デジタル放送のミリ波RadioonFiber 伝送ƒ‡ジタル放送波 増幅器...

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報告

デジタル放送のミリ波Radio on Fiber伝送

中戸川剛 前田幹夫 小山田公之

Millimeter −wave Radio on Fiber System for DigitalBroadcasting Signals

Tsuyoshi NAKATOGAWA, Mikio MAEDA and Kimiyuki OYAMADA

光ファイバーを加入者宅まで直接敷設することが困難な集合住宅などに,光ファイバーで伝送されているデジタル放送を配信するための補完手段として,光ファイバー伝送路の末端をミリ波の無線伝送に置き換えるRoF(Radio on Fiber)伝送システムを開発した。本稿では,伝送システムのキーデバイスである光SSB(Single Side Band)変調器およびミリ波受信器について述べ,その有効性を示す。提案する光SSB変調器を用いて変調実験を行い,光変調度を理論値と4dB以内の誤差で設定できること,従来の変調器よりもミリ波信号のCNR(Carrier to Noise Ratio)を14dB改善できることを明らかにした。また,提案するミリ波受信器が従来方式と同程度の良好な位相雑音特性を有し,受信感度を10dB改善できることを確認した。更に,40GHz無線実験局を用いて総合伝送実験を行い,出力5mWの1台のミリ波送信器で1棟の集合住宅をカバーできる見通しを得た。

要約

RoF(Radio on Fiber)is an attractive delivery method for areas or homes where it is difficult toinstall optical fiber cables. We have proposed a transmission method that provides multi-channeldigital broadcasting services to subscribers on FTTH(Fiber To The Home)and millimeter-waveRoF networks using self-heterodyne technology. This paper describes a method for single sideband(SSB)modulation with a reduced carrier, which increases the optical modulation index(OMI)by tuning the applied bias voltages of an external optical modulator. This method canincrease the OMI and improve the reception CNR(Carrier-to-Noise Ratio)of millimeter-wavesby 14 dB. In addition, we propose a novel millimeter-wave receiver for subscribers using self-heterodyne detection. The receiver separates the carrier and the side band and eliminates thermalnoise close to the carrier. It can improve sensitivity by 10 dB compared with a conventional self-heterodyne receiver. A wireless transmission experiment proved the practicality of the receiverand the RoF system.

ABSTRACT

NHK技研 R&D/No.127/2011.524

デジタル放送波 増幅器 (無線伝送)

fsig

fC

fcar

光SSB変調器

周波数シフター

ミリ波発振器

ミリ波送信器

光送信局 (ヘッドエンド)

光受信器

光受信器

ミリ波受信器

ミリ波搬送波ミリ波側波帯

(光ファイバー伝送)

無変調光 光搬送波光側波帯

※1レーザーダイオード※2エルビウム添加光ファイバー増幅器

加入者B

加入者A

TV

TV

fcar fcar + fsig

fC – fcar

LD※1

fC fC + fsig

EDFA※2

1.まえがきデジタル信号の光ファイバー伝送においては,2値(1と0)のデジタル信号をOnとOffの2値の光強度に変調するOOK(On Off Keying)方式以外に,デジタル変調された信号を光強度に変調するRoF(Radio on Fiber)方式がある。RoF方式は,既に,ケーブルテレビの光伝送システム*1や,携帯電話のギャップフィラー*2においてリモートアンテナ*3と基地局間を接続するシステム等に広く用いられている1)。ミリ波RoF通信システムは,広帯域のミリ波帯*4通信信号をリモートアンテナから基地局へ低損失に伝送できる技術として,近年注目されている2)~4)。ケーブルテレビにおいても,ミリ波無線伝送は既設の集合住宅や河川越えなど,ケーブルの新たな敷設が困難なエリアへの再送信に有効である。また,地上デジタル放送の開始に伴い,新たにビル陰難視となった地域においては,ミリ波を用いたギャプフィラーで難視地域を補完する手法が考えられている5)。これまでに,ケーブルテレビの有線ネットワークを補完するために23GHz帯の無線伝送システム6)が実用化されている。また,40GHz帯7),60GHz帯8)の無線伝送システムも検討されている。我々は,光ファイバーを加入者宅まで直接敷設することが困難な集合住宅などに,デジタル放送を光ファイバーで配信するための補完手段として,光ファイバーで伝送されてきた放送信号を加入者宅の近傍に設置したミリ波送信器でミリ波に変換して,加入者宅までを無線伝送するRoFシステムの研究を進めてきた。しかし,実用化に関して2つの課題があった。1つはマッハツェンダー型光強度変調 器*5の 光 変 調 度*6(Optical Modulation Index:OMI)が低く,多チャンネル伝送時に安定した受信に必

要なCNR(Carrier to Noise Ratio)が得られないという課題9)である。他の1つは,ミリ波送信器1台当たりのカバーエリアを広げるために,ミリ波受信器の感度を高くする必要があるという課題である。本稿では,第2章で開発したRoF伝送システムの全体像について述べる。第3章で搬送波を低減して高いOMIを得ることのできる光単側波帯(Single Side Band,以下SSB)変調を4分岐型のマッハツェンダー光強度変調器で実現する手法と変調実験について述べる。第4章で従来よりも高感度なミリ波受信器の構成法と受信実験について述べる。第5章で40GHz帯無線実験局を用いたRoFシステムの総合伝送実験について述べる。

2.ミリ波RoFシステム1図の加入者A側に我々が提案する無線を用いたミリ波RoFデジタル放送再送信システムを示す。fsigはデジタル放送波の周波数(以下,RF(Radio Frequency)帯),fcarはミリ波搬送波の周波数,fCは光搬送波用の光源の周波数である。

1図 デジタル放送波のミリ波RoF伝送システム

*1 VHF/UHF帯やBS-IF/CS-IF帯の放送信号など,周波数多重された複数の信号を光強度変調して伝送する方式はSCM(Sub CarrierMultiplexing)と呼ばれることが多い。

*2 地下街や無線基地局からの遠隔地など,通信や放送の電波が届きにくい地域・場所に対して,サービスエリアを補完する目的で設置する無線伝送装置。

*3 経済性や電源確保等の理由により,アンテナを基地局近傍に設置できない場合に,光ファイバーや同軸ケーブルを介して基地局から離れた場所に設置するアンテナ。

*4 30GHz~300GHz(波長:1mm~10mm)の周波数帯。

*5 光搬送波を2分岐して位相変調を行い,それらを再合成することで強度変調の光信号を生成する光強度変調器。

*6 信号の直流成分と交流成分の振幅比。

NHK技研 R&D/No.127/2011.5 25

DCA DCC

MZA

MZB

MZ

光搬送波入力

デジタル 放送波

DCB

グラウンド電極

k =4電極Bk =3

k =2電極Ak =1

電極C-π/2-π/2-π/2

光変調波出力

光導波路

Z軸(大きな屈折率変化が生じる結晶方向)

電界の向き

k =2

k =1

k =3

k =4

断面の構造

0

光送信局では,まず,光搬送波( fC)を2分岐する。一方の搬送波はデジタル放送波( fsig)で光SSB変調してSSB光信号( fCとfC + fsig)を生成する。他方の搬送波はミリ波搬送波周波数( fcar)だけ周波数シフトして無変調光信号( fC - fcar)を生成する。その後,両者を多重して光ファイバーで伝送する。ミリ波送信器では,多重された光信号を受信し,光受信器で光信号の自己ヘテロダイン検波*7を行い,ミリ波帯の放送波(ミリ波側波帯:fcar + fsig)とミリ波搬送波( fcar)を生成する。この2つの信号をミリ波の電波として加入者宅(1図の加入者A)に送信する。加入者宅では2つのミリ波信号の自己ヘテロダイン検波を行い,元のRF帯のデジタル放送波( fsig)を得る。一方,1図の加入者B側は光ファイバーで光信号が受信できるので,光搬送波( fC)と光側波帯( fC + fsig)の光自己ヘテロダイン検波を行い,直接,元のRF帯のデジタル放送波( fsig)を得る。

3.搬送波を低減した光SSB変調マッハツェンダー型光強度変調器の電気・光変換特性は

ひず

非線形で,歪みを小さくするためにはOMIを低くする必要があり,従来は十分なCNRが得られなかった。そこで,SSB信号の光搬送波をSdB低減し,1図のEDFA(エルビウム添加光ファイバー増幅器)で光搬送波と光側帯波をSdB増幅することにした。

1図のミリ波送信器の光受信器の出力には光受信器の熱雑音,ショット雑音*8,光源等の雑音が含まれ,受光電力が小さい場合には光受信器の熱雑音が支配的になり,受光電力が大きい場合には光源等の雑音が支配的になる。従って,受光電力が小さい場合には,同じ光変調度のDSB(Double Side Band)信号に対して,ミリ波信号でS+6dB,RF帯信号でSdB,CNRを改善することができる10)。一方,受光電力が大きい場合には,提案方法ではCNRを改善することはできないが,本稿では受光電力が小さいときのCNRを改善することを目的としている。我々は,周波数シフターや光周波数変調器として用いられている4分岐型マッハツェンダー光強度変調器11)~13)を用いて,高いOMIを実現することにした。以下,4分岐型マッハツェンダー光強度変調器のバイアス設定法と,変調実験について述べる。3.1 光SSB変調器のバイアス条件一般的なマッハツェンダー型光強度変調器では,2分岐した光導波路ごとに位相変調を行い,それらを再合成してDSBの強度変調の光信号を生成する9)。一方,我々が提案する光SSB変調器はXカットのLiNbO3(ニオブ酸リチウム)結晶*9で作製した4分岐のマッハツェンダー型光強度変調器14)である。2図に示すように,主となるマッハツェンダー構造(MZ)の2つの光導波路にそれぞれ副マッハツェンダー構造(MZA,MZB)を持つ。変調信号は複数の放送波を多重した高周波信号であるが,以下の理論検討では,式を単純化するために,MZA,MZBで変調する信号は電圧実効値VRF,周波数fsigの単一正弦波とする。また,MZBに入力する放送波の位相は-π/2シフトする。光SSB変調器の4経路(k=1,2,3,4)はそれぞれが位相変調器*10として動作し,光SSB変調器出力における搬送波の電界強度E0およびn番目の側波帯の電界強度En(n=±1,±2,・・・)は第1

2図 光SSB変調器の構成図

*7 送信信号そのものまたはその一部を受信器の局部発振信号として用いて周波数変換を行う受信方式。

*8 信号を伝える電子の電荷や光子のエネルギーが有限の大きさであるために生じる雑音。量子雑音とも呼ばれる。

*9 ニオブ酸リチウム結晶を育成方向に垂直に切断・研磨したもの。育成方向に水平に切断・研磨したものはZカットと呼ばれる。

*10 光導波路の一部分に電圧を印加して屈折率を変えることによって位相を変化させる変調器。

報告

NHK技研 R&D/No.127/2011.526

種ベッセル関数*11Jn()を用いて(1)式で表される。ただし,4経路への分岐比を等分とし,分岐後の光搬送波の振幅を1に正規化した。また,nが正の場合が上側波帯,負の場合が下側波帯である。

(1)

ここで,mpはMZA,MZBの各アーム*12の位相変調指数*13,θn,kは位相である。位相変調指数mpは(2)式で表すことができ,VπSはMZA,MZBの各アームの半波長電圧*14である。

(2)

位相θn,kは時間tの関数として(3)式で表される。ただし,DCA,DCB,DCCはそれぞれ電極A,B,Cへ印加する直流バイアス電圧,VπMは主となるマッハツェンダー変調器MZの半波長電圧である。

(3)

ここで,Ωn=2πfC+2πnfsigとした。(3)式に示すように,マッハツェンダー構造の1つの光導波路で生じる光の位相シフトのうち,時間tで変動しない部分(固定部分)の大きさは印加電圧とnに依存する。例えば,搬送波(n

=0)の場合には固定部分の位相シフトの大きさは印加電圧に比例し,印加電圧がゼロの場合にはゼロとなる。側帯波の場合には,印加電圧がゼロであっても,固定部分の位

相シフトの大きさはnに比例する。(1)式~(3)式より,DCA = DCB,DCC=-VπM/2の場合には,搬送波の電界強度E0,1次の上側波帯および下側波帯の電界強度E1およびE-1の絶対値は,

(4)

(5)

(6)

となる(付録A参照)。(6)式に示すように1次の下側波帯はゼロである。|n|≧2の側波帯は|n|=1の側波帯と比較して十分小さく,無視できるので,光SSB変調を行っていることになる。従って,OMIの値maは1次の上側波帯と搬送波の振幅比で表すことができ,(7)式となる。

(7)

(2)式を(7)式に代入すると(8)式となる。

(8)

(8)式にVπSとVRFを代入することで,所望のmaを満たす直流バイアス電圧DCAが求まる。SSB変調となる条件(DCA = DCB,DCC=-VπM/2)とVπMの値から,DCBとDCCが求まる。1次の上側波帯電力Psigと搬送波電力Pcarの比をγとし,γをmaで表すと(9)式となる。

(9)

変調信号がNチャンネルの放送波で,h番目のチャンネルのOMIがmhである場合には,全チャンネルを合計した

OMIは で表され,実効光変調度と呼ばれてい

る。Nチャンネルの放送波がすべて同じ光変調度である場合には,1チャンネル当たりのOMIの値は(8)式の

である。

*11 ベッセルの微分方程式における解の1つ。位相変調波および周波数変調波を表す数式を側波帯周波数ごとの項の和として展開する際に用いられる。

*12 マッハツェンダー構造において,位相変調器として動作する各光導波路のこと。

*13 位相変調器において,変調信号の最大振幅で生じる位相偏移の大きさ。

*14 光導波路の屈折率変化によって,光搬送波が半周期(π)移相する電圧。

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理論値

実測値

10

0

0 1 2 3 4 5

ー 10

ー 20

ー 30

ー 40

ー 50

側波帯電力対搬送波電力比γ(dB)

DCA, DCB (V)

3.2 変調実験1表に示すパラメーターで,バイアス電圧DCAとDCBを変化させて,地上デジタル放送の隣接8波信号の光変調実験を行った15)。理想的なデバイスとは異なり,実際のデバイスでは4つの経路長にずれがあるので,バイアス値に路長差を補償するためのオフセット電圧(VoA,VoB,VoC)を加算して各電極に印加した。γの実測値と(9)式から求まる理論値を3図に示す。γが0dBから-40dBの範囲では,実測値と理論値は4dB以内で一致している。(8)式から明らかなように,3つの電極へ印加するバイアス電圧を変えることで,光SSB変調の変調度を制御することができる。4dB以内のずれが生じた理由としては,理論値の導出において半波長電圧の周波数特性を無視したこと,4経路の分岐比と各経路の伝搬損失が実際のデバイスでは等しくなかったことなどが考

えられる。次に,DSB変調とSSB変調の光受信器出力のCNRを比較した。ただし,SSB変調の搬送波のレベルをDSB変調の搬送波のレベルより10dB低減した。受光電力を-8dBm*15とした場合のDSB変調のミリ波スペクトル(分解能300kHz)を4図(a)に示す。ただし,変調時の歪みを避けるためにγ=-20dB(OMIは3.5%/ch)とした。また,SSB変調のミリ波帯スペクトル(分解能300kHz)を4図(b)に,その側波帯部分を拡大して4図(c)に示す。SSB変調では,DSB変調と比較して搬送波を10dB低減し,γ=-10dB(OMIは11%/ch)となるようにした。すなわち,3図の実験結果からDCA(=DCB)を3.1Vに設定し,電極A,B,Cには,オフセット電圧を考慮した補正値として,それぞれ3.8 V,0.3 V,-3.0 Vを印加した。既に述べたように,理論的には,受光電力が小さい場合には搬送波を10dB低減することで,DSB変調に対してCNRをミリ波信号で16dB,RF帯信号で10dB改善することができる。5図にSSB変調とDSB変調のミリ波信号(MMW:Millimeter Wave)とRF帯信号(RF)の受信CNRを受光電力の関数として示す。受光電力が小さい場合(-10dBm以下)には,SSB変調にすることで,ミリ波帯のCNR(5図中の )は14dB改善されている。この値は理論値の16dBとほぼ一致している。また,RF帯のCNR(5図中の●)は7dB改善されている。この値も同様に理論値10dBとほぼ一致している。5図に示す実験結果で,

3図 SSB変調信号の側波帯電力対搬送波電力比γ

1表 光SSB変調のパラメーター

*15 電力P(単位:mW)に対して10log10P で定義される値。dBmWと同じ。470MHz~518MHzfsig放送波周波数

GHz40.7fcarミリ波搬送波周波数

V0.4VoC電極Cオフセット電圧

V‒2.8VoB電極Bオフセット電圧

V0.7VoA電極Aオフセット電圧

0.138mp位相変調指数

V‒3.4DCC電極Cバイアス電圧

V6.8VπC電極C半波長電圧

V3.6VπS電極A,B半波長電圧

nm1,551.0-光源波長

値記号項目

報告

NHK技研 R&D/No.127/2011.528

0

-20

-40

-60

-80

39.7 40.2 40.7 41.2 41.7

周波数(GHz)

(a)DSB変調信号

相対電力(dB)

0

-20

-40

-60

-80

39.7 40.2 40.7 41.2 41.7

周波数(GHz)

(b)SSB変調信号

相対電力(dB)

-20

-40

-60

-80

-100

41.19 41.24 41.29

周波数(GHz)

(c)SSB変調信号(側波帯部分の拡大表示)

相対電力(dB)

SSB変調方式のRF帯のCNR(5図中の●)がミリ波帯のCNR(5図中の )よりも大きい理由として,RF帯の実験では狭帯域設計の低雑音の光受信器を用いたことが考えられる。以上の理論検討と変調実験から,バイアス電圧によって光変調度の制御が可能なこと,光SSB変調を行うことでCNRが改善できることの見通しを得た。

4.高感度ミリ波受信器無線伝送は搬送波の有無で伝送方式を大別できる。搬送波を伝送しない方式は,搬送波を送信するための電力分だけ送信電力を削減できるが,受信側で搬送波信号を正確に復元できなければ,元の周波数とのずれや位相雑音が生じ

る。一般に,周波数が高くなるほど発振信号の位相雑音が大きくなるので,従来のミリ波の無線伝送では位相雑音の小さい自己ヘテロダイン検波方式が用いられている16)。自己ヘテロダイン検波方式の受信器は,構成は簡素であるが,原理的に感度が低いので,ミリ波送信器の1台当たりのサービスエリアを広げられないことが課題であった。以下,従来方式と同程度の良好な位相雑音特性を持ち,より高感度なミリ波受信器17)について述べる。4.1 従来方式の構成とCNR従来の自己ヘテロダイン検波方式のミリ波受信器の構成を6図に示す。受信信号を増幅し,帯域制限した後で2乗検波する簡素な構成である。

4図 ミリ波信号のスペクトル

NHK技研 R&D/No.127/2011.5 29

fcar fcar + fsig fsig

BPFa

2乗検波器受信信号

00-5-10-15-20-25-30

30

20

10

40

受光電力(dBm)

CNR(dB)

RF

MMW

DSBSSB

SSB_RF

DSB_RF

SSB_MMW

DSB_MMW

SSB

DSB

従来方式の受信器の出力CNR(CNROUT)は(10)式で表される16)。

(10)

ここで,CNRINは受信器入力のCNR,Prは受信電力,Nは放送波のチャンネル数,B0は放送波の1チャンネル当たりの帯域幅,Baは受信器のフィルターBPFaの通過帯域幅,kはボルツマン定数*16,Tは絶対温度,Fは受信器の雑音指数である。γは3章で述べた光SSB変調信号の側波帯電力対搬送波電力比と同じで,ミリ波信号の側波帯電力対搬送波電力比である。受信電力Prは,ミリ波送信電力Pt,送受信アンテナ利得の和Gant,ミリ波信号波長λ,伝

送路長d,アンテナ給電損等の損失Lfを用いて(11)式で表される。

(11)

(10)式および(11)式から,ミリ波送信電力Ptが一定の場合には,CNROUTはγが1のときに最大となることがわかる。搬送波を低減することができない従来方式では,ミリ波送信電力を一定の定格出力にするために側波帯電力を小さくする必要があり,受信器内部の雑音の影響を大きく受け,CNRが劣化する。4.2 提案方式4.2.1 提案方式の構成ミリ波送信電力が一定であるという条件では,搬送波電力を低減し,側波帯電力を増加させることで受信感度を向上させることができる。ただし,この場合には,受信器で搬送波電力を増幅する必要がある。7図に提案方式の構成を示す。7図のMFは初段の増幅

6図 従来の自己へテロダイン検波方式のミリ波受信器の構成

5図 ミリ波信号とRF帯信号のCNR

*16 k =1.3806504×10-23。

報告

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B

D

MC

MS

MF

C E

A

fcar + fsig – floc fsig

LPF1 BPFS LPF2

BPFC

floc

fcar

fcar + fsig – floc

fcar – floc

fcar – floc

fcar + fsig

ミリ波のSSB信号

と中間周波数への変換を行うブロック(フロントエンド)で,MSとMCはそれぞれ側波帯と搬送波を抜き出してレベル調整を行うブロックである。MFでは,まず,受信器内の局部発振器( floc)を用いて,受信した信号Aを中間周波数の信号Bに変換する。次に,BPFSとBPFCで側波帯(信号C)と搬送波(信号D)に分離する。それぞれの信号を最適な電力に調整し,周波数ミキサーで掛け合わせてダウンコンバージョンを行う。LPF2を通して差信号を取り出すことで出力信号E( fsig)を得る。提案方式は元の搬送波( fcar)と放送波( fcar+fsig)をダウンコンバージョンに用いるので,従来方式と同様に,伝送系で発生する周波数変動や位相雑音の影響を受けない。受信器内の局部発振周波数 flocが変動して,仮に,floc+Δflとなったとしても,変動成分Δflは周波数ミキサーで相殺され,出力信号の周波数は fsigとなる。従って,位相雑音特性のあまり良くない低廉な局部発振器を用いた場合においても,出力信号は局部発振器の周波数変動や位相雑音の影響を受けない。提案方式の受信器のフロントエンドでは,電力レベルの小さい搬送波に熱雑音が加わり,搬送波のCNRが劣化するので,そのまま搬送波を増幅して周波数ミキサーに入力すると出力信号EのCNRが劣化する。そこで,搬送波側のフィルター(BPFC)を狭帯域にして,熱雑音を除去し,出力信号EのCNRを改善する。狭帯域のBPFCをミリ波帯で実現することは困難なので,受信器内で中間周波数に変換し,中間周波数帯でBPFCの狭帯域化を実現する。4.2.2 提案方式のCNR搬送波通過フィルターBPFCで搬送波の帯域外雑音を除去することが,提案方式の高感度化に大きく貢献している。提案するミリ波受信器の出力CNRは(12)式で表される(付録B参照)。

(12)

ここで,BCはBPFCの通過帯域幅である。側波帯電力対搬送波電力比γに対するCNROUTの理論値をBCをパラメーターとして8図に示す。ただし,N,Pr,CNRIN,F,B0,k,Tをそれぞれ8,-60dBm,35dB,9dB,5.6MHz,1.38×10-23J/K,290Kとした。8図は,γが大きくなるに従ってCNROUTは増加し,最大となった後,低下する傾向があることを示している。ただし,CNROUTが最大となるγの値はBCの値によって異なっている。このように変化する理由は,①γが大きくなる,すなわち,信号全体の電力に占める側波帯電力の割合が大きくなるに従って側波帯は受信器のフロントエンド雑音の影響を受けにくくなり,側波帯のCNRが改善される,②γが更に大きくなると,搬送波がフロントエンド雑音の影響を受け,搬送波のCNRが低下するからである。BCが狭いほど出力CNRが高い理由は搬送波のフロントエンド雑音をより多く除去できるからである。BPFCを狭帯域にするほどCNROUTを最大にするγの値は大きくなり,CNRの改善効果を大きくすることができる。しかし,BPFCを極端に狭帯域にした場合には,局部発振周波数に高い安定性が必要になり,低廉化が困難になる。また,非常に安定した局部発振器を用いたとしても,搬送波に乗っていた位相雑音のうち,BC/2以上周波数が離れている位相雑音は熱雑音と共に除去されるので,周波数ミキサーで側波帯の位相雑音成分を相殺することができなくなる。試作装置では,ミリ波搬送波周波数( fcar=40.7GHz)に対して,局部発振信号周波数 flocを38GHzとして,3GHz帯の中間周波数に変換した。また,ミリ波搬送波と局部発振信号で生じる

7図 提案方式のミリ波受信器の構成

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29

27

25

23

21-5 0 5 10

N=8

PIN = ‒60dBmCNRIN =35dB

F=9dB

B0=5.6MHz

BC=56kHz

BC=560kHz

BC=2.8MHz

BC=5.6MHz

側波帯電力対搬送波電力比γ(dB)

CNROUT(dB)

提案方式 ー 50dBm

従来方式 ー 50dBm

提案方式 ー 60dBm

従来方式 ー 60dBm

35

30

25

20

15

10

5

0ー 20 ー 10 0 10 20

提案方式

従来方式

ー 50dBm

ー 60dBm

側波帯電力対搬送波電力比γ(dB)

CNROUT(dB)

周波数変動の許容値を±20 ppm*17(±0.8MHz)と仮定し,更に,搬送波位相雑音への影響を小さくするために±0.2MHzのマージンを見込み,BCを2MHzとした。BCを2MHzにすることで,BCがB0と同じ5.6MHzの場合より,CNROUTのピーク値で約1.5dB改善できる。9図に,受信電力Prが-50dBmと-60dBmの場合の側

波帯電力対搬送波電力比γに対するCNROUTの理論特性を示す。9図には(12)式の提案方式と(10)式の従来方式の特性を示した。ただし,N,BC,CNRIN,FF,B0,k,Tをそれぞれ,8,2MHz,35dB,9dB,5.6MHz,1.38×10-23J/K,290Kとした。従来方式では,受信電力によらず,γが0dBでCNROUT

が最大となるが,提案方式では,受信電力により,γが約5dB~9dBでCNROUTが最大となる。また,Pr=-60

8図 搬送波通過フィルター帯域幅BCをパラメーターとした側波帯電力対搬送波電力比γに対する出力CNR特性

9図 最適な側波帯電力対搬送波電力比γ

*17 ppm:parts per million。100万分の1。20 ppmは0.002%。

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10-1

10-2

10-3

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8-90 -80 -70 -60 -50 -40

従来方式(実測値)

従来方式(理論値)

提案方式(実測値)

提案方式(理論値)

ミリ波受信電力 Pr (dBm)

BER

10-1

10-2

10-3

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8-90 -80 -70 -60 -50 -40

従来方式(実測値)

従来方式(理論値)

提案方式(実測値)

提案方式(理論値)

ミリ波受信電力 Pr (dBm)

(a) γ=0(dB)の場合 (b)γ=9(dB)の場合

BER

dBmの場合のCNROUTの最大値で比較すれば,従来方式では19dBであるが,提案方式では26dBであり,7dBの改善効果が得られている。4.3 ダウンコンバージョン実験4.3.1 位相雑音特性1図に示したRoFシステムにおいて,放送波信号の代わりにRF帯の正弦波( fsig =500 MHz)を伝送して,ミリ波搬送波発振器( fcar),ミリ波受信器局部発振器( floc),放送波周波数(無変調波)発振器( fsig)および提案方式と従来方式のミリ波受信器出力信号の位相雑音を測定した。結果を2表に示す。提案方式の受信器出力信号( fsig= 500MHz)の位相雑音は,2つのミリ波発振器出力信号( fcar = 40.7GHz,floc = 38GHz)の位相雑音よりも小さく,従来方式と同程度の値が得られており,ミリ波発振器の位相雑音が良好に相殺されていることがわかる。4.3.2 BER特性1図に示したRoFシステムにおいて,3表に示す諸元を用いて,ミリ波受信器入力電力に対するUHF 23chの誤り率(Bit Error Ratio:BER)特性を従来方式と提案方式で測定した。ただし,ミリ波無線伝送の代わりに同軸ケーブルと可変減衰器を用いた。

10図(a)に従来方式の受信器でCNRが最大となるγ=0dBの場合のBER特性を,10図(b)に提案方式の受信器でCNRが最大となるγ=9dBの場合のBER特性を示す。また,10図にはBER特性の理論値を白抜き記号で,地上デジタル放送(符号化率3/4)の誤り訂正後に擬似エラーフリーとなる2×10-2を良好な伝送の目安として破線で示した18)。BER特性の理論値BERは,(10)式と(12)式に4表のパラメーターを代入して従来方式と提案方式のCNRの理論値を求め,その値を(13)式に代入して求め

10図 受信器入力電力対BER

2表 ミリ波受信器の位相雑音特性

※ 測定周波数と中心周波数との差

-89-90

fsig=500MHz

提案方式ミリ波受信器出力

-94-86従来方式ミリ波受信器出力

-103-97放送波RF周波数発振器

-81-80floc=38GHzミリ波受信器局部発振器

-77-75fcar=40.7GHzミリ波搬送波発振器

離調周波数※10kHz

離調周波数※1kHz

周波数信号位相雑音(dBc/Hz)

3表 BER測定実験の諸元

※ 誤り訂正後に擬似エラーフリーとなるBER

搬送波 40.7GHz放送波 41.212GHz~41.26GHzミリ波周波数

8(UHF20ch~27ch)伝送チャンネル数

2×10-2所要BER※

MODE3,ガードインターバル比1/8,64QAM(13セグメント),誤り訂正無し,23次PN符号

地上デジタル放送波

値項目

4表 ミリ波受信器のBER理論値算出のパラメーター

MHz2BC提案方式ミリ波受信器搬送波通過フィルター帯域幅

GHz1Ba従来方式ミリ波受信器フィルター帯域幅

MHz5.6B0地上デジタル放送波帯域幅

dB9F雑音指数

K290T絶対温度

J/K1.38×10-23kボルツマン定数

dB35CNRINミリ波受信器入力CNR

8N放送波チャンネル数

値記号項目

NHK技研 R&D/No.127/2011.5 33

地上デジタル8波(UHF20~27ch)

増幅器ビル

中心点C

受信点40.7GHz 発振器

fsig

fcar

fcar

fC光SSB変調器

周波数シフター

光送信局 (ヘッドエンド)

光受信器

ミリ波送信器

5階

4階

3階

2階

ミリ波搬送波

ミリ波側波帯

10m0m

-15m

45m

4.3m

無変調光 光搬送波光側波帯

LD:レーザーダイオードEDFA:エルビウム添加光ファイバー増幅器

fcar

fcar + fsig

LD

fC – fcar fC fC + fsig

EDFA

CNR測定

fsig

ミリ波受信器

た。ただし,erfcは誤差補関数であり,Lはデータシンボルの平均レベルに対するパイロットシンボルのレベルの比,Nftはパイロットシンボルの周波数方向間隔Nfと時間方向間隔Ntとの積である。パイロットシンボルのパラメーターはL=4/3,Nft = 12とした19)。

(13)

BERが2×10-2となるミリ波受信電力Prは,従来方式の受信器で γ=0dBの場合(10図(a))に理論値-58dBm,実測値-55dBmであったが,提案方式の受信器でγ=9dBの場合(10図(b))に理論値,実測値共に-65dBmであった。提案方式は従来方式と比較して実測値で10dB感度が高いことがわかる。なお,10図(b)においてPr=-60dBm以上で実測値のBERが理論値のBERと比較して著しく劣化している理由は,理論計算では考慮していない受信器の初段増幅器の非線形性によって3次相互変調歪みが発生していることによる。

5.ミリ波無線伝送を含む総合伝送実験ミリ波RoF伝送システムにおいて,光変調からミリ波無線信号の受信まで一貫して伝送した総合伝送実験の報告例

は少ない。そこで,1台の送信器で多くの加入者に放送波を無線分配する集合住宅などのシステムを想定し,40GHz帯無線実験局(定格出力5mW)を用いて屋外伝送実験を行い,提案するミリ波RoFシステムの有効性を検証した。5.1 実験方法実験の構成を11図に,諸元を5表に示す。光送信局で地上デジタル放送8波(UHF20ch~27ch)をγ=9dBで光SSB変調する。1kmの光ファイバーを経由して屋外のミリ波送信器に光信号を伝送し,光自己ヘテロダイン検波を行って40GHz帯の放送波8波と搬送波に変換する。ミリ波送信器で放送波8波と搬送波を5mWの定格出力まで増幅し,ビルの3階の受信点(11図の中心点C)にアンテナの指向性を向けて送信した。なお,受信点のアンテナの指向性は送信器の方向に向けた。1台の送信器で多くの加入者に信号を伝送するために,送信側には広角な指向性(半値全幅30°,利得13dB)を持つアンテナを用い,受信側には大きな利得が得られ,反射波を受けにくい狭角な指向性(半値全幅8°,利得22dB)を持つアンテナを用いた。送受信ともに円偏波のアンテナ20)

とした。ミリ波送信器から受信点(ビル)方向を見た写真を12図(a)に,2階の受信点からミリ波送信器方向を見た写真を12図(b)に示す。実験は晴天時に行った。5.2 実験結果ミリ波送信器をビルから45m,地上高1.3mの位置に固

11図 実験局を用いた無線伝送実験

報告

NHK技研 R&D/No.127/2011.534

(a)ミリ波送信器から見た受信点方向(写真手前が送信アンテナ)

(b)2階の受信点から見たミリ波送信器の方向 (写真手前が受信アンテナ。外灯付近にミリ波送信器を設置)

4階30

20

10

25

15

ー15 ー10 ー5 5 100 15水平位置(m)

2階

理論値実験値

30

20

10

25

15

ー15 ー10 ー5 5 100 15水平位置(m)

CNROUT(dB)

CNROUT(dB)

CNROUT(dB)

CNROUT(dB)

3 階

理論値実験値

30

20

10

25

15

ー15 ー10 ー5 5 100 15水平位置(m)

5階

理論値実験値

30

20

10

25

15

ー15 ー10 ー5 5 100 15水平位置(m)

理論値実験値

定し,受信アンテナをビルの2階~5階の各階に置いて,水平方向に移動して,ミリ波受信器の出力である放送波のCNRを測定した。各階の受信CNRの測定結果と,(11)式と(12)式で算出したCNRの理論値を13図に示す。なお,誤り訂正後に擬似エラーフリーとなるCNRの値21dBを所要CNRとして太い破線で示した21)。受信アンテナをビルの外に設置することができなかったので,受信アンテナはビルの中に設置して窓ガラス越しにミリ波を受信した。(11)式のLfの値はガラス透過損を2dB,送受信アンテナの方向ずれによる損失を2dB,給電損を3dBとして合計7dBとした。(12)式の他のパラメーターは4表の値を用いた。13図の実測値は中心点Cを中心とする直径約20mの円の内側でCNRが21dB以上となり,擬似エラーフリーとなることを示している。この結果から,提案方式の受信器を用いることで,1台のミリ波送信器で4階程度の集合住宅1棟をカバーできる見通しが得られた。

5表 ミリ波無線伝送実験の諸元

※誤り訂正後に擬似エラーフリーとなるCNR

21dB―所要CNR※35dBCNRINミリ波受信器入力CNR

5mWPt送信全電力(定格出力)

9dB(側波が大きい)γ側波帯対搬送波電力比

送信:13dB,30度受信:22dB,8度―アンテナ利得,半値全幅

MODE3,ガードインターバル比1/8,64QAM(13セグメント)

―地上デジタル放送信号形式

UHF20ch~27ch(8波),512MHz~560MHzfsig地上デジタル放送波

38GHzflocミリ波受信器局発周波数

40.7GHzfcarミリ波搬送波周波数

低減搬送波単側波帯振幅変調―ミリ波変調方式(電波型式)

1.3μm零分散シングルモード光ファイバー―光伝送路

1,551.0nm―光搬送波波長

値記号項目

12図 実験風景

13図 各階のミリ波受信器出力信号のCNR

NHK技研 R&D/No.127/2011.5 35

6.むすびデジタル放送の光ファイバーによる配信を補完するためのミリ波RoFシステムのキーデバイスである光SSB変調器を提案した。光SSB変調実験では,光変調度を理論値と4dB以内の誤差で設定できること,一般的な光DSB変調と比較してミリ波信号のCNRを14dB,RF帯の信号のCNRを7dB改善できることを明らかにした。次に,自己ヘテロダイン検波方式を用いた高感度なミリ波受信器を提案した。提案した受信器では,搬送波と側波帯を分離し,レベル調整後に周波数変換を行うとともに,搬送波のBPFを狭帯域にする。従来方式と提案方式の受信器を試作し,提案方式が従来方式と同程度の良好な位相雑音特性であること,受信感度を10dB改善できることなどを実験的に示した。また,CNRの理論的な考察を行った。更に,40GHz帯の無線実験局を使用して,提案する光変調方式とミリ波受信器を用いたミリ波RoFシステムの総合伝送実験を実施した。送受信アンテナ利得が35dB,送信

定格出力が5mWの条件で測定した結果,伝送距離約45m,受信範囲直径約20mで地上デジタル放送8波の擬似エラーフリー伝送が可能であり,1台のミリ波送信器で1棟の集合住宅をほぼカバーできる見通しを得た。提案した伝送システム,光SSB変調,ミリ波受信器の有効性はデジタル放送の再送信の用途に限定されるものではなく,良好な位相雑音特性と高感度性能を必要とするミリ波RoF伝送において広く応用されると期待する。

本稿は電子情報通信学会論文誌および映像情報メディア学会誌

に掲載された以下の2つの論文を元に加筆・修正したものであ

る。

中戸川,前田,小山田:“デジタル放送波のミリ波Radio-on

-Fiber伝送,”電子情報通信学会論文誌,Vol.91-C, No.1, pp.3

-10(2008)

中戸川,前田,小山田:“デジタル放送波ミリ波ROF伝送シス

テムに用いる自己ヘテロダイン検波方式ミリ波受信機,”映像

情報メディア学会誌,Vol.61, No.1, pp.59-66(2007)

参考文献 1) 久利,堀内,中戸川,塚本:“光・無線融合技術をベースとする通信・放送システム,”信学論C, Vol.J91-C, No.1, pp.11-27(2008)

2) 小牧,塚本:“光と電波の融合技術と情報化社会,”光学,Vol.33, No.6, pp.324-329(2004)

3) 永妻:“マイクロ波フォトニクス技術の最近の進展,”信学論C, Vol.J87-C, No.4, pp.357-368(2004)

4) T. Kuri, H. Toda and K. Kitayama:“Dense Wavelength Division Multiplexing Millimeterwave-bandRadio-on-Fiber Signal Transmission with Photonic Downconversion,”J. Lightwave Technol., Vol.21,No.6, pp.1510-1517(2003)

5) 総務省四国総合通信局:“有線テレビジョン放送事業用固定局における地上デジタル放送の伝送に関する調査検討”(2010)

6) 宮本,垣田,仲,都竹,伊東:“23GHz帯を用いた無線CATV伝送実験,”映情学年次大,15-5, pp.206-207(1999)

7) 日本CATV技術協会:“ケーブルテレビ網デジタル無線分配伝送技術に関する調査検討報告書”(2004)

8) 都竹:“放送システム/無線CATV技術,”通信総合研究所季報,Vol.47, No.4, pp.119-124(2001)

9) 鈴木,前田,小山田,遠藤:“地上波デジタル放送のミリ波光ファイバ伝送実験,”映情学技報,BCT2003-14(2003)

10)M. Maeda, T. Nakatogawa and K. Oyamada:“Optical Fiber Transmission Technologies for DigitalTerrestrial Broadcasting Signals,”IEICE Trans. Commun., Vol.E88-B, No.5, pp.1853-1860(2005)

11)川西,井筒:“光SSB変調器を用いた光周波数シフター,”信学技報,OFT2002-30(2002)

12)T. Kawanishi, K. Higuma, T. Fujita, J. Ichikawa, T. Sakamoto, S. Shinada and M. Izutsu:“LiNbO3 High-speed Optical FSK Modulator,”Electron. Lett., Vol.40, No.11, pp.691-692(2004)

13)K. Higuma, S. Oikawa, Y. Hashimoto, H. Nagata and M. Izutsu:“X-cut Lithium Niobate OpticalSinglesideband Modulator,”Electron. Lett., Vol.37, No.8, pp.515-516(2001)

報告

NHK技研 R&D/No.127/2011.536

14)T. Nakatogawa, M. Maeda and K. Oyamada:“An Optical SSB Modulator for Distribution of DigitalBroadcasting Signals on Millimeter-wave Band Based on Self-heterodyne,”Electron. Lett., Vol.40,No.21, pp.1369-1370(2004)

15)電波産業会:“地上デジタルテレビジョン放送の伝送方式,”ARIB STD-B31 1.5版(2004)

16)Y. Shoji, K. Hamaguchi and H. Ogawa:“Millimeter-Wave Remote Self-Heterodyne System forExtremely Stable and Low-Cost Broad-Band Signal Transmission,”IEEE Trans. Microwave&Techniques, Vol.50, No.6, pp.1458-1468(2002)

17)中戸川,前田,小山田:“デジタル放送波ミリ波ROFシステムに用いる自己へテロダイン検波方式ミリ波受信機,”映情学誌,Vol.61, No.1, pp.59-66(2007)

18)神原,阿良田:“地上デジタル放送のキャリア毎ビット誤り率測定器の野外実験”,映情学年次大,4-4(2005)

19)高田,土田,中原,黒田:“地上ディジタル放送におけるOFDMシンボル長とスキャッタードパイロットによる伝送特性,”映情学誌,Vol.52, No.11, pp.1658-1666(1998)

20)S. Nishi, K. Hamaguchi, T. Matsui and H. Ogawa:“Development of Millimeter-wave VideoTransmission System - Development of Antenna,”Proc. Asia-Pacific Microwave Conference, 1-3,pp.509-512(2001)

21)日本CATV技術協会:“デジタル有線テレビジョン放送 地上デジタルテレビジョン放送パススルー伝送方式,”JCTEA STD011-1.0(2003)

付録A:|E0|,|E1|,|E-1|の導出

Re[z],Im[z]を複素数zの実部,虚部とすると,(1)式より,(A1)式が成立する。

(A1)

また,(3)式にDCA = DCB,DCC=-VπM/2を代入し,DCAVπS=x,Ωnt=yの置換を行うと(A2)式となる。

(A2)

(a)n=0の場合

(A2)式にn=0を代入して,(A3)式,(A4)式が得られる。

(A3)

NHK技研 R&D/No.127/2011.5 37

(A4)

(A1)式に,(A3)式,(A4)式,n=0を代入すると,

(A5)

となり,(4)式が求まる。

(b)n=1の場合

(A2)式にn=1を代入して,(A6)式,(A7)式が得られる。

(A6)

(A7)

(A1)式に,(A6)式,(A7)式,n=1を代入すると,

(A8)

となり,(5)式が求まる。

(c)n=-1の場合

(A2)式にn=-1を代入して,(A9)式,(A10)式が得られる。

報告

NHK技研 R&D/No.127/2011.538

(A9)

(A10)

となり,(6)式が求まる。

付録B:提案するミリ波受信器のBPFCの帯域幅BCとCNRの関係

放送波のチャンネル数をNとする。7図において,MFとMSに入力する側波帯の放送波1チャンネル分の入力電力をPIN

とPin,S,MCに入力する搬送波電力をPin,Cとし,入力CNRをそれぞれCNRIN,CNRin,S,CNRin,Cとする。ブロックMSとMCは初段増幅器を含むフロントエンドMFの後段にあり,入力電力Pin,Sと Pin,Cは十分大きく,MSとMCの増幅器で生じるCNRの劣化を無視する。MF,MS,MCの出力CNRをCNRF,CNRS,CNRCとすると,

(B1)

(B2)

(B3)

となる。ここで,FFはフロントエンドMFの雑音指数,B0は雑音帯域幅(放送波の1チャンネルの帯域幅と同じ),BC(BC < B0)は搬送波通過フィルターBPFCの通過帯域幅である。(B2)式,(B3)式から,周波数ミキサーでダウンコンバージョンされた出力信号のCNROUTは(B4)式で表される。

(B4)

7図の信号Bの中間周波数信号において,側波帯電力(放送波全チャンネルの電力)と搬送波電力の比γは(B5)式で表される。

(B5)

搬送波と側波帯の1Hz当たりの熱雑音電力nin,Cとnin,Sを等しいと仮定すると,CNRin,S = Pin,S/(nin,SB0),CNRin,C

= Pin,C/(nin,SB0)となるので,(B5)式の関係から(B6)式を得る。

(B6)

(B4)式に(B6)式を代入すると(B7)式となる。

NHK技研 R&D/No.127/2011.5 39

1982年入局。放送技術研究所にて,映像信号の光ファイバー伝送およびケーブルテレビの研究に従事。現在,放送技術研究所放送ネットワーク研究部主任研究員。工学博士。

お や ま だきみゆき

小山田公之

1981年入局。京都放送局を経て,1984年から放送技術研究所にて,CATV伝送方式,ハイビジョンの光伝送,スーパーハイビジョンの光伝送の研究に従事。その間,通信・放送機構に出向。技術局を経て,現在,NHKエンジニアリングサービスに出向。工学博士。

2000年入局。営業局を経て,2003年から放送技術研究所にて,デジタル放送波,スーパーハイビジョン非圧縮信号等の光伝送技術の研究に従事。現在,放送技術研究所放送ネットワーク研究部に所属。

まえ だ み き お

前田幹夫なかとがわつよし

中戸川剛

(B7)

MFの出力CNRであるCNRFと,MSの入力CNRであるCNRin,Sとは等しいので,(B7)式に(B1)式を代入することができ,(B8)式となる。

(B8)

受信器の入力電力(Nチャンネル分の側波帯電力と搬送波電力の和)PrとPINの関係はγを用いて(B9)式で表される。

(B9)

(B8)式に(B9)式を代入することで,提案するミリ波受信器の入力感度特性を表す(10)式を得る。

(10)

報告

NHK技研 R&D/No.127/2011.540