解の爆発を伴う非線形発展方程式の計算 - JAMSTEC...― 67 ― 解の爆発を伴う非線形発展方程式の計算 細胞性粘菌の走化性モデル(ケラー・シーゲルモデル)が形成するモードのCOMSOL
(卒業研究発表)マツカサキノコ属菌の生態 ...
-
Upload
atsushi-nakajima -
Category
Education
-
view
1.186 -
download
2
Transcript of (卒業研究発表)マツカサキノコ属菌の生態 ...
卒研発表 2011/3/9
筑波大学生命環境学群生物学類 4 年中島淳志
マツカサキノコマツカサキノコの生生態態
Strobilurus
ーその針葉樹球果に限られた発生から
属菌
の要因に迫るー菌類多様化菌類多様化
本研究のテーマ
マツカサキノコモドキマツカサキノコモドキStrobilurus stephanocystis
なぜマツの球果(松ぼっくり・松かさ)にしか生えないのか?
菌類が生息している場所(土壌・植物体・糞・堆肥など)を基質という。
基質嗜好性とは
菌類が特定の基質から高頻度で分離される性質を基質嗜好性( substrate preference )という。
菌類の種分化の過程では、異なる基質への進出が重要な要因だと考えられている( Cannon & Satton, 2004 )
菌がある特定の基質に生息する要因を明らかにすることは、菌類の進化の歴史を追究する上で大きな意義があると考えられる。
むしろ、種間競争(干渉型競争)などの生物的要因がより重要だと考えられている。 (Gochenaur, 1978; Shearer & Zare-Mavian, 1988)
分解できる基質の違いだけでは、基質嗜好性の違いを説明できない。 (Baelocher, 1992)
基質嗜好性の決定要因は何か?
マツカサキノコモドキマツカサキノコモドキStrobilurus stephanocystis
基質嗜好性が強いことが期待される(ただし、定量的に調べられた例はない)。
「マツ属」の樹木にのみ発生する
「球果」にのみ発生する
マツカサキノコStrobilurus esculentus
「トウヒ属の球果」のみに生える
スギエダタケStrobilurus ohshimae
「スギの枝」のみに生える
菅平で見られるマツカサキノコ属菌
マツカサキノコ属菌は属内で種ごとに異なる基質への嗜好性の分化が見られる。
マツカサキノコモドキStrobilurus stephanocystis
「マツ属の球果」のみに生える
マツカサキノコStrobilurus esculentus
「トウヒ属の球果」のみに生える
スギエダタケStrobilurus ohshimae
「スギの枝」のみに生える
菅平で見られるマツカサキノコ属菌
スギエダタケStrobilurus ohshimae
「スギの枝」のみに生える
マツカサキノコ属菌は属内で種ごとに異なる基質への嗜好性の分化が見られる。
マツカサキノコモドキStrobilurus stephanocystis
「マツ属の球果」のみに生える
Approach 1
フィールドにおける基質嗜好性の検証
本研究では、上の 3 つのアプローチにより、マツカサキノコ属菌の基質嗜好性を検討する。
Approach 3球果生息菌との
相互作用
培養菌糸体の基質利用性
Approach 2
培養菌糸体の基質利用性
Approach 2
Approach 1
フィールドにおける基質嗜好性の検証
球果生息菌との相互作用
Approach 3
子実体が発生する基質は常にマツの球果か?
子実体が発生する球果の条件は?
フィールドにおける基質嗜好性の検証 材料と方法
この調査を
アカマツ 9 か所、クロマツ 6 か所で行った。
① マツの樹下にコドラートを設置し、深さ 10cm までの全ての基質を調査する。
30cm
30cm
② 発見した球果の数が 30 を超えるまでコドラートを増やす。
フィールドにおける基質嗜好性の検証 材料と方法
この調査を
アカマツ 9 か所、クロマツ 6 か所で行った。
2
を測定【 24 時間 70℃ で乾燥させる】
h
w を測定【 ( 高さ )×( 幅 ) で近似】
フィールドにおける基質嗜好性の検証 材料と方法
-=(含水率)(湿重量) (乾燥重量) ×100
(湿重量)
30cm
10cm
球果サイズ
含水率
深度を測定
結果と考察
フィールドにおける基質嗜好性の検証Approach 1
293うち子実体発生22(7.5%) 219
うち子実体発生51(23.3%)結果と考察
クロマツアカマツ
フィールドにおける基質嗜好性の検証
全ての調査地で球果以外からの子実体発生は確認されなかった。
子実体が発生する基質は常にマツの球果か?
子実体発生球果は非発生球果より
アカマツ クロマツ含水率 高い (P<0.001) 高い (P<0.001)
深度
サイズ 大きい (P<0.001)
※ 極端に小さい球果からは発生せず
必ずしも大きいとはいえない(P>0.05)
深い (P<0.01) 深い (P<0.001)
正の相関 (Spearman P<0.001)
結果と考察フィールドにおける基質嗜好性の検証子実体が発生する球果の条件は?
フィールドにおける基質嗜好性の検証
Approach 1
培養菌糸体の基質利用性
Approach 2
球果生息菌との相互作用
Approach 3
培養菌糸体も基質嗜好性を示すか?(球果以外の基質でも生育可能か?)
球果以外の基質でマツカサキノコ属菌が生育できるかどうかを調べた。
試験管に 7 種類の基質を入れて滅菌
前培養した菌を接種
材料と方法培養菌糸体の基質利用性
70日間 25℃暗所で培養
方法は須藤ら (1999) より
マツカサキノコモドキStrobilurus stephanocystis
「マツ属の球果」のみに生える
マツカサキノコStrobilurus esculentus
「トウヒ属の球果」のみに生える
材料と方法培養菌糸体の基質利用性
アカマツ球果ドイツトウヒ球果
ストローブマツ球果アカマツ葉
ドイツトウヒ葉
スギ材おがくずブナ材おがくず
結果と考察
培養菌糸体の基質利用性Approach 2
++…非常によく蔓延した、+…よく蔓延した、-…菌糸が見られなかった
結果と考察培養菌糸体の基質利用性
マツカサキノコモドキ マツカサキノコ(アカマツ球果に発生)(ドイツトウヒ球果に発生)
培養菌糸体も基質嗜好性を示すか?(球果以外の基質でも生育可能か?)
菌糸体は球果以外の基質でも生育可能だった。
まとめ
菌糸体は球果以外の基質でも生育可能だった。
培養菌糸体も基質嗜好性を示すか?(球果以外の基質でも生育可能か?)
強い基質嗜好性は、子実体を形成する時にのみ生じている?
培養菌糸体の基質利用性
Approach 2
Approach 3球果生息菌との
相互作用
実験 1
実験 2
フィールドにおける基質嗜好性の検証
Approach 1培養菌糸体の基質利用性
Approach 2
マツカサキノコ属菌の種間競争における挙動は?
マツカサキノコ属菌が産生する抗生物質の球果生息菌に対する阻害効果は?
マツカサキノコ属菌の潜在的な競争者である、アカマツ・ドイツトウヒの球果生息菌を分離同定。
それらの菌株と、マツカサキノコ属菌 2 種(マツカサキノコモドキ・マツカサキノコ)との対峙培養を行った。
材料と方法球果生息菌との相互作用 実験 1
アカマツとドイツトウヒの球果(樹上・地上・地中から鱗片を 40枚ずつ採取)に生息している菌を分離同定した。
洗浄法 と 表面殺菌法 により、 42アカマツ 球果から分離された種数…
ドイツトウヒ 50球果から分離された種数…
材料と方法球果生息菌との相互作用 実験 1
対峙培養実験
アカマツ球果生息菌 ドイツトウヒ球果生息菌10属 11種
材料と方法実験 1
10属 13種
出現頻度上位種を用いて
の対峙培養対峙培養を行った。
対峙培養実験
マツカサキノコモドキ
マツカサキノコ
アカマツ球果生息菌
ドイツトウヒ球果生息菌
vs
vs
材料と方法実験 1
結果と考察
Approach 3実験 1球果生息菌との相互作用
阻止帯の形成 結果と考察実験 113 種中7 種(11 種中4 種)で、抗生物質の作用を示す阻止帯が形成された。
相手菌の生長阻害率(アカマツ)
※ エラーバーは標準偏差を表す阻止帯形成 侵入を阻止
結果と考察実験 1
相手菌の生長阻害率(アカマツ)
※ エラーバーは標準偏差を表す阻止帯形成 侵入を阻止
結果と考察実験 1
-=(阻害率)(コントロールでのコロニー半径)(対峙培養でのコロニー半径)
(コントロールでのコロニー半径) ×100
相手菌の生長阻害率(ドイツトウヒ)
※ エラーバーは標準偏差を表す阻止帯形成 侵入を阻止
結果と考察実験 1
完全に阻害
生長が速い多くの相手菌の侵入を阻止したことから、本属菌が種間競争の中で自身の占有している領域を確保する能力に優れていることが分かった。
結果と考察球果生息菌との相互作用 実験 1
Approach 3実験 2球果生息菌との相互作用
マツカサキノコ属菌が産生する抗生物質の球果生息菌に対する阻害効果は?
ストロビルリンとは、本属菌から発見された、他の菌類の呼吸を阻害する二次代謝産物である。
マツカサキノコ属菌はこの物質を産生して競争を有利にしていると予想される (Anke, 1995) 。しかし、そもそも抗生物質の競争における役割は未だに明らかでない( Shearer, 1995 )。
Strobilurin A
背景球果生息菌との相互作用 実験 2
アゾキシストロビン(ストロビルリン系薬剤)を200ppm (有効濃度)加えた 3 種類の培地を作製。
材料と方法球果生息菌との相互作用 実験 2
CMA(コーンミール寒天培地)
MA(麦芽寒天培地)
PSE(球果鱗片抽出液寒天培地)
アカマツ球果生息菌(出現頻度上位 8 種)を接種して培養し、 を算出。阻害率
結果と考察
Approach 3実験 2球果生息菌との相互作用
ストロビルリン添加培地における球果生息菌の阻害率実験 2
■MA培地■CMA培地
結果と考察
ストロビルリン添加培地における球果生息菌の阻害率実験 2
■MA培地■CMA培地
30%以上の差
結果と考察
ストロビルリン添加培地における球果生息菌の阻害率実験 2
■MA培地■CMA培地
30%以上の差
抗生物質の「効きやすさ」は環境(培地)によって変化する。
結果と考察
実験 2
■MA培地 ■ CMA培地 ■ PSE培地
8 種中 6種で PSE培地が最大
ストロビルリン添加培地における球果生息菌の阻害率 結果と考察
a
b
実験 2 結果と考察
※Fusarium の CMA における外れ値を除外※異なるアルファベットは 5% の危険率で有意であることを示す( Tukey の多重比較法)※ エラーバーは標準偏差を表す
培地ごとの阻害率平均の比較
各培地での阻害率平均はPSE培地が有意に高い
球果に含まれるフラボノイド (?) がストロビルリンの効果を増強する可能性がある。
a a
b
ストロビルリン類は圃場で特に効果が高いが、植物の持つフラボノイドが効果を増強している( Tamura et al., 1999 )。
Tamura et al. (1999) より引用
阻害率
フラボノイド濃度
マツカサキノコ属菌が産生する抗生物質の球果生息菌に対する阻害効果は?抗生物質ストロビルリンは、球果において特に強い阻害作用を発揮する可能性がある。
マツカサキノコ属菌の種間競争における挙動は?生長が速い他の菌の侵入を阻止する性質がある。抗生物質により競争相手の生長を阻害している。
マツカサキノコ属菌の種間競争における挙動は?生長が速い他の菌の侵入を阻止する性質がある。抗生物質により競争相手の生長を阻害している。
まとめ球果生息菌との相互作用
Approach 3
抗生物質ストロビルリンは、球果において特に強い阻害作用を発揮する可能性がある。
マツカサキノコ属菌が産生する抗生物質の球果生息菌に対する阻害効果は?
全体のまとめ
子実体が球果からしか発生しない
球果での種間競争が有利
菌糸体は球果以外でも生育可能本属菌の だが、
だからだと考えられる。
のは、
基質嗜好性の決定要因基質嗜好性の決定要因としては、としては、抗生物質抗生物質 やや種間競争種間競争 がが重要であることが示唆された。重要であることが示唆された。
生物的要因化学的要因
子実体が球果からしか発生しない
球果での種間競争が有利
今後の展望
子実体が球果からしか発生しない
球果での種間競争が有利
菌糸体が球果にのみ局在する?
今後の展望
子実体が球果からしか発生しない
球果での種間競争が有利
今後は今後は分子生物学的手法分子生物学的手法も取り入れ、も取り入れ、菌糸体が球果に局在しているか菌糸体が球果に局在しているかどうかを調べていきたい。どうかを調べていきたい。
菌糸体が球果にのみ局在する?基質中の菌糸を検出(定量)
する方法が必要!
今後の展望
ご清聴ありがとうございました。ご清聴ありがとうございました。
引用文献Baerlocher F (ed.) (1992) "The Ecology of Aquatic Hyphomycetes" Springer-Verlag, Berlin
McMullan-Fisher SJM (2008) "Surrogates for cryptogam conservation - associations between mosses, macrofungi, vascular plants and environmental variables" PhD thesis, University of Tasmania
Gilbert GS, Gorospe J, Ryvarden L (2008) "Host and habitat preferences of polypore fungi in Micronesian tropical flooded forests" Mycological Research 112: 674-68
Tamura H, Mizutani A, Yukioka H, Miki N, Ohba K, Masuko M (1999) “Effect of the methoxyiminoacetamide fungicide, SSF129, on respiratory activity in Botrytis cinerea” Pesticide Science 55: 681–686
Shearer, CA (1995) "Fungal competition" Canadian Journal of Botany 73 (Suppl.): S1259-S1263
須藤絵里子・吉田誠・福田清春・高畠幸司・金子哲 (2008) 「食用担子菌ヤマブシタケによるシュガービートパルプの分解」 食総研報 72: 65-71
Cannon PF, Sutton BC (2004) "Microfungi on wood and plant debris" in Mueller MG, Bills GF, Foster MF (Eds.) "Biodiversity of Fungi: Standard Methods for Inventory and Monitoring" Elsevier Academic Press
(ここから予備スライド)
コドラート調査とは別に、子実体発生球果を
アカマツについては46 個、
クロマツについては19 個採集。球果サイズのデータを得た。
フィールドにおける基質嗜好性の検証 調査 2 材料と方法
・エラーバーは標準偏差を表す・ ***は 0.01%水準で有意な差であることを示す
t(30)=6.454
t(38)=4.211
非発生球果と発生球果の含水率比較 結果と考察
アカマツ
クロマツ
含水率の低い球果からは発生しない傾向。
調査 2・子実体が発生する球果の条件は?
アカマツ クロマツ全球果と発生球果のサイズ比較
(含水率低)■ 全球果 ■発生球果
結果と考察調査 2
アカマツ クロマツ全球果と発生球果のサイズ比較
極端に小さい球果
極端に大きい球果 (含水率低)
結果と考察調査 2
子実体が発生する球果の条件は?含水率が高いこと(深い場所に埋まることに関係)。サイズが極端でないこと。
子実体発生が見られた調査地 17 か所では球果以外からの発生は見られなかった。
子実体が発生する基質は常にマツの球果か?子実体が発生する基質は常にマツの球果か?子実体発生が見られた調査地 17 か所では球果以外からの発生は見られなかった。
まとめ
子実体が発生する球果の条件は?含水率が高いこと(深い場所に埋まることに関係)。サイズが極端でないこと。
フィールドにおける基質嗜好性の検証
Approach 1