#22 Discuss

Post on 24-Mar-2016

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「きのこ会議」 夢野の作家デビュー間もない時期に発表された掌編。後の怪作の数々とも趣向の異なる、きのこ達による不思議な童話世界が展開する。ちなみに本作は全集のほか、昨年出版された、きのこ文学のアンソロジーである飯沢耕太郎編『きのこ文学名作選』にも収録されている。

Transcript of #22 Discuss

shishiNo.22

Discussby Kyusaku Yumeno

きのこ会議

夢野久作

初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、鴈茸、ぬめり茸、

霜降り茸、獅子茸、鼠茸、皮剥ぎ茸、米松露、麦松

露なぞいうきのこ連中がある夜集まって、談話会を

始めました。一番初めに、初茸が立ち上って挨拶を

しました。

「皆さん。

この頃はだんだん寒くなりまし

たので、そろそろ私共は土の中

へ引き込まねばならぬようにな

りました。今夜はお別れの宴会

ですから、皆さんは何でも思う

存分に演説をして下さい。私が

書いて新聞に出しますから」

皆がパチパチと手をたたくと、

お次に椎茸が立ち上りました。

「皆さん、

私は椎茸というものです。この

頃人間は私を大変に重宝がっ

て、わざわざ木を腐らして私共

の畑を作ってくれますから、私

共はだんだん大きな立派な子孫

が殖えて行くばかりです。今に

どんな茸でも人間が畠を作って

くれるようになって貰いたいと

思います」

 皆は大賛成で手をたたきました。

その次に松茸がエヘンと咳

払いをして演説をしました。

「皆さん、

私共のつとめは、第一に傘をひ

ろげて種子を撒き散らして子孫

を殖やすこと、その次は人間に

食べられることですが、人間は

何故だか私共がまだ傘を開かな

いうちを喜んで持って行ってし

まいます。そのくせ椎茸さんの

ような畠も作ってくれません。

こんな風だと今に私共は種子を

撒く事が出来ず、子孫を根絶や

しにされねばなりません。人間

は何故この理屈がわからないか

と思うと、残念でたまりません」

と涙を流して申しますと、皆も口々に、

「そうだ、そうだ」

 と同情をしました。

 するとこの時皆のうしろからケラケラと笑

うものがあります。見るとそれは蠅取り茸、

紅茸、草鞋茸、馬糞茸、狐の火ともし、狐の

茶袋なぞいう毒茸の連中でした。

 その大勢の毒茸の中でも一番大きい蠅取り茸は大

勢の真中に立ち上って、

「お前達は皆馬鹿だ。世の中の役に立

つからそんなに取られてしまうのだ。

役にさえ立たなければいじめられは

しないのだ。自分の仲間だけ繁昌す

ればそれでいいではないか。俺達を

見ろ。役に立つ処でなく世間の毒に

なるのだ。蠅でも何でも片っぱしか

ら殺してしまう。えらい茸は人間さ

えも毎年毎年殺している位だ。だか

らすこしも世の中の御厄介にならず

に、繁昌して行くのだ。お前達も早

く人間の毒になるように勉強しろ」

 と大声でわめき立てました。

 これを聞いた他の連中は皆理屈に負けて

「成る程、毒にさえなればこわい事はない」と

思う者さえありました。

 そのうちに夜があけて茸狩りの人が来たようですから、皆は

本当に毒茸のいう通り毒があるがよいか、ないがよいか、試験

してみる事にしてわかれました。

 茸狩りに来たのは、どこかのお父さんとお母さんと姉さんと

坊ちゃんでしたが、ここへ来ると皆大喜びで、「もはやこんなに

茸はあるまいと思っていたが、いろいろの茸がずいぶん沢山あ

る」「あれ、お前のようにむやみに取っては駄目よ。こわさない

ように大切に取らなくては」「小さな茸は残してお置きよ。かわ

いそうだから」「ヤアあすこにも。ホラここにも」と大変な騒ぎ

です。

 

 そのうちにお父さんは気が付いて、「オイオイみんな気を付け

ろ。ここに毒茸が固まって生えているぞ。よくおぼえておけ。

こんなのはみんな毒茸だ。取って食べたら死んでしまうぞ」と

おっしゃいました。

茸共は、成る程毒茸はえらい

ものだと思いました。毒茸も

「それ見ろ」

と威張っておりました。

 処が、あらかた茸を取ってしまってお父さんが、「さ

あ行こう」と言われますと、姉さんと坊ちゃんが立ち

止まって、「まあ、毒茸はみんな憎らしい恰好をしてい

る事ねえ」「ウン、僕が征伐してやろう」といううちに、

片っ端から毒茸共は大きいのも

小さいのも根本まで木っ葉微塵

に踏み潰されてしまいました。

夢野久作1889 -1936

童話や幻想文学、SF、探偵小説など、奇想に満ちた作品

を多数執筆し、独自の地位を築いた日本の作家。僧侶や

新聞記者などを経たのち、作家としてデビューしている。

彼の代表作といえる『ドグラ・マグラ』は、日本三大奇

書のひとつに数えられている。

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