第2章 台風被害の総括と現地調査の概要 2.1 台風23号 … · 第2章...

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第2章 台風被害の総括と現地調査の概要

2.1 台風 23 号の概要 平成 16 年は台風の発生件数こそ 29 個と平年値の 27.6 個とほぼ変わらなかったものの,日本へ上陸した台

風の数は 10 個を数え,過去一番多かった 6 個(平成 2 年と 5 年)という記録が大きく塗り替えられた(平

年値 2.7 個)。 後に上陸した台風 23 号は,10 月 20 日に高知県に上陸してから 21 日朝に千葉県の太平洋上

に抜けるまでの間に日本各地で猛威を奮い,関西圏では記録的な暴風雨に見舞われた。 図-2.1.1 は台風 23 号の進路を示したものである。

気象庁の WEB ページでの発表によると台風 23 号の発生から衰退までのあらましは以下の通りである 2)。 台風第 23 号は 10 月 13 日 09 時にマリアナ諸島近海で発生した後,18 日 18 時には大型で強い勢力となっ

て沖縄の南海上を北上した。19 日に沖縄本島から奄美諸島沿いに進み,20 日 13 時頃に大型の強い勢力で高

知県土佐清水市付近に上陸した後,15 時過ぎに高知県室戸市付近に再上陸した。その後,18 時前に大阪府南

部に再上陸して,近畿地方,東海地方に進み,21 日 03 時に関東地方で温帯低気圧となった 2)。 図-2.1.2 および図-2.1.3 に示すように,台風と前線の影響による期間降水量は,四国地方や大分県で

500mm を超えたほか,近畿北部や東海,甲信地方で 300mm を超え,広い範囲で大雨となった。特に,台風

が西日本に上陸した 20 日は,九州地方から関東地方にかけての多くの地点で,これまでの日降水量の記録を

上回る大雨となった 2)。

図-2.1.1 平成 16 年台風 23 号の進路図 1)

図-2.1.2 平成 16 年台風 23 号による期間降水量の分布図 2)

図-2.1.3 関西圏での期間降水量のコンター図と主要各地の降水状況 1)

図-2.1.3 の関西圏で甚大な被害が発生した 3 地点(洲本,豊岡(和田山),舞鶴)の降水状況を見ると,

典型的な 2 こぶラクダのような形となっており,特に 20 日の朝から一気に大量の雨が降ったことがよく分か

る。洲本では台風通過後に雨が急激にやんでいるが,豊岡(豊岡観測所が停電でデータが欠損していること

から,和田山観測所のデータを使用),舞鶴では台風通過後も降雨が続いていたことが分かる。 図-2.1.4 および図-2.1.5 は,それぞれ,期間内 大風速および期間内 大瞬間風速の分布図-2)である。

台風の接近・上陸に伴い,南西諸島から東日本にかけて広い範囲で暴風,高波となった。20 日の夜に関西を

台風が通過したが,甚大な被害が発生した兵庫県北部や京都府北部は台風の中心から見て北側からやや西よ

りの台風の勢力が若干弱められる可航半円の圏内に入っているのであるが,中部地方の山岳地帯で急激に台

風の勢力が弱まるまでの 20 日の夜遅くまで暴風雨が続いた。表-2.1.1 に示すように舞鶴や京都等において

暴風がピークとなった時刻は 22 時過ぎであるが,図-2.1.1 を見ると 21 時には台風は琵琶湖東側に到達して

いたことがわかる。

図-2.1.4 平成 16 年台風 23 号による期間内最大風速の分布図 2)

図-2.1.5 平成 16 年台風 23 号による期間内最大瞬間風速の分布図 2)

図-2.1.3 関西圏での期間降水量のコンター図と主要各地の降水状況 1) (前ページ続き)

一方,神戸や京都などの兵庫県と京都府の南部では,降雨のピークは夕方であったが,豊岡や舞鶴などの

兵庫県北部と京都府北部においては,暴風と同様に 20 日の夜遅くなっても降雨は継続し,舞鶴での 大 1時間降水量は 20 時をすぎてから記録されている。このように,台風が通過する経路の北西にあたる兵庫県北

部や京都府北部に,それも台風がある程度離れてからも暴風雨が継続したことも平成 16 年台風 23 号の大き

な特徴であり,甚大な被害を生み出した一因ともなっている。 図-2.1.6 はレーダー・アメダス解析雨量を主要時間毎に示したものである。レーダー・アメダス解析雨量

とは,気象庁の保有する気象レーダーと地域気象観測(アメダス)データを用いて解析した,約 2.5km 四方

(緯度 0.025°,経度 0.03125°間隔)の格子ごとの 1 時間降水量(降雨強度 mm/hr)である。過去のレーダー・

アメダス解析雨量のデジタルデータは,財団法人気象業務支援センターから入手可能である。いずれの時刻

のデータにおいても,直前の 1 時間における降水量を表している。台風 23 号が四国に上陸する前から,上陸

後に四国を抜けるまで,午前中から 16 時頃までは四国南部で極めて強い雨が降っている。洲本で 大 1 時間

降雨量を記録した 15:30 には,淡路島近辺にも強い降雨が観測されていることが分かる。その後,降雨の中

心は本州に移り,台風が大阪府に上陸した 18 時頃には,丁度その辺りの降雨が激しくなっている。関西圏で

も水害の被害が大きかった淡路島では,朝から本格的に雨が降り始めて,15:30 のピークを境に,18 時頃に

は収まっている。洲本の記録によると,観測史上 1 位となった 大 1 日雨量の記録である 309mm という降

水量は,朝 6 時から夕方 18 時までの 12 時間で記録されたものであり,さらにその約 9 割は 17 時までの 6時間で記録されており,さらに約 5 割は後半の 17 時までの 3 時間で記録された量であり,その短時間の集中

的な豪雨の様子がよく分かる。一方,兵庫県や京都府の北部においては,台風が近づいてきた午後から強

い雨になり,19 時以降の台風が完全に通過した後も,22 時過ぎまで豊岡,舞鶴のごく局所的な地点で強い雨

が降り続いていたことがわかる。舞鶴では,これまた観測史上 1 位となった 大 1 日雨量の約 9 割が,13 時

から 22 時までの 10 時間で記録されている。このように,それぞれの被災地においては,まさに短時間の集

中豪雨により甚大な被害が発生したことが理解できる。 今回大きな水害が各地で発生した要因の一つとして,それまでの気象状態についても忘れてはならない。

図-2.1.7 に示すように,台風 23 号が上陸する前のおよそ 3 週間の間に,2 つの台風が日本に上陸していた。

台風上陸前の 1 週間ほどは関西圏では晴れた日が続いていたものの,9 月 29 日に台風 21 号が関西を直撃し

て以来,秋雨前線が停滞したままであり,関西直撃は免れたものの 10 月 9 日夕方に台風 22 号が関東に上陸

して太平洋に抜けるまでの間,ほぼ雨天が継続したままであった。豊岡では,台風 21 号が襲った 9 月 29,30日の 2 日間で 147.5mm の降水量を記録して以降,10 月 1 日から台風 23 号が来るまでの間に 213mm の降水

量となっており,すでに 10 月の平年降水量 149.2mm を台風 23 号が来る前に大きく上回っていた。舞鶴にお

いても,10 月 1 日から 14 日の 2 週間で,降水量は 132.5mm に達しており,すでにほぼ平年値 133.7mm と同

じになっている。このように,台風 23 号が来るまでに,すでに多量の雨が降っていたために,台風 23 号に

よる豪雨が即,下流域に流出する事態となり,円山川ならびに由良川流域で大きな水害を生み出す結果とな

ったと考えられる。 図-2.1.8 は過去に兵庫県を中心として大きな被害をもたらした台風の進路図であり,表 2.1.2 はそれらの

台風による被害状況をまとめたものである。過去に兵庫県に も人的被害をもたらした台風は,昭和 40 年 9月 10 日~18 日の台風 23 号,24 号である。期間降水量は,洲本で 761.4mm,豊岡で 468.5mm,舞鶴で 531.2mmとなっており,1 週間あまりの間に驚異的な降水量を記録している。特に,台風 24 号は台風 23 号の通過直

後であったために,各地で大きな浸水害,土砂災害が頻発し,兵庫県下で死者 39 名を出しているのをはじめ,

被災戸数は 267,463 世帯にのぼり,今回の平成 16 年台風 23 号よりも被災戸数は一桁多く,非常に大きな災

表-2.1.1 関西圏各地の降水量と最大瞬間風速( 3)のデータから作成)

地 点 日降水量 (mm)

最大1時間 降水量(mm)

記録時刻 最大瞬間 風速(m/s)

記録時刻

豊 岡 225 (1位)* 45.0 (9位)** - 36.1 (1位)** - 洲 本 309.0 (1位) 71.5 (5位) 15:30 32.5 (-) 13:19 舞 鶴 277 (1位) 36 (-) 20:01 51.9 (1位) 22:18 福知山 250 (1位) 37 (-) - - (-) - 神 戸 138.0 (-) 29.5 (-) 17:39 41.5 (2位) 20:19 京 都 94 .0(-) 15.5 (-) 17:50 31.0 (5位) 22:18 *停電によるデータ欠損により,和田山の記録を使用。 **停電によるデータ欠損により,欠損した時刻 18:00 以前の値を使用。実際の 大値は,18:00 以

降に記録されたと考えられ,これらの数値よりも大きな数字であったと推測される。 ( )は観測記録史上の順位

図-2.1.6 レーダー・アメダス解析雨量の関西圏の経時変化

害であったことがわかる。死者数で比べれば,平成 16 年台風 23 号は,第 2 番目に来るが,水害の大きさで

計れば,昭和 51 年台風 17 号による被害の方が,被災戸数は 74,903 棟となっており,はるかに被害が大きい。

また,表-2.1.2 に示すようにその他にも兵庫県は過去何度も大きな台風によって甚大な被害を受けているこ

とがわかる。その中でも平成 16 年台風 23 号の特徴をあえて述べれば,やはり 1 日もしくは半日あまりで尋

常でない降雨に見舞われたことであろう。これは,観測史上 3 番目という遅い時期に上陸した台風であった

ことも影響している可能性もある。

12:00

15:00 16:00

17:00 18:00 19:00

20:00 21:00 22:00

13:00

14:00

~ 1 未満

1~10 未満

10~20 未満

20~40 未満

40~60 未満

60 以上

降雨強度(mm/hr)

10:00 11:00

15:30

17:30

参考文献

1) 気象庁 WEB Page:平成 16 年度災害時自然現象報告書(気象庁本庁作成)・【災害時気象速報】平成 16 年

台風第 23 号及び前線による 10 月 18 日から 21 日にかけての大雨と暴風,http://www.kishou.go.jp/books/ saigaiji/saigaiji.html, 2005.

2) 気象庁 WEB Page:災害をもたらした気象事例・台風第 23 号,前線 平成 16 年(2004 年)10 月 18 日~

10 月 21 日,http://www.data.kishou.go.jp/bosai/report/2004/20041018/20041018.html,2005. 3) 気象庁 WEB Page:気象統計情報・気象観測(電子閲覧室),http://www.data.kishou.go.jp/etrn/index.html, 2005. 4) 兵庫県県土整備部:台風 23 号による公共土木施設等の被災概況について(速報),2004. 5) 兵庫県災害復興室:台風 23 号の復旧・復興事業推進計画 中間報告,2005.

9/29

9/28

9/30

10/8

10/9

図-2.1.7 平成 16 年台風 21~23 号の進路 図-2.1.8 過去に関西圏を襲った代表的な台風の進路 4)

表-2.1.2 過去の代表的な台風による兵庫県の被災状況( 4), 5)のデータから作成)

発生年月日 災害気象 降水量(mm) 被災戸数 死者 備考

S34.9.26 伊勢湾台風 (26日・豊岡市) 277 29,428棟 19 丹波・但馬・風水害

S40.9.10~17 台風23, 24号 秋雨前線

(8~10日・洲本市) 144 267,463世帯 39 県下全域・

風水害高潮害

S51.9.8~13 台風17号 秋雨前線

(8~13日・家島町) 1,035

74,903棟 74,504世帯

19 県下全域・水害

S54.9.30~10.1 台風16号 (30~1日・西淡町) 336 10,130棟 1 淡路・水害

H2.9.17~20 台風19号 秋雨前線

(17~20日・村岡町) 468 24,585棟 2 県下全域・水害

H16.10.20~21 台風23号 (20~21日) 豊岡市298, 三原町439

19,947棟 20,855世帯

26 県下全域・ 風水害

2.2 台風による被害の概要

2.2.1 被害概要の分析

2.2.1.1 降雨強度の空間分布との関係

まず降雨強度と住家被害の関連を考察する.図-2.2.1 は 1 日雨量の空間分布図中に被害棟数を円の大きさ

で示した図である.今回の台風 23 号による主要な降雨は,10 月 20 日 0 時から 24 時間以内で終了しており

大日雨量とほぼ等価である.他の豪雨災害と比較するためにも, 1 日雨量と被害の関係を考察することは

妥当と考えられる. この図では,被害をうけた住家の棟数として全壊,大規模半壊,半壊,一部損壊,床上浸水,及び床下浸

水の棟数を合計した数を用いている.合計した棟数を用いた理由は,下記に記述するように災害発生直後床

上浸水に分類された住家の棟数が時間の経過とともに大きく減少し,一方全壊,半壊の棟数が大きく増加し

ているため, 終報の床上・床下浸水住家棟数を用いることが適当でないと考えられたためである. すなわち,兵庫県防災企画課や消防庁が発表した被害状況の数字はもちろん時間の経過とともに変化して

おり,全壊から床下浸水までの各分類の棟数は,特に災害査定の前後で大きく変化しているので注意する必

要がある.例えば,兵庫県防災企画課による被害状況についての記者発表第 47 報(10 月 28 日)では全壊 67棟,半壊 319 棟,一部損壊 1,186 棟,床上浸水 9,899 棟,床下浸水 11,290 棟となっている.また,同第 72 報

(11 月 18 日)では全壊 72 棟,半壊 510 棟,一部損壊 2,244 棟,床上浸水 9,862 棟,床下浸水 11,359 棟であ

る.さらに,12 月 8 日発表の兵庫県資料によれば全壊(損害割合 50%~)650,大規模半壊(損害割合 40~50%)1,461,半壊(損害割合 20~40%)5,405,一部損壊 1,264,床上浸水 1,674,床下浸水 9,531 であり,

床上浸水の棟数が大きく減少し,半壊の棟数が大きく増加している.平成 17 年 2 月の兵庫県災害復興室によ

る台風 23 号の復旧・復興事業推進計画(中間報告)中の住家被害は全壊(損害割合 50%~)767,大規模半

壊(損害割合 40~50%)1,536,半壊(損害割合 20~40%)5,593,一部損壊 1,349,床上浸水 1,704,床下浸

水 8,998 である. 消防庁発表の第 23 報(平成 17 年 2 月 23 日( 終報))は全壊 767 棟,半壊 7,128 棟,一部損壊 1,385 棟,

床上浸水 1,711 棟,床下浸水 9,046 棟であり,上記中間報告の半壊と大規模半壊の合計が消防庁の半壊棟数に

なっている以外はほぼ同一である. 参考のため国土交通省による災害情報・台風 23 号について(第 5 報: 終報,10 月 22 日)では,全壊 21

棟,半壊 20 棟,一部損壊 326 棟,床上浸水 10,373 棟,床下浸水 13,042 棟となっている. 全壊,半壊,一部損壊には当初床上浸水に分類されていた住家がその後の被害調査で変更されたもの,床

上浸水後直ちに損害を受け当初から全壊,半壊,一部損壊に分類されたもの,暴風や土砂災害によるもの等

が混在しており,正確に分類して検討するためにはより詳細な元資料を用いる必要があり今後の課題と考え

られる. なお,消防庁への e-メールによる問い合わせに対する回答によれば,全壊,半壊などは下記に記載の基準

に従って行なわれている. 【災害報告取扱要領から抜粋】

①「全壊」とは、住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの、すなわち、住家全部が倒壊、流失、

埋没したもの、又は住家の損壊(ここでいう「損壊」とは、住家が被災により損傷、劣化、傾斜等何ら

かの変化を生じることにより、補修しなければ元の機能を復元し得ない状況に至ったものをいう。以下

同じ。)が甚だしく、補修により元通りに再使用することが困難なもので、具体的には、住家の損壊若し

くは流出した部分の床面積がその住家の延べ床面積の 70%以上に達した程度のもの、又は住家の主要な

構成要素(ここでいう「主要な構成要素」とは、住家の構成要素のうち造作等を除いたものであって、

住家の一部として固定された設備を含む。以下同じ。)の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、

その住家の損害割合が 50%以上に達した程度のものとする。 ②「半壊」とは、住家がその居住のための基本的機能の一部を喪失したもの、すなわち、住家の損壊が甚

だしいが、補修すれば元通りに再使用できる程度のもので、具体的には、損壊部分がその住家の延べ床

面積の 20%以上 70%未満のもの、又は住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合

で表し、その住家の損害割合が 20%以上 50%未満のものとする。 ③「一部破損」とは、全壊及び半壊にいたらない程度の住家の破損で、補修を必要とする程度のものとす

る。ただし、ガラスが数枚破損した程度のごく小さなものは除く。 ④「床上浸水」とは、住家の床より上に浸水したもの及び全壊・半壊には該当しないが、土砂竹木のたい

積により一時的に居住することができないものとする。

⑤「床下浸水」とは、床上浸水にいたらない程度に浸水したものとする。

図-2.2.1 をみると,兵庫県北部では日雨量 200mm を超える地域(円山川の流域と加古川の上流域)で被

害が生じている.一方南部では 100mm(上流域で 150mm を超える領域を広範に含む)を超える地域で被害

が生じている.また淡路島では 300mm を超える地域で被害が生じている.この被害を生じさせる日降雨量

の差は次のように説明される.たとえば兵庫県の南部と北部では降雨特性が異なり,超過確率年を一定にし

たときの降雨継続時間を定めた計画降雨量が北部で大きく南部で小さい.したがって,対応する基本高水ピ

ーク流量,または計画高水流量も同様な特性を有しており,南部では北部より小さな日降雨量で被害が生じ

ることになる.例えば円山川の計画降雨量は継続時間を2日,超過確率を 1/100 として 327mm であり,台風

23 号による流域平均1日降雨量 242mm は超過確率約 1/60 といわれている.一方,県南部の揖保川の計画降

雨量は継続時間を1日,超過確率を 1/100 として 196mm であり,円山川と比較してかなり小さい.このよう

な被害の発生限界雨量の地域性は,たとえば名合・村本による 1990 年台風 19 号災害の考察においても指摘

されており,降雨の地域性,対応する治水計画や計画の基本となる流量,さらには現況流下能力など計画の

現時点での達成率との関係から検討する必要がある.

図-2.2.1 1日降雨量と住家被害の空間分布

(住家被害は全壊,大規模半壊,半壊,一部損壊,床上浸水,床下浸水の棟数の合計)

2.2.1.2 兵庫県内の人的被害

兵庫県内の台風 23 号による人的被害は,死者 26 人,重傷 41 人,軽傷 91 人となっている(消防庁台風 23号による被害状況第 23 報). 上記資料により死者を要因別に分類した人数を図-2.2.2 に示した.死者 26 人の内,洪水に起因すると考

えられる死者が約 17 名であり,土砂災害に起因する死者 5 名をかなり上回っている.洪水に起因する死者で

は,田畑の様子を見に行くなど歩行中に溢水氾濫流に流されて死亡している人数が多く,地域コミュニティ

での危険性の周知・徹底により防ぐことが可能な要因と考えられる.また,車で流された場合がそれに続い

て多く,運転中に道路の冠水や洪水流により立ち往生した場合の対応策の開発や,早期道路規制の実施体制

整備が急がれる.溺死の内2人は水没した住家から遺体で発見されているが,いずれも 89 歳,76 歳と高齢

である.浸水水深の大きい地区に住む高齢者・障害者に対する地域コミュニティ内での対応が望まれる所以

である. 洪水に起因すると思われる家屋流出による死者が1名であったが,全壊や大規模半壊住家における人的被

害は重傷・軽傷の負傷者も含めて検討することの必要性が指摘される. 図-2.2.3 には年齢別の死者数を示した.年齢の増加とともに死者数が増加していることが分かる.

台風23号による要因別死者数(兵庫県)

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

歩行

中流され

車で流され

溺死

家屋

流出

土砂

災害

高波・海

に転落

転落

・転倒

その他

要因

死者数

(人)

図-2.2.2 兵庫県における

要因別死者数

台風23号による年齢別死者数(兵庫県)

0

1

2

3

4

5

6

7

11~20

21~30

31~40

41~50

51~60

61~70

71~80

81~90

91~100

年齢

死者数(人

)

図-2.2.3 兵庫県における

年齢別死者数

2.2.2 1990 年 19 号台風被害との比較

平成 16 年台風 23 号以前に兵庫県下に甚大な被害を引き起こした豪雨として,昭和 34 年伊勢湾台風

(1959.9),昭和 40 年 23 号台風(1965.9),昭和 51 年 17 号台風(1976.9),平成 2 年 19 号台風(1990.9)が

挙げられる.この中で,村本により詳しく分析された平成 2 年 19 号台風(9 月)による被害(特に円山川流

域)との単純な比較を試みる. 2.2.2.1 平成 2 年 9 月出水と被害の概要

国土交通省近畿地方整備局・豊岡河川国道事務所のホームページから出水の記録を引用すると下記のよう

である. 「平成 2 年 9 月の出水は典型的な二山洪水であった.まず日本海に停滞していた秋雨前線が四国南岸まで

南下した後,9 月 17 日に再び日本海沿岸に北上したところに,南海上で発生した大型台風 19 号から秋雨前

線に向かって南から暖湿流が入り込んだため,円山川流域に 17 日 7 時から降雨をもたらした. この雨は,18 日 13 時には八鹿観測所で時間雨量 53mm を記録したほか,流域内各地で 10~50mm/hr の強

い雨を 8 時間以上も降らせ,総雨量は八鹿観測所では 248mm,支川出石川流域平田観測所で 233mm,流域

平均 228mm を記録した.このため 13 時には立野地点の水位が 2.75m に達しなお急速に上昇していたため,

14 時 30 分には円山川水防警報(出動)が発表され,17 時には円山川右岸 14.5km 付近で溢水の恐れがある

ため非常体制が発令された.その後,基準地点立野水位は 18 時 10 分 6.99m で 1 回目のピークに達した後降

雨も小康状態となり,18 日 23 時には一旦降り止み,19 日 16 時には立野水位は 2.76m まで下降した. 一方,19 日夜に和歌山に上陸した台風 19 号による雨は 19 日 2 時頃から降り始め,19 時には基準地点立野

水位が 4.0m を越え警戒水位(4.5m)を越える恐れが生じたため,再び円山川水防警報(出動)が発表され

た. 雨はさらに降り続き,台風 19 号による雨量は八鹿観測所で 218mm,支川出石川流域平田観測所で 206mm,

流域平均で 196mm を記録した.各地では河川氾濫,がけ崩れ,家屋等の浸水被害が続出した.基準点立野

水位は 22 時 5.44m に達し,なおも上昇を続け 23 時頃には各地で堤防溢水の恐れが生じた. も危険な箇所

から溢水防止対策を行うため,豊岡市域を中心に地元民も含め総動員体制を敷くとともに,20 日 0 時には非

常体制が発令された. これにより,豊岡市では各地で避難勧告を出し,さらに避難命令を発令したほか,溢水危険箇所では地元

民をあげて懸命の水防活動を行った結果,3 時 20 分に基準点立野水位は 7.13m(HWL8.16m)でピークを記

録したが破堤を免れた.その後降雨も小康状態となり 7 時には降り止んだ」 同様に被害の記録を引用すれば次のようになる. 「この出水の結果,円山川各地では被害が発生し,豊岡市・城崎町・日高町・出石町に限ると田畑冠水 2100ha,

住家被害は床上浸水 741 戸,床下浸水 1032 戸となった.特に六方川流域では内水による被害が大きく,床上・

床下浸水合わせて約 800 戸をも上回った.」 この出水による浸水の状況を図-2.2.4 に示す.

図-2.2.4 平成 2 年 9 月出水による浸水の状況(豊岡河川国道事務所 HP より引用)

2.2.2.2 平成 16 年台風 23 号被害との比較

平成 2 年 9 月出水をもたらした降雨は二山であり,それぞれの継続時間は1日程度であった. 初の山の

流域平均降雨量は 228mm であり,後の山の流域平均降雨量は 196mm と報告されている.一方,台風 23 号の場

合も継続時間は1日程度であり,流域平均の1日降雨量は 242mm と報告されている.すなわち台風 23 号によ

る流域平均1日降雨量の方が平成 2 年 9 月出水時のそれよりも若干大きかったと考えられる.(台風 23 号時

に豊岡と八鹿の雨量観測所で観測機器障害による欠測が生じたため,平成 2 年 9 月出水との雨量データの直

接の比較はできない.また 2 日雨量で比較すれば平成 2 年 9 月出水の降雨量が 2 倍程度大きくなるが,洪水

に支配的な降雨継続時間を考えると1日降雨量で比較する方が妥当と考えられる.ただし,円山川の治水計

画に用いられている降雨継続時間は2日である.)

浸水面積は,平成 2 年 9 月出水では浸水耕地面積が 2,140ha であり,台風 23 号による浸水面積は 4,100ha

と報告されている.図-4 と台風 23 号による浸水面積図である図-5 を比較しても,台風 23 号時の方がかなり

浸水面積が大きい.特に,豊岡市街地の広域にわたる浸水と出石川鳥居地先での破堤による浸水が台風 23

号による浸水面積を大きくしている要因と考えられる.これに伴い,被害を受けた住家棟数も台風 23 号の方

が 3~4 倍程度多い.流域平均降雨量の違いの程度に比べて,被害の程度が台風 23 号の方がかなり大きい.

この理由として,平成 2 年 9 月出水時との比較で,円山川流域の西方の降雨量が多く左支川からの氾濫水に

よる豊岡市中枢部の浸水の程度が大きかったこと,本川水位上昇が早く排水機場のポンプを早期に停止せざ

るを得なかったことなどが考えられるが,今後の治水対策を考えるためには豊岡市中枢部の浸水メカニズム

についての詳細な検討が必要であろう.

図-2.2.5 台風 23 号による浸水区域図(豊岡河川国道事務所 HP より引用)

2.2.3 全国の人的被害の要因分析

次に,台風 23 号による全国の人的被害について考察しよう.兵庫県の場合を図-2.2.2,図-2.2.3 に示し

たが,同様の集計を消防庁の発表資料に基づいて全都道府県に対して行なったものが図-2.2.6,図-2.2.7 で

ある. 考察の内容は兵庫県のみの場合と同様であり省略するが,どちらも歩行中に流されるが 大であること,

土砂災害に起因する死者の割合はどちらも 25 パーセント程度であることが指摘される.

台風23号による要因別死者数(全国)

0

5

10

15

20

25

30

歩行中

流される

車で流される

溺死

家屋流

土砂災

高波

・海

に転

転落・転

その

要因

死者数(人

)

図-2.2.6 全国の要因別死者数

台風23号による年齢別死者数(全国)

0

5

10

15

20

25

30

35

11~

20

21~

30

31~

40

41~

50

51~

60

61~

70

71~

80

81~

90

91~100

年齢

人数(人

図-2.2.7 全国の年齢別死者数

2.3 現地調査の概要 平成 16 年 7 月の福井豪雨の緊急調査団結成の教訓を活かし,台風 23 号来襲から 1 週間をまたずに,関西

支部の主導の下,「平成 16 年台風 23 号関西圏地盤災害緊急調査団」の結成が決定した。10 月 23 日に発生し

た新潟県中越地震の影響を受けながらも,第 1 回の全体委員会を 11 月 4 日に大阪にて開催した。災害の調

査は初動調査が 重要との認識の下,全体委員会の席において,公式現地調査のメンバーおよび日程を決定

した。調査団として行う公式な現地調査は,出席委員間の情報交換,国土交通省近畿地方整備局からの事前

ヒアリング情報,国交省,消防庁,各都道府県等の WEB 発信情報,ならびにマスコミ報道等から判断して,

被害規模が大きい豊岡方面と舞鶴方面の 2 か所で行うこととした。しかし,豊岡方面の調査について兵庫県

県土整備部の関係各位と詳細な打ち合わせを行ううちに,豊岡方面のみならず,淡路島方面の被害も甚大で

あるとの示唆をいただいたため,急遽淡路島方面を追加することとし,合計 3回の公式現地調査を実施した。 各回の現地調査の概要を表2.3.1に示し,図-2.3.1に豊岡ならびに淡路島における現地調査の行程を示す。

表 2.3.1 現地調査の概要

調査地 豊岡方面 舞鶴方面 淡路島方面 調査日 11月10日 11月12日 11月17日

調 査

概 要

7:30 10:30

11:30

12:00 12:40

13:00

14:00

14:40

15:00

16:20

17:00 20:30

大阪駅 集合・出発 近畿地整・豊岡河川国道

事務所にて情報収集 兵庫県豊岡土木事務所に

て情報収集 昼食 豊岡市一日市・円山川堤

防欠損現場① 豊岡市立野破堤地点② ・マスコミ取材対応 出石町鳥居・出石川破堤

地点③ 出石町奥山川鍛福橋付近

氾濫現場④ 県道出石-和田山線・奥

山川沿いの土砂災害・河

川災害現場⑤ 出石町寺坂⑥・上野⑦の

出石川破堤地点 調査終了 大阪着・解散

7:3010:0010:30

12:0013:00

14:00

17:0019:30

大阪駅 集合・出発 舞鶴市役所

舞鶴市付近・国道土砂災

害地点

昼食 近畿地整・福知山河川国

道事務所 由良川欠損被害地点,国

道・県道土砂災害地点等

調査終了 大阪着・解散

7:30(8:30) 10:00

11:00

11:30

13:0013:50

14:40

15:30

16:00

16:3017:00

(18:00) 19:30

大阪駅 集合・出発 (神戸集合・出発) 兵庫県洲本土木事務所

にて情報収集 洲本市内・洲本川氾濫地

点① 洲本市大財池・大財上池

破堤現場② 昼食 五色町鮎原吉田・県道斜

面崩壊地点③ 洲本市・国道28号線斜面

崩壊現地調査④ 北淡町・育波川氾濫現場

⑤ 北淡町・下川池破堤現場

⑥ 北淡町・新池破堤現場⑦

調査終了 (神戸着・解散) 大阪着・解散

参加者 常田,細田,加藤,池田,李,

小高(6名) 小田,森尾,加登,平田, 福島,李(6名)

常田,細田,渋谷,加藤, 鳥居,輿田,李,小高(8名)

移 動 手 段 大阪から調査団員の車 大阪からレンタカー,舞鶴よ

り調査団員の車 大阪および神戸から調査団員

の車

現 地 対 応

直轄河川:近畿地整・豊岡河

川国道事務所,それ以外:兵

庫県但馬県民局県土整備部

直轄河川・国道:近畿地整・

福知山河川国道事務所,舞鶴

市近郊:舞鶴市役所 兵庫県淡路県民局県土整備部

備 考 調査概要の①~⑦の数字は,

図-2.3.1上の各地点に対応 調査概要の①~⑦の数字は,

図-2.3.1上の各地点に対応 第 1 回の豊岡方面と第 3 回の淡路島方面の現地調査は,主に兵庫県の管轄の地区を調査することになるた

めに,兵庫県に協力を要請することとした。具体的には,関西支部評議員である兵庫県県土整備部の荒柴敏

夫氏に,2 度の現地調査の行程等の調整を依頼した。その結果,豊岡方面においては,但馬県民局県土整備

部ならびに豊岡土木工事事務所に,淡路島方面においては,淡路県民局県土整備部に詳細な説明をしていた

だいた後に,現地調査の案内もしていただいた。豊岡方面においては,円山川ならびに出石川の国直轄区間

での破堤に関する調査が必要であったために,国土交通省近畿地方整備局の豊岡河川国道事務所にお願いし

て,事務所ならびに現地での詳細な説明をしていただいた。第 2 回の舞鶴方面の現地調査について,舞鶴市

内の土砂災害・道路災害については舞鶴市役所,由良川の出水に関わる被害については国土交通省近畿地方

整備局の福知山河川国道工事事務所にそれぞれお願いし,現地の案内と詳細な説明をしていただいた。 以上の 3 回の現地調査の詳細については,4 章,5 章および 6 章にて,それぞれ淡路島,豊岡および舞鶴

方面について報告する。公式に行った現地調査は以上の 3 回であるが,この他にも調査団の委員毎に別途詳

細な現地調査が実施されている。例えば,和歌山方面において多くの海岸構造物が被災したが,その調査に

ついては地盤工学会関西支部の和歌山地域地盤研究会委員長でもある佐々木委員の主導の下,同委員会のメ

ンバーにより詳細な現地調査が実施されているため,その結果を 7 章にて報告する。また,第 4 章 4.3 に示

すため池の被災事例については毛利委員の調査結果を用い,第 5 章 5.2 に示す補強土構造物の被災事例につ

いては,西垣委員,渋谷委員の調査結果を用いている。

謝 辞

現地調査に関して,当日ならびに事前の打ち合わせの段階でお世話になった方々は以下の通りです。 国土交通省近畿地方整備局企画部防災対策官・中村則之氏,豊岡河川国道事務所所長・後藤正氏,同副所長・

吉村貞孝氏,福知山河川国道事務所所長・松山宣行氏,同副所長・諸留幸弘氏,兵庫県県土整備部県土企画

局技術管理室室長・荒柴敏夫氏,同主査・藤井常二氏,兵庫県但馬県民局県土整備部部長・加藤善典氏,同

主幹・土井康成氏,豊岡土木事務所所長・國塚康平氏,同主幹・岩間秀樹氏,淡路県民局県土整備部部長・

前田昌俊氏,同主幹・福田良一氏,舞鶴市消防本部消防長・麻尾肇氏,同消防次長・竹原彰氏,同防災課防

災係長・河合淳一氏,舞鶴市役所建設部土木課長・堤茂氏,舞鶴市役所指導検査室指導検査課検査係長・矢

谷明也氏。以上の方々には復旧作業に追われる非常にご多忙な中にも拘わらず対応していただきました。 記して謝意を表します。

図-2.3.1 現地調査の行程

(a) 淡路島方面 (b) 豊岡方面