次世代IPプラットフォーム - Fujitsu次世代IPプラットフォーム...

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FUJITSU.54, 4, p.305-313 (07,2003) 305

P305-313:07-09青校.doc 305/1 最終印刷日時:03/07/09 21:09

次世代次世代次世代次世代IPプラットフォームプラットフォームプラットフォームプラットフォーム -フォトニックバーチャルルータ--フォトニックバーチャルルータ--フォトニックバーチャルルータ--フォトニックバーチャルルータ-

Next-Generation IP Platform ----Photonic Virtual Router----

あらまし

Abstract

The Photonic Virtual Router is a next-generation IP network architecture that we are proposing. This architecture terminates IP packets at edge nodes, provides the optimum data-plane paths and routes for user services as a core network, and controls and operates carrier IP networks so they appear to users as a single virtual router system. This paper describes the concept of the Photonic Virtual Router and summarizes key technologies of the architecture, for example, the label/time division multiplexing (TDM) integrated switch, the dynamic optical add-drop multiplexer (DOADM) based on an acousto-optic tunable filter (AOTF), the optical switch based on a micro-electro mechanical system (MEMS), and the control plane based on generalized multiprotocol label switching (GMPLS) that controls these switches in an integrated manner. Then, this paper introduces a prototype Photonic Virtual Router. These high-performance optical and electrical switching devices and the GMPLS technology will enable us to increase the capacity of the next-generation IP network and operate it simply and efficiently.

フォトニックバーチャルルータは,著者らが提案している次世代IPネットワークアーキテクチャである。エッジノードにおいてIPパケットを終端し,ユーザが要求する様々なサービスに対応する最適なデータプレーンのパスおよび経路をコア網で提供し,キャリアIPネットワークをあたかも仮想的な単一ルータのようにユーザに見せ,制御・運用するアーキテクチャである。本稿では,フォトニックバーチャルルータのコンセプトを提案し,アーキテクチャの核となる技術であるラベル/TDM統合スイッチ,AOTFを用いたDOADM,MEMS光スイッチ,そしてそれらを統合的に制御するGMPLSを用いたコントロールプレーンについて概説する。最後にそれらの試作システムを紹介する。これら高性能光・電気スイッチング技術と,GMPLSを用いることにより,次世代IPネットワークの大容量化を達成するとともに,ネットワークの効率的かつ簡易な運用を実現することが可能になる。

宗宮利夫 (そうみや としお)

ネットワークシステム研究所ネットワークアーキテクチャ研究部 所属 現在,GMPLSを用いた制御方式の研究開発に従事。

朝永 博 (ともなが ひろし)

ネットワークシステム研究所IPフォトニック研究部 所属 現在,次世代トランスポートネットワークの研究に従事。

佐脇一平 (さわき いっぺい)

ペリフェラルシステム研究所メディアデバイス研究部 所属 現在,MEMSデバイスの研究開発に従事。

甲斐雄高 (かい ゆたか)

ネットワークシステム研究所フォトニックシステム研究部 所属 現在,メトロアクセス関連の研究に従事。

次世代IPプラットフォーム -フォトニックバーチャルルータ-

306 FUJITSU.54, 4, (07,2003)

P305-313:07-09青校.doc 306/2 最終印刷日時:03/07/09 21:09

ユーザ網

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

Fujitsu

データセンタ

コンテンツプロバイダ

コントロールプレーン

フォトニックバーチャルルータ

データプレーン

アダプティブ制御観測 設定

■■■■■■■ ■■■■ ■

■■■■■■

ダイレクトな波長パス/TDMパス/ラベルパス

品質保証型通信

IPIP

MPLS網

SONET/SDH網

フォトニック網

SLA

ベストエフォート型通信

波長パス

波長パス

TDMパス

ラベルパスエッジノード

エッジノード

図-1 フォトニックバーチャルルータ

Fig.1-Photonic virtual router.

ま え が き

インターネットトラヒックはITバブル崩壊後も爆発的な速度で増加しており,ネットワークに対す

る帯域増加要求は指数関数的に増加している。この

ような状況に応えるために,ルータ間にポイント・

ポイントのDWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)などのトランスポート技術を利用してリンクの大容量化が図られているが,IPパケットを交換するルータのパケットスイッチの電気処理

が,いずれボトルネックになると考えられる。この

ボトルネックを解消するために,フォトニックトラ

ンスポート技術が持つ大容量伝送特性・耐障害性と,

IPネットワーク技術が持つ柔軟な制御性・相互接続性を併せ持つフォトニックIPネットワークの研究・開発および標準化が盛んに行われている。(1),(2)

著者らは次世代IPプラットフォームとして,「フォトニックバーチャルルータ」と呼ぶフォトニックト

ランスポート技術とIPネットワーク技術を融合させたアーキテクチャを提案し,これを構成する主要

技術の検討および開発を行っている。(3) 本稿では,大容量トラヒックを扱うことができる

光スイッチング技術と,柔軟に帯域を細かく設定で

きる電気スイッチング技術を融合させたノードと,

それらを統一的に制御するIPベースのコントロールプレーンを用いたフォトニックバーチャルルータ

のアーキテクチャを提案し,その核となる技術であ

る GMPLS ( Generalized Multiprotocol Label

Switching)技術,サブλλλλ(波長)グルーミング技術,AOTF(Acousto-Optic Tunable Filter)を用い た DOADM ( Dynamic Optical Add-Drop Multiplexer ), そ し て MEMS ( Micro-Electro Mechanical System)を用いた光スイッチについて概説し,さらにこれらの技術を融合したプロトタイ

プシステムについて紹介する。

フォトニックバーチャルルータ

著者らが提案するフォトニックバーチャルルータ

の概念を図-1に示す。増大するトラヒックおよびユーザからの様々なサービスを収容するために,

エッジノードにおいてIPパケットを終端し,ユーザサービスに対応する最適なデータプレーンのパス

および経路を提供する。コア網でのIPパケット処理を省くことでエッジノード間の高速かつシンプル

な転送が可能となる。またネットワークの物理構成

を隠蔽いんぺい

し,ネットワーク運用のセキュリティと

ルーティング情報の増大を抑える。このことから

フォトニックバーチャルルータは,ユーザからは一

つの仮想的なルータに見える。 データプレーンのパスには大きく分けて, (1) 大容量転送(2.5 G~40 Gbps)を提供する波長パス,

(2) 時分割転送を提供するTDM(Time Division Multiplexing)パス,

(3) 効率的なパケット転送を提供するラベルパスがある。

次世代IPプラットフォーム -フォトニックバーチャルルータ-

FUJITSU.54, 4, (07,2003) 307

P305-313:07-09青校.doc 307/3 最終印刷日時:03/07/09 21:09

VCATグループ2:200 Mbps=50 Mbps×4

VCATグループ1:100 Mbps=50 Mbps×2

SW

SW

SW 遅延差を吸収

波長パス

帯域を無瞬断で変更(LCAS)

SONET/SDH網VCAT

終端(多重)

VCAT生成(振分)

・・・

・・・ ・・・

図-2 VCAT/LCAS概略

Fig.2-Example of VCAT/LCAS.

これら3種類のデータプレーンパスを柔軟に制御するために,IPベースのコントロールプレーンを用いる。コントロールプレーンは,ユーザからの

SLA(Service Level Agreement)を受け,それに応じた制御シナリオに従いネットワークを制御する。

例えば,ベストエフォートトラヒックはMPLS網のラベルパスにマッピングし,品質保証型通信を必要

とするパスはSONET/SDH(Synchronous Optical Network/Synchronous Digital Hierarchy)網のTDMパスにマッピングする。大容量パスが必要な場合には直接波長パスにマッピングし,エッジノー

ド間にダイレクトな光パスを設定することによって

その収容を行う。 このようにフォトニックバーチャルルータでは,

様々なデータプレーンのパスを,コントロールプ

レーンを用いて統一的にルーティング・設定・解除

できるため,より最適なパス制御を行うことが可能

となる。とくにネットワークのトラヒックの状況に

応じ,電気パスと光パスを組み合わせてトラヒック

を収容する統合的なトラヒックエンジニアリングや,

障害発生時に電気パスと光パスを組み合わせて行う,

耐障害性能を高めたネットワークレストレーション

を行うことが可能となる。このコントロールプレー

ンの制御プロトコルとして,GMPLS(4)を代表とす

る IPベースのプロトコルを標準化中である。GMPLSはMPLSのラベルパスを拡張して,ラベルパスに加えてTDMパスや波長パスなどのデータプレーンのパスをIPベースのシグナリングプロトコルを用いて統一的に設定可能である。 以下,フォトニックバーチャルルータのデータプ

レーン技術として注目を集めているハードウェア技

術と,それらとGMPLSシグナリングプロトコルを組み合わせたフォトニックバーチャルルータのプロ

トタイプシステムについて述べる。

サブλλλλグルーミング技術

λλλλ(波長)の効率的利用のためには,複数のサブ

λパス(ラベル/TDMパス)を一つの波長パスに集約するとともに,行き先に対応して複数の波長パス

へ振り分ける技術(サブλλλλグルーミング)が有効で

ある。この実現のためにキーとなる,以下の三つの

技術について示す。 (1) Virtual Concatenation(VCAT)

(2) Link Capacity Adjustment Scheme(LCAS) (3) ラベル/TDM統合スイッチ ● VCAT 従来のSONET/SDHでは,インタフェース速度が150 Mbps,600 Mbps,2.4 Gbps,…と4倍ごとの階梯

かいてい

構造に縛られていた。これに対しVCAT(5)は,

帯域に応じた複数のTDMパス(STS-1:50 Mbps)をグループ化して束ね,仮想的に一つのパスとして

扱うことにより,帯域の設定自由度を向上させたパ

ス(50 Mbps,100 Mbps,150 Mbps,…と50 Mbpsの任意の倍数)を実現する技術として標準化された

(図-2)。例えば50 MbpsのSTS-1パス4本をグループ化することで,200 Mbpsのパスが実現できる。パスの生成・終端点のみがVCAT用のデータ振り分け,多重を行うため,既存のSONET/SDH網をそのまま利用することが可能である。さらに,異なる

経路を通るTDMパスを一つにまとめることも可能であり,例えば空きリソースを束ねて大容量のパス

を生成することで,リソースを有効利用することも

できる。 VCATを用いることにより,パケットデータをSONET/SDH網のTDMパスにマッピングし,かつ様々な帯域が設定できる複数のパイプを実現するこ

とが可能となる。すなわち,パケットデータと

TDMデータを同一波長パス上に多重し,かつデータ量に応じた容量のパイプに載せることが可能とな

り,波長パスへの収容効率を上げることができる。 ● LCAS LCAS(6)は,VCATの帯域(グループ化するパス数)を無瞬断で変更可能とする技術として標準化さ

れており,GMPLSなどの制御技術と連携してSONET/SDH網上に動的に帯域変更可能なパスを提供することができる。あらかじめ帯域追加用の

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308 FUJITSU.54, 4, (07,2003)

P305-313:07-09青校.doc 308/4 最終印刷日時:03/07/09 21:09

VCAT生成VCAT終端

保証トラヒック(50 Mbps)

ベストエフォートトラヒック

異経路

SONETSW

SONETSW

100 Mbps 100 Mbps50 Mbps

50 Mbps

非優先

優先

障害→ 50 Mbps → 50 Mbps

図-3 LCASを用いたリンクプロテクション構成例 Fig.3-Example of link protection using LCAS.

λSW

ラベル単位の振り分け

TDMパス単位の振り分け

波長パスショートカット

パケットデータ(VCAT/LCASによる可変容量パス)

TDMデータ

ラベル/TDM統合スイッチ! SW容量削減

パケットにラベル付与SW内はラベルで交換

図-4 ラベル/TDM統合スイッチの構成

Fig.4-Label/TDM integrated switch configuration.

SONET/SDHパスを張っておき,VCAT生成・終端の 2装置に対して帯域変更をNMS(Network Management System)経由で通知した後,パスオーバヘッドのH4バイト中の制御情報により,送信・受信側の帯域変更タイミングを同期させること

で無瞬断の帯域変更を実現する。 このLCASを用いれば,トラヒック増加によるユーザ契約変更時に,サービス中断なしに帯域追加

が実現できる。さらに,中継ネットワークにおいて

は,実効帯域に応じて時間的に帯域が変化する可変

帯域パスが提供でき,これにより生じた余剰帯域を

別のトラヒックに振り分けることで波長パスの帯域

を効率的に利用することが可能になる。 また,VCATを構成する一部のパスが障害となった場合,障害パスを避けて一時的に帯域削除を行い,

障害復旧後は無瞬断でもとの帯域に戻す機能も備え

ている。この機能をリンクプロテクションに利用す

る例を図-3に示す。(7) 送信,受信装置間に,異なる

ルートの2本のパスを張り,それをまとめてVCATグループとする。それぞれのパスは保証する帯域を

設定する。送信側では,保証するトラヒックを優先,

非保証のトラヒックを非優先として,VCATグループに載せる。すると,保証・非保証を合わせ通常時

はリンクプロテクションを採らない場合の2倍の帯域を使用でき,かつ障害時は保証トラヒックの帯域

を守ることが可能となる。こうすることで,予備パ

スを有効活用できるため,リソースの有効利用が可

能となる。 ● ラベル/TDM統合スイッチ 波長パスには必要に応じてTDMデータとパケットデータを多重して収容する。パケットデータはラ

ベルスイッチ技術を用いて収容する。いったん波長

パスを解き,TDMパス単位,あるいはラベル単位で行き先に対応した波長パスへの載せ換えを行うた

めには,TDMパス単位,ラベル単位のスイッチ機

能が必要になる。ここで,TDMスイッチとラベルスイッチを個別に用意する場合,TDMスイッチでパケットデータを分離し,ラベルスイッチ入力する

必要があるため,TDMスイッチ容量が大きくなってしまう。そこで,TDMデータをパケット化し,ラベルスイッチで全体を統合してしまうことで,

図-4のようにスイッチ容量を抑えることができる。(8)

同時に,ラベル/TDMデータ割合の変化にも柔軟に対応可能である。

AOTFと波長可変LDを用いたDOADM

エッジノード間の波長パス切替えを行うコアノー

ドは,高速大容量という波長パスの特性を生かすた

めに以下の二つの機能が求められる。 (1) パケット解析などに伴う電気変換を行わず,光信号のまま高速に処理が可能であること。

(2) 任意の2地点間のパス設定,経路変更が自由に行えること。

これら二つの機能を実現するためには,光波長多

重(WDM)された信号の中から任意の波長を光のまま自由に分岐挿入する機能が必須となる。その機

能を実現可能な装置として,任意波長型光分岐挿入

装置(DOADM) (9)や光クロスコネクト装置

(OXC:Optical Cross Connect)などのフォトニックネットワークノードがある。 今回コアノードとして,二つのキーデバイスを用

いたDOADM装置を開発した。その一つは,富士通研究所独自の音響光学型波長可変フィルタ(AOTF)である。(10),(11) AOTFは 170 MHz帯のRF(Radio Frequency)信号を制御することにより,任意の波長を複数同時に遮断(リジェクト)したり,WDM信号の任意の1波長のみを通過させることが可能な

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FUJITSU.54, 4, (07,2003) 309

P305-313:07-09青校.doc 309/5 最終印刷日時:03/07/09 21:09

10波,300 GHz 間隔

リジェクト時

IN

多チャネルRF信号発生器

DROP

光カプラ PD

Rejection AOTF CPU

制御回路

集積型Drop AOTF

Drop AOTF

・・・

Rejection AOTF

・・・

ADD

CPU制御回路

光カプラ

O/E

波長可変LD

Mod

100 GHz 間隔,32波 WDM入力光信号

ch.17

RF信号発生器

抑圧比>38 dB

OUT

隣接チャネル抑圧比>25 dB

1,548 1,563波長 (nm)

1,548 1,563

光パワー

1,533

10 dB/div

1,533 1,548 1,563波長(nm)

光パワー

波長(nm)

光パワー

1,533

図-5 DOADMの構成と各部の光スペクトル

Fig.5-Structure of DOADM and optical spectrum of each part.

光導波路型の波長可変フィルタである。またもう一

つは,8個の分布帰還型レーザダイオード(DFB-LD:Distributed Feed Back-Laser Diode)と半導体 光 増 幅 器 ( SOA : Semiconductor Optical Amplifier)を1チップに集積化した波長可変LDである。(12) 波長可変LDモジュールは波長ロッカを内蔵しており,波長精度±0.05 nm以内,0.8 nm間隔32波の任意の1波長を自由に可変し出力することができる。 これら二つの光デバイスを適用した本装置の構成

と各部の光スペクトルを図-5に示す。本装置は2種類のAOTFと波長可変LDモジュールから構成される。入力信号光は光カプラで通過光,分岐光に分離

される。通過光はRejection AOTFに入力され,RF信号の制御により最大10波長まで同時にリジェクトし,それ以外の波長を通過させる。分岐光は光ア

ンプで増幅した後,さらに光カプラで分岐し,集積

型Drop AOTFでそれぞれ所望の1波長が取り出される。各AOTFとも通過光の一部をモニタ光として受光し,RF信号をトラッキングすることで常に最適なRF周波数とパワーになるようCPUでフィードバック制御している。 波長パスを切り替えたい場合は,Rejection AOTFで所望の波長をリジェクトし,代わりに集積型Drop AOTFで同一波長を選択する。この操作により,IN→OUT間の波長パスが切れ,IN→Drop間に新規に波長パスが設定され,選択した波長のみ

経路変更することが可能となる。

10 Gbps,32波(ΔΔΔΔf=100 GHz)の入力信号に対し300 GHz間隔で10波同時にリジェクトしたときのRejection AOTF通過後の光スペクトルと,集積型Drop AOTFでch.17のみを通過させた後の光スペクトルを同じく図-5に示す。RF信号トラッキング制御により,Rejection AOTFでは38 dB以上の遮断特性を確保し,Drop AOTFでは25 dB以上の波長選択特性を確保した。 一方,ADDポートへの挿入光信号はいったん光電気変換(O/E)され,光外部変調器(Mod)を駆動し,波長可変LDからの光を変調する。これにより,挿入光信号は所望の波長に変換され伝送路に挿

入される。すなわち,ADD→OUT間に新規に波長パスを設定することが可能となる。 以上のように,本装置ではWDM光信号の中から複数の任意波長を遮断・分岐するために,2種類のAOTFを適用し,また遮断した波長と同一波長で,かつ別のデータ信号を新規挿入するために,波長可

変LDを適用した。これら二つの光デバイスを適用することで,簡単な構成で小型のDOADM装置が実現可能となる。 本装置を用い,光信号の動的(ダイナミック)な

分岐挿入を行うことで,柔軟な光パス設定や経路変

更を行うことができ,網リソースの最適利用を実現

することが可能となる。 なお,本装置開発の一部は,通信・放送機構

(TAO)の委託研究によるものである。

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310 FUJITSU.54, 4, (07,2003)

P305-313:07-09青校.doc 310/6 最終印刷日時:03/07/09 21:09

0

1

2

3

4

5

6

7

8

0 10 20 30 40 50 60 70

印加電圧 (V)

回転角(度)

FEM 計算結果 (X)

実験結果 (X)

FEM 計算結果 (Y)実験結果 (Y)

図-8 MEMSミラーの特性

Fig.8-Characteristics of MEMS mirror.

10 mm

図-7 80チャネルMEMS光スイッチチップ

Fig.7-80-channel MEMS optical switch chip.

X軸回転ミラー

V形状トーションバー

Y軸可動フレーム

固定フレーム

図-6 2軸駆動櫛歯電極型マイクロミラー

Fig.6-Dual-axis vertical comb-driven mirror.

MEMS光スイッチ

光通信ネットワークのデータトラヒック増大に伴

い,光を電気信号に変換することなく,光のまま信

号経路を切り替えることが可能な光スイッチの必要

性が高まっている。従来の光スイッチとしては,プ

リズムやファイバを動かす機械式光スイッチや,導

波路型の光スイッチが知られているが,チャネル数

の大規模化が困難であるという課題があった。これ

に対し,MEMS技術により作製したマイクロミラーアレイを光路に挿入し,空間的に光の切替えを

行うMEMS光スイッチは,大規模化・小型化に有利とされ,近年注目を集めている。 今回著者らは,スイッチを構成するために必要な

ミラー数がチャネル数(N )の2倍(2N )と少なく,大規模化に有利と考えられる3次元型MEMS光スイッチの開発に取り組んだ。3次元MEMS光スイッチに関しては,これまで活発に研究が行われて

いるが,大半は平行平板型の静電アクチュエータを

用いており,駆動力を大きくすることが困難なため

低電圧化・高速化に限界があった。今回,大きな駆

動力の期待できる櫛歯型静電アクチュエータを2軸駆動のミラーアレイに適用し,ルーフトップ型ミ

ラーを用いた小型光学系を用いることで,高速・低

駆動電圧・低損失の光スイッチを実現した。 今回実現した2軸駆動型の櫛歯電極型マイクロミラーの構造を図-6に示す。平行平板型とは異なりミラーが回転しても固定櫛歯と可動櫛歯との電極間

ギャップが変化しないため,十分にギャップを狭く

して静電力を大きくすることができる上に,櫛歯対

数を増やすことでも大幅な駆動力の増大が期待でき

る。櫛歯電極型マイクロミラーに関してはこれまで

いくつかの報告があるが,著者らは駆動トルクが大

きくできアレイ化にも有利な,ミラー先端に櫛歯電

極を形成する構成を検討し,平行平板電極型と比較

して50倍程度の駆動力が期待できることを確認した。(13) 独自のV形状トーションバーの採用により,課題である櫛歯の横ぶれを押さえ,安定な動作を実

現している。 図-7は配線基板上に実装した80チャネルのスイッチチップの写真である。1枚の配線基板の上に,入力用と出力用の二つのMEMSミラーチップが実装されている。図-8は試作したスイッチチップの特性をFEM(Finite Element Method)シミュレーションと比較した結果である。2軸両方に対して60 V電圧印加による5度の回転を確認することができた。(14),(15) このスイッチチップを用いた光スイッチファブリックの構成と写真を図-9に示す。(16) 折り返し

ルーフ型ミラーを用いる光学系を新たに開発し,光

路長の短縮と組立ての簡易化を実現した。これによ

り,挿入損失5 dB以下,10~70℃における損失変

次世代IPプラットフォーム -フォトニックバーチャルルータ-

FUJITSU.54, 4, (07,2003) 311

P305-313:07-09青校.doc 311/7 最終印刷日時:03/07/09 21:09

ファイバブロック

MEMSミラーアレイIN

OUT

IN

OUT

幅:87×奥行:77×高さ:53(mm)

折り返しルーフ型ミラー

図-9 光スイッチファブリック

Fig.9-Optical switch fabric.

GbE

GbE

OC48c λ

変換器WDM合波器 OC48c

λ OC48c GbE

変換器

GbE

WDM分波器

ユーザサイトA’クライアント

ユーザサイトAファイルサーバ

制御サーバ

GMPLSコントローラ1

GMPLSコントローラ2

GMPLSコントローラ4

GMPLSコントローラ3

RS-232c

イーサネット

コントロールプレーン

データプレーン

エッジノード2

エッジノード1

コアノード

疑似負荷発生装置

エッジノード3

制御線

AOTFベースDOADM

ハブ

ラベル/TDM統合スイッチ

アグリゲート

ダイレクト波長パス

パス設定Web IF

GMPLSコントローラ5

図-10 ネットワーク構成

Fig.10-Network configuration.

動0.3 dBと良好な特性が得られた。(17)

プロトタイプシステム

● フォトニックバーチャルルータ 著者らが提案するフォトニックバーチャルルータ

の動作検証を目的としてプロトタイプシステムを構

築した。プロトタイプシステムのネットワーク構成

を図-10に示す。データプレーンは,3台のエッジノードと1台のコアノードから成り,コアノードはAOTFを用いたDOADM装置およびラベル/TDM統合スイッチから成るハイブリッドノードである。

エッジノードはギガビットイーサネット(GbE)を持っており,コアノードと接続するために,

GbE-OC48c変換器とWDM合波器/分波器を経由し

てコアノードと接続されている。DOADM装置は32波長の光信号を収容し,そのうちの任意の波長を挿入または分岐可能である。ラベル/TDM統合スイッチは,MPLSラベル,TDMフレームを同一スイッチファブリックで扱える統合スイッチで,

OC48c×10ポートの容量を持つ。 一方コントロールプレーンは,5台のGMPLSコントローラから成るイーサネットワークである。

GMPLSコントローラは,各スイッチ装置に対応して接続され,光 /ラベルパス設定用GMPLS-CR-LDP(18)および新たに著者らが開発した経路変更用

の拡張CR-LDP(19)が実装されている。またユーザ

クライアントとエッジノードはギガビットイーサ

ネット,ユーザクライアントと制御サーバはイーサ

ネットで接続されている。ユーザからのオンデマン

ドなパス設定指示により,ダイレクトな波長パスや

複数ラベルパスをコアノードで単一波長パスにアグ

リゲートするパスが,ワンクリックで設定できるこ

とが確認できた。フォトニックバーチャルルータの

プロトタイプシステムの全景を図-11に示す。 ● MEMS光スイッチ MEMS光スイッチに関しては,高速・低損失の光スイッチを実現するため,MEMSミラーを高速

次世代IPプラットフォーム -フォトニックバーチャルルータ-

312 FUJITSU.54, 4, (07,2003)

P305-313:07-09青校.doc 312/8 最終印刷日時:03/07/09 21:09

エッジノードAOTFベース

DOADM

GMPLSコントローララベル

/TDM統合SW

図-11 プロトタイプシステム

Fig.11-Prototype system.

幅:413×奥行:104×高さ:219(mm) 光応答波形

Delay:0 ms

0.03 ms

0.13 ms

0.19 ms

0.24 ms

切替時間 1 ms

Ü大遅延 0.24 ms

時間(ms)0 1 2 3 4

光出力

図-12 80チャネル光スイッチの外観とブロックスイッチ

出力 Fig.12-80 channels optical switch module and outputs

of block switch. かつ高精度に制御することが重要となる。著者らは,

高精度なミラー回転角制御を行うためのデジタル

フィードバック方式,MEMSミラーの機械的共振を抑圧するためのデジタルノッチフィルタ,および

ミラー位置安定化の待ち時間を利用した回路規模の

縮小と切替時間の短縮を両立するためのブロック分

割制御方式を開発した。(20)-(22) 試作した80 ch光スイッチの外観と,ブロックスイッチの出力波形を

図-12に示す。全ミラーを10のブロックに分け,1ブロック内で16チャネルのミラーを時分割制御することで,ブロック内全ミラーの切替制御時間(角

度誤差による過剰損失が0.5 dB以下に到達するまでの時間)として1 msを達成した。全80チャネル(160ミラー)は10ブロックの同時駆動で制御を行うため,160ミラーの同時駆動と比較して回路規模

の大幅な縮小も達成できた。これらにより低消費電

力化(8.5 W)と回路部の小型化を実現した。(22)

む す び

次世代IPプラットフォームとしてフォトニックトランスポート技術とIPネットワーク技術を融合させたフォトニックバーチャルルータのアーキテク

チャを提案し,様々なデータプレーンのパスを統合

して制御できるGMPLS技術について述べた。フォトニックバーチャルルータの核となるデータプレー

ン技術であるサブλλλλグルーミング技術,AOTFを用いたDOADM,MEMS光スイッチについて詳細な概要を述べた。さらにフォトニックバーチャルルー

タの試作システムとMEMS光スイッチ試作機について紹介した。 参 考 文 献

(1) ITU-T勧告G.8080/Y.1304:Architecture for the Automatically Switched Optical Network (ASON). November 2001.

(2) K. Shimano et al.:MPLambdaS Demonstration Employing Photonic Routers (256x256 OLSPS) To Integrate Optical And IP Networks.NFOEC2001, 2001.

(3) 宗宮利夫ほか:次世代ネットワークアーキテクチャ-バーチャルルータネットワークにおけるトラ

ヒックエンジニアリング-.FUJITSU,Vol.52,No.4,p.292-298(2001).

(4) E. Mannie (editor):Generalized Multi-Protocol Label Switching (GMPLS) Architecture.Internet Draft,August 2002.

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次世代IPプラットフォーム -フォトニックバーチャルルータ-

FUJITSU.54, 4, (07,2003) 313

P305-313:07-09青校.doc 313/9 最終印刷日時:03/07/09 21:09

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