもの

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幼児とロボットの動きを測る

マーカーつきの帽子

頭部にマーカーを直貼り

マーカーつきのヘルメット

高橋英之,宮崎美智子,岡田浩之,大森隆司:「新奇性」と「親近性」の軸から子どもとロボットの関係性を捉える, HAI2011

子どもの側から見たロボット ① 珍しいもの ② つきあう相手

モーションキャプチャー

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子供とロボットの遊び実験– 飽きずに30分 → 失敗 → 保母さんの観察 → 行動決定モデル

トランプの神経衰弱

ロボットに対する親近感の向上阿部香澄,岩崎安希子,中村友昭,長井隆行,横山絢美,下斗米貴之,岡田浩之,大森隆司:子供と遊ぶロボット:心的状態の推定に基づいた行動決定モデルの適用,日本ロボット学会誌,2013

ロボットからの働きかけによる子どもの状態遷移モデル

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• 家庭用サービスロボットに実装

• 複数の遊びモジュールを搭載

→ 子供の状態を推定

→ 遊びや行動の切り替え

・ トランプ

・ お絵描き

・ 絵本読み聞かせ など…

Playmate robot の概要

子供と長く遊び続けることが重要

飽きたかな?

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ロボットとのカード遊び

• ロボットと子供とで神経衰弱

-使用カード:10枚のアンパンマントランプ

-被験者:子供2人(男の子と女の子)

• OKAO Visionにより,実験中の興味度を測定

「神経衰弱で遊ぼう」「じゃんけんで順番を決めるね」「君の番だよ」「同じキャラクターのカードを探して」「ちょっとカードを見せてね。うーん…」「残念、違ったね」「僕の番」

ロボットのセリフでゲームを進行

いずれの実験も,子供の興味を維持できなかった,,,,なぜ?

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「保育士と子供の遊び」観察

• どっちに入ってるか?• 絵本の読み聞かせ• トランプ(神経衰弱)• カプラ(積み木遊び)• 文字カード(文字遊び)

実験プロトコル(30分)

被験者:6歳児2人(男の子と女の子)

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「保育士と子供の遊び」

モデルベースの分析

緊張 慣れ楽しい嬉しい

飽きるつまらない

興味の変更 別の遊び

「緊張」状態 「楽しい/嬉しい」状態 「飽きる/つまらない」状態

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保育士の行動戦略

緊張 慣れ楽しい嬉しい

飽きるつまらない

興味の変更 別の遊び

褒める

勝たせる

短縮

上手くできる

延長

回復会話

作業

会話

作業褒める

短縮

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モデルの検証実験

• 子供とロボットの遊び実験

– 家庭用サービスロボット“DiGORO”

– 幼稚園児6名(平均5.5歳、男3、女3)

– 3名はモデル適用(確率分布あり)、

3名はゲーム状況に応じた

行動セットから均一に選択

– 慣らし5分、遊び25分

– 6名中4名が終了時間まで遊び継続

トランプの神経衰弱

じゃんけん

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状態推定と行動選択手法

• 観察実験より、子供が遊ぶ様子のモデル化

– 子供の様子と保育士の戦略

特徴的な子供の振る舞い

保育士の行動戦略

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• 子供の内部状態遷移モデル

状態推定と行動選択手法

高い

なし

興味度低い

[戦略]

なるべくS1かS2に留めるよう行動。

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モデルの検証実験

• 心的状態「興味度」の推定

– 興味度 : 「子供が遊びやロボットに興味を持つ程度」

– 特徴量 : 視線、笑顔度、動き、凝視度

– 幼稚園教員による興味度の評価

⇒ 推定結果との一致度 : 7割

1 96 60 41 0笑顔度

顔追跡

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実験結果

• モデル適用とランダムの比較

ロボット

0 400 800 1200 16000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 400 800 1200 16000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 400 800 1200 16000

1

2

3

4

0 400 800 1200 16000

1

2

3

4

基準興味度

視線頻度

モデル適用 ランダム

神経衰弱 終了

ロボット 46%ロボット 38%

机 54% 机 62%

相手の反応を期待

窺う必要がない

ロボットへの

対人感覚

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インタラクション=心的ダイナミクス

内部状態

相手の意図推定

行動

行動

働きかけ(会話・行動)

知覚

知覚働きかけ

(会話・行動)

内部状態

状態変化

内部状態の望ましい変化

仮想的な働きかけ

意図

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戦略的インタラクション

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緊張 慣れ

興味 楽しい飽き

つまらない

遊びの切り替え

怖い

あやしい

興味なし

会話・成功ほめる

遊び不成立 (3割程度)[泣く,逃げる,黙る]

遊びが成立 (7割程度)

熟練した保育士(100%)

Research question保育士は何をしたのか?

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方法:

子どもとロボットの遊び観察

こんにちは

こんにちは

• 操作者– 幼稚園教諭4 人

– 一定の勤務経験

被験児(遊び相手) 5~6 歳の幼稚園児(男児25 名,女児14名)

場所 : 被験児が通う幼稚園

ロボット : LiPRO

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実験の流れと遊びの種類

• 開始:会話(挨拶など)

– かくれんぼ– じゃんけん– 〇×ゲーム– サイコロゲーム– カニ歩き– 歌– 手つなぎ

• 終了:プレゼント(消しゴムをあげる)

緊張しているから歌を歌ってあげよ

う お歌歌うからちょっと聞いて

ほしいな

♪~

操作者(幼稚園教諭)が子供の様子や状況に合わせて選択

約30分

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データ : 子どもと保育士の行動・対話,子供の動き・表情・対話,全体画像

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計測・アンケート

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被験児胸部に無線心拍計 → ストレス指標:LF/HF成分

保護者に被験児についてのアンケート(5点法)

子供の実験時の様子,普段の様子

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性格検査

• TS式幼児・児童性格診断検査

– 13項目を客観的に把握

– 対象:未就学児

– 回答者:保護者

– 形式:質問紙法

– 値が低いほど不安定な傾向

1点 ← → 99点

顕示性が強い 顕示性なし

神経質 神経質ではない

情緒不安定 情緒安定自制力なし 自制力がある

依存的 自立的退行的 生産的

攻撃・衝動的 温和・理性的社会性なし 社会性がある家庭不適応 家庭適応学校不適応 学校適応

体質的不安定 体質的安定個人的不安定 個人的安定社会的不安定 社会的安定

例) 「攻撃・衝動的/温和・理性的」

1点に近い :攻撃・衝動的99点に近い:温和・理性的

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分析の流れ

1. 遊びの過程のデータ化 : 遊び種類,満足度,緊張度

のTag

2. 状態遷移による記述

3. 遊びのクラスター化

4. クラスターの変化

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t (min)

歌を歌っている?

遊び実験の動画

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

会話(開始)

じゃんけん(3回)

歌(2回)

手つなぎかくれんぼ

(2回)

タグ付けの例 : 4名/1被験児,緊張度と満足度(5点法)

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遊びの状態遷移確率

→ 遊びの段階に分けて分析:有意な確率:有意傾向の確率

緊張がほぐれてきた後半:積極的に関わったり

身体を動かす必要のあるコミュニケーションが多い遊び

緊張している前半:積極的に動く必要のない

コミュニケーションが少ない遊び

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クラスターと遊びの遷移

→ クラスターごとの緊張度,満足度を分析

→ 遷移の回数類似パターンで分けられた

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クラスターごとの緊張度と満足度

→ 段階的に(緊張度>満足度) から (満足度>緊張度) へ移行

3.08

2.71

2.56

2.11

3.10

3.07

3.59

3.84

0.02

0.36

1.03

1.72

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50

クラスター1

クラスター2

クラスター3

クラスター4

緊張度

満足度

満足度と緊張度差分

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遊びの遷移の条件(回帰分析)

• 目的変数– 遊びの遷移回数

• 説明変数– 緊張度

– 満足度

– 満足度と緊張度の差分

– 緊張度の遊びの前後での変化量

– 性格検査の各項目

– 年齢

– 性別→遊びの選択に性格や緊張度,満足度などが影響

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まとめ① 生体指標から緊張度や性格傾向を推定する方法を提案

②保育士によるロボットの遊び戦略

子供の緊張が高い段階:単純でコミュニケーションが少ない

子供が慣れた段階:ルールが複雑で動きやコミュニケーションが多い

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子どもの緊張度,満足度,性格 を推定して遊び選択