コミュニケーション分析とワークプレイス・デザイン:循環的互恵関係の構想...

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コミュニケーション分析と ワークプレイス・デザイン: 循環的互恵関係の構想 12. 06. 2013 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程 2 年 坂井田 瑠衣 http://web.sfc.keio.ac.jp/~lui/

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コミュニケーション分析と ワークプレイス・デザイン: 循環的互恵関係の構想

12. 06. 2013 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程 2 年 坂井田 瑠衣 http://web.sfc.keio.ac.jp/~lui/

自己紹介

•  研究内容 ü  コミュニケーションの場の分析とデザイン

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お笑い芸人の コミュニケーション・スキル分析

The 27th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2013

- 2 -

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食卓のコミュニケーション分析

グループワークなどの コミュニケーション・スキル 開拓支援

社会生活の文脈に根ざした コミュニケーションを切り取る

3 映像分析ソフトELANを使用した分析の様子

コミュニケーション分析とは

•  録音 / 録画された会話を分析する研究 ü  会話の微細な現象に留意する ü  実際の現象に関連づけて説明する ü  むやみに研究者の想定を分析の前提としない (西阪, 2008)

•  唯一の方法論は未確立 ü  分野横断的に分析方法が発展中

Ø  エスノメソドロジー / 会話分析 (Sacks et al., 1974; 串田, 2010 ほか) Ø  ジェスチャー研究 (McNeill, 1992; Kendon, 2004 ほか)

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近年の研究動向

•  実世界のコミュニケーションへの関心 ü  実験室からフィールドへ ü  外部観察から参与観察へ

Ø  e.g. 野沢温泉村の火祭の研究 (榎本ら, 2013)

•  より複雑なコミュニケーションへの関心 ü  「マルチモーダル・コミュニケーション」(坊農, 2009)

Ø  言語 / 非言語を跨いだやりとり ü  「多人数会話」(坊農, 2009)

Ø  3人以上の会話:次話者が一意に決まらない 5

もんじゃ焼き調理中の会話: 発話の重複や沈黙が多発する (Sakaida, 2013)

•  なぜ調理中に重複や沈黙が増えるか? ü  ことばと身体動作を併用した複雑なやりとり

Ø  e.g. 「ことば」での質問に対して「身体動作」で応える

•  発話重複や沈黙が会話の高揚感を生んでいる? 6

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0

20

40

60

80

メニュー選び 料理到着待ち もんじゃ焼き 調理中

総時間に占める沈黙時間(%)$沈黙平均時間(秒)$

0

10

20

30

メニュー選び 料理到着待ち もんじゃ焼き調理中

総発話時間に占める重複時間(%)$総発話回数に占める重複回数(%)$

発話重複時間と回数     沈黙時間割合と沈黙平均時間 調理中  調理中

コミュニケーション分析と インタラクションデザイン

•  インタラクションデザイン (Saffer, 2008) ü  インタラクション

Ø  人間 対 人間のコミュニケーション Ø  人工物 (IT機器,什器) 対 人間のコミュニケーション

人工物 対 人間        人間 対 人間

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コミュニケーション 分析の貢献

コミュニケーション 分析の貢献

ワークプレイスにおける コミュニケーション分析の可能性

•  分析対象 ü  製品とユーザーの   コミュニケーション ü  製品を介したユーザー同士   のコミュニケーション

•  分析の視点

ü  什器・機器の設置により会話はいかに変化するか? Ø  e.g. 話者交替,アイコンタクト,ジェスチャーの頻度 / 順番 Ø  e.g. 話題や内容の変遷

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デザインの一般構造

•  FNSダイアグラム (中島・諏訪・藤井, 2008)

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12デザイン学研究特集号special issue of japanese society for the science of designVol.18-1 No.69 2011

1. デザイン:問うては表すFNSサイクル本稿は,デザインという行為の本質は問うことと表すことのサイクルにあると考えるものである.問うことは,解くべき問題の発見(problem-finding)と解く手法の模索(problem-solving)からなる.特に前者が重要で,問題は与えられるものではなく,自ら何が問題かを発見するという側面がなければデザインではない.表すとは,実際に解くことの実践に相当し,行為が世の中に具現化/表現化される.実践するとそれは社会的インタラクションを引き起こし,その結果として,当初想定したものごと以上の何かが生まれ,新たな問いが生まれる.問うことは意識領域の行為であり,表すことは社会的行為である.両者のサイクル構造がある営為をデザインと呼ぶ.中島氏,藤井氏,筆者は,新しいものごとが世に誕生するプロセスの一般的構造(図1を参照)を論じて来た1).“問う”という意識領域の行為は,社会的インタラクションで成立するものごと(変数,関係性,評価尺度)を認識するという行為(現在ノエマを生む行為)と,それに基づいて未来を想像する(未来ノエマを生む)行為からなる.未来ノエマに基づいてものごとを誕生させてみる実践が“表す行為”である.問いを実践した結果生じた社会的インタラクションの中に見出すことのできる現在ノエマは,必ずしも実践の基になった未来ノエマと一致しない.想定したことが達成できなかったという負の意味での不一致もあれば,想定外の新しい変数や評価尺度を見出せたという正の意味での不一致もあり得る.その差異が原動力になって,新しい未来ノエマが生まれ,意識と行為の共進化が進む.これを我々はFNSサイクルと呼ぶ.

2. デザインを学問領域としてデザインする試行2.1. 学問とは上記のような構造をもつデザイン行為を,学問として立脚させたいというのが本特集号の意図だと筆者は理解している.大

学でも建築学科やデザインと名のつく学部学科においてデザイン教育は為されている.デザインは既に学問として立脚しているではないかと訝しげに思う読者もいるかもしれない.そもそも何が成立すれば学問と見なされるのか?そこから論じたい.理論や知見に普遍性,客観性,再現性があることを以て学問になるという考え方は,特に理系に分類される領域で根強い.上記3つの性質は自然科学の方法論から生まれて来た考え方である2).自然科学は自然界で成り立つことを分析し,現象のメカニズムの解明を目指すものである.デザインは人間界の営みである.自然科学の方法論だけに固執すると,人の意識が社会とインタラクションするFNS構造を十分に扱うことができない.人間界の営みは,個人固有性/状況依存性,主観性,一回性といった性質を強く孕む.デザインプロセスの「生感」はそういった性質の上に立脚するのではないかと筆者は考えている.デザインプロセスのなかにも,普遍性,客観性,再現性がある知見として捉えられる側面は存在する.大学等の高等教育機関で教えられている“デザイン”も,普遍性,客観性,再現性ある知見のみに偏っていて,生感に該当する側面は,暗黙知として(教えられない部分として)敢えて触れない動向があるのではないか? 過度に普遍性,客観性,再現性を求めんが故に,実験室実験を繰り返し,実践的ケーススタディを敬遠/軽視する傾向が,デザイン領域に限らず社会学/認知科学など多くの分野に存在する.本特集号はそれに対する警鐘である.学問とは何か? あるケーススタディが個人固有性/状況依存性,主観性,一回性を強く孕む知見を生むものであったとしても,そこから他者が学ぶことができれば,それは学問領域を為す重要事例として認めてよいと筆者は考える.但し,単発少量のケーススタディでは学問領域を形成することはできない.複数のケーススタディが蓄積されることを通じて,その中に重要な変数や構造(変数の関係性)が見出される時,その分野を体系的に語ることが説得力をもつ.“体系的な語り”は他者の学びを誘発する.2.2. 伝わる物語としてのエッセイ集デザインのケーススタディは個人固有性/状況依存性,主観性,一回性を孕む物語としての性質を有する.それを蓄積し,他者(学生)に伝え,他者(学生)をデザイン領域に引込み,ケーススタディの更なる蓄積を図ることが,デザイン領域に生

図1. デザインの一般構造

メタ認知エッセイの体系的蓄積がデザインを学問にするSystematic Accumulation of Meta-Cognitive Essays Makes Design Science

諏訪正樹慶應義塾大学環境情報学部

SUWA Masaki

Faculty of Environment and Information Studies, Keio University

デザインによって 生じた相互作用を

分析

目標/意図を持って デザインする

デザインの目標/意図

デザインプロダクト 環境要因

目標/意図を 再設定

進化した 目標/意図

デザイナーの 頭の中

実世界 デザインの結果として生じる

インタラクション ※デザイナーの意図を超えた インタラクションが多発する

ワークプレイスデザインと コミュニケーション分析の循環的互恵関係

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12デザイン学研究特集号special issue of japanese society for the science of designVol.18-1 No.69 2011

1. デザイン:問うては表すFNSサイクル本稿は,デザインという行為の本質は問うことと表すことのサイクルにあると考えるものである.問うことは,解くべき問題の発見(problem-finding)と解く手法の模索(problem-solving)からなる.特に前者が重要で,問題は与えられるものではなく,自ら何が問題かを発見するという側面がなければデザインではない.表すとは,実際に解くことの実践に相当し,行為が世の中に具現化/表現化される.実践するとそれは社会的インタラクションを引き起こし,その結果として,当初想定したものごと以上の何かが生まれ,新たな問いが生まれる.問うことは意識領域の行為であり,表すことは社会的行為である.両者のサイクル構造がある営為をデザインと呼ぶ.中島氏,藤井氏,筆者は,新しいものごとが世に誕生するプロセスの一般的構造(図1を参照)を論じて来た1).“問う”という意識領域の行為は,社会的インタラクションで成立するものごと(変数,関係性,評価尺度)を認識するという行為(現在ノエマを生む行為)と,それに基づいて未来を想像する(未来ノエマを生む)行為からなる.未来ノエマに基づいてものごとを誕生させてみる実践が“表す行為”である.問いを実践した結果生じた社会的インタラクションの中に見出すことのできる現在ノエマは,必ずしも実践の基になった未来ノエマと一致しない.想定したことが達成できなかったという負の意味での不一致もあれば,想定外の新しい変数や評価尺度を見出せたという正の意味での不一致もあり得る.その差異が原動力になって,新しい未来ノエマが生まれ,意識と行為の共進化が進む.これを我々はFNSサイクルと呼ぶ.

2. デザインを学問領域としてデザインする試行2.1. 学問とは上記のような構造をもつデザイン行為を,学問として立脚させたいというのが本特集号の意図だと筆者は理解している.大

学でも建築学科やデザインと名のつく学部学科においてデザイン教育は為されている.デザインは既に学問として立脚しているではないかと訝しげに思う読者もいるかもしれない.そもそも何が成立すれば学問と見なされるのか?そこから論じたい.理論や知見に普遍性,客観性,再現性があることを以て学問になるという考え方は,特に理系に分類される領域で根強い.上記3つの性質は自然科学の方法論から生まれて来た考え方である2).自然科学は自然界で成り立つことを分析し,現象のメカニズムの解明を目指すものである.デザインは人間界の営みである.自然科学の方法論だけに固執すると,人の意識が社会とインタラクションするFNS構造を十分に扱うことができない.人間界の営みは,個人固有性/状況依存性,主観性,一回性といった性質を強く孕む.デザインプロセスの「生感」はそういった性質の上に立脚するのではないかと筆者は考えている.デザインプロセスのなかにも,普遍性,客観性,再現性がある知見として捉えられる側面は存在する.大学等の高等教育機関で教えられている“デザイン”も,普遍性,客観性,再現性ある知見のみに偏っていて,生感に該当する側面は,暗黙知として(教えられない部分として)敢えて触れない動向があるのではないか? 過度に普遍性,客観性,再現性を求めんが故に,実験室実験を繰り返し,実践的ケーススタディを敬遠/軽視する傾向が,デザイン領域に限らず社会学/認知科学など多くの分野に存在する.本特集号はそれに対する警鐘である.学問とは何か? あるケーススタディが個人固有性/状況依存性,主観性,一回性を強く孕む知見を生むものであったとしても,そこから他者が学ぶことができれば,それは学問領域を為す重要事例として認めてよいと筆者は考える.但し,単発少量のケーススタディでは学問領域を形成することはできない.複数のケーススタディが蓄積されることを通じて,その中に重要な変数や構造(変数の関係性)が見出される時,その分野を体系的に語ることが説得力をもつ.“体系的な語り”は他者の学びを誘発する.2.2. 伝わる物語としてのエッセイ集デザインのケーススタディは個人固有性/状況依存性,主観性,一回性を孕む物語としての性質を有する.それを蓄積し,他者(学生)に伝え,他者(学生)をデザイン領域に引込み,ケーススタディの更なる蓄積を図ることが,デザイン領域に生

図1. デザインの一般構造

メタ認知エッセイの体系的蓄積がデザインを学問にするSystematic Accumulation of Meta-Cognitive Essays Makes Design Science

諏訪正樹慶應義塾大学環境情報学部

SUWA Masaki

Faculty of Environment and Information Studies, Keio University

デザインによって 生じた相互作用を

分析

デザインの結果として生じる インタラクション

※デザイナーの意図を超えた インタラクションが多発する

いかに無数の変数を 拾い上げ,分析の俎上に

載せるかが鍵 コミュニケーション分析における観察の態度 「先入観を持たず,無心にデータと向き合う」

コミュニケーション分析の貢献

ワークプレイスを デザインする

デザイナーの 頭の中

実世界

参考文献 1. 坊農真弓, 高梨克也 編: 多人数インタラクションの分析手法, オーム社, (2009). 2. 榎本美香, 伝康晴: 文化伝承を支える多世代協働インタラクションにおける「指揮」と

「指導」の 分析, 日本認知科学会第30回大会発表論文集, O5-4, 122-131 (2013). 3.  Kendon, A.: Gesture: Visible Action as Utterance, Cambridge University Press, (2004). 4. 串田秀也, 好井裕明 編: エスノメソドロジーを学ぶ人のために, 世界思想社, (2010). 5. McNeill, D.: Hand and Mind: What Gestures Reveal about Thought, University of Chicago

Press, (1992). 6. 中島秀之, 諏訪正樹, 藤井晴行: 構成的情報学の方法論からみたイノベーション, 情報処理

学会論文誌, Vol. 49, No. 4, pp. 1508-1514 (2008) 7. 西阪仰, 串田秀也, 熊谷智子: 特集「相互行為における言語使用: 会話データを用いた研

究」について, 社会言語科学, 10(2), 13-15, (2008). 8.  Sacks, H., Schegloff, A., & Jefferson, G: A simplest systematics for the organization of turn-

taking for conversation, Language, 50, 696-735, (1974). 9.  Saffer, D.; 吉岡いずみ訳: インタラクションデザインの教科書, ソシオメディア株式会社

(2008) 10. Sakaida, R., Kato, F., Suwa, M.: How Do We Talk in Table Cooking?, In Proceedings of

International Workshop on Multimodality in Multiparty Interaction (MiMI2013), (2013).