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2009 年度秋学期
「刑法 II(各論)」講義
2009 年 10 月 23 日
【第 8 回】詐欺および恐喝の罪(その 2)
1 詐欺罪[246 条](・続き)
1-6 詐欺罪の諸類型
1-6-1 無銭飲食
※ 無銭宿泊の場合も無銭飲食と同様であり、以下の議論が該当する。
1. 犯意先行型の場合(=当初から支払意思のない場合)
すでに「挙動による欺罔」の項で触れた通り、作為による詐欺として、料理等を注文・飲
食した時点で 1 項詐欺罪が成立する。
2. 飲食先行型の場合(=当初は支払意思があったが、料理等を注文・飲食後に支払を免れた
場合)
店員等の隙を見て逃走した場合(単純逃走型。〈第 14 講・問題 2〉参照)は、利益窃盗と
なり、不可罰。
問題は、何らかの偽計手段によって支払を免れた場合(偽計逃走型。〈第 14 講・問題 3、4〉
参照)、どこまで 2 項詐欺罪の成立を認めうるか?
[否定例]
* 無銭飲食・宿泊後に、自動車で帰宅する知人を見送ると欺いて店先に出たまま逃走
した場合
判例(301)は「債権者を欺罔して債務免除の意思表示をなさしめることを要する
ものであって、単に逃走して事実上支払をしなかっただけで足りるものではない」
として、2 項詐欺罪の成立を否定。
※ ただし、本件は当初より支払意思がなかったとして、1 項詐欺罪の成立を肯定している。
* 無銭宿泊後に、「映画を見に行ってくる」と偽って外出したまま帰らなかった場合
判例(302)は、2 項詐欺罪の成立には「被欺罔者が錯誤に基き債務を免除すると
か、支払の猶予を与えるとか、その他なんらかの財産上の利益供与に関する積極的
な処分行為を必要とする」としている。(本件の場合はそういった事実が認められな
いので 2 項詐欺罪は成立しないとした。)
← いずれも、意識的処分行為を要求している。
[肯定例]
* 無銭宿泊後に、「今晩必ず帰ってくるから」と欺いて外出し逃走した場合
判例(303)は、黙示的な支払猶予の意思表示があったと認めて、2 項詐欺罪の成
立を肯定した。
* 無銭宿泊後に、「外出して夕方帰ってくる」と偽り逃走した場合
仙台高判昭和 30 年 7 月 19 日高刑裁特報 2 巻 16=17 号 821 頁は、2 項詐欺罪の
成立を認めている。
2009 年度秋学期「刑法 II(各論)」講義資料
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※ 事案によって結論が異なっている点については、無意識的処分行為説を採りつつ、処分行為の要件
として被害者の意思に基づく利益の終局的移転が必要であるから、判例(301)の事案の場合にはいまだ
相手方に事実上財産上の利益の処分を委ねるという外形的事実の認識がなく、従って利益の終局的移
転の認識を欠くから処分行為の存在が否定される、と説くものがある。
(店内のトイレに行くと言って逃走した場合についての、福岡地小倉地判昭和 34 年 10 月 29 日下
刑集 1 巻 10 号 2295 頁の事案についても同様の理由で処分行為の存在を否定すべきと主張する。他方、
判例(302)の事案については財産上の利益が終局的に移転したといえるから処分行為を認めうるとす
る。)
1-6-2 キセル乗車
[問]A 駅から B 駅までの乗車券を購入したうえで A 駅改札口係員にそれを示して駅構内に
入場し、その後列車に乗車して、B 駅、C 駅を過ぎて D 駅に至り、C 駅-D 駅間の定期乗
車券等を D 駅改札口係員に示して出場し、B 駅-C 駅間の運賃の支払を免れた場合の罪責
如何?(〈第 14 講・問題 8 ~ 10〉参照)
← 学説上、a. 詐欺罪肯定説として
a-1. 乗車駅基準説
a-2. 下車駅基準説
が主張され、
b. 詐欺罪否定説
※ この場合には鉄道営業法 29 条の無賃乗車罪(条文後掲)のみが成立することとなる。
判例(305)参照。
を含めた 3 説が対立するかたちとなっている。
《参照条文》鉄道営業法(明治 33 年 3 月 16 日法律第 65 号)
第 29 条 鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ 50 円以下(※ 罰金等臨時措
置法 2 条により、実際には「2 万円以下」)ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 有効ノ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ
二 乗車券ニ指示シタルモノヨリ優等ノ車ニ乗リタルトキ
三 乗車券ニ指示シタル停車場ニ於テ下車セサルトキ
1. 乗車駅(上記[問]の A 駅)改札口通過の時点
この時点で 2 項詐欺罪の成立を認める見解(上記 a-1 説)は、
i) キセル乗車目的で購入した A 駅-B 駅間の乗車券は無効であり、キセル乗車目的を秘
して A 駅改札口を通過する行為について、無効である乗車券を有効であると誤信し
て入構・乗車を許容した A 駅改札口係員に対する欺罔行為を認めることができる、
ii) 上記欺罔行為の結果、行為者を D 駅まで運搬するという輸送の役務(=「財産上の
利益」)を提供したことが処分行為と認められる(そして、その結果として輸送の役務
という「財産上の利益」が移転している)、
ことを理由とする。(この場合、列車に乗車し A 駅を出発した時点で既遂となる、とする。)
[判例]判例(306)がこの見解に基づいて 2 項詐欺罪の成立を肯定している。
[批判]
* i)については、(不正乗車による運賃請求額の算定に際して、購入した乗車券の金額
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を考慮しないというに過ぎず、)乗車券は無効であるとはいえない。
※ もっとも、行為者に乗り越しの申告義務はないが、キセル乗車により運賃を精算する意思が
ないのにあるかのように装って改札口を通過する行為を「挙動による欺罔」とみる余地はあ
ろう。
* ii)について、処分行為による利益の移転を肯定しうるか疑問である。
即ち、
▽ 処分行為者=列車の乗務員とするならば、彼は欺罔行為の相手方ではないので、
このように考えることはできない。
▽ 処分行為者= A 駅改札口係員とするならば、彼が輸送の役務という利益を行為
者に交付しているということになるが、そのように考えるのは無理がある(彼は輸
送の役務を取得しうる事実上の地位を交付したに過ぎない)。
※ このような事実上の地位という利益の交付だけで 2 項詐欺罪の成立を認めることには疑
問がある。もしそのように考えるのであれば、改札口を通過した時点で 2 項詐欺罪は既遂
となるはずだが、さすがにそのような見解は主張されていない。また、そもそもこのよう
な利益は購入された乗車券により正当に取得されたものといえるはずである(この点に関
して、キセル乗車の意思で入場券を購入し乗車したところ、途中で検札にあって下車させ
られた事案について、乗車駅の段階での詐欺罪の成立を否定した裁判例がある。判例(307)
参照)。
2. 下車駅(上記[問]の D 駅)改札口通過の時点
この時点で 2 項詐欺罪の成立を認める見解(上記 a-2 説)は、
行為者が C 駅-D 駅間の定期乗車券等を D 駅改札口係員に提示することによってあたかも
C 駅から乗車したかのように欺罔し、錯誤に陥った D 駅改札口係員が精算すべき差額運賃
(B 駅-C 駅間の運賃)債務を請求しないという不作為の処分行為によって運賃支払債務を
不法に免れる、と解する。
問題となるのは、D 駅改札口係員に処分行為が認められるかどうかであるが、この点につ
いては、
1) 無意識的処分行為説を前提に、D 駅改札口係員に無意識(かつ不作為)の処分行為
が認められるとする、
2) 処分意思は必要であると解しつつ、その内容を緩和し、D 駅改札口係員が欺罔され
て行為者の出場を許せば、運賃支払債務の支払を事実上免れさせてしまうことを認識
しつつ処分している、とか、債権額がゼロであると誤信して「決済した」点を捉えて、
利益に外形的移転の認識を認め、処分意思の存在を肯定する、とする。
[判例](高速道路のキセル利用の事例であるが)判例(308)がこの見解に基づいて 2 項詐欺
罪の成立を肯定している。
[批判]
* 1)に対しては、無意識的処分行為説に対する批判が該当する。
* 2)に対しては、
▽ そもそもそのような緩和を認めるべきではない、
あるいは、
▽ D 駅改札口係員が債権の存在すら認識していない以上、いくら処分意思の内容を
緩和しても処分意思を認めることができないのではないか。
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1-6-3 三角詐欺
被欺罔者(=処分行為者)と被害者が同一でない場合を三角詐欺という。
被欺罔者が処分行為によって被害を受けることが通常であるが、被欺罔者と被害者が同一で
ない場合にも詐欺罪は成立し得る。
1-6-3-1 訴訟詐欺
裁判所を欺いて勝訴判決を得て、強制執行により敗訴者から物を取得するような場合。
[例]i) X が売買契約に基づく不動産引渡請求訴訟を A に対して提起する。
↓
ii) X が偽証行為により、裁判所を欺いて不動産を明け渡すべき旨の給付判決を出さ
せる。
↓
iii) 上記判決を強制執行させることにより、不動産を X に移転させる。
a. 詐欺罪否定説
[理由]
* 民事訴訟においては形式的真実主義が妥当するから、裁判所は行為者(上記[例]
の X)の主張が虚偽だとわかっていても勝訴判決を下さざるを得ない場合がある。こ
の場合、欺罔行為や錯誤の要件が満たされるか疑問である。
* 敗訴者(A)が行為者(X)に物(不動産)を提供する(不動産を明け渡す)行為は敗訴
者(A)の意思に反するものであり、意思に基づく処分行為であるとはいえるか疑問で
ある。
← ただし、この点は処分行為者は敗訴者ではなくて裁判所であり、敗訴者(A)は
被害者であるに過ぎない。(従って、被欺罔者=処分行為者と被害者が同一でない
三角詐欺ということになる。)
[批判]
* 裁判所が欺罔される場合があることは否定できない(いわゆる自由心証主義)。
* また、実際に裁判所が虚偽だとわかっていながら行為者(X)勝訴の判決を下さなけ
ればならない場合は極めて限られている。
※ 被告(A)が口頭弁論期日に欠席した場合のいわゆる擬制自白(民訴法 159 条 1 項・3 項)の
場合。しかしこの場合の被告=敗訴者(A)には被害者の承諾が認められる(そのために詐欺罪
の構成要件該当性が失われる)のでは?
b. 詐欺罪肯定説
裁判所を被欺罔者=処分行為者とする詐欺罪の成立が認められる(判例(310)(311)参
照)。
※ 敗訴を望んでいない被害者(A)の意思がいかなるものであるかは、ここでは全く問題とならな
い。彼は訴訟の当事者となった以上、その結果に拘束され、その結果を「甘受せざるを得ない」
のであるから、上記のように詐欺罪の成立を肯定することができる。なお、このように考えれば、
判決の段階で物の引渡を求めうる強制執行可能な具体的権利を取得したとして、判決確定時に 2
項詐欺罪の成立を肯定しうる。
なお、裁判所に処分権限を有しない場合には、訴訟詐欺は成立しない(判例(312)(313)
参照)。
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2009 年度秋学期「刑法 II(各論)」講義資料
1-6-3-2 クレジットカードの不正使用
※ クレジットカードのシステムとは?
i) A がクレジット会社 C と会員契約を締結する(これに基づき、A にクレジットカードが貸与
される)。
↓
ii) あらかじめ C 会社を加盟店契約を締結している加盟店 B で A が商品を購入する(その際、A
はクレジットカードによる支払であることを示すため、C 会社のクレジットカードを提示す
る)。
↓
iii) 加盟店 B はその際作成した売上票(通常、商品購入時に A に対して売上票への署名が求め
られる)を C 会社に送付し、これによって加盟店 B は C 会社から代金の立替払いを受ける。
↓
iv) 後日、C 会社から A に代金の請求がなされ、C 会社への支払はあらかじめ指定された A の銀
行口座から自動決済で行われる。
1. 自己名義のカードの不正使用の場合
[問]A が自己名義の C 会社のクレジットカードを、支払意思・能力がないのに加盟店 B
において使用し、商品を購入した場合、A の罪責如何。(〈第 16 講・問題 1〉)
a. 1 項詐欺罪成立説
加盟店 B が被欺罔者かつ被害者であるとする(判例(317)参照)。
※ 理論構成は簡明であり、また交付を受けた商品は盗品等に関する罪[256 条]の客体
となるという意義がある。
[批判]
加盟店 B は商品を販売して C 会社から立替払いを受けることができる地位を取
得したことで取引の目的を達成しているし、実際にも C 会社からの立替払いによ
って損失を被らない以上、B を被害者とみることには疑問がある。
b. 2 項詐欺罪成立説
b-1. C 会社が被欺罔者かつ被害者であるとする。
※ A が加盟店 B を介して C 会社を欺罔し、B に立替払いをさせて利得した、とする見解
である。
[批判]
C 会社は、仮に A に資力がないことを知っていても、加盟店 B に対する支払
を拒絶することができず(加盟店契約に基づく)、C 会社に錯誤に基づく処分行
為を認めることができないのではないか。
b-2. 加盟店 B を被欺罔者(=処分行為者)、C 会社を被害者であるとする。
※ この見解によれば、この事案を三角詐欺であると構成することになる。
(i) 加盟店 B は、売上票の作成・C 会社への送付により、C 会社から代金相当
額の支払を受けることができるから、B には C 会社のためその財産を処分し
うる権能または地位を肯定しうる。
(ii) 上記地位に関しうる限り、顧客の支払意思・能力に無関心でいられないこと
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が辛うじて可能となり、その意味で B に対する欺罔行為と B の錯誤を肯定し
うる。
(iii) 加盟店 B を欺罔し、C 会社から B に代金相当額の支払を受ける地位を与え
た点をとらえ、第三者に対する交付としての 2 項詐欺罪の成立を肯定する(商
品購入時に既遂となる)。
※ こうすることにより、交付による喪失したものと取得したものとの同一性(詐欺罪
の財産移転罪的性格から要求される)が充たされる、とする。
[批判]
* A の取得したものと C の損失が一致しない点に問題がある。
(そのために上記(iii)のようにいうことによって、A の商品購入時に C 会社の B
への地位の付与(あるいは C 会社による債務引受け)により A が代金債務を
免れるという利益を得た、というのであるが。)
* クレジットカードのシステムは、顧客の支払意思・能力の評価を加盟店に免
れさせることに重要な意義があるのであり、本当に(ii)のようにいえるのか疑
問が残る。
※ なお、b-2 説のヴァリエーションとして、(a) C 会社が加盟店 B に立替払いする点を捉えて 1
項詐欺罪を認める見解や(b) C が B に立替払いをすることにより A が債務を免れる時点で 2 項
詐欺罪の既遂とする見解があるが、(a)は A の得たものが債務の免脱であるにもかかわらず 1
項詐欺罪とする点で、(b)は立替払いがなされるまでは未遂にとどまるとする点で疑問がある
とされる。
c. 詐欺罪不成立説
加盟店 B に対する欺罔、B の錯誤がないことを理由とする。
2. 他人名義のカードの不正使用の場合
[問]A が他人名義の C 会社のクレジットカードを、その者になりすまして加盟店 B にお
いて使用し、商品を購入した場合、A の罪責如何。
← この場合には以下の理由で A に 1 項詐欺罪の成立が認められるとされている。
[理由]
クレジットカードはその会員以外の者の使用を原則として禁止しているので、A が名
義人になりすましたことが欺罔行為の内容となる。一方、B は加盟店規約上カード利用
者と名義人との同一性を確認する義務があり(名義人以外の者とのカードによる取引に
応じてはいけないことになっており、この確認義務の不履行は C からの立替払い拒否の
可能性という法的リスクがある)、従って、B はカード利用者が会員本人であるか否かに
ついて固有の経済的利害を有していることになる。よって、この場合にはあえて C を被
害者と捉えなくとも、B を被害者とする 1 項詐欺罪の成立を認めてよい。
従って、この場合の被害者は B であるから、名義人の A へのカード使用につ
いての承諾は、詐欺罪への成否には影響を及ぼさない。
※ しかしながら、このような取引が事実上多く行われ、かつ認められてきた([例]妻が
夫の承諾を得て夫名義のクレジットカードを使用する場合)という実態があるため、そ
の法的評価についてはなお問題となりうる。
[判例]判例(316)
「仮に、被告人が、本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許され
ており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人にお
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いて決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成
立は左右されない。」
↑
この判例によれば、「名義人本人がカードを使用すべきである」というクレジットカード
のシステムそのものが詐欺罪によって保護されている、とも解される。
※ そのように解する点それ自体の問題を別としても、もしこのように解すれば、名義人本人も詐
欺罪の共犯たり得ることになる(ただし、名義人に依頼されて他人が使用する場合、名義人の親
族が使用する場合などは、少なくとも詐欺罪の実質的違法性はない、というべきか)。
1-7 他の犯罪との関係
* 各種偽造罪との関係
文書偽造・同行使と本罪、有価証券偽造・同行使と本罪との関係は、牽連犯。(大判大正 4
年 3 月 2 日刑録 21 輯 221 頁、大判昭和 8 年 10 月 2 日刑集 12 巻 1721 頁)
通貨偽造・同行使と本罪との関係については、詐欺罪は偽造通貨行使罪に吸収されて別罪を
構成しない。(大判明治 43 年 6 月 30 日刑録 16 輯 1314 頁)
← もし詐欺罪の成立を認めるとすると、偽造通貨と知らずに取得したのち情を知って行
使する行為(取得後知情行使罪[152 条])の法定刑が責任減少を考慮して「その額面
価格の 3 倍以下の罰金又は科料」とされている趣旨を没却するため。
* 窃取・詐取した財物を、さらに詐欺行為の手段として財物・財産上の利益を取得する行為の
場合
新たな法益侵害を伴う場合には、共罰的事後行為(不可罰的事後行為)ではなく、別途詐欺
罪が成立し、最初の窃盗罪・詐欺罪とは併合罪となる。
[例]
▽ 窃取した郵便貯金通帳を利用して郵便局員から払い戻しを受ける行為(最判昭和 25 年 2
月 24 日刑集 4 巻 2 号 255 頁)
▽ タクシー乗車券を窃取し、これを使用してタクシーを利用する行為(判例(318))
* 返還意思なく詐取した限度額付きのローンカードを使用してローン会社の ATM 機から現金
を引き出す行為について
A. 詐欺罪一罪を認める見解
B. カードに対する詐欺罪と現金に対する窃盗罪の併合罪とする見解
最高裁は B 説を採用した。(最決平成 14 年 2 月 8 日刑集 56 巻 2 号 71 頁)
← ▽ ローンカードの交付の際に ATM 機内の現金についても処分意思が及んでいる
とはいえないこと、
▽ 限度内枠で数回、異なった ATM 機から現金を引き出した場合の処理としては
窃盗罪を認めるべきであること、
から妥当と考えられる。
※ なお、この考え方は、10 万円の寸借詐欺の場合に、被害者が現金を持っていなかったため
にキャッシュカードを交付し、詐欺者が銀行の ATM 機から 10 万円を引き出した場合にも妥
当する。(カードに対する詐欺罪と銀行の現金に対する窃盗罪となる。)
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~「個人の学習目的での利用」以外の使用禁止~
《参考文献》
1-6-2 について
* 町野朔「『財産上の利益』について」『犯罪各論の現在』pp. 122-136 のうち、pp. 129-132 の部分
* 山口厚「詐欺罪における交付行為」『問題探究 刑法各論』pp. 146-160 のうち、pp. 156-160 の部分
* 末道康之「キセル乗車」『刑法の争点』pp. 184-185
1-6-3-1 について
* 山口厚「詐欺罪における交付行為」『問題探究 刑法各論』pp. 146-160 のうち、pp. 153-156 の部分
1-6-3-2 について
* 山口厚「詐欺罪における財産的損害」『問題探究 刑法各論』pp. 161-175 のうち、pp. 173-175 の部分
* 長井圓「クレジットカードの不正使用」『刑法の争点』pp. 186-187
* 山口厚「クレジットカードの不正使用と詐欺罪の成否」『新判例から見た刑法[第 2 版]』pp. 204-217(検
討の素材は他人名義のカードの不正使用について判例(314))