Post on 28-Dec-2019
S-8共通シナリオの開発・利用と 残された課題
花崎直太、高橋潔、肱岡靖明:日本の温暖化影響・適応策評価のための気候・社 会経済シナリオ、環境科学会誌[研究資料]、25、3、223-236、2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sesj/25/3/25_223/_article/-char/ja/ 花崎 直太・高橋潔・肱岡靖明・日下博幸・飯泉仁之直・有賀敏典・松橋啓介・三村信男:日本の温暖化影響・適応策評価のための気候・人口・土地利用シナリオ(第2版)、環境科学会誌[研究資料]、印刷中
関連する論文
この発表は上記の論文の要約となっています。 S-8共通シナリオが確定され、花崎ら(印刷中)が投稿されたのは2013年11月で、内容は基本的にこの時点のものです。2014年度以降、国家
適応計画に向けた活動や他の研究プロジェクトの進展などがあり、データの入手可能性などが変化しつつありますので、ご注意ください。
注意
推進費S-8プロジェクト 地球温暖化 → 日本全域への影響 適応策の立案 → 影響の全体像の把握が必要
S-8プロジェクト
水資源 モデル
気候・社会経済の共通シナリオ
自然植生 モデル
農業 モデル
健康 モデル
沿岸防災 モデル
経済的評価手法
共通シナリオの下での物理的影響
共通シナリオの下での経済的影響
共通シナリオがなければ、プロジェクトが成立しない
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S-8共通シナリオの開発
感染症 モデル
水防災 モデル
適応策
適応策の効果分析
シナリオの要件 条件 背景
1 日本全体をカバー 日本全体は必須。3次メッシュ(1km x 1km)を利用するモデルが多い。
2 複数排出シナリオ・ 複数気候モデル
成り行き社会と低炭素社会の対比は必須。 気候モデルの不確実性も扱いたい。
3 できればSRES排出シナリオよりもRCP排出シナリオで。
世界は新シナリオ(RCP/SSP)で動きつつある。
4 できれば全球モデルでなく、力学的DSされたものを使いたい。
全球モデルを利用して国スケールの影響評価研究している事例が減っている。
5 できれば月単位でなく、日単位未満の情報を使いたい。
空間解像度(1km x 1km)とのバランス。
6 できるだけ現実的な複数の社会経済シナリオを使いたい。
人口などのシナリオは洪水氾濫・土砂崩壊の被害額推定において感度が高い。
5
S-8共通シナリオの開発
S-8共通シナリオ(気候) 第1版 (1年目~)
第2版 (3年目~)
第2版補遺
気候予測 CMIP3 CMIP5
排出シナリオ SRES A1B RCP 2.6/4.5/8.5 RCP4.5
気候モデル MIROC3.2hires MRI-CGCM2.3.2 GFDL CM2.1 CSIRO MK3.0
MIROC5.0 MRI CGCM3 GFDL CM3 HadGEM2-ES
MIROC5.0を TWRFで力学的DS
基準期間 1981-2000
将来期間 2031-2050 2081-2100
2081-2100
6
S-8共通シナリオの開発
参照用 ファイル の配布
ダウンスケール 線形内挿 力学的DS +線形内挿
バイアス補正 スケーリング法 飯泉ら(2010)
時間解像度 月 日
空間解像度 3次メッシュ 花崎ら(2012)、花崎ら(印刷中)
S-8共通シナリオ(人口・土地利用) • 人口シナリオ
– 有賀・松橋(2012)を利用 – 社人研の市区町村別将来人口推計(-2035)の
低位・中位・高位推計を2100まで延長し、 3次メッシュ(1km x 1km)に落とし込んだもの
– 人口の集中・分散・現状維持シナリオを導入し、 人口3通り×分布3通りで9通り
• 土地利用シナリオ – 加賀(2007)の人口モデルを利用 – 市街地面積のみが人口の関数として変化すると想定し、
3次メッシュ(1km x 1km)で計算したもの – 人口3通り×分布3通りで9通り
S-8共通シナリオの開発
日本の将来人口推計
図1-A:基準年(2010) 図1-B:出生高位死亡低位均一化(2100) 図1-C:出生高位死亡低位変化なし(2100) 図1-D:出生高位死亡低位偏在化(2100)
図1-E:出生中位死亡中位均一化(2100) 図1-F:出生中位死亡中位変化なし(2100) 図1-G:出生中位死亡中位偏在化(2100)
図1-H:出生低位死亡高位均一化(2100) 図1-I:出生低位死亡高位変化なし(2100) 図1-J:出生低位死亡高位偏在化(2100)
図1-K:日本の将来人口推移
S-8共通シナリオの開発
分布:均一化 分布:変化なし 分布:偏在化
人口:大
人口・中
人口:小
2100
図2-A:基準年(2010) 図2-B:出生高位死亡低位均一化(2100) 図2-C:出生高位死亡低位変化なし(2100) 図2-D:出生高位死亡低位偏在化(2100)
図2-E:出生中位死亡中位均一化(2100) 図2-F:出生中位死亡中位変化なし(2100) 図2-G:出生中位死亡中位偏在化(2100)
図2-H:出生低位死亡高位均一化(2100) 図2-I:出生低位死亡高位変化なし(2100) 図2-J:出生低位死亡高位偏在化(2100)
S-8共通シナリオの開発
日本の将来建物用地推計 分布:均一化 分布:変化なし 分布:偏在化
人口:大
人口・中
人口:小
2100
シラビソ潜在生育域 (変化率)
ブナ潜在生育域 (変化率)
コメ収量 (変化率)
ヒトスジシマカ分布域(%)
S-8共通シナリオの利用
http://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20140317/20140317.html
CMIP5の気候モデルの選定(1) • CMIP5気候モデルは2013年10月現在49利用可能である。 • この中から4つ程度のモデルに絞り込みたい*。 • このうち、日本の2つのモデルは無条件に当確にする**。
– MIROC5(日本) – MRI-CGCM3(日本)
• あとの2モデルはどれを選べばよいだろうか?
– GFDL CM3(アメリカ・地球流体力学研究所) – HadGEM2-ES(イギリス・ハドレーセンター)
*計算やデータの処理、また表示の都合上、全ての組み合わせは現実的でない **高解像度データの提供や日本を対象とした解析の厚みが期待できるから
S-8共通シナリオの課題
CMIP5の気候モデルの選定(2) • IPCC第5次評価報告書第9章図9-7で「性能評価」されている42の気候
モデルから、過去の気候(1980-2005)の再現性の高い22モデルを抽出した。その後RCP8.5の結果が得られない5つのモデルをはずした。
縦軸:気象要素
再現性 低い
再現性 高い
横軸:モデル
例:ACCESSモデルは 青い(再現性が高い)
S-8共通シナリオの課題
CMIP5の気候モデルの選定(3)
MRI-CGCM3 +3度超
MIROC5 +4度超
HadGEM2-ES +5度超
GFDL CM3 +6度超
• 17モデル+2モデル(MIROC5とMRI-CGCM3)の日本付近の気温の20年移動平均を取り、基準年からのRCP8.5シナリオの気温上昇量を求めた。ここで気温上昇量がMIROC5とMRI-CGCM3と異なるGFDL CM3とHadGEM2-ESの2つのモデルを選択した。
S-8共通シナリオの課題
CMIP5の気候モデルの選定(4) • 同様に、17モデル+2モデルの日本付近の降水量変化を求めた。4モ
デルにより、21世紀後期は予測の幅を捉えられる。ただし、21世紀前期、中期では幅を完全にはとらえきれない。
MRI-CGCM3 中庸低め
MIROC5 中庸高め
HadGEM2-ES 中庸低め⇒低め
GFDL CM3 低め⇒高め
21世紀前半 振れ幅の上限 (3モデル) が捉えられない
21世紀中盤 振れ幅の下限 (3モデル) が捉えられない
21世紀後期 振れ幅はほぼ 捉えられる
S-8共通シナリオの課題
課題1:気候モデル の選び方の高度化
力学的ダウンスケール • 気候シナリオの理想
– 4気候モデル×3排出シナリオの境界条件で領域気候モデルを長期間走らせたい。→全くリソース足りず。
• 実施事項 – 筑波大学日下研究室がMIROC5
(RCP4.5)を境界条件に領域気候モデル WRFを利用して日本全域を力学的DS
– 日単位、20km解像度の結果を ご提供いただいた。
• 近い将来の期待 – SOUSEIで開発された力学的DSなど。
S-8共通シナリオの課題
出典:気象庁を一部改 課題2:DSのマルチ気候モデル・マルチシナリオ化
人口・土地利用 現在、野生動物への温暖化影響予測の研究を進めています。 データを図示してみたところ、2100年ごろまでに荒地が東京・名古屋・大阪といった大都市域に拡大していくような予測になっている様子がみてとれます。 予測結果がちょっと極端なのではないかと思われますが、 この結果はそのまま用いてしまっても大丈夫でしょうか?
→今回利用したモデルの特性。
プロジェクト関係者から頂いたメール
将来の産業はどう想定されているか?
→人口・都市域以外は将来想定していない。
アドバイザーからの質問
S-8共通シナリオの課題
課題3:社会経済シナリオの整合性・包括性の向上
S-8共通シナリオの達成事項 要件 結果
1 日本全体をカバー 達成 2 複数排出シナリオ・
複数気候モデル 達成(3シナリオ×4モデル)
3 できればSRES排出シナリオよりもRCP排出シナリオで。
達成(RCP2.6/4.5/8.5)
4 できれば全球モデルでなく、力学的DSされたものを使いたい。
一部達成(1シナリオ×1モデル)
5 できれば月単位でなく、日単位未満の情報を使いたい。
一部達成(1シナリオ×1モデル)
6 できるだけ現実的な複数の社会経済シナリオを使いたい。
達成(3シナリオ×3シナリオ) 現実的かの判断は用途による
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まとめ
S-8共通シナリオの残された課題
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まとめ
残された課題 解決の方策 1 気候モデルの選び方の高度
化 指標の取り方・使い方。気候の専門家との連携強化が課題
2 全国力学的DSの複数シナリオ・複数モデル化
技術的には実施可能?専門家と研究資金の確保が課題
3 社会経済シナリオの整合性・包括性の向上
社会経済の専門家との連携強化?
4 シナリオコーディネーションのあり方の検討(策定・利用)
ボトムアップかトップダウンか?
シナリオの記述
• 花崎直太、高橋潔、肱岡靖明:日本の温暖化影響・適応策評価のための気候・社 会経済シナリオ、環境科学会誌[研究資料]、25、3、223-236、2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sesj/25/3/25_223/_article/-char/ja/
• 花崎 直太・高橋潔・肱岡靖明・日下博幸・飯泉仁之直・有賀敏典・松橋啓介・三村信男:日本の温暖化影響・適応策評価のための気候・人口・土地利用シナリオ(第2版)、環境科学会誌[研究資料]、印刷中 (2013/11/5投稿、2014/7/3受理)
付録:データ
データ配布サイト 付録:データ
http://h08.nies.go.jp/s8 User, Password: 手続きの関係上、お問い合わせください