生物の環境適応 - Kobe Universitytakami/evol/3.pdfガラパゴス諸島の地理と気候...

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生物の環境適応生物進化の実例:ダーウィンフィンチ

担当:高見泰興質問:takami@people.kobe-u.ac.jp

レジュメ:http://www2.kobe-u.ac.jp/~takami/evol/

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進化のしくみの3要素

1.変異(へんい,variation) 個体の持つ特徴に,ばらつきがあること.

2.遺伝(いでん,inheritance) 個体の持つ特徴が,子に伝わること.

3.淘汰(とうた,selection) 個体の持つ特徴に応じて,残す子の数に差があること.

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自然淘汰とは生物個体の持つ特徴(形質)がその個体の適応度に影響すること

高い適応度をもたらす形質が世代を重ねるごとに増加する:適応進化

××

適応度=1 適応度=0 適応度=3

限られたハチをめぐる競争

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生物進化の実例:ダーウィンフィンチ

・ガラパゴス諸島の特徴  地理と気候  様々な固有の生物・ダーウィンフィンチ類の適応放散  食性とくちばしの多様化・ダーウィンフィンチ類の進化研究  進化を実測する

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ガラパゴス諸島

フェルナンディナ島

イサベラ島

サンチャゴ島

サンタクルス島

サンクリストバル島

フロレアナ島エスパニョラ島

ピンタ島

マルチェナ島ヘノベサ島

ダフネ島

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海洋島の成立過程

マグマが噴き出すホットスポットは海底火山をつくり,島となる.地殻(プレート)の移動に伴い,島は移動し,新しい火山島ができる.

ガラパゴス諸島の場合,南東側の島が最も古い(300~500万年前).新しい島は,数十万年前にできた.

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ガラパゴス諸島の地理と気候・火山島であり,大陸と陸続きになったことは無い.・南米大陸からは965 km離れている.・19の島と,多くの岩から構成される.・赤道直下に位置する.・気候変動が激しく,エルニーニョが起こると降雨量が突出するが,それ以外は干ばつに見舞われる.

降水量の変動

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ガラパゴス諸島に固有な生物固有種 爬虫類:19種 鳥類:27種 哺乳類:9種

固有亜種 鳥類:19亜種 哺乳類:1種

以上,陸上脊椎動物のみ海中の生物,無脊椎動物,植物の固有種数は膨大.

限られたチャンスに大陸からたどり着き競争者のいない島の様々な環境に適応進化した

適応放散adaptive radiation

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ガラパゴスゾウガメ・甲羅の大きさ:最大110 cm・体重:最大250 kg・草食・島ごと,大きな島では山ごとに別亜種に分かれている(全15亜種,その内4亜種は絶滅).

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ウミイグアナリクイグアナガラパゴスリクイグアナ・全長:最大120 - 140 cm・体重:最大6 - 12.5 kg・草食(ウミ),雑食(リク)・それぞれ,島ごとに別亜種に分かれている・両種はガラパゴスで分化したが,その時期は島の成立時期よりも古い → 既に沈んだ島で種分化した

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ガラパゴスアシカ・体長:雄210 cm,雌170 cm・体重:雄250 kg,雌80 kg・ハーレムをつくって繁殖・カリフォルニアアシカの亜種(固有亜種)・ガラパゴスオットセイ(固有種)もいる

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海鳥オオグンカンドリアカアシカツオドリガラパゴスペンギン

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生物進化研究の実例:ダーウィンフィンチ

・ガラパゴス諸島の特徴  地理と気候  様々な固有の生物・ダーウィンフィンチ類の適応放散  食性とくちばしの多様化・ダーウィンフィンチ類の進化研究  進化を実測する!

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コガラパゴスフィンチ ガラパゴスフィンチ オオガラパゴスフィンチ

ハシボソガラパゴスフィンチ サボテンフィンチ オオサボテンフィンチ

コダーウィンフィンチ オオダーウィンフィンチ ハシブトダーウィンフィンチ

キツツキフィンチ ムシクイフィンチ

ダーウィンフィンチ類

5属14種からなる全長:13 - 16 cm食性が多様 地上の種子 樹上の植物,昆虫 ゾウガメやイグアナの  寄生虫 他の鳥の卵や血液 等

食性に合わせて,くちばしの形が多様化している

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ダーウィンフィンチ類の系統と食性

地上フィンチ 樹上フィンチ ムシクイフィンチ

大陸の祖先種

昆虫食木の芽食

サボテン花食種子食

オオガラパゴス

ガラパゴス

コガラパゴス

オオサボテン

サボテンコ

ダーウィン ダーウィン キツツキ

ムシクイマングローブ

オオダーウィン

ハシブトダーウィン

ハシボソガラパゴス

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くちばしの多様性とアナロジー

ガラパゴス (先端で種子を割る)

ダーウィン (先端で昆虫等を捕食)

サボテン (縁でつぶす)

ハシブトダーウィン(先端で木の芽をついばむ)

ココスフィンチ (先端で探る)

ムシクイ (先端で探る)

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ダーウィンフィンチ類の分布

・島によって環境が異なり,種構成も異なる.・大きな島には多くの種が分布する.・絶滅は,自然環境(火山の爆発,干ばつ)や  人為的要因による.

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生物進化研究の実例:ダーウィンフィンチ

・ガラパゴス諸島の特徴  地理と気候  様々な固有の生物・ダーウィンフィンチ類の適応放散  食性とくちばしの多様化・ダーウィンフィンチ類の進化研究  進化を実測する!

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「進化」のイメージ

・ヒトは大昔,サルと祖先を共有していた

・大昔,今はいない生物がいた       (恐竜,アンモナイト等)

・生物は,時間をかけてゆっくり進化する

本当?

・だから,進化は目に見えないし,実証できない

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ダーウィンフィンチ類の進化研究Dr. Peter & Rosemary Grant

彼らの研究のすごい所:観察不能とされていた進化を,実際に観察した.

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グラント夫妻の研究方法

1.ある島で,フィンチを捕まえる.2.フィンチの形質(体重,くちばしの形等)を測る.3.個体識別のマーク(足輪)をつけて放す.4.これを繰り返し,島全体のフィンチをマークする.5.マークしたフィンチの行動,繁殖を観察する.6.新しいヒナが生まれたら,それも測定しマークする.

島にいる全てのフィンチの形質と家系図を記録した

それを元に 変異,遺伝,淘汰 を実測した

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グラント夫妻のターゲット

・小さな島は調べやすく,要因が少ないので現象が単純.・ダフネ島では,種子食のフィンチが3種(1種がほとんど)           (+サボテン花食1種)が分布.・種子食フィンチの競争と進化を観察.

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ダフネ島の種子食フィンチ地上に落ちている種子を割って食べる

オオガラパゴスフィンチ体とくちばし:大

大きくて固い種子を食べる

ガラパゴスフィンチ体とくちばし:中

中くらいの種子を食べる最も多い

コガラパゴスフィンチ体とくちばし:小小さくて柔らかい種子を食べる

くちばしの大きさによって,食べられる種子が決まる小さな島にある限られた種子をめぐって,競争が生じる

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ダフネ島の種子食フィンチのエサ(約20種) エノコログサ,スベリヒユ等は,小さく柔らかい種子をつける

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ハマビシ:大きく,固くて食べにくい種子

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ガラパゴスフィンチのくちばしの変異

くちばしの厚さ:平均9.4 mm(範囲6 ~ 14 mm)大きな変異がある

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ガラパゴスフィンチのくちばしの遺伝

親と子のくちばしの厚さは相関する→くちばしの厚さは遺伝する

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そして・・・

1976~77年にかけてダフネ島を大干ばつが襲った

植物が種子を付けなくなったため,フィンチの食物が不足

フィンチの数も激減した

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誰が生き残ったのか?

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くちばしの厚さと割ることのできる種子の大きさとの関係

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生き残ったのはくちばしの厚いフィンチ

だった

最後まで残ったハマビシの種子(固くて食べづらい)を食べられたものだけが

生き延びた

くちばしの厚さの変異が適応度に関係した

→自然淘汰(方向性淘汰)が働いた

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ダフネ島で実測されたガラパゴスフィンチの進化

・形質と変異: くちばしの厚さのばらつき・遺伝: くちばしの厚さは,親子で似ていた・自然淘汰: 干ばつによるエサ種子の減少       くちばしの厚さによって,固いハマビシを       食べられるか否かが決まった・起こった進化: くちばしの厚さが 2年間(1976~78年)         で約0.6 mm (6%) 増加した.

自然淘汰による進化は,急速に起こりうる実際に測定することも可能

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フィンチのくちばしはどんどん厚くなるのか?

重さ羽の長さ足の長さ

くちばしの長さくちばしの厚さくちばしの幅

自然淘汰の方向

普通

干ばつ

エルニーニョ

→NO

自然淘汰の方向は環境によって変化する

雨が多いと食べやすい種子が増えどのようなくちばしでもエサにありつける

大きなくちばしはたくさんある小さな種子を

食べるのには不利

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種間の競争

他種と共存する島ではくちばしの厚さが重ならない

他種と競争になるようなくちばしを持つ個体は十分にエサをとれないので,子孫を残しにくい→ 結果的に異なる種子を利用するようになる

形質置換Character displacement

イサベラ島,サンタクルス島

ダフネ島

ガラパゴスフィンチ

コガラパゴスフィンチ

コガラパゴス

ガラパゴスオオガラパゴス

環境だけでなく,他の種の存在も自然淘汰の原因となる

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進化のパターン

時間

形質値

実際には,進化は短期間に急速に起こっているがその方向は一定でないため

長期間で見るとゆっくりと起こっているに見える

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・くちばしの厚さに変異があり,それによって食べられる種子の種類が決まっていた.

・くちばしの厚さは親子で似ており,遺伝してした.

・干ばつで種子が不足したとき,固い種子を食べられる厚いくちばしを持つ個体だけが生き延びて繁殖した(自然淘汰が働いた).

・その結果,僅か2年でくちばしが厚くなる進化が起こった.

・環境の変化や他種の存在によって,くちばしに対する自然淘汰の方向は変化した.

まとめ

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