AIA Spring Product Support Conference に参加して2012/08/06  · Mr. Dan Cernoch, LMCO...

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工業会活動

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AIA Spring Product Support Conference に参加して

1.はじめに5月7日(月)~9日(水)に米国航空宇宙工業会(Aerospace Industries Association、以下「AIA」と略)主催でAIA Spring Product Support Conference(以下「本会議」と略)が開催され、当工業会(以下「SJAC」と略)からも参加したので、結果概要について報告する。本会議は毎年2回定期的に開催されているもので、米国防省、各軍及び軍補給処の幹部やスタッフとAIA会員企業が参加し、官民双方が抱える課題や今後の装備品施策などについて、講演やPanel Session を通じて意見交換するものである。本会議参加者は「各個人が個々の立場にとらわれず自由に述べる、発表した意見は自分が属する組織を拘束しない」ことをモットーとしており、お互いの意見や本音をぶつけ合う非常にフランクな会議であった。特に米国は国防費削減で官民双方共に生き残りの為の危機感を共有しており、官民双方が「What to do」を認識しつつ、白熱した議論が戦わされたことが非常に印象的であった。本会議のアジェンダは次ページにあるとお

り、AIAの活動の紹介と基調講演から始まり、特別講演、官民双方が参加したPanel Sessionなど多岐に亘るものであった。本稿では防衛省の総合取得改革、特に防衛省が進めているPBLに参考になりそうな情報、米国PBLと関係する法律、米国防衛航空企業の考えや立場などを中心に紹介することとしたい。また、本会議の合間にSJACが持参したPBLに関する質問状に対しても意見交換を行うことができたので、本誌2月号で紹介した内容を補足したい。

2.AIA Product Support Committee の活動本会議冒頭にAIA Product Support Committee が重点的に活動している内容の紹介があったので、概要を述べる。(1)OSD(注)/AIAのPBL 活動

(注)OSD:米国防省大臣官房(以下同)

(2)OSDとのP-P-P(Public-Private-Partnership)(3)Sシリーズ規格の制定や見直し活動(4)契約で納入したドキュメントの官民間の所有権の課題とそのフォロー

(5)OSDに対する他団体(NDIA(注)など)との共同提案活動(注)NDIA: National Defense Industrial Association、官

と企業半々の中立機関最近では「Balanced Industrial Base - Assuring Warfi ghter Support -」をAIAと共同で取り纏め

(6)DMSMS(注)活動 ・ 調達ソース安定化、Material Shortageをミ

ニマム化しProduct Supportを支える。 ・ 重要な点は、①改訂プロセス ②改訂理由 ③DMSMS管理の重要性の認識  ④リスク管理の要素はSD-22標準を活用である。 

(注) Diminishing Manufacturing Sources and Material Shortage

3.基調講演(Rear Admiral Timothy Matthews, Director, Fleet Readiness, US Navy)米海軍で後方支援を担当する現役将校の講

演があったので、以下に概要を紹介する。(1)「予算」は自分の妻である。(「予算」は最愛のパートナーの意?)(会場大爆笑)

(2)今日の米海軍が目標とするところは、第1:有事への備え、第2:前方展開、第3:アジ

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ア太平洋地域シフトへの準備である。Materiel Readiness(注)に投資しつつ、海軍を再構築していかねばならない。

(3)オバマ政権の軍事費削減により、国防省全体は向こう10年間で$487B削減を計画中、海軍予算は$14B(2011年)から$11B(2015年)まで削減する計画であり、更なる削減も予想される。海軍航空部隊もコスト管理を徹底していきたい。

(4)海軍航空の予算($3B/年)を管理するにはマンパワーが必要である。装備品も古くなりつつあり、装備品の劣化、腐蝕の管理を行っていかねばならない。航空部隊と連携を取りながら腐食防止策を検討していく必要がある。海軍と海兵隊の機体の問題のうち、25%は腐蝕に関するものである。

(5)海軍は燃料を2012年には$1.2Bを使用する予定で、燃料のコスト管理も重要な課題である。F-35やP-8も導入しつつ従来機種の維持もしていかなくてはならない。重点投資しつつ燃料を節約し寿命管理をしていく。

(6)補給処整備では統合メンテナンスコンセプトを導入し、サイクル管理を行っていく。調達に関しては、PBLなどを通じて官民双方の文化の変革をしていかねばならない。取得サイクルタイムを下げ、トータル運用コスト(TOC)を下げて「Should Cost」管理を行っていく。これらを実現するには「Affordable Initiative」が必要で、海軍もROI指標を入れて投資効率を求めていかねばならないと考えている。

(7)海軍が企業に求めるものは、①Affordable PBL、②変革、③信頼性への投資、④Low TOC、⑤陳腐化対策、⑥官民共通課題に持続的に取り組み、である。具体的には、①F-35でPBLを導入、②スピード、正確さ、事業プロセス、をパラダイム化、③設計段階でLow TOCを求める、④新しいTechnology提

案、⑤支援器材の充実化である。(注)装備システムの即応性(以下同)

4.Proof Point PhaseⅡ(Ms. Sue Dryden,

Deputy Assistant Secretary of Defense, OSD)-A Fact-based Assessment of Sustainment Strategy-現役のOSDのスタッフ(Materiel Readiness

担当)がPBLを中心とした講演を行ったので以下に概要を紹介する。(1)昨年4月からDAU(国防取得大学)が主体となり、BCAなどの Tota l S t ra teg ic Guidance を発行した。軍事予算は削減されつつあるが、米国軍事力はより強固にしていかねばならない。

(2)装備品のLCC(ライフサイクルコスト) は、開発10%、取得30%、O&S 60%であり、O&Sが非常に高い比重を占めている。ロジスティクスに関しては「New」Focusが必要であり、信頼性は「Built-in Upfront」(計画・設計段階から信頼性を管理)を確立しなければならない。プロジェクト管理については「DoD Directive」を発行したところである。

(3)国防省と企業で進めているPBLには大きな期待を寄せている。今はPBLのProof Point として評価すべき時期となっている。最近PBLの契約期間や契約条件とそれら成果を纏めたが、成果が上がりつつあると認識している。

(4)軍予算は削減されつつあるがPBLは最も有効なアプローチである。軍が認識すべきは①Benefit の認識、②装備品は益々複雑化、③競争の促進、④柔軟性を持つことであり、継続的に挑戦し「文化の変革」も必要である。

(5)国防省と企業が共通の目標を共有しつつ、どうやって問題を解決するかが重要である。

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5.米国議会、国防省及び企業の関係6項以下のPanel Sessionで米国の法令などの議論があるが、理解をより深めるために本会議の合間に米国企業関係者から企業の立場や考えを聴取した。以下に概要を纏めた。(1)議会は各軍を指揮・指導する法律を通過させるために、Generalな政治目的を掲げる。例えば、議会は国防省に対し「国家安全保障を支えるために軍の補給処整備能力の維持」を要求し、さらに議会は雇用の観点から「補給処整備作業の50%以上は政府従事の労働者が行う」ことを国防省に要求している。(現在の米国連邦調達規則の「Title10」である。)

(2)国防省は各軍幹部に対し特別なDirective(防衛省の訓令に相当)を発行し、その中で国防省は議会の意図を汲み取り、各軍幹部に実行内容概要を通知する。これらは、軍がサービスを実施する際の運用のバウンダリーを設定した文書である。

(3)各軍幹部は、国防省のDirectiveを基に各司令官に特別規則を発行し、その中で軍が国防省のDirective を遵守することの重要性などを述べる。

(4)各司令官は(3)の特別規則を受け、補給処の資材担当指揮官又は後方支援指揮官に指示書を発行し、これら指揮官はさらに担当プログラムマネージャーに指示書や規則書を発行する。しかし、軍内部ではプログラムマネージャーがサインしたメモランダム(指示書や規則書を受け発行したもの)が発行されていない場合が多々ある。

(5)ある企業からは、プログラムマネージャーが装備品の整備方針を特定したメモランダムを発行していないために、官と企業とのPartnership確立やPBL契約を進める際の阻害要因となっている場合がある、との意見があった。例えば、5人の幹部とBCAを協議

すると似通った5種類の回答が来るといった具合である。別の企業からはPBL契約の「標準化」(PBLの経験を纏めたもの)を国防省に求めていきたい、との意見もあった。

6.Panel Session #3:Technical Data Rights on Legacy Program

Moderator:Mr. Gerry Tonoff, DLAPanelist: Mr. Paul Huang, US Army、

Mr. Mark Schroeder, Raytheon、 Mr. Dan Cernoch, LMCO

(1)Panel Sessionの背景 ・ OEM企業は、ハードと共に技術データパッケージを軍の補給処に納入するが、軍はMRO企業に技術データパッケージを無償提供する場合がある。

 ・ 政府や軍は企業間競争を促し装備品の維持コストを下げたいが、軍は企業に技術データ使用のコストを支払っていない場合がある。

 ・ Public-Private-Partnership を進めるには、補給処とのコンタクトを密にしたいが、補給処が技術データを買い上げないので技術データの所有権を補給処に付与できない、と考えるOEM企業もある。

 ・ 最近「OEM企業が納入する技術データは20年を経ると軍が自由に使用できる」との法律が議会で議論されており、OEM企業はこれを問題視している。

(2)Panel Sessionの論点 ・ 技術データへのアクセス権と所有権、技術データの権利に対する価格

 ・ Public-Private-Partnership におけるデータの取扱いの考え方

 ・ 過去にペーパーで納入された技術データの扱い

(3)Panel Session の概要を以下に示す。なお、本Panel Sessionは軍と企業の意見が平行線

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となったが、活発な議論が交わされた。(( )は発言者) ・ 企業が納入した技術データにはかなり古いものがある。航空機は長期間運用されるが、これらを維持できるのは企業だけである。(企業)

 ・ そもそも政府はデータを保有すべきでない。契約は個々に独立したものであり所有権は技術データと共に知的財産権も一緒になっている。また、技術データ維持にはコストを要する。(企業) → 技術資料は政府が契約に基づき入手し

たものである。技術資料はWarfighterのために常にアクセスできなければならない。また、若い将校は技術データに対し「何故?何?」の思考訓練を行い人材育成することも重要である。(軍)

 ・ 技術データは企業の知的財産であり、データやソフトウエアは複雑化している。(企業) → データやソフトウエア細部は理解でき

なくても、軍が技術データを保有し企業競争の世界は維持すべきと考える。(軍)

 ・ 古い航空機の技術資料は(電子データではなく)ペーパーやマイクロフィシュなどで保有している、これらは企業でないと維持管理できない。(企業) → 装備品を継続的に維持する観点から軍

が保有すべきである。(軍)

7.Panel Session #4:Partnering/ContractingModerator: Mr. Kevin Trammel,

General Manager, Military Aftermarket Services Pratt & Whitney Military Engines

Panelist: Mr. Gus Urzua, Vice President and C-17 GISP, Boeing Mr. Joe Fengler, Director, Honeywell Defense Logistics Mr. John Sutton, OSD Capt. Robert Caldwell, Commander, FRC Southeast

(1)Panel Sessionの背景 ・ 軍と企業のPBL契約では、企業が装備品

修理作業などを一括請負し一部の作業を軍が実施している形態がある。しかし、

Panel Sessionの状況(右端に質問者が並んでいる)

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連邦調達規則Title10で決められている軍と企業のワークーシェアの比率や契約適用レートが曖昧に(軍幹部の裁量で)運用されている場合がある。

 ・ 例えば、固定価格契約で一定の成果を出すPBL契約では、補給処作業分の適用レートが上昇すると企業の裁量が小さくなり、企業コストを圧迫する場合がある。

 ・ 連邦調達規則Title10の軍と企業の作業比率を見直す動きもある。

(2)Panel Sessionの論点 ・ Public-Private-Partnership を進めるために

はいかにあるべきか。 ・ 軍と企業のDirect Sale(直接契約)と

Work shareの関係はいかにあるべきか。(3)Panel Session の概要を以下に示す。なお、本Panel Sessionも軍と企業の意見が平行線となったが、活発な議論が交わされた。(( )は発言者) ・ PartneringとContractingに関する企業の関

心は、連邦調達規則のTitle10の動向と運用である。軍の作業比率が50%をかなり超えた契約もある。(企業) → 軍の作業比率を高めReadiness や補給処整備能力を高める、との考えもある。(軍)

 ・ 企業は、軍が技術データ保有することを懸念している。(企業) → 軍が技術資料を保有し軍のCapabilityや

Readinessを高めることも重要。(軍) ・ PBL契約により企業の作業ノウハウを補給処に移転し補給処の能力を高めることができた。軍はTitle10に関心があるが、企業としては軍との直接契約(Direct Sale)を望んでおり、企業裁量を高めてPBLを更に有効なものとしたい。(企業) → その点は継続的に議論すべき課題と考

えている。(軍)

8.PBLに関する軍や企業関係者との質疑応答SJACが持参したPBLの質問状に対する回答の概要を以下に紹介する。(1)PBLと1種 / 2種ECPとの関係 ・ 1種ECPは米国でも別予算を設定し契約しており、PBLには含めていない。

 ・ 2種ECPはその内容によりPBLに含める契約もあれば、含めない契約もある。

(2)契約期間 ・ 契約期間は3年から最長15年の契約があ

り、政府との契約時に数々のオプションを準備している。

(例)・5年ベース+5年option:    「5年契約を基本とし5年経た時点で

追加5年を1回選択可能」  ・5年ベース+3年option+2年option:    「5年契約を基本とし5年経た時点で

追加3年を1回選択可能、更に3年経た時点で追加2年を1回選択可能」

(3)連邦調達規則(FAR)と原価監査を適用する契約 ・FAR PART 12:    コマーシャルから派生した防衛装備品を規定しており政府は原価監査を実施しない。

 ・FAR PART 15:  政府が研究開発費を投じた防衛装備品を規定しており政府は原価監査を実施する。

9.所感以上の議論やPanel Sessionなどから次のと

おり要約した。(1)OEM企業と政府や軍の間にPBLに対するスタンスの差異を感じた。即ち、OEM企業は、技術データの所有権・財産権を有しておりそれらを基にPBL契約では部品調達から役務を一括して請け負うという、「囲い

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込み」により企業裁量を高める意図が窺われた。一方、政府や軍は法律や競争性確保を旗印にMateriel Readinessを高め、PBL契約での有効性を追求する姿勢である。

(2)米国のPBLは1990年代半ばから約15年超の歴史があり、本年1月の米国企業との意見交換では「PPP(Public-Private-Partnership)」「Two Way Communicat ion」「Win-Win Relationship」の概念の説明があった。しかし、企業は政府や軍の規則との狭間で解決すべき課題をまだまだ有しており、日本企業がPBLを導入していく際の参考として引

き続きフォローする必要がある。(3)本会議の講演やPanel Sessionなどで「New

Generation PBL」なる言葉が出ていた。軍や企業から具体的な説明はなかったが、これまでのPBLの経験や実践を基に定型化を図っている模様であった。これらについても引き続きフォローする必要がある。

最後に、本会議の合間の多忙な中で意見交換に参加頂いたAIAと各企業関係者、米軍スタッフ関係者に誌面を借りてお礼を申し述べたい。

〔(一社)日本航空宇宙工業会 業務部 部長 杉原 康二〕