口述第 セッション [ 神経1 ] 口述 6 1 ロボットスー...

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― 26 ― 口述 6- 1 【 目的 】近年、医療や介護の分野でリハビリロボットの活用 は増え、有効性が注目されている。その中で CYBERDYNE 株式会社により開発されたロボットスーツ HAL(HAL)は 世界初のサイボーグ型ロボットであり、身体運動機能の補 助・増幅・拡張を可能にすることからリハビリテーション分 野で歩行支援ツールの一つとして期待されている。また脳卒 中治療ガイドライン 2015 においては「歩行補助ロボットを 用いた歩行訓練は発症 3 ヶ月以内の歩行不能例に勧められ る」と報告している。当院では 2013 年から導入し、これま で脊髄損傷患者や脳卒中患者への効果検証を報告してきた。 一方で失調様歩行に対する検証は行っておらず、先行研究に おいても散見されない。今回、当院入院中の脳卒中発症後に 失調様歩行を呈した症例に対して HAL を用いた歩行練習を 行う機会を得た。本症例は歩行中の下肢振出し時に膝伸展が 乏しいことから歩幅の狭小化が出現し、加えて麻痺側下肢に おける単脚支持時間の短縮がみられたことで左右非対称な歩 行となっていた。本研究の目的は HAL を用いることでそれ ぞれの問題点が改善し、左右対称な歩行獲得に至るかを検証 するものである。 【 方法 】対象は当院入院中の右後大動脈領域の出血により左 片麻痺を呈した50歳代男性である。平成27年12月に発症 し平成 28 年 2 月に当院へ入院した。Brunnstrom Recovery Stage(BRS)は下肢Ⅳ、左下肢の表在・深部感覚は脱失、 Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA) は 21 点と失調を認めた。短下肢装具を装着した歩行は麻痺 側下肢のMid Swing(MSw)からTerminal Swing(TSw) にかけて膝伸展が出現せず、歩幅の狭小化がみられた。また 感覚障害の影響から麻痺側荷重が乏しく非麻痺側優位の荷重 となることから非対称性の歩行を認めた。そこで歩容の左右 非対称性改善を目的に HAL を使用し、前後比較による効果 検証を行った。HAL は両脚型を使用し大腿直筋、大臀筋、 外側ハムストリングス、外側広筋を対象筋として CVC モー ドによるアシストを行った。介入期間は一ヶ月とし、一回の 歩行練習時間は 40 分とした。測定項目は 10M 歩行による麻 痺側 TSw における膝伸展角度と麻痺側単脚支持時間とし、 測定は 10M 歩行中から一定した 5 歩行周期分の平均値を算 出した。膝伸展角度の算出には画像解析ソフト imageJ を使 用した。統計解析は paired-t test により介入前後の麻痺側 単脚支持時間と麻痺側膝関節屈曲角度を比較した。有意水準 は 1% とした。 【 説明と同意 】本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則 に配慮し、被験者に研究の目的、方法を説明し同意を得た。 【結果】HAL 介入前後で膝伸展角度が -35.50±3.53°から -14.71 ± 3.82°へ有意に増加し(p < 0.01)、麻痺側単脚支持 時間においても0.35±0.01秒から0.43±0.02秒と有意な差 を認めた(p <0.01)。また HAL 後の非麻痺側単脚支持時間 は0.49±0.04であったことから左右対称性の歩容獲得に 至った。 【考察】KK. Patterson らは歩行中の立脚期時間、遊脚期時 間の左右対称性は歩行速度や立位バランスとの関連があると 報告しており、脳卒中発症後の失調様歩行においても左右対 称性の獲得は重要であると考える。本症例は感覚障害の影響 により麻痺側下肢の TSw において膝が過度に屈曲位となり foot flat contact が生じていた。またそれらは麻痺側単脚支 持時間の短縮にも影響し、結果的に非対称な歩容を呈した。 そこで左右非対称な歩容改善を目的に HAL を使用したこと で麻痺側 TSw での膝伸展角度および麻痺側単脚支持時間に おいて有意な増加を認めた。これらは HAL の CVC モード による標的筋の出力を感知し関節運動をアシストした結果で あると考える。関節運動のアシストは正常に近い関節運動を 可能にする。これは感覚情報が乏しく筋発揮にばらつきが生 じやすい失調様歩行に対してバイオフィーバックとして適切 な感覚情報の入力が可能であることから運動学習をより促進 できるものであると考える。今回の麻痺側 TSw で改善を示 した膝伸展運動においても筋出力感知による関節へのアシス トにより正常に近い形で運動がなされた結果であり、これら が麻痺側の踵接地、それに連なって生じるロッカーファンク ションの出現に寄与したことで麻痺側単脚支持時間の延長が 図れたと考えている。これらのことを踏まえると脳卒中発症 後の失調様歩行に対する HAL の使用は有効であることが示 唆される。 【 理学療法研究としての意義 】本研究は脳卒中発症後の失調 様歩行に対する HAL の有効性を示したものである。今後、 ロボット機器の使用機会が増えていくなかで、対象の状態に 合わせてロボットを活用し満足度を高めていくことは理学療 法の発展に寄与し意義があると考える。 ロボットスーツ HAL の使用が脳卒中発症後の失調様歩行に与える影響 ~左右対称な歩行獲得に向けて~ ○原田 悠亮 ( はらだ ゆうすけ ) ,田口 潤智,堤 万佐子,中谷 知生,山本 洋平 宝塚リハビリテーション病院 Key word:HAL,失調様歩行,左右対称性 口述第 6 セッション  [ 神経 1 ]

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口述6-1

【目的】 近年、医療や介護の分野でリハビリロボットの活用は増え、有効性が注目されている。その中でCYBERDYNE株式会社により開発されたロボットスーツHAL(HAL)は世界初のサイボーグ型ロボットであり、身体運動機能の補助・増幅・拡張を可能にすることからリハビリテーション分野で歩行支援ツールの一つとして期待されている。また脳卒中治療ガイドライン2015においては「歩行補助ロボットを用いた歩行訓練は発症3ヶ月以内の歩行不能例に勧められる」と報告している。当院では2013年から導入し、これまで脊髄損傷患者や脳卒中患者への効果検証を報告してきた。一方で失調様歩行に対する検証は行っておらず、先行研究においても散見されない。今回、当院入院中の脳卒中発症後に失調様歩行を呈した症例に対してHALを用いた歩行練習を行う機会を得た。本症例は歩行中の下肢振出し時に膝伸展が乏しいことから歩幅の狭小化が出現し、加えて麻痺側下肢における単脚支持時間の短縮がみられたことで左右非対称な歩行となっていた。本研究の目的はHALを用いることでそれぞれの問題点が改善し、左右対称な歩行獲得に至るかを検証するものである。 【方法】 対象は当院入院中の右後大動脈領域の出血により左片麻痺を呈した50歳代男性である。平成27年12月に発症し平成28年2月に当院へ入院した。Brunnstrom Recovery Stage(BRS)は下肢Ⅳ、左下肢の表在・深部感覚は脱失、Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)は21点と失調を認めた。短下肢装具を装着した歩行は麻痺側下肢のMid Swing(MSw)からTerminal Swing(TSw)にかけて膝伸展が出現せず、歩幅の狭小化がみられた。また感覚障害の影響から麻痺側荷重が乏しく非麻痺側優位の荷重となることから非対称性の歩行を認めた。そこで歩容の左右非対称性改善を目的にHALを使用し、前後比較による効果検証を行った。HALは両脚型を使用し大腿直筋、大臀筋、外側ハムストリングス、外側広筋を対象筋としてCVCモードによるアシストを行った。介入期間は一ヶ月とし、一回の歩行練習時間は40分とした。測定項目は10M歩行による麻痺側TSwにおける膝伸展角度と麻痺側単脚支持時間とし、測定は10M歩行中から一定した5歩行周期分の平均値を算出した。膝伸展角度の算出には画像解析ソフト imageJを使用した。統計解析はpaired-t test により介入前後の麻痺側

単脚支持時間と麻痺側膝関節屈曲角度を比較した。有意水準は1%とした。 【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、被験者に研究の目的、方法を説明し同意を得た。 【結果】 HAL介入前後で膝伸展角度が -35.50±3.53°から-14.71±3.82°へ有意に増加し(p<0.01)、麻痺側単脚支持時間においても0.35±0.01秒から0.43±0.02秒と有意な差を認めた(p<0.01)。またHAL後の非麻痺側単脚支持時間は0.49±0.04であったことから左右対称性の歩容獲得に至った。 【考察】 KK. Pattersonらは歩行中の立脚期時間、遊脚期時間の左右対称性は歩行速度や立位バランスとの関連があると報告しており、脳卒中発症後の失調様歩行においても左右対称性の獲得は重要であると考える。本症例は感覚障害の影響により麻痺側下肢のTSwにおいて膝が過度に屈曲位となりfoot flat contact が生じていた。またそれらは麻痺側単脚支持時間の短縮にも影響し、結果的に非対称な歩容を呈した。そこで左右非対称な歩容改善を目的にHALを使用したことで麻痺側TSwでの膝伸展角度および麻痺側単脚支持時間において有意な増加を認めた。これらはHALのCVCモードによる標的筋の出力を感知し関節運動をアシストした結果であると考える。関節運動のアシストは正常に近い関節運動を可能にする。これは感覚情報が乏しく筋発揮にばらつきが生じやすい失調様歩行に対してバイオフィーバックとして適切な感覚情報の入力が可能であることから運動学習をより促進できるものであると考える。今回の麻痺側TSwで改善を示した膝伸展運動においても筋出力感知による関節へのアシストにより正常に近い形で運動がなされた結果であり、これらが麻痺側の踵接地、それに連なって生じるロッカーファンクションの出現に寄与したことで麻痺側単脚支持時間の延長が図れたと考えている。これらのことを踏まえると脳卒中発症後の失調様歩行に対するHALの使用は有効であることが示唆される。【理学療法研究としての意義】 本研究は脳卒中発症後の失調様歩行に対するHALの有効性を示したものである。今後、ロボット機器の使用機会が増えていくなかで、対象の状態に合わせてロボットを活用し満足度を高めていくことは理学療法の発展に寄与し意義があると考える。

ロボットスーツ HALの使用が脳卒中発症後の失調様歩行に与える影響~左右対称な歩行獲得に向けて~

○原田 悠亮 (はらだ ゆうすけ) ,田口 潤智,堤 万佐子,中谷 知生,山本 洋平 宝塚リハビリテーション病院

Key word:HAL,失調様歩行,左右対称性

口述第6セッション [ 神経1 ]