フラットパネルX線イメージセンサの開発Yoshihiro Izumi Osamu Teranuma Tamotsu Sato...

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    フラットパネルX線イメージセンサの開発

    フラットパネルX線イメージセンサの開発

    Development of Flat Panel X-ray Image Sensors

    和 泉 良 弘*1 寺 沼  修*1 佐 藤  保*1 上 原 和 弘*1 岡 田 久 夫*1

    Yoshihiro Izumi Osamu Teranuma Tamotsu Sato Kazuhiro Uehara Hisao Okada

    徳 田  敏*2 佐 藤 敏 幸*2

    Satoshi Tokuda Toshiyuki Sato

    *1 ディスプレイ技術開発本部 ディスプレイ開発センター第2研究部

    *2 株式会社島津製作所 基盤技術研究所

    要  旨

    医用画像の分野では,薄膜トランジスタ(TFT)アレイとX線検出材料を組み合わせた新しいタイプのフラットパネルX線イメージセンサの研究開発が進められている。今回,X線変換膜としてアモルファスSe膜及び多

    結晶CdTe膜を用いた2種類の直接変換型X線イメージセンサを試作し,読み出し画像の高い分解能と,広いダイナミックレンジを有する線形な感度特性を確認することができた。このフラットパネルX線イメージセンサは,リアルタイム撮像も可能なことから,次世代の動画・静止画兼用型の高性能ディジタル撮像システムとして有望である。

    New flat panel X-ray image sensors have been studiedfor medical imaging applications. The combination of athin film transistor (TFT) array and X-ray detectionmaterial constitutes the basis of the flat panel X-ray imagesensor.We have developed two prototypes of direct detection

    sensors with amorphous Se film and poly-crystalline CdTefilm as the X-ray detection materials. We have achievedhigh spatial resolution and good linear sensitivity withwide-dynamic range. These image sensors have greatpromise as high-performance digital radiography andfluoroscopy systems for the next generation.

    まえがき

    従来から,医療診断の分野では,X線像を撮影する手段として,増感紙とフィルムを利用した S/F(Screen/Film)方式,イメージングプレートに記録された潜像をレーザ走査で読み取る CR(ComputedRadiography)方式,光電子増倍管とCCD素子を組み合わせたI.I.-TV(Image Intensifier TV)方式の撮像装置が使用されてきているが,近年,これらに置き換わる新しいタイプの撮像装置として,フラットパネル型のディジタルX線イメージセンサの開発が活発化している1)2)。このフラットパネルX線イメージセンサは,アクティブマトリクス型液晶ディスプレイに用いられている大面積の薄膜トランジスタ(TFT)アレイと,X線を電気信号に変換するX線変換膜とを組み合わせたフラットな形態のセンサパネルをキーデバイスとして用いるものであり,従来のX線撮像装置に比べて種々の利点を有している。すなわち,従来のS/F方式に比べて,フィルムレス化が実現でき,ディジタル画像処理を用いた画質改善や診断支援,電子ファイリング,ネットワーク化が容易である。また,CR方式に比べると,撮像結果を即時に画像信号に変換することができる。さらに,I.I.-TV方式に比べると,大幅な薄型化が実現でき,大面積で高解像度のX線画像を得ることが可能となる。

    このフラットパネルX線イメージセンサには,X線検出原理の違いによって「間接変換方式」と「直接変換方式」に大別できる。「間接変換方式」とは,X線情報を蛍光体(Scintillator)によって一旦光に変換した後,フォトダイオードで光を電気信号に変換する方式である。一方,「直接変換方式」とは,X線情報をX線変換膜(X-ray photoconductor)によって直接電気信号に変換する方式である。前者の「間接変換方式」の場合,フォトダイオードの優れた光検出機能を利用できるといったメリットを有する反面,光散乱による空間分解能の低下や,TFTアレイ上に画素毎にフォトダイオー

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    ドを作り込む必要があるといったプロセス面の課題を持ち合わせている。このため,我々は,フォトダイオードアレイが不要で液晶ディスプレイ用のTFTアレイを適用しやすく,原理的に解像度の劣化が少ない「直接変換方式」に着目し,X線変換膜としてアモルファスSe膜及び多結晶CdTe膜を用いた2種類のフラットパネルX線イメージセンサの開発を行った3)。本稿では,これら2種類の試作機のセンサパネル構造,読み出し画像の特性,更に最近の開発状況について報告する。

    1 . センサパネルの構造

    1・1 原理

    図1に,直接変換方式のフラットパネルX線イメージセンサの原理図を示す。TFTアレイのほぼ全面を覆うように,X線変換膜とバイアス電極が積層されている。X線発生器から放射されたX線は,人体等の被検体を透過した後,X線変換膜に入射する。X線変換膜では,入射されたX線量に応じた電荷(正孔-電子対)が励起される。発生した電荷は,X線変換膜に印加されているバイアスの極性に従い画素電極に移動し,TFTアレイ内の蓄積容量(Cs)に蓄積される。その後,TFTを線順次に走査することで,Csに蓄積された電荷情報をデータバスラインから読み出すことができる。データバスラインの端部には,増幅回路(CSA: ChargeSensitive Amplifier)とA/Dコンバータが接続されており,読み出された電荷情報はディジタル画像信号に変換されて順次出力される。

    1・2 X線変換膜表1に,X線変換膜として使用できる代表的な半導

    体材料の物理特性を示す4)。アモルファスSe(a-Se)は, W値(電子-正孔対の生成に必要なX線のエネルギー)やμτ積(キャリア輸送能力)が他の材料より劣っているが,暗電流が小さく,大面積基板上への低温成膜が容易であるといった特長を有することから,有力な候補の1つであると考えられる。一方,CdTeは,結晶化に500℃以上の高温を有するため,これまでフラットパネルX線イメージセンサへの適用は困難と考えられていた。しかし,表1に示されるように,a-Seと比較してW値が小さく高感度な特性を有し,μτ積が大きくバイアスの低電圧化が可能と推測されることから,高性能なX線変換膜として魅力的な材料である。そこで,我々は,X線変換膜として,大面積成膜が容易なa-Se膜,及び感度向上が期待できるCdTeの2種類を選定した。

    図1 直接変換型フラットパネルX線イメージセンサの原理図

    Fig. 1 Scheme of a direct detection flat panel X-ray image

    sensor.

    図2 a-SeとCdTeの検出量子効率(DQE)

    Fig. 2 Detective quantum efficiency of a-Se and CdTe.

    表1 X線変換材料の特性

    Table 1 Property of X-ray photoconductors.

    次に,図2に,a-Se及びCdTeに関する検出量子効率(DQE: Detective Quantum Efficiency)の膜厚依存性を示す。既存のI.I.-TV撮像装置を上回るDQE(約0.7)を目標とした場合,a-Seで約1,000μm,CdTeで約300μmの膜厚が必要であることが判る。

    Materials State Resistivity�(Ω cm)

    μτ product�(cm2/V)

    W value�(eV)

    a-Se�

    PbI2�

    HgI2�

    CdTe

    film�

    crystal�

    crystal�

    crystal

    1.E+12�

    1.E+13�

    1.E+13�

    1.E+09

    1.E-06�

    1.E-05�

    1.E-04�

    4.E-03

    50�

    5�

    4�

    5

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    フラットパネルX線イメージセンサの開発

    1・3 パネル構造図3は,X線変換膜として,(a)a-Se膜,及び(b)

    CdTe膜を用いた各センサパネルの断面構造図である。(a)に示すa-Se膜のセンサパネルでは,約1,000μmの厚みを有するa-Se膜と,Auからなるバイアス電極が,真空蒸着によってTFTアレイ上に直接成膜されている。TFTアレイは,液晶ディスプレイ用途のものをベースに,Csの値を約1桁大きく設計したものを使用した。一方,(b)に示すCdTe膜のセンサパネルでは,TFTアレイ上にCdTe膜を直接成膜することができないために,CdTe膜とTFTアレイを各々別の基板に形成した後に両者を接合するいわゆるハイブリッドパネル構造を新たに採用した5)。これにより,500℃以上の成膜温度が必要とされていたCdTe膜を, X線変換膜として容易に利用できるようになった。CdTe膜の成膜には,太陽電池の分野で実績のある近接昇華法(図4)を採用した。本成膜方法を用いれば,多結晶構造のCdTe膜を高速(5μm/min以上)で成膜することが可能となり,さらに,将来の大面積化にも容易に対応できる。

    CdTe膜とTFTアレイの電気接続には,接着性を備えた導電性樹脂を採用した。図5は,TFTアレイ上に導電性樹脂がパターニングされた状態を示した写真である。この導電性樹脂は,感光性樹脂に導電性顔料が分散されたドライフィルムであり,通常のフォトリソグラフィ技術によって,TFTアレイの画素電極上にバンプとして形成することが可能である。導電性樹脂のバンプが設けられた TFTアレイとCdTe膜は,液晶ディスプレイのパネル貼り合わせ工程で用いられる熱プレス工法を利用して接合することができる。導電性樹脂の接続抵抗は,約105Ω/画素であるが,

    蓄積容量(Cs)の値(1~1.5pF)を考慮すると,CR時定数は読み出しレート(1走査期間33ms)に比べて十分に小さな値となる。

    1・4 3"試作機の仕様表2に,X線変換膜としてa-Se膜,及びCdTe膜を

    図3 センサパネル構造;(a)a-Se,(b)CdTe

    Fig. 3 Panel structure; (a)a-Se and (b)CdTe.

    図4 近接昇華法

    Fig.4 Close-spaced sublimation.

    図5 導電性樹脂パターン

    Fig. 5 Patterned conductive resin.

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    用いた各センサパネルの3"試作機の仕様を示す。

    MTF特性は理論値に沿った特性を示すが,CdTe膜のMTF特性は理論値から離れており,CdTe膜内で解像性が劣化していることが確認された。これは,CdTe膜の面抵抗値が低い事が主原因と考えられる。

    2 . 読み出し画像の特性

    2・1 感度

    図6に,表2に示した3"試作機のX線感度特性を示す。a-Se膜,CdTe膜の両センサパネルにおいて,透視~撮影領域のX線量に対し,3桁以上の良好な線形性を示すことが確認された。また,CdTe膜は,a-Se膜に比べてX線変換膜のバイアス電界が小さいにもかかわらず,約4倍の感度を有することが確認された。

    2・2 空間分解能図7に,各試作機によって撮影された解像チャート

    パターンを示す。a-Seでは,TFTアレイの画素ピッチ(0.15mm)に相当する 3.2lp/mmの解像性が確認された。一方,CdTe膜は,a-Se膜に比べると解像性が若干劣るように見受けられる。そこで,両者の空間分解能(MTF: Modulation Transfer Function)の周波数特性を評価したところ,図8に示す結果を得た。a-Se膜の

    表2 3"試作機の仕様

    Table 2 Specification of 3" prototypes.

    図7 解像パターン画像

    Fig. 7 Resolution pattern; (a)a-Se, (b)CdTe.

    図6 3"試作機のX線感度特性

    Fig. 6 X-ray sensitivity of 3" prototypes.

    図8 3"試作機のMTF特性

    Fig. 8 Modulation transfer function of 3" prototypes.

    Description Specification Unit

    Detector film�

    Panel structure�

    Film thickness�

    Electric field�

    Array format�

    Array dimensions�

    Pixel pitch

    a-Se�

    Conventional�

    1,130�

    5.0

    CdTe�

    Hybrid�

    200�

    0.1

    512 × 512�

    76.8 × 76.8�

    150

    μm�

    V/μm�

    dots�

    mm2�

    μm

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    2・3 画像図9,図10に,各試作機によって撮影された画像

    を示す。図9では,骨の繊維構造が鮮明に写し出されており,a-Se膜の優れた解像力が示されている。一方,CdTe膜をX線変換膜に用いて画像を取得した例は過去に無く,図10は,CdTe膜から得られた世界で初めてのX線画像である。なお,両センサパネルとも,30フレーム/秒での動画撮影が可能であることが確認された。

    3 . 大面積化及び性能向上に向けた取り組み

    3・1 a-Seセンサパネル

    上述の基礎評価によって,a-Seセンサパネルについては,実用レベルの感度特性と優れた解像性が確認された。そこで,実用化に向けて撮像エリアを9"×9"に拡大したセンサパネルの試作を新たに行った6)。表3に,9"センサパネルの仕様を示し,図11に,そ

    のセンサモジュールの外観を示す。上辺に6個の駆動LSI,左右各辺に12個(計24個)のアンプLSIがTAB実装されており,読み出しデータは左右両側から出力されるようになっている。このセンサパネルに10V/μmのバイアスを印加した条件で,X線管電圧80kVでのDQEを測定したところ,約0.75であった。この値は,従来のI.I.-TV方式の撮像装置を上回る高い値である。図12に,このセンサパネルによって撮影された頭

    部ファントムの撮影画像を示す。優れた解像性と広いダイナミックレンジにより,全域に渡って鮮明な画質

    図9 手のファントム像(3"a-Se)

    Fig. 9 X-ray image of a hand phantom (3"a-Se).

    図10 時計像(3"CdTe)

    Fig. 10 X-ray image of a watch (3"CdTe).

    表3 9"試作機(a-Se)の仕様

    Table 3 Specification of a 9" a-Se prototype.

    図11 3" a-Seセンサパネルの外観

    Fig. 11 Appearance of a 9" a-Se prototype.

    が得られている。もちろん30フレーム/秒の動画撮影も可能である。

    Parameter Specification Unit

    Array dimensions�

    Array format�

    Pixel pitch�

    Film thickness�

    Readout rate

    230 × 230�

    1536 × 1536�

    150�

    1000�

    30

    mm2�

    dots�

    μm�

    μm�

    fps

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    今後,商品化に向けて,低雑音アンプLSIの改良,耐環境温度性等の信頼性評価,胸部撮影ができる汎用X線撮影装置(撮像領域17"× 17")向けセンサパネルの開発,臨床評価に向けた取り組みを進めていく予定である。

    3・2 CdTeセンサパネル前述の基礎評価によって,CdTeセンサパネルは,a-

    Seセンサパネルに比べて高感度な特性を示す事が実証された。これは,CdTeセンサパネルを用いれば,人体のX線被爆量を低減でき,透視(動画)撮像時のリスクを低減できることを示している。今回,CdTe膜の解像性に関する課題が判明したが,

    これに対しては,CdTe膜にZnをドープすることでワイドギャップ化が可能であり,膜の高抵抗化及びリーク電流(暗電流)の低減を行うことが可能と考えられる。実際に,ZnがドープされたCd(Zn)Te膜を用いてセンサパネルを試作したところ,MTF(@1lp/mm)が0.6から0.8に改善することが確認された。また,図3(b)に示したパネル構造の中で,CdTe膜上にパターン形成していた電荷収集電極(Collectionelectrode)を省いてもX線検出特性の劣化が見られず,パネル構成の簡略化が可能であることが確認された7)。これらのことから,Cd(Zn)Teセンサパネルは,次

    世代の高性能センサパネルとして極めて有望であるものと考えられる。

    むすび

    アクティブマトリクス型液晶ディスプレイの基幹技術であるTFTアレイ技術とX線変換膜(a-Se膜,多結晶CdTe膜)を組み合わせた直接変換型フラットパネルX線イメージセンサの開発を行った。a-Se膜を用いたセンサパネルについては,9インチ角のパネル試作を行い,実用レベルの感度特性と優れた解像性が確認された。一方,多結晶CdTe膜については,独自の新規ハイブリッドパネル構造を採用することで,極めて高感度なX線変換膜として利用できる事が初めて実証された。これらのフラットパネルX線センサパネルは,将来の動画・静止画(透視・撮影)兼用型ディジタル撮像デバイスとして有望であり,ネットワークを利用した新しい診断システムの展開が期待される。

    また,今回の研究を通して,液晶ディスプレイ用のTFTアレイが入力デバイスに適用できることが確認された。今後,ディスプレイ分野以外へのTFTアレイの新たな応用が期待される。

    謝辞本研究にあたり,多大なご協力を頂きましたTFT液

    晶事業本部TFT第1事業部,IC開発本部設計技術開発センター,並びに株式会社島津製作所基盤技術研究所の関係者の皆様に感謝致します。

    参考文献1) 稲邑清也, "X線フラットパネルディテクター", 光学, 29, 5, pp. 295-

    303 (2000).

    2) J. P. Moy, "Large area X-ray detectors based on amorphous sili-

    con technology", Thin Solid Films, 337, pp. 213-221 (1999).

    3) S.Adachi et al., "Experimental Evaluation of a-Se and CdTe Flat-

    Panel X-ray Detectors for Digital Radiography and Fluoros-

    copy", Proc. SPIE, 3977, pp. 38-47 (2000).

    4) M.R.Squillante et.al., "New Compound Semiconductor Materials

    for Nuclear Detectors", Mat. Res. Soc. Symp. Proc., 302, pp. 319-

    328 (1993).

    5) Y. Izumi et al., "A Direct Conversion X-ray sensor with a Novel

    Hybrid Panel Structure", Proc. AM-LCD'99, pp. 49-52 (1999).

    6) S.Hirasawa et al., "Development and Evaluation of Flat-Panel X-

    ray Detector for Digital Radiography and Fluoroscopy", Med.

    Imag. Tech., 18, 4, pp. 625-626 (2000).

    7) S.Tokuda et al., "Experimental Evaluation of a Novel CdZnTe

    Flat-Panel X-ray Detector for Digital Radiography and Fluoros-

    copy", Proc. SPIE, 4320, to be published (2001).

    (2001年5月16日受理)

    図12 頭蓋骨のファントム像(9" a-Se)

    Fig. 12 X-ray image of a head phantom (9" a-Se).