「自ら学ぶ力」を考える shiryo...「自ら学ぶ力」を考える ー...

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「自ら学ぶ力」を考えるー 自己調整的な学習とは ー

教職課程 専任講師

中本 敬子

「生きる力」と「自ら学ぶ力」

• 現代の学校教育では「生きる力」が重視されている。

• 「生きる力」には「自ら学ぶ力」が含まれていると考え

られる。– 教育基本法、学校教育法において、「自ら進んで学習に取り組

む意欲を高めること」「主体的に学習に取り組む態度を養うこと」が明記されている。

• しかし,実際に「自ら学ぶ」子どもが多いとは言えない状況にある。

子ども達の学習状況①

• 子ども達は,「勉強は大切だ」と感じてはいる。– とある調査の結果では,中学生の6割以上が「学校の勉強は

大切だ」「もっと勉強しなくてはいけない」と感じている(山森, 2006)。

• 勉強をする理由は,やらないと怒られるからといったネガティブな理由ではない。– 「問題が解けるとうれしいから」(小学生73.0%,中学生65.

4%),「小(中)学生のうちは勉強しないといけないと思うから」(小学生69.1%,中学生73.4%)にくらべると,「成績が悪いと親に叱られるから」( 小学生31.6%,中学生42.0%)は少ない(ベネッセ教育研究開発センター, 2009)。

子ども達の学習状況②

• 学習ばなれは2000年代初めに底を打ち,学習への回帰が起こっている(ベネッセ教育研究開発センター, 2006)。

平日の学校外学習時間(家での学習、塾などを含む) (分)

60

65

70

75

80

85

90

95

100

1990年 1996年 2001年 2006年

小学生

中学生

• しかし・・・

子ども達の学習状況③

• 「上手な勉強の仕方が分からない」という子ども(特に中学生)は数多い(ベネッセ教育研究開発センター, 2006)。

0 20 40 60 80 100

なんのために勉強しているのかわからない

親の期待が大きすぎる

上手な勉強の仕方がわからない

わかりやすい授業にしてほしい

覚えなければいけないことが多すぎる

どうしても好きになれない科目がある

0 20 40 60 80 100

どうしてこんなことを勉強しなければいけないのかと思う

親の期待が大きすぎる

上手な勉強の仕方がわからない

わかりやすい授業にしてほしい

覚えなければいけないことが多すぎる

どうしても好きになれない科目がある

小学生 中学生

子ども達の学習状況④

• 「計画的に勉強できない」ため,成果のあがらない子ども達がいる(全国学力・学習状況調査のある小学校の結果より)。

*匿名性を保つため,議論に支障がない範囲でデータを改変している。

0

2

4

6

8

10

12

0 5 10 15 20

国語 A (知識を問う問題)

国語

B (

活用

を問

う問

題)

活用はできるが知識はできない子

知識も活用もできない子

知識はできるが活用はできない子

知識も活用もできる子

A(知識に関する問題) 全国平均

B(活用に関する問題)

全国平均

1

2

3

4

5

6

7

学校以外での勉強時間(平日) 学校以外での勉強時間(土日)

知識も活用もできる

知識はできるが活用は低い

活用はできるが知識は低い

知識も活用も低い

1

2

3

4

5

6

7

計画をたてて勉強する 予習をしている 復習をしている 苦手な教科を勉強している

知識も活用もできる

知識はできるが活用は低い

活用はできるが知識は低い

知識も活用も低い

活用ができない子は勉強していないわけではない。

しかし,計画的に予習復習をしたり,労力をうまく配分したりできてきないらしい。

「上手に勉強できない」ため,成果がでていないのではないか?

子ども達の学習状況⑤ まとめ

• まとめると,下記のような状況が伺える– 今の子ども達は,勉強が大切だとは思っているし,勉強時間も

以前よりは増えている。

– にもかかわらず,「上手な勉強方法がわからない」という悩みを抱えており,

– 結果として,成果に結びつかない子ども達がいる。

• 自分自身で「上手に勉強できる」子ども=「自ら学ぶ力」を持った子どもを育てる必要がある。– そのためにはどんな枠組みが有効か?

あらためて「自ら学ぶ力」を考える

• かつての状況– 「自己学習力」や「自己教育力」という言葉はあったが,心理学

的に(=子ども達の学習のメカニズムを考えることにより)捉えることは不十分であった。

• 1990年代後半以降

– 「自ら学ぶ力」を心理学的に解明しようとする動きがはじまり,

「自己調整学習」という名前で研究されるようになる。

• 本講義では, Zimmerman と Schunk による自己調整

学習の循環的なプロセスに関するモデルを中心に紹介する。

自己調整学習における3段階

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

Schunk & Zimmerman (1998)より作図

予見の段階

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

学習の下準備の段階

学習課題を分析して,自分自身の目標を設定したり,どんな方略で学習を進めるか計画を立てる。

前提として,自分がその課題を成し遂げられるという気持ち(自己効力感)や課題への興味が必要となる。

遂行コントロールの段階

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

学習を行う段階

学習の方略がうまく実行されるように,課題に集中したり,どうするべきかを自分自身に教示したり,順調にすすんでいるかを自己モニタリングしたりする。

自己省察の段階

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

自分の努力に対して反応する段階

学習の成果が目標に到達したか,どれくらい満足できるものかを自己評価する。

なぜうまくいったのか(うまくいかなかったのか)原因を振り返る。

課題達成の「嬉しさ」を味わい,自分の学習成果に反応を返す。

次の学習課題に向けて,反省点を活かす。

自己調整的な学習者

現在完了形が使えるようになろう重要なところをまとめながら勉強してみよう

きっと自分はできるはずだ

予見の段階

いま勉強すべきことに集中しようここは重要だから,まとめてみよう

勉強が順調に進んでいるか試してみよう

遂行コントロールの段階

現在完了形が使えるようになった!頑張った成果が出た。

けど,もっと良いやり方があったかも。今度は,教科書に線を引いてみよう。

自己省察の段階

Plan

Do

See

自己調整的でない学習者

うまくできるといいなとりあえず勉強してみるか

あんまり自信はないけどね・・・

予見の段階

よく分からないけど,とりあえず丸暗記しとけばいいか

それなりの時間をかけたし,もういいだろう

遂行コントロールの段階

今回の結果はイマイチだったな時間をかけたのにイマイチ。

自分には才能ないな。がんばってもしょうがないのかも。

自己省察の段階

Plan

Do

See

自己調整学習理論の成果

• 学習方略(=どのように学習を行うか)が注目されるようになった。– 子ども達がどのような学習方略を使っているのかが明らかに

なってきた (参考資料1)。

– 学習方略をどのように指導していくかについて検討されるようになってきた (参考資料2)。

• 学習をPDSサイクルで捉えることにより,よい循環を生

み出すために何をすればいいか考えられるようになった。

絵画教室での実践の紹介

• 絵画教室での実践「まちを美術館にしよう」– 大学院生 鈴木眞里子と行った実践研究

– 修士論文としてのテーマは自己調整学習に置かれていない

– が,実践に取り入れた様々な工夫を自己調整学習の観点から整理することが可能

絵画教室での実践「まちを美術館にしよう」

• 小学生の子ども達が美術作品を作成し、地域の商店に展示する活動。– 6名が参加(2~6年生)

– 2週間に1回 計7回

– 1回につき2時間

• 次のことを目標にする。– 特定の場所に展示され,他者に鑑

賞されることを前提とした作品計画

– 自分で制作について計画した上での,長期間にわたる作品制作

街での作品展示について理解

街探検・商店主と面会

展示作品の計画・目標の明確化

作品制作

商店に作品を展示

作品発表・鑑賞会

ふりかえり

本実践と自己調整段階の関係

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

街での作品展示について理解

作品の計画・目標の明確化

作品制作

(作品展示)

作品発表・鑑賞会

ふりかえり

本実践における自己調整支援

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

① 課題の体験的な理解による興味喚起。

② 過去の達成経験の想起による自己効力感。

③ 完成イメージの明確化と必要物のリストアップによる方略の計画

④ 子ども自身による目標設定

予見段階①

• 興味– 作品展示に協力してく

れる店主と話しあうことで、課題の目的を体験的に理解し、興味や動機づけを高める

– 展示店舗に関して自己決定することにより,関心を高める。

予見段階②

• 目標設定– 学習課題と考慮すべ

き制約を子ども達に理解させる。

• 店舗に展示すること

• 店主だけでなくお客さんも作品を見ることetc…。

– 作品制作に関する自分自身の目標を考えさせ、ワークシートに記入させる。

予見段階③

• (方略の)計画

• 自己効力感– 過去に作成した経験

のあるものを思い出させることにより、制作にむけての自己効力感を高める。

– 完成作品のイメージ図を書かせ、制作に必要なものをリストアップさせることで、計画を立てさせる。

本実践における自己調整支援

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

① ポートフォリオを活用して、目標、制作プランを常に確認し、注意を焦点化。

② 毎回終了時に、制作に関

するふりかえりを行い自己モニタリング。

③ 毎回終了時に、次回やるべきことを確認し、自己教示。

遂行コントロール①

• 注意の焦点化

– 子ども達自身の目標や制作プラン,店主や店舗の様子を常に確認できるように,ファイル(ポートフォリオ)を作成。

• メモや落書きなどを自由に書けるように。

(最終の振り返り)C:店長さんがすごくいいね,アリの物

語がいいね(って言ってくれた)T:一番最初考えてたのと違ったよね,

なんだっけ?C:マンガC:あとからやりたいことが変わっていっ

た。もっと目立つ,漫画だったら一回見ただけで。遠くからみても席で座ってラーメン食べてて。漫画だったら字が細かくて見れないから。顔とかだったら,顔が大きかったら,その顔が目立つし,よりわかりやすくなる,見やすい。

遂行コントロール②

• 自己教示、自己モニタリング– 自分の制作の状況等を

授業の最後に毎回確認。

• うまくできたところを中心に振り返らせることで,自己効力感を高め,やる気を持続。

– 次回の目標を立てることで,何をやるべきかを自己教示。

本実践における自己調整支援

興味方略の計画自己効力感目標設定

予見の段階

注意の焦点化自己教示

自己モニタリング

遂行コントロールの段階

自己評価原因帰属自己反応

適応

自己省察の段階

Plan

Do

See

① 子ども達どうしでの話し合いによるふりかえり(自己評価、自己反応)

② 子ども達自身による反省と次への展望

自己省察①

• 自己評価,原因帰属

– 鑑賞会で,自分の工夫したところやがんばったところを発表し,作品完成が自分の力でできたことを確認

自己効力感につなげる

– ふりかえりのための座談会で,達成して

「嬉しい」気持ちを確かめる。

→ 自己強化を行う。

自己省察の段階②

• 自己評価

– ふりかえりのワークシートを自分で作成。

– 自分自身の目標と照らし合わせて,自己評価を行っている。

次の学習,ほかの学習へとつながっていく

・・・のではないか?

まとめ

• 自己調整学習の理論を示すことにより,「自ら学ぶ力」をより具体的に捉えられることを示した。

• 理論をふまえることによって,子どもの学習活動のプロセスをデザインしたり,評価したりすることができることを示した。

• すでに学校で行われている指導の工夫を自己調整学習の観点から整理すること,教科を超えた自己調整学習方略の汎化の検討などが今後の課題である。

参考資料① -1• 自己調整学習方略(伊藤, 1996)

– 一般的認知(理解・想起)方略

• 先生の説明を理解しようとしたり,テストや宿題のときに授業や本の内容を思い出そうとしたりする。

– 復習・まとめ方略

• 習ったことを復習したり,自分でまとめなおしたりする。

– リハーサル方略

• 勉強の内容を繰り返し読んだり考えたりする。

– 注意集中方略

• 勉強をするときにはそれに集中するようにする。

– 関係づけ方略

• 新しく学習する内容を自分がすでに知っていることに結びつける。

参考資料① -2• 自己動機づけ方略(伊藤, 1996)

– 整理方略• 部屋や机の上を片付けたり,ノートを分かりやすく書いたりして,勉強しやすい環境

を整える。

– 想像方略• 志望校に合格したりテストに成功したりすることをイメージする。

– ながら方略• 音楽やラジオを聞くなど楽しいことをしながら勉強する。

– 負担軽減方略• 得意なところや好きなところから勉強したり,適宜休憩を取ったりして,負担感を少な

くする。

– めりはり方略• 勉強するときには集中して行い,遊ぶときとのめりはりをつける。

– 内容方略• 自分のよく知っていることや興味のあることに関係づけて勉強する。

– 社会的方略• 友達と教え合ったり,一緒に勉強したりする。

– 報酬方略• 勉強があと,お菓子や遊び,親からのお小遣いなどの報酬がもらえるようにする。

モドル

参考資料②

• 学習ガイドの作成による自己調整学習の支援(山森, 2007)

– 授業の目標を伝えたり,勉強の仕方のヒントを示したりするガイドを作成し,中学生に使用してもらう。

1年社会科学習ガイド 15 氏名( )

22 産業の発達と年と村(プリント No.27)

この授業の目標は

① 室町時代の農業生産発展の様子とそれによる社会の変化について理解できる。

② 室町時代の商業の発展について理解できる。

授業後のチェック

① 室町時代に農業の生産が高まった理由を2つ答えなさい。

② 農民達がともに働く集団を中心に団結を深めていきます。

その集団は何と言いますか。

③ ②ではどのようなことがなされましたか。

家庭学習のヒント

□ 教科書のP64~65を次の言葉に注意し,アンダーラインを引きながら読みましょう。

□ 座 □公家や寺社などの保護を受けての生産や販売の独占

□ 河原 □土倉

□ 酒屋 □問丸 □馬借 □寄合 □おきて

□ 教科書P65の上の図「村をあげて行われる田植えと田楽」の図から,

農民たちがどのようにして農作業を行っているかをよく見ておきましょう。

発展的な課題

① 教科書 P65 や資料集 P71 の「村のおきて」を読み,どのような村のルールがあったのかを調

べてみましょう。

モドル