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Title直交群のWeingarten 関数と帯多項式 (New developments ingroup representation theory and non-commutative harmonicanalysis)
Author(s) 松本, 詔
Citation 数理解析研究所講究録別冊 = RIMS Kokyuroku Bessatsu(2012), B36: 113-129
Issue Date 2012-12
URL http://hdl.handle.net/2433/198107
Right
Type Departmental Bulletin Paper
Textversion publisher
Kyoto University
RIMS Kokyuroku BessatsuB36 (2012), 113–129
直交群のWeingarten関数と帯多項式(Weingarten functions for orthogonal groups and zonal polynomials)
By
松本 詔 (Sho Matsumoto)∗
Contents
§ 1. 序章§ 2. 直交群のワインガルテン計算法§ 3. ゲルファント対と帯球関数§ 4. ワインガルテン行列の新しい表示§ 5. 直交群のワインガルテン計算法についての補足§ 6. ユニタリ群と斜交群のワインガルテン計算法References
Abstract
This note is an overview of the paper [2]. We evaluate integrals of polynomial functions
over orthogonal groups. Our main result is to obtain an explicit expression of the Weingarten
matrix, which plays a starring role in the evaluations.
§ 1. 序章
直交群上の多項式関数の積分について考える.dを正の整数,O(d) = {g ∈ GL(d, R) | tgg =
Id}を直交群,dgをO(d)の正規化されたハール測度とする.gij を行列 gの (i, j)成分を
Received September 7, 2009. Accepted, February 1, 2010.2000 Mathematics Subject Classification(s): 15A52, 43A90Key Words: Weingarten calculus, orthogonal groups, zonal spherical functionsPartly supported by Grant-in-Aid for Young Scientists (B) No. 22740060.
∗名古屋大学大学院多元数理科学研究科 (Graduate School of Mathematics, Nagoya University), 〒 464-8602 愛知県名古屋市千種区不老町e-mail: sho-matsumoto@math.nagoya-u.ac.jp
c© 2012 Research Institute for Mathematical Sciences, Kyoto University. All rights reserved.
114 Sho MATSUMOTO
与える座標関数とする.与えられた添字 i1, i2, . . . , ik, j1, j2, . . . , jk ∈ {1, 2, . . . , d}に対して,次の積分を考えよう.
Id(i1, i2, . . . , ik; j1, j2, . . . , jk) :=
∫
O(d)
gi1j1gi2j2 · · · gikjkdg.
まず,kが奇数のときはこの積分は 0になる.実際,ハール測度の両側不変性から d(−g) =
dgとなるので,
Id(i1, i2, . . . , ik; j1, j2, . . . , jk) = (−1)kId(i1, i2, . . . , ik; j1, j2, . . . , jk)
が成り立つ.そこで,以下 k = 2nとする.Weingarten [13]はこのような積分の,d → ∞のときの漸近挙動を考えた.2n個の
添字 i1, . . . , i2n, j1, . . . , j2n を固定したときに,
(1.1) Id(i1, . . . , i2n; j1, . . . , j2n) = C(i1, . . . , i2n; j1, . . . , j2n)d−n + O(d−n−1)
が成り立つ.ここで,定数 C(i1, . . . , i2n; j1, . . . , j2n)は,後述するように具体的に与えられる.ただし,i1, . . . , i2n, j1, . . . , j2n の取り方によってはこの C(i1, . . . , i2n; j1, . . . , j2n)
は 0になるので,(1.1)は積分の漸近挙動の(非自明な)第1項を必ずしも与えているわけではないことに注意する.
B. Collinsと P. Sniady [3]は,有限の dにおいて,積分 Id(i1, . . . , i2n; j1, . . . , j2n)の値を求める手法を与えた.その手法は,ワインガルテン計算法 (Weingarten calculus)と呼ばれる.それによると,積分 Id はワインガルテン行列の行列成分の和として与えられる.ワインガルテン行列は,あるグラム行列の(擬似)逆行列として定義される.
このノートでの目的は,その Collins-Sniadyの公式を紹介することと,ワインガルテン行列の帯球関数を用いた新しい表示式を得た1のでそれを紹介することである.また最後の章で,ユニタリ群や斜交群の同様の問題についても触れる.
§ 2. 直交群のワインガルテン計算法
この章では Collins-Sniadyの公式を紹介する.後で詳しく扱うワインガルテン行列が重要な役割を果たす.
§ 2.1. 完全マッチングとグラム行列
M(2n)を,点 1, 2, . . . , 2nについての完全マッチング全体の集合とする.言い換えれば,M(2n)の元 mは集合 {1, 2, . . . , 2n}の 2点集合への分割である.例えば,M(4)は次の 3つの元からなる.
(2.1) {{1, 2}, {3, 4}}, {{1, 3}, {2, 4}}, {{1, 4}, {2, 3}}.1この研究は Benoıt Collins との共同研究 [2] によるものである.
Weingarten functions for orthogonal groups 115
一般に,|M(2n)| = (2n − 1)!! = (2n − 1)(2n − 3) · · ·3 · 1である. M(2n)の各元 mは,
(2.2)m =
{{m(1), m(2)}, {m(3), m(4)}, . . . , {m(2n − 1), m(2n)}
},
m(2i − 1) < m(2i) (1 ≤ i ≤ n), 1 = m(1) < m(3) < · · · < m(2n − 1),
の形に一意的に書ける.このとき単射
(2.3) M(2n) 3 m 7→(
1 2 3 4 ··· ··· 2n−1 2nm(1) m(2) m(3) m(4) ··· ··· m(2n−1) m(2n)
)
∈ S2n
によって,M(2n)を対称群 S2nの部分集合とみなす.上のM(4)の例ではそれぞれ,S4
の単位元 ( 1 2 3 41 2 3 4 ),互換 (2 3) = ( 1 2 3 4
1 3 2 4 ),3-サイクル (2 4 3) = ( 1 2 3 41 4 2 3 )が対応する.
二つの完全マッチングm, n ∈ M(2n)に対して,グラフΓ(m, n)を次のように定義する.すなわち,Γ(m, n)の頂点は 1, 2, . . . , 2nであり,辺は {m(2i−1), m(2i)}, {n(2i−1), n(2i)}(i = 1, 2, . . . , n)で構成されている.このときΓ(m, n)は,各頂点から辺が丁度 2本ずつ出ている.loop(m, n) ∈ {1, 2, . . . , n}を,Γ(m, n)の連結成分の個数とする.特に,loop(m, m) =
nである.
例 2.1. M(6)の 2元 m = {{1, 3}, {2, 5}, {4, 6}}, n = {{1, 6}, {2, 5}, {3, 4}} に対して,loop(m, n) = 2である.実際,Γ(m, n)は二つの連結成分
1m— 3
n— 4
m— 6
n— 1 ; 2
m— 5
n— 2
から成る.ここで記号 im
— j は,頂点 i, j が辺 {i, j} ∈ mで結ばれていることを表している.
定義 2.2. 正の整数 d, nに対し,行列 GO(d)n = (GO(d)(m, n))m,n∈M(2n) を
GO(d)(m, n) = dloop(m,n)
で定める.これを(直交群の)グラム行列と呼ぶ.
補足 1. GO(d)n の各成分は内積で与えられる(下の (2.4)参照).グラム行列とい
う名前はそのことに由来する.
例 2.3.
GO(d)2 =
d2 d d
d d2 d
d d d2
.
ただし,行と列の添字は,(2.1)の順である.
§ 2.2. ワインガルテン行列グラム行列は逆行列をもつとは限らない.実際,後で示すように,G
O(d)n が可逆とな
る必要十分条件は d ≥ nである.そこで,ワインガルテン行列をグラム行列の「擬似逆行列」として定義しよう.
116 Sho MATSUMOTO
定義 2.4. Aをm × n複素行列とする.このとき
(AB)∗ = AB, (BA)∗ = BA, ABA = A, BAB = B
をすべて満たす n × m行列 Bが一意的に存在する(例えば [11]を参照).この Bを,A
の擬似逆行列という.Aが正方行列で可逆ならば,B = A−1 である.
定義 2.5. 正の整数 d, nに対し,グラム行列 GO(d)n の擬似逆行列を
WgO(d)n = (WgO(d)(m, n))m,n∈M(2n)
と書く.これを(直交群の)ワインガルテン行列という.
例 2.6. 例 2.3のグラム行列 GO(d)2 は d ≥ 2のときは可逆で,d = 1のときはそう
ではない.(擬似)逆行列は以下のようになる.
WgO(d)2 =
1d(d+2)(d−1)
(d+1 −1 −1−1 d+1 −1−1 −1 d+1
)
if d ≥ 2,
19
(1 1 11 1 11 1 1
)
if d = 1.
§ 2.3. Collins-Sniady の定理序章で述べた積分 Id(i1, . . . , i2n; j1, . . . , j2n)を計算する公式を与えよう.完全マッチ
ング m ∈ M(2n)と,正の整数の列 i1, i2, . . . , i2nに対して,(
m
i1, i2, . . . , i2n
)
=n∏
k=1
δim(2k−1),im(2k)
と置く.(
m
i1,...,i2n
)は 0または 1であり,条件「{p, q} ∈ m ⇒ ip = iq」を満たすときに限
り 1となる.
定理 2.7 (Collins-Sniady [3]. Collins-Stolz [4],Collins-M [2]も参照).
i1, . . . , i2n, j1, . . . , j2nを {1, . . . , d}の元の列とするとき,次式が成り立つ.∫
O(d)
gi1j1gi2j2 · · · gi2nj2ndg
=∑
m,n∈M(2n)
WgO(d)(m, n)
(m
i1, i2, . . . , i2n
)(n
j1, j2, . . . , j2n
)
.
証明の概略. V = Cdとし,e1, . . . , edをその標準基底とする.行列 g = (gij)1≤i,j≤d
に対して 〈ei, gej〉 = gijである.テンソル積V ⊗2nを考える.各m ∈ M(2n)に対し,V ⊗2n
の元 ρ(m)を
ρ(m) =
d∑
j1,...,j2n=1
(m
j1, . . . , j2n
)
ej1 ⊗ · · · ⊗ ej2n
Weingarten functions for orthogonal groups 117
で定める.例えば,m = {{1, 3}, {2, 4}} ∈ M(4)ならば,ρ(m) =∑
j1,j2ej1 ⊗ ej2 ⊗ ej1 ⊗
ej2 ∈ V ⊗4となる.グラム行列の成分は,V の内積から自然に拡張された V ⊗2nの内積を用いて,
(2.4) GO(d)(m, n) = 〈ρ(m), ρ(n)〉, m, n ∈ M(2n),
となることは容易に確かめられる.(補足 1を参照.)O(d)の V ⊗2n への作用を
g.(v1 ⊗ · · · ⊗ v2n) = (gv1) ⊗ · · · ⊗ (gv2n), g ∈ O(d), v1, . . . , v2n ∈ V
で定める.ブラウアー・ワイルの双対性によれば,不変部分空間
[V ⊗2n]O(d) = {v ∈ V ⊗2n| g.v = v (∀g ∈ O(d))}
は,{ρ(m) | m ∈ M(2n)}で張られている.線型写像 P : V ⊗2n → V ⊗2n を
P (v) =
∫
O(d)
g.vdg, v ∈ V ⊗2n,
で定めると,P は [V ⊗2n]O(d) への射影となっている.また P の定義から,∫
O(d)
gi1j1 · · · gi2nj2ndg = 〈ei1 ⊗ · · · ⊗ ei2n
, P (ej1 ⊗ · · · ⊗ ej2n)〉
が成り立つ.上で述べた事実により,[V ⊗2n]O(d)の元 P (ej1 ⊗ · · · ⊗ ej2n)は ρ(m)たちの
線型結合で書けるわけだが,簡単な線型代数の計算をすることで,
P (ej1 ⊗ · · · ⊗ ej2n) =
∑
m,n∈M(2n)
〈ρ(n), ej1 ⊗ · · · ⊗ ej2n〉WgO(d)(m, n)ρ(m)
となることが分かる.この式を一つ前の式に代入し,
〈ρ(n), ej1 ⊗ · · · ⊗ ej2n〉 =
(n
j1, . . . , j2n
)
に注意すれば,結果が得られる.
§ 2.4. ワインガルテン計算法の具体例定理 2.7を適用して多項式関数の直交群上の積分を計算する手法を,ワインガルテン
計算法と呼ぶ.これは,ガウス型ランダム行列における類似の計算が,ウィック (Wick)
の公式を使っておこなわれることと対応している.M(4)の 3元を
m0 = {{1, 2}, {3, 4}}, m1 = {{1, 3}, {2, 4}}, m2 = {{1, 4}, {2, 3}}
118 Sho MATSUMOTO
とおく.例 2.6より,d ≥ 2ならば,
WgO(d)(mi, mj) =
d+1d(d+2)(d−1)
if i = j
−1d(d+2)(d−1) if i 6= j
である.これを用いて,定理 2.7の応用例を挙げよう.
例 2.8. 積分∫
O(d)g211g
222dgを考える.
(m
1,1,2,2
)= 1ならば,m = m0である.よって,
∫
O(d)
g211g
222dg = WgO(d)(m0, m0) =
d + 1
d(d + 2)(d − 1).
例 2.9. 積分∫
O(d)g11g12g21g22dg を考える.
(m
1,1,2,2
)(n
1,2,1,2
)= 1 ならば,m =
m0, n = m1 である.よって,∫
O(d)
g11g12g21g22dg = WgO(d)(m0, m1) =−1
d(d + 2)(d − 1).
例 2.10. 積分∫
O(d)g422dgを考える.任意の mi に対して
(mi
2,2,2,2
)= 1 だから,
∫
O(d)
g422dg =
2∑
i,j=0
WgO(d)(mi, mj) =3
d(d + 2).
例 2.11. 積分∫
O(d)g311g12dgを考える.任意の miに対して
(mi
1,1,1,2
)= 0となって
しまうから, ∫
O(d)
g311g12dg = 0.
今挙げた 4つの例では,被積分関数がいずれも 4次の多項式であった.もっと次数を上げてみよう.積分
∫
O(d)g211g
222g
233g
244g
255dgを考える.定理 2.7 から
∫
O(d)
g211g
222g
233g
244g
255dg = WgO(d)(l, l)
となる.ここで,l = {{1, 2}, {3, 4}, {5, 6}, {7, 8}, {9, 10}} ∈ M(10). WgO(d)(l, l) は9!! = 945 次の行列 Wg
O(d)5 の行列成分であり,Wg
O(d)5 は G
O(d)5 の(擬似)逆行列で
あった.行列のサイズが大きいので,定義からこのWgO(d)(l, l)を具体的に求めることは難しそうである.しかし後で与えるWgO(d) の新しい表示を使えば,
WgO(d)(l, l) =d5 + 11d4 + 5d3 − 175d2 − 122d + 408
d(d + 1)(d + 2)(d + 4)(d + 6)(d + 8)(d − 1)(d − 2)(d − 3)(d − 4)
と求まり,これが積分∫
O(d)g211g
222g
233g
244g
255dgの値である.
Weingarten functions for orthogonal groups 119
§ 3. ゲルファント対と帯球関数
次章で述べる我々の主結果は,対称群と超八面体群のゲルファント対の理論を用いて述べられる.ここではMacdonaldの本 [5, VII-1,2]や Stembridgeの論文 [12]に従い,その基本事項を復習する.
§ 3.1. 超八面体群Hn
S2n を 2n次対称群とし,Hn ⊂ S2n を超八面体群とする.すなわち,Hn は S2n における,互換の積 (1 2)(3 4) · · · (2n − 1 2n)についての中心化群である:
Hn = {ζ ∈ S2n | ζ(1 2)(3 4) · · · (2n − 1 2n) = (1 2)(3 4) · · · (2n − 1 2n)ζ}.
また,Hn は互換 (2i − 1 2i)と二重互換 (2i − 1 2j − 1)(2i 2j)たちで生成される S2n の部分群でもある.Hn は環積 S2 o Sn = (S2)
n o Sn と同型であり,Bn 型ワイル群である.位数は |Hn| = 2nn!である.
(S2n, Hn)はゲルファント対になる.すなわち,Hn の自明表現から誘導される S2n
の表現は,その既約分解における各既約表現の重複度が高々1となる.S2n のHnによる右剰余類への分解は,
(3.1) S2n =⊔
m∈M(2n)
mHn
となる.ここで,(2.3)によってM(2n) ⊂ S2n と見なしていたことに注意する.群環 C[S2n]を,畳み込み積に関する S2n上の複素数値関数全体のなす C代数と自然
に同一視する.C[S2n]の元 eを
(3.2) e =1
2nn!
∑
ζ∈Hn
ζ
で定める.このとき,Hn := eC[S2n]eは,eを単位元とする環となり,さらに (S2n, Hn)
がゲルファント対であることから可換代数となる.これをゲルファント対 (S2n, Hn)に関するヘッケ環という.群環の元を関数と思えば,Hnは両側Hn-不変な関数全体のなす代数となる:
Hn = {f : S2n → C | f(ζσζ ′) = f(σ) (∀σ ∈ S2n, ∀ζ, ∀ζ ′ ∈ Hn)}.
§ 3.2. 剰余類型
置換σ ∈ S2nに対して,頂点が1, 2, . . . , 2nで,辺が{σ(2i−1), σ(2i)}, {2i−1, 2i} (i =
1, 2, . . . , n) からなるグラフ Γ(σ) を考える.便宜上,辺 {σ(2i − 1), σ(2i)} は青に,辺{2i−1, 2i}は赤に色づけられているとする.例えば,ある i, jに対して,{σ(2j−1), σ(2j)} =
{2i − 1, 2i}となるときは,頂点 2i − 1と 2iが,赤と青の 2本の辺で結ばれることにな
120 Sho MATSUMOTO
る.Γ1, . . . , Γs を Γ(σ) の連結成分全体とすれば,各 Γj は偶数個 2αj 個の頂点を含む.α1, . . . , αsを非増加に並び替えると,nの分割 ρ = (ρ1, . . . , ρs)が定まる.この ρを σの剰余類型 (coset-type)と呼び,Ξ(σ) = ρと表す.
§2.1で定義したグラフ Γ(m, n)は Γ(m−1n)と(辺の色を除いて)同型になる.よっ
て,loop(m, n)は分割 Ξ(m−1n)の長さに一致する.
例 3.1. σ = ( 1 2 3 4 5 6 7 83 1 6 5 2 7 4 8 ) ∈ S8 とする.Γ(σ)は,2つの連結成分
1blue— 3
red— 4
blue— 8
red— 7
blue— 2
red— 1 ; 5
blue— 6
red— 5
から成る.(記号 iblue— j は頂点 i, j が青い辺で結ばれていることを表している.i
red— j も
同様.) 各連結成分内の頂点の個数は,6, 2.よって,σ の剰余類型は Ξ(σ) = (3, 1) ` 4
となる.
グラフ Γ(σ)を観察することで,次の性質が容易に分かる([5, VII (2.1)]): 任意のσ ∈ S2n に対して,Ξ(σ−1) = Ξ(σ).さらに,σ, τ ∈ S2n に対して,
Ξ(σ) = Ξ(τ) ⇔ HnσHn = HnτHn.
すなわち,剰余類型はまさに S2nのHn-両側剰余類を決定している.分割 ρ ` nに対してHρ = {σ ∈ S2n | Ξ(σ) = ρ}とおくと,S2n のHn-両側剰余類への分解
S2n =⊔
ρ`n
Hρ
が得られる.特に,H(1n) = Hn である.また,ヘッケ環Hn は
Hn = {f : S2n → C | 任意の ρ ` nに対して,f はHρ で定数 }
と言い換えられる.
§ 3.3. 帯球関数と帯多項式
次にゲルファント対 (S2n, Hn)の帯球関数を復習しよう.2nの分割 µに対して,χµ
を S2n の既約指標とする.また,fµ = χµ(id)を既約表現の次元とする.fµ は,型 µの標準ヤング盤の個数に一致する.
各 λ ` nに対し,2λ = (2λ1, 2λ2, . . . )と定める.ゲルファント対 (S2n, Hn)の帯球関数 (zonal spherical function) ωλを ωλ = χλe = eχλ ∈ C[S2n]で定義する.ここで,eは(3.2)で定まる元である.関数としてみると,
ωλ(σ) =1
2nn!
∑
ζ∈Hn
χ2λ(σζ), σ ∈ S2n
である.{ωλ | λ ` n}はHn の基底をなす.ωλ のHρ での値を ωλρ と書く.
Weingarten functions for orthogonal groups 121
最後に,帯多項式を定義しよう.長さ l = `(ρ)の分割 ρ = (ρ1, ρ2, . . . , ρl) に対し,pρ =
∏li=1 pρi
とおく.ここで,pk(x1, x2, . . . ) = xk1 + xk
2 + · · · は冪和対称関数である.分割 λ ` nに対し,帯多項式 (zonal polynomial) Zλ は
(3.3) Zλ = 2nn!∑
ρ`n
z−12ρ ωλ
ρ pρ
で定義される対称関数である.ここで,分割 µ = (µ1, µ2, . . . )に対して,重複度mi(µ) =
|{j ≥ 1 | µj = i}|を使って,zµ =∏
i≥1 imi(µ)mi(µ)!と定めている.帯多項式Zλはジャック多項式 J
(α)λ の α = 2のときに一致する([5, VII (2.23)]).ここでは,Zλ の特殊値
Zλ(1d) = Zλ(1, . . . , 1︸ ︷︷ ︸
d
) =∏
(i,j)∈λ
(d + 2j − i − 1)
が重要である([5, VII (2.25)]).ここで,∏
(i,j)∈λ :=∏`(λ)
i=1
∏λi
j=1としている.Zλ(1d)は`(λ) > dならば 0になり,それ以外では正の整数である.
§ 4. ワインガルテン行列の新しい表示
§ 4.1. 主定理
前章で復習した言葉を用いて,主定理を述べよう.§2で登場したワインガルテン行列の成分を記述することが目的である.
定理 4.1 (Collins - M [2]). m, n ∈ M(2n)(⊂ S2n)に対して,
(4.1) WgO(d)(m, n) =1
(2n − 1)!!
∑
λ`n`(λ)≤d
f2λωλ(m−1n)
Zλ(1d).
定理が示すように,WgO(d)(m, n)は,m−1
nの剰余類型にのみ依存している.d ≥ n
のとき,定理の式の和は,nの分割全体を走る.この事実は特に,d → ∞での挙動を見る際に重要である.
例 4.2 (d = 1). χ(2n) ≡ 1なので,ω(n) ≡ 1である.また,Z(n)(11) =
∏nj=1(2j−
1) = (2n − 1)!!である.よって,定理 4.1より,任意の m, n ∈ M(2n)に対して,
WgO(1)(m, n) =1
(2n − 1)!!
f (2n)ω(n)(m−1n)
Z(n)(11)=
(1
(2n − 1)!!
)2
を得る.しかしながら,O(1) = {±1}なので,§2.4のような積分計算においてWgO(1)はわざわざ必要ではない.
122 Sho MATSUMOTO
例 4.3 (n = 2, d > 1). f (4) = 1, f (22) = 2, Z(2)(1d) = d(d + 2), Z(12)(1
d) =
d(d − 1)は直ちに分かる.また ω(2)(12) = ω
(2)(2) = 1, ω
(12)(12) = 1, ω
(12)(2) = − 1
2 も定義から容易に求められる.m, n ∈ M(4)に対し,剰余類型 Ξ(m−1
n)はm = nのとき (12)で,それ以外では (2)となる.よって,d > 1,m, n ∈ M(2n)ならば
WgO(d)(m, n) =1
3
ω
(2)Ξ(m−1n)
d(d + 2)+
2ω(12)Ξ(m−1n)
d(d − 2)
=
d+1d(d+2)(d−1) m = nのとき
−1d(d+2)(d−1) それ以外.
これは例 2.6の結果に一致する.
定理 4.1が与える表示式において,一般には ωλµ の値を知ることが一番難しい.これ
については,[10]で,nが 12以下の分割に対しての表が与えられている.[2]ではその表を使って,n ≤ 6に対してのWgO(d)(m, n) (m, n ∈ M(2n))の値を全て計算した.なお,それ以前に [3]で n = 4までは計算されていた.
§ 4.2. 主定理の証明
天下り的な証明ではあるが,(4.1)で定義されるワインガルテン行列
WgO(d)n =
1
(2n − 1)!!
∑
λ`n`(λ)≤d
f2λ
Zλ(1d)· (ωλ(m−1
n))m,n∈M(2n)
がグラム行列 GO(d)n の擬似逆行列となることを示そう.グラム行列は実対称行列である
から,定義 2.4より 2つの等式
(4.2) GO(d)n · WgO(d)
n · GO(d)n = GO(d)
n , WgO(d)n · GO(d)
n · WgO(d)n = WgO(d)
n
を示せば良い.次の補題を用意する.
補題 4.4. λ, µを nの分割とし,m, n ∈ M(2n)とする.このとき,∑
l∈M(2n)
ωλ(m−1l)ωµ(l−1
n) = δλµ(2n − 1)!!
f2λωλ(m−1
n).
証明. S2nのHnによる右剰余類への分解 (3.1)と ωλが両側Hn-不変関数であることに注意すると,
∑
l∈M(2n)
ωλ(m−1l)ωµ(l−1
n) =1
2nn!
∑
ζ∈Hn
∑
l∈M(2n)
ωλ(m−1(lζ))ωµ((lζ)−1n)
=1
2nn!
∑
σ∈S2n
ωλ(m−1σ)ωµ(σ−1n) =
1
2nn!(ωλωµ)(m−1
n)
Weingarten functions for orthogonal groups 123
となる.帯球関数の良く知られた性質
ωλωµ = δλµ(2n)!
f2λωλ
を使うことで補題を得る.
等式 (3.3)と同値な式として次がある:
pρ(x1, x2, . . . , xd) =1
(2n − 1)!!
∑
λ`n
f2λωλρ Zλ(x1, x2, . . . , xd), ρ ` n.
変数を (x1, x2, . . . , xd) = (1, 1, . . . , 1)と特殊化することで,等式
(4.3) d`(ρ) =1
(2n − 1)!!
∑
λ`n
f2λωλρ Zλ(1d)
を得る.よって,loop(m, n)は m−1
nの剰余類型の長さと等しいことから,
GO(d)(m, n) =1
(2n − 1)!!
∑
λ`n
f2λZλ(1d)ωλ(m−1n), m, n ∈ M(2n),
という表示を得る.この表示と (4.1)と補題 4.4から,
(4.4) GO(d)n · WgO(d)
n = WgO(d)n · GO(d)
n =1
(2n − 1)!!
∑
λ`n`(λ)≤d
f2λ · (ωλ(m−1n))m,n∈M(2n)
となる.同様に等式 (4.2)が示せる.よって,主定理の証明が完了した.
等式 (4.3)の両辺に d−n をかけて d → ∞とすると,
(4.5) δρ,(1n) =1
(2n − 1)!!
∑
λ`n
f2λωλρ , ρ ` n
を得る.一方m−1
nの剰余類型が (1n)となるのは,m = nのときに限る.したがって,式(4.4)から,d ≥ nのときに限り,G
O(d)n · WgO(d)
n は単位行列となる.すなわちこのときG
O(d)n は可逆であり,WgO(d)
n がその逆行列である.
§ 5. 直交群のワインガルテン計算法についての補足
§ 5.1. 主定理の応用
次は定理 2.7と定理 4.1から容易に示せる.ランダム行列 g の「部分トレース」のモーメントを与えている.
124 Sho MATSUMOTO
命題 5.1 (Collins - M [2]). k, d, nを正の整数とし,k ≤ dとする.このとき,∫
O(d)
(g11 + g22 + · · · + gkk)2ndg =tr (GO(k)n · WgO(d)
n )
=∑
λ`n`(λ)≤k
f2λ Zλ(1k)
Zλ(1d).
補足 2. 特に k = dのとき,
(5.1)1
(2n − 1)!!
∫
O(d)
tr (g)2ndg =∑
λ`n`(λ)≤d
f2λ
(2n − 1)!!
という等式を得る.ここで,Pn(λ) = f2λ
(2n−1)!!とおくと,Pn は nの分割の上の確率測度
を定めており,ジャック測度と呼ばれるものの特殊な場合である ([6]).上の式の右辺は,ジャック測度における確率変数 λ 7→ `(λ)の分布を与えている.
系 5.2. 任意の i, j ∈ {1, 2, . . . , d}に対して,∫
O(d)
g2nij dg =
(2n − 1)!!∏n−1
k=0(d + 2k).
証明. 命題 5.1で k = 1とせよ.また,ハール測度の性質から,gij と g11は同分布である.
i, j を固定し,各 d ≥ 1に対し O(d)上の確率変数 Xd を Xd(g) =√
dgij で定める.系 5.2から,Xdの偶数次のモーメント E(X2n
d )が d → ∞で (2n− 1)!!に収束することが分かる.これはすなわち,確率変数列 {Xd}d=1,2,...が Z へ分布収束していることを意味する.ここで,Z は平均 0,分散 1の正規分布 N(0, 1)に従う確率変数である.
ここで挙げた命題や系は,ワインガルテン計算法を使わずに得ることも可能である.
§ 5.2. ワインガルテン行列の成分の漸近挙動m, n ∈ M(2n)を固定する.定理 4.1と (4.5)より,d → ∞のとき
(5.2) WgO(d)(m, n) = δm,nd−n + O(d−n−1)
が成り立つ.2n個の正の整数 i1, . . . , i2n, j1, . . . , j2nを固定すれば,積分の漸近展開∫
O(d)
gi1j1gi2j2 · · · gi2nj2ndg
=
∑
m∈M(2n)
(m
i1, i2, . . . , i2n
)(m
j1, j2, . . . , j2n
)
d−n + O(d−n−1)
を得る.これは序章で述べたWeingarten ([13])の結果 (1.1)に他ならない.漸近展開 (5.2)より精密な結果については,次が知られている.
Weingarten functions for orthogonal groups 125
命題 5.3 (Collins-Sniady [3]). m, n ∈ M(2n)に対し,m−1
nの剰余類型を µとすれば,d → ∞において
WgO(d)(m, n) =
(−1)n−`(µ)
`(µ)∏
i=1
cµi−1
d−2n+`(µ) + O(d−2n+`(µ)−1).
ここで,ck = 1k+1
(2kk
)はカタラン数.
さらにこれは [7]で精密化されている.
§ 5.3. 特殊直交群のワインガルテン計算法混乱を避けるために,ここでは直交群 O(d) のハール測度を µO(d)(dg) と書くこと
にする.特殊直交群 SO(d) = {g ∈ O(d) | det(g) = 1} の正規化されたハール測度をµSO(d)(dg)と書く.次が成り立つ.
命題 5.4. i1, . . . , ik, j1, . . . , jk ∈ {1, 2, . . . , d}を固定する.d > kならば,∫
SO(d)
gi1j1 · · · gikjkµSO(d)(dg) =
∫
O(d)
gi1j1 · · ·gikjkµO(d)(dg).
証明. 仮定 d > kより,i1, i2, . . . , ikのいずれとも異なる p ∈ {1, . . . , d}が存在する.g1 ∈ O(d)を対角行列で,(p, p)成分のみ−1で他の対角成分は 1なるものとする.このとき,det(g1) = −1である.f(g) = gi1j1 · · · gikjk
と定めると,pの選び方から,f(g1g) = f(g)
が全ての g ∈ O(d)で成り立つ.よって,∫
O(d)
f(g)µO(d)(dg)
=
∫
O(d)
f(g)1 + det(g)
2µO(d)(dg) +
∫
O(d)
f(g)1− det(g)
2µO(d)(dg)
=
∫
O(d)
f(g)1 + det(g)
2µO(d)(dg) +
∫
O(d)
f(g1g)1 − det(g1g)
2µO(d)(dg)
=
∫
O(d)
f(g)(1 + det(g))µO(d)(dg) =
∫
SO(d)
f(g)µSO(d)(dg).
したがって,dが十分の大きければ,特殊直交群のワインガルテン計算法は,直交群のそれに一致する.しかし,dが小さいときには違いが現れる.
§ 6. ユニタリ群と斜交群のワインガルテン計算法
これまでに述べた直交群上の議論は,ユニタリ群や斜交群に対しても同様に展開される.その中身を簡単に紹介する.
126 Sho MATSUMOTO
§ 6.1. 斜交群のワインガルテン計算法
斜交群 (symplectic group)を
Sp(2d) = {g ∈ U(2d) | tgJg = J}, J = Jd =
(
Od Id
−Id Od
)
,
と定める.µSp(2d)(dg)を Sp(2d)の正規化されたハール測度とする.分割 λ ` nに対し,対称関数 Z ′
λ をZ ′
λ = 2nn!∑
ρ`n
(−1)n−`(ρ)z−1ρ ωλ′
ρ pρ
と定義する.ここで,λ′は λの共役な分割である.ジャック関数 J(α)λ を用いれば,Z ′
λ =
2nJ(1/2)λ である.次の特殊値が重要である.
Z ′λ(1d) =
∏
(i,j)∈λ
(2d − 2i + j + 1).
直交群の場合と同様の議論によって,次が成り立つ.
定理 6.1. i = (i1, i2, . . . , i2n), j = (j1, j2, . . . , j2n)を {1, . . . , d}の元の列とする.ε = (ε1, . . . , ε2n), η = (η1, . . . , η2n)を {0, 1}の元の列とする.このとき,
∫
Sp(2d)
2n∏
k=1
gik+εkd,jk+ηkd µSp(2d)(dg)
=∑
m,n∈M(2n)
WgSp(2d)(m, n)(−1)P
n
i=1(εm(2i−1)+ηn(2i−1))1m(i, ε)1n(j, η).
ここで,
1m(i, ε) :=
(m
i1, . . . , i2n
) n∏
k=1
δ1,εm(2k−1)+εm(2k)
でありまた,
WgSp(2d)(m, n) = sgn(m−1n)
1
(2n − 1)!!
∑
λ`n`(λ)≤d
fλ∪λωλ′
(m−1n)
Z ′λ(1d)
.
ただし,λ ∪ λ = (λ1, λ1, λ2, λ2, . . . )である.
この斜交群のワインガルテン関数は,twisted ゲルファント対 (S2n, Hn, sgn|Hn)の
twisted帯球関数 πλ([5, VII.2, Example 6-7])を用いて,
WgSp(2d)(m, n) =1
(2n − 1)!!
∑
λ`n`(λ)≤d
fλ∪λπλ(m−1n)
Z ′λ(1d)
.
Weingarten functions for orthogonal groups 127
ともかける.また,d ≥ nならば,
WgSp(2d)(m, n) = (−1)nsgn(m−1n)[WgO(d′)(m, n)]d′=−2d
となる.
§ 6.2. ユニタリ群のワインガルテン計算法µU(d)(dg)をユニタリ群 U(d)の正規化されたハール測度とする.
定理 6.2 (Collins [1]).
i1, i2, . . . , in, i′1, i′2, . . . , i
′n, j1, j2, . . . , jn, j′1, j
′2, . . . , j
′n
を {1, 2, . . . , d}の元とする.このとき,∫
U(d)
gi1j1gi2j2 · · ·ginjngi′1j′
1gi′2j′
2· · · gi′
nj′
nµU(d)(dg)
=∑
σ∈τ∈Sn
WgU(d)(σ−1τ)n∏
k=1
δik,i′σ(k)
δjk,j′
τ(k).
ただし,WgU(d) : Sn → Qは,
WgU(d)(σ) =1
(n!)2
∑
λ`n`(λ)≤d
(fλ)2χλ(σ)
sλ(1d)=
1
n!
∑
λ`n`(λ)≤d
fλχλ(σ)∏
(i,j)∈λ(d + j − i)
で与えられる.ここで,sλ はシューア関数である.
§ 6.3. ユチス・マーフィー元ワインガルテン関数は,対称群の表現論で重要なユチス・マーフィー元を用いて表示
することもできる.これは,ワインガルテン計算法と純粋組合せ論との橋渡しとなるものであろう.
J1, . . . , Jn をユチス・マーフィー元 (JM元,Jucys-Murphy element)とする.それらは,対称群 Sn の群環 C[Sn]の元であり,互換の和
J1 = 0, Jk = (2 k) + (3 k) + · · · + (k − 1 k) (2 ≤ k ≤ n)
で与えられる.WgU(d)
n =∑
σ∈SnWgU(d)(σ)σ とおく.これは C[Sn]の中心元である.WgU(d)
n は次の表示を持つ.ここでは d ≥ nを仮定する.
定理 6.3 (M - Novak [9]). d ≥ nのとき,
WgU(d)n = (d + J1)
−1 · · · (d + Jn)−1 =
∞∑
k=0
(−1)khk(J1, . . . , Jn)d−n−k.
ここで,hk は完全対称多項式: hk(x1, . . . , xn) =∑
1≤i1≤···≤ik≤n xi1 · · ·xik.
128 Sho MATSUMOTO
この定理で登場しているような JM元を変数に持つ対称多項式は,近年活発に研究されている.([9]の参考文献を参照.)
定理 6.3の「直交群」版は,ごく最近 Zinn-Justin [14]によって得られた.ヘッケ環Hn の元 Wg
O(d)
n を
WgO(d)
n :=1
(2n)!
∑
λ`n
f2λ
Zλ(1d)ωλ
と定める.ワインガルテン行列WgO(d)n の成分は,この関数の特殊値(の定数倍)であっ
た (定理 4.1).
定理 6.4 (Zinn-Justin [14]. M [7]も参照). d ≥ 2n − 1のとき,
WgO(d)
n =(d + J1)−1(d + J3)
−1 · · · (d + J2n−1)−1e
=
∞∑
k=0
(−1)kd−n−khk(J1, J3, . . . , J2n−1)e.
ここで,eは (3.2)で定義される元である.
より詳しくは,[8]にまとめている.
References
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[7] Matsumoto, S., Jucys-Murphy elements, orthogonal matrix integrals, and Jack measures,
The Ramanujan Journal 26 (2011), no. 1, 69–107.
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(2011), 35–51.
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[12] Stembridge, J. R., On Schur’s Q-functions and the primitive idempotents of a commutative
Hecke algebra, J. Algebraic Combin. 1 (1992), no. 1, 71–95.
[13] Weingarten, D., Asymptotic behavior of group integrals in the limit of infinite rank, J.
Math. Phys. 19 (1978): 999–1001.
[14] Zinn-Justin, P., Jucys–Murphy elements and Weingarten matrices, Lett. Math. Phys. 91
(2010), no. 2, 119–127.