岡村 智教 - 協和メデックス高リスクでは120 mg/dL未満、中リスクでは140...
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脂質についてお話ししましょう
No.21
〒104-6004 東京都中央区晴海1-8-10
●協和メデックスHPの商品情報がご覧いただけます。http://www.kyowamx.co.jp
本リーフレットに関して、ご不明な点は弊社までお問合せください。
学術担当 ダイヤルイン 03-6219-7606
B_2L003601
参考文献 :1. Nishimura K, et al. J Atheroscler Thromb 21: 784-798, 20142.日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017
「絶対リスク」の概念
以前から患者一人ひとりの冠動脈疾患等の発症確率を評価し、リスクの高い人には重点的に治療し、リスクの低い人には過剰な治療にならないように配慮することが欧米の診療ガイドラインには取り入れられていました。その際、現実世界での危険性を認識しにくい相対リスクより、発症確率そのものを示す絶対リスクの方が治療に対する必要性をより真摯に考えることができます。例えばLDLコレステロールが高い人に「正常域の人より3倍も冠動脈疾患を発症しやすいです」という言葉は真実のリスクを伝えていません。「正常域の人の10年以内の冠動脈疾患発症率は0.5%ですが、あなたは1.5%です」というほうがより正確です。
冠動脈疾患の予防には危険因子の管理が重要であり、日本人に適した絶対リスクの評価に基づく
メリハリの効いた包括的な危険因子の管理が必要です。
協和メデックス_表1-4
最後にその人の分類に応じてLDLコレステロールの管理目標値を決定します。まずLDLコレステロールの管理が優先され、それぞれの分類に応じた管理目標値が示されています。すなわち二次予防では100 mg/dL未満、高リスクでは120 mg/dL未満、中リスクでは140 mg/dL未満、低リスクでは160 mg/dL未満であり、冠動脈疾患の発症リスクが高いほど厳しい管理目標値が適応されます。また管理目標達成の手段は生活習慣の改善が第一選択であり、それでも達成できない場合に初めて服薬治療を考えます。LDLコレステロールの管理目標値を達成できたら次いでNon-HDLコレステロールの管理目標値の達成を考えます。その目標値はLDLコレステロールの目標値にプラス30した値となります。その際はトリグリセライドの管理目標値である150 mg/dL未満を意識した治療を行います。
管理目標値の設定4
治療方針の原則 管理区分脂質管理目標値区分(mg/dL)
LDL-C Non-HDL-C TG HDL-C
低リスク
中リスク
高リスク
冠動脈疾患の既往
<190
<170
<150
<130(<100)
<160
<140
<120
<100(<70)
<150 ≧40
※※
一次予防
まず生活習慣の改善を行った後薬物療法の適用を考慮する
二次予防
生活習慣の是正とともに
薬物療法を考慮する
6
5
4
3
2
1
00 80 100 120 140 160
日本
アメリカ
LDLコレステロール(mg/dL)
(%)
冠動脈疾患の発症率(死亡率)
※ 家族性高コレステロール血症、急性冠症候群の時に考慮する。糖尿病でも他の高リスク病態※2を合併する時はこれに準ずる。●一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、低リスクにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮するとともに、家族性コレステロール血症の可能性を念頭においておくこと(参考文献2 第5章参照)
●まずLDL-Cの管理目標値を達成し、その後のnon-HDL-Cの達成を目指す。●これらの値はあくまでも到達努力目標値であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30 %、二次予防においてはLDL-C低下率50 %以上も目標値となり得る。●高齢者(75歳以上)については参考文献2 第7章を参照。※2 ・非心原性脳梗塞 ・末梢動脈疾患(PAD) ・慢性腎臓病(CKD) ・メタボリックシンドローム ・主要危険因子の重複 ・喫煙
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」では、わが国で初めて「絶対リスク」の概念を脂質管理目標値の設定に導入しました。そこでは10年以内の冠動脈疾患の死亡確率を評価するNIPPON DATA80リスクチャートが用いられましたが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年度版」では絶対リスクの評価に冠動脈疾患の発症確率を評価する吹田スコアが用いられることになりました。吹田スコアは国立循環器病研究センターが1989年から開始したコホート研究(吹田研究)を基に作成されました。次ページより、吹田スコアを用いた絶対リスク評価について解説します。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版絶対リスク評価ツールについて
岡村 智教 先生
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 教授
2017年6月30日に5年ぶりに動脈硬化学会より標記のガイドラインが発表されました。改訂ポイントの一つである、絶対リスク評価について、ガイドラインの作成委員を
務められた岡村先生に解説いただきます。
ここで記載した空腹とは10時間以上の絶食です。またLDLコレステロールはフリードワルド式または直接法で求めることとされていますが、トリグリセライドが400mg/dL以上や食後採血の場合はNon-HDLコレステロールかLDL-C直接法を用います。なおこれらの基準はあくまでもスクリーニング基準であり、要治療の基準ではないことに留意してください。
対象者の危険因子に基づいて吹田スコアを計算します。個々の危険因子のポイントを示します。ポイントが大きいほど冠動脈疾患の発症との関連が強いことを示していて、合計ポイントごとの10年以内の冠動脈疾患の発症確率が示されています。なおここでいう冠動脈疾患は、心筋梗塞、急性心突然死、冠動脈インターベンション(ステント、バイパス手術など)のいずれかです。オリジナルの吹田スコアには、糖尿病と慢性腎臓病のポイントがありますが、ガイドラインでは既に2の段階で「高リスク」と分類されるのでここには入れてありません。またもともと耐糖能異常や早発性冠動脈疾患家族歴(第1度近親者かつ発症時の年齢が男性 55歳未満、女性 65歳未満)は吹田スコアにはありませんが、文献的な検討から喫煙と同レベルのリスクとしてポイント化しています。また高血圧や脂質異常症で治療中の場合でも現在の検査値からポイントを求めます。
発症確率は、左から順番に、予測される最小値を四捨五入して整数にしたもの、発症確率の最小値と最大値、中央値が示されています。この得点(発症確率)を見てフローチャートに戻り、その人がどこに分類されるかを見ます。10年以内の冠動脈疾患の発症確率が2%未満であれば低リスク、9%以上であれば高リスク、この間であれば中リスクとなります。
今回はガイドライン(参考文献2)の絶対リスク評価に関するエッセンスを解説しています。 詳細は参考文献2をご参照ください。
まず健診や日常診療でリスク評価の対象となる脂質異常症をスクリーニングする必要があります。脂質異常症の診断基準を示します。
冠動脈疾患の既往歴があれば「二次予防」です。また糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)があれば自動的に「高リスク」となります。そしてこのいずれにも該当しない場合に吹田スコアを用いたリスク評価を行います。
1で脂質異常症としてスクリーニングされた人に対して「冠動脈疾患予防からみたLDLコレステロール管理目標設定のための吹田スコアを用いたフローチャート」を参照します。このフローチャートは、対象者を「低リスク」、「中リスク」、「高リスク」、「二次予防」のいずれかに分類するために用います。
※ 10 時間以上の絶食を 「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。※※ スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。●LDL-CはFriedewald式(TC - HDL-C ‒ TG/5)または直接法で求める。●TGが400 mg/dL以上や食後採血の場合はnon-HDL-C(TC ‒ HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。 ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
脂質異常症診断基準(空腹時採血)※
LDLコレステロール
HDLコレステロール
トリグリセライド
Non-HDLコレステロール
140 mg/dL以上
120~139 mg/dL
40 mg/dL未満
150 mg/dL以上
170 mg/dL以上
150~169 mg/dL
高LDLコレステロール血症
境界域高LDLコレステロール血症※※
低HDLコレステロール血症
高トリグリセライド血症
高non-HDLコレステロール血症
境界域高non-HDLコレステロール血症※※
冠動脈疾患予防からみたLDLコレステロール管理目標設定のための吹田スコアを用いたフローチャート
協和メデックス_表2-3
二次予防
高リスク
脂質異常症のスクリーニング
冠動脈疾患の既往があるか?
非心原性脳梗塞
以下のいずれかがあるか?
吹田スコア得点
次ページの吹田スコアに基づいて計算する。
分類予測される10年間の冠動脈疾患発症リスク
-4041-5556-
低リスク
中リスク
高リスク
Yes
No
No
慢性腎臓病(CKD)
3038455153
0-7
5
-70046
⑦耐糖能異常
⑧早発性冠動脈 疾患家族歴
5
5
0-5-6
0571011
①年齢
②性別
③喫煙※
あり
あり
<4040-59≧ 60
⑤ HDL-C (mg/dL)
⑥ LDL-C (mg/dL)
<100100-139140-159160-179≧ 180
35-4445-5455-6465-69≧70
男性女性
喫煙有
④血圧※
(mmHg)
(歳)
至適血圧正常血圧正常高値血圧Ⅰ度高血圧Ⅱ度高血圧
<120 かつ<80120-129 かつ/または80-84130-139 かつ/または85-89140-159 かつ/または90-99160-179 かつ/または100-109
オリジナルの吹田スコアにはない追加リスク
#
# 第1度近親者かつ発症時の年齢が 男性 55歳未満、女性 65歳未満①~⑧の得点の合計 点
35以下
36-40
41-45
46-50
51-55
56-60
61-65
66-70
≧71
<1 %
1 %
2 %
3 %
5 %
9 %
14 %
22 %
>28 %
1.3 %
2.1 %
3.4 %
5.0 %
8.9 %
14.0 %
22.4 %
28.1 %
0.5 %
1.6 %
2.6 %
4.2 %
6.6 %
11.0 %
17.3 %
24.6 %
28.1 %
1.0 %
1.9 %
3.1 %
5.0 %
8.1 %
13.0 %
20.6 %
26.7 %
低リスク
中リスク
高リスク
吹田スコア(LDLモデル詳細)
危険因子①~⑧の点数を合算する。 (点数) (点数)
得点 10年以内の冠動脈疾患発症確率
発症確率の範囲分類発症確率の中央値
最小値 最大値
脂質異常症のスクリーニング1
リスク判定のためのフローチャート2
吹田スコアを用いたリスク評価3
末梢動脈疾患(PAD)
以上
2 %2-9 %9 % 以上
未満未満
糖尿病(耐糖能異常は含まない)
注)家族性高コレステロール血症および家族性Ⅲ型高脂血症と診断される場合はこのチャートは用いずに、参考文献2の 第5章「家族性コレステロール血症」、第6章「原発性脂質異常症」の章をそれぞれ参照すること。
※高血圧で現在治療中の場合も現在の数値を入れる。 ただし高血圧治療の場合は非治療と比べて同じ血圧値であれば冠動脈疾患のリスクが高いことを念頭に置いて患者指導をする。 禁煙者については非喫煙として扱う。冠動脈疾患のリスクは禁煙後1年でほぼ半減し、禁煙後15年で非喫煙者と同等になることに留意する。
2012年度版ガイドラインのLDL-CはFriedewald式で計算するとの内容であったが、今回の改訂ではLDL-C直接法は、以前よりも正確性が上がってきており、代わりに用いることも可能となっている。
ここで記載した空腹とは10時間以上の絶食です。またLDLコレステロールはフリードワルド式または直接法で求めることとされていますが、トリグリセライドが400mg/dL以上や食後採血の場合はNon-HDLコレステロールかLDL-C直接法を用います。なおこれらの基準はあくまでもスクリーニング基準であり、要治療の基準ではないことに留意してください。
対象者の危険因子に基づいて吹田スコアを計算します。個々の危険因子のポイントを示します。ポイントが大きいほど冠動脈疾患の発症との関連が強いことを示していて、合計ポイントごとの10年以内の冠動脈疾患の発症確率が示されています。なおここでいう冠動脈疾患は、心筋梗塞、急性心突然死、冠動脈インターベンション(ステント、バイパス手術など)のいずれかです。オリジナルの吹田スコアには、糖尿病と慢性腎臓病のポイントがありますが、ガイドラインでは既に2の段階で「高リスク」と分類されるのでここには入れてありません。またもともと耐糖能異常や早発性冠動脈疾患家族歴(第1度近親者かつ発症時の年齢が男性 55歳未満、女性 65歳未満)は吹田スコアにはありませんが、文献的な検討から喫煙と同レベルのリスクとしてポイント化しています。また高血圧や脂質異常症で治療中の場合でも現在の検査値からポイントを求めます。
発症確率は、左から順番に、予測される最小値を四捨五入して整数にしたもの、発症確率の最小値と最大値、中央値が示されています。この得点(発症確率)を見てフローチャートに戻り、その人がどこに分類されるかを見ます。10年以内の冠動脈疾患の発症確率が2%未満であれば低リスク、9%以上であれば高リスク、この間であれば中リスクとなります。
今回はガイドライン(参考文献2)の絶対リスク評価に関するエッセンスを解説しています。 詳細は参考文献2をご参照ください。
まず健診や日常診療でリスク評価の対象となる脂質異常症をスクリーニングする必要があります。脂質異常症の診断基準を示します。
冠動脈疾患の既往歴があれば「二次予防」です。また糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)があれば自動的に「高リスク」となります。そしてこのいずれにも該当しない場合に吹田スコアを用いたリスク評価を行います。
1で脂質異常症としてスクリーニングされた人に対して「冠動脈疾患予防からみたLDLコレステロール管理目標設定のための吹田スコアを用いたフローチャート」を参照します。このフローチャートは、対象者を「低リスク」、「中リスク」、「高リスク」、「二次予防」のいずれかに分類するために用います。
※ 10 時間以上の絶食を 「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。※※ スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。●LDL-CはFriedewald式(TC - HDL-C ‒ TG/5)または直接法で求める。●TGが400 mg/dL以上や食後採血の場合はnon-HDL-C(TC ‒ HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。 ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
脂質異常症診断基準(空腹時採血)※
LDLコレステロール
HDLコレステロール
トリグリセライド
Non-HDLコレステロール
140 mg/dL以上
120~139 mg/dL
40 mg/dL未満
150 mg/dL以上
170 mg/dL以上
150~169 mg/dL
高LDLコレステロール血症
境界域高LDLコレステロール血症※※
低HDLコレステロール血症
高トリグリセライド血症
高non-HDLコレステロール血症
境界域高non-HDLコレステロール血症※※
冠動脈疾患予防からみたLDLコレステロール管理目標設定のための吹田スコアを用いたフローチャート
協和メデックス_表2-3
二次予防
高リスク
脂質異常症のスクリーニング
冠動脈疾患の既往があるか?
非心原性脳梗塞
以下のいずれかがあるか?
吹田スコア得点
次ページの吹田スコアに基づいて計算する。
分類予測される10年間の冠動脈疾患発症リスク
-4041-5556-
低リスク
中リスク
高リスク
Yes
No
No
慢性腎臓病(CKD)
3038455153
0-7
5
-70046
⑦耐糖能異常
⑧早発性冠動脈 疾患家族歴
5
5
0-5-6
0571011
①年齢
②性別
③喫煙※
あり
あり
<4040-59≧ 60
⑤ HDL-C (mg/dL)
⑥ LDL-C (mg/dL)
<100100-139140-159160-179≧ 180
35-4445-5455-6465-69≧70
男性女性
喫煙有
④血圧※
(mmHg)
(歳)
至適血圧正常血圧正常高値血圧Ⅰ度高血圧Ⅱ度高血圧
<120 かつ<80120-129 かつ/または80-84130-139 かつ/または85-89140-159 かつ/または90-99160-179 かつ/または100-109
オリジナルの吹田スコアにはない追加リスク
#
# 第1度近親者かつ発症時の年齢が 男性 55歳未満、女性 65歳未満①~⑧の得点の合計 点
35以下
36-40
41-45
46-50
51-55
56-60
61-65
66-70
≧71
<1 %
1 %
2 %
3 %
5 %
9 %
14 %
22 %
>28 %
1.3 %
2.1 %
3.4 %
5.0 %
8.9 %
14.0 %
22.4 %
28.1 %
0.5 %
1.6 %
2.6 %
4.2 %
6.6 %
11.0 %
17.3 %
24.6 %
28.1 %
1.0 %
1.9 %
3.1 %
5.0 %
8.1 %
13.0 %
20.6 %
26.7 %
低リスク
中リスク
高リスク
吹田スコア(LDLモデル詳細)
危険因子①~⑧の点数を合算する。 (点数) (点数)
得点 10年以内の冠動脈疾患発症確率
発症確率の範囲分類発症確率の中央値
最小値 最大値
脂質異常症のスクリーニング1
リスク判定のためのフローチャート2
吹田スコアを用いたリスク評価3
末梢動脈疾患(PAD)
以上
2 %2-9 %9 % 以上
未満未満
糖尿病(耐糖能異常は含まない)
注)家族性高コレステロール血症および家族性Ⅲ型高脂血症と診断される場合はこのチャートは用いずに、参考文献2の 第5章「家族性コレステロール血症」、第6章「原発性脂質異常症」の章をそれぞれ参照すること。
※高血圧で現在治療中の場合も現在の数値を入れる。 ただし高血圧治療の場合は非治療と比べて同じ血圧値であれば冠動脈疾患のリスクが高いことを念頭に置いて患者指導をする。 禁煙者については非喫煙として扱う。冠動脈疾患のリスクは禁煙後1年でほぼ半減し、禁煙後15年で非喫煙者と同等になることに留意する。
2012年度版ガイドラインのLDL-CはFriedewald式で計算するとの内容であったが、今回の改訂ではLDL-C直接法は、以前よりも正確性が上がってきており、代わりに用いることも可能となっている。
脂質についてお話ししましょう
No.21
〒104-6004 東京都中央区晴海1-8-10
●協和メデックスHPの商品情報がご覧いただけます。http://www.kyowamx.co.jp
本リーフレットに関して、ご不明な点は弊社までお問合せください。
学術担当 ダイヤルイン 03-6219-7606
B_2L003601
参考文献 :1. Nishimura K, et al. J Atheroscler Thromb 21: 784-798, 20142.日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017
「絶対リスク」の概念
以前から患者一人ひとりの冠動脈疾患等の発症確率を評価し、リスクの高い人には重点的に治療し、リスクの低い人には過剰な治療にならないように配慮することが欧米の診療ガイドラインには取り入れられていました。その際、現実世界での危険性を認識しにくい相対リスクより、発症確率そのものを示す絶対リスクの方が治療に対する必要性をより真摯に考えることができます。例えばLDLコレステロールが高い人に「正常域の人より3倍も冠動脈疾患を発症しやすいです」という言葉は真実のリスクを伝えていません。「正常域の人の10年以内の冠動脈疾患発症率は0.5%ですが、あなたは1.5%です」というほうがより正確です。
冠動脈疾患の予防には危険因子の管理が重要であり、日本人に適した絶対リスクの評価に基づく
メリハリの効いた包括的な危険因子の管理が必要です。
協和メデックス_表1-4
最後にその人の分類に応じてLDLコレステロールの管理目標値を決定します。まずLDLコレステロールの管理が優先され、それぞれの分類に応じた管理目標値が示されています。すなわち二次予防では100 mg/dL未満、高リスクでは120 mg/dL未満、中リスクでは140 mg/dL未満、低リスクでは160 mg/dL未満であり、冠動脈疾患の発症リスクが高いほど厳しい管理目標値が適応されます。また管理目標達成の手段は生活習慣の改善が第一選択であり、それでも達成できない場合に初めて服薬治療を考えます。LDLコレステロールの管理目標値を達成できたら次いでNon-HDLコレステロールの管理目標値の達成を考えます。その目標値はLDLコレステロールの目標値にプラス30した値となります。その際はトリグリセライドの管理目標値である150 mg/dL未満を意識した治療を行います。
管理目標値の設定4
治療方針の原則 管理区分脂質管理目標値区分(mg/dL)
LDL-C Non-HDL-C TG HDL-C
低リスク
中リスク
高リスク
冠動脈疾患の既往
<190
<170
<150
<130(<100)
<160
<140
<120
<100(<70)
<150 ≧40
※※
一次予防
まず生活習慣の改善を行った後薬物療法の適用を考慮する
二次予防
生活習慣の是正とともに
薬物療法を考慮する
6
5
4
3
2
1
00 80 100 120 140 160
日本
アメリカ
LDLコレステロール(mg/dL)
(%)
冠動脈疾患の発症率(死亡率)
※ 家族性高コレステロール血症、急性冠症候群の時に考慮する。糖尿病でも他の高リスク病態※2を合併する時はこれに準ずる。●一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、低リスクにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上の場合は薬物治療を考慮するとともに、家族性コレステロール血症の可能性を念頭においておくこと(参考文献2 第5章参照)
●まずLDL-Cの管理目標値を達成し、その後のnon-HDL-Cの達成を目指す。●これらの値はあくまでも到達努力目標値であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30 %、二次予防においてはLDL-C低下率50 %以上も目標値となり得る。●高齢者(75歳以上)については参考文献2 第7章を参照。※2 ・非心原性脳梗塞 ・末梢動脈疾患(PAD) ・慢性腎臓病(CKD) ・メタボリックシンドローム ・主要危険因子の重複 ・喫煙
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」では、わが国で初めて「絶対リスク」の概念を脂質管理目標値の設定に導入しました。そこでは10年以内の冠動脈疾患の死亡確率を評価するNIPPON DATA80リスクチャートが用いられましたが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年度版」では絶対リスクの評価に冠動脈疾患の発症確率を評価する吹田スコアが用いられることになりました。吹田スコアは国立循環器病研究センターが1989年から開始したコホート研究(吹田研究)を基に作成されました。次ページより、吹田スコアを用いた絶対リスク評価について解説します。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版絶対リスク評価ツールについて
岡村 智教 先生
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 教授
2017年6月30日に5年ぶりに動脈硬化学会より標記のガイドラインが発表されました。改訂ポイントの一つである、絶対リスク評価について、ガイドラインの作成委員を
務められた岡村先生に解説いただきます。